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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C09D
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C09D
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C09D
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C09D
管理番号 1240385
審判番号 不服2007-29239  
総通号数 141 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-09-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-10-29 
確定日 2011-07-20 
事件の表示 特願2001-561109「水性エラストマーコーティング組成物及びこの組成物でコーティングされた物体」拒絶査定不服審判事件〔平成13年8月2日国際公開、WO01/55266、平成15年9月9日国内公表、特表2003-526713〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、2001年1月22日〔パリ条約による優先権主張外国庁受理 2000年1月27日 ドイツ(DE)〕を国際出願日とする出願であって、平成19年7月24日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成19年10月29日に拒絶査定に対する審判請求がなされ、その後、平成22年7月1日付けで審判合議体による拒絶の理由が通知され、前記審判合議体による拒絶理由通知の指定期間内である平成23年1月6日に意見書とともに手続補正書が提出されたものであって、「水性エラストマーコーティング組成物及びこの組成物でコーティングされた物体」に関するものである。

2.審判合議体による拒絶の理由
平成22年7月1日付けの審判合議体による拒絶の理由は、
理由1として、『この出願の請求項1?16に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。』という理由と、
理由2として、『この出願の請求項1?16に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物1?8に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。』という理由と、
理由3として、『この出願は、特許請求の範囲の記載が下記3.(1)?(8)の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。』という理由と、
理由4として、『この出願は、特許請求の範囲の記載が下記4.(1)?(2)、(4)?(9)及び(11)の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。』という理由と、
理由5として、『この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記4.(1)?(10)の点で、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。』という理由を含むものである。

3.本願発明
本願の請求項1?10に記載された特許を受けようとする発明は、平成23年1月6日付けの手続補正により補正された明細書(以下、当該補正後の明細書を「本願明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定されるとおりのものであり、その請求項1に記載された特許を受けようとする発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「乾燥重量の、a)フッ素ゴムからなるポリマーラテックス100phrに対して、
b)シリケートからなる鉱物性充填剤を5?400phr、
c)アミン系の架橋物質からなる架橋剤を1?6phr、
d)ZnOからなる酸捕捉剤を3?20phr、及び
e)エラストマーコーティング組成物の分散媒としての水を400phr以下
含有しており、
カーボンブラックを含有していない水性エラストマーコーティング組成物。」

また、本願請求項4に記載された特許を受けようとする発明は、次のとおりのものである。
「前記成分b)が、アミノシラン又はチタネートで表面が改質された、珪灰石又はカルシウムのシリケートからなる鉱物性充填剤、及び/又はアミノシランを基礎とする凝集促進剤を含有する、請求項1から3のいずれか1項に記載のエラストマーコーティング組成物。」

4.理由3?5について
(1)理由3の「3.(7)」の不備、及び理由4?5の「4.(8)」の不備について
審判合議体による拒絶理由通知は、
理由3の「3.(7)」の不備として、『(7)本願請求項5及び6に記載された「凝集促進剤」と本願請求項1に記載された「凝集剤」の関係が不明確である。』という不備を指摘し、
理由4?5の「4.(8)」の不備として、『(8)…本願請求項5及び6に記載された「凝集促進剤」…については、本願明細書の発明の詳細な説明に、実施可能要件及びサポート要件を満たし得る程度の記載が見当たらないので、本願は、特許法第36条第4項及び第6項第1号の規定に適合しない。』という不備を指摘している。

これに対し、審判請求人は、平成23年1月6日付けの意見書において、
『〔3〕理由3について 上述の今般補正により、本願特許請求の範囲は十分に明確となっており、理由3は解消されるものと思料します。』と主張し、
『〔4〕理由4、5について 今般補正により、請求項1における各成分及びその含有割合を実施例のものに整合させたことにより、記載不備は全て解消されるものと思料します。よって、補正後の本願には理由4、5も存在しないと思料しますが、いくつかの項目については、以下に補足的にご説明致します。』と主張しているが、
理由3の「3.(7)」の不備、及び理由4?5の「4.(8)」において指摘した「凝集促進剤」に関する不備については、具体的な主張ないし釈明がなされていない。

