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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A23L
管理番号 1240951
審判番号 不服2008-26754  
総通号数 141 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-09-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-10-17 
確定日 2011-07-29 
事件の表示 特願2002-260133「カビ付け節の製造方法及び装置」拒絶査定不服審判事件〔平成16年4月2日出願公開、特開2004-97028〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

この出願は,平成14年9月5日の出願であって,同年9月25日付けで手続補正書が提出され,平成20年6月13日付けで拒絶理由が通知され,同年8月14日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが,同年9月11日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,同年10月17日に拒絶査定を不服とする審判が請求され,平成21年1月9日付けで審判請求書の手続補正書が提出され,平成23年2月18日付けで拒絶理由が通知され,同年4月25日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明の認定

この出願の請求項1及び2に係る発明は,平成23年4月25日付けの手続補正により補正された明細書及び図面(以下,「本願明細書」という。)の記載からみて,特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ,請求項1にかかる発明(以下,「本願発明」という。)は,次のとおりのものであると認める。

「原料肉を常法により調理し,煮熟し,くん乾し,カビ付けしてカビ付け節を製造する方法において,カビ付け工程で使用する種カビとして,少なくとも一回以上0℃以下の温度で冷凍処理したものを使用し,カビ付け工程中に少なくとも一回以上0℃以下の温度で冷凍処理することを特徴とするカビ付け節の製造方法。」

第3 平成23年2月18日付け拒絶理由通知の拒絶の理由の概要

本願発明の拒絶の理由の概要は,本願発明は,その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない,というものであるところ,引用文献1ないし3は,下記のとおりである。

特開昭64-005446号公報(以下,「刊行物1」という。)
特開昭60-262545号公報(以下,「刊行物2」という。)
特開平03-139235号公報(以下,「刊行物3」という。)

第4 各刊行物に記載された事項

1 刊行物1に記載された事項

この出願前に頒布された刊行物である刊行物1には,以下の事項が記載されている。

1a「(1)魚類節をカビ付け室に一定期間収容することにより,該魚類節に良質なカビを付ける方法において,
前記カビ付け室を,温度が28℃程度,湿度が85%程度,風速が約0.04m/s以下に制御して前記魚類節にカビ付けを行うと共に,適当な時期に前記カビ付け室内に熱風を循環させて害虫の発生予防又は駆除を行うようにしたことを特徴とする魚類節のカビ付け方法。」(特許請求の範囲第1項)

1b「従来技術
魚類節は,鰹,メジカ,サバ等の魚を三枚におろして湯を通し,骨抜きした後薫乾して,これにカビ付けをして製造している。
かかるカビ付け方法として,従来から採用されている手段は,一年を通して一定の温度を保ち易い室(例えば地下室等)を利用し,この中に魚類節を入れた木箱やせいろを一定期間収容することにより,カビ付けを行うようにしている。」(1頁右下欄8?16行)

1c「一方,カビ付け工程中には,ダニの一種であるコムシ等の害虫がしばしば発生するため,害虫予防又は駆除のため,薬品処理および日干しを行っている。
発明が解決しようとする問題点
しかしながら・・(中略)・・以下のような問題がある。
(1)生産面
適切な環境条件を確保することができないため,カビ付けに長期間を要し,又,季節に左右されることから,原魚を仕入れてから魚類節として製品になるまで約半年間も必要となり,生産性の増大を図る上で阻害要因の一つになっている。
(2)品質面
温度,湿度,風量等,魚類節のカビ付けに不適性な環境条件の場合には,下記のように品質に悪影響を及ぼす。
(a)環境条件がバラ付くと,魚類節表面には,不均一な状態でまばらにカビが発生する。
(b)環境条件が適性値からかけ離れていると,特にカビ付け所要時間が長くなり,コムシが発生するようになる。コムシは,魚類節の割れ目に侵入してカビを食べる。すると,次第に白色化して光沢を失い肉質が脆くなる等の品質低下を招く。
(c)高湿度状態が続いた場合には,魚類節には有用カビ以外の食用として不適切な有害カビ等が発生して品質低下を招く。
(3)作業面
カビ付け期間が長期間になると,コムシ等の害虫が発生し易くなるので,害虫発生防止のための日常監視及び日に一度の日乾し作業を欠くことができない。また,一度害虫が発生した場合には,駆除作業などを含め多くの作業を必要とする。
(4)安全面
魚類節に発生した害虫の殺虫は,やむをえず薬品処理に頼っているため,薬品の多くは人体に有害であるので,魚類節への直接散布は食用の安全性の面から控えているものの,これらの薬品を使用する限り,魚類節への薬品残留のおそれがある。」(2頁左上欄2行?左下欄4行)

