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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01G
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01G
管理番号 1240983
審判番号 不服2008-13805  
総通号数 141 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-09-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-06-02 
確定日 2011-08-04 
事件の表示 特願2002-278240「コンデンサ用セパレータ」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 4月15日出願公開,特開2004-119528〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成14年9月24日の出願であって,平成19年9月28日付けの拒絶理由通知に対して,同年12月3日に手続補正書及び意見書が提出されたが,平成20年4月23日付けで拒絶査定がされ,これに対し,同年6月2日に審判請求がされるとともに,同年7月1日に手続補正書が提出されたものである。


第2 平成20年7月1日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
本件補正は,特許請求の範囲と発明の詳細な説明を補正するものであり,特許請求の範囲については,以下のとおりである。

(1)請求項1について
補正前に,
「ポリオレフィン系樹脂と無機粉体と可塑剤を混合し加熱溶融・混練しながらシート成形し前記可塑剤を除去してなる,前記ポリオレフィン系樹脂20?47質量%と,前記無機粉体80?53質量%とで構成された水銀圧入法による平均細孔径が1μm以下の無機質含有多孔質セパレータであって,前記無機粉体が,比表面積100m^(2)/g以上,水分率3.5質量%以下の無機粉体であることを特徴とするコンデンサ用セパレータ。」
とあるのを,補正後に,
「コンデンサ組立時に水分除去を必要とする有機系電解液を使用したコンデンサに用いられる,ポリオレフィン系樹脂と無機粉体と可塑剤を混合し加熱溶融・混練しながらシート成形し前記可塑剤を除去してなる,前記ポリオレフィン系樹脂と前記無機粉体とで構成された水銀圧入法による平均細孔径が1μm以下の無機質含有多孔質セパレータであって,前記コンデンサ組立時における前記セパレータの水分除去性を向上させるため(前記セパレータからの水分除去時間を短くするため)に前記無機粉体の水分率を3.5質量%以下の範囲とした上で,前記セパレータの電解液保持性を向上させるために前記無機粉体の比表面積を100m^(2)/g以上とし前記無機粉体の含有量を53?80質量%とする(前記ポリオレフィン系樹脂の含有量を47?20質量%とする)ことで,前記セパレータの電解液保持性と水分除去性を向上させたことを特徴とするコンデンサ用セパレータ。」
とする補正。

(2)請求項2について
補正後の請求項1を引用していることに伴う補正。

(3)請求項3について
補正後の請求項1及び2を引用していることに伴う補正,並びに補正前の「有機系電解液を使用した電気二重層コンデンサ用セパレータ」との記載を,「電気二重層コンデンサ用セパレータ」とする補正。

2 補正目的の適否
(1)請求項1について
請求項1の補正は,補正前の請求項1に対して,「コンデンサ組立時に水分除去を必要とする有機系電解液を使用したコンデンサに用いられる」,「前記コンデンサ組立時における前記セパレータの水分除去性を向上させるため(前記セパレータからの水分除去時間を短くするため)に」,「前記セパレータの電解液保持性を向上させるために」,「前記セパレータの電解液保持性と水分除去性を向上させた」との技術的限定を加えるものであるから,特許請求の範囲の限定的減縮を目的とする補正に該当する。

(2)請求項2について
補正後の請求項1を引用していることに伴う補正であるから,当然に,特許請求の範囲の限定的減縮を目的とする補正に該当する。

(3)請求項3について
請求項3は,請求項1及び2を引用していることに伴う補正と,補正後の請求項1に「コンデンサ組立時に水分除去を必要とする有機系電解液を使用したコンデンサに用いられる」との限定が加わることによる不整合を解消するために,補正前の請求項3の「有機系電解液を使用した電気二重層コンデンサ用セパレータ」の「有機系電解液を使用した」との記載を削除し,補正後の「電気二重層コンデンサ用セパレータ」とする補正と理解することができるから,特許請求の範囲の限定的減縮及び明りょうでない記載の釈明を目的とする補正に該当する。

したがって,特許請求の範囲についての本件補正は,平成18年法律55号改正附則3条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第4項2号及び4号に規定する要件を満たす。

