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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C07C
管理番号 1240673
審判番号 不服2007-34933  
総通号数 141 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-09-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-12-27 
確定日 2011-07-27 
事件の表示 特願2002- 75536「アクリル酸クロライドまたはメタクリル酸クロライドの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成15年10月 2日出願公開、特開2003-277319〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成14年 3月19日の出願であって、平成19年 7月 9日付けの拒絶理由通知に対して、同年 9月28日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされたが、同年11月 9日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年12月27日に審判請求がなされるとともに平成20年 1月28日付けで手続補正がなされ、同年 4月10日に審判請求書の手続補正書とともに手続補足書が提出され、平成22年 9月 9日付けで審尋がなされ、同年11月25日に回答書が提出されたものである。


第2 平成20年 1月28日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成20年 1月28日付けの手続補正を、却下する。

[理由]
1 補正の内容
平成20年 1月28日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、補正前の特許請求の範囲の請求項1である、
「メタクリル酸を重合禁止剤の存在下、ジメチルホルムアミドを触媒とし50℃?70℃の反応温度でホスゲンで反応させることを特徴とする、メタクリル酸クロライドの製造方法。」
を、
「メタクリル酸を重合禁止剤の存在下、メタクリル酸に対し1.0×10^(-2)?1.0×10^(-4)当量のジメチルホルムアミドを触媒とし50℃?70℃の反応温度でホスゲンで反応させることを特徴とする、メタクリル酸クロライドの製造方法。」
とする補正を含むものである。

2 補正の適否
(1)目的要件
上記補正は、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「ジメチルホルムアミド」について、その使用量を「メタクリル酸に対し1.0×10^(-2)?1.0×10^(-4)当量」と限定するものを含むものであって、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(2)独立特許要件
そこで、本件補正後の上記請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下、「本件補正発明」といい、上記補正後の明細書を「本件補正明細書」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについてみると、以下のとおり、本件補正発明は、その出願前に頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。
そうすると、請求項1についての上記補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するものとはいえない。
以下、詳述する。

ア 刊行物
a 特公昭47-13021号公報(原査定における引用文献1に同じ。以下、「刊行物1」という。)
b 特開昭56-104837号公報(原査定における引用文献2に同じ。以下、「刊行物2」という。)

イ 刊行物に記載された事項
(ア)刊行物1には、以下の事項が記載されている。
1a 「本発明は、酸塩化物の製造法に関する。特に本発明は、カルボン酸又は酸無水物とホスゲンとの反応による酸塩化物製造のための新規な触媒の使用に関する。」
(第1欄第19行?第22行)

1b 「それ故に、望ましくない副生物を生成するという不利益なしにホスゲンを反応体として用いて酸塩化物を低温で且つ良好な収率で製造することができる方法を見い出すことが望ましかつた。」
(第2欄第21行?第24行)

1c 「以下に記載する態様で反応を実施することによつて、所望の酸塩化物を97.4%程及びそれ以上の収率で具合よく得ることができること及び望ましくない副生物が形成されないか又は目立たない量で形成されるので、触媒を反応体とその後の接触のために反応帯域に遊離に再循環させることができることが分つた。
実施に当つて、本発明の新規な触媒は触媒的量で用いられる。用語「触媒的量」は、カルボン酸又は酸無水物とホスゲンとの間の反応に効果的な触媒作用を及ぼして所望の酸塩化物を高収率で生成させるような触媒量を意味する。」
(第6欄第19行?第30行)

1d 「本発明の方法により酸塩化物を製造するための操作温度範囲は、用いるカルボン酸の選択に左右される。一般に、脂肪族カルボン酸は約69?約120℃の範囲内の温度で反応させ得る・・・が、その適温は融点及び他の因子によつて決定される。」
(第7欄第12行?第18行)

