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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C09K
管理番号 1240921
審判番号 不服2008-3065  
総通号数 141 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-09-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-02-08 
確定日 2011-07-25 
事件の表示 特願2002-234538「撥水・撥油剤およびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年3月11日出願公開、特開2004-75736〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、2002年8月12日の出願であって、平成19年8月16日付けで拒絶理由が通知されたところ、出願人から何らの応答がされず、平成19年12月28日付けで拒絶査定がされ、平成20年2月8日に拒絶査定を不服とする審判請求がされるとともに、同年3月10日付けで手続補正書が提出され、平成22年8月6日付けで審尋が通知され、同年10月6日に回答書が提出され、当審において、平成20年3月10日付けの手続補正を、平成22年11月26日付けの補正の却下の決定により却下するとともに、同日付けで拒絶理由を通知したところ、平成23年1月28日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
平成20年3月10日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、この出願の請求項1?4に係る発明は、平成23年1月28日付けの手続補正により補正された明細書(以下、「本願明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。

「下記一般式(1)で表されるハイドロフルオロエーテルおよび/または下記一般式(2)で表されるパーフルオロエーテルから成るフッ素系不活性溶媒中で下記一般式で表される不飽和結合を有するパーフルオロ基含有化合物単独を重合させるかまたはこれと他の不飽和モノマーとを共重合させることにより得られる重合体溶液からなるか、あるいは該重合体溶液を前記不活性溶媒で希釈した溶液からなる溶液形態の撥水・撥油剤。
CF_(3)(CF_(2))_(n)O(CH_(2))_(m)CH_(3) (1)
(ただし式中、nは0?5の整数,mは0?5の整数)
【化1】


【化2】

(ただし式中、R^(1);H又はCH_(3)、X;炭素数1?5のアルキレン基又は鎖中分枝した二級水酸基を有する炭素数1?5のアルキル基、Rf;パーフルオロアルキル基を示す)」

第3 当審において通知した拒絶の理由
当審において通知した拒絶の理由は、
「 この出願の請求項1?5に係る発明は、この出願の出願前に頒布された下記刊行物1?3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


刊行物1:特開平9-132606号公報
刊行物2:特開2000-234071号公報
刊行物3:特開平8-13176号公報・・・」というものである。

ところで、当審の拒絶理由通知書の上記以外の箇所は、「特開平8-13176号公報」を「刊行物2」、「特開2000-234071号公報」を「刊行物3」として記載しているので、前記「刊行物2」及び「刊行物3」は、それぞれ「刊行物3」及び「刊行物2」の誤記である。また、請求人も誤記である点を理解したうえで、意見書における主張を行っている。
よって、以下、刊行物1?3を次のとおりとする。
「刊行物1:特開平9-132606号公報
刊行物2:特開平8-13176号公報
刊行物3:特開2000-234071号公報」

なお、本願発明は、補正前の請求項1において、溶媒及び化合物を、それぞれ補正前の請求項4及び5のものに限定し、さらに、「重合体溶液からなるか、あるいは該重合体溶液を前記不活性溶媒で希釈した溶液からなる溶液形態」であると特定したものである。

第4 刊行物に記載された事項
1 この出願の出願前に頒布された刊行物1には、以下の事項が記載されている。

1a「フッ素系溶剤に、フッ素化アルキル基含有単量体、または該フッ素化アルキル基含有単量体と非フッ素化アルキル基含有単量体とからなる単量体組成物を注入しながら重合することを特徴とするフッ素樹脂溶液の製造方法。」(請求項1)
1b「本発明は、溶液安定性に優れ、基材に塗布した際に優れたフッ素表面機能を与えるコ-ティング適性に優れたフッ素樹脂溶液並びに該フッ素樹脂溶液の製造方法に関する。」(段落【0001】)
1c「本発明は、オゾン破壊性や引火性の問題がなく、更に生体に対する安全性の高いフロロカ-ボンを溶剤として使用し、高フッ素含有量のフッ素樹脂やフッ素含有量の少ないフッ素樹脂をフッ素系溶剤に安定的に溶解させることができ、かつそのフッ素樹脂溶液が優れた塗工性や優れたフッ素機能を与えるフッ素樹脂溶液の製造方法を提供することを目的する。」(段落【0008】)
1d「本発明において、フッ素化アルキル基含有単量体としては、分子中にフッ素化アルキル基とエチレン性不飽和基とを同時に有するものであれば何等制限無く使用できるが、経済性及び入手性の観点から、フッ素化アルキル基含有(メタ)アクリレ-ト単量体(A)が好ましい。」(段落【0011】)
1e「フッ素化アルキル基含有(メタ)アクリレ-トの具体例としては、以下の如きものが挙げられる。
【化11】
a-1:CH_(2)=CHCOOCH_(2)CH_(2)C_(8)F_(17)
a-2: CH_(3)

