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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16G
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16G
管理番号 1240834
審判番号 不服2010-5872  
総通号数 141 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-09-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-03-17 
確定日 2011-07-28 
事件の表示 特願2006-292303「チェーン」拒絶査定不服審判事件〔平成20年5月8日出願公開、特開2008-106901〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は、平成18年10月27日の出願であって、平成21年12月18日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成22年3月17日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同日付けで手続補正がなされたものである。

II.平成22年3月17日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成22年3月17日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
本件補正により、補正前の特許請求の範囲の請求項1は、
「【請求項1】
両端にピン嵌合孔を有する一対の外プレートと、
両端にブシュ嵌合孔を有する一対の内プレートと、
両端が前記ブシュ嵌合孔に嵌合され、貫通孔を有するブシュと、
前記貫通孔に挿通され、両端が前記ピン嵌合孔に嵌合されるピンと、
を有し、
前記ピンは、潤滑材を保持する潤滑材保持手段を有し、
前記潤滑材保持手段は、前記ピンの側面に設けられた凹部であり、前記凹部と前記貫通孔の内周面との間に潤滑材が充填されることを特徴とするチェーン。」から、
補正後の特許請求の範囲の請求項1の、
「【請求項1】
両端にピン嵌合孔を有する一対の外プレートと、
両端にブシュ嵌合孔を有する一対の内プレートと、
両端が前記ブシュ嵌合孔に嵌合され、貫通孔を有するブシュと、
前記貫通孔に挿通され、両端が前記ピン嵌合孔に嵌合されるピンと、
を有し、
前記ピンは、潤滑材を保持する潤滑材保持手段を有し、
前記潤滑材保持手段は、前記ピンの側面に設けられた凹部であり、前記凹部と前記貫通孔の内周面との間に潤滑材が充填され、
前記凹部は、前記ピンと前記ブシュの接触面には設けられていないことを特徴とするチェーン。」と補正された。なお、下線は対比の便のため当審において付したものである。
上記補正は、補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「凹部」に関し、「前記凹部は、前記ピンと前記ブシュの接触面には設けられていない」とその構成を限定的に減縮するものである。
これに関して、本願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「当初明細書等」という。)には、「前記凹部は、前記ピンと前記ブシュの接触面には設けられていない」(【請求項4】参照)と記載されている。
結局、この補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定された特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当し、特許法第17条の2第3項に規定された新規事項追加禁止に該当するものではない。
そこで、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

1.原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物及びその記載事項
(1)刊行物1:実願平5-51642号(実開平7-18052号)のCD-ROM
(2)刊行物2:実願昭53-99153号(実開昭55-15480号)のマイクロフィルム
(3)刊行物3:実願昭52-133953号(実開昭54-72253号)のマイクロフィルム

(刊行物1)
刊行物1には、「コンベヤチェーンのシール装置」に関して、図面(特に図1を参照)とともに、下記の技術的事項が記載されている。
(a)「本考案は、コンベヤ用のブシュドチェーンおよびブシュドローラチェーンにおいて、ブシュ内周面と連結ピン外周面との間およびシール部材とリンクプレート側面との摺接面に潤滑剤として供給されるグリースの封入シール装置に関する。」(第3頁第4?6行、段落【0001】参照)
(b)「図1は本考案のコンベヤチェーンのシール装置断面図、図2は図1の要部拡大断面図であって、ローラ1を回転自在に外嵌したブシュ2の両端部は一対の離間した内リンクプレート3A,3Bに圧嵌され、ブシュ2を回転自在に外嵌した連結ピン4の両端部は離間した一対の外リンクプレート5A,5Bを装着しており、連結ピン4の一端は頭部膨大部4Aに形成され他端部には抜け止めピン4Bが装着され、また連結ピン4内には連結ピン外周面に開口するグリース補給孔6を有するグリース封入孔が穿設されている。」(第4頁第16?22行、段落【0006】参照)
したがって、刊行物1には、下記の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
【引用発明】
両端に連結ピン4嵌合孔を有する一対の外リンクプレート5A,5Bと、
両端にブッシュ2嵌合孔を有する一対の内リンクプレート3A,3Bと、
両端が前記ブッシュ2嵌合孔に嵌合され、貫通孔を有するブッシュ2と、
前記貫通孔に挿通され、両端が前記連結ピン4嵌合孔に嵌合される連結ピン4と、
を有し、
前記連結ピン4内には連結ピン外周面に開口するグリース補給孔6を有するグリース封入孔が穿設されているコンベヤチェーン。

