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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02F
管理番号 1240832
審判番号 不服2010-4395  
総通号数 141 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-09-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-03-01 
確定日 2011-07-28 
事件の表示 特願2008- 87592「光導波路素子モジュール」拒絶査定不服審判事件〔平成21年10月22日出願公開、特開2009-244324〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成20年3月28日の出願であって、拒絶理由通知に応答して平成21年6月5日に手続補正がされたが、同年11月24日付けで拒絶査定がされ、これに対して平成22年3月1日に拒絶査定不服の審判が請求されるとともに、これと同時に手続補正がされたものである。

第2 平成22年3月1日の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成22年3月1日の手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正による請求項1についての補正
本件補正は、特許請求の範囲についての補正を含み、そのうち請求項1についての補正は次のとおりのものである。
本件補正前に
「 【請求項1】
電気光学効果を有する材料で構成される基板と、該基板に形成された光導波路と、該光導波路を伝搬する光波を変調する変調電極とを有する光導波路素子と、
該変調電極に変調信号を入力する線路上に配置され、かつ、コンデンサを含むフィルタ回路とを含む光導波路素子モジュールにおいて、
該コンデンサは、複数の積層セラミックコンデンサをフィルタ回路基板上に積み重ねて配置すると共に、該積層セラミックコンデンサの1個の静電容量が3pF以下のもののみを使用することを特徴とする光導波路素子モジュール。」(平成21年6月5日の手続補正書参照。)
とあったものを、
本件補正後に
「 【請求項1】
電気光学効果を有する材料で構成される基板と、該基板に形成された光導波路と、該光導波路を伝搬する光波を変調する変調電極とを有する光導波路素子と、
該変調電極に変調信号を入力する線路上に配置され、かつ、コンデンサを含むフィルタ回路とを含む光導波路素子モジュールにおいて、
該コンデンサは、セラミック材料を挟むように電極が櫛の歯状に形成された積層セラミックコンデンサを複数個、フィルタ回路基板上に積み重ねて配置すると共に、該積層セラミックコンデンサの1個の静電容量が3pF以下のもののみを使用することを特徴とする光導波路素子モジュール。」とする。

該補正は、発明を特定するために必要な事項である「積層セラミックコンデンサ」を、「セラミック材料を挟むように電極が櫛の歯状に形成された」ものに限定しており、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明が、特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるかどうか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たすか否か)について検討する。

2 独立特許要件について
(1)本願補正発明の認定
本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)は、本件補正により補正された請求項1に記載された事項によって特定されるとおりのものと認める。

(2)引用発明の認定
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された特開2007-10942号公報(以下「引用例」という。)には、以下の記載がある。
「【0002】
従来の光変調器は、例えば図11に示すように、電気光学効果を有する基板100に、マッハツェンダ(Mach-Zehnder)型の光導波路101と、該光導波路101の平行な2本のアーム部101A,101Bを伝播する各光の相対的な位相を制御するための電気導波路(進行波電極)102とを形成し、駆動回路110から供給される変調電気信号Sを電気導波路102の一端に印加することで光導波路101の一方のアーム部101Aの屈折率を制御し、各アーム部101A,101B間の光路長差を変化させることにより入力光LINの光変調を実現している。この従来の光変調器では、電気導波路102の他端が抵抗RTにより終端されており、また、各アーム部101A,101B間の相対的な位相シフト量を制御するDCバイアスV_(B)がバイアスティ回路120を介して電気導波路102の他端に印加されている。このような電気光学効果を利用した従来の光変調器は、例えば高速長距離光通信を行う光伝送システムなどに用いられている。
【0003】
上記のような従来の光変調器について、より好ましい状態で変調された出力光L_(OUT)を得るためには、変調電気信号に含まれる周波数領域において、光変調器の光応答帯域の平坦性が要求される。しかし、適切な光変調を実現するために必要な駆動電圧と光応答帯域とはトレードオフの関係にある。そこで、駆動電圧の上昇を抑え、かつ、光応答帯域の広帯域化を実現するための従来技術の1つとして、例えば、変調効率の周波数依存性を補償するフィルタ回路を用いた構成が公知である(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
図12は、上記フィルタ回路を用いた従来の光変調器の構成例を示した図である。この光変調器では、例えばコンデンサC1および抵抗R1を並列に接続したフィルタ回路130が、駆動回路110と電気導波路102の一端との間に挿入されている。コンデンサC1および抵抗R1としては、通常、チップコンデンサおよび薄膜抵抗、若しくは、チップコンデンサおよびチップ抵抗が用いられる。」