以上のとおり,本件補正は,特許請求の範囲の限定的減縮を目的とする補正内容を含むものであるから,本件補正後の特許請求の範囲に記載された発明が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものか(平成18年法律第55号改正附則3条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第5項において準用する同法126条5項に規定する独立特許要件を満たすか)どうかについて,以下に検討する。

3 独立特許要件についての検討
(1)本願補正発明
本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)は,次のとおりである。

【請求項1】
「コンデンサ組立時に水分除去を必要とする有機系電解液を使用したコンデンサに用いられる,ポリオレフィン系樹脂と無機粉体と可塑剤を混合し加熱溶融・混練しながらシート成形し前記可塑剤を除去してなる,前記ポリオレフィン系樹脂と前記無機粉体とで構成された水銀圧入法による平均細孔径が1μm以下の無機質含有多孔質セパレータであって,前記コンデンサ組立時における前記セパレータの水分除去性を向上させるため(前記セパレータからの水分除去時間を短くするため)に前記無機粉体の水分率を3.5質量%以下の範囲とした上で,前記セパレータの電解液保持性を向上させるために前記無機粉体の比表面積を100m^(2)/g以上とし前記無機粉体の含有量を53?80質量%とする(前記ポリオレフィン系樹脂の含有量を47?20質量%とする)ことで,前記セパレータの電解液保持性と水分除去性を向上させたことを特徴とするコンデンサ用セパレータ。」

(2)引用例の表示
引用例1:特開平3-278512号公報
引用例2:特開2001-93498号公報
引用例3:特開2001-196267号公報
引用例4:特開平1-186752号公報
引用例5:特開平1-223136号公報

(3)引用例1の記載内容と引用発明
(3-1)引用例1の記載
原査定の拒絶の理由に引用された,本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である,特開平3-278512号公報(以下「引用例1」という。)には,「電気二重層コンデンサ」(発明の名称)に関して,第1図?第4図とともに,次の記載がある(下線は当審で付加したもの。以下同じ。)。
ア 発明の背景等
・「[産業上の利用分野]
この発明は,電気二重層コンデンサ,特に,電気二重層コンデンサにおいて使用されるセパレータに関するものである。」(1頁右下欄13?16行)
・「上述したセパレータ材料,さらにはその前に述べたいくつかのセパレータ材料は,モデル的に見ると,いずれもフィルム面に垂直に微孔が貫通しているものであり,このような孔形状では炭素微粒子が侵入しやすいと考えられる。
そこで,微孔がフィルム内部を蛇行しながら貫通している構造のセパレータ材料について検討した。このような材料をセパレータとした電気二重層コンデンサが,特開昭62-205614号公報に記載されている。
このセパレータは,ポリオレフィン系樹脂を基材として無機物を添加した多孔性のものであり,自己放電特性を改善できるとしている。
しかしながら,この公報には,多孔性とする具体的な方法については明らかにされておらず,採り得る方法としては,無機物を樹脂に混合した後,無機物を溶解するなどの方法が考えられるが,無機物の溶解分が次第に自己放電特性を劣化させるという問題を含んでいる。
したがって,セパレータに要求される特性を十分に満足できるまでには至らず,また,微孔の形状に改善の余地が見られた。また,この材料は,製法が複雑であるため,非常に高価となり,実用的観点から容認できるものではなかった。
それゆえに,この発明の目的は,電気二重層コンデンサに使用したときの自己放電および漏れ電流が極めて少ない,セパレータ材料を提供しようとすることである。」(3頁右上欄2行?同頁左下欄9行)

イ 課題を解決するための手段
・「[課題を解決するための手段]
この発明によれば,簡単に言えば,微孔が蛇行しながら貫通し,その孔形状が改善されたセパレータ材料が提供される。
すなわち,この発明は,電解液を含浸したセパレータと,これを介して相対する1対の分極性電極とを備える,電気二重層コンデンサに向けられるものであって,上述した技術的課題を解決するため,前記セパレータは,ポリオレフィン樹脂と無機微粉体とを含む混合物を成形および延伸することにより得られたフィルムから構成される。このフィルムには,層状に多孔化した状態を与える空隙が相互に連通した状態で形成される。これら空隙の内部では,前記ポリオレフィン樹脂が糸状に伸ばされた糸状体によって前記無機微粉体が支えられている。
この発明の他の局面では,セパレータとして,ポリオレフィン樹脂と無機微粉体とを含む混合物をフィルム状に成形し,これを一軸または二軸延伸することにより得られた微孔性フィルムが用いられる。
好ましくは,上述したようなフィルムにおいて,ポリオレフィン樹脂が40?80wt%,無機微粉体が60?20wt%含有される。
また,ポリオレフィン樹脂としては,たとえば,ポリプロピレン樹脂が用いられ,また,無機微粉体としては,硅藻土が用いられる。」(3頁左下欄10行?同頁右下欄16行)

