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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F02D 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02D |
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管理番号 | 1240837 |
審判番号 | 不服2010-7125 |
総通号数 | 141 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2011-09-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2010-04-05 |
確定日 | 2011-07-28 |
事件の表示 | 特願2007-261068「内燃機関の可変バルブタイミング制御装置」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 1月31日出願公開、特開2008- 19874〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件出願は、平成10年3月23日に出願した特願平10-72953号の一部を平成19年10月4日に新たな出願としたものであって、平成19年11月9日に上申書が提出され、平成21年7月9日付けで拒絶理由が通知され、平成21年9月10日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成21年10月2日付けで再び拒絶理由が通知され、平成21年12月4日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成22年1月4日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成22年4月5日付けで拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同時に同日付けで明細書及び特許請求の範囲を補正する手続補正書が提出され、その後、当審において平成22年11月8日付けで書面による審尋がなされ、これに対して平成22年12月27日付けで回答書が提出されたものである。 第2 平成22年4月5日付けの手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成22年4月5日付けの手続補正を却下する。 [理由] 1 本件補正について (1)平成22年4月5日付けの手続補正書による手続補正(以下、単に「本件補正」という。)は、特許請求の範囲に関して、本件補正により補正される前の(すなわち、平成21年12月4日付けの手続補正書によって補正された)特許請求の範囲の以下の(a)に示す請求項1を、(b)に示す請求項1に補正するものである。 (a)本件補正前の特許請求の範囲 「【請求項1】 内燃機関のカム軸のカムの回転運動によって駆動される高圧ポンプにより燃料を高圧にして筒内噴射用の燃料噴射弁に供給し、この燃料噴射弁から燃料を筒内噴射する内燃機関の燃料噴射装置において、 前記高圧ポンプから筒内噴射用の前記燃料噴射弁の間に配置され、前記燃料噴射弁に供給される燃料の圧力(以下「燃圧」という)を検出する燃圧検出手段と、 始動時に前記燃圧検出手段で検出された燃圧が始動に必要な噴射燃料の微粒化を確保できる、目標燃圧よりも低い圧力に設定された所定圧力以下の時に前記燃料噴射弁による筒内噴射を禁止する始動制御手段とを備え、 前記所定燃圧は、前記内燃機関の冷却水温に応じて設定されるものであって、 前記始動制御手段は、筒内噴射禁止の状態が所定期間継続した時に筒内噴射禁止を解除して筒内噴射を開始することを特徴とする内燃機関の燃料噴射装置。」 (b)本件補正後の特許請求の範囲 「【請求項1】 内燃機関のカム軸のカムの回転運動によって駆動される高圧ポンプにより燃料を高圧にして筒内噴射用の燃料噴射弁に供給し、この燃料噴射弁から燃料を筒内噴射する内燃機関の燃料噴射装置において、 前記高圧ポンプから筒内噴射用の前記燃料噴射弁の間に配置され、前記燃料噴射弁に供給される燃料の圧力(以下「燃圧」という)を検出する燃圧検出手段と、 始動時に前記燃圧検出手段で検出された燃圧が始動に必要な噴射燃料の微粒化を確保できる、目標燃圧よりも低い圧力に設定された所定圧力以下の時に前記燃料噴射弁による筒内噴射を禁止する始動制御手段とを備え、 前記所定燃圧は、前記内燃機関の冷却水温に応じて設定されるものであって、 前記始動制御手段は、筒内噴射禁止の状態が所定の噴射タイミングの回数継続した時に筒内噴射禁止を解除して筒内噴射を開始することを特徴とする内燃機関の燃料噴射装置。」(なお、下線は当審で付したものであり、補正箇所を示す。) (2)本件補正の目的 特許請求の範囲の請求項1についての本件補正は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1における発明特定事項である「所定期間」を、「所定の噴射タイミングの回数」という下位概念に限定するものである。 