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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C07C
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C07C
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C07C
管理番号 1240459
審判番号 不服2007-26810  
総通号数 141 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-09-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-10-01 
確定日 2011-07-19 
事件の表示 特願2000-580973「α-メチレン-β-ヒドロキシ酸エステル誘導体の製造方法と使用」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 5月18日国際公開、WO00/27793、平成14年 9月10日国内公表、特表2002-529438〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、1999年10月6日〔パリ条約による優先権主張外国庁受理 1998年11月6日 米国(US)〕を国際出願日とする出願であって、平成19年6月28日付けで拒絶査定がなされたところ、平成19年10月1日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、平成19年10月29日付けで手続補正がなされ、その後、平成22年5月25日付けの審尋に対し、指定期間内に回答書の提出がなされなかったものである。

2.平成19年10月29日付け手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成19年10月29日付け手続補正を却下する。

[理由]
(1)補正の内容
平成19年10月29日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)は、補正前の請求項15に記載された
「助触媒を用いて、エチレンを触媒重合又は触媒共重合する方法において、
助触媒として、少なくとも1種のエステルの誘導体であって、
下記式IaまたはIbで示されるエステルを、
【化7】



(式中、
nは、所与のR^(1)またはR^(5)の結合能を超えない1から4の整数であり、
-Eは、
【化8】


であり、
-G-は、
【化9】


であり、
X^(1)、X^(2)およびX^(3)は、ハロゲン、アルキル、アルコキシ、アルケニル、アリール、アリールオキシ、シアノ、および水素からなる群より独立に選択され、
R^(1)は、水素、アルキル、アルカリール、アラールキル、ハロアルキル、ハロアリール、ハロアルカリール、ハロアラールキル、アルケニル、シクロアルキル、アミノ、キサンタニル、スルフィニル、スルホニル、アリール、アシル、オキシアリール、およびアロイルからなる群より選択され、
R^(2)は、水素、ハロゲン、アルキル、アルコキシ、アルケニル、アリールオキシ、シクロアルキルまたは-COOR^(6)(式中、R^(6)は、アルキル、アルケニル、シクロアルキル、アラールキルまたはアリールである)からなる群より選択され、
R^(3)およびR^(4)は、水素、ハロゲン、ヒドロキシ、アルキル、アルコキシ、アシルオキシ、シクロアルキル、アリールオキシ、アラールキル、およびアリールからなる群より独立に選択され、
R^(5)は、水素、アルキル、アルカリール、アラールキル、ハロアルキル、ハロアリール、ハロアルカリール、ハロアラールキル、アルケニル、シクロアルキル、アリール、キサンタニル、スルフィニル、スルホニル、アシル、オキシアリール、およびアロイルからなる群より選択され、
Aは、酸素、硫黄、およびNR^(7)(式中、R^(7)は、水素、アルキル、アルカリール、アラールキル、ハロアルキル、ハロアリール、ハロアルカリール、ハロアラールキル、アルケニル、シクロアルキル、およびアリールからなる群より選択される)からなる群より選択される)
A) 少なくとも一種のルイス酸または塩基と、または
B) 遷移金属またはそれらの酸化物からなる群より選択される触媒の存在下において、水素と、または
C) アルキルアルミニウム類、アルキル水素化物、および可溶性のニッケルまたはパラジウム塩からなる群より選択される少なくとも一種の可溶性触媒と、
反応させることにより合成される誘導体を助触媒として使用することを特徴とする、上記方法。」を、補正後の請求項5において、
「助触媒を用いて、エチレンを触媒重合又は触媒共重合する方法において、
助触媒として、
下記式IaまたはIbで示されるエステルを、
【化5】