ウ 発明の作用および効果
・「[発明の作用および効果]
この発明に係る電気二重層コンデンサに用いられるセパレータを構成する微孔性フィルムは,ポリオレフィン樹脂と無機微粉体とを含む混合物を成形および延伸することにより得られたものであるので,微孔すなわち空隙は,無機微粉体が存在していた場所,すなわち無機微粉体とポリオレフィン樹脂との界面であった部分に形成される。したがって,相互に連通した空隙は,フィルム全体で見たとき,フィルム内部で蛇行した微孔を与えることができる。そのため,セパレータを貫通する電子伝導経路の形成が困難になる。
また,フィルムの空隙の内部では,ポリオレフィン樹脂が糸状に伸ばされた糸状体によって,無機微粉体が宙に浮いた状態で支えられているので,空隙の実効径は,非常に小さくなる。したがって,分極性電極から離脱した炭素微粒子がセパレータの微孔内へ侵入することを効果的に阻止することができる。
このようなことから,上述のようなセパレータを用いた電気二重層コンデンサによれば,自己放電および漏れ電流を大幅に少なくすることが可能である。」(3頁右下欄17行?4頁左上欄19行)

エ 実施例
・「この発明は,第4図に示したような電気二重層コンデンサを構成するセル1に含まれるセパレータ3の構成に特徴を有している。すなわち,ポリオレフィン樹脂中に無機微粉体を混合し,フィルム状に成形した後,延伸することにより得られる微孔性樹脂フィルムを,電気二重層コンデンサ用のセパレータとして用いる。
より具体的には,まず,ポリオレフィン樹脂と無機微粉体とからなる配合物を溶融混合した後,この混合物を,インフレーション成形法またはTダイ押出し成形法などにより,フィルム状に成形する。次に,フィルム状成形物を,樹脂の融点以下の軟化温度に加熱した状態で,一軸または二軸延伸することによって,微孔性樹脂フィルムが得られる。
上述の方法で得られた微孔性樹脂フィルムの電子顕微鏡写真が,第1図に示されている。また,第2図は,第1図の説明図である。第3図は,フィルムの断面を示した説明図である。
これら第1図,第2図および第3図に示すように,微孔性樹脂フィルム10には,無機微粉体11とマトリックス樹脂12との間に空隙13が形成されており,これら空隙13が,フィルム10内部で相互に連通した状態とされている。空隙13は,第3図において特によく示されているように,フィルム10に対して層状に多孔化した状態を与えている。その結果,フィルム10全体としては,空隙13によって,微孔が蛇行しながら貫通した構造が与えられる。
また,空隙13の内部では,マトリックス樹脂12から派生した樹脂であって,これが糸状に伸ばされることによって形成された糸状体14を観察することができる。無機微粉体11は,空隙13の内部において,このような糸状体14によって宙に浮いた状態で支えられている。
上述した空隙13すなわち微孔は,延伸によって形成される。・・・」(4頁右上欄1行?同頁左下欄17行)
・「この発明による微孔性樹脂フィルムにおいてマトリックスとなる樹脂としては,ポリプロピレン,ポリエチレンなどのポリオレフィン系の樹脂が優れており,また,必要に応じて,無機微粉体との配合物中に,可塑剤,安定剤,成形助剤などを加えてもよい。・・・」(4頁右下欄18行?5頁左上欄3行)
・「また,この発明に係る微孔性樹脂フィルムにおいて,ポリオレフィン樹脂に混合される無機微粉体としては,たとえば,硅藻土,シリカ,アルミナ,ゼオライト,ガラスマイクロバルーン,タルク,硫酸バリウムなどを用いることができる。その粒径は,0.05?10ミクロン,特に1?3ミクロン程度が好ましい。」(5頁左上欄9?15行)
・「この発明に係る微孔性樹脂フィルムの多孔度は,主に無機微粉体の含有量と延伸率とによって調整することができる。無機微粉体の含有量が大きくなると,多孔度が増大するが,60wt%を超えると,フィルムの成形性が低下し,フィルム製造の作業性が大幅に悪くなる。他方,20wt%未満では,実用レベルの多孔度を得ることが困難となる。したがって,無機微粉体の含有量を20?60wt%の範囲内に設定することにより,実用上,良好な微孔性樹脂フィルムを得ることができる。また,延伸率を大きくすることによっても,多孔度を増大させることができる。面積延伸率で最大15倍程度まで可能であるが,フィルムの均一性および安定性などを考慮すると,3?6倍に設定するのが妥当である。」(5頁右上欄6?20行)

