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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G11B
管理番号 1240799
審判番号 不服2008-2169  
総通号数 141 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-09-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-01-28 
確定日 2011-07-28 
事件の表示 特願2001- 54778「光記録媒体」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 9月13日出願公開、特開2002-260281〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
1.手続の経緯

本願は、平成13年2月28日の出願であって、平成19年12月21日付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成20年1月28日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同日付けで手続補正がなされ、さらに、同年2月26日付けで手続補正がなされたものである。
その後、平成22年5月24日付けで前置報告に基づく審尋がなされ、同年8月2日付けで回答書が提出され、当審において平成23年1月17日付けで拒絶理由が通知され、同年3月28日付けで手続補正がなされたものである。


2.本願発明

本願の請求項1及び2に係る発明は、平成23年3月28日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に記載された発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。

「【請求項1】 光照射により、記録層が非晶質相と結晶相の可逆的相変化を利用した相変化記録層を有し、光入射面が透明基板側であり、透明基板上に下部誘電体保護層、記録層、上部誘電体保護層、SiCからなる第2上部誘電体保護層、AgまたはAg合金からなる反射放熱層の順に積層した光記録媒体であって、
前記下部誘電体保護層がZnS、SiO_(2)の混合物からなり、混合比ZnS:SiO_(2)が50:50?85:15(モル比)であり、
前記上部誘電体保護層がZnS、SiO_(2)、ZrO_(2)の混合物からなり、混合比が(ZnS)x(ZrO_(2))y(SiO_(2))100-x-y(ここで、30<x<70、30<y<70)であり、
前記記録層がSb、Teを主要構成元素とし、Ag、In、Geの3元素添加され、組成比が、XαSbβTe(100-α-β)(ここで、X:Ag、In、Ge、0<α<15、60<β<80)であることを特徴とする光記録媒体。」


3.引用例

これに対して、当審の拒絶理由において引用した本願の出願前に頒布された刊行物である特開2000-331378号公報(以下、「引用例1」という。)には図面とともに次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付した。

ア)
「【0004】
【課題を解決するための手段】本発明の光ディスクは、基板上の記録膜が、下部保護層/相変化記録層/多層の上部保護層/銀を主成分とする反射放熱層を有する構成であって、かつ前記反射放熱層と接触する上部保護層が硫黄を含まない誘電体であることを特徴とする。この結果、前記多層の上部保護層が2層である場合には、本発明の記録型光ディスクの構造は、基板/下部保護層/相変化記録層/上部誘電体その1/上部誘電体その2/Ag系合金反射放熱層のような構成となる。
【0005】反射放熱層としては、AgあるいはAgを主成分とするAg系合金が用いられる。このようなAg系材料を用いることにより、Agは、熱伝導がAlより優れているために、Alと同じ放熱効果を得るのに反射放熱層は薄くて良い。さらにAgは同一電力でのスパッタレートがAlの3倍速い。このため、より薄い薄膜の放熱層を、より速く成膜でき、薄膜形成時の基板の温度上昇が抑えられる。
【0006】ただAgあるいはAgを主成分とするAg系合金は硫黄と接触すると硫化して変化するので、前記上部誘電体保護層を多層とし、Ag系反射放熱層と接触する上部誘電体保護層を硫黄を含まない誘電体層とすることにより、Ag系反射放熱層のAgが硫化するのを防止して、Ag系材料でも良好な保存信頼性を得ることができる。
【0007】前記の硫黄を含まない誘電体を構成する材料としては、AlN、SiNx、SiAlN、TiN、BNおよびTaNよりなる群から選ばれた少なくとも1種の窒化物、Al_(2)O_(3)、MgO、SiO、SiO_(2)、TiO_(2)、B_(2)O_(3)、CeO_(2)、CaO、Ta_(2)O_(6)、ZnO、In_(2)O_(3)およびSnO_(2)よりなる群から選ばれた少なくとも1種の酸化物あるいはWC、MoC、TiCおよびSiCよりなる群から選ばれた少なくとも1種の炭化物が挙げられる。
【0008】また、反射放熱層と接触しない上部保護層および下部保護層を構成する材料としては、光ディスクの保護層を構成する材料として通常用いられているものが挙げられるが、特にZnS-SiO_(2)が好ましい。」