1e 「例 1
イミダゾールを触媒として用いるラウロイルクロリドの製造
櫂形かきまぜ機、ガス導入管、サーモウエル(thermowell)及びドライアイス指形冷却器を備えた1lの3口フラスコに、ラウリン酸150g、クロルベンゼン200g及びイミダゾール0.8gを仕込んだ。フラスコをかきまぜながら90℃に加熱し、そして排出ガスがもはや発生しなくなるまでホスゲンを散布した。ホスゲン供給の間、反応温度は90?100℃であつた。1.5mm圧における113?115℃の沸点範囲にわたつて反応混合物を蒸留するとラウロイルクロリド152.6g(93%)が生成した。」
(第8欄第2行?第15行)

1f 「例 5
イミダゾールを触媒として用いるメタクリロイルクロリドの製造
1lの3口フラスコを例1における如く装備し、そしてそれにメタクリル酸215.0g及びイミダゾール0.85gを仕込んだ。
反応は例1におけると同様であつたが、しかし89?96℃の温度範囲にわたつて行つた。大気圧における99?100℃の沸点範囲にわたつてメタクリロイルクロリドが82.6%収率(215.5g)で得られた。尚、ヒドロキノンを重合抑制剤として用いた。」
(第9欄第8行?第19行)

(イ)刊行物2には、以下の事項が記載されている。
2a 「本発明は有機カルボン酸クロリドの製造方法に関する。更には簡素化された且つ経済的な品質の改良された高純度カルボン酸クロリドの製造方法に関する。
近年カルボン酸クロリドは耐熱性樹脂、農薬、医薬等の原料として工業的に重要なものとなつている。
この種のカルボン酸クロリドの製造法としてはカルボン酸・・・を・・・等で塩化する方法が一般的である。ホスゲンを用いる方法も以前から知られていたが、・・・触媒を使用する必要がある。この為触媒として、ジメチルホルムアミド(特公昭43-10613)、・・・等で提案されている。これらの触媒の中で、ジメチルホルムアミド等の低級脂肪族アミドは活性が高く、安価で且つ容易に入手できるため広く用いられている。」
(第1頁左下欄第12行?同頁右下欄第16行)

2b 「本発明の実施に際し原料として用いられるカルボン酸にはホスゲン化によつて塩素化できるすべてのカルボン酸が含まれ、たとえば、・・・アクリル酸、・・・その他のカルボン酸がある。」
(第2頁右上欄第10行?同頁左下欄第10行)

2c 「触媒の使用量は一般にカルボン酸1モル当り0.01?0.5モル、特に0.05?0.3モルが良い。
反応操作温度は30°?100℃、特に60?90℃が良い。」
(第2頁左下欄第13行?第16行)

ウ 刊行物に記載された発明
刊行物1には、カルボン酸又は酸無水物とホスゲンとを触媒を用いて反応させて酸塩化物を製造する方法が記載される(摘記1f)。
その方法の具体例として、刊行物1の例5には、「メタクリル酸215.0g」を、「イミダゾール0.85g」を触媒として、「89?96℃の温度範囲」で、「例1における如く」、すなわち「ホスゲン」を供給してこれと反応させることにより、「メタクリロイルクロリド215.5g」を得る製造方法が示され、その際に、「重合抑制剤」として「ヒドロキノン」を用いることも示されている(摘記1e、1f)。
そうすると、刊行物1には、
「メタクリル酸215.0gを、イミダゾール0.85gを触媒とし、89?96℃の温度範囲にわたってホスゲンと反応させ、その際に、重合抑制剤としてヒドロキノンを用いた、メタクリロイルクロリドの製造方法」
に係る発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

エ 対比
本件補正発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「重合抑制剤」は「ヒドロキノン」である。これに対して、本件補正発明の「重合禁止剤」とは、本件補正明細書の段落【0005】において、「ハイドロキノン」をその例に含むものであり、その「ヒドロキノン」が「ハイドロキノン」であることは当業者に明らかである。よって、引用発明の「重合抑制剤」は、本件補正発明の「重合禁止剤」に相当するといえる。
引用発明の「メタクリロイルクロリド」が、本件補正発明の「メタクリル酸クロライド」に相当することは、当業者にとって明らかである。
そうすると、両者は、
「メタクリル酸を重合禁止剤の存在下、メタクリル酸に対し触媒を用いホスゲンで反応させる、メタクリル酸クロライドの製造方法」
の点において一致し、以下の点で相違している。