そして、平成23年1月6日付けの手続補正により、補正前の請求項5に記載されていた発明は、補正後の請求項4に実質的に記載されるところとなったが、補正後の請求項4に記載された「前記成分b)が、…アミノシランを基礎とする凝集促進剤を含有する、請求項1…に記載のエラストマーコーティング組成物。」という発明特定事項について、補正後の請求項1に記載された「成分b)」は「鉱物性充填剤」であって、「凝集促進剤」ではないから、補正後の請求項4に記載された「凝集促進剤」と補正後の請求項1に記載された「成分b)」の関係が不明確であるという点において、明確性要件に関する理由3の「3.(7)」の不備は依然として解消しておらず、当該「凝集促進剤」が具体的にどのようなものであって、どのように本願所定の課題を解決し得ているのか、本願明細書の発明の詳細な説明に明確かつ十分な記載がなされているものでもないという点において、サポート要件及び実施可能要件に関する理由4?5の「4.(8)」の不備も依然として解消していない。

してみると、補正後の請求項4に記載された「凝集促進剤」と、補正後の請求項1に記載された「成分b)」の関係は、技術的に整合性がなく、その技術的な内容を想定できないという点において、特許を受けようとする発明が明確ではないから、補正後の請求項4の記載は特許法第36条第6項第2号の規定に適合するものではない。
そして、技術的な内容を具体的に想定できないものが、本願明細書の発明の詳細な説明に、その実施をできる程度に明確かつ十分に記載されているものとも認められないから、補正後の請求項4の記載は特許法第36条第6項第1号の規定に適合するものではなく、また、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。

したがって、本願は、明確性要件、サポート要件、及び実施可能要件を満たしていないから、特許法第36条第4項及び第6項に規定する要件を満たしていない。

(2)理由5の「4.(3)」及び「4.(10)」の不備、並びに理由4の「4.(11)」の不備について
審判合議体による拒絶理由通知は、
理由5の「4.(3)」の不備として、『本願明細書の段落0029?0035に記載された「例1」?「例4」の具体例は、各成分の配合量について、具体的な数値を明らかにするものではなく、本願発明の数値範囲外の数値範囲を含む数値範囲で記載するにとどまるものである。…そうしてみると、本願請求項1?16に係る発明を実施する場合においては、当業者といえども過度の試行錯誤をしなければ本願請求項1?16に係る発明の実施をすることができないし、本願請求項1?16に係る発明が、産業上利用できる発明として実際に完成し、本願所定の課題を解決し得るのか否かを検証することさえも不可能であり、本願発明はa)?d)の各成分の配合量の割合を定めているところ、これらの配合量の数値範囲を特定することの「技術上の意義」を理解することは、当業者といえども不可能である。』という不備を指摘し、
理由5の「4.(10)」の不備として、『(10)本願明細書の段落0047の表8に記載された「アミノシラン溶剤型」、「アミノシラン水性」、「直接結合」及び「平均値」については、具体的にどのような内容を意味しているのか、本願明細書の発明の詳細な説明を精査しても理解できず、当該「表8」に記載された数値については、具体的にどのような形で算出されるものか、意味不明であり、その数値については、本願発明の具体例とされる「例3」と本願発明の範囲該とされる「比較例」とを対比するに、「アミノシラン溶剤型」及び「直接結合」では「比較例」の数値が小さくなっているので、本願発明に格別予想外の効果が裏付けられているとは解せず、本願発明によって解決される課題、及び本願発明の技術上の意義を、当業者といえども理解できない。』という不備を指摘し、
理由4の「4.(11)」の不備として、『(11)特許法第36条第6項第1号に規定する「サポート要件」の適否については、『特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであり,明細書のサポート要件の存在は,特許出願人…が証明責任を負うと解するのが相当である。』とされている〔平成17年(行ケ)10042号判決参照。〕。 そこで、本願請求項1?16に記載された事項により特定されるもの全てが、発明の詳細な説明に記載された発明で、本願明細書の段落0008に記載された「本発明の課題は、特に金属支持体上での著しく良好な接着強さ、および特に自動車組立に用いられた場合の、冷却水の攻撃に対する著しく良好な耐性を有する、水性エラストマーコーティング組成物および該エラストマーコーティング組成物でコーティングされた物体を提供することである。」との本願所定の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かについて以下に検討する。…上記4.(10)において指摘したように、本願明細書の段落0047の表8に記載された結果は、具体的にどのような組成のエラストマーコーティング組成物(なお、例3については、各成分の配合量を曖昧な数値範囲で規定しているにすぎず、明確な特定の数値の配合量は明らかにされていない。)について、どのような試験を行った結果であるのか不明確であり、少なくとも「金属支持体上での著しく良好な接着強さ」及び「冷却水の攻撃に対する著しく良好な耐性」という本願所定の課題を解決し得ることを裏付ける比較実験データに相当するものではないことは明らかであるから、「特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のもの」であるとは認められず、「特許請求の範囲に記載された発明が、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のもの」であるとも認められない。よって、本願請求項1?16は、特許法第36条第6項第1号の規定に適合しない。』という不備を指摘している。