CH_(2)=CCOOCH_(2)CH_(2)C_(8)F_(17)
a-3:CH_(2)=CHCOOCH_(2)CH_(2)C_(12)F_(25) 」(段落【0026】?【0027】)
1f「本発明に係る非フッ素化アルキル基含有単量体(B)としては、分子中にエチレン性不飽和基を含有し、且つ前記のフッ素化アルキル基含有単量体以外のものであれば何等制限無く使用することができる。
非フッ素化アルキル基含有単量体(B)の具体例として以下の如きものが挙げられる。即ち、スチレン、・・・またα,β-エチレン性不飽和カルボン酸の誘導体として、アルキル基の炭素数が1?18の(メタ)アクリル酸アルキルエステル・・・、また(メタ)アクリル酸の炭素数1?18のヒドロキシアルキルエステル、・・・等が挙げられる。」(段落【0037】?【0038】)
1g「本発明に係るフッ素系溶剤とは、前記の様にC、F原子のみや、C、F、O原子のみ、C、F、N原子のみ、またC、F、N、Oのみから成る通常フロロカ-ボンと呼ばれる溶剤であれば、何等制限無く使用することができ、これらの具体例として以下のものが挙げられる。」(段落【0051】)
1h「・・・またC、F、O原子のみから成るフロロカ-ボンとしては、炭素数4から20の直鎖状、分岐状、環状、またこれらの分子形状を組み合わせた構造のパ-フロロ-ポリエ-テル・・・」(段落【0052】)
1i「これらの具体例としては、・・・鎖中に酸素原子及び/又は窒素原子を含有する炭素数1から20のパ-フロロアルキル基を含有する直鎖状、分岐状、環状、またこれらの分子形状を組み合わせた構造のパ-フロロエ-テルもしくはパ-フロロポリ-テル化合物・・・」(段落【0053】)
1j「本発明に係るフッ素樹脂溶液は、ピンホ-ルの無い成膜性の良いフッ素樹脂皮膜を形成できることから、・・・繊維、衣服、糸、プラスチック、金属、セラミックス、木材、紙、ガラス、フィルム、天然皮革、人皮合皮、その他各種の基材の撥水撥油剤・・・等に使用することができる。」(段落【0070】)
1k「応用例1?5、比較応用例1?5
実施例1、2、3、4、6と比較例1、2、3、4、6のフッ素樹脂溶液について、それぞれ同種のフロロカ-ボンで希釈し不揮発分20wt%のフッ素樹脂溶液を調整した。厚さ1.0mmのステンレス板を各フッ素樹脂溶液に浸漬塗布し、107℃で10分間乾燥した。」(段落【0096】)
1l「応用例10、比較応用例11
実施例7と比較例7のフッ素樹脂溶液を、パ-フロロオクタンとパ-フロロ-3-ブチルテトラヒドロフランとの重量比8:2の混合液で希釈し、有効成分0.8wt%のフッ素樹脂溶液を調整し、未染色のナイロンタフタ布並びに未染色のポリエステルトロピカル布を浸漬し、1Dip1Nipで絞り、
予備乾燥:100℃× 2分
キュア-:170℃×30秒
にて、キュア-した。加工布の撥水撥油試験結果を表4に示す。
【表4】(当審注:表省略)
本発明に係る方法で製造したフッ素樹脂溶液は、従来の方法で調整したフッ素樹脂溶液に比べ、各種繊維に処理した際、格段に優れた撥水撥油性を発揮することが判った。」(段落【0103】?【0105】)
1m「ハロゲン系溶剤の中でも、オゾン破壊性や引火性の問題がないC、F原子のみや、C、F、O原子のみ、またC、F、N原子のみから成る通常フロロカ-ボンと呼ばれるフッ素系溶剤に溶解しようとすると、フロロカ-ボンは溶解性に乏しいためにフッ素樹脂の溶解が非常に困難であり、もし溶けたとしても溶解安定性が乏しかったり、又フッ素樹脂溶液を基材に塗布した際に塗布むらやブツを発生し表面状態が劣悪になったり、更にまた溶解できるフッ素樹脂の種類は非常に限られてしまうという問題があった。更にフッ素樹脂中のフッ素含有量を低下させると、フロロカ-ボンに対する該フッ素樹脂の可溶化は、従来の方法では不可能であるという問題があった。」(段落【0005】)
1n「本発明者等は、上記問題点を解決すべく鋭意検討した結果、フロロカ-ボンを溶剤として使用し、そこにフッ素系単量体(モノマ-)もしくはフッ素系単量体と非フッ素系単量体とからなる単量体組成物を注入しながら重合すると上記課題が解決できることを見出だし、本発明を完成するに至った。」(段落【0009】)