(相違点1)触媒として用いる物質が、本件補正発明は、「ジメチルホルムアミド」であるのに対し、引用発明は、「イミダゾール」である点
(相違点2)酸塩化物の製造条件として、本件補正発明では触媒であるジメチルホルムアミドの触媒量を「メタクリル酸に対し1.0×10^(-2)?1.0×10^(-4)当量」とする規定があるのに対し、引用発明では触媒であるイミダゾールを「メタクリル酸215.0g」に対して「0.85g」とする規定がある点
(相違点3)酸塩化物の製造条件として、本件補正発明では反応温度を「50℃?70℃」とする規定があるのに対し、引用発明では反応温度を「89?96℃」とする規定がある点

オ 判断
(ア)相違点1について
引用発明には、カルボン酸からホスゲンでカルボン酸塩化物を製造する際の触媒として、ジメチルホルムアミドを採用することは、規定されていない。
しかしながら、カルボン酸からホスゲンでカルボン酸塩化物を製造する際の触媒として、ジメチルホルムが使用できることは、例えば刊行物2に、「カルボン酸クロリドの製造法としてはカルボン酸・・・を・・・等で塩化する方法が一般的である。ホスゲンを用いる方法も以前から知られていたが、・・・触媒を使用する必要がある。この為触媒として、ジメチルホルムアミド(特公昭43-10613)、・・・等で提案されている。これらの触媒の中で、ジメチルホルムアミド等の低級脂肪族アミドは活性が高く、安価で且つ容易に入手できるため広く用いられている。」(摘記2a)ことが示されるように、本願出願前に周知の事項である。
また、刊行物2において「本発明の実施に際し原料として用いられるカルボン酸にはホスゲン化によつて塩素化できるすべてのカルボン酸が含まれ、たとえば、・・・、アクリル酸、・・・がある」(摘記2b)ことが示されるように、アクリル酸を含む広範なカルボン酸に対する塩化にホスゲンが使用できることも、本願出願前に周知の事項である。
してみると、引用発明に規定される、触媒存在下にメタクリル酸にホスゲンを反応させてメタクリロイルクロリドを得る製造方法において、その触媒として例えば刊行物2に示されるような周知のジメチルホルムアミドを使用することは、当業者であれば容易になし得たものである。

(イ)相違点2について
引用発明の触媒の使用量は、メタクリル酸に対して0.50×10^(-2)当量[(触媒量0.85g÷触媒の分子量68.08)÷(メタクリル酸量215.0g÷メタクリル酸分子量86.09)より計算]であり、本件補正発明の触媒と、物質自体は相違するが、使用量としては本件補正発明の規定する範囲内にあり、一致している。
また、刊行物2には、カルボン酸クロリドを製造する際の触媒としてジメチルホルムアミドを含む低級脂肪族アミドを使用することが示されており、その「触媒の使用量は一般にカルボン酸1モル当り0.01?0.5モル、特に0.05?0.3モルが良い。」ことが示されていることから、本件補正発明の触媒使用量は、例えば刊行物2に示されるようなジメチルホルムアミドを含む従前の脂肪族アミド触媒の使用量と、「カルボン酸1モル当り0.01」「モル」すなわち1.0×10^(-2)当量である点において重複する。
そして、刊行物1に「用語『触媒的量』は、カルボン酸又は酸無水物とホスゲンとの間の反応に効果的な触媒作用を及ぼして所望の酸塩化物を高収率で生成させるような触媒量を意味する」(摘記1c)とあるように、触媒の使用量は適宜好適な結果が得られる範囲で定めるのが当業者の通常の創作能力の発揮の範囲内の事項であるというべきである。
すると、触媒をイミダゾールにかえてジメチルホルムアミドを用いることにあわせてその触媒の使用量を設定することは、当業者の通常の創作能力の発揮の範囲内の事項であり、具体量として、本件補正発明に規定される範囲内のものとすることに格別の困難性はない。