「【0006】
フィルタ回路なしの光変調器において、高速動作および低電圧動作を実現するためには、進行波電極102の長さを十分に長くする必要があるが、そのような進行波電極102では表皮効果に起因するマイクロ波の減衰の影響により、図13上段の右側に示すように平坦な光応答特性を実現することが難しくなる。そこで、フィルタ回路130を用いて変調電気信号Sの低周波成分を減衰させることにより、図13下段の右側に示すように所要の周波数帯域(例えば、一般的なNRZ変調ではビットレートの半分強以下の周波数帯域)における光応答特性の平坦性が改善される、すなわち、広い光応答帯域が実現されるようになる。」

上記記載を含む引用例には、次の発明が記載されていると認めることができる。
「電気光学効果を有する基板100と、該基板に形成された光導波路101と、該光導波路の平行な2本のアーム部101A,101Bを伝播する各光の相対的な位相を制御するための電気導波路(進行波電極)102と、
電気導波路102(進行波電極)の一端に印加することで光導波路101の一方のアーム部101Aの屈折率を制御し、各アーム部101A,101B間の光路長差を変化させることにより入力光LINの光変調を実現する変調電気信号Sを供給する駆動回路110と、
駆動回路110と電気導波路102(進行波電極)の一端との間に挿入され、チップコンデンサC1および抵抗R1を並列に接続したフィルタ回路130と、
を含み、
フィルタ回路130を用いて変調電気信号Sの低周波成分を減衰させることにより、所要の周波数帯域における光応答特性の平坦性が改善される光変調器。」(以下「引用発明」という。)

(3)対比
引用発明の「電気光学効果を有する基板100」、「光導波路101」、「チップコンデンサC1および抵抗R1を並列に接続したフィルタ回路130」及び「光変調器」は、それぞれ、本願補正発明の「電気光学効果を有する材料で構成される基板」、「光導波路」、「コンデンサを含むフィルタ回路」及び「光導波路素子モジュール」に相当する。

引用発明の「電気導波路102(進行波電極)」は、光導波路を伝搬する光波を変調する働きをしているから、本願補正発明の「変調電極」に相当する。

引用発明の、「光導波路101」(光導波路)と「電気導波路102(進行波電極)」(変調電極)を有する「基板100」は、本願補正発明の、「光導波路」と「変調電極」を有する「光導波路素子」に相当する。

引用例の図12にフィルタ回路130と電気導波路102(進行波電極)を結び、変調電気信号Sを供給する線分が記載されているように、引用発明の「フィルタ回路130」から「電気導波路102(進行波電極)」への「変調電気信号S」の供給は電気ケーブル等の線路を介することは、技術常識からして自明であるから、引用発明の「フィルタ回路130」(フィルタ回路)は、「変調電極(電気導波路102(進行波電極))に変調信号(変調電気信号S)を入力する線路上に配置され」るものである。

してみれば、本願補正発明と引用発明とは、以下の点で一致し、以下の点で相違する。
<一致点>
「電気光学効果を有する材料で構成される基板と、該基板に形成された光導波路と、該光導波路を伝搬する光波を変調する変調電極とを有する光導波路素子と、
該変調電極に変調信号を入力する線路上に配置され、かつ、コンデンサを含むフィルタ回路とを含む光導波路素子モジュール。」

