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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16F
管理番号 1240835
審判番号 不服2010-6023  
総通号数 141 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-09-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-03-18 
確定日 2011-07-28 
事件の表示 特願2005-36642「ショックアブソーバ」拒絶査定不服審判事件〔平成18年8月24日出願公開、特開2006-220288〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は、平成17年2月14日の出願であって、平成21年12月18日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成22年3月18日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに手続補正がなされたものである。

II.平成22年3月18日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成22年3月18日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、補正前の特許請求の範囲の請求項1の、
「【請求項1】
基端部に閉塞部を有し、ピストンを備えたロッドが先端部から突出させて軸方向に往復動自在に装着される筒状ケースと、
前記筒状ケース内の基端部側に設けられたばね室に組み込まれ、前記ロッドに対して前記筒状ケースから突出する方向のばね力を加えるばね部材と、
前記筒状ケースの先端部側に組み込まれ、前記ロッドの軸方向移動を案内するとともに前記筒状ケースとの間でアキュムレータ室を形成するホルダーと、
前記アキュムレータ室内に組み込まれ、前記ロッドの軸方向移動に伴って前記筒状ケース内に封入された液体により膨張収縮するアキュムレータとを有し、
前記ピストンの外周面に前記筒状ケースの先端部側から基端部側に向けて外径が小さくなるテーパ面を形成し、
前記筒状ケースの内周面に、前記ばね室側の真っ直ぐな小径内周面と、当該小径内周面よりも内径が大きく前記アキュムレータ室側の真っ直ぐな大径内周面とを形成し、
前記小径内周面と前記大径内周面との段差部を、前記ピストンが前記筒状ケースの前記基端部に向けて後退限位置となったときにおける前記ピストンの前端面よりも前記筒状ケースの前端部側に形成し、
前記ピストンの前端面が前記段差部よりも後方に移動すると前記液体の流通抵抗が一定値となることを特徴とするショックアブソーバ。」から、
補正後の特許請求の範囲の請求項1の、
「【請求項1】
基端部に閉塞部を有し、ピストンを備えたロッドが先端部から突出して軸方向に往復動自在に装着される筒状ケースと、
前記筒状ケース内の基端部側に設けられたばね室に組み込まれ、前記ロッドに対して前記筒状ケースから突出する方向のばね力を加えるばね部材と、
前記筒状ケースの先端部側に組み込まれ、前記ロッドの軸方向移動を案内するとともに前記筒状ケースとの間でアキュムレータ室を形成するホルダーと、
前記アキュムレータ室内に組み込まれ、前記ロッドの軸方向移動に伴って前記筒状ケース内に封入された液体により膨張収縮するアキュムレータとを有し、
前記ピストンの外周面に前記筒状ケースの先端部側から基端部側に向けて外径が小さくなるテーパ面を形成し、
前記筒状ケースの内周面に、前記ばね室側の真っ直ぐな小径内周面と、当該小径内周面よりも内径が大きく前記アキュムレータ室側の真っ直ぐな大径内周面とを形成し、
前記小径内周面と前記大径内周面との段差部を、前記ピストンが前記筒状ケースの前記基端部に向けて後退限位置となったときにおける前記ピストンの前端面よりも前記筒状ケースの前端部側に形成し、
前記ピストンの前端面が前記段差部よりも後方に移動すると前記ばね室から前記アキュムレータ室に流れる前記液体の流通抵抗が一定値となることを特徴とするショックアブソーバ。」と補正された。なお、下線は対比の便のため当審において付したものである。
上記補正は、補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「液体」に関し、本願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「当初明細書等」という。)の「液体Lがばね室21からアキュムレータ室24内に流れる際の流通抵抗が徐々に大きくなり、ロッド14が後退限位置に近づくと、ロッド14に液体Lにより加えられる制動力が高くなる。これに対し、ロッド14が後退限位置となった状態からばね力により前進限位置に移動する際には、前進限位置に近づくに従ってアキュムレータ室24からばね室21に流れる液体の流通抵抗が徐々に小さくなるので」(段落【0021】参照)、及び「図1に示す場合には、ロッド14が後退限位置となると、ピストン17の前端面は段差部37よりも後方に移動するので、ロッド14が所定距離以上後退限位置に近づくときには液体の流通抵抗は一定値となる」(段落【0023】参照)の記載を根拠として、「前記ばね室から前記アキュムレータ室に流れる」とその構成を限定的に減縮するものである。
結局、この補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定された特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当し、特許法第17条の2第3項に規定された新規事項追加禁止に該当するものではない。
そこで、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