2.対比・判断
本願補正発明と引用発明とを対比すると、それぞれの有する機能からみて、引用発明の「連結ピン4」は本願補正発明の「ピン」に相当し、以下同様にして、「外リンクプレート5A,5B」は「外プレート」に、「ブッシュ2」は「ブシュ」に、「内リンクプレート3A,3B」は「内プレート」に、「コンベヤチェーン」は「チェーン」に、それぞれ相当するので、両者は、下記の一致点、及び相違点を有する。
<一致点>
両端にピン嵌合孔を有する一対の外プレートと、
両端にブシュ嵌合孔を有する一対の内プレートと、
両端が前記ブシュ嵌合孔に嵌合され、貫通孔を有するブシュと、
前記貫通孔に挿通され、両端が前記ピン嵌合孔に嵌合されるピンと、
を有するチェーン。
(相違点)
本願補正発明は、「前記ピンは、潤滑材を保持する潤滑材保持手段を有し、前記潤滑材保持手段は、前記ピンの側面に設けられた凹部であり、前記凹部と前記貫通孔の内周面との間に潤滑材が充填され、前記凹部は、前記ピンと前記ブシュの接触面には設けられていない」ものであるのに対し、引用発明は、連結ピン4内には連結ピン外周面に開口するグリース補給孔6を有するグリース封入孔が穿設されているものの、本願補正発明のように構成されていない点。
以下、上記相違点について検討する。
(相違点について)
チェーンにおいて、ピンに潤滑材を保持する潤滑材保持手段を設け、その潤滑材保持手段は、ピンの側面に設けられた凹部であり、凹部と貫通孔の内周面との間に潤滑材が充填され、凹部はピンとブシュの接触面には設けられていないようにすることは、従来周知の技術手段(例えば、チェンの潤滑に係る刊行物2には、「ピン4の外周面には油溜め用窪み部8を設け、この窪み部8はピン4の外周面を略平坦状に一部切欠することによって形成する。特にその位置は、駆動、被動スプロケットに架設されてチェン1が回転走行する場合、荷重が作用しない位置とし、ピン4の端部ではなく中央部に設ける。」(第5頁第1?6行)と記載されるとともに、第1図及び第3図に記載された荷重方向イからみて、ピン4とブシュ5の接触面は一点鎖線上にあるのであるから、窪み部8はピン4とブッシュ5の接触面に設けられていないことが看取できる。また、チェンの潤滑に係る刊行物3には、「チェン1において、ピン2の外周であって軸方向の中間部には、軸方向へ適宜長さに亘り凹部10を設ける。この凹部10はリンク4,5でピン2及びブッシュ3に加へられる荷重点Pより充分に離間させ、第3図に示す如く荷重点Pに対して180°離間する位置に設け、又この凹部10は相互に180°離間した対称位置の2個所に設けられている。
この凹部10によりこの部分とブッシュ3の内径部間に潤滑油の貯留部11を形成する。」(第6頁第4?13行)と記載されるとともに、第3図及び第4図に記載された荷重点Pの位置からみて、ピン2とブシュ3の接触面は荷重点Pの矢印の延長線上にあるのであるから、凹部10はピン2とブッシュ3の接触面に設けられていないことが看取できる。)にすぎない。
してみれば、引用発明のコンベアチェーンのグリースを補給する構成に代えて、従来周知の技術手段を適用することにより、ピンに潤滑材を保持する潤滑材保持手段を設け、その潤滑材保持手段は、ピンの側面に設けられた凹部であり、凹部と貫通孔の内周面との間に潤滑材が充填され、凹部はピンとブシュの接触面には設けられていない構成とすることにより、上記相違点に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が技術的に格別の困難性を有することなく容易に想到できるものであって、それを妨げる格別の事情は見い出せない。

本願補正発明が奏する効果についてみても、引用発明、及び従来周知の技術手段が奏するそれぞれの効果の総和以上の格別顕著な作用効果を奏するものとは認められない。
以上のとおり、本願補正発明は、刊行物1に記載された発明、及び従来周知の技術手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

