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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F16H |
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管理番号 | 1240935 |
審判番号 | 不服2009-15417 |
総通号数 | 141 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2011-09-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2009-08-24 |
確定日 | 2011-07-25 |
事件の表示 | 特願2002-234768「ボールねじ」拒絶査定不服審判事件〔平成16年3月11日出願公開、特開2004-76791〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯・本願発明 本願は、平成14年8月12日の出願であって、その請求項1?5に係る発明は特許を受けることができないとして、平成21年5月20日付けで拒絶査定がされたところ、平成21年8月24日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。 そして、本願の請求項1?4に係る発明は、平成20年12月9日付け、及び平成22年8月17日付けの手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものである。なお、平成21年8月24日付けの手続補正は、当審において平成22年6月16日付けで決定をもって却下された。 「【請求項1】 自身の周面にねじ溝を直接形成した中実構造のねじ軸と、ボールを介して前記ねじ溝に螺合するナットと、を備えるボールねじであって、 前記ねじ溝の底部に幅よりも深さの大きい構造を有する有底のスリット溝を形成し、このスリット溝によって前記ねじ軸の曲げ剛性を低減したことを特徴とするボールねじ。」 2.本願の出願前に日本国内において頒布され、当審において平成22年6月16日付けで通知した拒絶理由に引用された刊行物及びその記載事項 (1)刊行物1:特開2000-326857号公報 (2)刊行物2:特開2002-168318号公報 (刊行物1) 刊行物1には、「電動式パワーステアリング装置」に関して、図面(特に、図1?3を参照)とともに、下記の技術的事項が記載されている。 (a)「この発明は自動車の電動式パワーステアリング装置に関し、特にモータの出力を、操舵軸に一体に設けられたボールねじ機構を介して、操舵軸に伝達する方式の電動式パワーステアリング装置に関するものである。」(第2頁第1欄第23?27行、段落【0001】参照) (b)「この電動式パワーステアリング装置は、図1に示すように、車輪を操舵する操舵機構に連結される操舵軸1と、ハンドルからの操舵トルクを、操舵軸1を軸方向に移動させる力に変換するラックピニオン機構2と、操舵トルクの大きさと方向に応じて回転駆動されるモータ3と、操舵軸1に一体に設けられたボールねじ機構4とを備え、ボールねじ機構4のナット5がモータ3の回転子6に嵌合され、モータ3の駆動により、ナット5が回転子6とともに回転して、操舵軸1に一体に設けられたボールねじ機構4で操舵軸1を軸方向に移動させ、ハンドルからの操舵トルクを適宜補助するものである。操舵軸1には、ラックピニオン機構2のラック7とボールねじ機構4の螺旋状転走面8が形成されている。」(第3頁第3欄第36?49行、段落【0014】参照) (c)「図2に示すように、前記操舵軸1の螺旋状転走面8は転造で形成され、転走面8が形成されたねじ溝部間のランド部16には、グリースを保持するための螺旋溝17が形成されている。(中略) 図3は、前記操舵軸1の螺旋状転走面8の変形例を示す。ランド部16には、図2のものと同様に、螺旋溝17が形成されている。(中略) 図3(b)は、螺旋状転走面8bが形成されたねじ溝部の底に、凹溝23を形成したものであり、ここに保持したグリースを、ボール15と転走面8bの間に供給するようになっている。」(第3頁第4欄第15?39行、段落【0017】?【0019】参照) したがって、刊行物1には、下記の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認める。 【引用発明】 自身の周面に転走面8bを直接形成した中実構造の操舵軸1と、ボール15を介して前記転走面8bに螺合するナット5と、を備えるボールねじ機構4であって、 前記転走面8bの底部に有底の凹溝23を形成したボールねじ機構4。 (刊行物2) 刊行物2には、「電動式射出機構」に関して、図面とともに、下記の技術的事項が記載されている。 (d)「この発明は、スクリューの前進駆動を電動モータにより行う電動式射出機構に関するものである。」(第2頁第1欄第38?40行、段落【0001】参照) (e)「サーボモータ等の電動モータを駆動源とし、その電動モーターによる回転運動をボールねじ軸とボールナット部材により直線運動に変換して、スクリューを前進駆動する電動式射出機構には、単一のボールねじ軸を採用したものと、複数のボールねじ軸を採用したものとがある。 そのいずれの形式も、ガイドバーに挿通したり、設置部材上に摺動自在に載置するなどして、機台上の前後一対の支持用のプレート間に、スクリューを前進移動する駆動体を設けており、そのスクリュー駆動体に内設したボールナット部材に、電動モータにより回転するボールねじ軸を螺合していることから、ボールねじ軸の取付誤差や機構の剛性不足などによって、ボールねじ軸とボールナット部材の軸線が相対的にずれて、ラジアル力やモーメントが発生し易い。」(第2頁第1欄第42行?第2欄第6行、段落【0002】参照) (f)「上記構成では、ボールねじ軸の軸部周囲に設けた環状の応力緩和溝によって、ラジアル力やモーメントの発生による過大なこじり力、または射出機構の前進・後退動作時の撓みにより生じがちな過大なこじり力が低減し、ボールねじ部とボールナット部材との螺合部位における過剰負荷が解消されることから、ボールねじ軸の異常な摩耗や劣化、さらには折損などが防止され、長期間の使用においてもスクリュー駆動体の前進・後退動作が円滑に維持されて、ボールねじ部及びボールナット部材の使用寿命も長くなる。」(第3頁第3欄第35?44行、段落【0011】参照) (g)「ボールねじ軸4の軸部周囲に設けた環状の応力緩和溝12によって、ボールねじ軸4とボールナット部材7の軸線が相対的なずれや撓みなどが生じ難く、またボールねじ部41とボールナット部材7との螺合部位における過剰負荷も解消されるなどのことから、ボールねじ軸4の異常な摩耗や劣化、折損等が防止され、スクリュー駆動体6の進退動作も円滑に維持されて、ボールねじ部41及びボールナット部材7の使用寿命も長くなる。」(第4頁第5欄第31行?第6欄第3行、段落【0025】参照) 3.対比・判断 本願発明と引用発明とを対比すると、それぞれの有する機能からみて、引用発明の「転走面8b」は本願発明の「ねじ溝」に相当し、以下同様にして、「操舵軸1」は「ねじ軸」に、「ボール15」は「ボール」に、「ナット5」は「ナット」に、「ボールねじ機構4」は「ボールねじ」に、それぞれ相当する。また、引用発明の「凹溝23」は、「溝」である限りにおいて、本願発明の「スリット溝」にひとまず相当するので、両者は下記の一致点、及び相違点を有する。 <一致点> 自身の周面にねじ溝を直接形成した中実構造のねじ軸と、ボールを介して前記ねじ溝に螺合するナットと、を備えるボールねじであって、 前記ねじ溝の底部に有底の溝を形成したボールねじ。 (相違点) 前記溝に関し、本願発明は、「幅よりも深さの大きい構造を有する」「スリット溝」であって、「このスリット溝によって前記ねじ軸の曲げ剛性を低減した」のに対し、引用発明は、凹溝23である点。 そこで、上記相違点について検討をする。 (相違点について) 引用発明の凹溝23は、刊行物1の上記摘記事項(c)の記載からみて、螺旋状転走面8bが形成されたねじ溝部の底にグリースを供給するために形成されているものであるが、凹溝23を設けることによって有効な軸径が小さくなっているのであるから、操舵軸1の曲げ剛性が低減していることは、技術的に自明の事項である。 一方、引用発明及び刊行物2に記載された技術的事項は、ともにボールねじに関する技術分野に属するものであって、刊行物2には、「ボールねじ軸の取付誤差や機構の剛性不足などによって、ボールねじ軸とボールナット部材の軸線が相対的にずれて、ラジアル力やモーメントが発生し易い。」(上記摘記事項(e)参照)、「ボールねじ軸の軸部周囲に設けた環状の応力緩和溝によって、ラジアル力やモーメントの発生による過大なこじり力、または射出機構の前進・後退動作時の撓みにより生じがちな過大なこじり力が低減し、ボールねじ部とボールナット部材との螺合部位における過剰負荷が解消されることから、ボールねじ軸の異常な摩耗や劣化、さらには折損などが防止され、長期間の使用においてもスクリュー駆動体の前進・後退動作が円滑に維持されて、ボールねじ部及びボールナット部材の使用寿命も長くなる。」(上記摘記事項(f)参照)、及び「ボールねじ軸4の軸部周囲に設けた環状の応力緩和溝12によって、ボールねじ軸4とボールナット部材7の軸線が相対的なずれや撓みなどが生じ難く、またボールねじ部41とボールナット部材7との螺合部位における過剰負荷も解消されるなどのことから、ボールねじ軸4の異常な摩耗や劣化、折損等が防止され、スクリュー駆動体6の進退動作も円滑に維持されて、ボールねじ部41及びボールナット部材7の使用寿命も長くなる。」