(3-2)引用発明
上記ア?エによれば,引用例1には,次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

・「ポリオレフィン樹脂と無機微粉体とからなる配合物中に可塑剤を加え溶融混合した後,この混合物を,インフレーション成形法またはTダイ押出し成形法などにより,フィルム状に成形し,次に,フィルム状成形物を,樹脂の融点以下の軟化温度に加熱した状態で,延伸することによって得られた微孔性樹脂フィルムからなるセパレータであって,ポリオレフィン樹脂が40?80wt%,無機微粉体が60?20wt%含有されていることを特徴とするコンデンサに用いられるセパレータ。」

(4)引用例2?5の記載内容
(4-1)引用例2の記載内容
原査定の拒絶の理由に引用された,本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である,特開2001-93498号公報(以下「引用例2」という。)には,「非水電解液電池用セパレータ」(発明の名称)に関して,次の記載がある。
ア 発明の背景等
・「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,各種電子機器等の電源として利用されるリチウムイオン二次電池等の非水電解液電池用セパレータに関するものである。」
・「【0003】リチウムイオン二次電池の使用電圧は,通常,4.1から4.2Vを上限として設計されている。このような高い電圧では,水溶液は電気分解を起こすので電解液として使うことができない。そのため,高い電圧でも耐えられる電解液として,有機溶媒を使用したいわゆる非水電解液が用いられている。・・・」
・「【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら,前記したようにリチウムイオン二次電池は,電解液の中に6フッ化リン酸リチウム等のフッ素等を含んだ反応性の高い電解質を使用しているため,電池内に水分が介在すると,電解質と反応してフッ化水素が発生し,有機電解液や極板を劣化させるため電池容量が低下する問題がある。そこで,電池の製造・組立行程での作業条件,放置・保管において最新の注意を払って水分の管理を行っている。特開平10-50287号に開示されているポリオレフィン系樹脂と無機粉体とで構成されたセパレータは,付着水分が多かったり,構造中に結合水を含有するために平衡水分が5%以上という水分の多い無機粉体が含まれていたため,乾燥処理で水分を抜くことが難しく,電池使用中に電池容量が低下するという問題があった。また,特願平11-10182号に記載されている平衡水分が4%未満の無機粉体でも,湿度の高い雰囲気中に放置された場合,表面に水分が付着してしまう問題があった。
【0006】本発明は,セパレータ中の介在水分を少なくし,電池容量の低下が少なく,耐熱性にも優れた非水電解液電池用セパレータを提供することを目的とする。」

イ 課題を解決するための手段
・「【0007】
【課題を解決するための手段】本発明の非水電解液電池用セパレータは,請求項1に記載の通り,ポリオレフィン系樹脂20?80wt%と無機粉体80?20wt%とで構成される無機質含有多孔膜において,使用する無機粉体が,その表面が疎水性であり,平衡水分が0.5%以下であることを特徴とする。また,請求項2記載の非水電解液電池用セパレータは,請求項1記載の非水電解液電池用セパレータにおいて,上記無機粉体がクロロシランまたはシラザンで表面を疎水化した無水ケイ酸であることを特徴とする。」