なお、審判請求人は、審判請求書の請求の理由において、「本発明(審決注:本審決の「本願補正発明」に相当する。以下同様。)では、当該凹部が、ピンとブシュとの接触面に形成されないものである。すなわち、ピンが嵌合された外プレートに対し、それぞれのピンの凹部が外プレートの外側に位置することとなる。したがって、チェーンの使用時に、ピンの凹部側がブシュとの接触面となることがない。このため、応力集中や異常摩耗等を防止することができる。
一方、引例1(審決注:本審決の「刊行物1」に相当する。以下同様。)は、前述の通り、本発明のような「凹部」ではなく「孔」が形成されるものであるが、仮にこの孔が本発明の凹部に該当するとしても、そのピンに対する孔の位置を規定するものではない。したがって、仮に引例1の孔が本発明の凹部に該当するとしても、孔がブシュとの接触面に形成されれば、接触面積の減少に伴う、応力集中や異常摩耗等の恐れがある。特に、引例1の図からも明らかなように、引例1の孔は、ピンの両方向に形成されており、ブシュとの接触面を避けるという思想が、引例1に接した当業者にとって動機づけられるものでもなく、容易に想到できるものでもない。」(「(4)本願請求項1にかかる発明と引用発明との対比」の項参照)と主張している。
しかしながら、上記(相違点について)において述べたように、引用発明に、従来周知の技術手段を適用することは当業者が容易に想到し得たものであるところ、本願補正発明の構成を備えることによって、本願補正発明が、従前知られていた構成が奏する効果を併せたものとは異なる、相乗的で、当業者が予測できる範囲を超えた効果を奏するものとは認められないので、審判請求人の主張は採用することができない。

また、審判請求人が平成22年11月9日付けの回答書において述べている補正案のように、仮に、本願補正発明を「前記凹部は、外プレートの互いに外側に向くように、前記ピンと前記ブシュの接触面には設けられていない」(下線部のみ)と限定したとしても、凹部をピンとブッシュの接触面に設けないようにするにあたり、チェーンにかかる荷重や強度を考慮して、凹部を適宜の位置、数、大きさ、形状等とすることは、当業者が普通に採用する設計変更の範囲内の事項にすぎないものであるから、補正案により限定しようとする事項に係る審判請求人の主張は採用することができない。
ちなみに、先願発明として、特願2006-259030号(特開2008-75854号)の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面には、明細書の段落【0043】(特許公開公報の第9頁第40?45行参照)及び図8には、外プレート250の外側に向くように形成された油溜り溝262の構成が記載されていることを付記する。

3.むすび
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

III.本願発明について
平成22年3月17日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?8に係る発明は、平成21年10月16日付けの手続補正により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりのものである。
「【請求項1】
両端にピン嵌合孔を有する一対の外プレートと、
両端にブシュ嵌合孔を有する一対の内プレートと、
両端が前記ブシュ嵌合孔に嵌合され、貫通孔を有するブシュと、
前記貫通孔に挿通され、両端が前記ピン嵌合孔に嵌合されるピンと、
を有し、
前記ピンは、潤滑材を保持する潤滑材保持手段を有し、
前記潤滑材保持手段は、前記ピンの側面に設けられた凹部であり、前記凹部と前記貫通孔の内周面との間に潤滑材が充填されることを特徴とするチェーン。」

1.刊行物
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物及びその記載事項は、上記「II.1.」に記載したとおりである。

2.対比・判断
本願発明は、上記「II.」で検討した本願補正発明の「凹部」に関する限定事項である「前記凹部は、前記ピンと前記ブシュの接触面には設けられていない」という構成を省くことにより拡張するものである。
そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、さらに構成を限定したものに相当する本願補正発明が、上記「II.2.」に記載したとおり、刊行物1に記載された発明、及び従来周知の技術手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、刊行物1に記載された発明、及び従来周知の技術手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

3.むすび
結局、本願の請求項1に係る発明(本願発明)は、その出願前日本国内において頒布された刊行物1に記載された発明、及び従来周知の技術手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そして、本願の請求項1に係る発明が特許を受けることができないものである以上、本願の請求項2?8に係る発明について検討をするまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-12-24 
結審通知日 2011-01-04 
審決日 2011-06-15 
出願番号 特願2006-292303(P2006-292303)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (F16G)
P 1 8・ 121- Z (F16G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 広瀬 功次  
特許庁審判長 川本 真裕
特許庁審判官 大山 健
常盤 務
発明の名称 チェーン  
代理人 井上 誠一  

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