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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B28D
管理番号 1240516
審判番号 不服2009-25265  
総通号数 141 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-09-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-12-21 
確定日 2011-07-21 
事件の表示 特願2006- 64695「脆弱性材料より成る工作物を迅速に切断するための方法及び装置」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 6月15日出願公開、特開2006-150984〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本件出願は、平成12年10月27日(優先権主張、平成11年10月29日ドイツ国)の特許出願の一部を、同18年3月9日に新たな特許出願としたものであって、同19年7月5日に手続補正がなされ、同21年2月2日付けで拒絶の理由が通知され、同年5月29日に手続補正がなされ、同年8月27日付けで拒絶査定がされ、同年12月21日に本件審判の請求がなされ、当審において同22年7月29日付けで拒絶理由が通知され、同23年2月3日に手続補正がなされたものである。

2.本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成23年2月3日に補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりと認められる。

「脆性材料より成る工作物を、任意の輪郭を有する予め与えられた切断ラインに沿ってレーザ光線によって迅速に切断するための方法であって、以下のステップで、つまり、
レーザ光線を発生させ、
工作物を溶融させることなしに、前記ステップで発生させたこれら複数のレーザ光線を結合ガイドして、切断ライン上に集束させ、
それぞれのレーザ光線を、それぞれ、切断しようとする工作物の表面に焦点として作用するレーザ光線横断面が前もって規定された同形状及び同じ強度分布に相当するように、形成し、
切断ラインに沿ってレーザ光線と工作物とを、200m/分までの速度で相対運動させることによって、熱機械的な応力を誘導させる、
ステップで行う方法において、
前記ステップで結合ガイドされた複数のレーザ光線を相次いで切断ラインにガイドするか、又は前記ステップで結合ガイドされた複数のレーザ光線を完全に又は部分的に重畳させて、切断ライン上にガイドし、工作物を溶融させることなしに、切断しようとする工作物に高いレーザ出力を導入し、次いで、加熱された切断ライン区分を冷却するために流動性の冷却媒体を吹き付けることによって、工作物の破壊強度を超えるまで熱機械的な応力を高めることを特徴とする、脆性材料より成る工作物を迅速に切断するための方法。」

3.刊行物記載の発明
(1)刊行物1
これに対し、本願原出願の優先日前に頒布された刊行物であって、当審で通知した拒絶理由に引用された特開平9-12327号公報(以下「刊行物1」という。)には、次のように記載されている。

ア.段落0007?0008
「【0007】
【発明の実施の形態】本発明は、レーザ切断技術を使用して所望切断ラインに沿ってガラスシートを切断するシステムに関するものである。(略)。レーザ光は、所望切断ラインに沿った局所領域においてガラスシートを効果的に熱する。その結果生じた局所加熱領域内のガラスシートの温度拡張により、レーザが伝搬する行路に沿ってクラックを広げる応力が生じる。応力分布を高めそれによりクラックの伝搬を促進するため、水ジェット22により水冷却剤を付加することが望ましい。(略)
【0008】ガラス切断工程に使用されるレーザビーム16は、カットするガラス表面を熱しなければならない。(略)。材料表面が加熱される際には、その最大温度は材料の融点を超えてはならない。もし材料の融点を超えると、ガラスが冷却した後に残留熱応力が生じ、クラックが生じてしまう。」

イ.段落0025
「【0025】例1
この例では、ガウシアンパワー分布を有するCO_(2)レーザの動作を示す比較例である。」

ウ.段落0029?0030
「【0029】例2
例1に述べたものと同じ方法、装置およびレーザを使用し、レーザのパワー分布を変化させた。(略)。
【0030】
表2
レーザ速度 ピークパワー(W) 成功確率(%)
300mm/sec 90-145W 100
500mm/sec 155-195W 100
600mm/sec 200W 100
650mm/sec 200-220W 100
700mm/sec 250W 50
(略)」

エ.図1
水ジェット22を、切断ライン区分に吹き付けることが看取できる。

これらを、図面を参照しつつ、技術常識を踏まえ、本願発明に照らして整理すると、上記刊行物1には、次の発明(以下「刊行物1発明」という。)が記載されているものと認められる。

「ガラスシート10を、所望切断ラインに沿ってCO_(2)レーザ光によって切断するための方法であって、以下のステップで、つまり、
CO_(2)レーザ光を発生させ、
ガラスシート10の融点を超えない最大温度で、前記ステップで発生させたCO_(2)レーザ光をガイドして、切断ライン上に沿わせ、
切断ラインに沿ってCO_(2)レーザ光とガラスシート10とを、300mm/sec?700mm/secの速度で相対運動させることによって、温度拡張による応力を誘導させる、
ステップで行う方法において、
前記ステップでガイドされたCO_(2)レーザ光を切断ラインにガイドし、ガラスシート10を溶融させることなしに、切断しようとするガラスシート10にレーザ出力を導入し、次いで、加熱された切断ライン区分を冷却するために水ジェット22を吹き付けることによって、温度拡張によりクラックを広げる応力を生じさせる、ガラスシート10を切断するための方法。」