1.原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物及びその記載事項
(1)刊行物1:実願昭59-141785号(実開昭61-55530号)のマイクロフィルム
(2)刊行物2:実願昭48-1078号(実開昭49-102194号)のマイクロフィルム

(刊行物1)
刊行物1には、「緩衝器」に関して、図面(特に、第1図を参照)とともに、下記の技術的事項が記載されている。なお、大文字を小文字で表記した個所がある。
(a)「本考案は緩衝器、特に、シリンダ内に封入された流体中を移動されるピストンに生じる制動力によって、動体負荷エネルギを円滑に吸収して停止させることのできる緩衝器に関する。」(第2頁第2?5行)
(b)「本実施例の緩衝器において、一端が閉止された円筒形のシリンダ1の内部には、ピストンロッド2が挿入され、シリンダ1の内部側の端部には、ロッドシート部3が形成されている。
さらにピストンロッド2の先端部には、第2図に示されるように、シリンダ1の閉止端に向かって外径が徐々に減少するように形成されたテーパ部4が形成されている。
このテーパ部4にはピストン5がピストンロッド2の軸方向に移動自在に緩挿され、ピストン5がピストンロッド2の軸方向に移動することによってテーパ部4の外周部とピストン5の内周部とで流路が構成される構造とされている。
また、ピストンロッド2のロッドシート部3に面するピストン5の側面にはテーパシート6が形成され、ロッドシート部3に押圧される際に線接触となってシール作用をなし、ピストン5の内周部とピストンロッド2のテーパ部4とで構成される流路を流体が通過することが阻止される構造とされている。
さらに、ピストン5の内周部には、ピストンロッド2に形成されたテーパ部4と逆方向のテーパ部7が形成され、テーパ部4の外周部とピストン5の内周部とで形成される、長さの短い流路の断面積がピストンロッド2の先端方向に徐々に大となるように構成されている。
このため、この流路内を、ピストンロッド2の先端部方向に流体が移動される際の流路抵抗が減少され、流体の速やかな移動、ひいてはピストン5の迅速な復帰が可能とされている。
この場合、ピストンロッド2のテーパ部4およびピストン5の内周部のテーパ部7の形状が単純であるため、加工は比較的容易であり、加工に要するコストが低減される。
ピストンロッド2の先端部の周溝内には、リング8が嵌合係止されピストン5がピストンロッド2の先端部から脱落することが防止されている。
さらに、リング8の中央部には、複数の貫通孔9が設けられ、ピストン5がリング8に当接された状態にある時に、テーパ部4の外周部とピストン5の内周部とで構成される流路に連通される構造とされている。
さらに、シリンダ1の開口端側にはホルダ10が挿入され、中央部をピストンロッド2がシリンダ1の軸方向に滑動自在に挿通され案内される構造とされている。
ホルダ10は、スペーサ11およびリテーナ12によってシリンダ1に固定され、Oリング13によってシリンダ1内の、たとえばシリコンオイルなどの流体14の漏洩が防止される。
同様に、ホルダ10のピストンロッド2が挿通される部分にはパッキン15が設けられ、ピストンロッド2の移動によって、シリンダ内に封入された流体14が外部に漏洩することが防止される構造とされている。
ホルダ10の小径部の周囲には、たとえば独立気泡型のスポンジ構造で構成され、膨張収縮が自在なアキュムレータ16が設けられており、シリンダ1の内部に進入するピストンロッド2に排除されるシリンダ1内の流体14が複数の流体通路17を通過してアキュムレータ16が位置される流体室18に流入され、アキュムレータ16を収縮させることによってシリンダ1の内圧が所定の値以上に上昇することが防止される構造とされている。
リング8と、シリンダ1の閉止端内に挿入されたエンドキャップ19との間には、コイルばね20が設けられ、リング8を介してピストンロッド2をシリンダ1の外部に押し出す方向、すなわち第1図の左方向に常に弾発力が加えられている。
シリンダ1の内周の一部には、シリンダ1の終端部に向かって内径が減少するようにテーパ部21が形成され、ピストンロッド2がシリンダ1内に進入する方向に移動される時、ピストン5の外周部との隙間が徐々に減少されることによって、ピストン5に生じる制動力が徐々に増加される構造とされている。
