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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01G
管理番号 1240232
審判番号 不服2008-16925  
総通号数 141 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-09-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-07-03 
確定日 2011-07-14 
事件の表示 特願2002- 92527「固体電解コンデンサの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成15年10月10日出願公開、特開2003-289016〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成14年3月28日の出願であって、平成20年1月11日付けの拒絶理由通知に対して、同年3月24日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成20年5月27日付けで拒絶査定がされ、それに対して、同年7月3日に拒絶査定に対する審判請求がされるとともに、同年8月4日に手続補正書が提出され、その後、平成22年12月17日付けで審尋がされ、平成23年2月17日に回答書が提出されたものである。


2.補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成20年8月4日に提出された手続補正書による補正を却下する。

[理由]
(1)補正の内容
平成20年8月4日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)は、補正前の特許請求の範囲の請求項1?8を補正後の特許請求の範囲の請求項1?6に補正するものであって、補正前後の請求項1は各々以下のとおりである。

(補正前)
「【請求項1】 陽極箔と陰極箔とをセパレータを介して巻回又は積層してコンデンサ素子を形成し、このコンデンサ素子を化成液中で修復化成し、その後に重合性モノマーと酸化剤とを含浸して導電性ポリマーからなる固体電解質層を形成する固体電解コンデンサの製造方法において、
前記重合性モノマーと酸化剤の含浸工程以前に、コンデンサ素子内に窒素2原子を含む五員環化合物を重合性モノマーと酸化剤の総量に対して0.0008?2.5wt%含有させることを特徴とする固体電解コンデンサの製造方法。」

(補正後)
「【請求項1】 陽極箔と陰極箔とをセパレータを介して巻回又は積層してコンデンサ素子を形成し、このコンデンサ素子を化成液中で修復化成し、その後に3,4-エチレンジオキシチオフェンと酸化剤とを含浸してポリ-3,4-エチレンジオキシチオフェンからなる固体電解質層を形成する固体電解コンデンサの製造方法において、前記3,4-エチレンジオキシチオフェンと酸化剤の重合以前に、コンデンサ素子内に窒素2原子を含む五員環化合物を3,4-エチレンジオキシチオフェンと酸化剤の総量に対して0.0008?0.5wt%含有させることを特徴とする固体電解コンデンサの製造方法。」

(2)補正事項の整理
本件補正の補正事項を整理すると、以下のとおりである。

(2-1)補正事項1
補正前の請求項1の「重合性モノマー」を「3,4-エチレンジオキシチオフェン」と補正して、補正後の請求項1とすること。

(2-2)補正事項2
補正前の請求項1の「導電性ポリマー」を「ポリ-3,4-エチレンジオキシチオフェン」と補正して、補正後の請求項1とすること。

(2-3)補正事項3
補正前の請求項1の「2.5wt%」を「0.5wt%」と補正して、補正後の請求項1とすること。

(2-4)補正事項4
補正前の請求項2の「重合性モノマー」を「3,4-エチレンジオキシチオフェン」と補正して、補正後の請求項2とすること。

(2-5)補正事項5
補正前の請求項3の「重合性モノマー」を「3,4-エチレンジオキシチオフェン」と補正して、補正後の請求項3とすること。

(2-6)補正事項6
補正前の請求項4の「前記コンデンサ素子内に窒素2原子を含む五員環化合物を含有させる」を「前記コンデンサ素子内に含窒素複素環式化合物を含有させる」と補正して、補正後の請求項4とすること。

(2-7)補正事項7
補正前の請求項4の「重合性モノマー」を「3,4-エチレンジオキシチオフェン」と補正して、補正後の請求項4とすること。

(2-8)補正事項8
補正前の請求項5及び請求項6を削除するとともに、補正前の請求項7及び請求項8の番号を繰り上げ、必要に応じて引用する請求項の番号を変更して、それぞれ、補正後の請求項5及び請求項6とすること。

(2-9)補正事項9
補正前の請求項7の「請求項1に記載の」を「請求項1ないし4のいずれかに記載の」と補正して、補正後の請求項5とすること。

(3)新規事項の追加の有無及び補正の目的の適否について
(3-1)補正事項3について
(3-1-1)補正事項3が、本願の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下、本願の願書に最初に添付された明細書及び図面を、各々「当初明細書」及び「当初図面」といい、これらをまとめて「当初明細書等」という。)に記載された事項の範囲内においてなされたものであるか否かについて検討する。
補正事項3は、コンデンサ素子内における窒素2原子を含む五員環化合物の含有量を「3,4-エチレンジオキシチオフェンと酸化剤の総量に対して0.0008?0.5wt%」に限定しようとするものであり、当初明細書等において、窒素2原子を含む五員環化合物の含有量に関連すると認められる記載は以下のとおりである。

a.「【0016】
(含窒素複素環式化合物)
本発明で用いられる含窒素複素環式化合物としては、環の構成原子として窒素を含む複素環を有する化合物及びその誘導体が好ましい。なかでも、以下の構造式で示される窒素2原子を含む五員環化合物が好ましく、複素環の1位と3位の原子が窒素であるイミダゾール系がより好ましい。
【化1】 (略)
【0017】
また、含窒素複素環式化合物の含有量は、重合性モノマーと酸化剤の総量に対して0.0008?2.5wt%が好ましく、0.008?0.8wt%がより好ましい。含有量がこの範囲を越えると、ESRが上昇し、この範囲未満であると、静電容量が減少し、ESRが上昇する。」

b.「【0025】
【実施例】
続いて、以下のようにして製造した実施例及び従来例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。
(実施例1)
表面に酸化皮膜層が形成された陽極箔と陰極箔とをセパレータを介して巻回して、素子形状が9φ×5Lのコンデンサ素子を形成した。そして、このコンデンサ素子を50℃のリン酸二水素アンモニウム水溶液に30分間浸漬して、修復化成を行った。
一方、所定の容器に、EDTと50%のパラトルエンスルホン酸第二鉄のブタノール溶液を1:3の割合で混合し、この混合液に対して1wt%となるようにイミダゾールを添加した。そして、コンデンサ素子を上記混合液に10秒間浸漬し、120℃の恒温槽内に1時間放置して、コンデンサ素子内でPEDTの重合反応を発生させ、固体電解質層を形成した。そして、このコンデンサ素子を有底筒状の外装ケースに挿入し、開口端部に封口ゴムを装着して、加締め加工によって封止した。その後に、150℃、120分、8.2Vの電圧印加によってエージングを行い、固体電解コンデンサを形成した。
なお、この固体電解コンデンサの定格電圧は6.3WV、定格容量は470μFである。
【0026】
(実施例2)
修復化成後に1wt%のイミダゾール水溶液にコンデンサ素子を常温で1秒間浸漬し、150℃の恒温槽で60分乾燥した後、このコンデンサ素子をEDTと50%のパラトルエンスルホン酸第二鉄のブタノール溶液の混合液に浸漬して重合反応を起こさせた。その他の条件は実施例1と同様にして固体電解コンデンサを形成した。」