(式中、
nは、所与のR^(1)またはR^(5)の結合能を超えない1から4の整数であり、
-Eは、
【化6】


であり、
-G-は、
【化7】


であり、
X^(1)、X^(2)およびX^(3)は、ハロゲン、アルキル、アルコキシ、アルケニル、アリール、アリールオキシ、シアノ、および水素からなる群より独立に選択され、
R^(1)は、水素、アルキル、アルカリール、アラールキル、ハロアルキル、ハロアリール、ハロアルカリール、ハロアラールキル、アルケニル、シクロアルキル、アミノ、キサンタニル、スルフィニル、スルホニル、アリール、アシル、オキシアリール、およびアロイルからなる群より選択され、
R^(2)は、水素、ハロゲン、アルキル、アルコキシ、アルケニル、アリールオキシ、シクロアルキルまたは-COOR^(6)(式中、R^(6)は、アルキル、アルケニル、シクロアルキル、アラールキルまたはアリールである)からなる群より選択され、
R^(3)およびR^(4)は、水素、ハロゲン、ヒドロキシ、アルキル、アルコキシ、アシルオキシ、シクロアルキル、アリールオキシ、アラールキル、およびアリールからなる群より独立に選択され、
R^(5)は、水素、アルキル、アルカリール、アラールキル、ハロアルキル、ハロアリール、ハロアルカリール、ハロアラールキル、アルケニル、シクロアルキル、アリール、キサンタニル、スルフィニル、スルホニル、アシル、オキシアリール、およびアロイルからなる群より選択され、
Aは、酸素、硫黄、およびNR^(7)(式中、R^(7)は、水素、アルキル、アルカリール、アラールキル、ハロアルキル、ハロアリール、ハロアルカリール、ハロアラールキル、アルケニル、シクロアルキル、およびアリールからなる群より選択される)からなる群より選択される)
遷移金属またはそれらの酸化物からなる群より選択される触媒の存在下において、水素と反応させることにより合成される下記構造式
【化8】

を有する誘導体を助触媒として使用することを特徴とする、上記方法。」
に改める補正を含むものである。

(2)補正の適否
ア.はじめに
上記補正は、補正前の請求項15に記載された「A)少なくとも一種のルイス酸または塩基と、または B)遷移金属またはそれらの酸化物からなる群より選択される触媒の存在下において、水素と、または C)アルキルアルミニウム類、アルキル水素化物、および可溶性のニッケルまたはパラジウム塩からなる群より選択される少なくとも一種の可溶性触媒と、反応させる」という発明特定事項を、補正後の請求項5の記載において「遷移金属またはそれらの酸化物からなる群より選択される触媒の存在下において、水素と反応させる」という発明特定事項に改める補正を含むものであって、補正前のA)、B)及びC)の選択肢のうち、B)の選択肢のみに限定しているという点において、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする補正を含むものである。
そこで、補正後の請求項5に記載された発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か(同法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか否か)について以下に検討する。

イ.サポート要件について
一般に、『特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであり,明細書のサポート要件の存在は,特許出願人…が証明責任を負うと解するのが相当である。』とされているところ〔平成17年(行ケ)10042号判決参照。〕、補正後の本願明細書の段落0011の「本発明は、オゾン非消尽性原料に基づいた、触媒助触媒として有用なエステルの誘導体を製造する方法を対象とする。」との記載からみて、補正後の請求項5に記載されている事項により特定されるもの全てが、「触媒助触媒として有用なエステル誘導体」という課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かについて以下に検討する。

補正後の本願明細書の段落0059?0069には、例1?例11として特定のエステル化合物の調製に関する具体例が記載され、同段落0062には、例4として補正後の請求項5に記載されている構造式IVaまたはIVbに該当するエステル化合物についての記載がなされているが、これら例1?11は、当該エステル化合物を助触媒として使用した場合の具体例に相当しない。また、同段落0070?0081及び0085?0086には、例12?22及び例23?24として、特定のエステル化合物を助触媒として使用した場合の具体例が記載されているが、これら例12?24において使用されているエステル化合物は、何れも補正後の請求項5に記載されている構造式IVaまたはIVbに該当するエステル化合物ではない。すなわち、補正後の本願明細書の発明の詳細な説明には、補正後の請求項5に記載されている構造式IVaまたはIVbに該当するエステル化合物を助触媒として使用した例が記載されていない。

