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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G11B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G11B
管理番号 1240808
審判番号 不服2009-4744  
総通号数 141 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-09-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-03-05 
確定日 2011-07-28 
事件の表示 特願2007- 63387「円盤状基板の製造方法、洗浄装置」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 9月25日出願公開、特開2008-226349〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成19年3月13日に出願したものであって、平成20年10月3日付で通知した拒絶の理由に対し、同年11月19日付で手続補正されたが、平成21年1月30日付で拒絶査定がされ、これに対し、同年3月5日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同年4月1日付で手続補正され、平成22年11月30日付の審尋に対し、平成23年2月1日付で回答書が提出されたものである。

2.平成21年4月1日付の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成21年4月1日付の手続補正を却下する。
[理由]
(1)補正後の本願発明
平成21年4月1日付の手続補正(以下、「本件補正」という。)により,特許請求の範囲の請求項1は,
「回転駆動される円筒状の第1の多孔質ローラおよび第2の多孔質ローラであって、アスカーF硬度で80?95の多孔質ローラを用いて、円盤状基板の第1面と第2面とを各々スクラブ洗浄するスクラブ洗浄工程を有し、
前記スクラブ洗浄工程は、前記円盤状基板を挟んだ前記第1の多孔質ローラと前記第2の多孔質ローラとの軸間の位置を決定し、当該第1の多孔質ローラを移動させる第1のサーボモータと当該第2の多孔質ローラを移動させる第2のサーボモータとにより当該第1の多孔質ローラと当該第2の多孔質ローラとを予め定められた位置で停止させ、当該第1の多硬質ローラと当該第2の多孔質ローラとの押し付け圧の設定を行わずに当該軸間の位置が制御された状態でスクラブ洗浄を行うことを特徴とする円盤状基板の製造方法。」
と補正された。
上記補正は,補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「スクラブ洗浄を行うこと」について「当該第1の多孔質ローラと当該第2の多孔質ローラとを予め定められた位置で停止させ、当該第1の多硬質ローラと当該第2の多孔質ローラとの押し付け圧の設定を行わずに」との限定を付加するものであって,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで,本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下,「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(2)引用例
原査定の拒絶の理由で引用された、本願の出願日前に頒布された刊行物である、特開2006-7054号公報(以下、「第1引用例」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付した。

(a)
「 例えば、磁気ディスクの製造工程としては、大きく分けて、基板を製造する段階と、基板の表面に磁気記録膜などを成膜して最終製品としての磁気ディスクを製造する段階とがあるが、そこでの処理対象となるワークは円環状の薄板からなるディスクであり、製造工程中に繰り返し表面が研磨される。そして、研磨が終了する毎にワークの洗浄及び乾燥が行なわれる。その際のワークの洗浄精度は、記録密度向上のために極めて高い水準が要求されている。
ワークの洗浄方式としては種々のものがあるが、代表的なものとしてスクラブ洗浄がある。スクラブ洗浄とは、研磨が終了したワークを回転させつつ、ワークの表面にブラシを摺接させることによりワーク表面の汚れを除去するものである。ブラシとしては、円筒棒状のロールブラシ、または円板や円環状に形成したパッドブラシなどが用いられ、これらは弾性変形可能な多孔質体、例えばスポンジ状の樹脂などにより形成される。」(段落【0002】)
(b)
「上述のとおり、スクラブ洗浄においては、ブラシを用いて機械的にワークの表面をスクラブすることから、ブラシとワークの接触状態が非常に重要であり、ブラシの接触量を多くすることによりワーク表面汚れの除去率は上がるが、一方でワークへの損傷が大きくなるため、両者のバランスが取れるようなブラシの接触量の最適値が存在する。」(段落【0004】)
(c)
「 図2(a)に示すように、スクラブ洗浄部103は、ワーク101がチャック部材201により回転自在に支持されており、ワーク101表裏に対して少なくとも1対のブラシ202が設けられ、ブラシ202はブラシを回転させるためのモーター203に取り付けられている。モーター203はブラシ202をワーク101に当接・離隔させるように動作する軸204に取り付けられている。また、洗剤や水などの洗浄液を供給するシャワーノズル205が設けられている。
搬送部108aを介してワーク101が取り込まれると、図2(b)に示すように、シャワーノズル205から洗剤や水が供給され、モーター203が駆動することでブラシ202が回転し、不図示のエアシリンダ等からなる駆動機構により駆動されて軸204が所定位置まで動作することで、ブラシ202がワーク101に当接する。この際、チャック部材201によって回転自在に支持されたワーク101はブラシ202の回転にならって回転を始め、ワーク101の表裏全面をブラシ202でスクラブすることにより、ワーク101の洗浄が行なわれる。なお、ブラシ202は図に示すロールタイプのものに限らず、円板や円環状に形成されたパッドタイプでもよい。」(段落【0012】)