したがって、特許請求の範囲の請求項1についての本件補正は、平成18年法律第55号附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 2 本件補正の適否についての判断 本件補正における請求項1に関する補正事項は、前述したように、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するので、本件補正後の請求項1に記載された事項により特定される発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下に検討する。 2-1 特開平9-222038号公報(以下、「引用文献」という。) (1)引用文献の記載事項 原査定の拒絶理由に引用された、本件出願の出願前に頒布された刊行物である引用文献には、例えば、以下の記載がある。(なお、下線は当審で付した。) (a)「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、火花点火方式の内燃機関、特に燃焼室内に直接燃料を噴射する筒内噴射方式の火花点火内燃機関の始動時の燃料供給方法とその制御方法およびそのための装置に関する。 【0002】 【従来の技術】内燃機関のうち、燃焼室に直接燃料が噴射される筒内燃料噴射エンジンにおいて、エンジンの始動の条件として、燃料の微粒化のため噴射管内の燃料圧力が噴射適正圧に達していることが挙げられる。従来、スタ-トの信号から実際に始動されるまでに必要な、噴射管内の圧力が噴射適正圧に到るまでの時間は、噴射管の容積等の影響により比較的長く必要としていた。 【0003】 【発明が解決しようとする課題】以上のように、筒内直接噴射方式の火花点火内燃機関においては、噴射管内の圧力が噴射適正圧であるレギュレ-タの設定圧に達するまで始動されないため始動に時間がかかった。」(段落【0001】ないし【0003】) (b)「【0005】 【課題を解決するための手段】上記課題を解決するために、高圧管内の燃料圧力が噴射適正圧に到る前、アキュムレ-タの予圧に達した段階で噴射を開始する。このとき、管内の圧力は高圧配管に圧力センサを設置し測定する。適正圧力より低い圧力で噴射することによる噴射量の不足は噴射期間を延長することで補う。これは、エンジンコントロ-ルユニット(以下、ECUと記述する)に噴射量を一定に保つような圧力と噴射期間の関係を与えることで正確に噴射量を補うものである。 【0006】また、圧力センサを用いることなく、前記予圧と前記適正圧との略中間圧力を想定して、この想定圧に適切な噴射期間を決定し、この条件で噴射する方法も有る。」(段落【0005】及び【0006】) (c)「【0009】 【発明の実施の形態】図1に、本発明の筒内直接噴射方式の火花点火内燃機関における燃料供給系の実施形態を示す。ここにおいて、1はエンジン、2は燃料タンク、3はフィ-ドポンプ、4はモ-タ、5は低圧レギュレ-タ、6は高圧ポンプ、7はカムシャフト、8はアキュムレ-タ、9はインジェクタ、10は点火プラグ、11は燃焼室、12は高圧レギュレ-タ、13はピストン、14は吸気管、15はスロットル、16はエンジンコントロ-ルユニット(ECU)、17はスタ-トスイッチ、18は排気管、20は圧力センサ、101は低圧配管、102は高圧配管、103は戻り管、をそれぞれ表わしている。 【0010】スタ-トスイッチ17がONすると、その信号がECU16とモ-タ4に伝えられる。モ-タ4はECU16より始動の信号を受けると同時に運転を開始し、モ-タ4によって駆動されるフィ-ドポンプ3は燃料タンク2より燃料を汲み上げ、加圧する。 【0011】加圧された燃料は、低圧配管101を介し高圧ポンプ6に送られる。このとき、低圧配管101内の燃料圧力が、あらかじめ決められた低圧レギュレ-タ5の設定圧力以上であれば、差圧分の燃料は燃料タンク2に戻され、低圧管101内の圧力は一定に保たれる。次に、低圧レギュレ-タ5の設定圧力に加圧された燃料は、高圧ポンプ6により高圧配管102に送られる。高圧ポンプ6はエンジン1におけるカムシャフト7により駆動される。 【0012】ここで、高圧配管102内の燃料圧力が、アキュムレ-タ8の設定圧力以上になるとアキュムレ-タ8により余分な圧力が吸収され、反対に設定圧力以下になるとアキュムレ-タ8により不足分の圧力が高圧配管102に供給される。このアキュムレ-タ8によって、高圧配管102における燃料の圧力脈動は減衰する。燃料は後述するECU16から送られる噴射命令信号により、インジェクタ9より燃焼室11内に直接噴射される。 【0013】噴射はECU16の信号により、順次、他の燃焼室でも行われるため、高圧配管102内に圧力脈動が発生するが、この脈動は上記のアキュムレ-タ8によって吸収される。最終的に高圧配管102内の燃料は高圧レギュレ-タ12により、一定圧力に保たれる。高圧レギュレ-タ12は、高圧配管内の圧力がレギュレ-タの設定圧力以上になると、余剰燃料を戻り管103に排出する機構を有している。