2 この出願の出願前に頒布された刊行物2には、以下の事項が記載されている。

2a「PFPEの説明
PFPEは側鎖タイプと直鎖タイプがあり、側鎖タイプは下記一般式<化1>で、直鎖タイプは下記一般式<化2>で表示される。
【化1】
CF_(3)-[(O-CF-CF_(2))n-(O-CF_(2))m]-O-CF_(3)

CF_(3)
【化2】(構造式略)」(段落【0008】)
2b「PFPEの作用
半田材料表面の油脂類を脱脂するに際して、脱脂液としてPFPEを用いた場合、脱脂した後の半田材料の濡れ広がり性に優れた効果を有する。このような優れた効果を有する理由は明らかではないが、半田材料表面の油脂類と置換して脱脂効果を有することに加えて、PFPEの被膜が半田材料の酸化を防ぎ、さらに溶融半田が流動する際にPFPEが特に有害な働きをしていないため、このような優れた効果を有すると考えられる。PFPEはトリクロルエチレン等のような安全面の問題もなく、トリクロロエタン等のようなオゾン層破壊物質としての問題もない。」(段落【0009】)

3 この出願の出願前に頒布された刊行物3には、以下の事項が記載されている。

3a「一般にハロゲン系溶剤には、人体への有害性が高いという問題がある。ハロゲン系溶剤やフッ素系溶剤は、大気中に揮散した場合にオゾン層の破壊や地球温暖化の原因になるフロン物質として問題となり、使用が規制されるようになってきている。たとえば、CFC-11,12,113,114,115等のクロロフルオロカーボン(CFC)や1,1,1-トリクロロエタン、四塩化炭素等は、オゾン破壊係数が高いことから既に全廃されており、また、代替フロンとして挙げられるHCFC-123,225,141b等のハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)もオゾン破壊係数がゼロではないため、2020年には実質的に全廃されることになっている。さらに、パーフルオロカーボン(PFC)は一般に毒性が低く、オゾン破壊もほとんど起こさないが、大気寿命が非常に長く、温暖化係数が高いという問題が指摘されている。」(段落【0009】)
3b「人体への安全性、大気寿命、オゾン層破壊係数、地球温暖化係数、さらには光化学スモッグ原因物質等を充分に考慮して選択する必要がある。このような観点から本発明ではフッ素系溶剤として、ハイドロフルオロカーボン(HFC)およびハイドロフルオロエーテル(HFE)が使用される。HFCは、基本的に水素、フッ素、炭素原子からなり、HFEは、これに加えさらに分子内にエーテル性の酸素原子を有するものである。具体的には、デュポン社のバートレルXF(CF_(3)CHFCHFCF_(2)CF_(3):bp.55℃)、日本ゼオン社のゼオローラH(へプタフルオロシクロペンタン:bp.82.5℃)、3M社のHFE-7100(C_(4)F_(9)OCH_(3):bp.60℃)、同HFE-7200(C_(4)F_(9)OC_(2)H_(5):bp.78℃)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらの化合物は、フッ素以外のハロゲン原子を含まないため、安全性が高く、また、下記表1に示すように、他のCFC、HCFCおよびPFC等のフッ素系溶剤と比べるとオゾン破壊係数がゼロであり、温暖化係数も従来のフッ素系溶剤よりも一桁以上小さく、さらに、光化学スモッグを生じることもない優れたものである。」(段落【0013】)
3c「【表1】

