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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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不服200520859 | 審決 | 特許 |
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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C10M 審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 C10M 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C10M 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C10M |
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管理番号 | 1240920 |
審判番号 | 不服2007-27565 |
総通号数 | 141 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2011-09-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2007-10-09 |
確定日 | 2011-07-26 |
事件の表示 | 平成11年特許願第332670号「向上した酸化安定性を示す潤滑剤組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 6月13日出願公開、特開2000-160182〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成11年11月24日〔パリ条約による優先権主張 1998年11月30日 ヨーロッパ特許庁(EP)〕の出願であって、平成18年1月13日付けで拒絶理由が通知され、平成18年4月21日付けで意見書の提出とともに手続補正がなされたが、平成19年6月27日付けで拒絶査定がなされ、平成19年10月9日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、平成19年11月8日付けで手続補正がなされ、その後、平成22年5月25日付けで審尋が出され、これに対し、指定期間内に回答書の提出がなされなかったものである。 2.平成19年11月8日付け手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 平成19年11月8日付け手続補正を却下する。 [理由] (1)補正の内容 平成19年11月8日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)は、補正前の特許請求の範囲に記載された 「【請求項1】 少なくとも0.4重量%の油圧用耐磨耗性成分であってジアルキルジチオリン酸亜鉛を含む成分と基油を含んでなる潤滑剤組成物において、(a)最終組成物中0.05重量%から0.2重量%のアミン酸化防止剤と(b)無灰のジチオカーバメート、硫化オレフィン及び最終潤滑剤中に0.15重量%迄のフェノール性酸化防止剤からなる群から選ばれる少なくとも一種の追加の酸化防止剤を含む、改良された熱安定性及び酸化安定性を有する潤滑剤を与える添加剤の使用方法。 【請求項2】 少なくとも0.4重量%の油圧用耐磨耗性成分であってジアルキルジチオリン酸亜鉛を含む成分、基油及び添加剤であって少なくとも一種の(a)最終組成物中0.05重量%から0.2重量%のアミン酸化防止剤及び(b)無灰のジチオカーバメート、硫化オレフィン並びに最終潤滑剤中に0.15重量%迄のフェノール性酸化防止剤からなる群から選ばれる少なくとも一種の酸化防止剤を含む添加剤を含んでなる潤滑剤組成物。」を、 「【請求項1】 油圧用耐磨耗性成分であってジアルキルジチオリン酸亜鉛を0.4-0.9重量%含む成分と基油を含んでなる潤滑剤組成物において、(a)最終組成物中0.05重量%から0.2重量%のアミン酸化防止剤と(b)無灰のジチオカーバメート及び最終潤滑剤中に0.15重量%迄のフェノール性酸化防止剤からなる群から選ばれる少なくとも一種の追加の酸化防止剤を含む、改良された熱安定性及び酸化安定性を有する潤滑剤を与える添加剤の使用方法。 