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審決分類 |
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G11B |
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管理番号 | 1240485 |
審判番号 | 不服2008-5794 |
総通号数 | 141 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2011-09-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2008-03-06 |
確定日 | 2011-07-21 |
事件の表示 | 特願2004- 10071「スタンパの製造方法、光ディスクの製造方法、原盤およびその製造方法、ならびに無機レジスト材料」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 7月28日出願公開、特開2005-203052〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯・本願発明 本件の審判請求に係る特許出願(以下「本願」という。)は、平成16年1月19日に出願したものであって、平成20年3月6日付けで拒絶査定不服審判が請求されると共に、同年4月7日付けで手続補正がなされた。 その後、当審において拒絶理由が通知され、これに対して平成22年12月27日付けで手続補正がなされたものである。 そして、本願請求項1ないし9に係る発明は、平成22年12月27日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定されるものであるところ、請求項1に係る発明は次のとおりのものである。 「【請求項1】 ネガ型の無機レジスト材料を含む無機レジスト膜を基板上に形成する工程と、 上記無機レジスト膜を露光、現像することで上記基板上にレジストパターンを形成し、該レジストパターンからスタンパを形成する工程と を備え、 上記無機レジスト材料が、タングステンおよびモリブデンの酸化物を含むアモルファス無機材料であり、 上記タングステンおよびモリブデンの混合比は、上記無機レジスト材料の酸素含有量が63.3at%であるときに、ポジ型として振る舞うように選択されており、 上記無機レジスト材料の酸素含有量が、72ないし74at.%であるスタンパの製造方法。」 2.当審が通知した拒絶理由 当審が通知した拒絶理由は本願明細書の記載が不備であるため、特許法第36条第4項第1号及び第6項第1号に規定する要件を満たしていないというものであり、具体的には次の事項を指摘した。 本願明細書には、レジスト材料の酸素含有量が71.5at%を境に、それより低い場合にはポジ型であり、72ないし74at%の範囲でネガ型であること、タングステンとモリブデンの混合割合はそれぞれのターゲットに対する投入電力を変えることによって制御可能であること、各実施例及び比較例において、それぞれ投入電力が1.0kW、0.19kWであることが記載されているが、各実施例(及び比較例)におけるタングステンとモリブデンの混合割合については、何ら記載されていない。 一方、本願明細書の段落【0015】の提示文献「特開2003-315988号公報」によれば、タングステンの不完全酸化物(W_(1-X)O_(X)、x=0.63)からなるレジスト材料は、ポジティブタイプのレジストとなり(実施例1)、モリブデンの不完全酸化物(M_(1-X)O_(X)、x=0.59)は、ネガティブタイプのレジスト材料となる(実施例2)。いずれもx=0.75が完全酸化物を表す。そして、タングステンとモリブデンの80対20の混合物は、酸素濃度60at.%でポジティブタイプのレジストとなっている。(実施例3) 上記文献の記載事項からみて、タングステンおよびモリブデンの混合不完全酸化物が、ネガ型、ポジ型のいずれのレジストになるのか、あるいは、レジストたり得ないのかは、タングステンとモリブデンの混合比によっても影響されると推認できる。 しかし、本願明細書には、各実施例(及び比較例)において、投入される電力比について1つの例(1.0kW、0.19kW)が記載されているにとどまり、かかる電力比で成膜された場合の混合比において、酸素濃度が72ないし74at%の範囲でネガ型であるとしても、タングステンとモリブデンの混合比が異なる場合、例えばタングステン95:モリブデン5?タングステン5:モリブデン95の範囲においても、同じ酸素濃度の範囲であれば、タングステンとモリブデンの混合比にかかわりなくネガ型となるか否かについて、本願明細書には何ら記載されていない。 また、発明の詳細な説明にはタングステンとモリブデンの具体的な混合比は全く記載されておらず、使用する装置、成膜条件、ターゲットの状態等によって、同じ電力比であっても生成するレジスト層におけるタングステンとモリブデンの混合比が一定であるか否かは不明であるから、本願発明を実施しようとする場合、タングステンとモリブデンの混合比を変えつつ酸素濃度を所定の範囲として試行錯誤を繰り返さなければ、所定の酸素濃度の範囲でネガ型となるタングステンとモリブデンの混合比を求めることができないと解される。 3.当審の判断 そこで、上記拒絶理由で指摘した事項について検討する。 