上記記載事項および図面を総合勘案すると、上記第1引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「モーターで回転されるロールタイプの一対のブラシを用いて、ワークの表裏を各々スクラブ洗浄するスクラブ洗浄工程を有し、
前記ブラシは、前記ブラシを回転させるための前記モーターに取り付けられており、前記モーターは、前記ブラシを前記ワークに当接・離隔させるように動作する軸に取り付けられており、
前記スクラブ洗浄工程は、前記軸を駆動機構により駆動して所定位置まで動作させることで前記ブラシを前記ワークに当接させ、スクラブ洗浄を行うワークの製造方法。」

(3)対比
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明における「ワーク」は、円環状の薄板からなるディスクを処理対象としており(上記(2)(a)参照。)、また、引用発明における「ロールタイプの一対のブラシ」は、円筒棒状のロールブラシであって、弾性変形可能な多孔質体、例えばスポンジ状の樹脂などにより形成されるものである(上記(2)(a)参照。)から、
引用発明における「モーターで回転されるロールタイプの一対のブラシ」、「ワーク」、「表裏」、「スクラブ洗浄」、「ワークの製造方法。」は、
本願補正発明における「回転駆動される円筒状の第1の多孔質ローラおよび第2の多孔質ローラ」、「円盤状基板」、「第1面と第2面」、「スクラブ洗浄」、「円盤状基板の製造方法」にそれぞれ相当する。
また、引用発明における「前記ブラシは、前記ブラシを回転させるための前記モーターに取り付けられており、前記モーターは、前記ブラシを前記ワークに当接・離隔させるように動作する軸に取り付けられており、 前記スクラブ洗浄工程は、前記軸を」「駆動して所定位置まで動作させることで前記ブラシを前記ワークに当接させ、スクラブ洗浄を行う」は、
本願補正発明における「前記スクラブ洗浄工程は、前記円盤状基板を挟んだ前記第1の多孔質ローラと前記第2の多孔質ローラとの軸間の位置を決定し」「当該第1の多孔質ローラと当該第2の多孔質ローラとを予め定められた位置で停止させ」「当該軸間の位置が制御された状態でスクラブ洗浄を行う」に相当する。

そうすると、本願補正発明と引用発明とは次の点で一致する。

<一致点>
「回転駆動される円筒状の第1の多孔質ローラおよび第2の多孔質ローラであって、多孔質ローラを用いて、円盤状基板の第1面と第2面とを各々スクラブ洗浄するスクラブ洗浄工程を有し、
前記スクラブ洗浄工程は、前記円盤状基板を挟んだ前記第1の多孔質ローラと前記第2の多孔質ローラとの軸間の位置を決定し、当該第1の多孔質ローラと当該第2の多孔質ローラとを予め定められた位置で停止させ、当該軸間の位置が制御された状態でスクラブ洗浄を行う円盤状基板の製造方法。」