そして、補正後の本願明細書の段落0017には、「構造式IVaおよびIVbの水素化化合物は、穏やかな加熱下、炭酸水素アルカリ金属塩(例、炭酸水素カリウム)などの穏やかな塩基と反応させ、IIIaおよびIIIbの構造式のα,β-不飽和エステル類を高収率で得ることができる。」との記載があり、同段落0049には、「触媒効率を強化および/または重合体分子量を調節するため、1種類以上の触媒活性化剤、または助触媒がしばしば使用される。上述した製造法で調製される不飽和エステルまたは化学式Ia、Ib、IIa、IIb、IIIa、およびIIIbで表されるそれらの誘導体は、エチレンの重合およびエチレンとα-オレフィンと(所望により)ポリエンとの共重合において、触媒助触媒として使用可能である。」との記載があるところ、補正後の本願明細書の発明の詳細な説明には、化学式Ia、Ib、IIa、IIb、IIIa、及びIIIbで表されるエステル誘導体については、触媒助触媒として有用なエステル誘導体であるとして記載されてはいるものの、少なくとも構造式IVa及びIVbで表されるエステル誘導体については、これが触媒助触媒として有効に作用することの科学的な理論ないし技術的な根拠が明確かつ十分に記載されていない。

加えて、補正後の請求項5に記載された構造式IVa及びIVbについては、その-G-の部分のAが酸素以外のものである場合に「エステルの誘導体」の定義に当てはまらないという点において技術的に成立し得ないものであることはさておき、Aが「エステルの誘導体」を構成し得ない硫黄及びNR^(7)である場合のもの、X^(1)、X^(2)及びX^(3)がハロゲンでない場合のもの、R^(3)又はR^(4)がヒドロキシである場合のものについては、これらが触媒助触媒として有効に作用することの科学的な理論ないし技術的な根拠が、補正後の本願明細書の発明の詳細な説明に明確かつ十分に記載されていない。
同様に、例12?24において使用されているエステル化合物は、何れもバナジウムオキシトリクロリド(VOCl_(3))と併用した場合に助触媒として機能し得ているものであるところ、構造式IVa及びIVbで表されるエステル誘導体が、バナジウム化合物以外の触媒に対して助触媒として機能し得ることについては、その根拠ないし理論が、補正後の本願明細書の発明の詳細な説明に明確かつ十分に記載されているものでもなく、また、nが2?4である式IaまたはIbで示されるエステルから構造式IVa及びIVbのエステル誘導体が実際に製造できることについても、その根拠ないし理論が、補正後の本願明細書の発明の詳細な説明に明確かつ十分に記載されていない。

してみると、補正後の請求項5に記載されている事項により特定されるもの全てが「発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである」と認めることはできない。

また、平成17年9月22日付けの拒絶理由通知書において提示された引用文献1(国際公開第97/43243号パンフレット)の第8頁第30行の化学式の記載や、引用文献3(特開昭59-130226号公報)の第10頁左下欄第1?3行の「2-メチル-4,4,4-トリクロロ-2-ブテン酸n-ブチル(BMTB)」との記載からみて、補正後の本願明細書に記載された「例8 ブチル2-メチル-4,4,4-トリクロロブタ-2-エノアート」と合致するエステルの誘導体は「BMTB」という略称で普通に知られた化学物質であると認められるところ、当該「BMTB」及びこれに酷似するエステルの誘導体がバナジウム触媒を用いたEPDMの生産において助触媒として有効に作用し得ることが当業者にとって技術常識の範囲内にあると仮定したとしても、補正後の本願請求項5に記載された構造式IVa及びIVbのエステルの誘導体は、メチレン構造を有していないという点において当該「BMTB」と化学的な特徴が著しく異なっており、その置換基の定義範囲も当該「BMTB」から一般化し得ない広範な範囲にわたっており、その他に補正後の請求項5に記載された発明の全てが、技術思想の創作として実際に成立し、本願所定の課題を解決できると認識できる範囲のものであると認めるに足るような技術常識も見当たらないことから、補正後の請求項5に記載されている事項により特定されるもの全てが「その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである」と認めることはできない。