」(段落【0014】)

第5 当審の判断
1 刊行物1に記載された発明
刊行物1には、「フッ素系溶剤に、フッ素化アルキル基含有単量体、または該フッ素化アルキル基含有単量体と非フッ素化アルキル基含有単量体とからなる単量体組成物を注入しながら重合することを特徴とするフッ素樹脂溶液の製造方法」(摘示1a)が記載されており、「本発明は、溶液安定性に優れ、基材に塗布した際に優れたフッ素表面機能を与えるコ-ティング適性に優れたフッ素樹脂溶液並びに該フッ素樹脂溶液の製造方法に関する。」(摘示1b)との記載からみて、上記摘示1aにおいて重合することにより得られた「フッ素樹脂溶液」は、「基材に塗布した際に優れたフッ素表面機能を与える」用途に使用されるものである。そして、該フッ素表面機能について、「撥水撥油剤・・・等に使用することができる」(摘示1j)と記載され、「応用例10」として「各種繊維に処理した際、格段に優れた撥水撥油性を発揮することが判った。」(摘示1l)とされる具体例が記載されているから、刊行物1には、上記フッ素樹脂溶液を用いた撥水撥油剤について記載されているということができる。
また、上記「フッ素化アルキル基含有単量体」については、「フッ素化アルキル基含有(メタ)アクリレ-ト単量体(A)」が好ましく(摘示1d)、その具体例として、
「a-2: CH_(3)

CH_(2)=CCOOCH_(2)CH_(2)C_(8)F_(17) 」が記載されている。

そうすると、刊行物1には、
「フッ素系溶剤に、下記式a-2で表されるフッ素化アルキル基含有単量体、または該フッ素化アルキル基含有単量体と非フッ素化アルキル基含有単量体とからなる単量体組成物を注入しながら重合することにより得られたフッ素樹脂溶液を用いた撥水撥油剤。
a-2: CH_(3)

CH_(2)=CCOOCH_(2)CH_(2)C_(8)F_(17) 」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているということができる。

2 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「フッ素系溶剤」は、重合反応における溶媒であり、溶剤自身が反応することのない不活性溶媒でなければならないことは明らかであるから、本願発明の「フッ素系不活性溶媒」に相当する。
次に、引用発明の「式a-2」は、本願発明の「【化2】」において、R^(1)がCH_(3)、Xが炭素数2のアルキレン基、RfがC_(8)F_(17)(当審注:「パーフルオロオクチル基」ともいう。)、すなわち、パーフルオロアルキル基であるものに相当するから、引用発明の「下記式a-2で表されるフッ素化アルキル基含有単量体」は、本願発明の「下記一般式(当審注:「【化2】」のこと)で表される不飽和結合を有するパーフルオロ基含有化合物単独」に相当する。また、引用発明の「非フッ素化アルキル基含有単量体」は、「分子中にエチレン性不飽和基を含有し、且つ前記のフッ素化アルキル基含有単量体以外のもの」(摘示1f)であるから、本願発明の「他の不飽和モノマー」に相当する。そうすると、引用発明の「下記式a-2で表されるフッ素化アルキル基含有単量体、または該フッ素化アルキル基含有単量体と非フッ素化アルキル基含有単量体とからなる単量体組成物」は、本願発明の「下記一般式で表される不飽和結合を有するパーフルオロ基含有化合物単独・・・またはこれと他の不飽和モノマー」に相当する。
そして、引用発明の「フッ素系溶剤に、下記式a-2で表されるフッ素化アルキル基含有単量体、または該フッ素化アルキル基含有単量体と非フッ素化アルキル基含有単量体とからなる単量体組成物を注入しながら重合」は、重合が該フッ素系溶剤中で行われることが明らかであり、また、引用発明の「単量体組成物」の重合とは共重合させることであるから、本願発明の「フッ素系不活性溶媒中で下記一般式で表される不飽和結合を有するパーフルオロ基含有化合物単独を重合させるかまたはこれと他の不飽和モノマーとを共重合させる」に相当する。
さらに、引用発明の「重合することにより得られたフッ素樹脂溶液を用いた撥水撥油剤」は、摘示1jからみて、得られたフッ素樹脂溶液をそのまま撥水撥油剤に使用する、又は、「同種のフロロカーボン」、すなわち、反応に用いたのと同種のフッ素系溶剤で希釈して使用する(摘示1k、1l)溶液形態のものを包含するといえるから、本願発明の「重合させるかまたは・・・共重合させることにより得られる重合体溶液からなるか、あるいは該重合体溶液を前記不活性溶媒で希釈した溶液からなる溶液形態の撥水・撥油剤」に相当する。