<相違点>
本願補正発明は「コンデンサは、セラミック材料を挟むように電極が櫛の歯状に形成された積層セラミックコンデンサを複数個、フィルタ回路基板上に積み重ねて配置すると共に、該積層セラミックコンデンサの1個の静電容量が3pF以下のもののみを使用する」と特定されているのに対し、引用発明は前記特定を有しない点。

(4)判断
相違点について
ア (ア)電気回路においては、ある静電容量Cの素子として、静電容量Cの1個のコンデンサを用いることもあれば、Cより小さい静電容量のコンデンサ複数個を並列接続して用いることもある。そして、この並列接続の際に、コンデンサを複数個積み重ねることはありふれた構成である。例えば、本願の出願前に頒布された特開平10-241989号公報の「【0003】このため、大容量のコンデンサを得たい場合には、例えば、複数個のコンデンサ素子を同一方向に積層し、端面どうしを互いに接続して一体化する構造にしている。」との記載及び特開平7-57971号公報の「【0003】・・・この複合セラミックコンデンサは複数の積層セラミックコンデンサをチップコンデンサの形態で接着剤を介して重合し高容量化している。【0004】即ち、この量産可能な複合セラミックコンデンサは、図9及び図10に示すように、ベアチップ1の両端部に一対の外部電極2,3を形成した複数の積層セラミックコンデンサ4をそれぞれ外部電極を揃えて接着剤5を介して重合した後、重合して得られた接合体の両端部に金属板6,7を接着剤8により接着して接合体端部に現れる複数の外部電極同士を導通するようにしている。」との記載参照。

(イ)引用発明は「フィルタ回路130を用いて変調電気信号Sの低周波成分を減衰させることにより、所要の周波数帯域における光応答特性の平坦性が改善される光変調器」であるから、引用発明のチップコンデンサC1の静電容量C1は、所要の周波数帯域における光応答特性の平坦性が改善されるべく変調電気信号Sの低周波成分が減衰されるような値が採用されることになる。

(ウ)フィルタ回路に含まれるチップコンデンサをフィルタ回路基板上に配置することは通常の設計である。例えば、フィルタ回路を構成する各電子素子を、電子素子間の配線を印刷したプリント基板に搭載することは広く採用されている。

上記(ア)ないし(ウ)より、引用発明において、「コンデンサは、チップコンデンサを複数個、フィルタ回路基板上に積み重ねて配置すると共に、該チップコンデンサの1個の静電容量を複数個並列接続した合成の静電容量が、フィルタ回路130を用いて変調電気信号Sの低周波成分を減衰させるのに必要な静電容量となるものを使用する」ことは、設計事項の範囲内で、当業者が適宜なし得ることである。

イ チップコンデンサとして、セラミック材料を挟むように電極が櫛の歯状に形成された積層セラミックコンデンサ(以下「櫛歯電極コンデンサ」という。)は一般的なものである。
そして、櫛歯電極コンデンサは静電容量だけではなく内部インピーダンスを有するので共振周波数が存在すること、この共振周波数は一般的にはコンデンサの静電容量が小さいほど高いこと、及び櫛歯電極コンデンサをある周波数領域で作動する回路や電子装置に用いるに際しては、この共振周波数の存在がどのような影響を及ぼすか考慮する必要があることは周知の技術事項である。
この点について、例えば、本願の出願前に頒布された特開2006-286731号公報及び特開2008-22017号公報を参照することができる。

