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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01G
管理番号 1240233
審判番号 不服2008-17820  
総通号数 141 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-09-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-07-10 
確定日 2011-07-14 
事件の表示 平成10年特許願第276925号「固体電解コンデンサとその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 4月21日出願公開,特開2000-114108〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は平成10年9月30日の出願であって,平成19年11月6日付けで拒絶理由通知がされ,平成20年1月15日に意見書が提出されたが,平成20年6月5日付けで拒絶査定がされ,これに対し,平成20年7月10日に審判が請求され,同日に手続補正書が提出された後,同年8月11日にも手続補正書が提出され,その後,平成22年12月17日付けで審尋がされ,同年2月17日に回答書が提出されたものである。

第2 本願発明の容易想到性について
1 本願発明
平成20年8月11日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲によれば,その請求項1の記載は,次のとおりである(以下,請求項1に係る発明を「本願発明」という。)。

「弁金属からなる陰極箔と表面に酸化皮膜を形成した弁金属からなる陽極箔とを,セパレータを介して巻回してコンデンサ素子を形成し,前記陰極箔と陽極箔の間に導電性ポリマーからなる電解質層を形成した固体電解コンデンサにおいて,
前記陰極箔の表面に,金属窒化物からなる皮膜を形成したことを特徴とする固体電解コンデンサ。」

2 引用例の記載と引用発明
2-1 引用例の記載
原査定の拒絶の理由に引用された,本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開平9-293639号公報(以下「引用例1」という。)には,「固体電解コンデンサ及びその製造方法」(発明の名称)に関し,図1とともに,次の記載がある。(下線は当審で付加したものである。以下同じ)
ア 特許請求の範囲
「【請求項1】3,4-エチレンジオキシチオフェンと酸化剤とを混合した混合溶液を,陽極電極箔と陰極電極箔とをガラスペーパーからなるセパレータを介して巻回したコンデンサ素子に含浸し,セパレータに浸透した前記混合溶液中の重合反応により生成したポリエチレンジオキシチオフェンを電解質層としてセパレータで保持した固体電解コンデンサ。」

イ 発明の属する分野
「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は,固体電解コンデンサおよびその製造方法にかかり,特に導電性高分子を電解質に用いた固体電解コンデンサに関する。」

ウ 実施例
「【0034】
【実施例】次に,発明における固体電解コンデンサの製造方法と,それによって得られる固体電解コンデンサについて具体的に説明する。
【0035】(実施例1)陽極電極箔1及び陰極電極箔2は,弁作用金属,例えばアルミニウム,タンタルからなり,その表面には予めエッチング処理が施されて表面積が拡大されている。陽極電極箔1については,更に化成処理が施され,表面に酸化アルミニウムからなる酸化皮膜層4が形成されている。
【0036】この陽極電極箔1及び陰極電極箔2を,厚さ80?200μmのガラスペーパーからなるセパレータ3を介して巻回し,コンデンサ素子10を得る。
【0037】この実施例において,コンデンサ素子10は,径寸法が4φ,縦寸法が7mmのものを用いている。なお,コンデンサ素子10の陽極電極箔1,陰極電極箔2にはそれぞれリード線6,7が電気的に接続され,コンデンサ素子10の端面から突出している。
【0038】以上のような構成からなるコンデンサ素子10に,3,4-エチレンジオキシチオフェンと酸化剤との混合液を含浸する。酸化剤は,エチレングリコールに溶解したp-トルエンスルホン酸第三鉄を用い,3,4-エチレンジオキシチオフェンと酸化剤との配合比は,1:3?1:15の範囲が好適である。
【0039】含浸は,一定量の前記混合溶液を貯溜した含浸槽にコンデンサ素子10を浸漬し,必要に応じて減圧する。
【0040】次いで,混合溶液を含浸したコンデンサ素子10を含浸槽から引上げ,25℃ないし100℃の重合温度で,15時間ないし2時間放置して重合反応によるポリエチレンジオキシチオフェンすなわち固体電解質層5を生成させる。
【0041】この重合温度及び放置時間の範囲は,それぞれ重合温度が高くなると製造された固体電解コンデンサの電気的特性のうち,静電容量,tanδ,インピーダンス特性が良くなるものの,漏れ電流特性が悪くなる傾向が見られることから,製造するコンデンサ素子10の仕様に応じて前記の範囲内で任意に変更することができる。なお,25℃の重合温度で15時間程度,50℃で4時間程度,100℃では2時間程度放置するのが適当であり,50℃の温度下で4時間放置するのが固体電解質層5の被覆状態と工程時間との兼ね合いで最適であった。
【0042】ついで,コンデンサ素子を,水,有機溶媒等を用いて120分程度洗浄するとともに100℃ないし180℃で30分程度乾燥させ,その後,常温において,陽極電極箔1の耐電圧の40%ないし60%程度の電圧を印加するいわゆるエージング工程を経て一連の固体電解質層5の生成工程は終了する。なお,以上の固体電解質層5の生成工程は,必要に応じて複数回繰り返してもよい。
【0043】このようにして陽極電極箔1と陰極電極箔2との間に介在したセパレータ3に固体電解質層5が形成されたコンデンサ素子10は,例えばその外周に外装樹脂を被覆して固体電解コンデンサを形成する。」