これに対し、審判請求人は、平成23年1月6日付けの意見書において、『〔4〕理由4、5について 今般補正により、請求項1における各成分及びその含有割合を実施例のものに整合させたことにより、記載不備は全て解消されるものと思料します。よって、補正後の本願には理由4、5も存在しないと思料します』と主張するにとどまり、理由5の「4.(3)」において指摘した「具体例は、各成分の配合量について、具体的な数値を明らかにするものでなく」という不備、並びに理由5の「4.(10)」及び理由4の「4.(11)」において指摘した「段落0047の表8に記載された結果」に関する不備については、具体的な主張ないし釈明がなされていない。

しかして、本願明細書の表2に示される「例1」及び表4に示される「例3」のものは本願発明の具体例に相当し、本願明細書の表1に示される「比較例」、表3に示される「例2」及び表5に示される「例4」のものは本願発明の具体例に相当しないところ、当該「例1」及び「例3」のものは、いずれも『各成分の配合量を曖昧な数値範囲で規定しているにすぎず、明確な特定の数値の配合量は明らかにされていない』ものであり、表8には「ラテックスコンパウンド例3」と「ラテックスコンパウンド比較例」との比較結果が示されているものの、当該「表8」に記載された結果については理由5の「4.(10)」に指摘したとおりの不備があり、この点に関して然るべき主張ないし釈明が意見書になされていないことは前記のとおりである。
このため、本願発明が具体的にどのような「効果」を有するのか、その技術上の意義を理解することできないという点において、委任省令要件に関する理由5の「4.(10)」の不備は依然として解消しておらず、「例1」及び「例3」の具体例が曖昧な数値範囲で示されており、本願所定の課題が具体的にどのような手段で解決され得るのか、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に発明の開示がなされていないという点において、実施可能要件に関する理由5の「4.(3)」の不備も依然として解消しておらず、明細書のサポート要件の存在は、審判請求人が証明責任を負うと解するのが相当であるところ、本願発明が本願所定の課題を解決できると認識できる範囲にあることについての立証がなされていないという点において、サポート要件に関する理由4の「4.(11)」の不備も依然として解消していない。

してみると、本願明細書の段落0029の表2及び同0033の表4に記載された「例1」及び「例3」の具体例は、各成分の配合量について、具体的な数値を明らかにするものではないから、当業者といえども過度の試行錯誤をしなければ本願発明の実施をすることができず、本願発明が産業上利用できる発明として実際に完成し、本願所定の課題を解決し得るのか否かを検証することさえも不可能であり、本願明細書の段落0047の表8の記載内容が不明確であることも相俟って、本願発明によって解決される課題、及び本願発明の技術上の意義を、当業者といえども理解できないから、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。
また、明細書のサポート要件の存在は、審判請求人が証明責任を負うと解するのが相当であるところ、本願明細書の発明の詳細な説明には、委任省令要件及び実施可能要件を満たし得る程度の開示がないことは前記のとおりであり、本願発明が、本願明細書の発明の詳細な説明の記載ないし出願時の技術常識に照らし、本願所定の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとは認められないので、補正後の請求項1及びその従属項の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定に適合するものではない。