【請求項2】 油圧用耐磨耗性成分であってジアルキルジチオリン酸亜鉛を0.4-0.9重量%を含む成分と基油を含んでなる潤滑剤組成物において、(a)最終組成物中0.05重量%から0.2重量%のアミン酸化防止剤と(b)0.58重量%以下の硫化オレフィンを追加の酸化防止剤として含む、改良された熱安定性及び酸化安定性を有する潤滑剤を与える添加剤の使用方法。 【請求項3】 油圧用耐磨耗性成分であってジアルキルジチオリン酸亜鉛を0.4-0.9重量%を含む成分と基油を含んでなる潤滑剤組成物において、(a)最終組成物中0.05重量%から0.2重量%のアミン酸化防止剤と(b)0.05重量%の硫化オレフィンを追加の酸化防止剤として含む、改良された熱安定性及び酸化安定性を有する潤滑剤を与える添加剤の使用方法。 【請求項4】 油圧用耐磨耗性成分であってジアルキルジチオリン酸亜鉛を0.4-0.9重量%を含む成分、基油及び添加剤であって少なくとも一種の(a)最終組成物中0.05重量%から0.2重量%のアミン酸化防止剤及び(b)無灰のジチオカーバメート並びに最終潤滑剤中に0.15重量%迄のフェノール性酸化防止剤からなる群から選ばれる少なくとも一種の酸化防止剤を含む添加剤を含んでなる潤滑剤組成物。 【請求項5】 油圧用耐磨耗性成分であってジアルキルジチオリン酸亜鉛を0.4-0.9重量%を含む成分、基油及び添加剤であって少なくとも一種の(a)最終組成物中0.05重量%から0.2重量%のアミン酸化防止剤及び(b)0.58重量%以下の硫化オレフィンを酸化防止剤として含む添加剤を含んでなる潤滑剤組成物。 【請求項6】 油圧用耐磨耗性成分であってジアルキルジチオリン酸亜鉛を0.4-0.9重量%を含む成分、基油及び添加剤であって少なくとも一種の(a)最終組成物中0.05重量%から0.2重量%のアミン酸化防止剤及び(b)0.05重量%の硫化オレフィンを酸化防止剤として含む添加剤を含んでなる潤滑剤組成物。」に補正するものである。 (2)補正の適否 ア.目的要件について 本件補正は、特許法第36条第5項の規定により「請求項に区分して、各請求項ごとに特許出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項のすべてを記載」した補正前の請求項1及び2から「、硫化オレフィン」の文言を削除するとともに、補正前の請求項1及び2の「少なくとも0.4重量%の油圧用耐磨耗性成分であってジアルキルジチオリン酸亜鉛を含む成分」という発明特定事項を「油圧用耐磨耗性成分であってジアルキルジチオリン酸亜鉛を0.4-0.9重量%を含む成分」に置き換えて補正後の請求項1及び4とすると同時に、補正後の請求項2?3及び5?6を新たに追加するものである。 してみると、本件補正は、新たな請求項を追加するものであるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第1号に掲げる「第三十6条第5項に規定する請求項の削除」、同2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮(第三十6条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)」、同3号に掲げる「誤記の訂正」ないし同4号に掲げる「明りようでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)」のいずれを目的とするものに該当しない。 したがって、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項の規定に違反してなされたものであるから、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 イ.独立特許要件違反について (ア)はじめに 上記補正のうち、補正後の請求項5についての補正は、補正前の請求項2に記載された「(b)無灰のジチオカーバメート、硫化オレフィン並びに最終潤滑剤中に0.15重量%迄のフェノール性酸化防止剤からなる群から選ばれる少なくとも一種の酸化防止剤を含む添加剤」という発明特定事項の選択肢のうち、「硫化オレフィン」のみを選択して、その配合量についての数値範囲をさらに発明特定事項として導入して、「(b)0.58重量%以下の硫化オレフィンを酸化防止剤として含む添加剤」という発明特定事項に改める補正を含むものであるから、この補正については、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮(第三十6条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)」を目的とする補正を含むものであるとも解せる。 