エ 発明の効果
「【0051】
【発明の効果】本発明では,陽極電極箔と陰極電極箔とを,上記セパレータを介して巻回したコンデンサ素子に,3,4-エチレンジオキシチオフェンと酸化剤とを混合した混合溶液を含浸することにより,コンデンサ素子の内部にまでこの混合溶液が浸透する。そして,その浸透する過程及び浸透後に起きる3,4-エチレンジオキシチオフェンと酸化剤との穏やかな重合反応でポリエチレンジオキシチオフェン,すなわち固体電解質層をコンデンサ素子の内部においても生成させ,また固体電解質層を,その生成過程からセパレータで保持している。そのため,コンデンサ素子の内部にまで緻密で均一な固体電解質層を形成することができ,結果として固体電解コンデンサの電気的特性が向上し,特に耐電圧特性においては,ポリエチレンジオキシチオフェン自体の特性とも相俟って,従来の導電性高分子を固体電解質層に用いた固体電解コンデンサとの比較で改善が顕著である。」

2-2 引用発明
以上によれば,引用例1には,次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「弁金属からなる陰極箔と表面に酸化皮膜を形成した弁金属からなる陽極箔とを,セパレータを介して巻回してコンデンサ素子を形成し,前記陰極箔と陽極箔の間にポリエチレンジオキシチオフェンからなる電解質層を形成した固体電解コンデンサ。」

3 一致点と相違点
引用発明の「ポリエチレンジオキシチオフェン」は「導電性ポリマー」であるから,本願発明と引用発明の一致点と相違点は,次のとおりである。

〔一致点〕
「弁金属からなる陰極箔と表面に酸化皮膜を形成した弁金属からなる陽極箔とを,セパレータを介して巻回してコンデンサ素子を形成し,前記陰極箔と陽極箔の間に導電性ポリマーからなる電解質層を形成した固体電解コンデンサ。」

〔相違点〕
本願発明は,「陰極箔の表面に,金属窒化物からなる皮膜を形成し」たものであるのに対し,引用発明では,陰極箔の表面にこのような被膜が形成されていない点。

4 電解コンデンサの陰極箔の金属窒化物被覆についての技術水準
(1)各刊行物とその記載
ア 原査定の拒絶の理由に引用された,本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開平8-264392号公報(以下「引用例2という。)には,「電解コンデンサ」(発明の名称)に関し,次の記載がある。
・「【0014】なお,陰極電極箔に窒化チタン等の金属窒化物を蒸着等の手段により被覆させる技術は従来から提案されている(例えば特開平2-117123号公報,特開平4-61109号公報,特開平4-329620号公報)。・・・」

