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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C02F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C02F
管理番号 1240488
審判番号 不服2008-11764  
総通号数 141 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-09-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-05-08 
確定日 2011-07-21 
事件の表示 特願2000-290226「異物付着防止装置」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 4月 2日出願公開、特開2002- 96070〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成12年9月25日の特許出願であって、平成19年12月27日付けの拒絶理由通知に対し、平成20年3月10日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、同年3月31日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年5月8日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同年6月9日付けで審判請求書に係る手続補正書及び明細書に係る手続補正書が提出されたものであり、その後、平成22年11月11日付けで特許法第164条第3項に基づく報告を引用した審尋がなされ、平成23年1月17日付けで回答書が請求人から提出されている。

2.平成20年6月9日付けの明細書に係る手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成20年6月9日付けの明細書に係る手続補正を却下する。
[理由]
平成20年6月9日付けの明細書に係る手続補正(以下、必要に応じて「本件補正」という。)は、本願の特許請求の範囲についてする補正を含むものであって、この補正は、本願の特許請求の範囲を、以下の(あ)に示すもの(平成20年3月10日付けの手続補正により補正されたもの)から、以下の(い)に示すものに補正するものである。

(あ)本件補正前の特許請求の範囲
「【請求項1】流体の流路を挟んで設けられたコイルと、このコイルに電力を供給して、異物がとけ込んだ上記流路内の流体にその流れとほぼ直交する方向から上記コイルによって高周波の交流磁界をかける交流電源とを有し、上記異物がとけ込んだ上記流体中に上記交流磁界をかけて上記異物を活性化させる印加手段を備えたことを特徴とする異物付着防止装置。
【請求項2】請求項1に記載の異物付着防止装置において、上記印加手段が、上記異物のとけ込んだ流体を貯留する貯留槽又は上記流体を流す流体配管を囲繞して形成された環状体と、この環状体から上記貯留槽又は流体配管に向けてかつ貯留槽又は流体配管を挟むように互いに対向して形成され上記コイルが巻かれる鉄心とをさらに備えて構成されたことを特徴とする異物付着防止装置。
【請求項3】請求項2に記載の異物付着防止装置において、上記貯留槽又は流体配管が強誘電体で成形されたことを特徴とする異物付着防止装置。」

(い)本件補正後の特許請求の範囲
「【請求項1】流体の流路を挟んで互いに対向して一対設けられたコイルと、このコイルに電力を供給して、異物がとけ込んだ上記流路内の流体にその流れとほぼ直交する一定方向にかつ正逆方向に上記コイルによって高周波の交流磁界をかける交流電源とを有し、上記異物がとけ込んだ上記流体中に上記交流磁界をかけてその周波数に合わせて上記異物を激しく揺さぶって活性化させる印加手段を備えたことを特徴とする異物付着防止装置。
【請求項2】請求項1に記載の異物付着防止装置において、上記印加手段が、上記異物のとけ込んだ流体を貯留する貯留槽又は上記流体を流す流体配管を囲繞して形成された環状体と、この環状体から上記貯留槽又は流体配管に向けてかつ貯留槽又は流体配管を挟むように互いに対向して形成され上記コイルが巻かれる鉄心とをさらに備えて構成されたことを特徴とする異物付着防止装置。
【請求項3】請求項2に記載の異物付着防止装置において、上記貯留槽又は流体配管が強誘電体で成形されたことを特徴とする異物付着防止装置。」

そして、本件補正は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明において、「流体の流路を挟んで設けられたコイル」との発明特定事項に関し、「流体の流路を挟んで互いに対向して一対設けられたコイル」と減縮し、「異物がとけ込んだ上記流路内の流体にその流れとほぼ直交する方向から上記コイルによって高周波の交流磁界をかける交流電源」との発明特定事項に関し、「異物がとけ込んだ上記流路内の流体にその流れとほぼ直交する一定方向にかつ正逆方向に上記コイルによって高周波の交流磁界をかける交流電源」と減縮し、「上記異物がとけ込んだ上記流体中に上記交流磁界をかけて上記異物を活性化させる印加手段」との発明特定事項に関し、「上記異物がとけ込んだ上記流体中に上記交流磁界をかけてその周波数に合わせて上記異物を激しく揺さぶって活性化させる印加手段」と減縮するものであるから、本件補正は、平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の特許請求の範囲に記載された発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものか否かについて以下に検討する。