(3-1-2)ここで、補正事項3による補正後の請求項1に記載された「コンデンサ素子内に窒素2原子を含む五員環化合物を3,4-エチレンジオキシチオフェンと酸化剤の総量に対して0.0008?0.5wt%含有させる」という事項が当初明細書等に記載されているか否かについて検討する。
上記(3-1-1)から明らかなように、当初明細書の0016段落及び0017段落には、窒素2原子を含む五員環化合物の含有量について「重合性モノマーと酸化剤の総量に対して0.0008?2.5wt%が好ましく、0.008?0.8wt%がより好ましい。」ことが記載されているが、当該含有量に関して0.5wt%なる数値については何ら記載されていない。
また、当初明細書の0025段落には、「EDTと50%のパラトルエンスルホン酸第二鉄のブタノール溶液を1:3の割合で混合し、この混合液に対して1wt%となるようにイミダゾールを添加した。」という記載がなされているが、0.5wt%なる数値に関しては全く記載されていない。また、前記0025段落において、窒素2原子を含む五員環化合物であるイミダゾールは、「EDTと50%のパラトルエンスルホン酸第二鉄のブタノール溶液」に対して1wt%添加されるのであり、EDTと酸化剤であるパラトルエンスルホン酸第二鉄の総量に対しての割合がどの程度となるのかは全く不明である。
当初明細書等のその他の記載をみても、窒素2原子を含む五員環化合物の含有量を、重合性モノマーと酸化剤の総量に対して0.5wt%とすることについては何ら記載されていないし、当該含有量の上限値を重合性モノマーと酸化剤の総量に対して0.5wt%とすることが、本願出願時の技術常識からみて自明であるともいえない。

(3-1-3)以上のとおりであるから、補正事項3による補正後の請求項1に記載された「コンデンサ素子内に窒素2原子を含む五員環化合物を3,4-エチレンジオキシチオフェンと酸化剤の総量に対して0.0008?0.5wt%含有させる」という事項は、当初明細書等に記載されておらず、かつ、当初明細書等の記載から当業者にとって自明であるとも認められない。

(3-1-4)したがって、補正事項3に係る補正は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものではないから、当初明細書等に記載された事項の範囲内においてなされたものではなく、特許法第17条の2第3項(平成14年法律第24号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項をいう。以下同じ。)に規定する要件を満たしていない。

(3-2)補正事項9について
補正事項9は、補正前において請求項1のみを引用していた請求項7を、補正後において請求項1ないし4のいずれかを引用する請求項5に変更するものであるから、請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定する補正であるとは認められない。よって、補正事項9は、特許法第17条の2第4項(平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項をいう。以下同じ。)第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当しない。
また、特許法第17条の2第4項第1号、第3号及び第4号に掲げる、請求項の削除、明りょうでない記載の釈明及び誤記の訂正のいずれを目的とするものにも該当しないことも明らかである。

(3-3)以上より、他の補正事項について検討するまでもなく、本件補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしておらず、同法第17条の2第4項各号に掲げる事項のいずれを目的とするものにも該当しない。

(4)独立特許要件についての検討
(4-1)検討の前提
以上、検討したとおり、本件補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしておらず、同法第17条の2第4項各号に掲げる事項のいずれを目的とするものにも該当しないが、仮に、本件補正が、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たし、かつ、同法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものとみなした場合において、本件補正による補正後の特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて検討する。

(4-2)補正後の発明
本件補正による補正後の請求項1に係る発明(以下「補正発明」という。)は、上記(1)の「補正後」の請求項1に記載したとおりのものである。

(4-3)引用刊行物に記載された発明
(4-3-1)引用例1
本願の出願前に日本国内において頒布され、原査定の根拠となった拒絶の理由において引用された刊行物である特開2002-33244号公報(以下「引用例1」という。)には、図1?4とともに以下の記載がある(なお、下線は当合議体にて付加したものである。以下同じ)。

a.「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は固体電解コンデンサの製造方法に関し、特に導電性高分子を固体電解質層とする固体電解コンデンサを製造する方法に関するものである。」