したがって、本願は、委任省令要件、実施可能要件、及びサポート要件を満たしていないから、特許法第36条第4項及び第6項に規定する要件を満たしていない。

5.理由1?2について
(1)引用文献及びその記載事項
ア.審判合議体による拒絶理由通知において「刊行物1」として引用された本願優先権主張日前に頒布された刊行物である「特開昭56-28249号公報」には次の記載がある。

摘記1a:請求項1?2
「1.フツ素ゴムの水性デイスパージョンに、一般式…で表されるアミノシラン化合物を配合してなるフツ素ゴム水性塗料。
2.アミノシラン化合物をフッ素ゴム100重量部当り1?30重量部の割合で配合してなる特許請求の範囲第1項記載の塗料。」

摘記1b:第2頁左下欄第13行?右下欄第1行
「従来フツ素ゴムの水性デイスパージョンにポリアミン化合物(例えば…N,N-ジシンナミリデン-1,6-ヘキサンジアミンなど)を加硫剤として用いるフツ素ゴムの水性塗料は知られているが、…予め接着性を高めるための予備処理(例えば金属表面などをプラスト処理して粗面化する。)を行い、さらに適当な接着剤を用いる必要があった。」

摘記1c:第3頁右上欄第7行?右下欄第5行
「本発明で用いられる前記一般式に示される分子末端にアミノ基を結合する特定のアミノシラン化合物は、フツ素ゴムの加硫剤としての機能を果たすと共に、基材との接着性の向上にも大きく寄与するものとみられ、水性媒体に対しても安全に用いられるものである。その代表的化合物を例示すると、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン…などが挙げられる。…(必要に応じさらに界面活性剤を用いてもよい。)…アミノシラン化合物の添加量は、通常、フツ素ゴム100重量部当り1?30重量部、好ましくは5?15重量部の範囲である。前記受酸剤としては、…マグネシウム、カルシウム、亜鉛、鉛などの酸化物または水酸化物が例示される。また、前記充填剤としてはシリカ、クレー、珪藻土、タルク、カーボンなどが用いられる。」

摘記1d:第4頁左上欄第6行?左下欄末行
「実施例1?4および比較例1?3
(塗膜の描画試験)
次に示すA液およびB液を所定の割合で均一混合した後、200メッシュの金網で濾別精製してフツ素ゴム水性塗料を得た。
A液
フツ素ゴム水性デイスパージョン
(フツ素ゴム含有量60重量%、ノニオンHS208を含む。)…166部
酸化マグネシウム … 5部
ミデイアム・サーマルカーボン … 30部
ノニオンHS208 … 2部
水 … 50部
B液
アミノシラン化合物 … 90部
重量比
酸化マグネシウム … 3 ┐
ミデイアム・サーマルカーボン 20 ├ … 10部
ノニオンHS208 … 2 │
水 … 50 ┘
A液とB液の重量混合比
A液:B液=100:5
一方、長さ100mm、巾50mm、厚さ1mmのアルミニウム板をアセトン洗浄により脱脂処理した。この脱脂処理したアルミニウム板面に上記塗料をスプレー塗装し、ついで50?70℃で10分間乾燥を行つた。更に同様のスプレー塗装および乾燥工程を計3回繰返し、膜厚100?150μの塗膜を形成した。…なお、比較のためにアミノシラン化合物の代わりにポリアミン化合物を使用した場合について上記と同様に試験し、得られた結果を第1表に示す。
第1表 アミノシラン化合物 描画試験結果
実施例1 A-1100 5 …
(注)
○界面活性剤
ノニオンHS208 …日本油脂社製(20重量%水溶液)
○アミノシラン化合物
A-1100 …NH_(2)CH_(2)CH_(2)CH_(2)Si(OCH_(2)CH_(3))_(3)」