(2)刊行物2
同じく、当審で通知した拒絶理由に刊行物3として引用された特開平8-197271号公報(以下「刊行物2」という。)には、次のように記載されている。

ア.段落0001
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、脆性材料の割断方法及び脆性材料の割断装置に係り、(略)。」

イ.段落0028?0029
「【0028】
【実施例】以下、本発明の実施例を図面を参照して説明する。
(実施例1)図1は本発明に係る実施例1の脆性材料の割断装置及び割断方法を示す図である。
【0029】本実施例では、まず、レーザ等のビーム発生装置1によりエネルギービームを発振し、発振したエネルギービームをアッテネータ2でエネルギー調整した後、ビームホモジェナイザ3にて均一化する。そして、ビームホモジェナイザ3で均一化したビームをマスク4に通し、そのマスクイメージを結像レンズ系5と全反射ミラー6でワーク7上に結像させる。」

ウ.段落0032?0035
「【0032】(略)。
(実施例2)次に、図3は本発明に係る実施例2の脆性材料の割断方法を示す図である。図示例は、図1,2の脆性材料の割断方法に適用させることができる。
【0033】本実施例(請求項2,9)では、エネルギービームを走査手段により割断予定線上に3本、同時に走査させて照射するように構成する。このため、エネルギービームを割断予定線上に3本同時に走査して照射することができるので、割断予定線上に単数のエネルギービームを照射する場合よりも、更に亀裂伝播方向を規制して割断精度を向上させることができると同時に、割断速度を飛躍的に向上させることができる。
(実施例3)次に、図4は本発明に係る実施例3の脆性材料の割断装置及び割断方法を示す図である。図示例は、図2の割断方法に適用することができる。
【0034】(略)。本実施例(請求項3,10)では、ビーム発生装置1から発振したレーザ光をハーフミラー11,12及び全反射ミラー13によって3本に分波し、各々分波したビームを割断予定線上に投影させるように構成している。
【0035】このため、3本のビームを同一ビーム源のビーム発生装置1よりハーフミラー11,12及び全反射ミラー13によって分割して取り出し割断予定線上に各々ビームを照射することができるので、ビーム発振装置や電源を余分に増設しないで済ませることができ、装置の縮小化及び低コスト化を図ることができる。(略)」

上記記載を、図面を参照しつつ、技術常識を踏まえ整理すると、刊行物2には、以下の事項(以下「刊行物2事項」という。)が記載されていると認める。

「割断予定線上に3本のレーザビームを同時に走査して照射することにより、割断精度、速度を向上させた脆性材料の割断方法。」

4.対比・判断
刊行物1発明の「ガラスシート10」は本願発明の「脆性材料より成る工作物」に相当し、同様に、「所望切断ライン」は「任意の輪郭を有する予め与えられた切断ライン」に、「CO_(2)レーザ光」は「レーザ光線」に、「融点を超えない最大温度で」は「溶融させることなしに」に、「温度拡張による応力」は「熱機械的な応力」に、「水ジェット22」は「流動性の冷却媒体」に、「温度拡張によりクラックを広げる応力を生じさせる」は「工作物の破壊強度を超えるまで熱機械的な応力を高める」に、それぞれ相当する。
刊行物1発明の「切断ライン上に沿わせ」ることと本願発明の「切断ライン上に集束させ」ることは、「切断ライン上に照射させ」ることである限りにおいて一致する。
刊行物1発明の「300mm/sec?700mm/sec」は、「18?42m/分」であるから、本願発明の「200m/分まで」に含まれる。

そうすると、本願発明と刊行物1発明とは、以下の点で一致する。
「脆性材料より成る工作物を、任意の輪郭を有する予め与えられた切断ラインに沿ってレーザ光線によって切断するための方法であって、以下のステップで、つまり、
レーザ光線を発生させ、
工作物を溶融させることなしに、前記ステップで発生させたレーザ光線を、切断ライン上に照射させ、
切断ラインに沿ってレーザ光線と工作物とを、200m/分までの速度で相対運動させることによって、熱機械的な応力を誘導させる、
ステップで行う方法において、
前記ステップでガイドされたレーザ光線を切断ラインにガイドし、工作物を溶融させることなしに、切断しようとする工作物にレーザ出力を導入し、次いで、加熱された切断ライン区分を冷却するために流動性の冷却媒体を吹き付けることによって、工作物の破壊強度を超えるまで熱機械的な応力を高める、脆性材料より成る工作物を切断するための方法。」

