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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
管理番号 1240681
審判番号 不服2008-16871  
総通号数 141 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-09-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-07-03 
確定日 2011-07-27 
事件の表示 特願2003- 51373「静電チャックおよびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 9月16日出願公開、特開2004-260088〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯・本願発明
本願は、平成15年2月27日の出願であって、平成19年9月18日付けで拒絶の理由が通知され、同19年12月14日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同20年5月9日付けで拒絶をすべき旨の査定がされ、これに対し、同20年7月3日に本件審判の請求がされ、平成20年8月1日に手続補正書が提出されたものである。
その後、当審において、平成22年2月15日付けで拒絶の理由が通知され、これに対し、平成22年4月26日に意見書及び手続補正書が提出され、さらに、当審において、平成22年7月29日付けで拒絶の理由が通知され、これに対し、平成22年10月22日に意見書及び手続補正書が提出された。
本件出願の請求項1乃至4に係る発明は、当審で提出された平成22年10月22日付けの手続補正書によって補正された明細書及び出願当初の図面の記載からみて、本願の特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に記載された発明は、次のとおりである。(以下「本願発明」という。)
「電極と、この電極を被覆し、該電極に電圧を印加することにより被吸着体を吸着する誘電性のセラミックス層とを有する静電チャックであって、前記セラミックス層は、23±3℃の範囲での熱膨張係数が-0.5×10^(-6)?0.5×10^(-6)/℃、体積抵抗率が1×10^(9)?1×10^(14)Ω・cmであり、かつ低熱膨張セラミックスであるβ-ユークリプタイトと、高ヤング率セラミックスである炭化珪素または窒化珪素との複合材料からなり、前記電極がタングステンまたはモリブデンからなる金網で構成され、
セラミックス層の厚さが0.5mm以上であり、かつ金網の線径が0.5mm以下、その開孔率が25?64.5%であることを特徴とする静電チャック。」

2 引用刊行物記載の発明
これに対して、当審での平成22年7月29日付けで通知した拒絶の理由に引用された、本願の出願前である平成13年11月9日に頒布された特開2001-313332号公報(以下「引用刊行物1」という。)、平成13年10月31日に頒布された特開2001-302338号公報(以下、「引用刊行物2」という。)、平成14年12月24日に頒布された特許第3359582号公報(以下、「引用刊行物3」という。)、及び平成10年9月2日に頒布された特開平10-233435号公報(以下、「引用刊行物4」という。)には、以下の発明ないし事項が記載されている。
(1)引用刊行物1
ア 段落【0001】
「【発明の属する技術分野】本発明は、静電吸着装置、特に軽量、低熱膨張、耐食性、耐プラズマ性に優れ、主に半導体装置や液晶装置などの製造工程における半導体ウエハの処理または搬送時における半導体ウエハの固定に使用される静電吸着装置及びそれを用いた半導体製造装置に関するものである。」
イ 段落【0023】?【0024】
「【発明の実施の形態】本発明の静電吸着装置は、少なくとも、被吸着物を吸着するための吸着面を有している。すなわち、図1に示すように、電極1が誘電体2の一方の側面である電極面3に形成されており、誘電体2の他方の側面である吸着面4にウエハなどの被吸着物5が搭載される。そして、電極1に電圧が印加されると、被吸着物5は誘電体2の吸着面4に静電的に吸着される。
誘電体2は、少なくとも被吸着物5を吸着するための吸着面4を形成しており、10?40℃における熱膨張係数が1.0×10^(-6)/℃以下、特に0.5×10^(-6)/℃以下、さらには0.2×10^(-7)/℃以下であることが重要である。熱膨張係数が小さいため、1日の温度変化や季節毎の温度変化などに左右されない精密な加工を実現することができる。」
ウ 段落【0026】