b.「【0021】
【発明の実施の形態】次に、本発明の実施の形態について、図1および図2を参照して詳細に説明する。
【0022】まず、弁作用を有するタンタル金属粉末に固体電解コンデンサの陽極となるタンタルワイヤ1を埋め込んで加圧成形した後焼結して多孔質の陽極体2を形成する。次いで陽極体2をリン酸水溶液中において、電気化学的に陽極酸化して陽極体2の表面に酸化タンタル(Ta_(2)O_(5))の誘電体皮膜3を形成して多孔質体素子6を作製する(図1、図2(a))。
【0023】次に、誘電体皮膜3が形成された多孔質体素子6を酸化剤溶液7に所定の時間浸漬し(図2(b))、乾燥を行った後、図2(c)のように、酸化重合遅延剤を含むモノマー溶液(モノマー/酸化重合遅延剤混合溶液8)に所定の時間浸漬した後、多孔質体素子6を酸化剤溶液7から引き上げ、空気中で乾燥する。
【0024】上記の図2(b)?図2(c)の工程を数回(3?10回程度)繰返して実施する。この工程により、多孔質体素子6の誘電体皮膜3の細孔内と表面には所定の厚さの導電性高分子からなる電解質層4が形成される。
【0025】酸化剤溶液7としては、p?トルエンスルフォン酸第二鉄,ドデシルベンゼンスルフォン酸第二鉄,ベンゼンスルフォン酸第二鉄、ナフタレンスルフォン酸第二鉄等)のスルフォン酸第二鉄塩やその他硫酸または過酸化水素溶液が使用できる。
【0026】モノマー溶液としては、ピロール,チオフェンまたはそれらの誘導体(3,4?エチレンジオキシチオフェンや3,4?ジメチルピロール等)やアニリンが使用できる。
【0027】また、酸化重合遅延剤としては、パラ?ベンゾキノンジオキシム,ジエチルケトンオキシム等のオキシウム化合物、ジニトロベンゼン,ニトロトルエン,2、2?ジフェニル?ピクリル?ヒドラジル,ピクリン酸等のニトロ化合物、N?ニトロソフェニルヒドロキシルアミンアンモニウム塩,ニトロソトルエン,ニトロソベンゼン等のニトロソ化合物、2、2、6、6?テトラメチル?1?ピペリジニルオキシ,4、4?ジメチル?3?オキサゾリニルオキシ,2、2、5、5?テトラメチル?1?ピロリジニルオキシ,5、5?ジメチル?1?ピロリン?N?オキシド,2、5、5?トリメチル?1?ピロリン、N?ターシャリブチル?α?フェニルニトロン,α?(4?ピリジル?1?オキシド)?N?ターシャリブチルニトロン,2?メチル?2?ニトロソプロパン、2?ヒドロキシメチル?2?ニトロソプロパン,2、4、6?トリ?ターシャリブチル?ニトロソベンゼン,ニトロソデュレン,ピリジン?N?オキシド等のニトロキシド系化合物、ベンゾキノン,ナフトキノン,ハイドロキノン,メチルハイドロキノン,ハイドロキノンモノメチルエーテル,2、5?ジフェニル?p?ベンゾキノン,モノ?t?ブチル?p?ベンゾキノン等のキノン系化合物、カテコール,ピロガロール,2、6?ジ?t?ブチル?4?メチルフェノール,フェノール,カテコール,レゾルシン,ナフトール等のフェノール系化合物を使用できる。
【0028】酸化重合遅延剤は、モノマー溶液に0.1?20wt%で添加されるが、好ましい添加量は1?20wt%である。酸化重合遅延剤の最も好ましい添加量は、1?10wt%である。酸化重合遅延剤の添加量が0.1wt%よりも少ない場合には、誘電体皮膜3の細孔内壁の誘電体皮膜3の表面への電解質層4の被覆率が著しく減少する。また、酸化重合遅延剤の添加量が20wt%を越える場合には、モノマーの酸化重合反応が著しく抑制されるために、電解質層4が細孔内壁ばかりでなく、外部表面にも析出しにくくなる。
【0029】次に、上記工法にて、電解質層4を形成後、カーボンペーストおよび銀ペーストを電解質層4表面に順次形成することによって陰極層5を形成し、コンデンサ素子を完成する。このコンデンサ素子のタンタルワイヤ1と陰極層5の銀ペーストに外部リード端子を接続した後、エポキシ樹脂等の外装樹脂にてコンデンサ素子を外装することにより目的のコンデンサが製造される。
【0030】なお、上記の実施の形態では、酸化重合遅延剤は、モノマー溶液へ混合したが、酸化剤溶液へ混合してもよく、また、モノマー溶液および酸化剤溶液の両方に添加することもできる。酸化剤溶液に酸化重合遅延剤を添加する場合には、その添加量は、モノマー溶液に添加する場合と同様である。」

c.「【0034】図4を参照して上述したように、従来技術では、多孔質体素子6を酸化剤溶液に浸漬して素子空孔部10内に酸化剤を付着させ、次いでモノマー溶液に浸漬を行うと、浸漬を行った時点から、化学酸化重合が始まり、モノマーが素子空孔部10の細部にまで浸透するまでに電解質である導電性高分子層11が形成されてしまう。この結果、素子空孔部10の入り口が導電性高分子層11で詰まってしまい、次回の処理工程で、酸化剤またはモノマーが素子空孔部10内に浸透しなくなってしまう。
【0035】本発明では、少なくともモノマー溶液および酸化剤溶液のいずれか一方に酸化重合遅延剤を混入させたために、多孔質体素子6の表面でモノマーと酸化剤が接触する場合には、酸化重合遅延剤も同時にモノマーおよび酸化剤に接触することになる。そのために、多孔質体素子6をモノマー溶液に浸漬した時点からは、酸化重合遅延剤の作用のために化学酸化重合反応が始まらない。従って、重合開始が始まるまでに素子の細孔部にモノマーが浸透するために、素子空孔部まで導電性高分子層が形成されるとともに、空孔部入り口での導電性高分子層による詰まりもなくなる。」

(4-3-2)引用例2
(4-3-2-1)本願の出願前に日本国内において頒布され、原査定の根拠となった拒絶の理由において周知技術を示すものとして引用された刊行物である特開2000-138133号公報(以下「引用例2」という。)には、図6?8とともに以下の記載がある。