なお、明細書のサポート要件の存在は、審判請求人が証明責任を負うと解するのが相当であるところ、平成22年5月25日付けの審尋において、上記の指摘と同様の理由により、補正後の請求項5に記載されている事項により特定されるもの全てが本願所定の課題を解決できると認識できる範囲のものではないとする平成19年12月10日付けの前置報告書の内容を提示して、これに対する審判請求人の意見を求めたが、当該審尋に対しては指定期間内に回答がなかったものである。

したがって、補正後の請求項5に記載されている事項により特定されるもの全てが本願所定の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとは認められず、補正後の請求項5の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、補正後の請求項5に記載された特許を受けようとする発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

(3)まとめ
以上総括するに、上記補正は、独立特許要件違反があるという点において平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、本件補正は、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
(1)本願発明
平成19年10月29日付け手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?35に係る発明は、平成18年3月27日付け手続補正により補正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?35に記載された事項により特定されるとおりのものである。

(2)原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、「この出願については、平成17年9月22日付け拒絶理由通知書に記載した理由A、B、Eによって、拒絶をすべきものである。」というものであって、理由Bとして、「この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。」という理由が示されている。
そして、平成17年9月22日付け拒絶理由通知書においては、当該「下記の請求項」として「請求項1-7、9-11、13、14」が示されるとともに、当該「下記の刊行物」として「Australian Journal of Chemistry,1989,Vol.42,No.2,P301-314」が「引用文献4」として提示され、備考として「引用文献4には、α-メチレンーβ-ヒドロキシ酸エステルから、対応するα-メチレンーβ-置換-酸エステルを、ルイス酸またはルイス塩基の存在下、製造する方法が記載されている(P302 Scheme2(iii)(iv) (4a)から(5e)(6)を製造する方法 参照)。また、上記記載と同族であって、炭素数の点でのみ異なる化合物を同様の製法に従い製造する方法も、同引用文献記載の発明に基づいて当業者が容易に想到しうるところである。」との指摘がなされており、原査定の備考欄においては「理由B、請求項1-3、5-9、引用文献4」との指摘がなされている。

(3)引用文献4及びその記載事項
原査定の拒絶の理由に提示された引用文献4は、その書誌からみて、本願優先権主張日前の1989年11月2日に頒布された刊行物であると認められる。
そして、その第302頁には、摘記4aとして、次のとおりの機構図が示されている。



そして、上記機構図には、和訳にして、次の記載が認められる。
「スキーム2.…(iv)SOCl_(2)/ピリジン/ベンゼン、還流」

また、その第305頁第6?7行には、摘記4bとして、和訳にして次の記載が認められる。
「しかしながら、構造に変化のない生成物(6)が、塩化チオニル及びピリジンを伴う(4a)の反応において多くを占める。」

(4)引用文献4に記載された発明
摘記4aの特にスキーム2(iv)の記載からみて、引用文献4には、
「 Cl OH O
| | ?
Cl-C-C-C-C-O-Et (4a)
| | ?
Cl H CH_(2)

で示される化合物を、SOCl_(2)/ピリジン/ベンゼン、還流の条件下で反応させる

Cl Cl O
| | ?
Cl-C-C-C-C-O-Et (6)
| | ?
Cl H CH_(2)