イ)
「【0012】本発明の光ディスクの記録層の各層の膜厚は、光学的、熱的特性から最適化されたものを採用されるが、635nmの光を用いるDVD系メディアの場合、下部誘電体保護層2として、ZnS-SiO2のような屈折率2付近の誘電体を用いる場合、50?250nm程度、好ましくは50?80nmまたは160?220nm程度である。相変化型記録層3は熱的な理由で急冷構造の方がマーク形成がきれいにできやすいため、カルコゲン系、例えばAgInSbTe系、GeSbTe系などの場合には、8?30nm、好ましくは13?22nm程度である。上部誘電体層4、5も放熱層へ熱を導かねばならないのであまり厚くすることはできない。合計で7?60nm程度、望ましくは10?30nm程度が好ましい。反射放熱層は反射率が飽和するのは80nm以下で良いが、放熱性をよくしてくり返し書き換えの信頼性を向上させるためには100?200nmが好ましい。」

ウ)
【0014】、【0017】の【表1】に示される実施例1には、基板/下部保護層/相変化記録層/上部誘電体その1/上部誘電体その2/Ag系合金反射放熱層の構成を、
PO(ポリオレフィン基板)/PC(ポリカーボネート基板)/ZnS-SiO_(2)/AgInSbTe/GeSbTe/ZnS-SiO_(2)/SiC/Ag とした実施例が開示されている。


前掲ア)ないしウ)の記載事項及び図面からみて、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。

「基板/下部保護層/相変化記録層/上部誘電体その1/上部誘電体その2/Ag系合金反射放熱層の構成からなる記録型光ディスクであって、
下部保護層を構成する材料がZnS-SiO_(2)であり
相変化記録層を構成する材料がAgInSbTe系であり、
上部誘電体その1を構成する材料がZnS-SiO_(2)であり、
上部誘電体その2を構成する材料がSiCであり、
反射放熱層がAgあるいはAgを主成分とするAg系合金である
記録型光ディスク。」


同じく、当審の拒絶理由において引用した本願の出願前に頒布された刊行物である特開2000-348380号公報(以下、「引用例2」という。)には図面とともに次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付した。

エ)
「【0013】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記の如くZnSと主にSiO_(2)とから成る誘電体層を用いた光記録媒体は種々提案されているが、これらは以下のような問題点があった。上記従来例1では、ZnSと酸化シリコン又はZnSと酸化タンタルから成る混合膜からなる誘電体保護層を用いているが、ZnSと酸化シリコンの場合記録ビットのジッター特性が不十分であり、ZnSと酸化タンタルの場合酸化変質し易いために信頼性が低下する。また、従来例2においても、ZnSと酸化シリコン又はZnSと酸化タンタルから成る混合膜からなる誘電体保護層を用いており、従来例1と同様の問題点があった。」

オ)
「【0017】
【課題を解決するための手段】本発明の光記録媒体は、透明基板上に、照射する光の出力に応じて非晶質又は結晶質に相変化する記録層と反射層とが設けられ、該記録層の少なくとも一方の界面に、屈折率が1.5以上の酸化物と硫化亜鉛を主成分とする透明誘電体層を積層したことを特徴とする。
【0018】本発明は、上記構成により、透明誘電体層の屈折率が大きくなり、その結果透明誘電体層での光の干渉効果によるエンハンスメント効果が増大し再生時の信号強度(振幅)が大きくなるので、C/N比が向上し、ジッター特性が良好になる。また機械的強度が向上しかつ加熱時の化学的安定性に優れるため、繰り返し記録、消去、再生に対する耐久性も高まる。」