よって、両者は、
「フッ素系不活性溶媒中で下記一般式で表される不飽和結合を有するパーフルオロ基含有化合物単独を重合させるかまたはこれと他の不飽和モノマーとを共重合させることにより得られる重合体溶液からなるか、あるいは該重合体溶液を前記不活性溶媒で希釈した溶液からなる溶液形態の撥水・撥油剤。
【化2】

(ただし式中、R^(1);CH_(3)、X;炭素数2のアルキレン基、Rf;パーフルオロアルキル基を示す)」
である点で一致し、以下の点で相違するということができる。

A フッ素系不活性溶媒が、本願発明においては、「下記一般式(1)で表されるハイドロフルオロエーテルおよび/または下記一般式(2)で表されるパーフルオロエーテルから成る・・・
CF_(3)(CF_(2))_(n)O(CH_(2))_(m)CH_(3) (1)
(ただし式中、nは0?5の整数,mは0?5の整数)
【化1】

」ものであるのに対し、引用発明においては、そのような特定がない点
(以下、「相違点A」という。)

3 検討
(1)相違点Aについて
刊行物1には、フッ素系溶剤として、「C、F原子のみや、C、F、O原子のみ、C、F、N原子のみ、またC、F、N、Oのみから成る通常フロロカ-ボンと呼ばれる溶剤」(摘示1g)が挙げられており、そのうち、「C、F、O原子のみから成るフロロカ-ボンとしては、炭素数4から20の直鎖状、分岐状、環状、またこれらの分子形状を組み合わせた構造のパ-フロロ-ポリエ-テル」(摘示1h)が挙げられ、「具体例として・・・パ-フロロエ-テルもしくはパ-フロロポリ-テル化合物」(摘示1i)が記載されている。
また、これらの溶剤は、「オゾン破壊性や引火性の問題がなく、更に生体に対する安全性の高いフロロカ-ボンを溶剤として使用し、高フッ素含有量のフッ素樹脂やフッ素含有量の少ないフッ素樹脂をフッ素系溶剤に安定的に溶解させることができ」る(摘示1c)ものとして選択されており、上記摘示1gで挙げられた溶剤は、いずれもこの目的のために同等に用いることができると認識されているのであるから、それらの中から、「パ-フロロエ-テルもしくはパ-フロロポリ-テル化合物」を選択することに格別の創意工夫を要するものではない。
そして、刊行物2には、パーフロロ-ポリエーテル化合物の一種である
「一般式<化1>
【化1】
CF_(3)-[(O-CF-CF_(2))n-(O-CF_(2))m]-O-CF_(3)

CF_(3) 」で示されるPFPE化合物(当審注:本願発明の一般式(2)の化合物に相当)が油脂類の脱脂液、すなわち溶剤として記載され、該溶剤は、「安全面の問題もなく、トリクロロエタン等のようなオゾン層破壊物質としての問題もない」(摘示2a、2b)ものであると記載されているように、オゾン層破壊性の問題がなく、安全性の高いフッ素系溶剤として当業者に周知であるといえる。
そうしてみると、引用発明のフッ素系溶剤である「パ-フロロ-ポリエ-テル化合物」として、オゾン層破壊性の問題がなく、安全性の高いフッ素系溶剤である上記「一般式<化1>」で示されるPFPE化合物を採用することは、当業者が容易に想到し得ることである。