シリンダ1の閉止端には流体14の注入および空気抜き用の注入孔22が形成されており、シリンダ1内に流体14を注入したのち封止球23および封止ねじ24によって封止されている。
また、シリンダ1の外周部には、ねじ部25が構成され、所定の機器(図示せず)に容易に取り付けられるような構造とされている。
さらに、ピストンロッド2のシリンダ1の外部に突出される端部にはキャップ26が冠着され、ピストンロッド2の端部に当接される動体が損傷されることが防止されている。
次に、本実施例の作用について説明する。
シリンダ1の外部に突出されるピストンロッド2の先端部に動体負荷が加えられると、ピストンロッド2はコイルばね20の弾発力に抗してシリンダ1の内部方向、すなわち第1図の右側方向に移動しはじめる。
このとき、ピストン5はピストン5の右側に存在する流体14に押圧されピストンロッド2のロッドシート部3に押圧され、ロッドシート部3とピストン5のテーパシート6が線接触の状態で密着され、シール作用が行われる。
この結果、ピストンロッド2のテーパ部4の外周部とピストン5の内周部とで構成される流路を通過して、ピストン5の右側にある流体14がピストン5の左側に流入することが阻止され、ピストン5の右側に存在する流体14はピストン5の外周部とシリンダ1の内壁面とで構成される、断面積の小さな間隙のみを通過してピストン5の左側に流入されることとなる。
こうして、ピストン5には流体の粘性抵抗による制動力が発生する。
この場合、シリンダ1の内周部にテーパ部21が形成されているため、ピストン5の外周部とシリンダ1のテーパ部21で構成される隙間が、ピストンロッド2のシリンダ1内への侵入に伴って徐々に減少されることとなり、ピストンロッド2に発生される制動力は徐々に増加される。
したがって、ピストンロッド2に急激な動体負荷が加えられた場合でも、ピストンロッド2に発生される制動力はピストンロッド2の移動の初期に急激に増加されることなく、円滑な動体負荷エネルギ吸収動作が行われる。
次に、動体負荷が解除されると、ピストンロッド2はコイルばね20の弾発力によって、シリンダ1の外部に突出する方向、すなわち第1図の左方向に移動し始める。
このとき、ピストン5はピストンロッド2のロッドシート部3から離れ、第2図において二点鎖線で示されるように、リング8の対向側面と当接する位置まで移動される。
この結果、ピストン5の左側に存在する流体14はピストン5の内周部とピストンロッド2のテーパ部4とで構成される、断面積が大きく長さの短い流路を通過して容易にピストン5の右側に流入され、ピストン5には大きな流体抵抗が発生せず、ピストンロッド2は迅速に無負荷状態の位置に復帰される。
なお、本考案は前記実施例になんら限定されるものではなく、たとえば、ロッドシート部3にテーパシートを形成し、ピストン5の側面は単なる平面形状とすること等も可能である。」(第4頁第19行?第11頁第17行)
(c)「(4).シリンダ内周部に、動体負荷エネルギ吸収動作時のピストンロッドの移動方向に内径が減少するようなテーパ部を形成することにより、制動力が緩やかに増加され、ピストンロッドの移動の初期において制動力が急激に増加することが防止でき、動体負荷エネルギ吸収動作が円滑になる。」(第12頁第11?16行)
したがって、刊行物1には、下記の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
【引用発明】
終端部に閉止端を有し、ピストン5を備えたピストンロッド2が先端部から突出して軸方向に往復動自在に装着されるシリンダ1と、
前記シリンダ1内の終端部側に設けられたばね室に組み込まれ、前記ピストンロッド2に対して前記シリンダ1から突出する方向のばね力を加えるコイルばね20と、
前記シリンダ1の先端部側に組み込まれ、前記ピストンロッド2の軸方向移動を案内するとともに前記シリンダ1との間で流体室18を形成するホルダ10と、
前記流体室18内に組み込まれ、前記ピストンロッド2の軸方向移動に伴って前記シリンダ1内に封入された流体により膨張収縮するアキュムレータ16とを有し、
前記ピストン5の外周部の外径を一定に形成し、
前記シリンダ1の内周面に、前記シリンダ1の先端部側から終端部側に向けて外径が小さくなるテーパ部21を形成し、
ピストン5の外周部とシリンダ1のテーパ部21で構成される隙間が、ピストンロッド2のシリンダ1内の侵入に伴って徐々に減少することにより、ピストンロッド2に発生される制動力が徐々に増加されるようにした緩衝器。