そこで、補正後の請求項5に記載された発明(以下、「補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか否か)について以下に検討する。 (イ)引用文献及びその記載事項 刊行物1:特開平7-179875号公報(原査定の引用文献1) 刊行物2:特開平10-60430号公報 刊行物3:特開平3-223295号公報 刊行物4:特開平2-11561号公報 上記刊行物1には、次の記載がある。 摘記1a:請求項1及び2 「【請求項1】 潤滑油基油に、組成物全量基準で、下記一般式(1)…で表されるN-アルキル・ポリアルキレン・ジアミンと炭素数10?20の炭化水素基を有するカルボン酸との塩0.01?5.0重量%、及びアルコキシりん酸エステル0.05?7.0重量%を含有させてなることを特徴とする駆動油圧系潤滑油組成物。 【請求項2】 さらに、硫化オレフィン、ジチオりん酸亜鉛、スルホン酸アルカリ土類金属塩、及びりん酸エステルアミン塩からなる群より選択される少なくとも一種の化合物を組成物全量基準で各々7.0重量%以下の割合で含有させてなる請求項1記載の駆動油圧系潤滑油組成物。」 摘記1b:段落0001及び0003 「本発明は、駆動油圧系潤滑油組成物に関し、さらに詳しくは、…自動変速機等における湿式クラッチの潤滑に好適な駆動油圧系潤滑油組成物に関する。… 湿式クラッチ用の潤滑油は、…酸化安定性、耐摩耗性…等の性能に優れていることが必要である」 摘記1c:段落0022及び0028?0029 「N-アルキル・ポリアルキレン・ジアミンのカルボン酸塩…の配合割合が少な素ビルと、…耐摩耗性、摩擦特性及びノイズ防止性等が低下する。… アルコキシりん酸エステルは、…この配合割合の範囲内において、…良好な摩擦特性と耐摩耗性が得られる。… 本発明の駆動油圧系潤滑油組成物には、必須成分のN-アルキル・ポリアルキレン・ジアミンのカルボン酸塩とアルコキシりん酸エステル以外に、硫化オレフィン、ジチオりん酸亜鉛、スルホン酸アルカリ土類金属塩、及びりん酸エステルアミン塩からなる群より選択される少なくとも一種の化合物を配合することができる。これらの化合物をそれぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することにより、耐摩耗性やノイズ防止性などをより向上させることができる。これらの化合物の配合割合は、組成物全量基準で各々7.0重量%以下、好ましくは0.05?7.0重量%、より好ましくは0.5?5.0重量%である。」 摘記1d:段落0036 「酸化防止剤としては、フェノール系化合物やアミン系化合物など一般的に使用されているものが使用できる。具体的には、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチル-フェノール、2,6-ジ-tert-ブチル-4-エチル-フェノール、4,4′-メチレンビス(2,6-ジ-tert-ブチル-フェノール)などのフェノール系酸化防止剤;フェニル-α-ナフチルアミン、ジアルキルジフェニルアミン、アルキル化-α-ナフチルアミンなどのアミン系酸化防止剤、ジアミルジチオカルバミン酸亜鉛、五硫化ピネンなどを挙げることができる。これらは、通常、0.05?2.0重量%の範囲で使用される。」 摘記1e:段落0040及び0042?0043 「各成分は、次の通りである。 (1)基油:動粘度が4.0mm^(2)/s(100℃)の溶剤精製による鉱油… (4)硫化オレフィン:ポリオレフィンサルファイド (5)ジチオりん酸亜鉛:sec-C_(3)/C_(4)ジアルキル基混合ジチオりん酸亜鉛… (9)酸化防止剤:ジアルキルジフェニルアミン… 【表1】 実施例1 … 実施例2 実施例3 … 潤滑油組成(重量%) 基油(鉱油) 89.3 … 84.8 84.8 … 硫化オレフィン - … 1.0 1.0 … ジチオリン酸亜鉛 - … 1.0 1.0 … 酸化防止剤 0.2 … 0.2 0.2 … 実施例1と実施例2?3とを対比すると、硫化オレフィンやジチオりん酸亜鉛等の任意成分を添加することにより、耐摩耗性が向上し、ノイズの発生もない。」 上記刊行物2には、次の記載がある。 