平成22年12月27日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲及び明細書についてするものであって、「タングステンおよびモリブデン」について、「上記タングステンおよびモリブデンの混合比は、上記無機レジスト材料の酸素含有量が63.3at%であるときに、ポジ型として振る舞うように選択されており」との事項を付加したものである。 ところで、審判請求人は当審拒絶理由通知に対する意見書において、 「特開2003-315988号公報等には、酸素含有量63.3%の近傍であるポジ型となるタングステンとモリブデンの混合比が記載されており、これらの特許技術文献等の記載を考慮すれば、試行錯誤を繰り返さなくとも、所定の酸素濃度の範囲でネガ型となるタングステンとモリブデンの混合比を求めることができるものと解します。 したがって、本願明細書の発明の詳細な説明は、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものということができるものと思料致します。」旨主張している。 そこで、上記特開2003-315988号公報の記載事項について検討するに、段落【0078】【実施例】以下において、 <実施例1>タングステンの不完全酸化物(組成割合W_(1-X)O_(X)でx=0.63)…ポジ型 <実施例2>モリブデンの不完全酸化物(組成割合Mo_(1-X)O_(X)でx=0.59)…ネガ型 <実施例3>タングステンとモリブデンとの比率80:20の不完全酸化物(酸素含有量 60at.%)…ポジ型 の各実施例が記載されている。 要するに、モリブデンの割合が0に相当するタングステン単体の不完全酸化物はポジ型であり、タングステンの割合が0に相当するモリブデン単体の不完全酸化物はネガ型であり、そして、タングステンとモリブデンの割合が80:20であるタングステンとモリブデンの不完全酸化物はポジ型てあるから、タングステンとモリブデンの不完全酸化物は、その酸素含有量のみならず混合割合によってもポジ型やネガ型になり得るものと予想できる。 一方、本願明細書の発明の詳細な説明には、タングステンとモリブデンの不完全酸化物からなる無機レジスト材料について、次の事項が記載されている。 ア.「【0029】この発明は、特許文献1(特開2003-315988号公報)と同様の遷移金属、特に、タングステン(W)ならびにモリブデン(Mo)の酸化物からなる無機レジスト材料において、ガラス原盤あるいはシリコンウェハー等の基体上にアルゴンならびに酸素の混合ガスを用いた反応性スパッタリングにより作製する際、酸素の流量比を適当に選択することによりネガ型の無機レジスト材料が得られることに注目して案出されたものである。」 イ.「【0042】シリコン基板31は、基板ホルダーに取り付けられ基板ホルダー上で自転運動する。また基板ホルダーはスパッタ装置内で回転(公転)する構造となっており、タングステンWならびにモリブデンMoのカソードを放電させた状態でシリコン基板31を自公転させることにより、合金膜を被着させることができる。また、混合割合はそれぞれの投入電力を変えることにより制御することが可能である。 【0043】このとき成膜ガスにアルゴン(Ar)ならびに酸素(O_(2))を導入することで、タングステン(W)ならびにモリブデン(Mo)の酸化物からなる無機レジスト材料を得ることができる。また、成膜ガス中の酸素濃度を変えることにより、遷移金属の不完全酸化物の酸化度合いを制御することが可能である。」 ウ.「【0083】図8に示すように、無機レジスト層製膜時の酸素導入量を15%とした比較例1のサンプルでは露光部が現像液に選択的に溶解し、ポジ型のレジストとして振舞うことが確認された。比較例1のサンプル膜中の酸素含有量をXMA(X-ray Micro Analyzer)にて組成分析を行なったところ、63.3at.%を示した。」 上記記載から、タングステンとモリブデンの混合割合はそれぞれの投入電力を変えることにより制御可能であり、また、一の混合割合において酸素含有量が63.3at.%であるタングステンとモリブデン不完全酸化物はポジ型であることは理解できる。 しかしながら、酸素含有量とタングステン・モリブデンの混合割合との間に特段の関連性があるわけでもなく、単にタングステンとモリブデンの混合割合は投入電力を変えることにより制御可能としているのみであるから、酸素含有量63.3%(の近傍)でポジ型となるタングステンとモリブデンの不完全酸化物が存在するとしても「無機レジスト材料の酸素含有量が63.3at%であるときに、ポジ型として振る舞うように選択されており」との要件によりタングステンとモリブデンの混合比を、当業者といえども容易に求められるとは認められない。 したがって、本願明細書の発明の詳細な説明は、経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるということはできない。 4.むすび 以上のとおりであるから、本願は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2011-05-18 |
結審通知日 | 2011-05-24 |
審決日 | 2011-06-06 |
出願番号 | 特願2004-10071(P2004-10071) |
審決分類 |
P
1
8・
536-
WZ
(G11B)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 山下 達也、山崎 達也 |
特許庁審判長 |
小松 正 |
特許庁審判官 |
関谷 隆一 山田 洋一 |
発明の名称 | スタンパの製造方法、光ディスクの製造方法、原盤およびその製造方法、ならびに無機レジスト材料 |
代理人 | 杉浦 正知 |