イ 原査定の拒絶の理由に引用された,本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である実願平3-58530号(実開平5-4456号)のCD-ROM(以下「引用例3」という。)には,「電解コンデンサ」(発明の名称)に関し,次の記載がある。
・「【0011】
図1はこの考案の電解コンデンサの電極間の構成を説明した断面図である。この考案の電解コンデンサは,陽極電極となるアルミニウムの陽極箔1の表面が,表面積拡大のためのエッチングが施され粗面化している。この粗面化面には,イオンプレーティング法,スパッタリング法,陰極アークプラズマ蒸着法,真空蒸着法あるいはCVD法などの物理的あるいは化学的方法により,チタンの薄膜層2が形成されている。このチタン薄膜層2は陽極酸化処理により酸化がおこなわれ,絶縁性の酸化チタン(TiO_(2 ))の薄膜となり,誘電体層を構成している。
【0012】
一方陰極電極となるアルミニウムの陰極箔3は,その表面に窒化チタンの薄膜層4が形成されている。窒化チタンの薄膜は,窒素ガスをわずかに含む雰囲気中で前記のチタンの薄膜形成と同様な手段を用いておこなう。
【0013】
このようにして表面に処理なされた,陽極箔1と陰極箔とは,セパレータ5を挟んで重ね合わされ,巻回あるいは積み重ねてコンデンサ素子が形成される。そしてセパレータ5には電解液6が含浸保持され,陽極箔1と陰極箔3とに接触している。
【0014】
このコンデンサ素子は,図示しないが既知の方法によって外装ケース等に収納され,外装ケースの開口部を弾性封口部材等に密閉して電解コンデンサが完成する。
【0015】
【作用】
この考案によれば,陽極側電極に表面に酸化チタン薄膜を有するアルミニウム箔を用い,陰極側電極に窒化チタンの薄膜が表面に形成されたアルミニウム箔を用いているので,陽極側,陰極側共従来に比べて高い静電容量を有し,この結果小形大容量の電解コンデンサとすることができる。」

ウ 本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開平4-61109号公報(以下「引用例4」という。)には,「電解コンデンサ用陰極材料」(発明の名称)に関し,次の記載がある。

・「[従来の技術]
電解コンデンサ用の電極材料としては,陽極材料と陰極材料があり,コンデンサの静電容量を増大させるためには,陽極材料とともに陰極材料の静電容量を向上させることが重要である。
ところで電解コンデンサにおける各電極の静電容量は,電極表面に薄く形成される絶縁膜の種類及び厚さ並びに電極の表面積に左右されるものであり,絶縁膜の誘電率をε,絶縁膜の厚さをt,電極の表面積をAとするとき,静電容量Cは下記一般式で表わされる。
C=ε(A/t)
この式からも明らかな様に静電容量の増大を図るためには,電極表面積の拡大,高誘電率を有する絶縁膜材料の選択,絶縁膜の薄膜化が有効である。」(1頁左下欄下から9行?同右下欄7行)
・「[課題を解決するための手段]
上記目的を達成した本発明とは導電性の金属窒素化物を主成分とする皮膜を,基材表面に形成してなることを要旨とするものである。
[作用]
本発明の陰極材料を用いた場合は従来の技術による陰極材料を用いた場合に比べて大きな静電容量を得ることができる。この理由については前記従来技術のTiを蒸着した陰極材料との対比において以下のように説明できる。
従来技術による陰極材料では基材の上に例えばTi等の金属皮膜を蒸着し,表面に微細な凹凸を形成することによって表面積を拡大し,静電容量を増大させていたものである。
しかしながら上記金属皮膜表面には,大気中の酸素や電解液の影響により自然酸化皮膜が形成されでおり,該酸化皮膜が厚く形成されると,その酸化膜厚に応じて静電容量が低下してしまう。
一方本発明に係る陰極材料は,TiNに代表される導電性の金属窒素化物が蒸着されたものであり,皮膜を形成する金属元素は既に窒素と化合しているので,皮膜表面で進行する酸化反応は純金属皮膜の場合に比べ著しく抑制され,その結果として自然酸化皮膜の厚さは可及的に薄く形成でき,従って高い静電容量を得ることができる。」(2頁左上欄下から4行?同左下欄2行)

エ 本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開平3-150820号公報(以下「引用例5」という。)には,「電解コンデンサ用アルミニウム電極」(発明の名称)に関し,次の記載がある。