摘記2a:段落0052?0053 「ZDDP類:ZDDP類(ジヒドロカルビルジチオ燐酸亜鉛類)が典型的に調合潤滑剤中で最も一般的に用いる抗摩耗添加剤である。… 抗酸化剤:油が酸化にあまり安定でないか或は油が非常に厳しい条件を受ける場合、本発明の硫化ヒンダードフェノールに加えて補足用抗酸化剤を用いてもよい。一般的に用いる補足用抗酸化剤には、ヒンダードフェノール類、ヒンダードビスフェノール類、硫化フェノール類、アルキル化ジフェニルアミン類、硫化オレフィン類、アルキルスルフィド類およびジスルフィド類、ジアルキルジチオカルバメート類、フェノチアジン類、モリブデン化合物および銅塩が含まれる」 摘記2b:段落0061?0062 「実施例I. 硫化t-ブチルフェノール類のシーケンスIIIE評価 本発明に従う1組の潤滑調合物をシーケンスIIIEエンジン試験で試験した。この試験では231 CID(3.8リットル)Buick V-6エンジンを用い、非常に高い油温度である149℃で64時間高速(3,000rpm)運転する。この試験を用いて、エンジンオイルの酸化、増粘、スラッジ、ワニス、付着物および摩耗を最小限にする能力を評価する。この調合物に、粘度指数改良剤を7.6重量%、無灰分散剤を4.5重量%、ZDDPを1.0重量%(即ち低燐)、洗浄剤を1.6重量%、ジフェニルアミン抗酸化剤を0.3重量%、そして補足用添加剤を0.5重量%含有させ、その残りは水素化処理鉱油であった。抗酸化剤の添加量、油の特性、およびシーケンスIIIEエンジン試験の結果を以下の表に示す。 【0062】 調合物 単位 A B C 実施例IIで得た 重量% 1.0 0 0 硫化フェノール 硫化オレフィン 重量% 0 0.7 0 ジチオカルバメート 重量% 0 0 0.5 … AEスラッジ 9.2最小値 9.7 9.3 9.3 … この上に示した比較実施例で用いた硫化オレフィンおよびジチオカルバメート添加剤は、潤滑剤で一般的に用いられている通常の抗酸化剤の代表である。」 上記刊行物3には、次の記載がある。 摘記3a:第1頁右下欄第11?20行 「近年、機械装置類の向上に伴って、使用する潤滑剤および機能性流体に対する要求性能が高度なものになっている。特に環境、使用条件の苛酷化に伴う温度上昇に対応するための耐熱性の向上やメンテナンスフリーのための長寿命化が要求されている。これらの耐熱性の向上や長寿命化を図るために、ジアルキルジチオリン酸の金属塩、殊に亜鉛塩が、酸化防止剤および極圧剤として有効であり、広く使用されている。」 摘記3b:第7頁左上欄第2?4行 「酸化防止剤としては、フェノール系、アミン系酸化防止剤(例えばヒンダードフェノール、ナフチルアミン)、硫化オレフィン等がある。」 上記刊行物4には、次の記載がある。 摘記4a:第4頁左上欄第6?18行 「潤滑油には、その性質を改善するために通常添加剤が添加される。過去に使用された摩耗防止添加剤は亜鉛ジアルキルジチオフォスフエート、硫化鯨油、などのような化合物を含む。過去に使用された抗酸化剤は…硫化オレフィン…、並びに油溶性のフエノール性及び芳香族アミン酸化防止剤を含む。…あるジチオカルバミル置換ノルボニル生成物は…非常に効果的な摩耗防止及び酸化防止剤であることが発見された。」 (ウ)刊行物1に記載された発明 摘記1aの「潤滑油基油に、組成物全量基準で、…N-アルキル・ポリアルキレン・ジアミンと炭素数10?20の炭化水素基を有するカルボン酸との塩0.01?5.0重量%、及びアルコキシりん酸エステル0.05?7.0重量%を含有させ…さらに、硫化オレフィン、ジチオりん酸亜鉛…からなる群より選択される少なくとも一種の化合物を組成物全量基準で各々7.0重量%以下の割合で含有させてなる…駆動油圧系潤滑油組成物。」との記載、摘記1cの「本発明の駆動油圧系潤滑油組成物には、…硫化オレフィン、ジチオりん酸亜鉛…からなる群より選択される…化合物をそれぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することにより、耐摩耗性やノイズ防止性などをより向上させることができる。これらの化合物の配合割合は、組成物全量基準で各々7.0重量%以下、好ましくは0.05?7.0重量%…である。」との記載、摘記1dの「酸化防止剤としては、…アミン系化合物など…が使用できる。…これらは、通常、0.05?2.0重量%の範囲で使用される。」