1d「問題点を解決するための手段
この発明は,かかる従来の問題点を解決するため,第1の発明は,魚類節をカビ付け室に一定期間収容することにより,該魚類節に良質なカビを付ける方法において,前記カビ付け室を温度が28℃程度,湿度が85%程度,風速が約0.04m/s以下に制御して前記魚類節にカビ付けを行うと共に,適当な時期に前記カビ付け室内に熱風を循環させて害虫の発生予防又は駆除を行うようにした魚類節のカビ付け方法としたことを特徴としている」(2頁左下欄5行?14行)

1e「作用
かかる第1の手段によれば,そのような数値にカビ付け室内を制御することにより,魚類節にカビを付けるのに最適な条件を作り出すことができる。この第1の手段に第2の手段の装置を使用する。この第2の手段はカビ付け室には保温材が設けられているため,室外の温度の影響が少ない。そして,このカビ付け室内の温度は,温度制御手段,湿度は湿度制御手段によりそれぞれ制御されると共に,風速制御手段によりカビ付け室内の空気が循環されることから,室内全体に渡って均一に温度,湿度制御がなされる。この場合,風速が速すぎるとカビが付き難いため,カビが付く範囲内で温度,湿度ムラが発生しないように風速を調整する。
このようにして,温度,湿度,風速等を所定の値に制御することにより,カビ付け室内を常に一定の環境条件に設定することができるため,従来のように環境条件にバラ付くことがないことから,短期間でカビ付けを行うことができる。従って,魚類節の生産性が向上すると共に,魚類節表面全体に均一に有用カビを発生させることができ,反対に,有害カビ等の発生を抑制できる。
一方,一定期間毎に温度制御手段によりカビ付け室内を高温とすることにより,害虫発生予防又は駆除作業を行うことができるため,従来のように日常監視や干乾作業等が必要なく,作業性も向上する。」(2頁右下欄3行?3頁左上欄10行)

2 刊行物2に記載された事項

この出願前に頒布された刊行物である刊行物2には,以下の事項が記載されている。

2a「ダニの生息場所に炭酸ガスを噴散し,該生息場所の炭酸ガス濃度を実質的に0.3%以上に保持せしめて内部に潜伏するダニを生息場所外表面に誘出したるうえ,少なくとも摂氏50℃以上に加熱された熱媒体若しくは摂氏-5℃以下に冷却された冷却媒体を噴射し,以ってダニを熱死若しくは凍死させることを特徴とするダニの駆除方法」(特許請求の範囲)

2b「また同様に4種のダニをそれぞれ30匹づつを蓋付シャレー内に放ち,摂氏5℃?-20℃のそれぞれの温度に保持された液状炭酸ガスを圧力3.5Kg/cm2で2秒間噴射し,60分間常温下に放置後シャレー内のダニの生存数を判読した結果を第三表に示す。
第 三 表
種類\温度 常温 5℃ 0℃ -5℃ -10℃ -15℃ -20℃
イエダニ 30 29 22 3 0 0 0
トリサシダニ 30 30 27 4 1 1 0
シラミダニ 30 27 19 1 0 0 0
コナダニ 30 24 22 2 1 0 0

第二表及び第三表から明らかな如く高温域においては摂氏50℃を超えると著るしい熱死効果が発揮され,また低温域でも摂氏-5℃を超える程度で著るしい凍死効果が発揮されることから,少なくとも熱媒体は摂氏50℃以上の温度が必要であり,また冷却媒体は摂氏-5℃以下に冷却したる状態で使用することが重要である。」(3頁右下欄第二表下1行?4頁左上欄7行)