「電極1は、金属などの導電性材料を用いれば良いが、誘電体2にセラミックスを用いる場合には焼成時および加熱時における誘電体2との密着性を高めるために、高融点でセラミックスとの反応性の低い材料が好ましい。例えば、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、白金(Pt)などの耐熱性金属や、TiC、TiNなどの導電性セラミックスにより形成することが良い。」
エ 段落【0047】
「まず、基部11と誘電体13とをコージェライトを主体とするセラミックスで作製する。すなわち、10μm以下のコージェライト粉末を73?98.95重量%に対して、平均粒径が10μm以下の希土類元素酸化物粉末(例えばEr_(2)O_(3)、Yb_(2)O_(3)、Y_(2)O_(3)など)1?20重量%、特に好適には5?15重量%、さらに好適には8?12重量%の割合で添加し、さらに所望によりカーボンを0.05?2重量%の割合で添加する。なお、基部11は、絶縁性の観点でカーボンを添加しないことが好ましく、誘電体13はジョンソン・ラーベック力による大きな吸着力を得るためにカーボンを添加することが好ましい。」
オ 段落【0049】
「なお、電極12は、板状またはメッシュ状のWやMo金属などを成形体中に挿入する。また、W、MoまたはTiNなどの導電性粉体とコージェライト粉末とからなるスラリーペーストを用いて印刷法により成形体表面に導電層を形成し、電極12とすることもできる。そして、表面に電極12を有する成形体を、電極12が接触するように2枚重ね合わせ、再度プレスする。なお、印刷時に形成する電極12の形状は、円板状、格子状、メッシュ状など任意の形状にすることができる。」
カ 段落【0052】
「【実施例】図2の静電チャックを作製した。平均粒径が3μmのコージェライト粉末に対し、焼結助剤として平均粒径が1μmのY_(2)O_(3)、Yb_(2)O_(3)、Er_(2)O_(3)、CeO_(2)粉末を表1のように調合し、バインダー及び溶媒を添加して24時間混合乾燥したあと、98MPa(1t/cm^(2))の圧力にて金型成形法により成形体を作製し、基部11とした。
また、同様にして、平均粒径が2μmのカーボンおよび希土類酸化物0?20重量%を添加した原料から、成形体を作製し、誘電体13とした。そして、基部11および誘電体13に対応する成形体の表面に、タングステン粉末を用いて印刷し、電極12を有する基部11と上記誘電体13とを電極12が接触するように合わせ、CIPにより圧着した。」
キ 段落【0055】
「得られたセラミックスを研磨し、3×4×15mmの大きさに研削加工し、このセラミックスの10?40℃までの平均熱膨張係数をJIS R3251-1995に規定される方法により測定した。相対密度はJIS C2141-1992に規定された方法を用いて測定した嵩密度ならびにJIS R1620に規定された方法にて測定した粉砕試料の密度から算出した。体積固有抵抗はJISC2141-1992に規定された方法を用いて測定した。吸着力は25mm角のSi立方体と静電チャック内部の導体層間に電圧(500V)を印加して測定を行った。なお静電チャック表面は、ラップ加工により表面粗さRa<0.1に加工して測定を行った。また、ウエハの変形の評価として、10℃の温度差でのウエハ変形量を調べた。まず、300mmウエハの表面において、200mm離れた2点に20℃でレーザーマーキングを行い、20℃で2点間の距離を測定し、ずれのないことを確認した。次に、静電チャック上に300mmウエハを搭載して吸着し、200mm離れた2点に30℃でレーザーマーキングを行い、20℃で2点間の距離を測定した。結果は表1に示した。」
ク 段落【0056】の表1
表1には、試料No.16として、静電チャックの誘電体を構成するセラミックの熱膨張係数を0.3×10^(-6)/℃、体積固有抵抗を1×10^(10)Ω・mのものが記載されている。
以上アないしクの記載事項、及び図面の図2から、引用刊行物1には、「電極12と、この電極12を被覆し、該電極12に電圧を印加することにより半導体ウエハを吸着するコージェライトを主体とするセラミックスからなる誘電体13とを有する静電チャックであって、前記セラミックスは、10?40℃までの平均熱膨張係数が0.3×10^(-6)/℃、体積固有抵抗が1×10^(10)Ω・mのコージェライトを主体とするものであり、前記電極12がW、Mo、またはTiNからなるメッシュ状の導電層で構成されている静電チャック。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
(2)引用刊行物2
ケ 段落【0001】
「【発明の属する技術分野】本発明は、複合セラミックスおよびその製造方法に関し、特にエアスライド、定盤、真空装置構造体、サセプタ、静電チャック、ミラー、ステージなどといった半導体製造装置用、精密機器用、計測機器用などの各種構造部品に適した低熱膨張・高剛性の複合セラミックスおよびその製造方法に関する。」