との記載、並びに摘記1eの実施例1、2及び3についての記載からみて、刊行物1には、 『潤滑油基油に、組成物全量基準で、N-アルキル・ポリアルキレン・ジアミンと炭素数10?20の炭化水素基を有するカルボン酸との塩0.01?5.0重量%、アルコキシりん酸エステル0.05?7.0重量%、耐摩耗性をより向上させる化合物として硫化オレフィン及びジチオリン酸亜鉛を各々0.05?7.0重量%、酸化防止剤としてアミン系化合物を0.05?2.0重量%の割合で含有させてなる駆動油圧系潤滑油組成物。』についての発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。 (エ)補正発明と引用発明との対比 引用発明の「潤滑油基油」及び「駆動油圧系潤滑油組成物」は、補正発明の「基油」及び「潤滑剤組成物」に相当し、 引用発明の「耐摩耗性をより向上させる化合物として…ジチオリン酸亜鉛を…0.05?7.0重量%」は、引用発明の「ジチオリン酸亜鉛」が、摘記1eの「ジチオりん酸亜鉛:sec-C_(3)/C_(4)ジアルキル基混合ジチオりん酸亜鉛」との記載からみて、具体的には「ジアルキル基」を有する「ジチオリン酸亜鉛」であること、及び「駆動油圧系」の潤滑油組成物の「耐摩耗性」の向上のために使用される化合物であること、並びに補正後の本願明細書の段落0020の「油圧用耐摩耗性添加剤は、油圧用グレードの亜鉛ジアルキルジチオホスフェート(ZDDP)である。」との記載、及び同段落0021の「潤滑剤は、約0.4重量%から約0.9重量%のZDDPを含有するのが通常である。」との記載からみて、補正発明の「油圧用耐磨耗性成分であってジアルキルジチオリン酸亜鉛を0.4-0.9重量%を含む成分」という発明特定事項における「0.4-0.9重量%」という配合割合が、油圧用耐摩耗性成分に対する割合でなく、潤滑剤組成物としての最終組成物に対する割合であると解されることから、補正発明の「油圧用耐磨耗性成分であってジアルキルジチオリン酸亜鉛を0.4-0.9重量%を含む成分」に相当し、 引用発明の「耐摩耗性をより向上させる化合物として硫化オレフィン…を…0.05?7.0重量%」は、補正後の本願明細書の段落0013の「硫化オレフィンは、最終組成物に…0.04と0.58重量%の間で使用されるべきである。」との記載からみて、補正発明の「(b)0.58重量%以下の硫化オレフィンを酸化防止剤として含む添加剤」という発明特定事項における「0.58重量%以下」という配合割合が、最終組成物に対する割合であると解されることから、補正発明の「(b)0.58重量%以下の硫化オレフィン」と「0.05?0.58重量%」の数値範囲で重複し、 引用発明の「酸化防止剤としてアミン系化合物を0.05?2.0重量%」は、補正発明の「(a)最終組成物中0.05重量%から0.2重量%のアミン酸化防止剤」に相当する。 してみると、補正発明と引用発明は、『油圧用耐磨耗性成分であってジアルキルジチオリン酸亜鉛を0.4-0.9重量%を含む成分、基油及び添加剤であって少なくとも一種の(a)最終組成物中0.05重量%から0.2重量%のアミン酸化防止剤及び(b)0.58重量%以下の硫化オレフィンを含む添加剤を含んでなる潤滑剤組成物。』に関するものである点において一致し、 (α)硫化オレフィンが、補正発明においては「酸化防止剤」として含まれるのに対して、引用発明においては「耐摩耗性をより向上させる化合物」として含まれる点、及び (β)引用発明においては「N-アルキル・ポリアルキレン・ジアミンと炭素数10?20の炭化水素基を有するカルボン酸との塩」と「アルコキシりん酸エステル」の2成分を含有することが必須とされているのに対して、補正発明においては当該2成分を含有することが必須ではない点、 の2つの点においてのみ一応相違している。 (オ)判断 上記相違点について検討する。 上記(α)の点について、刊行物2には、抗摩耗添加剤であるZDDP類を1.0重量、ジフェニルアミン抗酸化剤を0.3重量%、その他の各種添加剤、及びその残りが水素化処理鉱油である潤滑調合物に、潤滑剤で一般的に用いられている通常の抗酸化剤として、硫化オレフィンを0.7重量%を更に配合したもの(調合物B)を、非常に高い油温度において使用して、その酸化、スラッジおよび摩耗を最小限にする能力を評価した具体例が記載されている(摘記2a?2b)。 また、刊行物3には、使用条件の苛酷化に伴う温度上昇に対応するための耐熱性の向上を図るために、酸化防止剤および極圧剤が有効であることが記載されており(摘記3a)、酸化防止剤としては「硫化オレフィン」や「フェノール系(例えばヒンダードフェノール)」等があることが記載されており(摘記3b)、刊行物4には、「硫化オレフィン」や「フェノール性酸化防止剤」や「ジチオカルバミル置換ノルボニル生成物」というジチオカーバメート類が抗酸化剤ないし酸化防止剤として周知ないし公知であることが記載されている(摘記4a)。 