(ウ)相違点3について
引用発明を含む刊行物1には、「本発明の方法により酸塩化物を製造するための操作温度範囲は、用いるカルボン酸の選択に左右される。一般に、脂肪族カルボン酸は約69?約120℃の範囲内の温度で反応させ得る」(摘記1d)ことが示されており、メタクリル酸は脂肪族カルボン酸の一種であることが当業者に明らかであるから、69?70℃でも反応させ得る点で、本件補正発明に規定される範囲と重複している。
また、刊行物2には、カルボン酸クロリドを製造する際の触媒としてジメチルホルムアミドを含む低級脂肪族アミドを使用することが示されており、その「反応操作温度は30°?100℃、特に60?90℃が良い」ことが示されている(摘記2c)。このように、刊行物2に示されるようなジメチルホルムアミドを含む従前の脂肪族アミド触媒の反応温度は、本件補正発明の反応温度と、50?70℃の範囲において重複するものである。
すると、本件補正発明に規定される反応温度範囲は、従前より採用されている程度の温度であるといえ、本件補正発明に規定される範囲内のものとすることに格別の困難性はない。

(エ)効果について
本件補正発明は「温和な条件で」「反応を行なうことにより(メタ)アクリル酸クロライド自身の重合による収率低下を抑制し、しかも高収率、高純度で(メタ)アクリル酸クロライドを得ることができる」という効果(段落【0016】)を有するものである。
これに対して、刊行物1には、「望ましくない副生物を生成するという不利益なしにホスゲンを反応体として用い酸塩化物を低温で且つ良好な収率で製造する」点(摘記1b)及び「所望の酸塩化物を97.4%程及びそれ以上の収率で具合よく得ることができること及び望ましくない副生物が形成されないか又は目立たない量で形成される」点(摘記1c)が示されており、格別ではない。

カ まとめ
以上のとおり、本件補正発明は、刊行物1に記載された発明、刊行物2に記載された事項及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。したがって、本件補正発明は、その特許出願の際独立して特許を受けることができるものとはいえない。

3 むすび
以上のとおり、上記補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する特許法第126条第5項の規定に適合しないから、その余のことを検討するまでもなく、本件補正は、同法第159条第1項の規定により読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により、却下すべきものである。


第3 本願発明について
第1のとおり、本件補正は却下されることとなったから、この出願に係る発明は、平成19年 9月28日付け手続補正により補正された明細書(以下、「本願明細書」という。)の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「メタクリル酸を重合禁止剤の存在下、ジメチルホルムアミドを触媒とし50℃?70℃の反応温度でホスゲンで反応させることを特徴とする、メタクリル酸クロライドの製造方法。」
(以下、「本願発明」という。)


第4 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、
「この出願については、平成19年 7月 9日付け拒絶理由通知書に記載した理由1によって、拒絶をすべきものです。」
というものであり、
その備考欄には、
「以上のとおりであるから、本願請求項1に係る発明は先の引用文献1?6に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。」
ということが記載されている。
そしてその平成19年 7月 9日付け拒絶理由通知書に記載した理由1とは
「1.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許をうけることができない」
というものであり、
その備考欄には
「理由1について:請求項1、2
下記刊行物1に記載された発明と本願請求項1、2に係る発明とは、・・・点で相違する。・・・
一方、下記刊行物2?6には、・・・記載されている。・・・
そうしてみると、メタクリル酸を経済的に、収率よく製造する目的において、触媒として、刊行物1記載のイミダゾールに代えてジメチルホルムアミドを用いることは当業者が容易に行うことである。
そして、本願発明の詳細な説明の記載をみても本願請求項1、2に係る発明が予測し得ない格別顕著な効果を奏するものとも認められない。」
という点が指摘されている。
してみると、原査定の拒絶の理由とは、「本願請求項1に係る発明」すなわち「本願発明」は、先の引用文献1および2に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。
そして、その「引用文献1および2」とは、平成19年 7月 9日付け拒絶理由通知書に記載された「引用文献等一覧」に示される、
「1.特公昭47-13021号公報
2.特開昭56-104837号公報」
である。