摘記1e:第6頁左上欄第4?10行
「得られたフツ素ゴム塗料を300mlの蓋付ガラス瓶に入れ、24℃で静置して、ポツトライフを調べた。その結果、水性型の実施例9の塗料は静置後30日で固形分がゲル化を起し、…比較例5の溶剤型の塗料は…約8時間で全体がゲル状を呈し」

イ.審判合議体による拒絶理由通知において「刊行物2」として引用された本願優先権主張日前に頒布された刊行物である「特開平7-18248号公報」には次の記載がある。

摘記2a:段落0021
「本発明のガスケット用材料において、フッ素ゴムの加硫ゴムコート層を形成させる際、充填剤としてのけい酸カルシウムおよび含水シリカと受酸剤としての酸化マグネシウムとを組み合わせて用いることにより、高温の不凍液に長時間浸漬した場合でも、フッ素ゴムの膨潤劣化が少なくなり、逆に硬さが上昇する傾向がみられる。これは、充填剤成分が水分の存在により水和反応を起こし、その結果としてゴムコート層の強度アップが図られたものと考えられる。」

ウ.審判合議体による拒絶理由通知において「刊行物4」として引用された本願優先権主張日前に頒布された刊行物である「特開平8-231768号公報」には次の記載がある。

摘記4a:段落0015
「本発明において不飽和ニトリル-ブタジエン-イソプレン三元共重合体ゴム(NBIR)に配合する補強性充填剤としては、NBIRに配合したとき補強効果を示すものが好ましく用いられる。そのような補強性充填剤の具体例としては、カーボンブラック;粒径10?15ミクロンの超微細嵩高白色粉末状のけい酸、けい酸塩、無水けい酸塩、含水けい酸および合成けい酸塩などのシリカ;活性化炭酸カルシウム、特殊炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウムなどの炭酸カルシウム;塩基性炭酸マグネシウム;超微粉けい酸マグネシウム;ハードクレー;タルク;けいそう土;アルミナなどが挙げられる。これらの中ではシリカが好ましい。」

摘記4b:段落0030?0031
「 実施例1 …
共重合体 アクリルニトリル量 38 …
ブタジエン/イソプレン 45/55 …
補強性充填剤 ニプシルVN-3 40 …
ZnO 5 …
硫黄 0.5 …
耐油性 体積変化率(%) 13 …
注*1:補強性充填剤成分(シリカ)
(1)ニプシルVN-3(日本シリカ製、湿式方シリカ)」

(2)刊行物1に記載された発明
刊行物1の「実施例1」のものは、摘記1d及び1cからみて、A液とB液を100対5の割合で混合した「フツ素ゴム水性塗料」であって、A液の組成の合計量253部(=166+5+30+2+50)に対するB液の組成の合計量は12.65部であり、フツ素ゴム含有量60重量%のフツ素ゴム水性デイスパージョン166部(フツ素ゴム量は166部×0.6=100部)に対して、アミノシラン化合物(B液中の12.65×0.9)約11部、酸化マグネシウム(A液中の5部×とB液中の12.65×0.1×3÷75=0.05部)約5部、ミディアム・サーマルカーボン(A液中の30部とB液中の12.65×0.1×20÷75=0.34部)約30部、ノニオンHS208(A液中の2部は、フツ素ゴム水性デイスパージョンの中に含まれるものを含めた量を意味するものと推定され、これとB液中の12.65×0.1×2÷75=0.03部)約2部、水(A液中の50部と、フツ素ゴム水性デイスパージョンを構成する残りの66部と、B液中の12.65×0.1×50÷75=0.84部)約117部を配合してなるものである。
そして、摘記1cの「充填剤としてはシリカ、クレー、珪藻土、タルク、カーボンなどが用いられる。」との記載からみて、前記「実施例1」のものの「ミディアム・サーマルカーボン」は「充填剤」としてのものであって、当該「充填剤」の選択肢は「カーボン」に限られるものではなく、
摘記1cの「本発明で用いられる…アミノシラン化合物は、フツ素ゴムの加硫剤としての機能を果たすと共に、基材との接着性の向上にも大きく寄与する」との記載からみて、前記「実施例1」のものの「アミノシラン化合物」はフッ素ゴムの「加硫剤」としてのものであり、
摘記1aの「アミノシラン化合物をフッ素ゴム100重量部当り1?30重量部の割合で配合」との記載からみて、刊行物1に記載された発明の「アミノシラン化合物」は、前記「実施例1」のものの「約11部」という配合量に限られるものではなく、
摘記1cの「受酸剤としては、…マグネシウム、カルシウム、亜鉛、鉛などの酸化物または水酸化物が例示される。」との記載からみて、前記「実施例1」のものの「酸化マグネシウム」は「受酸剤」としてのものであって、当該「受酸剤」の選択肢は「酸化マグネシウム」に限られるものではない。
してみると、刊行物1には、『a)フツ素ゴム100部に対して、b)シリカ、クレー、珪藻土、タルク、カーボンなどの充填剤約30部、c)フツ素ゴムの加硫剤(アミノシラン化合物)約1?30部、d1)マグネシウム、カルシウム、亜鉛、鉛などの酸化物の受酸剤約5部、d2)界面活性剤約2部、及びe)水約117部とからなる、フツ素ゴム水性塗料。』についての発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