コ 段落【0042】?【0043】
「【実施例】以下、本発明の実施例について説明する。まず、市販のユークリプタイト粉末を成形し、表1に示すように、1350℃で焼成することで直径50mm、板厚4mmの焼結体を得た。このセラミックスから3×4×15mmのサンプルを取り出し、-40?100℃の範囲で熱膨張係数を測定した(測定装置:真空理工社製RIX-1)。このサンプルの10?40℃における熱膨張係数は表1に示すように-0.53×10^(-6)/℃であり、その結晶相はβユークリプタイトであった。また、超音波パルス法により、室温でのヤング率を測定したところ、ヤング率は表1に示すように100GPaであり低剛性のものであった(試料No.1)。
また、窒化ケイ素、炭化ケイ素のそれぞれの粉末を用い、成形体を表1の条件で焼成し同様の焼結体を得た。同様にして熱膨張係数およびヤング率を測定した結果、表1に示すように何れもヤング率は大きいものの、熱膨張係数は窒化ケイ素が1.5×10^(-6)/℃であり炭化ケイ素が2.5×10^(-6)/℃であった(試料No.2、3)。」
サ 段落【0044】?【0045】
「次に、試料No.1のユークリプタイト粉末に、試料No.2の窒化ケイ素粉末または試料No.3の炭化ケイ素粉末またはこれらの両方を表1に示す割合で添加し、ボールミルで24時間混合した後、1tonf/cm^(2) の圧力で金型成形した。そして、その成形体を表1の条件で焼成して、10?40℃での熱膨張係数、室温でのヤング率を測定した。その結果を表1に示す。
表1の結果から明らかなように、ユークリプタイト焼結体である試料No.1に窒化ケイ素および炭化ケイ素の少なくとも一方を添加した試料4?33は、試料1に比しヤング率が増大した。また、熱膨張係数も試料2、3よりも小さい値が得られた。」
シ 段落【0050】の表1
表1には、試料No.10?16、20?25等に、ユークリプタイトと炭化珪素または窒化硅素との複合材料からなり、10?40℃における熱膨張係数が-0.5×10^(-6)?0.5×10^(-6)/℃のセラミックスが記載されている。
以上ケないしシの記載事項から、引用刊行物2には、「βユークリプタイトと炭化珪素または窒化硅素との複合材料からなり、10?40℃における熱膨張係数が-0.5×10^(-6)?0.5×10^(-6)/℃のセラミックスを用いた静電チャック。」(以下、「引用刊行物2記載事項」という。)が記載されていると認められる。
(3)引用刊行物3
ス 段落【0017】?【0018】
「図1(a)は本発明の静電チャック1の一例を示す一部を破断した斜視図、(b)は(a)のX-X線断面図で、被吸着物である半導体ウエハWと略同等の大きさを有する円盤状をした板状セラミック体2からなり、この板状セラミック体2の上面を半導体ウエハWを保持する吸着面3とするとともに、板状セラミック体2の内部に図2に示すような外形状が円形をした格子状の金網状電極4を埋設したもので、この金網状電極4は板状セラミック体2の下面に接合された給電端子5と電気的に接続されている。
金網状電極4は、半導体ウエハWを大きな静電吸着力でもって固定する観点から、その大きさを板状セラミック体2中に埋設することができる範囲でできるだけ大きくすることが好ましく、また、均一な静電吸着力や後述するように均一なプラズマを発生させるためには開口部4aの大きさができる限り揃ったものを用いるとともに、金網状電極4を構成する各線材との交点が離れないように予め電気アーク溶接、スポット溶接、摩擦接合、メッキ法などの方法でもって接合しておくか、あるいは3次元的に絡み合うように織ったものを用いることが良い。」
セ 段落【0027】?【0030】
「そして、金網状電極4の面積を大きくするには、線材の径を大きくしたり、線材間の間隔を狭くすれば良く、いずれにおいても金網状電極4の開口率を調整することによって達成することができる。
そして、金網状電極4の開口率が80%を越えると、金網状電極4の面積が小さくなり過ぎるため、十分な大きさの静電吸着力を発現させることができず、また、残留吸着力が残り易くなるため、半導体ウエハWの離脱応答性が悪い。
ただし、金網状電極4の開口率が50%よりも小さくなると、金網状電極4の面積が大きくなり過ぎるために、板状セラミック体2の曲げ強度や耐熱衝撃性が大幅に低下する。
従って、静電チャック1の強度や耐熱衝撃性を大幅に低下させることなく、静電吸着力を高めかつ残留吸着力を速やかに逃がすためには、金網状電極4の開口率を50?80%とすることが重要である。」
ソ 段落【0050】の表1
表1には、試料番号3?6において、静電チャック1に設ける金網状電極4の線径を0.122mm、開口率を50?80%とすることが示されている。
タ 段落【0051】?【0052】