カ)
「【0024】上記第一透明誘電体層2及び第二透明誘電体層4の組成は、屈折率1.5以上の酸化物と硫化亜鉛(ZnS)を主成分とするが、好ましくはZnS・ZrO_(2),ZnS・Al_(2)O_(3)である。(ZnS)_(d)(ZrO_(2))e(d+e=100モル%)とした場合、d=50?95モル%が良く、d<50モル%では屈折率が低下し光の干渉によるエンハンスメント効果を出しにくくなる。d>95モル%では(ZnS)_(d)(ZrO_(2))_(e)粒子の粒径が大きくなり再生時のノイズが大きくなる。また、e=5?50モル%が良く、e<5モル%では(ZnS)_(d)(ZrO_(2))_(e)粒子の粒径が大きくなり再生時のノイズが大きくなり、e>50モル%では屈折率が低下しエンハンスメント効果が小さくなる。ZnS・Al_(2)O_(3)の場合も同様である。
【0025】また、ZnS・ZrO_(2)に酸化物等から成るMaを添加しても良く、ZnS・(ZrO_(2)Ma)と表した場合、Maは酸化珪素(SiO_(2)),酸化アルミニウム(Al_(2)O_(3)),酸化チタン(TiO_(2)),窒化珪素(Si_(3)N_(4)),炭化珪素(SiC),窒化チタン(TiN),炭化チタン(TiC),窒化アルミニウム(AlN),炭化ジルコニウム(ZrC),酸化イットリウム(Y_(2)O_(3)),酸化マグネシウム(MgO),酸化ニッケル(NiO),酸化ホウ素(B_(2)O_(3)),酸化クロム(Cr_(2)O_(3)),酸化カルシウム(CaO)のうちの少なくとも1種を含む。これらの物質Maを添加すると、繰り返し記録再生に対する耐久性が向上する。
【0026】一方、ZnS・Al_(2)O_(3)の場合も同様に、酸化アルミニウム(Al_(2)O_(3))を除く上記Maを添加しても良い。
【0027】上記Maの添加量は、ZrO_(2)に対して(ZrO_(2))_(100-f)(Ma)_(f)とした場合、f=0?50モル%が好ましく、f>50モル%では第一透明誘電体層2及び第二透明誘電体層4の屈折率が小さくなり、再生時の信号強度が小さくなる。ZnS・Al_(2)O_(3)の場合も同様である。」

キ)
【0041】の【表2】に示される実施例の「NO2」には、透明誘電体層の主成分であるZnS・ZrO_(2)に添加成分(Ma)としてSiO_(2)を20(モル%)添加した実施例が開示されている。ここで、前掲カ)の【0027】から明らかなように、SiO_(2)の添加量20(モル%)とはZrO_(2)に対するSiO_(2)の添加量を示している。


同じく、当審の拒絶理由において引用した本願の出願前に頒布された刊行物である特開2000-339751号公報(以下、「引用例3」という。)には図面とともに次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付した。

ク)
「【0031】第1誘電体層は、ZnSSiO_(2)(20mol%)が、その総合的な品質が良好であることから汎用的に使われている。しかし、ZnSSiO_(2)(20mol%)を用いた第1誘電体層をより薄くした場合、特に、65nm以下にした場合、DVDの再生波長での信号が十分でなくなる。光学的には、より屈折率の大きな層、たとえばZnSにすることで、DVDの再生波長でも信号が得られ、かつ第1誘電体層を薄くできる。しかし、第1誘電体層と基板あるいはAgInSbTe層との界面で、オーバーライトによる剥離や原子の拡散が生じる。本発明では、そのような不具合を低減し、より薄い第1誘電体層でDVD再生波長の信号も十分取れるようにするために、第1誘電体層を高屈折率層と低屈折率層の2層構造としている。界面剥離を重視すれば、基板と記録層の界面は、従来のZnSSiO_(2)(20mol%)とし、中央をZnSとすることも可能である。スパッタ膜構成としては、基板/ZnSSiO_(2)(20mol%)/ZnS(高屈折率層)/ZnSSiO_(2)(20mol%)/記録層/第2誘電体層/合金または金属層となる。しかし、望ましくは、第1誘電体層が2チャンバーで製膜されることを考えると、基板/ZnSSiO_(2)(20mol%)/ZnS(高屈折率層)/記録層/第2誘電体層/合金または金属層、あるいは基板/ZnS(高屈折率層)/ZnSSiO_(2)(20mol%)/記録層/第2誘電体層/合金または金属層が望ましい。」