ウ 発明の実施の形態
・「【0010】前記のように無機質含有多孔膜を構成する無機粉体が特願平11-10182号に記載されている平衡水分が4%未満の無機粉体でも,湿度の高い雰囲気中に放置された場合,表面に水分が付着してしまい,電池容量が3%以上低下する問題があった。本発明者らがその後に検討を行った結果,表面を疎水化し,平衡水分を0.5%以下とした無機粉体を用いれば電池容量の低下を招かないことが判明した。
【0011】表面が疎水性であり,平衡水分が0.5%以下である無機粉体としては,無水ケイ酸,酸化チタン,酸化アルミニウム,チタン酸カリウム,酸化マグネシウム,酸化硼素,雲母等の表面をクロロシランやシラザンなどで疎水化したものが使用できる。その使用方法としては,通常は単独で使用するが,二種以上のものを混合して使用することもできる。また,無機粉体は一次粒子径が0.001?1μm程度のものの使用が好ましい。」
・「【0014】次に,本発明非水電解液電池用セパレータの製造方法について詳述する。ポリオレフィン系樹脂として,例えば,ポリエチレン樹脂粉体,または,ポリプロピレン樹脂粉体の単独,あるいは,混合物の20?80wt%と無機粉体80?20wt%及び可塑剤の適量をレーディゲミキサで混合する。次いで,この混合物を押出機で加熱溶融・混練しながらシート状の成形を行う。シートの厚さはシート成形条件を変更したり,延伸・圧延等の二次加工によって自由に調整できるものである。その後,可塑剤を有機溶媒で抽出除去し,乾燥することで本発明の非水電解液電池用セパレータが得られる。なお,可塑剤としては,パラフィン系,ナフテン系等の工業用潤滑油,あるいは,フタル酸ジオクチル等の樹脂用可塑剤が使用できる。」

エ 実施例
・「【0015】
【実施例】次に,本発明の実施例を説明する。
(実施例1)表面をクロロシランで疎水化した平衡水分0.4%の疎水性ケイ酸(1)無機粉体30wt%と,重量平均分子量200万の高密度ポリエチレン樹脂粉体15wt%に鉱物オイル55wt%を混合し,二軸押出機で加熱溶融・混練しながら0.2mmの無機多孔質シートを得た。その後,120℃に加熱した状態で一軸方向に6倍延伸し,鉱物オイルを抽出し,ポリエチレン樹脂55wt%と無機粉体45wt%とで構成される厚さ40μmの多孔質膜セパレータを作成した。
【0016】次に,このようにして得られたセパレータを温度25℃,湿度RH80%に24時間放置した後,正極材にマンガン酸リチウム,負極材に非晶質炭素材,電解液は有機炭酸エステル,支持電解質として6フッ化リン酸リチウムを使用した電池に組み込み,電池の放電容量と耐熱性を測定した。その結果,表1に示すように放電容量,耐熱性とも良好な結果が得られた。」
・「【0021】(比較例1)平衡水分が2.0%の無水ケイ酸(1)無機粉体24wt%と,重量平均分子量200万の高密度ポリエチレン樹脂粉体20wt%に鉱物オイル56wt%を混合し,二軸押出機で加熱溶融・混練しながら0.2mmの無機多孔質シートを得た。その後,一軸方向に6倍延伸し,鉱物オイルを抽出し,ポリエチレン樹脂55wt%と無機粉体45wt%とで構成される厚さ40μmの多孔質膜セパレータを作成した。得られたセパレータを温度25℃,湿度RH80%に24時間放置した後,実施例1と同様の試験を行った。その結果,表1に示すように電池の放電容量が低下することが分かった。尚,耐熱性については良好な結果が得られた。」
・「【0027】表1から,本発明の無機質含有多孔膜を構成する無機粉体として,表面が疎水性であり,平衡水分が0.5%以下である無機粉体を使用したセパレータは,湿度の高い雰囲気に放置しても電池の放電容量,耐熱性に優れていることが分かる。」

オ 発明の効果
・「【0028】
【発明の効果】本発明の非水電解液電池用セパレータは,無機粉体を含有させることで耐熱性の優れたセパレータに構成され,セパレータを使用した電池は,外部加熱,あるいは,外部ショートによる発熱があっても,セパレータ中の無機粉体による正負極間の絶縁性をより高温まで維持できるため,耐熱性の優れた電池が得られる。また,表面を疎水化した平衡水分が0.5%以下の無機粉体を使用しているため,セパレータが湿度の高い雰囲気で放置されても電池容量が低下しにくく,電解液の中に6フッ化リン酸リチウム等のフッ素等を含んだ反応性の高い電解質を使用していても,有機電解液や極板の劣化がないことから,前記耐熱性に優れるばかりでなく容量低下の少ない電池が得られる。」