一方、次の点で相違する。

<相違点>
[相違点1]
本願補正発明は、「第1の多孔質ローラおよび第2の多孔質ローラ」の硬度が「アスカーF硬度で80?95」に限定されているのに対し、引用発明ではなんら限定されていない点。
[相違点2]
本願補正発明は、「前記第1の多孔質ローラと前記第2の多孔質ローラ」を移動させる駆動手段が「サーボモータ」に限定されているのに対し、引用発明では「駆動機構」である点。
[相違点3]
本願補正発明は、「前記スクラブ洗浄工程」が「当該第1の多硬質ローラと当該第2の多孔質ローラとの押し付け圧の設定を行わずに」行われるものであるのに対し、引用発明ではなんら限定されていない点。

(4)判断
[相違点1]について
「第1の多孔質ローラおよび第2の多孔質ローラ」について、第1引用例には「円筒棒状のロールブラシなどが用いられ、これらは弾性変形可能な多孔質体、例えばスポンジ状の樹脂などにより形成される。」と記載されており(上記(2)(a)参照。)、ブラシの物性である硬度を適切に設定することは、かかるブラシスクラブに用いられることからして当然である。
また、本願明細書の段落【0008】には「上記実施例による試験の結果、0.25μm以上の大きさのパーティクルについて、その個数が、洗浄前では平均10個/1面であったものを洗浄後は平均3個以下/1面とすることができた。」とあるのみで、「第1の多孔質ローラおよび第2の多孔質ローラ」の硬度の値を「アスカーF硬度で80?95」とすることによって、そうでない場合と比較して当業者に予測できない格別顕著な効果が奏されていると認められるような事情(比較データ)も見いだせない。
してみると、ブラシの硬度を「アスカーF硬度で80?95」とすることは、当業者が発明を実施する際に適宜設定しうる事項にすぎずこの点に格別の創意は認められない。

[相違点2]について
一般に、駆動機構としてモータを用いることは周知慣用手段であり、また、モータとして正確な制御を行うサーボモータを用いることも周知(例えば、特開2006-127606号公報の段落【0022】、特開2006-294099号公報の段落【0021】)なので、具体例がエアシリンダのみであるとしても「駆動機構」を「サーボモータ」とすることは、当業者であれば容易になしうることである。

[相違点3]について
「ローラ」の位置と「押し付け圧」とは一定の相関関係を有するものと推察されるところ、「ローラ」を位置決めする際に「ローラ」の「軸間の位置」のみをもって位置決めすることは、当業者であれば適宜選択して実施しうるものである。
なお、審判請求人は、審判請求書の請求の理由において「そして、この引用文献1では、〔0015〕段落にあるように、エアシリンダ等からなる駆動機構の動作量の調節、即ち、押し付け圧の調節によってブラシの接触が行われており」(平成21年6月5日付手続補正書、第3頁末行-第4頁)と主張しているが、これは、本願補正発明において「当該第1の多硬質ローラと当該第2の多孔質ローラとの押し付け圧の設定を行わずに」の意味するところが、「押し付け圧」を指標にして位置決めを行うのではなく、「位置」を指標にして位置決めを行うという意味であると解される。
しかしながら、引用発明が「押し付け圧」を指標にして位置決めを行うものであること、例えば、位置決めの際に「押し付け圧」を検出するとともにその値に応じて位置決めをしていること、に関する具体的な記載は何も見いだせないから、引用発明における「所定位置まで動作させる」の意味を「押し付け圧」を指標にして位置決めを行うものに限定して解釈することはできない。
したがって、引用発明における「所定位置まで動作させる」には(「押し付け圧」を指標にして位置決めを行うものに限られず)「位置」を指標にして位置決めを行うことも包含されているというべきである。


なお、審判請求人は、平成23年2月1日付けの回答書において、引用発明は、ブラシの接触面を「押し付け圧」によって調整するものであり、比較的広い面積で強く押し当てられるので押し当て状態や押し当て箇所によって物理的な力が異なり、洗浄ムラが発生し易いという課題が生じているのに対して、本願補正発明は、軸間距離を制御することにより、より線に近い状態でローラを接触させることが可能となり、上記課題を解決している旨の主張をしている。

