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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A63F
管理番号 1240849
審判番号 不服2010-12826  
総通号数 141 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-09-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-06-14 
確定日 2011-07-28 
事件の表示 特願2007-279605「ポケット付ビニールサイコロ」拒絶査定不服審判事件〔平成21年4月23日出願公開,特開2009-82662〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は,平成19年9月28日に特許出願されたものであって,平成22年4月6日付けで拒絶査定がなされ,同年6月14日付けで拒絶査定不服審判が請求された。

2.本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,平成22年1月12日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の記載からみて,その請求項1に記載された次の事項により特定されるとおりのものと認める。

「空気栓(3)を有するビニール製サイコロ本体(1)の少なくとも1つ以上の面に,文字や数字,絵カード(4)の出し入れ交換ができる透明なポケット(2)を設けたビニールサイコロであって,前記空気栓(3)は,弁と栓の二重構造であり,サイコロ本体(1)側面が外側に湾曲する手前まで一旦膨らました所で,栓はせずにカードを各ポケット(2)に入れ,カードを入れ終えた後,サイコロ本体(1)側面全体が外側に向けて湾曲し,カードがフィットするまで空気を入れて形成されることを特徴とするビニールサイコロ。」

3.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された本願出願前に頒布された刊行物である
実願平4-58829号(実開平6-21685号)のCD-ROM
(以下,「引用例」という。)
には,図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審にて付与)。

(1a)「【実用新案登録請求の範囲】
【請求項1】六面体よりなるサイコロであって,前記サイコロの各面にポケットを有することを特徴とするサイコロ。」

(1b)「【0001】
【産業上の利用分野】
本考案は,主としてイベントのゲーム等で用いるサイコロに関するものである。」

(1c)「【0007】
【実施例】
次に本考案のサイコロを図面に基いて説明する。
【0008】
図1は,本考案の一実施例のサイコロAを示す斜視図である。
【0009】
サイコロAは合成樹脂シートからなる袋状の六面体であって,六面のうち一面の端部には空気吹込口30が設けられており,この空気吹込口30より内部に空気を吹き込んでふくらませたものである。六面体を構成する六つの面10は,各面ともほぼ正方形で大きさが等しく,従って,ふくらんだ状態での形状は本図に示すようにほぼ立方体である。
【0010】
各面10には,中央部付近にサイの目を示す図柄12が印刷され,この図柄12を覆うようにしてポケット20が設けられている。ポケット20は,シート状物40や小物が差し替え自在な開口部22を有する。本図に示すように,四の目が上になるように置いてこれを上面とし,六の目が記された面を前面としたとき,上面では開口部が右に,前面では左に,右側面では向かって右(背面側)に,左側面では向かって下(底面側)に,背面では向かって上(上面側)に,底面では向かって上(前面側)に設けられている。これはサイコロの転がり方に偏りが生じて,特定の面ばかりが上になるのを防止するためである。
【0011】
図2は,サイコロAの空気を抜いた状態を示す斜視図である。
【0012】
本図に示すようにサイコロAは,空気を抜くと平らな状態になり,小さく折り畳むことが可能であるので,持ち運びに便利である。
【0013】
図3は,サイコロAのa-aにおける断面図である。本図に示すように,サイコロAは,各面10の縁部11をそれぞれ隣接する面10の縁部11に熱融着させて形成したものである。またポケット20は,ほぼ正方形の透明の合成樹脂シートの四辺の縁部21を面10に熱融着することにより形成されている。なお前記において,熱融着する代わりに接着剤を用いて接着してもよい。
【0014】
なお空気吹込口30は,突出しているとサイコロが転がる際に邪魔になり,目の出方が不均等になるので,空気を吹き込んだ後は本図に示すように内部に押し込めるようになっている。」

(1d)「【0020】
【考案の効果】
上記したように,本考案のサイコロによればポケットにカード等のシート状物や小物が差し替え自在であるので,工夫次第で様々な利用方法が可能であり,イベントやパーティー等の参加者が楽しめる演出が可能となる。」

これらの記載事項及び図示内容を総合すると,引用例には以下の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「空気吹込口30を有する合成樹脂シートからなるサイコロA本体の各面10に,ゲームの内容や抽選の商品名を表示したカード等のシート状物40の差し替え自在な透明な合成樹脂シートで形成したポケット20を設けた合成樹脂製サイコロであって,空気を吹き込んで膨らますことができ,空気を抜くと平らな状態になり,小さく折り畳むことが可能である合成樹脂製サイコロ。」