他方、刊行物3には、フッ素系溶剤としてハイドロフルオロエーテル(HFE)、例えば、「3M社の・・・HFE-7200(C_(4)F_(9)OC_(2)H_(5):bp.78℃)」(当審注:本願発明の一般式(1)の化合物に相当)が記載されており(摘示3b)、「フッ素以外のハロゲン原子を含まないため、安全性が高く、また、下記表1に示すように、他のCFC、HCFCおよびPFC等のフッ素系溶剤と比べるとオゾン破壊係数がゼロであり、温暖化係数も従来のフッ素系溶剤よりも一桁以上小さく、さらに、光化学スモッグを生じることもない優れたものである」(摘示3b、3c)と記載されている。
このように、刊行物1記載の「パ-フロロエ-テルもしくはパ-フロロポリ-テル化合物」と同様にフッ素系のエーテル溶剤である、C_(4)F_(9)OC_(2)H_(5)等のハイドロフルオロエーテル(HFE)は、フッ素系溶剤の中でも、オゾン破壊性の問題がなく、安全性の高いという点で優れたものであること、特に、従来のフッ素系溶剤、例えば、刊行物1記載のC、F原子のみの溶剤(パーフルオロカーボン(PFC))よりも、オゾン破壊係数、温暖化係数、安全性の点で優れたものであることが当業者に周知であるといえるから、引用発明の「フッ素系溶剤」として、従来のフッ素系溶剤、例えば、パーフルオロカーボン(PFC)等に代えて、C_(4)F_(9)OC_(2)H_(5)等のハイドロフルオロエーテル(HFE)を採用することも、当業者が容易に想到し得ることである。

したがって、引用発明において、フッ素系溶剤を、「下記一般式(1)で表されるハイドロフルオロエーテルおよび/または下記一般式(2)で表されるパーフルオロエーテルから成る・・・
CF_(3)(CF_(2))_(n)O(CH_(2))_(m)CH_(3) (1)
【化1】

」ものとすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

(2)本願発明の効果について
本願発明の効果は、本願明細書の記載(段落【0022】)からみて、(i)「被処理体に対して十分な撥水・撥油性を付与することができる」こと及び(ii)「その溶剤として有効成分である含フッ素重合体の重合溶媒をそのまま使用できるので、製造が容易であり、しかもその溶媒が地球環境を汚染することがなく安全性にも優れている」ことであると認められる。
しかしながら、被処理体に対する撥水・撥油性能は、主に重合体によって付与されるところ、引用発明も、本願発明と同様の重合体を含有するフッ素樹脂溶液を用いることにより、「優れた塗工性や優れたフッ素機能を与え」(摘示1c)、「格段に優れた撥水撥油性を発揮する」(摘示1l)のであるから、本願発明と同様の撥水・撥油性を付与することができるということができ、また、本願明細書の実施例等を参酌しても、特定の溶媒を選択したことにより、当業者の予測を超える顕著な効果を奏しているとはいえない。
よって、上記(i)の効果は、刊行物1?3の記載からみて、当業者の予測を超える格別顕著なものとはいえない。
また、引用発明も、重合に用いたフッ素系溶剤をそのまま又は同じ溶剤でさらに希釈して使用するもの(摘示1j、1k、1l)であって、また、該溶剤は、「オゾン破壊性や引火性の問題がなく、更に生体に対する安全性の高い」(摘示1c)ものであり、加えて、本願発明の一般式(1)及び(2)の化合物が、オゾン破壊性の問題がなく、安全性の高いものであることも、刊行物2、3に記載されていることである。
よって、上記(ii)の効果も、刊行物1?3の記載からみて、当業者の予測を超える格別顕著なものとはいえない。

4 まとめ
以上のとおり、本願発明は、この出願の出願前に頒布された刊行物1?3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