(1)本願補正発明
本件補正後の特許請求の範囲に記載された発明は、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されるものであるところ、その特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明1」という。)は、次のとおりのものである。
「流体の流路を挟んで互いに対向して一対設けられたコイルと、このコイルに電力を供給して、異物がとけ込んだ上記流路内の流体にその流れとほぼ直交する一定方向にかつ正逆方向に上記コイルによって高周波の交流磁界をかける交流電源とを有し、上記異物がとけ込んだ上記流体中に上記交流磁界をかけてその周波数に合わせて上記異物を激しく揺さぶって活性化させる印加手段を備えたことを特徴とする異物付着防止装置。」

(2)刊行物及びその記載事項
(2-1)刊行物1
本願出願前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開平2-222772号公報(以下、「刊行物1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。
ア 「1.相対向する界磁鉄心間に磁力線が生じるように界磁コイルを巻装した環状の固定子内に、非磁性体で形成した空気又は水の流通管を挿着し、前記各界磁コイルを交流電源に接続したことを特徴とする空気又は水の磁気処理装置。」(特許請求の範囲第1項)
イ 「[産業上の利用分野]
この発明は、空気又は水に磁力線を作用させて磁気処理を行うための空気又は水の磁気処理装置に関するものである。
[従来の技術]
空気を磁気処理してその空気を水中に曝気すると、水中の溶存酸素量が増えるために、嫌気性バクテリヤが減少して水の腐敗が抑えられることが知られている。これは、酸素が常磁性体に近い性質を有しているため、磁力線の影響を受けて酸素が励起状態となる、いわゆる酸素の活性化現象によるものと考えられる。また、磁気処理した空気を曝気した水は、赤水になりにくいことや、清水でしか育たないワサビを育成できることなどの種々の効果があることも実験などによって確認されている。更に、磁気処理した空気を用いないで水を直接磁気処理しても上記と同様の効果があること、また空気を磁気処理すると空気中の雑菌が減少することなども分かっている。」(第1頁左下欄15行?同頁右下欄14行)
ウ 「上記した目的を達成するためにこの発明の磁気処理装置は、相対向する界磁鉄心間に磁力線が生じるように界磁コイルを巻装した環状の固定子内に、非磁性体で形成した空気又は水の流通管を挿着し、前記各界磁コイルを交流電源に接続している。
また、前記固定子位置の流通管内の軸心部に、磁性体からなる芯材を、非磁性体からなる支持部材により支承して設けることが好ましい。」(第2頁左上欄19行?同頁右上欄7行)
エ 「[作用]
上記した構成を有するこの発明の磁気処理装置によれば、固定子の界磁鉄心に巻装された界磁コイルに交流の電圧を加えることにより、固定子の相対向する界磁鉄心間に磁力線が生じ、その磁力線の向きが交流の周波数に対応して逐次変化する。そして、空気又は水を流通管内に流通させ、その固定子位置を空気又は水が通過する際に、逐次向きが変化する磁力線が空気又は水に作用すると共に、空気又は水が磁力線を直交して横切ることにより、空気又は水が磁気処理される。したがって本発明の磁気処理装置では、磁力線が高速度で著しく変化するので、空気又は水の流速を上げなくても、空気又は水を十分に磁気処理することができる。
また、固定子位置の流通管内の軸心部に磁性体の芯材を配設することにより、相対向する前記界磁鉄心間に発生する磁力線の通りがよくなるため、例えば流通管の口径を大きして空気又は水の流量を増やしても、空気又は水を十分に磁気処理することができる。」(第2頁右上欄8行?同頁左下欄8行)
オ 「第4図及び第5図はこの発明の磁気処理装置の他の実施例を示し、第4図は第5図のIV-IV線断面図、第5図は第4図のV-V線断面図である。
本実施例の磁気処理装置が上記実施例と相違するところは、単相交流電源を用いるようにしたことと、磁性体からなる芯材11を流通管7内に設けて磁力線の通りをよくしたことである。すなわち、1′は単相誘導電動機の固定子に相当する環状の固定子で、相対向する1組の界磁鉄心2′を内方に突出させて継鉄3′で連結したものである。各界磁鉄心2′には、固定子1′の半径方向に磁力線が発生するように界磁コイル4′がそれぞれ巻装されており、また両界磁コイル4′は直列に接続され、その両端が単相交流電源(図示せず)に接続されている。」(第3頁左下欄7行?同頁右下欄2行)