戻り管103に排出され圧力の下がった燃料は、再び低圧配管101に戻り再循環される。 【0014】スロットル15はECU16からの信号により開き、流量が調節された空気が吸気管14を通り、燃焼室11に流入する。空気と噴射された燃料は燃焼室11内で混合され、ピストン13の上昇に伴って圧縮される。圧縮混合気はECU16からの信号により制御されている点火プラグ10により火花点火し、燃焼、爆発する。 【0015】これにより、燃焼室11の圧力が上昇し、ピストン13に作用し、エンジン1は回転する。また、排気ガスは排気口18より排出される。このように、燃料タンク2から吸い上げられた燃料が、インジェクタ9より噴射され、空気と混合し、圧縮、爆発することで機関は始動する。 【0016】次にECU16の働きを説明する。図2にECUの主な働きの例を示す。ECU16はスタ-トスイッチ17から始動の信号を受けるとエンジン各所に配置されているセンサから、水温、吸気温、スロットルポジション、排気温、空気流量などの信号を受けとる。 【0017】それらを総合的に判断し、適切な噴射量、噴射時期、噴射期間の信号をインジェクタに、点火時期の信号を点火プラグに、スロットル開度の信号をスロットルに、というように信号を送る。これらの信号により、エンジンは正常に運転される。」(段落【0009】ないし【0017】) (d)「【0018】次に、第一の実施形態を説明する。本実施形態の特徴は図1に示した装置において高圧配管102に、応答性のよい圧力センサ20を設け、ECU16にこのデ-タを送るように配線したことである。 【0019】始動時の高圧配管102内の圧力は、図3に示すように変化する。図3において、aはアキュムレ-タ8の予圧、bはレギュレ-タ12の設定圧力、つまり噴射適正圧である。このように、始動後すぐに圧力がbに達するわけでなく、アキュムレ-タ8の予圧aまで比較的すみやかに上昇したのち、緩やかに噴射適正圧bまで移行する。 【0020】この理由は燃料圧力が予圧a以上になるとアキュムレ-タ8に圧力が吸収されるためである。従来、圧力がbに達しなければ始動されていなかったが、本発明においては、このaからbまでの圧力が緩やかに上昇する期間を有効に使い、始動時間を短縮することを目的としている。」(段落【0018】ないし【0020】) (e)「【0021】本実施形態の動作を説明する。高圧配管102上の圧力センサ20により、高圧配管内の燃料圧力を測定し、そのデ-タをECU16に送る。ECU16は、送られてくる圧力がアキュムレ-タ8の予圧aに達すると、これを前提条件として噴射開始の信号をインジェクタ9に送る。…(中略)…。 【0024】そして、前記予圧aに達した後、前記予圧aと前記適正圧bとの間の適宜の圧力において、他のエンジンセンサからの信号を勘案して、噴射時期が決定されるのである。」(段落【0021】ないし【0024】) (f)「【0026】次に、本発明の第二実施形態を説明する。第二実施形態の特徴は、第一実施形態のような圧力センサを用いること無く、前記予圧aと前記適正圧bとの略中間圧力を想定して、この想定圧に適切な噴射期間を決定し、この条件で噴射するものである。この際、噴射時期は、例えばクランク角を検知することにより前記略中間圧力に達したタイミングに対応することができる。」(段落【0026】) (2)上記(1)(a)ないし(f)及び図面の記載から分かること (ア)上記(1)(a)ないし(f)及び図面の記載から、引用文献には、内燃機関のカムシャフト7により駆動される高圧ポンプ6により燃料を高圧にして燃焼室内に燃料を直接噴射するインジェクタ9に供給し、このインジェクタ9から燃料を燃焼室内に直接噴射する内燃機関の燃料噴射装置が記載されていることが分かる。 (イ)上記(1)(a)ないし(f)及び図面の記載から、引用文献に記載された内燃機関の燃料噴射装置において、高圧ポンプ6から燃焼室内に燃料を直接噴射するインジェクタ9の間に配置され、前記インジェクタ9に供給される燃料の圧力を検出する圧力センサ20を備えることが分かる。 (ウ)上記(1)(a)ないし(e)の記載から、引用文献に記載された内燃機関の燃料噴射装置において、従来から、始動時に燃料圧力が始動に必要な燃料の微粒化を確保できる所定圧力以下の時にインジェクタによる燃料噴射が禁止する制御が行われていたことが分かる。また、ECU16は、噴射命令信号をインジェクタ9に送るものであるから、燃料噴射を禁止するのはECU16であることが分かる。 (エ)上記(e)の特に段落【0024】の記載から、引用文献に記載された内燃機関の燃料噴射装置において、適宜の圧力において、他のエンジンセンサからの信号を勘案して、噴射時期が決定されること、すなわち、噴射を開始する燃料圧力は、他のエンジンセンサからの信号を勘案して設定されることが分かる。 (オ)上記(f)の記載から、引用文献に記載された内燃機関の燃料噴射装置において、噴射時期は、例えばクランク角を検知することにより所定の圧力に達したタイミングに対応することができること、すなわち、所定のクランク角に達したタイミングで噴射を開始するように設定できることが分かる。 (3)引用文献に記載された発明 上記(1)及び(2)並びに図面の記載から、引用文献には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。 「内燃機関のカムシャフト7により駆動される高圧ポンプ6により燃料を高圧にして燃焼室11内に直接噴射するインジェクタ9に供給し、このインジェクタ9から燃料を燃焼室11内に直接噴射する内燃機関の燃料噴射装置において、 前記高圧ポンプ6から燃焼室11内に燃料を直接噴射する前記インジェクタ9の間に配置され、前記インジェクタ9に供給される燃料の圧力を検出する圧力センサ20と、 始動時に燃料圧力が始動に必要な燃料の微粒化を確保できる所定圧力以下の時にインジェクタによる燃料噴射を禁止するECU16を備える内燃機関の燃料噴射装置。」 また、(1)及び(2)並びに図面の記載から、引用文献には、以下の技術も記載されているといえる。 「始動時に噴射を開始する燃料圧力は、他のエンジンセンサからの信号を勘案して設定される技術」(以下、「引用文献記載の技術1」という。) 「始動時に、所定のクランク角に達したタイミングで噴射を開始する技術」(以下、「引用文献記載の技術2」という。) 2-2 本願補正発明と引用発明との対比 本願補正発明と引用発明とを対比するに、引用発明における「カムシャフト7」は、その機能及び構造又は技術的意義からみて、本願補正発明における「カム軸」に相当し、以下同様に、「カムシャフト7により駆動される」は「カム軸の回転運動によって駆動される」に、「高圧ポンプ6」は「高圧ポンプ」に、「燃焼室内に直接噴射する」は「筒内噴射用の」及び「筒内噴射する」に、「インジェクタ9」は「燃料噴射弁」に、「圧力センサ20」は「燃圧検出手段」に、「燃料圧力」は「燃圧検出手段で検出された燃圧」に、「ECU」は「始動制御手段」に、それぞれ相当する。 してみると、本願補正発明と引用発明は、 「内燃機関のカム軸の回転運動によって駆動される高圧ポンプにより燃料を高圧にして筒内噴射用の燃料噴射弁に供給し、この燃料噴射弁から燃料を筒内噴射する内燃機関の燃料噴射装置において、 前記高圧ポンプから筒内噴射用の前記燃料噴射弁の間に配置され、前記燃料噴射弁に供給される燃料の圧力を検出する燃圧検出手段と、 始動時に燃料圧力が始動に必要な燃料の微粒化を確保できる所定圧力以下の時に前記燃料噴射弁による筒内噴射を禁止する始動制御手段を備える内燃機関の燃料噴射装置。」 である点で一致し、次の(1)ないし(3)の点で相違する。 <相違点> (1)所定圧力以下のときに燃料噴射弁による筒内噴射を禁止する「所定圧力」について、本願補正発明においては、「目標燃圧よりも低い圧力に設定された」所定圧力であるのに対し、引用発明においては、「目標燃圧よりも低い圧力に設定された」所定圧力であるかどうか明らかでない点(以下、「相違点1」という。)。 (2)本願補正発明においては、「所定燃圧は、内燃機関の冷却水温に応じて設定される」のに対し、引用発明においては、「所定燃圧は、内燃機関の冷却水温に応じて設定される」かどうか明らかでない点(以下、「相違点2」という。)。 (3)本願補正発明においては、「始動制御手段は、筒内噴射禁止の状態が所定の噴射タイミングの回数継続した時に筒内噴射を解除して筒内噴射を開始する」のに対し、引用発明においては、「始動制御手段は、筒内噴射禁止の状態が所定の噴射タイミングの回数継続した時に筒内噴射を解除して筒内噴射を開始する」かどうか明らかでない点(以下、「相違点3」という。)。 2-3 相違点についての検討及び判断 (1)相違点1について 内燃機関の燃料噴射装置において、内燃機関の始動時に、所定圧力以下のときに燃料噴射弁による筒内噴射を禁止する「所定圧力」を、「目標燃圧よりも低い圧力に設定」することは、従来周知の技術(以下、「周知技術1」という。例えば、特開平2-23250号公報の第3ページ右上欄第7行ないし第18行及び図面を参照。ここで、本願補正発明における「所定圧力」に相当するのは250kg/cm^(3)、同様に「目標燃圧」に相当するのは200kg/cm^(3)である。)にすぎない。 したがって、引用発明において、周知技術1を採用して、相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項をなすことは、当業者が容易に想到し得たことである。 (2)相違点2について 引用文献1には、「始動時に噴射を開始する燃料圧力は、他のエンジンセンサからの信号を勘案して設定される技術」(「引用文献記載の技術1」)も記載されている。ここで、「他のエンジンセンサ」としては、内燃機関の冷却水温を測定する温度センサが代表的なものであることが技術常識である。 また、内燃機関の燃料噴射装置において、内燃機関の始動時に「所定燃圧」(当審注;前記「所定圧力」の誤記と認められる。)を、内燃機関の冷却水温に応じて設定することは、従来周知の技術(以下、「周知技術2」という。例えば、特開平2-23250号公報の第6ページ左上欄第11行ないし第18行及び図面を参照。)にすぎない。 