(3)対比・判断
本願発明と引用発明とを比較する。
引用発明の「a)フツ素ゴム100部」は、本願発明の「乾燥重量の、a)フッ素ゴムからなるポリマーラテックス100phr」に相当し、
引用発明の「b)シリカ、クレー、珪藻土、タルク、カーボンなどの充填剤約30部」は、そのうちの「シリカ」について、摘記4aの「けい酸、けい酸塩、無水けい酸塩、含水けい酸および合成けい酸塩などのシリカ」との記載にあるように、一般的に「シリカ」は「ケイ酸塩」の一種に含まれること、及び「シリケート」と「ケイ酸塩」が同義であることから、本願発明の「b)シリケートからなる鉱物性充填剤を5?400phr」に相当し、
引用発明の「c)フツ素ゴムの加硫剤(アミノシラン化合物)約1?30部」は、その「加硫剤」が本願発明の「架橋剤」に相当し、その「アミノシラン化合物」が本願発明の「アミン系の架橋物質」に相当することから、本願発明の「c)アミン系の架橋物質からなる架橋剤を1?6phr」に相当し、
引用発明の「d1)マグネシウム、カルシウム、亜鉛、鉛などの酸化物の受酸剤約5部」は、そのうちの「亜鉛…の酸化物」が「ZnO」で表記されることから、本願発明の「d)ZnOからなる酸捕捉剤を3?20phr」に相当し、
ここで、引用発明の「d2)界面活性剤約2部」については、本願発明の発明特定事項が「含有」として記載されていること、並びに本願発明の具体例に相当する「例1」及び「例3」のものが本願明細書の段落0030及び0034に記載されるように「界面活性剤」を配合するものであることからみて、引用発明において「界面活性剤」が配合されている点は、本願発明の発明特定事項との対比において相違点を構成するものではなく、
引用発明の「e)水約117部」は、本願発明の「e)エラストマーコーティング組成物の分散媒としての水を400phr以下」に相当し、
引用発明の「フツ素ゴム水性塗料。」は、その「ゴム」が本願発明の「エラストマー」に相当し、その「塗料」が本願発明の「コーティング組成物」に相当することから、本願発明の「水性エラストマーコーティング組成物」に相当する。
してみると、本願発明と引用発明は、「乾燥重量の、a)フッ素ゴムからなるポリマーラテックス100phrに対して、b)シリケートからなる鉱物性充填剤を5?400phr、c)アミン系の架橋物質からなる架橋剤を1?6phr、d)ZnOからなる酸捕捉剤を3?20phr、及びe)エラストマーコーティング組成物の分散媒としての水を400phr以下含有している水性エラストマーコーティング組成物。」という点で一致し、
組成物の組成が、本願発明が「カーボンブラックを含有していない」ものであるのに対して、引用発明は「カーボンブラックを含有していない」ものであると明示するものではない点において一応相違する。