(2-2)刊行物2
本願出願前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開平11-151437号公報(以下、「刊行物2」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。
サ 「コイルに20Hz?1MHzの帯域で周波数が時間的に変化する方形波の交流電流を流し、コイル内の電流により誘起される電磁界により予め水を処理し、当該処理済みの水をスケール生成用原料を含む水溶液または水懸濁液に混合し、当該混合液から析出して前記液に接する部材または当該液を収納する貯留装置の壁面にスケールが付着することを防止または前記壁面に付着したスケールを剥離することを特徴とするスケール除去方法。」(【特許請求の範囲】【請求項4】)
シ 「本発明によるコイルに20?1MHzの帯域で、周波数を時間的に変化させた方形波交流電流が水中(上水、水溶液または水懸濁液)に与える電子エネルギー及び磁場により、図3に示すように、水中の塩類のイオン化を促す。・・・・」(段落【0015】)
ス 「液体移送配管1に巻き付けたコイル2を流れる電流は方形波であって、電流の方向が毎秒数百から数千の割合いで瞬時に変化するため、磁界の方向も瞬時に変化し、その結果、液体移送配管1内に大きな電磁界力が生じて配管1内を流れる液中の正負イオン溶質に強く働きかける。このように、大きな電磁界力を受けた正負イオン溶質は、液体中に存在する金属微粒子を核として積極的に結晶化される。この液体中での積極的な結晶化により、液体移送配管1の壁面内でのスケールの生成が回避される。」(段落【0019】)

(2-3)刊行物3
本願出願前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特表平9-503157号公報(以下、「刊行物3」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。
タ 「1.軸線に沿って延びる導管内に収容される流体を処理する流体処理装置において、
a)導管の外部に取り付けられた一次コイル、
b)一連の無線周波数信号を発生するために前記一次コイルを付勢する付勢手段、
c)前記導管の軸線と略同軸関係において略円形の磁束線を有する電磁界を処理されるべき流体に発生し、かつ前記一次コイルの上流および下流に流体を処理するために軸線に沿って電磁界を伝搬するための、無線周波数信号の発生に応答する手段からなることを特徴とする流体処理装置。
2.各無線周波数信号が50から500kHzの範囲の周波数を有し、そして各無線周波数信号が最大値からゼロに減少する正弦波状に可変の振幅を有することを特徴とする請求の範囲第1項に記載の流体処理装置。」(特許請求の範囲第1項及び第2項)
チ 「水中のカルシウムおよびマグネシウムイオンの如き不純物は、時間の経過で、水パイプの内壁に付着する水垢を形成する。・・・・
本発明の他の目的は水パイプ中の水垢の形成を抑制する改良された装置および方法を提供することにある。」(第6頁10行?第7頁2行)
ツ 「第4A図および第4B図に示される電磁界は1瞬間に関して示され、この電磁界が各リンギング信号の振幅が変化するとき拡張しかつ収縮することが理解される。定常波電界が導管の長さにわたつて確立され、その結果無線周波数電磁界は接触領域の上流および下流両方で両方向に導管に沿って伝搬しかつ配管装置を通る水に水垢除去作用を発生する。」(第11頁最下行?第12頁5行)