5 請求人の主張について
(1)請求人は、平成23年1月28日付けの意見書(4)において、
(ア)「通常フロロカーボンと呼ばれている溶剤は、・・・刊行物1段落0005に説示されておりますように、フッ素樹脂の溶解が非常に困難であり、溶解したとしても溶解安定性が乏しく、基剤に塗布した際に塗布ムラ、ブツの発生により表面状態が劣悪となる等の問題があることが指摘されている溶剤であります。そして、刊行物1記載の発明は、こうした問題を課題とするものであり(刊行物1段落0007、0008)、この課題を、前記フロロカーボンを溶剤として使用し、そこにフッ素系単量体若しくはフッ素系単量体と非フッ素系単量体とからなる単量体組成物を注入しながら重合するという手段を講じてその解決を図ったものであります。
しかし、本願発明で使用する選択されたフッ素系不活性溶媒は、本願明細書の実施例に示すように、そのように単量体を注入しながら重合する手段を講じる必要はなく、支障なく重合することができ、また得られたフッ素樹脂をその重合溶媒の安定な溶液として得ることができます。こうしたことは、刊行物1には全く記載がなく、また刊行物1記載の発明から容易に窺い知ることはできないことであります。
すなわち、刊行物1に記載の発明では、使用する溶剤の具体的な説明が段落0053に記載されていますが、ここには本願発明が要件としている特定の一般式で示すハイドロフルオロエーテルおよび/または特定の一般式で示すパーフルオロエーテルは記載されておりません。わずかに引用文献0053において単に「パーフルオロエーテル」、「パーフルオロポリエーテル」と記載されているのみであります。また、実施例を参照しても、パーフルオロオクタン、これとパーフルオロヘプタンの混合物、パーフルオロトリn-ブチルアミン、パーフルオロオクタンとパーフロロ-3-ブチルテトラヒドロフランの混合物を使用する具体例が記載されているのみであります。
これらのフッ素系溶剤は、特に地球環境の保全に優れた本願発明に使用する特定のフッ素系不活性溶媒とは相違しており、また示唆するものでもありません。」と主張し、
(イ)「刊行物2,3には本願発明に使用する溶剤が開示されていますが、これらの溶剤が本願発明のあるいは刊行物1記載の重合溶媒としても有用であること、及び重合生成物をそのまま撥水剤撥油剤として利用可能であることまでは、容易に理解することはできないものでありますから、この点刊行物1記載の重合溶媒として使用する動機付はありません。」と主張する。

(2)(ア)しかしながら、本願発明の製造方法は、引用発明における「注入しながら重合する」手段を除外するものではなく、本願発明は、当該手段により得られるものも包含する。
そして、刊行物1においては、引用発明の「注入しながら重合する」手段を採用することにより、フロロカーボン溶剤についての溶解性や基材に塗布した際の塗布ムラ、ブツの発生等の表面状態に関する問題点を既に解決したものが得られており(摘示1m、1n)、C、F原子のみや、C、F、O原子のみ、C、F、N原子のみ、またC、F、N、Oのみから成る通常フロロカ-ボンと呼ばれる溶剤であれば、何等制限無く使用することができる(摘示1g)ようになったことが示されているといえるので、摘示1mの記載が、引用発明において、実施例に具体例に開示されている溶剤以外のフッ素系溶剤を選択することの阻害要因となるとはいえない。
そうすると、刊行物1において、フッ素系溶剤を採用しようとした本来の目的である「オゾン破壊性や引火性の問題がなく、更に生体に対する安全性の高い」(摘示1c)という観点において、より優れた性能を有するフッ素系溶剤を、周知の溶剤から選択することは当業者が格別の創意工夫を要さずに想到し得ることといわざるを得ない。
(イ)そして、刊行物2,3に記載された溶剤は、重合溶剤又は撥水撥油剤の希釈剤として有用であることについては記載されていないものの、共に、オゾン破壊性の問題がなく、安全性の高い優れたフッ素系溶剤として知られていたのであるから、他の溶剤としての用途、例えば、重合溶剤又は撥水撥油剤の希釈剤として使用し得ることも当業者が容易に予測できることであるといえ、当業者が、刊行物1記載のフッ素系溶剤として、又は、刊行物1記載のフッ素系溶剤に代えて、採用することに何らの支障があったということはできない。

よって、本願発明についての請求人の上記主張は、いずれも採用することができず、上記4の結論を左右するものではない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、この出願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-05-27 
結審通知日 2011-05-31 
審決日 2011-06-14 
出願番号 特願2002-234538(P2002-234538)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C09K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 菅原 洋平  
特許庁審判長 柳 和子
特許庁審判官 松本 直子
橋本 栄和
発明の名称 撥水・撥油剤およびその製造方法  
代理人 酒井 正己  
代理人 加々美 紀雄  

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