2c「・・駆除に際しては少なくとも摂氏50℃以上に加熱された熱媒体を噴射して熱死させ,或いは摂氏-5℃以下に冷却された冷却媒体を噴射し凍死させるものであり且該熱媒体若しくは冷却媒体を僅か2秒間程度噴射するのみで略完全に熱死若しくは凍死させることができるため,駆除作業が極めて能率的になしえ而も仮令多量な噴射がなされた場合でも人体には全く無害安全であり,更には熱媒体や冷却媒体も安価且容易に入手使用できるものであるから駆除も極めて安価になしえることとなる。更に本発明においては熱媒体による熱死或いは冷却媒体で凍死させて駆除するものであるから,世代交替の速いダニにおいても長期に亘って駆除手段として使用できる等極めて利点の多いダニの駆除方法といえる」(4頁左下欄2?17行)

3 刊行物3に記載された事項

この出願前に頒布された刊行物である刊行物3には,以下の事項が記載されている。

3a「ダニ類の低温に対する生存能力を調べた結果,個体差はあるが,-22.5℃?ー29.3℃の範囲に体液の過冷却点があることが明らかになった。過冷却点では虫の体液が凍結し,同時に体温の僅かな上昇が見られることが知られている。虫は過冷却点まで冷却されれば確実に死亡するが,更に実験を重ねた結果,ダニ類は空気中でも過冷却点に至る前の比較的高い温度(-10℃)で死亡率が100%になることが明らかになった。」(7頁左上欄8?16行)

第5 当審の判断

1 刊行物1に記載された発明

刊行物1は,「魚類節のカビ付け方法」(摘示1a)に関し記載するものである。魚類節は,そもそも「魚を三枚におろして湯を通し,骨抜きした後薫乾して,これにカビ付けをして製造している」(摘示1b)ものであり,この魚類節を製造する方法において,「カビ付け工程中には,ダニの一種であるコムシ等の害虫がしばしば発生するため,害虫予防又は駆除のため」(摘示1c),従来「薬品処理および日干しを行ってい」(摘示1c)たが,該従来の方法では,摘示1c記載の種々の問題点があることから,「かかる従来の問題点を解決するため」(摘示1d),「魚類節をカビ付け室に一定期間収容することにより,該魚類節に良質なカビを付ける方法において,前記カビ付け室を,温度が28℃程度,湿度が85%程度,風速が約0.04m/s以下に制御して前記魚類節にカビ付けを行うと共に,適当な時期に前記カビ付け室内に熱風を循環させて害虫の発生予防又は駆除を行うようにしたことを特徴とする魚類節のカビ付け方法」(摘示1a,1d)としたことが記載されている。
ここでの,「魚類節のカビ付け方法」は,上記魚類節を製造する方法における「カビ付けをして」(摘示1b)の工程すなわち「カビ付け工程中」(摘示1c)の方法である。

したがって,刊行物1には,

「魚を三枚におろして湯を通し,骨抜きした後薫乾して,これにカビ付けをして魚類節を製造する方法における魚類節のカビ付け方法であって,魚類節をカビ付け室に一定期間収容することにより,該魚類節に良質なカビを付ける方法において,前記カビ付け室を,温度が28℃程度,湿度が85%程度,風速が約0.04m/s以下に制御して前記魚類節にカビ付けを行うと共に,適当な時期に前記カビ付け室内に熱風を循環させてダニの一種であるコムシ等の害虫の発生予防又は駆除を行うようにした上記魚類節のカビ付け方法」