(3)対比、判断
刊行物1には、記載アに、「相対向する界磁鉄心間に磁力線が生じるように界磁コイルを巻装した環状の固定子内に、非磁性体で形成した空気又は水の流通管を挿着し、前記各界磁コイルを交流電源に接続したことを特徴とする空気又は水の磁気処理装置」が記載されている。
そして、「空気又は水の磁気処理」に関し、記載イに、「磁気処理した空気を曝気した水は、赤水になりにくいことや、・・・・などの種々の効果があることも実験などによって確認されている。更に、磁気処理した空気を用いないで水を直接磁気処理しても上記と同様の効果があること、また・・・・なども分かっている。」と記載されていることからみて、上記記載アの「空気又は水の磁気処理装置」は、水を直接磁気処理して赤水になりにくい水にするための磁気処理装置として用いることができるものといえる。
また、上記記載アの「空気又は水の磁気処理装置」は、記載エによれば、固定子の界磁鉄心に巻装された界磁コイルに交流の電圧を加えることにより、固定子の相対向する界磁鉄心間に、交流の周波数に対応して向きが高速度で著しく変化する磁力線を生じさせ、流通管内を流通する空気又は水が固定子位置を通過する際に、逐次向きが変化する磁力線を直交して横切ることにより、空気又は水を磁気処理するものといえる。
さらに、上記記載アの「相対向する界磁鉄心間に磁力線が生じるように界磁コイルを巻装した環状の固定子」は、記載オによれば、「相対向する1組の界磁鉄心2′を内方に突出させて継鉄3′で連結したもの」であって、「各界磁鉄心2′には、固定子1′の半径方向に磁力線が発生するように界磁コイル4′がそれぞれ巻装されており、また両界磁コイル4′は直列に接続され、その両端が単相交流電源・・・・に接続されている」ものを用いることができるものといえる。
また、記載ウに、「また、前記固定子位置の流通管内の軸心部に、磁性体からなる芯材を、非磁性体からなる支持部材により支承して設けることが好ましい。」と記載されているところ、この「芯材」は、記載エによれば、相対向する界磁鉄心間に発生する磁力線の通りをよくするために設けるものであって、交流電源として単相交流電源を用いるか否かによらず、「設けることが好ましい」とされているものであり、この「芯材」の有無について考慮する必要はないものといえる。
以上を踏まえ、刊行物1の記載事項を本願補正発明1の記載ぶりに則して整理すると、刊行物1には、「相対向する1組の界磁鉄心を内方に突出させて継鉄で連結した環状の固定子内に、非磁性体で形成した水の流通管を挿着し、各界磁鉄心には、固定子の半径方向に磁力線が発生するように界磁コイルがそれぞれ巻装されており、また両界磁コイルは直列に接続され、その両端が単相交流電源に接続され、固定子の界磁鉄心に巻装された界磁コイルに交流の電圧を加えることにより、固定子の相対向する界磁鉄心間に、交流の周波数に対応して向きが高速度で著しく変化する磁力線を生じさせ、流通管内を流通する水が固定子位置を通過する際に、逐次向きが変化する磁力線を直交して横切ることにより、水を直接磁気処理して赤水になりにくい水にする磁気処理装置」の発明(以下、「刊行1発明」という。)が記載されているといえる。