してみると、「硫化オレフィン」が「酸化防止剤」ないし「抗酸化剤」としての機能を有することは、潤滑油組成物の技術分野において普通に知られているので、引用発明の「硫化オレフィン」について、刊行物1に当該「硫化オレフィン」が「耐摩耗性をより向上させる化合物」として記載されていたとしても、刊行物1の「硫化オレフィン」との記載に接した当業者にしてみれば、これが「酸化防止剤」としての機能も有するものであることは、刊行物1に記載されているに等しい自明事項であると解するのが自然である。 また、当該「酸化防止剤」という機能ないし特性については、「硫化オレフィン」という化合物が固有に有している機能ないし特性として周知であるから、上記(α)の相違点については、実質的な差異を構成するものではない。 次に、上記(β)の相違点について、摘記1cからみて、引用発明の前記2成分は耐摩耗剤として添加されているものと解されるところ、補正発明の発明特定事項についての記載は「…を含んでなる潤滑剤組成物。」となっており、補正後の本願明細書の段落0042には、「一般に使用される他の添加剤を本発明の組成物または濃縮物に含めることができる。これらには、…イオウ及び/またはリン含有耐磨耗剤…が含まれる。」との記載があることから、引用発明において前記2成分を公知の添加剤として更に含んでいることは、補正発明の発明特定事項との関係において、差異を構成するものではない。 したがって、補正発明と引用発明に実質的な差異はない。 ここで、仮に補正発明と引用発明が「硫化オレフィン」の機能ないし特性において相違するとしても、刊行物1に記載された発明は、駆動油圧系潤滑油組成物の「酸化安定性」などの性能が優れていることを大前提にしたものであって(摘記1b)、なおかつ、酸化防止剤としては「一般に使用されているもの」が通常0.05?2.0重量%の範囲で使用されるというものである(摘記1d)から、当該「一般に使用」されている「酸化防止剤」として、刊行物2?4に記載された「硫化オレフィン」という周知慣用の「酸化防止剤」を刊行物1に記載されたとおりの0.05?2.0重量%という通常の範囲で使用する構成にして、その最適化を図ることは、当業者にとって通常の創作能力の発揮の範囲内である。 そして、補正発明の効果について検討するに、補正後の本願明細書の段落0058において「ラン16-23は、本発明の例示である。」とされているのに、同段落0050?0051の表において、ラン20及び21の結果は、ラン7の結果よりも劣った効果しか示していないことはさておき、苛酷な温度条件下における耐熱性の向上や長寿命化のために酸化防止剤の使用が有効であることは当業者にとって技術常識の範囲内である(摘記3a)。 しかして、補足用の酸化防止剤として刊行物2?4などに記載された「硫化オレフィン」などの周知慣用の酸化防止剤を通常量の範囲内で最適化して使用すれば、その酸化防止性が向上し、その結果としてスラッジや熱安定性の問題も解消し得るという効果に到達することは、当業者にとって容易に予測し得る程度のことでしかない。 したがって、補正発明は、刊行物1に記載された発明及び当業者の技術常識に基づいて、当業者に発明をすることができたものである。 (カ)審判請求人の主張について ここで、審判請求人は、平成19年11月8日付けで手続補正された審判請求書の請求の理由において、『引例1の硫化オレフィンは酸化防止剤ではなく、極圧添加剤として使用されている…。…酸化防止剤と極圧添加剤は、それぞれ単独であれ他の成分の共存下であれ、互いに異なる機能を発揮させるために添加されているのである。換言すれば、硫化オレフィンは本発明をして引例1に開示も教示されていない有利な効果を発揮させているのである。つまり、当業者は本発明を知った後初めて引例1に基づいて本発明に想到すると言えるのである。』と主張しているが、「硫化オレフィン」が「酸化防止剤」としての機能を有することは刊行物2?4に記載されるように周知であるから、本願の出願内容に接するまでもなく、刊行物1の「硫化オレフィン」との記載に接した当業者にしてみれば、これが「酸化防止剤」としての機能を有することも記載されているに等しいものと解され、仮に自明事項として記載されているに等しいといえないとしても、当該「酸化防止剤」という機能については、潤滑油組成物の技術分野における「酸化防止剤」として周知慣用の「硫化オレフィン」という化合物が固有に有している周知の機能であって、この点に関して実質的な差異が認められないことは上記のとおりである。