(刊行物2)
刊行物2には、「緩衝器」に関して、図面(特に、第2、3及び5図を参照)とともに、下記の技術的事項が記載されている。なお、大文字を小文字で表記した個所がある。
(d)「本考案は衝撃に対する抵抗力を行程中一定にして緩衝することによって、ある速度で衝突する物体を等減速度で静かに停止させることができる緩衝器に関するものである。」(第1頁第12?15行)
(e)「第2図および第3図に示す実施例で説明すると、1はシリンダであって、このシリンダ1は一端を閉塞した有底筒状体2の開口端2aに端面板3を溶接等により液密に固着して構成され、その内部にはオイル等よりなる緩衝用流体4が収容される。前記シリンダ1を構成する有底筒状体2の内周部には突起部5が設けられる。この突起部5は有底筒状体2の周壁部を部分的に半径方向を内方に絞り形成することにより有底筒状体2と一体に設けられ、シリンダ1内を部分的に小内径にするものである。また、前記シリンダ1内にはピストン6が往復動可能に嵌装され、このピストン6の前記突起部5に対応する部分には基端側(図面の右側)に向かうにしたがって次第に大径となるテーパ部7が形成されている。そして、前記突起部5とピストン6のテーパ部7との間にピストン6の行程によって開口面積が変わるオリフィス8を形成している。前記ピストン6は前記シリンダ1の有底筒状体2の閉塞端2bを貫通して外方に突出するピストン杆9に連結され、このピストン杆9が貫通する閉塞端2bの孔10は、シリンダ1内に位置して設けられたシール部材11によりシールされている。また前記ピストン9の基端にはばね受け体12が溶接等により固着され、このばね受け体12と前記シリンダ1の閉塞端2bとの間には圧縮状態のコイルばね13が介装され、このコイルばね13はピストン6を定位置に戻す復元ばねの作用をさせるものである。
上記のようにして構成された緩衝器の作動を説明する。第2図に示す無荷重の状態の緩衝器に衝撃力Pが作用するとピストン6が図示の位置から左方に往動し、これによりシリンダ1内の突起部5より左側にある緩衝用流体4がピストン6のテーパ部7と突起部5との間で形成されたオリフィス8を通って右側に移動してエネルギーを吸収する。そして、オリフィス8の開口面積は前記ピストン6の往動にしたがって次第に小になるとともに、ピストン6の速度Vが往動行程の終りに近づいて遅くなると、ピストン6のテーパ部7の径が大になっているので、第3図に示すようにオリフィス8の開口面積は小さくなる。このため、ピストン6の速度Vが次第に小になっても、緩衝効率は低下せず、ピストン6の往復行程中ピストン6に作用する抵抗力Fは一定にでき、したがって、ピストン6は等減速度で静かに停止させることができる。また、前記往動行程が終了すると、ピストン6はコイルばね13の復元力により定位置に戻され、次の緩衝作用のための準備がなされる。
なお、上記実施例において、突起部5はシリンダ1を構成する有底筒状体2を絞り形成することに一体に設けられたが、本考案はこれに限定されるものではない。例えば(中略)第5図に示すように有底筒状体2の内周部を半径方向を内方に一体に突出させて形成される鍔状部15をもって突起部5bとしてもよい。また、上記実施例では突起部5,5a,5bはいずれもシリンダ1の内周部を部分的に小内径にするように全周に亘って設けられたものである」(第3頁第3行?第6頁第5行)
(f)「本考案の緩衝器においては、シリンダの内周部に突起部を設け、このシリンダに嵌装されるピストンの前記突起部に対応する部分にテーパ部を形成するものであるから、従来のように加工困難なシリンダの内周部をテーパ加工する必要がなく、シリンダの内周部には簡単な突起部を設けるだけでよいので、シリンダ内周部の加工を極力なくすることができる。このため本考案の緩衝器は加工容易で、生産性の向上が計れるものである。」(第6頁第17行?第7頁第6行)
(g)「第2図および第3図は本考案の一実施例を示し、第2図は作動前の縦断面図、第3図は作動後の縦断面図」(第7頁第9?11行)

