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審決分類 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 H03H
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H03H
管理番号 1240496
審判番号 不服2008-30790  
総通号数 141 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-09-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-12-04 
確定日 2011-07-21 
事件の表示 特願2004-129803「弾性表面波装置及びそれを用いた通信用フィルタ」拒絶査定不服審判事件〔平成17年11月 4日出願公開、特開2005-311963〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成16年4月26日の出願であって、平成20年6月30日付けで拒絶理由通知がなされ、同年9月8日付けで手続補正がなされたが、同年10月28日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年12月4日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同年12月25日付けで手続補正がなされたものである。

2.平成20年12月25日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成20年12月25日付けの手続補正を却下する。

[理由]
(1)補正内容
平成20年12月25日付けの手続補正(以下、「本件手続補正」という。)の内容は、特許請求の範囲の請求項1の記載を、
「圧電基板上にすだれ状電極が形成された弾性表面波装置において、前記すだれ状電極を形成する電極材料の主成分が銅であり、かつ前記圧電基板が0°を超え80°までの回転Y軸カット-X方向伝搬LiNbO_(3)基板であり、かつ弾性表面波の伝搬モードがラブ波モードであり、かつ前記圧電基板上のすだれ状電極の同じ方向に延びている隣の電極指のピッチをpとし、前記すだれ状電極の膜厚をhとしたときの膜厚比(h/p)が6%以上であることを特徴とする弾性表面波装置。」
に補正することを含むものである。

上記補正内容における「圧電基板上のすだれ状電極の同じ方向に延びている隣の電極指のピッチをpとし、前記すだれ状電極の膜厚をhとしたときの膜厚比(h/p)が6%以上である」点が、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「当初明細書等」という。)に記載した事項の範囲内のものであるか否かについて、以下検討する。

当初明細書等には、以下の記載がなされている。

A.「【0023】
図2(a)はAl電極を使用した場合、図2(b)はCu電極を使用した場合の特性図である。同図において膜厚比(h/p)は、図1に示した同じ方向を向いて延びている隣の電極指10、10のピッチ(電極指ピッチ)をpとし、図3に示すように圧電基板26上の電極27の膜厚をhしたときの比率[%]を示している。
【0024】
図2より、電極の材料および膜厚比に関係なくラブモードのVrとVaの差が大きく、強い電気機械結合係数を有していることが分かる。非漏洩のラブモードを伝搬させるためには、Vr,Va<VB(遅い横波の速度)の条件を満足する必要がある。図2(a)から分かるように、Al電極の場合膜厚比(h/p)>24%とする必要がある。これに対してCu電極の場合は図2(b)に示すように膜厚比(h/p)>10%でこの条件を満足する。従って、Cu電極を用いると微細加工をする上で有利であることが分かる。」

B.「【0034】
実施例2では、Cu電極と15°YX-LN基板を用いた1ポート弾性表面波共振子の広帯域性を利用した、ラダー型弾性表面波フィルタを作製した。
・・・(中略)・・・
【0040】
図11は、本実施例に係る4段のラダー型弾性表面波フィルタの概略構成図である。同図に示すようにラダー型弾性表面波フィルタは、直列腕共振子 res1,res3,res1と並列腕共振子res2,res2を梯子状に接続した構成になっている。このラダー型弾性表面波フィルタの3種の共振子(res1,res2,res3)の具体的な設計仕様などをまとめて図12に示す。」

上記Aの記載では、「Cu電極」を用いた場合に「膜厚比(h/p)」を「10%よりも大きくする」とされているものの、「6%以上とする」とはされていない。
一方、上記B及び図12を参照すると、「Cu電極」を用いた場合に「膜厚比(h/p)」を「6.0%又は7.5%のいずれかとする」ことが記載されているものの、これは「Cu電極と15°YX-LN基板を用いた1ポート弾性表面波共振子の広帯域性を利用した、ラダー型弾性表面波フィルタ」における直列腕共振子及び並列腕共振子に用いた場合の例示にすぎない。また、上記B及び図12の記載では、「Cu電極」を用いた場合に「膜厚比(h/p)」を、「6%以上」の範囲に含まれる「6.0%よりも大きく7.5%よりも小さくする」こと、及び、「7.5%よりも大きく10%以下とする」ことは、見出せない。
よって、これらの記載から、回路構成上の何らの限定がない弾性表面波装置で「Cu電極」を用いた場合に「膜厚比(h/p)」を「6%以上とする」ことは、自明に見出せることではない。
そして、当初明細書等の他のいずれの箇所を見ても、Cu電極を用いた場合に膜厚比(h/p)を6%以上とすることは、記載も示唆もされていない事項であり、また、このことは、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものであると認められる。
したがって、「すだれ状電極を形成する電極材料の主成分が銅」であるときに、「圧電基板上のすだれ状電極の同じ方向に延びている隣の電極指のピッチをpとし、前記すだれ状電極の膜厚をhとしたときの膜厚比(h/p)が6%以上である」とする補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであるとは認められない。