「この結果、吸着力は、金網状電極4の開口率を80%以下とすることで急激に向上するとともに、残留吸着力を殆ど無くすことができることが判る。ただし、金網状電極4の開口率が50%未満では、板状セラミック体2の曲げ強度が200MPa以下にまで低下するとともに、昇温時に板状セラミック体2に割れが発生するものがあった。
よって、金網状電極4の開口率を50?80%とすることで、大きな吸着力が得られるとともに、残留吸着力が殆どなく、曲げ強度や耐熱衝撃性の劣化の少ない静電チャック1とできることが判る。」
以上スないしタの記載事項から、引用刊行物3には、「線径を0.122mm、開口率を50?80%とし、各線材との交点が離れないように予め電気アーク溶接、スポット溶接、摩擦接合、メッキ法などの方法でもって接合しておくか、あるいは3次元的に絡み合うように織ったものを用いた金網状電極4を有する静電チャック。」(以下、「引用刊行物3記載事項」という。)が記載されていると認められる。
(4)引用刊行物4
チ 特許請求の範囲の請求項1
「 基盤と、基盤上面に広がる電極と、電極を覆う誘電層と、を備えた静電チャックであって;上記電極の面積が該チャックの吸着面の面積の50%以下であることを特徴とする静電チャック。」
ツ 段落【0014】?【0015】
「図1(A)に示すように、電極3、3′は、直角に交わる格子状とした。格子の線幅は0.5?5mm、線間隔は1.5?15mmが好ましい。図1(A)の例では線幅0.5mm、線間隔3mm、電極面積比率は約30%である。接点6は中心寄りに設けてある。なお、符号11は、必要に応じて設けられるガス供給穴であり、符号13はリフトピン用穴である。
【実施例】実験に用いた静電チャックの誘電層は、酸化アルミニウムを主成分とし酸化チタン、酸化クロムを適当量添加して焼成したセラミックス製とし、その体積抵抗率は10^(11)Ωcm、誘電層の厚さは500μm 、比誘電率8.5、表面粗さRaは0.25μmとした。吸着ウェハはベアシリコンウェハとした。電極はW製とし、基盤は誘電層と同一の素材とした。」
テ 段落【0019】の表1、段落【0020】の表2
表1、表2には、実施例1、6、11として、静電チャックの電極の面積比率が50%であるものが記載されている。
以上チないしテの記載事項から、引用刊行物4には、「線幅を0.5mm、電極面積比率を50%とし、各電極3、3’が直角に交わる格子状とし、誘電層の厚さを500μmとした静電チャック。」(以下、「引用刊行物4記載事項」という。)が記載されていると認められる。

3 対比
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「電極12」、「半導体ウエハ」、「セラミックスからなる誘電体13」、「W」、「Mo」は、それぞれ、本願発明の「電極」、「被吸着体」、「誘電性のセラミックス層」、「タングステン」、「モリブデン」に相当する。
一般に、熱膨張係数は、温度により多少変化するだけのものであることから、引用発明の「10?40℃までの平均熱膨張係数を0.3×10^(-6)/℃」は、本願発明の「23±3℃の範囲での熱膨張係数が-0.5×10^(-6)?0.5×10^(-6)/℃」に含まれることは明らかである。
引用発明の「体積固有抵抗を1×10^(10)Ω・m」が、本願発明の「体積抵抗率が1×10^(9)?1×10^(14)Ω・cm」に含まれることも明らかである。
引用発明の「メッシュ状の導電層」は、「網目状導電層」という限りで、本願発明の「金網」と共通する。
以上の点から、両者は「電極と、この電極を被覆し、該電極に電圧を印加することにより被吸着体を吸着する誘電性のセラミックス層とを有する静電チャックであって、前記セラミックス層は、23±3℃の範囲での熱膨張係数が-0.5×10^(-6)?0.5×10^(-6)/℃、体積抵抗率が1×10^(9)?1×10^(14)Ω・cmであり、前記電極がタングステンまたはモリブデンからなる網目状導電層で構成される静電チャック。」で一致し、以下の点で相違している。
<相違点1>
誘電性のセラミックス層に関して、本願発明では、「低熱膨張セラミックスであるβ-ユークリプタイトと、高ヤング率セラミックスである炭化珪素または窒化珪素との複合材料からな」るものと特定し、また、セラミックス層の厚さを「0.5mm以上」と特定しているのに対して、引用発明では、セラミックスはコージェライトを主体とするものであり、また、その厚さについては不明な点。
<相違点2>
電極を構成する網目状導電層として、本願発明では、「線径が0.5mm以下、その開孔率が25?64.5%である金網」を用いているのに対して、引用発明では、単にメッシュ状の導電層であって、線径、開孔率に関して不明な点。

4 当審の判断
(1)<相違点1>について
引用刊行物2記載事項は、「βユークリプタイトと炭化珪素または窒化硅素との複合材料からなり、10?40℃における熱膨張係数が-0.5×10^(-6)?0.5×10^(-6)/℃のセラミックスを用いた静電チャック。」である。