ケ)
「【0038】
【実施例】以下、実施例によって本発明を具体的に説明する。
実施例1?8
幅0.5μm、深さ35nmのグルーブを有する1.2mm厚のポリカーボネート基板に、以下の実施例1?8に示す第1誘電体層、記録層、第2誘電体層、合金または金属層を枚葉形スパッタ装置によって、7秒タクトで連続製膜し、次いで、紫外線硬化樹脂のスピンコートによるハードコート、オーバーコートを形成し、相変化形光記録媒体を作製した。第1誘電体および第2誘電体層は、ZnSSiO2を用いた。反射層は、アルミニウム合金を用いた。ついで、大口径のLDを有する初期化装置によって、ディスクの記録層の結晶化処理を行った。このようにして得た相変化形光記録媒体の再結晶化上限線速度の評価は、波長780nm、NA0.5のピックアップを搭載したテスターを用いて、13mWのDC光照射で行った。実施例1?8の相変化形光記録媒体の再結晶化上限線速度、初期化前の反射率、4X速度(4.8m/s)記録および8X速度(9.6m/s)記録の最適記録パワーでのオーバーライト1000回後の1X速度再生のジッターと保存推定寿命を下表に示した。記録方法は、オレンジブックIIIVer1.0に準じた。CD4X速度記録の消去パワー(Pe4)と記録パワー(Pw4)の比(Pe4/Pw4)を0.5とし、CD8X速度記録の消去パワー(Pe8)と記録パワー(Pw8)の比(Pe8/Pw8)も0.5とした。いずれの相変化形光記録媒体も、4Xおよび8Xのいずれの記録線速度でもオーバーライト後のジッターは35ns以下とオレンジブック規格を満足した。又、推定寿命も20年以上であった。一方、比較例1では、その再結晶化上限線速度が4.1m/sと小さく、4X速度記録のオーバーライト特性は十分でなかった。8X速度記録にいたっては、測定が可能な信号が得られなかった。」

コ)
【0039】の【表1】に示される「実施例6」には、Ag_(0.5)In_(8)Sb64Te_(27)に記録層添加元素種としてGeを0.5添加した記録層組成(at%)が開示されている。


4.対比

本願発明と引用発明1と対比する。
(1)引用発明1の「記録型光ディスク」は、本願発明の「光記録媒体」に相当し、引用発明1の記録型光ディスクの記録層である「相変化記録層」は、本願発明の「光照射により、記録層が非晶質相と結晶相の可逆的相変化を利用した相変化記録層」に相当する。

(2)引用発明1の光記録媒体は「基板/下部保護層/相変化記録層/上部誘電体その1/上部誘電体その2/Ag系合金反射放熱層」の構成からなるものであるから、光照射面はAg系合金反射放熱層の反対側である基板側であることは明らかであって、かかる基板が透明基板であることは自明であるから、本願発明と引用発明1とは、基板が「透明基板」であって「光入射面が透明基板側」である点で共通している。

(3)引用発明1の「ZnS-SiO_(2)」で構成される「下部保護層」は、本願発明の「下部誘電体保護層」に相当し、本願発明と引用発明1とは、「前記下部誘電体保護層がZnS、SiO_(2)の混合物」からなる点で共通している。

(4)引用発明1の「上部誘電体その1」は、本願発明の「上部誘電体保護層」に相当する。

(5)引用発明1の「SiC」で構成される「上部誘電体その2」は、本願発明の「SiCからなる第2上部誘電体保護層」に相当する

(6)引用発明1の「AgあるいはAgを主成分とするAg系合金である」「反射放熱層」は、本願発明の「AgまたはAg合金からなる反射放熱層」に相当する。

(7)引用発明1の「相変化記録層」は「AgInSbTe系」を用いていることから、本願発明と引用発明1とは、「記録層が少なくともSb、Te、Ag、Inを構成元素としている」点で共通している。