「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、固体電解コンデンサ及びその製造方法に係り、特に、耐電圧特性の向上を図るべく改良を施した固体電解コンデンサ及びその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】タンタルあるいはアルミニウム等のような弁作用を有する金属を利用した電解コンデンサは、陽極側対向電極としての弁作用金属を焼結体あるいはエッチング箔等の形状にして誘電体を拡面化することにより、小型で大きな容量を得ることができることから、広く一般に用いられている。特に、電解質に固体電解質を用いた固体電解コンデンサは、小型、大容量、低等価直列抵抗であることに加えて、チップ化しやすく、表面実装に適している等の特質を備えていることから、電子機器の小型化、高機能化、低コスト化に欠かせないものとなっている。
【0003】この種の固体電解コンデンサにおいて、小型、大容量用途としては、一般に、アルミニウム等の弁作用金属からなる陽極箔と陰極箔をセパレータを介在させて巻回してコンデンサ素子を形成し、このコンデンサ素子に駆動用電解液を含浸し、アルミニウム等の金属製ケースや合成樹脂製のケースにコンデンサ素子を収納し、密閉した構造を有している。なお、陽極材料としては、アルミニウムを初めとしてタンタル、ニオブ、チタン等が使用され、陰極材料には、陽極材料と同種の金属が用いられる。
【0004】また、固体電解コンデンサに用いられる固体電解質としては、二酸化マンガンや7、7、8、8-テトラシアノキノジメタン(TCNQ)錯体が知られているが、近年、反応速度が緩やかで、かつ陽極電極の酸化皮膜層との密着性に優れたポリエチレンジオキシチオフェン(以下、PEDTと記す)に着目した技術(特開平2-15611号公報)が存在している。
【0005】例えば、巻回型のコンデンサ素子にPEDTからなる固体電解質層を形成するタイプの固体電解コンデンサは、図6に示すように、化成→コンデンサ素子形成→修復化成→EDTと酸化剤の含浸→重合→外装ケースへの挿入→樹脂封止→エージングという製造工程によって作製される。以下には、この製造工程について、図7及び図8を参照して簡単に説明する。
【0006】まず、図8に示すように、アルミニウム等の弁作用金属からなる陽極箔1の表面を塩化物水溶液中での電気化学的なエッチング処理により粗面化して、多数のエッチングピット8を形成した後、ホウ酸アンモニウム等の水溶液中で電圧を印加して誘電体となる酸化皮膜層4を形成する(化成)。陽極箔1と同様に、図7に示すような陰極箔2も、アルミニウム等の弁作用金属からなるが、その表面にはエッチング処理を施すのみである。また、図7に示すように、陽極箔1及び陰極箔2には、それぞれの電極を外部に接続するためのリード線6、7を、ステッチ、超音波溶接等の公知の手段により接続する。
【0007】次に、以上のようにして表面に酸化皮膜層4が形成された陽極箔1とエッチングピット8のみが形成された陰極箔2とを、図7に示すようにセパレータ3を介して巻回して、コンデンサ素子10を形成し、その後、修復化成を行う。この修復化成は、前記巻回工程において電極箔に機械的ストレスがかかり、これが原因となって酸化皮膜に亀裂が発生する等の損傷を受けた場合に、再度化成液中で化成することによって、この亀裂の発生した部分に酸化皮膜を形成して、損傷を修復するものである。
【0008】続いて、修復化成を施したコンデンサ素子10を3,4-エチレンジオキシチオフェン(以下、EDTと記す)と酸化剤の混合溶液(重合液)に浸漬することにより、この重合液をコンデンサ素子10に含浸する。あるいはまた、コンデンサ素子10をEDTと酸化剤溶液に交互に浸漬して含浸する。いずれの場合でも、コンデンサ素子10にEDTと酸化剤を含浸した後、重合反応させ、図8に示すようなPEDTからなる固体電解質層5を生成する。
【0009】この後、コンデンサ素子10を図示していない外装ケースに挿入する。続いて、外装ケース内にエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂を付着して熱硬化させることによって、コンデンサ素子10の外周に外装樹脂を被覆し(樹脂封止)、固体電解コンデンサを完成する。なお、このように樹脂封止を行うと、酸化皮膜層4が損傷して漏れ電流特性が低下するため、樹脂封止後に、コンデンサ定格電圧に応じた電圧を印加して高温のエージングを行うことにより酸化皮膜層4を修復し、特性の向上を計っている。
【0010】なお、上記の製造方法においては、コンデンサ素子にEDTと酸化剤を含浸する方法として浸漬法を用いたが、EDTと酸化剤を常温で、シリンジ等により定量注入する方法(注入法)を用いることもできる。
【0011】このようにして得られたPEDTを用いた固体電解コンデンサは、陽極箔の化成電圧に対してコンデンサの耐電圧を高く設定することができるという特徴を有しているため、小型・大容量の固体電解コンデンサを実現することができる。」

(4-3-2-2)以上によれば、引用例2には、本願出願前の周知技術として以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。
「表面に酸化皮膜層4が形成された陽極箔1とエッチングピット8のみが形成された陰極箔2とを、セパレータ3を介して巻回して形成したコンデンサ素子10を、化成液中で修復化成し、続いて前記コンデンサ素子10に3,4-エチレンジオキシチオフェンと酸化剤を含浸した後、重合反応させてポリエチレンジオキシチオフェンからなる固体電解質層5を生成する固体電解コンデンサの製造方法。」

(4-3-3)引用例3
本願の出願前に外国において頒布され、原査定の根拠となった拒絶の理由において引用された刊行物である国際公開00/14139号(以下「引用例3」という。)には、以下の記載がある。
a.“Background of the Invention
A solid state electrolytic capacitor is made from a porous pellet of sintered tantalum powder, a dielectric tantalum oxide layer formed on the surface of the sintered tantalum powder, a solid-state conductor impregnated into the volume of the pellet, and external connections such as silver paint, etc. The tantalum forms the positive electrode of the capacitor and the solid-state conductor forms the negative electrode (also called the cathode or counter-electrode).”(第1頁第13?19行)

(訳文)[なお、訳文は引用例3に対応する特表2002-524593号公報を参考とした。]
「発明の背景
固体状態の電解コンデンサは、焼結タンタル粉末の多孔性ペレット、焼結タンタル粉末の表面に形成された誘電体タンタル酸化物、所定の容量のペレットに含浸させた固体状態の導体、および銀ペイントなどのような外部接続から製造されている。タンタルはコンデンサの正電極を形成し、固体状態の導体が負電極(陰極または対向電極とも呼ばれる)を形成する。」