ここで、本願補正発明1と刊行1発明とを対比すると、まず、刊行1発明の「水」は、本願補正発明1の「流体」に相当し、刊行1発明の「水の流通管」は、本願補正発明1の「流体の流路」に相当する。
また、本願補正発明1の「異物付着防止装置」は、「流体」を処理するものであることから、本願補正発明1の「異物付着防止装置」と刊行1発明の「水を直接磁気処理して赤水になりにくい水にする磁気処理装置」とは、流体処理装置という点で共通する。
また、刊行1発明は、「相対向する1組の界磁鉄心を内方に突出させて継鉄で連結した環状の固定子内に、非磁性体で形成した水の流通管を挿着し、各界磁鉄心には、固定子の半径方向に磁力線が発生するように界磁コイルがそれぞれ巻装されて」いるものであることから、刊行1発明の「界磁コイル」は、本願補正発明1の「流体の流路を挟んで互いに対向して一対設けられたコイル」に相当するものといえる。
ところで、本願補正発明1の「交流磁界」は、本願明細書の段落【0041】及び段落【0045】の記載によれば、コイルに電力を供給する電源として交流電源を用いることにより形成される磁場(磁界)であって、瞬時に方向が逆転するものを意味していると解される。
そうすると、刊行1発明において、「界磁コイルに交流の電圧を加えることにより、固定子の相対向する界磁鉄心間に、交流の周波数に対応して向きが高速度で著しく変化する磁力線を生じさせ」ることは、「固定子の相対向する界磁鉄心間に」、本願補正発明1でいうところの「交流磁界」をかけていることに他ならず、刊行1発明は、該「交流磁界」をかける「印加手段」を備えたものといえる。さらに、刊行1発明は、「相対向する1組の界磁鉄心」に「界磁コイルがそれぞれ巻装されており、また両界磁コイルは直列に接続され、その両端が単相交流電源に接続され」ているものであって、「流通管内を流通する水が固定子位置を通過する際に、逐次向きが変化する磁力線を直交して横切る」ものであることからみれば、刊行1発明では、上記「交流磁界」を「流通管内を流通する水」とほぼ直交する一定方向にかつ正逆方向にかけているといえる。
以上のことを勘案すると、本願補正発明1と刊行1発明とは、「流体の流路を挟んで互いに対向して一対設けられたコイルと、このコイルに電力を供給して、上記流路内の流体にその流れとほぼ直交する一定方向にかつ正逆方向に上記コイルによって交流磁界をかける交流電源とを有し、上記流体中に上記交流磁界をかける印加手段を備えた流体処理装置」の点で一致し、次の点で相違するといえる。
相違点(一):本願補正発明1の装置は、「異物がとけ込んだ」流体を処理し「異物付着防止」をするものであるのに対し、刊行1発明の装置は、「水を直接磁気処理して赤水になりにくい水にする」ものである点。
相違点(二):本願補正発明1の交流電源は、「高周波の交流磁界をかける」ものであるのに対し、刊行1発明の交流電源は、「交流の周波数に対応して向きが高速度で著しく変化する磁力線を生じさせ」るものである点。
相違点(三):本願補正発明1は、「上記異物がとけ込んだ上記流体中に上記交流磁界をかけてその周波数に合わせて上記異物を激しく揺さぶって活性化させる印加手段」を備えたものであるのに対し、刊行1発明は、流体中に交流磁界をかける印加手段を備えたものであるといえるものの、その印加手段にかかる限定が付されていない点。

以下、上記相違点について検討する。
[相違点(二)について]
まず、上記相違点(二)に係る本願補正発明1の「高周波の交流磁界をかける交流電源」という発明特定事項について本願明細書の記載をみてみると、段落【0041】には、「50?10kHzの周波数の方形波を有する交流電源が用いられる。」と記載されていることから、本願補正発明1の「高周波の交流磁界をかける交流電源」は、「50?10kHzの周波数」を有するものといえる。
これに対し、刊行1発明の交流電源は、「交流の周波数に対応して向きが高速度で著しく変化する磁力線を生じさせ」るものといえるが、具体的にどの程度の周波数を有しているのかについては明らかではない。
そこで、水の磁気処理で用いる交流電源の周波数をみてみると、例えば、刊行物2には、記載シに、交流電源の周波数を「20?1MHz」の範囲とすることが記載され、さらに段落【0011】に、「前記周波数帯域は電離したイオンの追従性が高い500?5000Hzとすること望ましい。」と記載されていることからみて、「50?10kHz」の周波数を有する交流電源を用いることは、当業者が容易に想到し得ることである。また、この「50?10kHz」という数値範囲の限定に臨界的意義も見いだせない。