2.対比・判断
本願補正発明と引用発明とを対比すると、それぞれの有する機能からみて、引用発明の「終端部」は本願補正発明の「基端部」に相当し、以下同様に、「閉止端」は「閉塞部」に、「ピストン5」は「ピストン」に、「ピストンロッド2」は「ロッド」に、「シリンダ1」は「筒状ケース」に、「コイルばね20」は「ばね部材」に、「流体室18」は「アキュムレータ室」に、「ホルダ10」は「ホルダー」に、「流体14」は「液体」に、「アキュムレータ16」は「アキュムレータ」に、「外周部」は「外周面」に、「テーパ部21」は「テーパ面」に、「緩衝器」は「ショックアブソーバ」に、それぞれ相当するので、両者は、下記の一致点、並びに相違点1及び2を有する。
<一致点>
基端部に閉塞部を有し、ピストンを備えたロッドが先端部から突出して軸方向に往復動自在に装着される筒状ケースと、
前記筒状ケース内の基端部側に設けられたばね室に組み込まれ、前記ロッドに対して前記筒状ケースから突出する方向のばね力を加えるばね部材と、
前記筒状ケースの先端部側に組み込まれ、前記ロッドの軸方向移動を案内するとともに前記筒状ケースとの間でアキュムレータ室を形成するホルダーと、
前記アキュムレータ室内に組み込まれ、前記ロッドの軸方向移動に伴って前記筒状ケース内に封入された液体により膨張収縮するアキュムレータとを有するショックアブソーバ。
(相違点1)
本願補正発明は、「前記ピストンの外周面に前記筒状ケースの先端部側から基端部側に向けて外径が小さくなるテーパ面を形成し、
前記筒状ケースの内周面に、前記ばね室側の真っ直ぐな小径内周面と、当該小径内周面よりも内径が大きく前記アキュムレータ室側の真っ直ぐな大径内周面とを形成し」たのに対し、引用発明は、ピストン5の外周部の外径を一定に形成し、シリンダ1の内周面に、シリンダ1の先端部側から終端部側に向けて外径が小さくなるテーパ部21を形成した点。
(相違点2)
本願補正発明は、「前記小径内周面と前記大径内周面との段差部を、前記ピストンが前記筒状ケースの前記基端部に向けて後退限位置となったときにおける前記ピストンの前端面よりも前記筒状ケースの前端部側に形成し、
前記ピストンの前端面が前記段差部よりも後方に移動すると前記ばね室から前記アキュムレータ室に流れる前記液体の流通抵抗が一定値となる」のに対し、引用発明は、ピストン5の外周部とシリンダ1のテーパ部21で構成される隙間が、ピストンロッド2のシリンダ1内の侵入に伴って徐々に減少することにより、ピストンロッド2に発生される制動力が徐々に増加されるようにした点。
以下、上記相違点1及び2について検討する。
(相違点1について)
引用発明及び刊行物2に記載された技術的事項は、ともに緩衝器に係る技術分野に属するものであって、刊行物2には、第2及び3図に係る実施例に関して、「第2図および第3図に示す実施例で説明すると、1はシリンダであって、このシリンダ1は一端を閉塞した有底筒状体2の開口端2aに端面板3を溶接等により液密に固着して構成され、その内部にはオイル等よりなる緩衝用流体4が収容される。前記シリンダ1を構成する有底筒状体2の内周部には突起部5が設けられる。この突起部5は有底筒状体2の周壁部を部分的に半径方向を内方に絞り形成することにより有底筒状体2と一体に設けられ、シリンダ1内を部分的に小内径にするものである。また、前記シリンダ1内にはピストン6が往復動可能に嵌装され、このピストン6の前記突起部5に対応する部分には基端側(図面の右側)に向かうにしたがって次第に大径となるテーパ部7が形成されている。そして、前記突起部5とピストン6のテーパ部7との間にピストン6の行程によって開口面積が変わるオリフィス8を形成している。前記ピストン6は前記シリンダ1の有底筒状体2の閉塞端2bを貫通して外方に突出するピストン杆9に連結され、このピストン杆9が貫通する閉塞端2bの孔10は、シリンダ1内に位置して設けられたシール部材11によりシールされている。また前記ピストン9の基端にはばね受け体12が溶接等により固着され、このばね受け体12と前記シリンダ1の閉塞端2bとの間には圧縮状態のコイルばね13が介装され、このコイルばね13はピストン6を定位置に戻す復元ばねの作用をさせるものである。」(上記摘記事項(e)参照)と記載され、また、第5図に係る実施例に関して、「第5図に示すように有底筒状体2の内周部を半径方向を内方に一体に突出させて形成される鍔状部15をもって突起部5bとしてもよい。また、上記実施例では突起部5,5a,5bはいずれもシリンダ1の内周部を部分的に小内径にするように全周に亘って設けられたものである」(上記摘記事項(e)参照)と記載されている。