そこで、上記相違点について検討する。

刊行物1の請求項1に記載された発明は、摘記1aに示されるように、カーボンなどの充填剤を必須とするものではないから、刊行物1に記載された実施例1のものが「カーボン」を含有していたとしても、引用発明を含む刊行物1に記載された発明のすべてが「カーボンブラックを含有する」ものであるとは解せない。
また、刊行物1の記載を総合しても、刊行物1に記載された発明が「カーボンブラックを含有していない」ものではないと解すべき特段の事情も見当たらない。
そして、上記認定した引用発明の「シリカ、クレー、珪藻土、タルク、カーボンなどの充填剤」という選択肢のうち、「シリカ」のみを選択した場合においては、引用発明は必然的に「カーボンブラックを含有していない」という事項を満たすものになる。
してみると、本願発明は、発明特定事項において、刊行物1に記載された発明と区別できない。

したがって、本願発明は、本願優先権主張日前に頒布された刊行物である刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許を受けることができないものである。

次に、仮に「カーボンブラックを含有していない」という点において、本願発明と引用発明に相違点があるものとして、本願発明に進歩性があるか否かについて検討する。

刊行物4には、ゴム組成物に配合される補強性充填剤の選択肢として「カーボンブラック」と「合成けい酸塩などのシリカ」が列挙されており、その中でも「シリカが好ましい」との記載がある(摘記4a)。そして、その実施例1のものにおいては、補強性充填剤成分として「シリカ」のみを用いることによって「耐油性」に優れたゴム組成物が得られることが記載されている(摘記4b)。
また、刊行物2には、フッ素ゴムの加硫ゴムコート相を形成させる際、充填剤として「けい酸カルシウムおよび含水シリカ」を用いることにより、充填剤成分が水分の存在により水和反応を起こし、その結果としてゴムコート層の強度アップが図られ、高温の不凍液に長時間浸漬した場合でも、フッ素ゴムの膨潤劣化が少なくなり、硬さが上昇する傾向が得られることが記載されている(摘記2a)
してみると、充填剤として「カーボンブラック」を用いずに「シリカ」などのケイ酸塩のみを使用することは周知ないし刊行物公知であり、また、充填剤として「シリカ」などのケイ酸塩を用いた場合には補強性や耐油性の点で好ましいことも周知ないし刊行物公知であると認められるから、引用発明の「シリカ、クレー、珪藻土、タルク、カーボンなどの充填剤」という充填剤についての選択肢のうち、「シリカ」のみを用いて、「カーボンブラックを含有していない」という構成にすることは、当業者にとって格別困難なことではなく、本願発明に格別予想外の顕著な効果があるとも認められない。

したがって、本願発明は、刊行物1に記載された発明(並びに刊行物2及び4に記載された発明ないし技術常識)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許をうけることができないものである。

なお、平成23年1月6日付けの意見書において、審判請求人は、『刊行物1は、補正後の本願の「カーボンブラックを含有していない」組成物を開示も示唆もしていなせん。』と主張しているが、この点について、実質的に差異がないこと、或いは当業者にとって容易であることについては、上記に検討したとおりである。

4.まとめ
以上総括するに、本願発明は特許法第29条の規定により特許を受けることができないものであり、また、本願は特許法第36条第4項及び第6項に規定する要件を満たしていないものであるから、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-02-18 
結審通知日 2011-02-22 
審決日 2011-03-07 
出願番号 特願2001-561109(P2001-561109)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (C09D)
P 1 8・ 536- WZ (C09D)
P 1 8・ 121- WZ (C09D)
P 1 8・ 113- WZ (C09D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 安藤 達也山田 泰之  
特許庁審判長 西川 和子
特許庁審判官 井上 千弥子
木村 敏康
発明の名称 水性エラストマーコーティング組成物及びこの組成物でコーティングされた物体  
代理人 古谷 聡  
代理人 溝部 孝彦  

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