で示される化合物の製造方法。」についての発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

(4)本願発明と引用発明との対比・判断
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)と引用発明とを対比するに、
引用発明の「(4a)で示される化合物」は、化学名で表記すると「エチル2-メチレン-3-ヒドロキシ-4,4,4-トリクロロブチラート」になることは技術常識から自明であり、本願発明の式Iaの定義に照らして、nが1、EのX^(1)、X^(2)及びX^(3)がハロゲン(クロロ)、GのAが酸素、R^(1)、R^(2)、R^(3)及びR^(4)が水素、R^(5)がアルキル(エチル)である場合に相当し、
引用発明の「SOCl_(2)」は、化学名で表記すると「塩化チオニル」になることは技術常識から自明であり、本願請求項7の「前記ルイス酸または塩基が、…ハロゲン化チオニル」との記載、及び本願明細書の段落0065の「例7」の具体例において「塩化チオニル」が使用されていることからみて、本願発明の「A)少なくとも一種のルイス酸または塩基」に相当し、
引用発明の「(6)で示される化合物」は、化学名で表記すると「エチル2-メチレン-3,4,4,4-テトラクロロブチラート」になることは技術常識から自明であるとともに、本願明細書の段落0065の「例7…24.4gの粗ブチル2-メチレン-3-ヒドロキシ-4,4,4-トリクロロブチラートに13.2gの過剰量の塩化チオニルを添加し…褐色油状油状物を22.5g得た。NMRから、これが…ブチル2-メチレン-3,4,4,4-テトラクロロブチラートの…混合物であることがわかった。」との記載における生成物の「ブチル2-メチレン-3,4,4,4-テトラクロロブチラート」と酷似する化学構造を有することからみて、本願発明の「エステルの誘導体」に相当し、
引用発明は、「(4a)で示される化合物」を「塩化チオニル」で塩素化させる工程を経て「(6)で示される化合物」を製造しているものであるから、その「(4a)で示される化合物」に「塩化チオニル」を反応させる工程を含んでいることは明らかである。
してみると、本願発明と引用発明は、
「エステルの誘導体の製造方法であって、
式IaまたはIbで示されるエステルを、
【化1】


(式中、
nは、所与のR^(1)またはR^(5)の結合能を超えない1の整数であり、
-Eは、
【化2】


であり、
-G-は、
【化3】


であり、
X^(1)、X^(2)およびX^(3)は、ハロゲンより選択され、
R^(1)は、水素より選択され、
R^(2)は、水素より選択され、
R^(3)およびR^(4)は、水素より選択され、
R^(5)は、アルキルより選択され、
Aは、酸素より選択される)
A) 少なくとも一種のルイス酸または塩基と、
反応させる工程を含む、上記製造方法。」
である点において一致し、両者に相違する点はない。

ここで、平成19年10月29日付けで手続補正された審判請求書の請求の理由において、審判請求人は、「本願拒絶査定において引用されている引用文献4には、塩化チオニル、三臭化リン及びピリジンというルイス酸又は塩基を用いたエステル誘導体の製造方法が記載されています。…今回の補正により、本願に係る発明は、式Ia又はIbのエステルを遷移金属又はそれらの酸化物からなる群より選択される触媒の存在下において、水素と反応させることによる式IVa及びIVbのエステル誘導体の製造方法に関するものとなりました。従いまして、ルイス酸又は塩基を用いる方法である引用文献4は本願発明の進歩性には妥当しなくなったものと資料致します。」と主張しているが、平成19年10月29日付けの手続補正は、上記2.のとおり却下されており、本願発明は、発明特定事項において引用文献4に記載された発明と区別できないことも上述のとおりであるから、審判請求人の当該主張については採用できない。

以上総括するに、本願発明は、引用文献4に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

(5)むすび
したがって、本願発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、その余の理由及びその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-02-23 
結審通知日 2011-02-25 
審決日 2011-03-08 
出願番号 特願2000-580973(P2000-580973)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (C07C)
P 1 8・ 575- Z (C07C)
P 1 8・ 537- Z (C07C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉住 和之穴吹 智子  
特許庁審判長 中田 とし子
特許庁審判官 小出 直也
木村 敏康
発明の名称 α-メチレン-β-ヒドロキシ酸エステル誘導体の製造方法と使用  
代理人 浅村 皓  
代理人 浅村 肇  
代理人 池田 幸弘  
代理人 長沼 暉夫  

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