[相違点(一)及び(三)について]
上記相違点(一)に係る本願補正発明1の「異物付着防止」について検討すると、刊行物2には、記載サに、「コイルに20Hz?1MHzの帯域で周波数が時間的に変化する方形波の交流電流を流し、コイル内の電流により誘起される電磁界により予め水を処理し、当該処理済みの水をスケール生成用原料を含む水溶液または水懸濁液に混合し、当該混合液から析出して前記液に接する部材または当該液を収納する貯留装置の壁面にスケールが付着することを防止または前記壁面に付着したスケールを剥離することを特徴とするスケール除去方法。」が記載され、また、記載シに、「本発明によるコイルに20?1MHzの帯域で、周波数を時間的に変化させた方形波交流電流が水中(上水、水溶液または水懸濁液)に与える電子エネルギー及び磁場により、図3に示すように、水中の塩類のイオン化を促す。」と記載されており、これらの記載によれば、刊行物2には、「コイルに20Hz?1MHzの帯域で周波数が時間的に変化する方形波の交流電流を流し、コイル内の電流により誘起される電磁界により予め水を処理し、水中の塩類のイオン化を促し、当該処理済みの水をスケール生成用原料を含む水溶液または水懸濁液に混合し、当該混合液から析出して前記液に接する部材または当該液を収納する貯留装置の壁面にスケールが付着することを防止または前記壁面に付着したスケールを剥離するスケール除去方法。」の発明が記載されているといえる。
また、刊行物3には、記載タに、「1.軸線に沿って延びる導管内に収容される流体を処理する流体処理装置において、
a)導管の外部に取り付けられた一次コイル、
b)一連の無線周波数信号を発生するために前記一次コイルを付勢する付勢手段、
c)前記導管の軸線と略同軸関係において略円形の磁束線を有する電磁界を処理されるべき流体に発生し、かつ前記一次コイルの上流および下流に流体を処理するために軸線に沿って電磁界を伝搬するための、無線周波数信号の発生に応答する手段からなることを特徴とする流体処理装置。
2.各無線周波数信号が50から500kHzの範囲の周波数を有し、そして各無線周波数信号が最大値からゼロに減少する正弦波状に可変の振幅を有することを特徴とする請求の範囲第1項に記載の流体処理装置。」と記載され、記載チに、「水中のカルシウムおよびマグネシウムイオンの如き不純物は、時間の経過で、水パイプの内壁に付着する水垢を形成する。・・・・
本発明の他の目的は水パイプ中の水垢の形成を抑制する改良された装置および方法を提供することにある。」と記載され、さらに、記載ツに、「第4A図および第4B図に示される電磁界は1瞬間に関して示され、この電磁界が各リンギング信号の振幅が変化するとき拡張しかつ収縮することが理解される。定常波電界が導管の長さにわたつて確立され、その結果無線周波数電磁界は接触領域の上流および下流両方で両方向に導管に沿って伝搬しかつ配管装置を通る水に水垢除去作用を発生する。」と記載されており、これらの記載によれば、刊行物3には、「水中のカルシウムおよびマグネシウムイオンの如き不純物が水パイプの内壁に付着して形成される水垢の形成を抑制するために、50から500kHzの範囲の周波数を有する無線周波数信号の発生に応答する無線周波数電磁界を導管に沿って伝搬し、配管装置を通る水に水垢除去作用を発生する流体処理装置。」の発明が記載されているといえる。
これらの刊行物2及び3に記載された発明からみれば、塩類等の不純物を含む水に電磁界をかけることにより、当該水が接する配管等に、スケール(水垢)を形成して付着するのを防止できることは、本願出願以前から周知の技術事項であったと認められる。
そして、刊行1発明は、「固定子の界磁鉄心に巻装された界磁コイルに交流の電圧を加えることにより、固定子の相対向する界磁鉄心間に、交流の周波数に対応して向きが高速度で著しく変化する磁力線を生じさせ、流通管内を流通する水が固定子位置を通過する際に、逐次向きが変化する磁力線を直交して横切る」ものであることから、刊行1発明では、水に電磁界をかけていることは明らかであり、また、特段の処理をしない限り水にカルシウムや磁性の破片等の不純物が含まれていることは自明のことであるから(例えば、刊行物2の段落【0038】、刊行物3の第6頁10行及び22行参照。)、これらを踏まえ、刊行1発明を上記周知の技術事項に照らしてみれば、刊行1発明において、「異物がとけ込んだ」流体を処理し「異物付着防止」を目的とするものに特定することは、当業者が容易に想到し得ることといえる。
さらに、刊行1発明は、「固定子の界磁鉄心に巻装された界磁コイルに交流の電圧を加えることにより、固定子の相対向する界磁鉄心間に、交流の周波数に対応して向きが高速度で著しく変化する磁力線を生じさせ、流通管内を流通する水が固定子位置を通過する際に、逐次向きが変化する磁力線を直交して横切る」ものであることを勘案すれば、上記異物を「その周波数に合わせて」「激しく揺さぶって活性化させる」ことができるであろうことは、当業者であれば容易に予測し得ることであって(さらに必要であれば、刊行物2の記載シ及びスも参照。)、上記相違点(三)に係る本願補正発明1の発明特定事項である「上記異物がとけ込んだ上記流体中に上記交流磁界をかけてその周波数に合わせて上記異物を激しく揺さぶって活性化させる」ことをさらに特定することも格別困難なこととはいえない。