b.“Chemical oxidative polymerization is an effective way to impregnate conductive polymer into the pores of the tantalum pellet. In chemical oxidative polymerization, a monomer, oxidizing agent, and a dopant are reacted inside the porous pellet to form the conductive polymer. Monomers include pyrrole, aniline, thiophene, and various derivatives of these compounds. The oxidizing agent can be either an anion or a cation. Typical anion oxidizers are persulfate, chromate, and permanganate. Typical cations are Fe (III) and Ce (IV). The best dopants are anions of strong acids such as perchlorate, toluenesulfonate, dodecylbenzenesulfonate, etc. The reaction between monomer, oxidizing agent, and dopant can take place in a solvent such as water, an alcohol, a nitrile, or an ether.
Several methods have been used to get the monomer, oxidizing agent, and dopant into the porous pellet and carry out the conversion to conductive polymer. In one method, the pellet is first dipped in a solution of the oxidizing agent and dopant, dried, and then dipped in a solution of the monomer. After the reaction is carried out, the pellet is washed and then the process is repeated until the desired amount of polymer is deposited in the pellet. In this method, it is difficult to control the morphology of the final polymer. It is also difficult to control the exact reaction stoichiometry between the monomer and the oxidizing agent. Control of this stoichiometry is critical to achieve the highest conductivity polymer (Satoh et al., Synthetic Metals, 1994). Cross contamination of the dipping solutions is a problem. Since the pellet must be dipped twice for each polymerization, the number of process steps is greatly increased. The excess reactants and the reduced form of the oxidizing agent need to be washed out of the part. This adds even more process steps and complexity to the process.
In a related method, the sequence is reversed so that the pellet is dipped in the monomer solution first and the solvent is evaporated away. The pellet is then dipped in the oxidizing agent/dopant solution and the reaction is carried out. This method suffers from all the disadvantages of the previous method. In addition, some monomer may be lost in the solvent evaporation step.
In the preferred method, all components are mixed together and the pellet is dipped in the combined solution. This method reduces the number of dips and allows more precise control over the reaction stoichiometry. However, the monomer and oxidizing agent can react in the dipping bath, causing premature polymerization and loss of reactants, adding some cost and complexity to the process. This is especially a problem with pyrrole monomer and Fe (III) oxidizing agents. To partially overcome this, the dipping bath can be kept at cryogenic temperature (Nishiyama et al., U. S. Patent 5,455,736). However, use of cryogenic temperatures adds considerable equipment and operational complexity to the process.
The pyrrole/Fe (III) can be replaced with a monomer/oxidizing agent combination that is less reactive. For example, 3,4 ethylenedioxythiophene and an Fe (III) salt of an organic acid may be dissolved in alcohol or acetone (Jonas et al., U.S.Patent 4,910,645). With this combination, dilute solutions (less than 5% monomer) are stable near room temperature for several hours. The polymer (poly (3,4 ethylenedioxythiophene) or PEDT) can be formed by warming the solution. At concentrations greater than about 5% monomer, the components react quickly. Cooling the dipping solution can be used to retard the reaction. However, there is a lower limit to which the solution can be cooled because of limited solubility of the components at low temperatures. Addition of a nonvolatile organic base, such as imidazole, also inhibits the reaction (Mutsaers et al., EP 0615256 A2,1994; de Leeuw et al., 1994).”(第2頁第21行?第4頁第10行)

(訳文)
「化学的酸化重合は、タンタルペレットの孔に導電性ポリマーを注入することが効果的である。化学的酸化重合では、モノマー、酸化剤、およびドーピング剤を多孔性ペレット内で反応し、導電性ポリマーを形成する。モノマーには、ピロール、アニリン、チオフェン、およびこれらの化合物の種々の誘導体が挙げられる。酸化剤は陰イオンであっても、陽イオンであってもよい。典型的な陰イオン酸化剤は、過硫酸塩、クロム酸塩、および過マンガン酸塩である。典型的な陽イオンはFe(III)およびCe(IV)である。最良のドーピング剤は、過塩素酸塩、トルエンスルホン酸塩、ドデシルベンゼンスルホン酸塩などのような強酸の陰イオンである。モノマー、酸化剤、およびドーピング剤の反応は、水、アルコール、ニトリル、またはエーテルなどの溶媒中で生じることができる。
モノマー、酸化剤、およびドーピング剤を多孔性ペレット内に取り込み、導電性ポリマーへの変換を実施するためにいくつかの方法が使用されている。一つの方法では、最初にペレットを酸化剤およびドーピング剤の溶液に浸漬し、乾燥し、次いでモノマーの溶液に浸漬する。反応を実施した後、ペレットを洗浄し、次いで所望の量のポリマーがペレットに沈着されるまで、この方法を反復する。この方法では、最終ポリマーの形態を制御することが困難である。モノマーと酸化剤の正確な反応化学量論を制御することも困難である。この化学量論の制御は最も導電性の高いポリマーを得るために重要である(Satohら, Synthetic Metals, 1994)。浸漬溶液の交差汚染が問題である。ペレットは各重合あたり2回浸漬しなければならないので、工程段階の数はかなり増加する。過剰の反応物および酸化剤の還元体を要素から洗い流す必要がある。これにより工程にさらなる工程段階と複雑さを加えられる。
関連する方法では、まずペレットをモノマー溶液に浸漬し、溶媒を留去するというように順序を逆にする。次いで、ペレットを酸化剤/ドーピング剤溶液に浸漬し、反応を実施する。この方法は以前の方法の欠点を全て有する。また、溶媒留去段階中に一部のモノマーが損失することがある。
好ましい方法においては、全ての成分を混合し、合わせた溶液にペレットを浸漬する。この方法は、浸漬回数を減らし、反応化学量論をより正確に制御することができる。しかし、モノマーおよび酸化剤が浸漬浴中で反応して、早期重合を生じ、反応物を損失することがあり、いくぶん費用がかさみ、方法を複雑にすることがある。これは、特に、ピロールモノマーおよびFe(III)酸化剤の場合に問題となる。これを部分的に克服するためには、浸漬浴を極低温に維持することができる(Nishiyamaら、米国特許第5,455,736号)。しかし、極低温を使用すると大規模な装置および操作の複雑さが工程に加わる。
ピロール/Fe(III)を、反応性の低いモノマー/酸化剤の組み合わせと交換することができる。例えば、3,4-エチレンジオキシチオフェンおよび有機酸のFe(III)塩をアルコールまたはアセトンに溶解することができる(Jonasら、米国特許第4,910,645号)。この組み合わせの場合には、希釈された溶液(モノマー5%未満)はほぼ室温において数時間安定である。ポリマー(ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)またはPEDT)は、溶液を加温することによって形成することができる。約5%より多いモノマー濃度では、成分が迅速に反応する。浸漬溶液を冷却して、反応を遅延することができる。しかし、低温における成分の制限された溶解性のために、溶液を冷却することができる限度は小さい。イミダゾールなどの不揮発性有機塩基の添加も反応を阻害する(Mutsaersら、EP 0615256A2, 1994; de Leeuwら、1994)。」

(4-4)補正発明と引用発明との対比
(4-4-1)引用発明の「ポリエチレンジオキシチオフェン」は、「3,4-エチレンジオキシチオフェン」を酸化剤を用いて重合させて形成されるものであるから、補正発明の「ポリ-3,4-エチレンジオキシチオフェン」に相当することは明らかである。

(4-4-2)以上によれば、補正発明と引用発明とは、
「陽極箔と陰極箔とをセパレータを介して巻回又は積層してコンデンサ素子を形成し、このコンデンサ素子を化成液中で修復化成し、その後に3,4-エチレンジオキシチオフェンと酸化剤とを含浸してポリ-3,4-エチレンジオキシチオフェンからなる固体電解質層を形成する固体電解コンデンサの製造方法。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点)
補正発明は、「3,4-エチレンジオキシチオフェンと酸化剤の重合以前に、コンデンサ素子内に窒素2原子を含む五員環化合物を3,4-エチレンジオキシチオフェンと酸化剤の総量に対して0.0008?0.5wt%含有させ」ているのに対し、引用発明は、そのような特定をしていない点。