4.対比
本願発明と引用発明とを対比すると,
・後者の「空気吹込口30」は前者の「空気栓(3)」に相当し,
・後者の「合成樹脂シートからなるサイコロA本体」と前者の「ビニール製サイコロ本体(1)」とは,「合成樹脂製サイコロ本体」である点において共通し,
・後者の「各面10に,ゲームの内容や抽選の商品名を表示したカード等のシート状物40の差し替え自在な」態様は,前者の「少なくとも1つ以上の面に,文字や数字,絵カード(4)の出し入れ交換ができる」態様に相当し,
・後者の「透明な合成樹脂シートで形成したポケット20」は前者の「透明なポケット(2)」に相当する。

してみると,両発明の一致点及び相違点は以下のとおりである。

[一致点]
「空気栓を有する合成樹脂製サイコロ本体の少なくとも1つ以上の面に,文字や数字,絵カードの出し入れ交換ができる透明なポケットを設けた合成樹脂製サイコロ。」

[相違点1]
「合成樹脂」が,本願発明では,「ビニール」であるのに対して,引用発明では,素材が特定されていない点。

[相違点2]
「空気栓」が,本願発明では,「弁と栓の二重構造」であるのに対して,引用発明では,その構造が明らかでない点。

[相違点3]
サイコロの形成過程に関し,本願発明では「サイコロ本体(1)側面が外側に湾曲する手前まで一旦膨らました所で,栓はせずにカードを各ポケット(2)に入れ,カードを入れ終えた後,サイコロ本体(1)側面全体が外側に向けて湾曲し,カードがフィットするまで空気を入れて形成される」と特定されているのに対して,引用発明では,「空気を吹き込んで膨らますこと」以外の形成過程が明確に示されていない点。

5.判断
(1)相違点についての判断
上記各相違点について以下に検討する。

(イ)[相違点1]について
ビニール製の合成樹脂シートは,特に公知文献を例示するまでもなく周知なものであり,引用発明のシート状の「合成樹脂」として「ビニール」を採用して,上記相違点1に係る本願発明の構成とすることは,当業者が適宜なし得た事項である。

(ロ)[相違点2]について
空気栓を弁と栓の二重構造にすることは,特に公知文献を例示するまでもなく周知な技術である。
よって,引用発明の「空気栓」を「弁と栓の二重構造」にして,上記相違点2に係る本願発明の構成とすることは,当業者が容易に想到し得た事項である。

(ハ)[相違点3]について
上記相違点3に係る本願の請求項1の「サイコロ本体(1)側面が外側に湾曲する手前まで一旦膨らました所で,栓はせずにカードを各ポケット(2)に入れ,カードを入れ終えた後,サイコロ本体(1)側面全体が外側に向けて湾曲し,カードがフィットするまで空気を入れて形成される」との記載における空気入れ及びカード挿入に係る手順は,「物」の発明である「ビニールサイコロ」の構成を特定するものとは認められない。そして,当該記載から,「物」の発明の構成として特定できる事項は,
(a) 空気栓の栓をせずとも空気が抜けない構造であること
(b) サイコロ本体側面が外側に湾曲できる構造であって,外側に湾曲する
手前で各ポケットにカードを入れられる構造であり,外側に湾曲する
とカードがフィットする構造であること
である。このうち,構造(a)については,上記相違点2に係る構成である「空気栓」を「弁と栓の二重構造」にしたことを繰り返し特定したものにすぎず,上記(ロ)欄に記載したとおり,当業者が容易に想到し得た事項であるので,構造(b)について以下に検討する。

引用発明は,サイコロ本体が「合成樹脂シート」から構成され,かつ,「空気を抜くと平らな状態になり,小さく折り畳むことが可能である」ことから,そのサイコロの各面が可撓性を有し,吹き込まれた空気の圧力によって「外側に湾曲できる」ことは自明である。
また,引用発明において,サイコロ内の空気圧が高くない段階で,カード等のシート状物40を入れられることは自明であり,さらに,サイコロ内の空気圧が高いときに少なくとも各面の中央部において,シート状物40がポケット20の合成樹脂シートに密着するようになることも自明である。
よって,上記相違点3に係る本願発明の構成のうち,構成(a)は,当業者が容易に想到し得た事項であり,構成(b)は,引用発明として開示されたものである。

また,本願発明の全体構成により奏される作用・効果は,引用発明及び上記周知技術から当業者が予測できた範囲内のものである。

したがって,本願発明は,引用発明及び上記周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2)審判請求書における請求人の主張の採否
請求人は,審判請求書において,以下のように主張している。

(a) 「…本願発明では,弁と栓の二重構造となっていることによって,栓を閉じなくてもサイコロの中に空気を保つことができ,栓をする手間を省いて説明に集中することができ,なおかつ手際よくカードを装着して,サイコロを転がす活動に入ることができる。
このように,サイコロ本体側面のポケットに対してカードを出し入れ交換することが前提となっている本願発明においては,カードを各ポケットに入れる動作を伴うことによって,二重栓が慣用的に用いられている分野のものと異なる異質かつ新たな効果を奏しており,進歩性判断においては,空気栓を弁と栓の二重構造としていることによるこれらの機能と作用効果を参酌して判断されるべきである。」