そして、上記相違点(一)?(三)に係る本願補正発明1の発明特定事項を採用することにより奏される効果も、刊行物1?3に記載された発明から予測し得ることといえ、格別顕著なものとはいえない。
したがって、本願補正発明1は、刊行物1?3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

なお、請求人は、平成23年1月17日付けの回答書において、本願発明は「異物のイオン化を促進する」ものである旨の主張をしているが、「異物のイオン化を促進する」という事項は、本件補正後の特許請求の範囲のいずれの請求項にも記載されていない事項である。仮に当該事項が請求項1に記載され、本願補正発明1の発明特定事項にされたとしても、刊行物2の記載シに、「本発明によるコイルに20?1MHzの帯域で、周波数を時間的に変化させた方形波交流電流が水中(上水、水溶液または水懸濁液)に与える電子エネルギー及び磁場により、図3に示すように、水中の塩類のイオン化を促す。」と記載されていることからみれば、「異物のイオン化を促進する」ものと特定することも当業者が容易になし得ることといえる。よって、請求人の主張は、採用することができない。

(4)補正却下についてのむすび
以上のとおりであるから、本願補正発明1は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
よって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明
平成20年6月9日付けの明細書に係る手続補正は、上記2.のとおり却下されたので、本願明細書の特許請求の範囲に記載された発明は、平成20年3月10日付けの手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されるものであると認められるところ、その特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、次のとおりのものである。
「流体の流路を挟んで設けられたコイルと、このコイルに電力を供給して、異物がとけ込んだ上記流路内の流体にその流れとほぼ直交する方向から上記コイルによって高周波の交流磁界をかける交流電源とを有し、上記異物がとけ込んだ上記流体中に上記交流磁界をかけて上記異物を活性化させる印加手段を備えたことを特徴とする異物付着防止装置。」

4.刊行物の記載事項
本願出願前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である刊行物1?3及びその記載事項は、上記2.(2)に記載したとおりである。

5.対比・判断
本願発明1を本願補正発明1に照らしてみると、本願発明1は、本願補正発明1の発明特定事項のうち、(ア)「流体の流路を挟んで互いに対向して一対設けられたコイル」に関し、「互いに対向して一対」との発明特定事項を削除して「流体の流路を挟んで設けられたコイル」とし、(イ)「異物がとけ込んだ上記流路内の流体にその流れとほぼ直交する一定方向にかつ正逆方向に上記コイルによって高周波の交流磁界をかける交流電源」に関し、「一定方向にかつ正逆方向に」との発明特定事項を削除して「異物がとけ込んだ上記流路内の流体にその流れとほぼ直交する方向から上記コイルによって高周波の交流磁界をかける交流電源」とし、さらに、(ウ)「上記異物がとけ込んだ上記流体中に上記交流磁界をかけてその周波数に合わせて上記異物を激しく揺さぶって活性化させる印加手段」に関し、「その周波数に合わせて上記異物を激しく揺さぶって」との発明特定事項を削除して「上記異物がとけ込んだ上記流体中に上記交流磁界をかけて上記異物を活性化させる印加手段」としたものであるから、本願発明1は、本願補正発明1を拡張したものであるといえる。
してみれば、本願補正発明1が、上記2.で述べたように、特許を受けることができないものである以上、本願補正発明1を拡張したものである本願発明1も、本願補正発明1と同様の理由により、特許を受けることができないものであるといえる。すなわち、本願発明1は、本願補正発明1と同様、刊行物1?3に記載された発明及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

6.むすび
以上のとおりであるから、本願明細書の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-05-10 
結審通知日 2011-05-17 
審決日 2011-06-07 
出願番号 特願2000-290226(P2000-290226)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C02F)
P 1 8・ 575- Z (C02F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 富永 正史  
特許庁審判長 松本 貢
特許庁審判官 斉藤 信人
目代 博茂
発明の名称 異物付着防止装置  
代理人 工藤 宣幸  
代理人 工藤 宣幸  

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