そして、以下の点で相違する。
相違点1:切断するための方法について、本願発明では「迅速に」なる特定があるが、刊行物1発明では特定がない点。
相違点2:レーザ光線について、本願発明では、「複数」のレーザ光線を「結合」ガイドして切断ライン上に「集束」させ、「それぞれのレーザ光線を、それぞれ、切断しようとする工作物の表面に焦点として作用するレーザ光線横断面が前もって規定された同形状及び同じ強度分布に相当するように、形成し」、「結合」ガイドされた「複数」のレーザ光線を「相次いで」切断ラインにガイドするが、刊行物1発明では、レーザ光線が複数でない点。
相違点3:レーザ出力について、本願発明では「高い」なる特定があるが、刊行物1発明では特定がない点。

相違点1について検討する。
「迅速に」なる語は、程度を示すものであって、比較対象がない状況では、意味がないから、実質的に相違点になりえない。
仮に、相違点であるとして、以下、一応検討する。
以下の、相違点2についての検討のとおり、刊行物1発明に刊行物2事項を適用したものは、「迅速に」切断するものとなる。
よって、刊行物1発明に刊行物2事項を適用することにより、相違点1は格別なものではない。

相違点2について検討する。
本願発明の、「複数」のレーザ光線を「結合」ガイドして切断ライン上に「集束」させ、「それぞれのレーザ光線を、それぞれ、切断しようとする工作物の表面に焦点として作用するレーザ光線横断面が前もって規定された同形状及び同じ強度分布に相当するように、形成し」、「結合」ガイドされた「複数」のレーザ光線を「相次いで」切断ラインにガイドするものとは、平成23年2月3日の意見書に、参考図1?3で示されるものを含む。
刊行物2事項は、上記のとおり、「割断予定線上に3本のレーザビームを同時に走査して照射することにより、割断精度、速度を向上させた脆性材料の割断方法」であり、脆性材料のレーザ光線による割断という、刊行物1発明と同一技術分野のものである。
刊行物1発明においても、精度、速度の向上は、当然の課題であるところ、刊行物2事項は、精度、速度を向上させるものであるから、刊行物2事項の適用を試み、「結合」ガイドされた「複数」のレーザ光線を「相次いで」切断ラインにガイドするものとすることは、自然なことである。
切断ライン上に「集束」する点については、加工上、当然必要なことである。
複数のレーザ光線横断面を、「前もって規定された同形状及び同じ強度分布」とする点については、設計的事項にすぎない。
また、刊行物2事項は、刊行物2の実施例1である1本ビームのものを3本にしたものであり(上記3.(2)イ.ウ)、刊行物2の実施例3は3本ビームの発振装置を一つにしたものである(上記3.(2)ウ)から、刊行物2事項は、同じビームが3組と解することが自然である。すなわち、「前もって規定された同形状及び同じ強度分布」とすることは、刊行物2に示唆されている。
よって、刊行物1発明に刊行物2事項を適用することにより、相違点2は格別なものではない。

相違点3について検討する。
「高い」レーザ出力は、程度を示すものであって、比較対象がない状況では、意味がないから、実質的に相違点になりえない。
仮に、相違点であるとして、以下、一応検討する。
相違点2についての検討のとおり、刊行物1発明に刊行物2事項を適用したものは、「複数」のレーザ光線で切断するものとなる。その結果、「工作物に導入されるレーザ出力」は、1本のレーザ光線で切断するものに比べ「高い」レーザ出力となる。
また、一般論としても、レーザ出力を高くすることで、加工効率の向上が期待されるから、「高い」レーザ出力は、必要に応じてなしうる事項にすぎない。
よって、刊行物1発明に刊行物2事項を適用することにより、相違点3は格別なものではない。

また、相違点を総合勘案しても、格別の技術的意義が生じるとは認められない。

請求人は、意見書で、刊行物2について、図4で説明される実施例3に基づき、主張をしているが、刊行物2事項の基礎となる実施例2については、主張をしていない。
よって、請求人の主張は、採用できない。

5.むすび
本願発明は、刊行物1発明、刊行物2事項、周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものであるから、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-02-22 
結審通知日 2011-02-25 
審決日 2011-03-08 
出願番号 特願2006-64695(P2006-64695)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B28D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 青木 正博  
特許庁審判長 千葉 成就
特許庁審判官 豊原 邦雄
遠藤 秀明
発明の名称 脆弱性材料より成る工作物を迅速に切断するための方法及び装置  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 久野 琢也  
代理人 矢野 敏雄  

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