(4-5)相違点についての検討
(4-5-1)上記(4-3-1)によれば、引用例1には、固体電解コンデンサを製造する方法において、多孔質の陽極体2の表面に酸化タンタル(Ta_(2)O_(5))の誘電体皮膜3が形成された多孔質体素子6を酸化剤溶液7に浸漬した後、酸化重合遅延剤を含むモノマー溶液に浸漬して、前記多孔質体素子6の誘電体皮膜3の細孔内と表面に導電性高分子からなる電解質層4を形成することが記載されていると認められる。
また、該引用例1において、酸化重合遅延剤は、酸化重合開始以前に多孔質体素子6に供給されることは明らかである。
さらに、0026段落の記載によれば、引用例1においては、前記モノマー溶液として3,4?エチレンジオキシチオフェンの溶液が用いられることが明らかであり、当該3,4?エチレンジオキシチオフェンを酸化剤を用いて重合させれば、形成される電解質層4が、ポリ-3,4?エチレンジオキシチオフェンとなることは、技術常識からみて自明である。

(4-5-2)引用発明及び引用例1に記載された発明は、いずれも3,4-エチレンジオキシチオフェンを酸化剤と反応させて重合し、固体電解コンデンサの電解質を形成するものであるから、引用発明において、引用例1に記載の3,4-エチレンジオキシチオフェンと酸化剤の重合以前に酸化重合遅延剤を添加するという発明を採用することは、当業者であれば容易に想到し得たものである。

(4-5-3)また、3,4-エチレンジオキシチオフェンの酸化重合反応を抑制する物質として、窒素2原子を含む五員環化合物であるイミダゾールを添加することは、上記引用例3に加え、下記周知例1及び2に記載されていることから、当業者における周知技術であるといえる。したがって、引用発明において、引用発明1に記載の酸化重合遅延剤を適用するに際し、当該酸化重合遅延剤としてイミダゾールの如くの窒素2原子を含む五員環化合物を選択することは、当業者であれば直ちに察知し得る事項である。

a.周知例1:特開平6-318775号公報
上記周知例1には、以下の記載がある。
「【0007】
【課題を解決するための手段】本発明に従って、この目的は序文に記載した方法により達成され、この方法は溶液が酸化剤および塩基を含み、さらに導電性重合体を非露光領域に形成し非導電性重合体を露光領域に形成することを特徴とする。非導電性重合体は、ここでは重合体の特定の導電率が導電性重合体の特定の導電率の少なくとも1/10^(4 )である重合体を意味すると認識する必要がある。酸化剤の存在により形成される重合体の特定の導電率値が酸化剤を用いない場合のものより高くなる。しかし、単量体またはドーピングしていないオリゴマーあるいは重合体と、さらに、ドーピングに用いる代表的な酸化剤、例えばFe(III) 塩を含む溶液は極めて不安定である。これらの成分を混合する場合、溶液中に即座にドーピングされた重合体が形成されるので、基板上に導電性重合体パターンを形成することができない。驚くべきことに、重合反応および/またはドーピング反応の反応速度が少量の塩基を溶液に添加することにより短くなることが見出された。塩基の濃度に依存して、この反応を室温で完全に抑制することができる。効果的な塩基の濃度により単量体、オリゴマーまたは重合体と適当な酸化剤を含む溶液が、少なくとも室温で、約12時間:重合を起こさず、安定化する。これらの安定な溶液により、例えば、スピンコーティングを用いて薄層を基板上に塗布することができる。層を加熱した後、導電性重合体が形成される。単量体またはオリゴマーのスピンコーティング層を、加熱前に、例えば紫外線に露光する場合、驚くべきことに、非導電性重合体が加熱後に形成される。スピンコーティング層を部分的に露光する場合、導電性重合体が、加熱後に、非露光領域に形成され非導電性重合体(すなわち、少なくとも1/10^(4) の特定の電導率を有する)が露光領域に形成される。本発明の方法に従って、例えばマスクを介した、パターン照射により、非露光領域に導電性重合体パターンがさらに露光領域に絶縁性重合体の領域が形成される。このようにして、この様式で処理する方法はネガ法であり:露光領域は非導電性となる。他の既知の方法とは異なり、本発明の方法による導電性重合体パターンの製造は別々のホトレジスト層を必要としない。重合体層の導電性領域と非導電性領域が1つの平面に位置するので、別々の平坦化層は、例えば、電子回路をさらに仕上げるために必要とされない。
【0008】本発明の方法に適した重合体は芳香族化合物、例えばアニリンならびにピロール、フランおよびチオフェンのような、複素環式芳香族化合物である。溶解度を増加させ加工性を改善するために、単量体を、例えば、アルキル基またはアルコキシ基で置換することができる。かかる化合物の例は3-ドデシルチオフェンである。適当なオリゴマーは、例えば、ターチオフェンおよびT_(12)d_(4)(2,5,8,11) 、すなわち環 2,5,8および11に4つのドデシル側鎖(d_(4))を有する12チオフェン環(T_(12)) として文献に記載された、4つのドデシル側鎖で置換したα,α′-結合ウンデカチオフェンである。チオフェンのオリゴマーはチオフェンそれ自体よりさらに容易にドーピングすることができる。本発明の方法に適する重合体は、例えば、置換または非置換ポリアニリンおよびポリチオフェンである。
【0009】本発明の方法に適する酸化剤は、例えば、トリス(トルエンスルホン酸塩)Fe(III) のような、可溶性Fe(III) 塩、Cu(BF_(4))_(2)のような、Cu(II)塩、Ce(IV)塩およびCr(III) 塩である。適当な有機酸化剤は、例えば、2,3-ジクロロ-5,6- ジシアノパラベンゾキノン(DDQ) である。酸化剤の選定は、用いた単量体、オリゴマーまたは重合体の酸化還元電位に依存する。室温での重合/ドーピング反応を抑制することができるためには、酸化剤と単量体、オリゴマーまたは重合体の酸化還元電位は著しく異なる必要がない。
【0010】この方法に適する可溶性塩基は、例えば、イミダゾール、ジシクロヘキシルアミンおよび1,8-ジアザビシクロ[5,4,0] ウンデク-7- エン(DBU) である。
【0011】本発明の方法の好適例は単量体として3,4-エチレンジオキシチオフェンを用いることを特徴とする。3,4-エチレンジオキシチオフェン(EDOT)、適当な塩基の量および酸化剤としてFe(III) 塩を含む溶液は室温で安定である。この溶液の層をスピンコーティングにより基板上に塗布することができる。随意にこの層を連続して乾燥しパターン化した照射に露光する。重合反応を約 110℃に加熱することにより開始し、非露光領域に 300 S/cm の高い特定の導電率を有する導電性重合体をさらに遠紫外線に露光した領域に非導電性(10^(-3 )S/cm の特定の導電率の)重合体を形成する。層を露光し加熱した後に、層を、例えば、メタノールまたは1-ブタノールで抽出する。この抽出により層から除去されるべき、例えば形成されたFe(II)塩のような酸化剤を減少させることができる。」