このことから、刊行物2には、ピストン6の外周面に有底筒状体2(シリンダ)の先端部側から基端部側に向けて外径が小さくなるテーパ部7を形成し、有底筒状体2(シリンダ)の内周面に、基端部側に半径方向を内方に一体に突出させて部分的に設けられた真っ直ぐな小径内周面と、先端部側に小径内周面よりも内径が大きく真っ直ぐな大径内周面とを形成した構成が記載又は示唆されている。
してみれば、引用発明のピストン5の外周面と、シリンダ1の内周面のテーパ部21の関係に、刊行物2に記載又は示唆された上記技術的手段を適用することにより、ピストン5の外周面にシリンダ1の先端部側から基端部側に向けて外径が小さくなるテーパ面を形成し、シリンダ1の内周面に、ばね室側の真っ直ぐな小径内周面と、小径内周面よりも内径が大きく流体室18側の真っ直ぐな大径内周面とを形成することにより、上記相違点1に係る本願補正発明の構成とすることは、技術的に格別の困難性を有することなく当業者が容易に想到できるものであって、これを妨げる格別の事情は見出せない。
(相違点2について)
引用発明及び刊行物2に記載された技術的事項は、ともに緩衝器に係る技術分野に属するものであって、刊行物2には、第2図、及び第3図に係る実施例に関して、「第2図に示す無荷重の状態の緩衝器に衝撃力Pが作用するとピストン6が図示の位置から左方に往動し、これによりシリンダ1内の突起部5より左側にある緩衝用流体4がピストン6のテーパ部7と突起部5との間で形成されたオリフィス8を通って右側に移動してエネルギーを吸収する。そして、オリフィス8の開口面積は前記ピストン6の往動にしたがって次第に小になるとともに、ピストン6の速度Vが往動行程の終わりに近づいて遅くなると、ピストン6のテーパ部7の径が大になっているので、第3図に示すようにオリフィス8の開口面積は小さくなる。このため、ピストン6の速度Vが次第に小になっても、緩衝効率は低下せず、ピストン6の往復行程中ピストン6に作用する抵抗力Fは一定にでき、したがって、ピストン6は等減速度で静かに停止させることができる。」(上記摘記事項(e)参照)と記載されている。
また、刊行物2には、「第2図および第3図は本考案の一実施例を示し、第2図は作動前の縦断面図、第3図は作動後の縦断面図」(上記摘記事項(g)参照)と記載されている。
このことから、刊行物2の第3図に記載されたピストン6の位置は、衝撃力Pが作用した作動後の後退限位置を示していることは明らかであるとともに、第3図に記載されたピストン6の前端面、オリフィス8、及び段差部の相対的な位置関係から、上記(相違点1について)において述べた刊行物2の第5図に記載された構成において、ピストン6の位置を第5図の図面左方に移動させた場合における衝撃力Pが作用した作動後の後退限位置を想定することができる。
そして、第5図における想定される後退限位置において、小径内周面と大径内周面との段差部は、ピストン6が有底筒状体2の基端部に向けて後退限位置となったときにピストン6の前端面よりも有底筒状体2の前端部側に形成され、オリフィス8の開口面積は一定になるのであるから、ピストン6の前端面が段差部よりも後方に移動すると基端側室と先端側室の左右2つの室間のオリフィス8を流れる液体の流通抵抗が一定値となることは、技術的に自明の事項である。
してみれば、上記(相違点1について)の判断の前提下において、引用発明の構成に、刊行物2に記載又は示唆された技術的手段を適用することにより、小径内周面と大径内周面との段差部を、ピストン5がシリンダ1の基端部に向けて後退限位置となったときにおけるピストン5の前端面よりもシリンダ1の前端部側に形成することにより、ピストン5の前端面が段差部よりも後方に移動するとばね室から流体室18に流れる液体の流通抵抗が一定値となるようにして、上記相違点2に係る本願補正発明の構成とすることは、技術的に格別の困難性を有することなく当業者が容易に想到できるものであって、これを妨げる格別の事情は見出せない。