の発明(以下,「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

2 本願発明と引用発明1との対比

本願発明と引用発明1とを対比する。

本願発明の「原料肉を常法により調理し」に関し,本願明細書中に「常法により調理」の具体的な説明は何らなされておらず,本願明細書中の実施例3?5においても,「常法により製造された・・かつお節」(段落【0023】,【0024】,【0025】)と記載されているのみである。
そこで,本願出願当時の周知技術に基づき,魚類節の常法の製造方法における,煮熟する前の,原料肉を調理する方法を検討すると,「従来,魚肉を焙乾して,魚節などを製造する場合には,例えば鰹では生切り,身おろししたものを,(頭,内蔵を取り外し,血抜きし,骨抜きしたもの)そのまゝ成形器に投入して煮熟し,次にスモーク室で焙乾し,また,焙蒸する工程を繰返す」(特開昭53-142575号(原査定における引用文献3)1頁左下欄12?17行)の記載から,該原料肉を調理する方法は,「原料魚の魚肉を生切り,身おろし(頭,内蔵を取り外し,血抜きし,骨抜きしたもの)」することといえる。
それ故,本願発明の「原料肉を常法により調理し」は,「原料魚の魚肉を生切り,身おろし」することを意味しているといえる。
そうすると,引用発明1の「魚を三枚におろして」は,原料魚の魚肉を三枚に身おろしすることを意味しているから,引用発明1の「魚を三枚におろして」は,本願発明の「原料肉を常法により調理し」に相当する。

引用発明1の「湯を通し」は,原料魚を三枚に身おろしたものを,湯に通すことであり,上記周知技術の「身おろししたものを・・そのまゝ成形器に投入して煮熟し」に他ならず,湯に通して煮熟することといえるから,本願発明の「煮熟し」に相当する。

引用発明1の「薫乾して」は,本願発明の「くん乾し」に相当する。

引用発明1の「これにカビ付けをして魚類節を製造する方法」は,上記薫乾したものにカビ付けをして魚類節を製造する方法であり,魚類節はカビ付け節であることから,本願発明の「カビ付けしてカビ付け節を製造する方法」に相当する。

引用発明1の「魚類節をカビ付け室に一定期間収容することにより,該魚類節に良質なカビを付ける方法において」は,カビ付け工程中の方法といえ,さらに引用発明1の「前記カビ付け室を,温度が28℃程度,湿度が85%程度,風速が約0.04m/s以下に制御して前記魚類節にカビ付けを行う」は,刊行物1の「温度,湿度,風速等を所定の値に制御することにより,カビ付け室内を常に一定の環境条件に設定することができるため,従来のように環境条件にバラ付くことがないことから,短期間でカビ付けを行うことができる」(摘示1e)との記載を勘案すると,カビ付け工程中の具体的な方法として,カビ付け室の環境条件を常に一定に保つよう設定して魚類節に良質なカビを付けることといえ,カビ付け工程中の方法であることに変わりはないから,本願発明の「カビ付け工程中に」に相当する。

引用発明1の「ダニの一種であるコムシ等の害虫の発生予防又は駆除を行う」は,カビ付け工程中に発生する,ダニ等の害虫の発生予防又は駆除を行うことといえ,カビ付け工程中における,ダニ等の発生を防止するための処理を行うことといえるから,本願発明の「カビ付け工程中に」「ダニの発生を防止するための」「処理を施す」ことに相当する。

したがって,両者は,

「原料肉を常法により調理し,煮熟し,くん乾し,カビ付けしてカビ付け節を製造する方法において,カビ付け工程中に,ダニの発生を防止するための処理を施すカビ付け節の製造方法。」

である点で一致し,以下の点で相違する。

「ダニの発生を防止するための処理」が,
本願発明は,カビ付け工程中に少なくとも一回以上0℃以下の温度で冷凍処理することに加え,カビ付け工程で使用する種カビとして,少なくとも一回以上0℃以下の温度で冷凍処理したものを使用する,のに対し,
引用発明1は,適当な時期に前記カビ付け室内に熱風を循環させること
である点(以下,「相違点」という。)

3 判断

(1)相違点について

引用発明1は,「ダニの一種であるコムシ等の害虫がしばしば発生するため,害虫予防又は駆除のため」(摘示1c),魚類節を製造する方法において「カビ付け工程中に」(摘示1c)「害虫の発生予防又は駆除を行うようにしたことを特徴とする魚類節のカビ付け方法」(摘示1a)の発明である。ここで,発生予防又は駆除の対象となる害虫は,「ダニの一種であるコムシ等」(摘示1c)であり,ダニ類といえる。