(b)「本願発明は,カード入りサイコロの形成過程における2つの課題,すなわち,空気漏れを起こさずに容易にカードをポケットに装着できるようにすることと,サイコロをころがしたときに,よく弾んで各面が等確率で現れるとともに,ポケットに装着されたカードが抜け落ちることを防止することの両方を解決するものである。この2つの課題を両立させるという解決課題は,引用文献のいずれにも開示されておらず,解決課題自体が新規なものである。また,これらの相反する解決課題を,本願発明においては,空気栓を,弁と栓の二重構造とすることと,カード入りサイコロの形成過程とを関連づけることによって解決している。
従って,本願発明について進歩性なしとして拒絶するためには,上述した解決課題が記載され,本願発明における発明特定事項が記載された先行技術が示されることが必要であり,このような先行技術が一切示されずに,慣用技術とも考えられない事項について進歩性なしとするのは,妥当性を欠くものである。 」

(c)「本来,本願発明の構成に対して進歩性なしとするためには,本願発明において特定した事項が記載された先行技術が引用されるべきであるが,補正後の請求項に対する新たな先行技術は何ら示されておらず,出願時の請求項に対する先行技術が示されたままであり,これらの先行技術には,空気吹込口と,カードを入れることが可能なポケットについての記載があるのみで,上述したような,ポケットにカードを出し入れ交換するタイプのビニール製サイコロに二重栓を設けたことは記載されていない。」,及び,
「…特許請求の範囲で特定している事項はそうではなく,サイコロとして機能するに至るまでの形成過程であり,この形成過程を示すことによって,弁と栓の二重構造を有する空気栓と他の部材との結びつきを特定し,これによりビニール製サイコロの構造を特定しているのである。
このような発明特定事項について,審査官は関連する先行技術を何ら引用しておらず,また,これらの事項が慣用技術あるいは周知技術にあたるとは到底考えられない。従って,進歩性なしとするのであれば,上記の構成を記載した先行技術を提示すべきであり,慣用技術あるいは周知技術でない以上,関連する先行技術を提示することなく進歩性なしとするのは,妥当性を欠くものである。」

しかしながら,これらの主張は,以下に示す理由により採用できない。

(イ)主張(a)について
栓を閉じなくても吹き込んだ空気が抜けない機能を有するのが二重構造を有する空気栓であることから,当該空気栓がこのような機能を有することは自明であり,上記(1)(ロ)欄に記載したように引用発明の空気栓を二重構造とすることにより,栓を閉じなくてもサイコロの中に空気を保った状態でカード交換ができるという作用効果を奏することは,当業者が予測できた範囲内のものであって,請求人が主張するような「異質かつ新たな効果を奏」するものではない。

(ロ)主張(b)について
特許法は,課題自体を保護するものではなく,課題を解決するために創作された技術的思想,すなわち発明を保護するものである。
本願の明細書に記載された課題を解決するための手段として特許請求の範囲に記載された本願発明は,上述のとおり,引用発明及び上記周知技術から当業者が容易に発明をすることができたものであり,引用例に本願の明細書に記載された課題そのものが記載されていないことを根拠に,「進歩性なしとするとするのは,妥当を欠く」との主張は採用できない。

(ハ)主張(c)について
本願の請求項1に記載されたサイコロとして機能するまでに至るまでの形成過程から,「物」の発明の構成として特定できる事項は,上記(1)(ハ)欄に記載した構成(a)及び(b)である。
そして,構成(a)については,上記(1)(ロ)欄に記載したように,特に公知文献を例示するまでもなく周知な技術であり,この点については,審判請求書において請求人も「確かに,空気栓を弁と栓の二重構造とすることは,浮き袋などのように,ビニール製のものに空気を注入して使用されるものに適用されている」と述べているところである。
一方,構成(b)については,上記(1)(ハ)欄に記載したように,原査定の拒絶の理由に引用された引用例に開示されたものである。
請求人は「先行技術を提示すべき」と主張するが,その必要はなく,「関連する先行技術を提示することなく進歩性なしとするのは,妥当性を欠く」との主張は,採用できない。

6.むすび
以上のとおり,本願発明は,引用発明及び上記周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,その余の請求項について論及するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-05-16 
結審通知日 2011-05-24 
審決日 2011-06-06 
出願番号 特願2007-279605(P2007-279605)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A63F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 加藤 肇  
特許庁審判長 山口 由木
特許庁審判官 宮崎 恭
仁科 雅弘
発明の名称 ポケット付ビニールサイコロ  

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