してみると、引用発明において、周知技術2を適用して、相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項をなすことは、当業者が容易に想到し得たことである。 (3)相違点3について 引用文献1には、「始動時に、所定のクランク角に達したタイミングで噴射を開始する技術」(「引用文献記載の技術2」)も記載されている。 また、内燃機関の燃料噴射装置において、内燃機関の始動時に、インジェクタの燃料噴射禁止の状態が所定の噴射タイミングの回数(すなわち、所定の積算回転数)継続した時に燃料噴射禁止を解除して燃料噴射を開始する技術は、従来周知の技術(以下、「周知技術3」という。例えば、特開平2-23250号公報の第4ページ右下欄第19行ないし第5ページ左上欄第4行及び図面、特開平7-42601号公報の特許請求の範囲の請求項6、段落【0025】、【0027】及び【0082】ないし【0084】等の記載を参照。)にすぎない。 してみると、引用発明において、周知技術3を適用して、相違点3に係る本願補正発明の発明特定事項をなすことは、当業者が容易に想到し得たことである。 また、本願補正発明は、全体としてみても、引用発明及び周知技術1ないし3から想定される以上の格別の作用効果を奏するものではない。 したがって、本願補正発明は、引用発明及び周知技術1ないし3に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 2-4 まとめ 以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 よって、結論のとおり決定する。 第3 本願発明について 1 本願発明 平成22年4月5日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本件出願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記第2 の[理由]の1(1)(a)の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。 2 引用文献 原査定の拒絶理由に引用された引用文献(特開平9-222038号公報)の記載事項及び引用発明は、前記第2の[理由]の2 2-1(1)ないし(3)に記載したとおりである。 3 対比・判断 本願発明は、前記第2の[理由]の1(2)で検討したように、実質的に、本願補正発明における発明特定事項を上位概念化したものに相当する。 そうすると、本願発明の発明特定事項を下位概念化した本願補正発明が、前記第2の[理由]の2 2-1ないし2-4 に記載したとおり、引用発明及び周知技術1ないし3に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明及び周知技術1ないし3に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 そして、本願発明は、全体としてみても、引用発明及び周知技術1ないし3から想定される以上の格別の作用効果を奏するものではない。 4 むすび 以上のとおり、本願発明は、その出願前日本国内において頒布された引用発明及び周知技術1ないし3に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 第4 付言 審判請求人は、平成22年12月27日付け回答書において、本願の発明はフェールセーフ機能を有するものであるから、引用例のものと相違する旨主張する。 しかし、フェールセーフ機能を有するようにすることは、従来周知の技術思想(例えば、平成21年7月9日付け拒絶理由通知において引用した特開平4-19335号公報の第4ページ右下欄第4行ないし第5ページ左上欄第1行及び図面の記載を参照。)であって、格別なものとはいえない。 なお、一般的に、「フェールセーフ」とは、「何らかの装置・システムにおいて、誤操作・誤動作による障害が発生した場合、常に安全側に制御すること」であるが、審判請求人が主張するように、「高圧ポンプの能力低下や燃圧検出手段の故障が発生したとしても、始動が可能になる」ということは、故障が発生しても内燃機関の始動を可能にするという、むしろ危険な方向に制御するものであるから、必ずしも「フェールセーフ」とはいえない。 |
審理終結日 | 2011-05-26 |
結審通知日 | 2011-05-31 |
審決日 | 2011-06-13 |
出願番号 | 特願2007-261068(P2007-261068) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(F02D)
P 1 8・ 121- Z (F02D) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 畔津 圭介 |
特許庁審判長 |
小谷 一郎 |
特許庁審判官 |
西山 真二 金澤 俊郎 |
発明の名称 | 内燃機関の可変バルブタイミング制御装置 |
代理人 | 伊藤 高順 |
代理人 | 加藤 大登 |
代理人 | 碓氷 裕彦 |
代理人 | 井口 亮祉 |