特開2006-286731号公報は、以下の記載(ア)及び(イ)を含む。
(ア) 「【技術分野】
【0001】
本発明は、積層コンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の積層コンデンサとして、複数の誘電体層と複数の内部電極とが交互に積層された積層体と、当該積層体に形成された複数の端子電極とを備えたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載された積層コンデンサでは、複数の端子電極を備え、これらの端子電極と内部電極とを接続する引き出し電極の幅方向の寸法を調節することによって、等価直列インダクタンスの低減を図っている。
【特許文献1】特開2000-208361号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
近年、電子機器に用いられる電源回路の高周波数化に伴い、電源回路に適用される積層コンデンサの等価直列インダクタンス(ESL)の低減化がより一層求められている。しかしながら、特許文献1に記載の積層コンデンサでは、直方体状である積層体の対向する2側面にしか端子電極が配置されておらず、等価直列インダクタンスの低減が十分であるとはいえない。
【0004】
一方、ノイズ除去のために電子機器の電源回路等に接続される積層コンデンサでは、広い周波数帯域でノイズ除去の効果を発揮することが要求される。そのため、広い周波数帯域でノイズを効果的に除去できるよう、この種の積層コンデンサでは広帯域にわたって低インピーダンスであることが求められている。しかしながら、特許文献1に記載の積層コンデンサでは、広帯域にわたってインピーダンスを低くするための検討が行われていない。そのため、特許文献1に記載の積層コンデンサでは、広帯域にわたってインピーダンスを低くすることができず、広い周波数帯域でノイズを効果的に除去することが困難となるおそれがある。
【0005】
本発明は、上記問題点を解消するためになされたものであり、等価直列インダクタンスの低減を図りつつ、広帯域にわたって低インピーダンスである積層コンデンサを提供することを目的とする。」

(イ) 「【0040】
積層コンデンサC1の等価回路図を図3に示す。積層コンデンサC1の等価回路は、第1のコンデンサ部11と第2のコンデンサ部13との並列回路からなる。一般的に、コンデンサには残留インダクタンスと残留抵抗が存在する。そのため、図3に示すように、第1のコンデンサ部11の等価回路には静電容量C11のほか、インダクタンスL11及び抵抗R12が存在する。第2のコンデンサ部13の等価回路には静電容量C13のほか、インダクタンスL13及び抵抗R13が存在する。
【0041】
第1及び第2のコンデンサ部11、13はそれぞれ、内部電極の積層数が異なり、静電容量が異なる。すなわち、積層コンデンサC1では、第1のコンデンサ部11に含まれる第1及び第2の内部電極21、23の積層数が、第2のコンデンサ部13に含まれる第3及び第4の内部電極25、27の積層数より大きい。したがって、第1のコンデンサ部11の静電容量C11は第2のコンデンサ部13の静電容量C13より大きい。
【0042】
コンデンサのインダクタンスをL、静電容量をCとすると、コンデンサの共振周波数fは式(1)によって表される。式(1)より、第1のコンデンサ部11の共振周波数f1と、第2のコンデンサ部13の共振周波数f2とでは値が異なることがわかる。
f=1/2π・sqrt(L・C) …(1)
【0043】
特に、第2のコンデンサ部13に含まれる第3及び第4の内部電極25、27の積層数が、第1のコンデンサ部11に含まれる第1及び第2の内部電極21、23の積層数より小さいと、共振周波数f2は共振周波数f1に比べて大きくなる。」

記載(ア)の「【背景技術】【0002】この種の積層コンデンサとして、複数の誘電体層と複数の内部電極とが交互に積層された積層体と、当該積層体に形成された複数の端子電極とを備えたものが知られている」は、対象とするコンデンサが櫛歯電極コンデンサであることを示す。
記載(ア)中の「等価直列インダクタンス」及び記載(イ)中の「残留インダクタンス」は、櫛歯電極コンデンサの内部インピーダンスのことである。
記載(ア)の段落【0003】は、高周波数化した電源回路に櫛歯電極コンデンサを適用するに際しては、櫛歯電極コンデンサの等価直列インダクタンス(ESL)を考慮する必要があることを示す。
記載(イ)の段落【0041】及び段落【0043】より、コンデンサ部は、内部電極の積層数が小さく静電容量が小さい方が共振周波数が大きくなっている。