・「【従来の技術】
電解コンデンサは,小型,大容量,安価で整流出力の平滑用などの用途に優れた特性を示し,各種の電気・電子機器の重要な構成要素の一つである。
電解コンデンサは,一般にアルミニウム等の絶縁性酸化皮膜が形成され得る,いわゆる弁金属を陽極に用い,前記絶縁性酸化皮膜を誘電体層として,集電用の陰極電極との間にセパレータに保持された電解液を介在させてコンデンサ素子を作成し,これを密閉容器内に収納して構成される。
陽極材料は前述したように,アルミニウムをはじめ,タンタル,ニオブ,チタンなどが使用される。また集電のための陰極電極材料には,陽極材料と同種の金属が用いられる。
ところが,弁金属は一般に自然酸化による酸化皮膜層が表面に形成される。この傾向はアルミニウムにおいて特に顕著である。そしてこの自然酸化皮膜は極めて薄い絶縁層のため,陰極側にも静電容量が形成され,電解コンデンサは,陽極側の静電容量および陰極側の静電容量が直列に接続された合成容量となり,所望の静電容量が得られなくなる。また所望の静電容量を得るため,陽極側の静電容量を必要以上に大きくする必要がある。
この影響を少なくするためには,陽極側の静電容量値に比べ陰極側の静電容量値を著しく高くすれば,陰極側の静電容量による影響は殆ど無視できることになるが,低電圧用の電解コンデンサの陽極の単位面積あたりの静電容量は相当に高い水準にあり,これをより高めるのは困難で,合成容量による静電容量値の低下は免れ得ない。
そこで陰極側の静電容量値をより高くするために,陰極電極表面をエッチング処理して表面積を拡大する方法がある。しかしこの表面積を拡大する技術は,現在では高度に洗練されているが,この技術のみによって電解コンデンサの静電容量を飛躍的に増加させるのは次第に困難になりつつある。
むしろ陰極との合成容量による静電容量の低下の問題の解決のためには,陰極の表面部に絶縁性の酸化皮膜を形成しない導電性の金属からなる薄膜で被覆することによって,合成容量による静電容量値の低下を防止することが考えられる。」(1頁左下欄下から8行?2頁左上下から6行)
・「【発明が解決しようとする課題】
この発明は,高純度アルミニウムの表面に導電性で,しかも電解コンデンサとして使用した場合に特性上安定度の高い薄膜を形成し,単位面積あたりの静電容量が大きく,しかも信頼性の高い電解コンデンサ用電極を得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
この発明は,窒化チタンがこの発明の目的に適合した薄膜を形成することに着目したもので,この発明の電解コンデンサ用電極は,高純度アルミニウム表面に,窒化チタン層を形成したことを特徴としている。
すなわちこの発明は,チタンの窒化物の薄膜によりアルミニウム電極表面を被覆することにより,この発明の目的を達成している。」(2頁右上欄下から7行?同左下欄8行)
・「【作用】
窒化チタンは,比抵抗値が22ないし130μΩ・cmと低い抵抗値を有する硬質な化合物で,切削工具のチップ表面の保護や時計用ケースの被覆などの用途が知られている。
また窒化チタンはアルミニウムとの反応性も良好なことから,アルミニウム表面に低比抵抗の緻密な薄膜が形成される。
この結果,アルミニウム電極は表面に形成された高容量の極めて薄い自然酸化皮膜か,あるいは特定の微小部分については自然酸化皮膜が殆ど形成されない電導度の高い金属アルミニウム表面がそのまま,窒化チタンによって安定して保護されることになり,電極全体として高い静電容量値が得られるものと思われる。
また窒化チタンは,電解液との反応が起きにくく,電極の表面状態を長期にわたって安定して維持させる。」(2頁右下欄11行?3頁左上欄8行)
オ 本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開平9-186054号公報(以下「引用例6」という。)には,「電解コンデンサ用アルミニウム電極」(発明の名称)に関し,次の記載がある。
・「【0003】電解コンデンサは,一般にアルミニウム等の絶縁性酸化皮膜が形成され得る,いわゆる弁金属を陽極に用い,前記絶縁性酸化皮膜を誘電体層として,集電用の陰極電極との間にセパレータに保持された電解液を介在させてコンデンサ素子を作成し,これを密閉容器内に収納して構成される。
【0004】陽極材料は前述したように,アルミニウムをはじめ,タンタル,ニオブ,チタンなどが使用される。また集電のための陰極電極材料には,陽極材料と同種の金属が用いられる。
【0005】ところが,弁金属は一般に自然酸化による酸化皮膜層が表面に形成される。この傾向はアルミニウムにおいて特に顕著である。そしてこの自然酸化皮膜は極めて薄い絶縁層のため,陰極側にも静電容量が形成され,電解コンデンサは,陽極側の静電容量および陰極側の静電容量が直列に接続された合成容量となり,所望の静電容量が得られなくなる。また所望の静電容量を得るため,陽極側の静電容量を必要以上に大きくする必要がある。この影響を少なくするためには,陽極側の静電容量値に比べ陰極側の静電容量値を著しく高くすれば,陰極側の静電容量による影響は殆ど無視できることになるが,低電圧用の電解コンデンサの陽極の単位面積あたりの静電容量は相当に高い水準にあり,これをより高めるのは困難で,合成容量による静電容量値の低下は免れ得ない。」
・「【0011】
【発明が解決しようとする課題】この発明は,高純度アルミニウムの表面に導電性で,しかも電解コンデンサとして使用した場合に特性上安定度の高い薄膜を形成し,単位面積あたりの静電容量が大きく,しかも信頼性の高い電解コンデンサ用電極を得ることを目的としている。
【0012】
【課題を解決するための手段】この発明は,窒化チタンがこの発明の目的に適合した薄膜を形成することに着目したもので,この発明の電解コンデンサ用陰極箔は,高純度アルミニウム表面に,厚さ0.02μmないし0.10μm未満の窒化チタン層を形成したことを特徴としている。
【0013】すなわちこの発明は,チタンの窒化物の薄膜によりアルミニウム陰極箔表面を被覆することにより,この発明の目的を達成している。」