(2)むすび
以上のとおり、上記(1)に示す請求項1に係る補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであるとは認められない。
よって、本件手続補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.補正却下の決定を踏まえた検討
(1)本願発明
平成20年12月25日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項3に係る発明は、同年9月8日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項3に記載されたとおりの次のものと認める。(以下、「本願発明」という。)
「圧電基板上にすだれ状電極が形成された弾性表面波装置において、前記すだれ状電極を形成する電極材料の主成分が銅であり、かつ前記圧電基板が0°を超え80°までの回転Y軸カット-X方向伝搬LiTaO_(3)基板であり、かつ弾性表面波の伝搬モードがラブ波モードであることを特徴とする弾性表面波装置。」

(2)引用例
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された特開平5-267981号公報(以下、「引用例1」という。)、及び特開平6-164306号公報(以下、「引用例2」という。)には、それぞれ、図面とともに次の事項が記載されている。

(引用例1)
A.「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、通信機器の高周波機能部品として用いられる弾性表面共振子に関し、特に、ラブ波型弾性表面波共振子に関するものである。」

B.「【0005】
【実施例】図1は本発明の実施例の全体を示す平面図であり、図2は本発明の第1の実施例を示す部分拡大断面図である。図において、1は圧電基板、2は軽い金属を用いたIDT電極である。図3は本発明の第2の実施例を示す部分拡大断面図であり、3は軽い金属の電極2と圧電基板1との間に設けられた重い金属の電極部分である。
【0006】図2の第1の実施例では、軽い金属たとえばアルミニウム(Al)や銅(Cu)等の比重の小さい金属を厚く蒸着してIDT電極を形成することによりラブ波型弾性表面波を励振するように構成したものである。この場合の電極の膜厚は、重い金属の場合とほぼ等しい質量になるように設定される。900MHzの場合膜厚は10μm程度となる。従ってウエハ内の厚み偏差が±2%あっても周波数に及ぼす影響は極めて小さくなり実用化が可能になる。ただこの場合の難点は、蒸着時間がかかることと、電極指の間隔が小さいため電極形成に注意を要することである。図3の第2の実施例は、上記の第1の実施例の難点を軽減したものであり、圧電基板1の上にまず重い金属を蒸着した電極部分3を設け、その上に軽い金属を蒸着した電極部分2を設ける。この場合も総合質量は重い金属のみのときとほぼ等しくなるように設定される。このように多層化することによって膜厚の増大を抑え蒸着時間を短くすることができる。」

上記A,Bの記載及び関連する図面を参照すると、引用例1には、次の発明が記載されているものと認められる。(以下、「引用例1記載の発明」という。)
「圧電基板上にIDT電極が形成された弾性表面波共振子において、前記IDT電極を形成する電極材料の主成分が銅であり、かつ弾性表面波の伝搬モードがラブ波モードである弾性表面波共振子。」

(引用例2)
C.「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、電子機器、特に通信機器の電圧制御発振器(VCO)に共振素子として用いられるエネルギ閉じ込め型弾性表面波共振子に関するものである。」