b.周知例2:特表平9-504137号公報
上記周知例2には、以下の記載がある。
「実施例1
70gの1-ブタノールに、以下のものを溶解した。
-10g(0.0176モル)のFe(III)-p-トルエンスルホン酸
-1.0g(0.007モル)の3,4-エチレンジオキシチオフェン(図1の式I、供給者Bayer AG)
-0.4g(0.0059モル)のイミダゾール(図1の式II、供給者Aldrich)
-0.05g(0.00021モル)の3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(図2、供給者Huls)
上記Fe(III)塩は、市場では入手できない。この塩を、新たに沈殿させたFe(OH)3および適切な有機酸をメタノールに溶解した溶液から沈殿させた。この沈殿は、J.A.Walker等により、「J.Polym.Chem.」 26(1988)1285-1294に記載されている。
0.5μmのポリアミドフィルターで濾過した後に、被膜溶液が完成した。イミダゾールの存在により、重合反応は、抑制され、溶液のポットライフは、少なくとも24時間であった。」

(4-5-4)ここで、補正発明における「窒素2原子を含む五員環化合物」の含有量である「3,4-エチレンジオキシチオフェンと酸化剤の総量に対して0.0008?0.5wt%」という数値について検討する。
本願の明細書及び図面(以下、これらをまとめて「明細書等」という。)において、補正発明の「窒素2原子を含む五員環化合物」の含有量に関連した事項が直接的に記載されている箇所は、0017段落、0025段落及び0026段落のみであるが、0017段落には「含窒素複素環式化合物の含有量は、重合性モノマーと酸化剤の総量に対して0.0008?2.5wt%が好ましく、0.008?0.8wt%がより好ましい。含有量がこの範囲を越えると、ESRが上昇し、この範囲未満であると、静電容量が減少し、ESRが上昇する。」と記載されているのみであり、上記「窒素2原子を含む五員環化合物」の下限値及び上限値について実験結果等に裏付けられた具体的な根拠を何ら記載するものではない。
また、0025段落及び0026段落には、上記「窒素2原子を含む五員環化合物」であるイミダゾールの含有量として1wt%なる数値が記載されているものの、当該1wt%なる数値は、「EDTと50%のパラトルエンスルホン酸第二鉄のブタノール溶液を1:3の割合で混合し、この混合液に対して1wt%」または「1wt%のイミダゾール水溶液」であって、3,4-エチレンジオキシチオフェン(EDT)と酸化剤の総量に対する割合を示すものではなく、「窒素2原子を含む五員環化合物」を「3,4-エチレンジオキシチオフェンと酸化剤の総量に対して0.0008?0.5wt%含有させる」ことの技術的意義を裏付けるものとはいえない。
明細書等を精査しても、他に補正発明において「窒素2原子を含む五員環化合物」を「3,4-エチレンジオキシチオフェンと酸化剤の総量に対して0.0008?0.5wt%含有させる」とすることの技術的意義について記載した箇所はなく、本願出願時点における技術常識を加味したとしても、「窒素2原子を含む五員環化合物」を「3,4-エチレンジオキシチオフェンと酸化剤の総量に対して0.0008?0.5wt%含有させる」としたことにより、予期しない程度の顕著な効果を奏するものとは認めることはできない。
したがって、補正発明において「窒素2原子を含む五員環化合物」を「3,4-エチレンジオキシチオフェンと酸化剤の総量に対して0.0008?0.5wt%含有させる」とすることの臨界的意義を認めることはできない。
そして、「窒素2原子を含む五員環化合物」の含有量を「3,4-エチレンジオキシチオフェンと酸化剤の総量に対して0.0008?0.5wt%」とすることは、当業者が必要に応じて適宜に設定し得る程度のものにすぎない。

(4-5-5)なお、審判請求人は、審判請求書の請求の理由、及び、審尋の回答書において、上記引用例3の「イミダゾールなどの不揮発性有機塩基の添加も反応を阻害する(Mutsaersら、EP 0615256A2, 1994;de Leeuwら、1994)。しかし、これは、洗浄除去が困難な有機残渣をタンタルコンデンサの孔に残す」との記載によれば、引用例1に記載の重合遅延剤に代えて、引用例3のイミダゾールを使用することには、阻害要因がある旨主張している。
しかし、引用発明における、ポリエチレンジオキシチオフェンが形成される陽極箔及び陰極箔として、引用例2には、アルミニウム箔を電気化学的エッチングすることにより粗面化したものが例示されている。一方、引用例3には、第1頁第13?19行に示されるように、タンタル粉末の焼結により形成された多孔性ペレットの孔には有機残渣が残ることが記載されているが、電気化学的エッチングにより粗面化されたアルミニウム箔電極においても有機残渣が残ることが記載されているわけではない。
むしろ、上記(4-5-3)にて述べたとおり、3,4-エチレンジオキシチオフェンの酸化重合反応を抑制する物質として、窒素2原子を含む五員環化合物であるイミダゾールは、周知例1及び2にも記載されているように技術分野を問わず、当業者において周知であることを考慮すれば、アルミニウム箔等が用いられることを前提とした陽極箔と陰極箔における酸化重合反応を抑制するためにイミダゾールの使用を試みることは、当業者が当然に行うことである。
したがって、出願人の主張する事項は、引用発明における電解コンデンサに適用するに際しては、必ずしも阻害要因とはならないものと認められる。