(2)引用例2?6の上記の記載によれば,本願の出願前において,(a)電解コンデンサを構成する陰極箔の表面に自然酸化膜が形成されて直列の容量成分が形成されるため,合成容量が低下するという問題があったこと,及び(b)陰極箔の表面を窒化チタン等の安定で導電性を有する金属窒化物の薄膜で被覆することにより,この問題を解決することができること,以上が当業者の技術常識となっていたものと認めることができる。

5 相違点についての検討
(1)引用例2?6には,陰極箔の表面を金属窒化物で被覆することにより合成容量の低下の問題を解決するという技術が,引用発明のような「電解質層」が「導電性ポリマー」から成る固体電解コンデンサに適用できるとの直接の記載はないけれども,陰極箔に用いる金属材料は引用発明と引用例2?6の電解コンデンサとで共通するから,引用発明のような固体電解コンデンサにおいても,陰極箔の表面に自然酸化膜が形成されて直列の容量成分が形成されるという問題が発生しうることは,当業者が容易に認識し得たことである。
そうすると,引用発明の固体電解コンデンサの陰極箔に上記の技術を適用し,「陰極箔の表面に,金属窒化物からなる皮膜を形成」することは,当業者にとって容易であったといえる。
したがって,相違点の構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。

(2)審判請求人は,審判請求の理由において,「従来の電解液を用いた電解コンデンサでは,陰極箔と電解液との界面に電気二重層コンデンサが形成されて容量成分となり,陰極箔の容量が無限大とならず,陽極箔と陰極箔の直列接続の合成容量となってしまい静電容量の向上には限界があったのに対し,本発明の固体電解質では,陰極箔との界面に電気二重層コンデンサは形成されないため,従来の電解コンデンサでは想定できない静電容量の更なる向上を得ることができたものである。」と述べるが,上に検討したように,電解コンデンサの陰極箔の表面を金属窒化物で被覆することにより合成容量の低下の問題を解決するという技術が,固体電解コンデンサの陰極箔に適用できるものであることは,当業者が容易に認識し得たことである。仮に,従来の電解液を用いたコンデンサでは,陰極箔と電解液との界面に電気二重層コンデンサが形成されて容量成分となり,静電容量の向上には限界があるとしても,このことは,上記技術を固体電解コンデンサの陰極箔に適用する妨げとはならない。

6 まとめ
以上のとおり,本願発明は,引用発明及び電解コンデンサの陰極箔の金属窒化物被覆についての技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により,特許を受けることができない。

第3 結言
以上のとおりであるから,本願は,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,拒絶をすべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-05-12 
結審通知日 2011-05-17 
審決日 2011-05-30 
出願番号 特願平10-276925
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 重田 尚郎大澤 孝次  
特許庁審判長 相田 義明
特許庁審判官 松田 成正
近藤 幸浩
発明の名称 固体電解コンデンサとその製造方法  
代理人 木内 光春  

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