D.「【0005】
【課題を解決するための手段】本発明の弾性表面波共振子は、Y軸を法線としYーZ平面上でY軸からの回転角が-10°乃至+50°の範囲の所定の角度で切断された回転YカットLiTaO_(3) 圧電基板の表面上に、比重の大きい金属で形成されたすだれ状変換器が配設され、前記圧電基板のX軸方向にラブ波型弾性表面波が励起されるように構成したものを基本構成とし、さらに、前記すだれ状変換器の両側の表面波伝搬路上に該すだれ状変換器と同じ比重の大きい金属で形成されたグレーティング反射器が配設され、前記圧電基板のX軸方向にラブ波型弾性表面波が励起されるように構成したことを特徴とするものである。
【0006】すなわち、従来実現されていなかったラブ波型弾性表面波共振子を実用化するために、LiTaO_(3) 圧電基板上に音速の遅い重い物質を付着させて表面弾性波速度を低下させ、図3に示す遅い横波よりも遅くすることにより結合係数k^(2) がほぼそのままもしくはそれ以上で擬似弾性表面波を伝搬減衰のないラブ波型表面波に変えたものである。このとき、すだれ状変換器(IDT:Interdigital Transducer)の電極を一様な薄膜の電極でなくても、金(Au),白金(Pt),銀(Ag)等の比重の大きい金属で十分厚くすることで等価的に一様膜(但し膜厚は等価的にほぼ1/2とみなされる)と同等な効果が得られ、擬似弾性表面波をラブ波型表面波に変換することができる。さらに、回転Yカットの切断角度の範囲が-10°?+50°(図3の 170°? 180°および0°?50°)であれば、図3より明らかな如く、36°Yカット-X伝搬LiTaO_(3) の場合と同等もしくはそれ以上の結合係数k^(2) が得られることは明白であり、回転カット角の精度の伝搬減衰量に対する影響がなくなるという利点がある。
【0007】
【実施例】図1は本発明の第1の実施例を示す基本構成図であり、図2は第2の実施例を示す構成図である。図1の第1の実施例は、回転Yカットの切断角度の範囲が-10°?+50°(図3の 170°? 180°および0°?50°)の圧電基板1の表面上に端子4,4’を有するすだれ状変換器(IDT)2を配設した基本構成を示すものであり、IDT2の対数を比較的多くしたIDT2のみにより構成した弾性表面波共振子である。また、図2の第2の実施例は、図1の基本構成のIDT2の両側にIDT2と同じ重い金属の電極材料よりなるグレーティング反射器3を配置した構造のラブ波型弾性表面波共振子である。この構成のものは、36°Yカット-X方向伝搬LiTaO_(3) 圧電基板上に図2と同様な電極構造をアルミニウム等の軽い金属で形成した従来の擬似弾性表面波共振子に比べて、電気機械結合係数k^(2) が大きい分だけ反射器3の電極指の本数を少なく(1/2以下に)することができるため、小型化が可能となると同時に容量比の小さな弾性表面波共振子を実現することができる。電気機械結合係数k^(2) の実測値としては、従来の4.7%に比べて約11%以上の値が得られた。以上の実施例では、図1に示したIDT2のみの基本構成と、図2に示したIDT2の両側にグレーティング反射器3を配置した構成について説明したが、スプリアス応答を改善するために、IDT2の電極指に断点を設けて全体が菱形になるような重み付けを行った弾性表面波共振子についても本発明を適用することができるのはいうまでもない。」

上記C,Dの記載及び関連する図面を参照すると、引用例2には、次の発明が記載されているものと認められる。(以下、「引用例2記載の発明」という。)
「圧電基板上にすだれ状変換器(IDT)の電極が形成された弾性表面波共振子において、前記圧電基板が-10°?+50°の回転Yカット-X方向伝搬LiTaO_(3)基板であり、かつ弾性表面波の伝搬モードがラブ波モードである弾性表面波共振子。」

(3)対比
本願発明と引用例1記載の発明とを対比すると、引用例1記載の発明における「IDT電極」,「弾性表面波共振子」は、それぞれ、本願発明における「すだれ状電極」,「弾性表面波装置」に相当するから、本願発明と引用例1記載の発明とは、次の点で一致し、また、相違するものと認められる。

(一致点)
本願発明と引用例1記載の発明とは、ともに、
「圧電基板上にすだれ状電極が形成された弾性表面波装置において、前記すだれ状電極を形成する電極材料の主成分が銅であり、かつ弾性表面波の伝搬モードがラブ波モードである弾性表面波装置。」
である点。

(相違点)
「圧電基板」が、本願発明においては、「0°を超え80°までの回転Y軸カット-X方向伝搬LiTaO_(3)基板」であるのに対し、引用例1記載の発明においては、そのようなものであるとはされていない点。

(4)判断
そこで、上記相違点について検討する。
引用例1記載の発明に対して引用例2記載の発明を適用することにより、上記相違点を当業者が容易に想到し得るかについて検討する。
本願発明のカット角の範囲である「0°を超え80°まで」は、引用例2記載の発明のカット角の範囲である「-10°を超え50°まで」と、一部が重複した値になっており、その重複した値の範囲は「0°を超え50°まで」である。
そして、引用例1記載の発明と引用例2記載の発明は、ともに、弾性表面波の伝搬モードがラブ波モードである弾性表面波共振子に関するものであるから、引用例1記載の発明に対して引用例2記載の発明を適用し、「圧電基板」を、本願発明と引用例2記載の発明とで重複したカット角の範囲、すなわち「0°を超え50°まで」の回転Yカット-X方向伝搬LiTaO_(3)基板とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

(本願発明の作用効果について)
そして、本願発明の構成によってもたらされる効果も、引用例1,2記載の発明から、当業者が容易に予測することができる程度のものであって、格別のものとはいえない。

(5)むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例1,2記載の発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-05-18 
結審通知日 2011-05-24 
審決日 2011-06-06 
出願番号 特願2004-129803(P2004-129803)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H03H)
P 1 8・ 561- Z (H03H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 崎間 伸洋行武 哲太郎  
特許庁審判長 長島 孝志
特許庁審判官 甲斐 哲雄
飯田 清司
発明の名称 弾性表面波装置及びそれを用いた通信用フィルタ  
代理人 特許業務法人 武和国際特許事務所  

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