本願補正発明が奏する効果についてみても、引用発明、刊行物2に記載された発明が奏するそれぞれの効果の総和以上の格別顕著な作用効果を奏するものとは認められない。
以上のとおり、本願補正発明は、刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

なお、審判請求人は、平成22年10月14日付けの回答書において、「本願発明(審決注:本審決の「本願補正発明」に相当する。以下同様。)のショックアブソーバは、ピストン17のテーパ部が段差部37を通過しているときは等減速度で移動し、ピストン17の前端面が段差部37を通過するとピストン17が一定速度で移動するという特徴を有しております。したがって、段差部37を通過した後の衝撃吸収をも想定した本願発明は、流動抵抗一定の状態を保持しつつ等減速度で静かに停止するまでの一連の作動行程を想起したものであってピストン6が突起部5を通過した後まで想定したものでない引用文献2(審決注:本審決の「刊行物2」に相当する。以下同様。)によって、容易に発明することができるものではありません。」(「4.引用文献2との相違点について」の項参照)と主張している。
しかしながら、上記(相違点1について)及び(相違点2について)において述べたように、本願補正発明は、刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるところ、本願補正発明の構成を備えることによって、本願補正発明が、従前知られていた構成が奏する効果を併せたものとは異なる、相乗的で、当業者が予測できる範囲を超えた効果を奏するものとは認められないので、審判請求人の主張は採用することができない。

3.むすび
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

III.本願発明について
平成21年3月18日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1及び2に係る発明は、平成21年6月25日付け手続補正により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりのものである。
「【請求項1】
基端部に閉塞部を有し、ピストンを備えたロッドが先端部から突出させて軸方向に往復動自在に装着される筒状ケースと、
前記筒状ケース内の基端部側に設けられたばね室に組み込まれ、前記ロッドに対して前記筒状ケースから突出する方向のばね力を加えるばね部材と、
前記筒状ケースの先端部側に組み込まれ、前記ロッドの軸方向移動を案内するとともに前記筒状ケースとの間でアキュムレータ室を形成するホルダーと、
前記アキュムレータ室内に組み込まれ、前記ロッドの軸方向移動に伴って前記筒状ケース内に封入された液体により膨張収縮するアキュムレータとを有し、
前記ピストンの外周面に前記筒状ケースの先端部側から基端部側に向けて外径が小さくなるテーパ面を形成し、
前記筒状ケースの内周面に、前記ばね室側の真っ直ぐな小径内周面と、当該小径内周面よりも内径が大きく前記アキュムレータ室側の真っ直ぐな大径内周面とを形成し、
前記小径内周面と前記大径内周面との段差部を、前記ピストンが前記筒状ケースの前記基端部に向けて後退限位置となったときにおける前記ピストンの前端面よりも前記筒状ケースの前端部側に形成し、
前記ピストンの前端面が前記段差部よりも後方に移動すると前記液体の流通抵抗が一定値となることを特徴とするショックアブソーバ。」

1.刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物及びその記載事項は、上記「II.1.」に記載したとおりである。

2.対比・判断
本願発明は、上記「II.」で検討した本願補正発明の「液体」に関する限定事項である「前記ばね室から前記アキュムレータ室に流れる」という構成を省くことにより拡張するものである。
そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、さらに構成を限定したものに相当する本願補正発明が、上記「II.2.」に記載したとおり、刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明は、同様の理由により、刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

3.むすび
結局、本願の請求項1に係る発明(本願発明)は、その出願前日本国内において頒布された刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そして、本願の請求項1に係る発明が特許を受けることができないものである以上、本願の請求項2に係る発明について検討をするまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-12-15 
結審通知日 2010-12-21 
審決日 2011-06-16 
出願番号 特願2005-36642(P2005-36642)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (F16F)
P 1 8・ 121- Z (F16F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 平城 俊雅長屋 陽二郎  
特許庁審判長 川本 真裕
特許庁審判官 常盤 務
倉田 和博
発明の名称 ショックアブソーバ  
代理人 筒井 大和  

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