以下、この理由について検討する。


第5 当審の判断
当審は、本願発明は、原査定のとおり、下記刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、と判断する。
以下、詳述する。

1 刊行物
a 特公昭47-13021号公報(原査定における「引用文献1」に同じ。また、上記第2の2(2)アに示した「刊行物1」に同じ。以下、同様に「刊行物1」とい
う。)
b 特開昭56-104837号公報(原査定における「引用文献2」に同じ。また、上記第2の2(2)アに示した「刊行物2」に同じ。以下、同様に「刊行物2」という。)

2 刊行物に記載された事項
刊行物1及び2には、上記第2の2(2)イに示したとおりの事項が記載されている。

3 引用発明
刊行物1には、上記第2の2(2)ウに示したとおりの事項が記載されており、
してみると、刊行物1には
「メタクリル酸215.0gを、イミダゾール0.85gを触媒とし、89?96℃の温度範囲にわたってホスゲンと反応させ、その際に、重合抑制剤としてヒドロキノンを用いた、メタクリロイルクロリドの製造方法」
の発明(上記第2の2(2)ウの「引用発明」に同じ。以下、同様に「引用発明」という。)が記載されているといえる。

4 対比
本願発明は、本件補正発明において触媒量の規定のないものと、実質的に同じであるから、本願発明と引用発明とを対比したとき、その内容は、上記第2の2(2)エに示したのと同じであって、引用発明の「重合抑制剤」及び「メタクリロイルクロリド」はそれぞれ本願発明の「重合禁止剤」及び「メタクリル酸クロライド」に相当するといえる。
そうすると、本願発明と引用発明とは、
「メタクリル酸を重合禁止剤の存在下、メタクリル酸に対し触媒を用いホスゲンで反応させる、メタクリル酸クロライドの製造方法」
の点において一致し、以下の点で相違している。

(相違点1’)触媒として用いる物質が、本願発明は、「ジメチルホルムアミド」であるのに対し、引用発明は、「イミダゾール」である点
(相違点3’)酸塩化物の製造条件として、本願発明では反応温度を「50℃?70℃」とする規定があるのに対し、引用発明では反応温度を「89?96℃」とする規定がある点

5 判断
相違点1’について検討するに、該相違点1’は、上記第2の2(2)エにおける相違点1に同じであり、相違点1’に係る判断の内容も上記第2の2(2)オ(ア)において相違点1に関して検討したのと同じである。
相違点3’について検討するに、該相違点3’は、上記第2の2(2)エにおける相違点3に同じであり、相違点3’に係る判断の内容も上記第2の2(2)オ(ウ)において相違点3に関して検討したのと同じである。
すなわち、相違点1’及び相違点3’に関して、引用発明に規定されるような、カルボン酸からホスゲンでカルボン酸塩化物を製造する際の触媒として刊行物2に示されるような周知のジメチルホルムアミドを用い、あわせて引用発明、刊行物1、及び刊行物2の記載を参照し、当業者の通常の創作能力を発揮し、本願発明の範囲内にその反応温度を定めることは、当業者であれば容易になし得たものである。
そしてその効果も、上記第2の2(2)オ(エ)に示したとおり刊行物1の記載より予測可能な範囲内のものであって格別ではない。

6 まとめ
以上のとおりであるので、本願発明は、刊行物1に記載された発明、刊行物2に記載された事項及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願は拒絶をすべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-04-11 
結審通知日 2011-05-10 
審決日 2011-05-23 
出願番号 特願2002-75536(P2002-75536)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C07C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 水島 英一郎  
特許庁審判長 柳 和子
特許庁審判官 東 裕子
木村 敏康
発明の名称 アクリル酸クロライドまたはメタクリル酸クロライドの製造方法  

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