そこで,ダニ類の発生予防又は駆除方法について検討すると,刊行物2には,「高温域においては摂氏50℃を超えると著るしい熱死効果が発揮され,また低温域でも摂氏-5℃を超える程度で著るしい凍死効果が発揮される」(摘示2b),及び,「・・4種のダニを・・摂氏5℃?-20℃のそれぞれの温度に保持された液状炭酸ガスを圧力3.5Kg/cm2で2秒間噴射し,60分間常温下に放置後シャレー内のダニの生存数を判読した結果を第三表に示す。・・(中略)・・第三表から明らかな如く・・摂氏-5℃を超える程度で著るしい凍死効果が発揮される」(摘示2b)(下線は合議体が付与。以下同様。)と記載されている。
それ故,刊行物2の上記記載から,コナダニを含むダニ類は,摂氏50℃を超える高温又は摂氏-5℃を超える冷凍温度で,熱死又は凍死させて駆除可能といえ,高温処理又は冷凍処理はダニ類の発生予防又は駆除方法として有効であることが判る。

また,刊行物3には,「ダニ類の低温に対する生存能力を調べた結果・・ー22.5℃?ー29.3℃の範囲に体液の過冷却点があることが明らかになった。・・虫は過冷却点まで冷却されれば確実に死亡するが,更に実験を重ねた結果,ダニ類は空気中でも過冷却点に至る前の比較的高い温度(-10℃)で死亡率が100%になることが明らかになった」(摘示3a)と記載されており,-10℃やー22.5℃?ー29.3℃は,通常,冷凍温度といえるから,ダニ類は冷凍温度である-10℃以下で100%死亡することが記載されているといえる。
それ故,刊行物3の上記記載からも,ダニ類は,摂氏-10℃以下の冷凍温度で駆除可能といえ,冷凍処理はダニ類の発生予防又は駆除方法として有効であることが判る。

そうすると,引用発明1と,刊行物2及び3記載の事項とは,ダニ類の発生予防又は駆除するための処理の点で共通し,且つ,刊行物2及び3より,ダニ類の高温処理又は冷凍処理はダニ類の発生予防又は駆除方法として共に有効であることが判ることから,引用発明1において,ダニ類の発生予防又は駆除するための処理として,ダニ類の有効な処理の一つの高温処理である,引用発明1の「適当な時期に前記カビ付け室内に熱風を循環させる」処理に代えて,刊行物2及び3に記載の,もう一方のダニ類の有効な処理である,カビ付け工程中に冷凍処理を適用することは,当業者が容易になし得たことである。

そして,引用発明1において,カビ付け工程中におけるダニ類の発生を防止するための処理として,カビ付け工程中を冷凍処理するのみならず,それに加え,カビ付け工程で使用する種カビ自体もダニ類が付着していないものを使用しようとして,カビ付け工程で使用する種カビを少なくとも一回以上0℃以下の温度で冷凍処理したものを使用しようとすることは,当業者が容易に想到し得たことであり,またそれにより奏される効果についても,格別顕著なものともいえない。

(2)本願発明の効果について

本願発明は,本願明細書に記載されるように,「食品である節のカビ付け節や種カビを,食品に有害な殺虫剤や,食品を変質させる物理変化を与えることなく,節や表面に発生したカビに対して全く影響を与えることなく,安全かつ選択的にダニ類のみを防除することができるという効果が得られる。更に,これによって,製造中のカビ付け節に発生したダニが選択的に防除できるだけでなく,長期間のカビ付け節の製造が安定的に実施できるようになる」(段落【0027】)という効果を奏するものである。