特開2008-22017号公報は、以下の記載(ウ)及び(エ)を含む。
(ウ) 「【発明が解決しようとする課題】
【0003】
より大きなデカップリングコンデンサという要求は、ますます大きなコンデンサを採用することによって満たされている。しかしながら、従来のコンデンサで問題となるのは寄生インダクタンスである。典型的には、コンデンサのサイズが大きくなると、寄生インダクタンスが大きくなる。寄生インダクタンスはコンデンサの効率を低下させる。大きな寄生インダクタンスを有するコンデンサは低い共振周波数を有しており、これが多くのよく知られている高速アプリケーションについてコンデンサを使用できなくしている。例えば、1MHzで動作する低電力DC/DCあるいはDC-DCコンバータがあり、最高2MHzまでで動作するものもあることが知られている。しかしながら、高電力DC/DCコンバータは、低電力の対応するものの約10分の1でも動作する。一つの理由は、大きなコンデンサの共振周波数に関連している。より値の大きい多層セラミックは、典型的には、500kHzよりも小さい共振周波数を有するのに対して、より少ない値の多層セラミックコンデンサは2MHzよりも大きい共振周波数を有する。共振周波数と容量との関係は以下の式であらわすことができる。
【数1】
f=1/2π(LC)^(1/2)ここでfは共振周波数を表し、Lは、等価直列インダクタンス(ESL)としても知られる寄生インダクタンスを表し、Cは容量を表す。わかるように、インダクタンスLが小さくなると、共振周波数fは大きくなる。
【0004】
したがって、高容量で小さな寄生インダクタンスを提供する多層コンデンサを有することが望まれる。」

(エ) 「【符号の説明】
【0072】
(途中省略)
400 多層コンデンサ
412、414、416、418 電極板412?418
402、404、406、408、410 誘電性材料
(以下省略)」

特開2008-22017号公報の図4Aに示された多層コンデンサ400は、記載(エ)の「電極板」及び「誘電性材料」が交互に配置されているから、櫛歯電極コンデンサである。
記載(ウ)中の「寄生インダクタンス」及び「等価直列インダクタンス(ESL)」は、櫛歯電極コンデンサの内部インピーダンスのことである。
記載(ウ)の「より値の大きい多層セラミックは、典型的には、500kHzよりも小さい共振周波数を有するのに対して、より少ない値の多層セラミックコンデンサは2MHzよりも大きい共振周波数を有する。」は、櫛歯電極コンデンサの静電容量の値が小さいと共振周波数が大きいことを示す。
記載(ウ)の「低い共振周波数を有しており、これが多くのよく知られている高速アプリケーションについてコンデンサを使用できなくしている。」は、高周波で作動する装置に櫛歯電極コンデンサを適用するに際しては、櫛歯電極コンデンサの共振周波数を考慮する必要があることを示す。

よって、引用発明において、「コンデンサは、チップコンデンサを複数個、フィルタ回路基板上に積み重ねて配置すると共に、該チップコンデンサの1個の静電容量を複数個並列接続した合成の静電容量が、フィルタ回路130を用いて変調電気信号Sの低周波成分を減衰させるのに必要な静電容量となるものを使用する」際に、このチップコンデンサとして、フィルタ回路130の低周波成分減衰機能を阻害しない高い共振周波数となる小さな静電容量の櫛歯電極コンデンサを採用することは、周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に想到し得たことである。
そして、「フィルタ回路130の低周波成分減衰機能を阻害しない高い共振周波数となる小さな静電容量の櫛歯電極コンデンサ」を採用する際に、該静電容量を具体的にどの値とするかは、設計事項である。しかしながら、本願補正発明は、「積層セラミックコンデンサの1個の静電容量が3pF以下のもののみを使用する」と特定されており、該特定により静電容量が3pF以下とされている。そこで、該特定の技術的意義について以下検討する。