しかしながら、ローラの「押し付け圧」と「軸間距離」とは、一定の相関関係を有すると推察されるところ、本願補正発明においても、比較的硬質な多孔質ローラで円盤状基板をスクラブ洗浄するものである以上、かかる多孔質ローラと円盤状基板との間には一定の圧力が生じていることは明らかである。このようなスクラブ洗浄において、ローラの「押し付け圧」ではなく「軸間距離」を制御すると、なにゆえ、比較的広い面積で強く押し当てられるものではなく、より線に近い状態で接触させることが可能となるのか、この出願の発明の詳細な説明の記載全体を参酌しても、その技術的根拠が明らかではなく、また、より線に近い状態で接触していることを示す定量的なデータも何ら明らかにされていない。
したがって、この出願の発明の詳細な説明の記載全体を参酌しても、軸間距離を制御するとする本願補正発明が、「押し付け圧」を制御する場合より、より線に近い状態でローラを接触させることが可能となり、洗浄ムラの発生を防止しているとする根拠は何ら見出せない。

また、本願補正発明は、ローラが円盤状基板と接触している部分の面積に関して何ら限定を付しているものではなく、また、「軸間の位置の決定」に関しても、具体的な手順について何ら特定されていないため、より線に近い状態でローラが接触しているとする前記主張は請求項1の記載に基づくものであるとは認められず、接触している部分の面積の差異に起因する前記効果を参酌することもできない。

以上のことからして、出願の回答書における前記主張は、この出願の発明の詳細な説明の記載、並びに、請求項1の記載からみて採用することはできない。

したがって,本願補正発明は,第1引用例に記載された発明および周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

(5)むすび
以上のとおり,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
平成21年4月1日付の手続補正は上記のとおり却下されたので,本願の請求項1乃至6に係る発明は,平成20年11月19日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1乃至6に記載された事項により特定されるとおりと認められるところ、そのうち請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,次のとおりのものである。

「回転駆動される円筒状の第1の多孔質ローラおよび第2の多孔質ローラであって、アスカーF硬度で80?95の多孔質ローラを用いて、円盤状基板の第1面と第2面とを各々スクラブ洗浄するスクラブ洗浄工程を有し、
前記スクラブ洗浄工程は、前記円盤状基板を挟んだ前記第1の多孔質ローラと前記第2の多孔質ローラとの軸間の位置を決定し、当該第1の多孔質ローラを移動させる第1のサーボモータと当該第2の多孔質ローラを移動させる第2のサーボモータとにより当該軸間の位置が制御された状態でスクラブ洗浄を行うことを特徴とする円盤状基板の製造方法。」

(1)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例,及びその記載事項は,前記「2.(2)」に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明は,前記2.で検討した本願補正発明から「当該軸間の位置が制御された状態でスクラブ洗浄を行うこと」の限定事項である「当該第1の多孔質ローラと当該第2の多孔質ローラとを予め定められた位置で停止させ、当該第1の多硬質ローラと当該第2の多孔質ローラとの押し付け圧の設定を行わずに」との構成を省いたものである。
そうすると,本願発明の構成要件をすべて含み,他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が,前記2.(4)に記載したとおり,第1引用例に記載された発明および周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も同様の理由により,第1引用例に記載された発明および周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)むすび
以上のとおり,本願の請求項1に係る発明は,第1引用例に記載された発明および周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は、拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-05-30 
結審通知日 2011-05-31 
審決日 2011-06-16 
出願番号 特願2007-63387(P2007-63387)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G11B)
P 1 8・ 121- Z (G11B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 石坂 博明山下 達也  
特許庁審判長 蔵野 雅昭
特許庁審判官 月野 洋一郎
酒井 伸芳
発明の名称 円盤状基板の製造方法、洗浄装置  
代理人 古部 次郎  
代理人 古部 次郎  

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