(8)引用発明1の記録型光ディスクは「基板/下部保護層/相変化記録層/上部誘電体その1/上部誘電体その2/Ag系合金反射放熱層」の順に積層されているので、本願発明と引用発明1とは「透明基板上に下部誘電体保護層、記録層、上部誘電体保護層、SiCからなる第2上部誘電体保護層、AgまたはAg合金からなる反射放熱層の順に積層」されている点で共通している。

以上のことからすると、本願発明と引用発明1とは、

「光照射により、記録層が非晶質相と結晶相の可逆的相変化を利用した相変化記録層を有し、光入射面が透明基板側であり、透明基板上に下部誘電体保護層、記録層、上部誘電体保護層、SiCからなる第2上部誘電体保護層、AgまたはAg合金からなる反射放熱層の順に積層した光記録媒体であって、
前記下部誘電体保護層がZnS、SiO_(2)の混合物からなり、
前記記録層が少なくともSb、Te、Ag、Inを構成元素としている光記録媒体。」

である点で一致し、次の相違点で相違する。

(相違点1)
上部誘電体保護層に関して、本願発明では、「上部誘電体保護層がZnS、SiO_(2)、ZrO_(2)の混合物からなり、混合比が(ZnS)x(ZrO_(2))y(SiO_(2))100-x-y(ここで、30<x<70、30<y<70)」としているのに対して、引用発明1では、ZnS-SiO_(2)を用いている点。

(相違点2)
下部誘電体保護層であるZnS、SiO_(2)混合物の混合比に関して、本願発明では、「混合比ZnS:SiO_(2)が50:50?85:15(モル比)」としているのに対して、引用発明1では、ZnS-SiO_(2)の混合比を特定していない点。

(相違点3)
少なくともSb、Te、Ag、Inを構成元素とする記録層の組成に関して、本願発明では、「記録層がSb、Teを主要構成元素とし、Ag、In、Geの3元素添加され、組成比が、XαSbβTe(100-α-β)(ここで、X:Ag、In、Ge、0<α<15、60<β<80)」としているのに対して、引用発明1では、Geが添加されておらず組成比も特定していない点。


5.当審の判断

上記相違点について検討する。

(相違点1)について
引用例2には、相変化型の記録層を有する光記録媒体において、該記録層の少なくとも一方の界面に、酸化物と硫化亜鉛を主成分とする透明誘電体層を積層することにより、従来のZnSとSiO_(2)とから成る誘電体層を用いた光記録媒体に比べて、ジッター特性、繰り返し記録、耐久性が高まるという技術事項が開示されている(前掲エ)、オ)参照。)。
引用例2では、前記酸化物と硫化亜鉛を主成分とする透明誘電体層として、ZnS・ZrO_(2)を用いており、さらに、このZnS・ZrO_(2)に添加物としてSiO_(2)を添加しても良いとし、ZrO_(2)に対して20(モル%)添加した実施例が開示されている(前掲カ)、キ)参照。)。
ここでSiO_(2)を添加した場合の(ZnS)(ZrO_(2))(SiO_(2))の混合比について検討すると、引用例2では、(ZnS)(ZrO_(2))の混合比については(ZnS)_(d)(ZrO_(2))_(e)(d+e=100モル%)とした場合、d=50?95モル%が良いとしていることから、d=50?70モル%を選択することも任意であって、この場合においてSiO_(2)をZrO_(2)に対して20(モル%)添加した誘電体層全体の混合比(ZnS)x(ZrO_(2))y(SiO_(2))100-x-yは、x=45?64、y=45?32となり、本願発明の混合比「(ZnS)x(ZrO_(2))y(SiO_(2))100-x-y(ここで、30<x<70、30<y<70)」を満たしている。
してみると、引用例2には、本願発明の「(ZnS)x(ZrO_(2))y(SiO_(2))100-x-y(ここで、30<x<70、30<y<70)」を満たす誘電体層が実質的に開示されているといえる。