本願明細書の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。
「【0036】
ハイパスフィルタのコンデンサは、積層セラミックコンデンサ(松下電器社製、ECDシリーズ0603サイズ)の静電容量1,2及び3pFを使用し、抵抗は、Ti2Nの薄膜で電気線路間に形成した、抵抗値は約10Ωであった。
【0037】
光コンポーネントアナライザ(アジレント社製,86030A)により、電気/光変換応答の周波数特性を測定し、共振周波数f0を測定したところ、3pFの場合はf0が25GHz、2pFの場合はf0が30GHz、さらに1pFの場合はf0が45GHzであった。
このことから、積層セラミックコンデンサを使用する場合には、3pF以下のものを利用することで、電気/光応答周波数特性の平坦化を20GHz以上まで拡大可能なことが容易に理解される。
【産業上の利用可能性】
【0038】
以上説明したように、本発明によれば、光導波路素子の変調電極に変調信号を入力する線路上に、コンデンサを含むフィルタ回路を配置する光導波路素子モジュールにおいて、該コンデンサに積層セラミックコンデンサを使用した場合でも、数十GHzの広帯域に渡り光応答周波数特性を平坦化可能な光導波路素子モジュールを提供することが可能となる。」

該記載より、該特定の技術的意義は、1,2及び3pFという小さな静電容量で共振周波数の高い積層セラミックコンデンサを採用することで、光導波路素子モジュールを数十GHzという高い周波数領域で使用可能とする点にあると解される。また、該記載より、この使用可能な高い周波数領域は、3pFの場合は25GHz、2pFの場合は30GHz、1pFの場合は45GHzとなっていることから、3pFという数値自体に臨界的意義はなく、静電容量の値は、どのくらい高い周波数領域で光導波路素子モジュールを使用したいかに応じて定めるべきものといえる。

上記ア及びイより、引用発明において、本願補正発明の相違点に係る構成を備えることは、周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に想到し得たことである。
また、該構成を備えることによる効果は、当業者が予測し得る範囲内のものである。例えば、「積層セラミックコンデンサの1個の静電容量が3pF以下のもののみを使用する」ことにより、1個の積層セラミックコンデンサの共振周波数が高くなり、光導波路素子モジュールが25GHzという高い周波数領域で使用可能となる。しかしながら、積層セラミックコンデンサの静電容量が小さいと共振周波数が高くなり、高周波領域で動作する回路や装置に用いることができることが周知の技術事項にすぎないことは上記イで述べたとおりである。

まとめ
したがって、本願補正発明は、引用発明及び周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たしていない。

3 本件補正についてのむすび
上記「2 独立特許要件について」に記載のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明の認定
平成22年3月1日の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、平成21年6月5日に補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項によって特定されるとおりのものと認める。(以下「本願発明」という。)

2 引用例の記載
原査定の拒絶の理由に引用された引用例及びその記載事項は、上記「第2 平成22年3月1日の手続補正についての補正却下の決定 [理由] 2 独立特許要件について (2)引用発明の認定」に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願発明は、上記「第2 平成22年3月1日の手続補正についての補正却下の決定 [理由] 2 独立特許要件について」で検討した本願補正発明の発明特定事項である「積層セラミックコンデンサ」を、「セラミック材料を挟むように電極が櫛の歯状に形成された」とする限定を省いたものに相当する。

すると、本願発明の構成要件をすべて含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、上記「第2 平成22年3月1日の手続補正についての補正却下の決定 [理由] 2 独立特許要件について」に記載したとおり、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-05-30 
結審通知日 2011-05-31 
審決日 2011-06-13 
出願番号 特願2008-87592(P2008-87592)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G02F)
P 1 8・ 121- Z (G02F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 林 祥恵  
特許庁審判長 江成 克己
特許庁審判官 杉山 輝和
稲積 義登
発明の名称 光導波路素子モジュール  
代理人 田村 爾  
代理人 杉村 純子  

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