(4-5-6)よって、引用発明において、「3,4-エチレンジオキシチオフェンと酸化剤の重合以前に、コンデンサ素子内に窒素2原子を含む五員環化合物を3,4-エチレンジオキシチオフェンと酸化剤の総量に対して0.0008?0.5wt%含有させ」ることは、当業者が容易になし得たことである。

(4-5-7)以上検討したとおり、補正発明は、引用例3並びに周知例1及び2に記載された周知技術を勘案することにより、引用例1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

(4-6)独立特許要件についてのまとめ
以上のとおり、本件補正は、補正発明が特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから特許法第17条の2第5項(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項をいう。以下同じ。)において準用する同法第126条第5項の規定に適合しない。

(5)補正の却下についてのむすび
以上検討したとおり、本件補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしておらず、同法第17条の2第4項各号に掲げる事項のいずれを目的とするものにも該当しない。仮に、本件補正が、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たし、かつ、同法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものとみなした場合であっても、同法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合しない。
したがって、本件補正は、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


3.本願発明について
(1)本願発明
平成20年8月4日に提出された手続補正書による補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?8に係る発明は、平成20年3月24日に提出された手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?8に記載されている事項により特定されるとおりのものであり、そのうちの請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記2.(1)の「補正前」の請求項1に記載したとおりのものであり、再掲すると以下の通りである。
「【請求項1】 陽極箔と陰極箔とをセパレータを介して巻回又は積層してコンデンサ素子を形成し、このコンデンサ素子を化成液中で修復化成し、その後に重合性モノマーと酸化剤とを含浸して導電性ポリマーからなる固体電解質層を形成する固体電解コンデンサの製造方法において、
前記重合性モノマーと酸化剤の含浸工程以前に、コンデンサ素子内に窒素2原子を含む五員環化合物を重合性モノマーと酸化剤の総量に対して0.0008?2.5wt%含有させることを特徴とする固体電解コンデンサの製造方法。」

(2)引用刊行物に記載された発明
本願の出願前に日本国内または外国において頒布され、原査定の根拠となった拒絶の理由において引用された刊行物である特開2002-33244号公報(引用例1)、特開2000-138133号公報(引用例2)及び国際公開00/14139号(引用例3)には、上記2.(4-3)に記載したとおりの事項及び発明が記載されているものと認められる。

(3)本願発明と引用発明との対比
(3-1)引用例2に周知技術として記載された発明(引用発明)の「3,4-エチレンジオキシチオフェン」及び「ポリエチレンジオキシチオフェン」は、それぞれ、本願発明の「重合性モノマー」及び「導電性ポリマー」に相当する。

(3-2)以上によれば、本願発明と引用発明とは、
「陽極箔と陰極箔とをセパレータを介して巻回又は積層してコンデンサ素子を形成し、このコンデンサ素子を化成液中で修復化成し、その後に重合性モノマーと酸化剤とを含浸して導電性ポリマーからなる固体電解質層を形成する固体電解コンデンサの製造方法。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点)
本願発明は、「重合性モノマーと酸化剤の重合以前に、コンデンサ素子内に窒素2原子を含む五員環化合物を重合性モノマーと酸化剤の総量に対して0.0008?2.5wt%含有させ」ているのに対し、引用発明は、そのような特定をしていない点。

(4)相違点についての検討
(4-1)上記2.(4-5-1)に記したとおり、引用例1には、固体電解コンデンサを製造する方法において、多孔質の陽極体2の表面に酸化タンタル(Ta_(2)O_(5))の誘電体皮膜3が形成された多孔質体素子6を酸化剤溶液7に浸漬した後、酸化重合遅延剤を含むモノマー溶液に浸漬して、前記多孔質体素子6の誘電体皮膜3の細孔内と表面に導電性高分子からなる電解質層4を形成することが記載されていると認められる。また、該引用例1において、酸化重合遅延剤は、酸化重合開始以前に多孔質体素子6に供給されることは明らかである。

(4-2)引用発明及び引用例1に記載された発明は、いずれもモノマーを酸化剤と反応させて重合し、固体電解コンデンサの電解質を形成するという共通の技術分野に属するものであるから、引用発明において、引用例1に記載のモノマーと酸化剤の重合以前に酸化重合遅延剤を添加するという発明を採用することは、当業者であれば容易に想到し得たものである。

(4-3)また、3,4-エチレンジオキシチオフェン等のモノマーの酸化重合反応を抑制する物質として、窒素2原子を含む五員環化合物であるイミダゾールは、引用例3、並びに、上記2.(4-5-3)に示した周知例1及び2に記載されているように当業者において周知である。したがって、引用発明において、引用例1に記載された酸化重合遅延剤を適用するに際し、当該酸化重合遅延剤としてイミダゾールの如くの窒素2原子を含む五員環化合物を選択することは、当業者であれば直ちに察知し得る事項である。

(4-4)さらに、本願発明において「窒素2原子を含む五員環化合物」を「重合性モノマーと酸化剤の総量に対して0.0008?2.5wt%含有させる」とすることの臨界的意義は、上記2.(4-5-4)に示したのと同様に認めることはできない。
そして、「窒素2原子を含む五員環化合物」の含有量は、当業者が必要に応じて適宜に設定し得る程度のものにすぎない。

(4-5)なお、審判請求人は、審判請求書の請求の理由、及び、審尋の回答書において、上記引用例3の「イミダゾールなどの不揮発性有機塩基の添加も反応を阻害する(Mutsaersら、EP 0615256A2, 1994;de Leeuwら、1994)。しかし、これは、洗浄除去が困難な有機残渣をタンタルコンデンサの孔に残す」との記載によれば、引用例1に記載の重合遅延剤に代えて、引用例3のイミダゾールを使用することには、阻害要因がある旨主張しているが、これも、上記2.(4-5-5)に示したとおり、上記引用例3の記載は、引用発明における電解コンデンサに適用するに際しては、必ずしも阻害要因とはならないものと認められる。

(4-6)以上検討したとおり、本願発明は、引用例3並びに周知例1及び2に記載された周知技術を勘案することにより、引用例1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


4.むすび
以上のとおりであるから、本願は、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-05-13 
結審通知日 2011-05-17 
審決日 2011-05-30 
出願番号 特願2002-92527(P2002-92527)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小池 秀介佐久 聖子久保田 昌晴  
特許庁審判長 齋藤 恭一
特許庁審判官 加藤 浩一
酒井 英夫
発明の名称 固体電解コンデンサの製造方法  
代理人 木内 光春  

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