このため、審判請求人の第一の主張は採用できない。 次に、審判請求人は、同請求の理由において、『本発明の硫化オレフィンの添加量が最終組成物に…0.58重量%以下に制限され…ているのに対して、引例1公報第4-5頁段落[0029]は単に硫化オレフィン等が「組成物全重量基準で各々7.0重量%以下、好ましくは0.05?7.0重量%、より好ましくは0.5?5.0重量%である。この配合割合の範囲内において、これらの化合物は併用効果を効果的に発揮する。」と開示している点にもご注目いただきたい。つまり、引例1に記載されている各成分の併用効果は本発明の各成分より高い濃度で達成されているのであり、引例1は本発明を反対教示しているのである。』と主張しているところ、刊行物1に記載された「より好ましくは0.5?5.0重量%」という数値範囲で検討してみても、補正発明と刊行物1に記載された発明は、「0.5?0.58重量%」の数値範囲において一致している。このため、審判請求人の第二の主張も採用できない。 さらに、審判請求人は、同請求の理由において、『引例1の目的はノイズの発生を抑制し、混入する水との反応による沈殿物の生成を抑制することであるから、当業者が引例1に記載された成分からメニュー選択をして、アミン系化合物の含量を最終組成物中0.05重量%から0.2重量%の範囲に限定し、更にフェノール系化合物の含量を最終潤滑剤中に0.15重量%迄であると限定して、本発明の有利な効果を示す添加剤に想到することはできず、本発明を知った後初めて想到すると言えるのである。』と主張しているところ、当該「フェノール系化合物」の点については、補正発明の発明特定事項との関係において無関係であることはさておき、刊行物1に記載された発明は、摘記1bに示されるように、駆動油圧系潤滑油組成物の「酸化安定性、耐摩耗性」などの性能が優れていることを大前提にしたものであって、なおかつ、摘記1dに示されるように酸化防止剤としては「一般に使用されているもの」が通常0.05?2.0重量%の範囲で使用されるというものであるから、その目的とする性能は、ノイズの発生の抑制などに限られるものではなく、酸化安定性や耐摩耗性などの諸性能も含まれることは明らかである。このため、審判請求人の第三の主張も採用できない。 (キ)小括 結論として、補正発明は、本願優先権主張日前に頒布された刊行物である刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。 また、補正発明は、刊行物1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。 (3)まとめ 以上総括するに、本件補正は、目的要件違反があるという点において平成18年改正前特許法第17条の2第4項の規定に違反しており、また、仮に本件補正が目的要件を満たすとしても、請求項5についての補正は、独立特許要件違反があるという点において平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反する。 したがって、その余のことを検討するまでもなく、本件補正は、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 3.本願発明について (1)本願発明 平成19年11月8日付け手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?2に係る発明は、平成18年4月21日付けの手続補正により補正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?2に記載された事項により特定されるとおりのものである。 (2)原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由は、『この出願については、平成18年1月13日付け拒絶理由通知書に記載した理由1によって、拒絶をすべきものである。』というものである。 そして、当該「理由1」は、『この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。』というものであって、当該「下記の請求項」として、「請求項1、2」が指摘されており、当該「下記の刊行物」として、上記2.(2)イ.(イ)に「刊行物1」として示したとおりの「特開平7-179875号公報」が「引用文献1」として引用されている。 (3)引用文献1の記載事項、及び引用文献1に記載された発明 原査定の拒絶の理由に引用された「引用文献1」の記載事項については、上記2.(2)イ.(イ)に示したとおりである。 また、当該「引用文献1」には、上記2.(2)イ.(ウ)に示したとおりの「引用発明」が記載されている。 (4)対比・判断 本願請求項2に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記「補正発明」の「油圧用耐磨耗性成分であってジアルキルジチオリン酸亜鉛を0.4-0.9重量%を含む成分」との発明特定事項、及び「(b)0.58重量%以下の硫化オレフィンを酸化防止剤として含む添加剤」との発明特定事項を、「少なくとも0.4重量%の油圧用耐磨耗性成分であってジアルキルジチオリン酸亜鉛を含む成分」との発明特定事項、及び「(b)無灰のジチオカーバメート、硫化オレフィン並びに最終潤滑剤中に0.15重量%迄のフェノール性酸化防止剤からなる群から選ばれる少なくとも一種の酸化防止剤を含む添加剤」との発明特定事項に置き換えたものである。 してみると、上記2.(2)イ.(エ)において示したのと同様の理由により、本願発明と引用発明は、『少なくとも0.4重量%の油圧用耐磨耗性成分であってジアルキルジチオリン酸亜鉛を含む成分、基油及び添加剤であって少なくとも一種の(a)最終組成物中0.05重量%から0.2重量%のアミン酸化防止剤及び(b)硫化オレフィンからなる群から選ばれる少なくとも一種の酸化防止剤を含む添加剤を含んでなる潤滑剤組成物。』に関するものである点において一致し、 (γ)硫化オレフィンが、本願発明においては「酸化防止剤」として含まれるのに対して、引用発明においては「耐摩耗性をより向上させる化合物」として含まれる点、及び (δ)引用発明においては「N-アルキル・ポリアルキレン・ジアミンと炭素数10?20の炭化水素基を有するカルボン酸との塩」と「アルコキシりん酸エステル」の2成分を含有することが必須とされているのに対して、本願発明においては当該2成分を含有することが必須ではない点、 の2つの点においてのみ一応相違している。 上記相違点について検討する。 上記(γ)の点について、潤滑油組成物の技術分野において、「硫化オレフィン」が「酸化防止剤」としての機能ないし特性を有することは普通に知られているから、引用発明の「硫化オレフィン」について、刊行物1に当該「硫化オレフィン」が「耐摩耗性をより向上させる化合物」として専ら記載されていたとしても、刊行物1の「硫化オレフィン」との記載に接した当業者にしてみれば、これが「酸化防止剤」としての機能も有するものであることは、刊行物1に記載されているに等しい自明事項であると解するのが自然である。また、当該「酸化防止剤」という機能ないし特性については、「硫化オレフィン」という化合物が固有に有している機能ないし特性として周知であるから、上記(γ)の相違点については、実質的な差異を構成するものではない。 次に、上記(δ)の点について、本願発明の発明特定事項についての記載は「…を含んでなる潤滑剤組成物。」となっており、本願明細書の段落0042には、「一般に使用される他の添加剤を本発明の組成物または濃縮物に含めることができる。これらには、…イオウ及び/またはリン含有耐磨耗剤…が含まれる。」との記載があることから、引用発明において前記2成分を公知の添加剤として更に含んでいることは、本願発明の発明特定事項との関係において、差異を構成するものではない。 したがって、本願発明は、引用文献1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号の規定に該当する。 (5)むすび 以上のとおり、本願発明は、引用文献1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2011-02-16 |
結審通知日 | 2011-02-22 |
審決日 | 2011-03-07 |
出願番号 | 特願平11-332670 |
審決分類 |
P
1
8・
113-
Z
(C10M)
P 1 8・ 57- Z (C10M) P 1 8・ 575- Z (C10M) P 1 8・ 121- Z (C10M) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 小柳 正之、中島 庸子 |
特許庁審判長 |
西川 和子 |
特許庁審判官 |
井上 千弥子 木村 敏康 |
発明の名称 | 向上した酸化安定性を示す潤滑剤組成物 |
代理人 | 特許業務法人小田島特許事務所 |