光記録媒体の技術分野において、ジッター特性や繰り返し記録に対する耐久性を高めることは共通の課題であるから、引用例2に開示されている、記録層の少なくとも一方の界面に、(ZnS)_(d)(ZrO_(2))_(e)(d+e=100モル%、d=50?70モル%を選択)にSiO_(2)をZrO_(2)に対して20(モル%)添加した誘電体層、すなわち、「(ZnS)x(ZrO_(2))y(SiO_(2))100-x-y(ここで、30<x<70、30<y<70)」を満たす誘電体層を用いるという技術事項を、引用発明1の記録層の一方の界面である「上部誘電体その1」に適用し、「上部誘電体保護層がZnS、SiO_(2)、ZrO_(2)の混合物からなり、混合比が(ZnS)x(ZrO_(2))y(SiO_(2))100-x-y(ここで、30<x<70、30<y<70)」とすることは、当業者であれば容易に想到しうるものであり、この点に格別の技術的困難性は認められない。

(相違点2)について
引用例3には、光記録媒体の誘電体層としてZnSSiO_(2)(20mol%)を用いることが開示されており(前掲ク)参照。)、引用発明1の下部誘電体保護層であるZnS、SiO_(2)混合物として、引用例3に開示されたZnSSiO_(2)(20mol%)を用いること、すなわち、「混合比ZnS:SiO_(2)が50:50?85:15(モル比)」を満たすZnSSiO_(2)を用いることは、当業者であれば適宜為しうる事項である。

(相違点3)について
引用例3には、光記録媒体の記録層としてAg_(0.5)In_(8)Sb_(64)Te_(27)に記録層添加元素種としてGeを0.5添加した記録層組成(at%)が開示されいる(前掲コ)参照。)。引用例3に開示された前記記録層組成は、Ag、In、Geの合計の組成比αが9となり、Sbの組成比βが64であり、Teの組成比が27であるからSbとTeの合計の組成比は91となりSbとTeが主要構成元素であるといえるから、本願発明の「記録層がSb、Teを主要構成元素とし、Ag、In、Geの3元素添加され、組成比が、XαSbβTe(100-α-β)(ここで、X:Ag、In、Ge、0<α<15、60<β<80)」を満たしていることは明らかである。そして、引用例3では、前記記録層組成を用いることにより、高線速度記録におけるオーバーライト1000回後のジッター特性が向上するとしており、これはジッター特性や繰り返し記録に対する耐久性を高めていることにほかならない。

光記録媒体の技術分野において、ジッター特性や繰り返し記録に対する耐久性を高めることは共通の課題であるから、引用発明1の「少なくともSb、Te、Ag、Inを構成元素とする記録層」として、引用例3に開示された「Ag_(0.5)In_(8)Sb_(64)Te_(27)に記録層添加元素種としてGeを0.5添加した記録層組成(at%)」を採用し、「記録層がSb、Teを主要構成元素とし、Ag、In、Geの3元素添加され、組成比が、XαSbβTe(100-α-β)(ここで、X:Ag、In、Ge、0<α<15、60<β<80)」とすることは、当業者であれば適宜為しうる事項である。

そして、上記相違点を総合的に判断しても、本願発明の効果は、引用例1ないし引用例3に記載された発明から、当業者が十分に予測しうる程度のものにすぎず、顕著なものがあるとはいえない。

以上のとおりであるから、本願発明は、引用例1ないし引用例3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。


6. むすび

以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用例1ないし引用例3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-05-18 
結審通知日 2011-05-19 
審決日 2011-06-16 
出願番号 特願2001-54778(P2001-54778)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G11B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 蔵野 雅昭山下 達也  
特許庁審判長 山田 洋一
特許庁審判官 酒井 伸芳
月野 洋一郎
発明の名称 光記録媒体  
代理人 武井 秀彦  

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