これに対して,本願発明の,食品に有害な殺虫剤や食品を変質させる物理変化を与えることなく選択的にダニ類のみを防除できる効果は,刊行物2及び3の記載事項より,ダニ類はー5℃以下又は-10℃以下に冷凍処理すると確実に凍死し,ダニ類を選択的に発生予防又は駆除できることが判ることから,ダニ類を冷凍処理し凍死させる方法は,有害な殺虫剤の使用や物理変化を与えることをするものではないことは明らかである。
また,本願発明の,節や表面に発生したカビに対して全く影響を与えることなく選択的にダニ類のみを防除できる効果については,そもそも,引用発明1の魚類節を製造する方法は,カビ付け工程中に,ダニ類の予防又は駆除のため,カビ付け室内の温度,湿度,風速を制御しつつ‘熱風’を循環させる方法で,ダニ類を熱風にて熱死させ駆除する方法であり,この方法では,魚類節のカビ付け工程で,節や表面に発生したカビに対して全く影響を与えることなく選択的にダニ類のみを防除できているといえる。他方,刊行物2には,ダニ類の駆除方法として熱死又は凍死させることが挙げられている。そうすると,引用発明1において,ダニ類を熱風による熱死させることに代えて,刊行物2記載の凍死させる処理を適用しても,ダニ類の熱風による熱死させる場合と同様,節や表面に発生したカビに対して全く影響を与えることなく,選択的にダニ類のみを防除することができると推察される。
さらに,刊行物2には,「駆除作業が・・人体には全く無害安全であり」(摘示2c)と記載されていることから,ダニ類を冷凍処理し凍死させる方法は,安全にダニ類を防御することができるといえる。
以上のことから,本願発明の効果の一つである,食品に有害な殺虫剤や,食品を変質させる物理変化を与えることなく,節や表面に発生したカビに対して全く影響を与えることなく,安全かつ選択的にダニ類のみを防除することができるという効果は,引用発明1の,カビ付け工程中にダニ等の発生を防止するための処理として,刊行物2に記載された,ダニ類の発生予防又は駆除方法として有効である,冷凍処理を採用することにより奏されるものであり,当業者の予測を超えるものとはいえない。

さらに,この本願発明のもう一つの効果である,長期間のカビ付け節の製造が安定的に実施できるようになるという効果についても,刊行物2には「更に・・世代交替の速いダニにおいても長期に亘って駆除手段として使用できる」(摘示2c)と記載されており,この「長期に亘って駆除手段として使用できる」ということは,長期間に亘って安定的に駆除手段として実施できることであるから,本願発明の上記効果も,引用発明1のカビ付け工程中にダニ等の発生を防止するための処理として,刊行物2に記載された,ダニ類のダニ類の発生予防又は駆除方法として有効である冷凍処理を採用することにより奏される効果に過ぎず,格別顕著な効果であるとはいえない。

4 請求人の主張について

請求人は,平成23年4月25日付け意見書において,「拒絶の理由1を解消するため,請求項1ないし3,6,7を削除し,請求項4を請求項1とすると共にカビ付け工程中に少なくとも一回以上0℃以下の温度で冷凍処理するという構成要件を付加して実施例との整合性をとりました。・・・本願を特許査定されるようお願い申し上げます」と主張する。

しかし,平成20年8月14日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項4に,カビ付け工程中に少なくとも一回以上0℃以下の温度で冷凍処理するという構成要件を付加した発明,すなわち,本願発明は,正に,該補正書の請求項6に係る発明に他ならず,該発明については,平成23年2月18日付け拒絶理由通知の「第3 1(特に,(1),(2),(3)(3-1)及び(3-4))」で述べたとおり,すなわち,当該審決の上記「第5 1ないし3」で述べたとおりであり,本願発明は,この出願の出願前に頒布された刊行物1ないし3に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,請求人の上記主張を採用することはできない。

第6 むすび

以上のとおり,本願発明は,この出願の出願前に頒布された刊行物1ないし3に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができないものであるので,その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく,この出願は,拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-05-26 
結審通知日 2011-06-01 
審決日 2011-06-15 
出願番号 特願2002-260133(P2002-260133)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A23L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 冨士 良宏  
特許庁審判長 中田 とし子
特許庁審判官 齊藤 真由美
東 裕子
発明の名称 カビ付け節の製造方法及び装置  
代理人 浜野 孝雄  
代理人 平井 輝一  

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