引用発明も引用刊行物2記載事項も、ともに静電チャックに関するものであり、熱膨張係数もほぼ同様の数値であるところ、引用刊行物2記載事項におけるセラミックスを引用発明におけるセラミックスからなる誘電体13に適用できないとする阻害要因も格別見当たらないことからすれば、引用発明において、セラミックスからなる誘電体として引用刊行物2記載事項のβユークリプタイトと炭化珪素または窒化硅素との複合材料からなるセラミックスを用いることは、当業者が容易に想到することができたことである。
また、静電チャックにおいて、セラミック層の厚さとして0.5mm程度のものは引用刊行物4記載事項に見られるように従来周知の事項であり、また、セラミック層の厚さの下限値を0.5mmとすることに臨界的意義が見出せないので、この点は、単なる設計的事項に過ぎない。
(2)<相違点2>について
引用刊行物3記載事項は、「線径を0.122mm、開口率を50?80%とし、各線材との交点が離れないように予め電気アーク溶接、スポット溶接、摩擦接合、メッキ法などの方法でもって接合しておくか、あるいは3次元的に絡み合うように織ったものを用いた金網状電極4を有する静電チャック。」である。また、引用刊行物4記載事項は、「線幅を0.5mm、電極面積比率を50%とし、各電極3、3’が直角に交わる格子状とし、誘電層の厚さを500μmとした静電チャック。」である。このように、静電チャックの電極に用いられる金網の線径を0.5mm以下とすることは引用刊行物3記載事項に見られ、開口率、すなわち、本願発明で言う開孔率を50%程度とすることも、引用刊行物3記載事項、引用刊行物4記載事項に見られるように従来周知の事項であることからすれば、引用発明においても、メッシュ状の電極を、線径0.5mm以下の金網とし、また、開孔率を50%程度のものとすることは、当業者にとって格別の困難性を有するものではない。
なお、請求人は、平成22年10月22日付け意見書において、「引用例3(当審注:引用刊行物3である特許第3359582号公報)には、金網状電極を用いた静電チャックが開示されており、金網状電極が占める面積に対する開口部の割合を50?80%としたことが開示されておりますが、ここでの金網状電極は交点が固定されており、これは本件発明でいう金網とは異なり、むしろパンチングメタルに近いものであります。パンチングメタルについては、開孔率が25?40.2%(請求項2参照)であり、50?80%は本発明の範囲から外れるものとなります。」(第3頁第26行?第31行。)と主張している。
しかしながら、本願発明は、特許請求の範囲の請求項1で特定されているとおり、単に、「金網で構成され」と特定されているだけであって、金網の交点が固定されているのかいないのかが特定されているものではない。
また、本件出願の明細書の段落【0044】の表1、段落【0045】の表2を参照しても、板厚や線径が0.5mm以下の実施例1?8、実施例11?15の評価結果からは、実施例6に見られるように開孔率が20.9%、実施例13に見られるように開孔率が19.6%の時に、割れおよび剥離が僅かに存在していたものとしているだけであって、開孔率の上限値について不適なものがあることを示してはいない。したがって、引用刊行物3に記載されたものはパンチングメタルに近いものであって、開孔率が高すぎるという請求人の主張は採用することができない。
(3)作用ないし効果について
本件出願の段落【0044】の表1、段落【0045】の表2の実施結果については、上記(2)で言及したとおりであるので、本願発明が奏する作用ないし効果は、引用発明、および引用刊行物2ないし4記載事項から予測し得る範囲のものでしかない。
(4)まとめ
したがって、本願発明は、引用発明、および引用刊行物2ないし4記載事項を採用することにより、当業者が容易になし得たものである。

5 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用刊行物1に記載された発明に、引用刊行物2ないし4に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項2ないし4に係る発明について検討するまでもなく、特許法第29条第2項の規定により、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-04-11 
結審通知日 2011-05-10 
審決日 2011-05-23 
出願番号 特願2003-51373(P2003-51373)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岡澤 洋松永 謙一  
特許庁審判長 野村 亨
特許庁審判官 菅澤 洋二
遠藤 秀明
発明の名称 静電チャックおよびその製造方法  
代理人 高山 宏志  

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