(上記摘記事項(g)参照)と記載されている。 上記各記載から、刊行物2には、ボールねじ軸の軸部周囲に有底の環状溝を形成することにより、ボールねじ軸の取付誤差や機構の剛性不足などによって、ボールねじ軸とボールナット部材の軸線が相対的にずれて、ラジアル力やモーメントの発生による過大なこじり力、ボールねじ部とボールナット部材との螺合部位における過剰負荷が解消され、ボールねじ軸の異常な摩耗や劣化、さらには折損などが防止され、長期間の使用においてもスクリュー駆動体の前進・後退動作が円滑に維持されて、ボールねじ部及びボールナット部材の使用寿命も長くすることができるという技術的事項が記載又は示唆されている。 また、引用発明の凹溝23に、刊行物2に記載又は示唆された技術的事項を適用するにあたり、ねじ軸の外径、ねじ溝の形状等に応じて、溝の深さを幅に対して適宜のものとすることは、当業者が必要に応じて適宜採用し得る設計変更の範囲内の事項(例えば、特開平7-110030号公報の段落【0015】及び図4には、幅よりも深さの大きい構造を有する「溝13」が記載されている。)にすぎない。 してみれば、引用発明の転走面8bの底部の有底の凹溝23に、刊行物2に記載又は示唆された技術的事項を適用することにより、幅よりも深さの大きい構造を有する、ねじ軸の曲げ剛性を低減するための溝として、上記相違点に係る本願発明の構成とすることは、技術的に格別の困難性を有することなく当業者が容易に想到できるものであって、これを妨げる格別の事情は見出せない。 また、本願発明が奏する効果についてみても、引用発明、及び刊行物2に記載された発明が奏するそれぞれの効果の総和以上の格別顕著な効果を奏するものとは認められない。 したがって、本願発明は、刊行物1及び刊行物2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 なお、審判請求人は、当審における平成22年6月16日付けの拒絶理由に対する平成22年8月17日付けの意見書(以下、「意見書」という。)において、「例え当業者といえども、引用発明1(注:本審決の「引用発明」に対応する。以下同様。)の凹溝23は『深くしない』事が技術常識である(阻害事由)にも拘らず、当該凹溝23に刊行物2に記載又は示唆された技術的事項を適用するという発想は持ちえないから、引用発明1と引用文献2(注:本審決の「刊行物2」に対応する。)とに基づいて本願発明に想到することはありえません。」((3)の[まとめ]の項を参照)と引用発明に刊行物2に記載又は示唆された技術的事項を適用するには阻害事由があると主張している。 しかしながら、本願の特許請求の範囲の請求項1には、「幅よりも深さの大きい構造」(なお、意見書には、この構造に関する補正事項は、「図1?3、図5の記載に基づいています。」[「(2)補正の根拠」の項参照]と記載され、本願明細書及び図面には他に補正の根拠となる記載は見出せない。)と記載され、言い換えれば、「深さ寸法が幅寸法の1倍を超える構造」が限定されているところ、本願明細書及び図面には、比較の対象となる幅寸法についての具体的な記載が何らないことから、深さ寸法の幅寸法に対する下限値を数値限定することによる臨界的意義を見出すことができないし、上記(相違点について)において述べたように、審判請求人が主張する本願発明が奏する作用効果は、従前知られていた構成が奏する作用効果を併せたものにすぎず、本願発明の構成を備えることによって、本願発明が、従前知られていた構成が奏する作用効果を併せたものとは異なる、相乗的で予想外の作用効果を奏するものとは認められないので、審判請求人の主張は採用することができない。 4.むすび 結局、本願の請求項1に係る発明(本願発明)は、その出願前日本国内において頒布された刊行物1及び刊行物2に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、本願の請求項2?4に係る発明について検討をするまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2011-03-29 |
結審通知日 | 2011-04-01 |
審決日 | 2011-06-14 |
出願番号 | 特願2002-234768(P2002-234768) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(F16H)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 広瀬 功次 |
特許庁審判長 |
川本 真裕 |
特許庁審判官 |
常盤 務 大山 健 |
発明の名称 | ボールねじ |
代理人 | 松島 鉄男 |
代理人 | 有原 幸一 |
代理人 | 奥山 尚一 |