(4-2)引用例3の記載内容
原査定の拒絶の理由に引用された,本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である,特開2001-196267号公報(以下「引用例3」という。)には,「電気二重層キャパシタ」(発明の名称)に関して,次の記載がある。
ア 発明の背景等
・「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,高出力,高エネルギ密度で,電圧保持性に優れる非水系電気二重層キャパシタに関する。」

イ 発明の実施の形態
・「【0034】本発明の電気二重層キャパシタは非水系電解液を有するので,漏れ電流を低減し,高耐電圧を確保するには,電気二重層キャパシタ素子中の水分をできるだけ除去することが必要である。セパレータ中の水分は1質量%以下であることが好ましいが,例えばセルロース紙の場合は,通常3?10質量%の水分を含有している。
【0035】水分を効率よく除去するためには,セパレータを正極と負極の間に配置させる前にあらかじめ90℃以上で加熱することが好ましい。特に大容量の電気二重層キャパシタとするために,一対の長尺状の電極をセパレータを介して巻回してなる素子に電解液を含浸させて有底円筒型容器に収容してなる円筒型,又は正極と負極とをセパレータを介して複数交互に積層してなる素子に電解液を含浸させて角型容器に収容してなる角型等の構造とする場合は,電極とセパレータにより素子を形成した後では水分除去に時間がかかりやすい。
【0036】加熱温度が90℃未満であると,セパレータ中の水分の除去が不充分となり,漏れ電流の低減等の効果が少なくなる。加熱温度があまり高くなると,セパレータを構成するシート又は不織布が熱分解するので,それらの耐熱温度を考慮して加熱温度を決定する。例えばシートとしてセルロース紙を使用する場合,加熱温度が250℃を超えるとセルロース紙自体の熱分解が開始して強度が低下したり水分が発生する。加熱時間は加熱温度との関係により適宜選択されるが,通常3秒以上である。」

(4-3)引用例4の記載内容
原査定の拒絶の理由に引用された,本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である,特開平1-186752号公報(以下「引用例4」という。)には,「親水化されたポリオレフィン微孔性膜及び電池用セパレータ」(発明の名称)に関して,次の記載がある。
ア 発明の背景等
・「[産業上の利用分野]
本発明は,電解コンデンサ,電気2重層コンデンサ,Li電池バッテリー等のセパレータとして用いられる親水化されたポリオレフィン微孔性膜およびこれを用いた電池用セパレータに関するものである。」(1頁右下欄3?8行)

イ 課題を解決するための手段
・「つぎに本発明親水化された微孔性膜の平均孔径は,0.05?5μmであることが必要であり,好ましくは0.1?3μmである。
平均孔径が小さ過ぎる場合,電解液の粘度によりESRの変化率が増大し,例えば経時変化(いわゆるドライアップ)により電解液の粘度が上昇する時に著しくESRが増大するために使用上問題を生ずる。一方,平均孔径が大きすぎる場合,微細な導電物質の移動を防ぐことができず,濡れ電流の増大あるいは,ショートの発生等の問題を生ずる。」(2頁左下欄11行?同頁右下欄1行)

ウ 実施例
・7頁の第1表には,平均孔径(μm)として,実施例1が0.7μm,実施例2が0.4μm,実施例3が0.8μmと記載されている。

(4-4)引用例5の記載内容
原査定の拒絶の理由に引用された,本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である,特開平1-223136号公報(以下「引用例5」という。)には,「ポリオレフイン微孔性膜の製造方法」(発明の名称)に関して,次の記載がある。
ア 発明の背景等
・「[産業上の利用分野]
本発明は,電解コンデンサ,電気2重層コンデンサ,バッテリー等のセパレータあるいはミクロフイルターとして好適なポリオレフイン微孔性膜の製造方法に関するものである。
なお,ここでいう微孔性膜とは,少なくとも厚み方向に連続した微細孔を有するフィルム状,チユーブ状あるいは中空糸状のものを指す。」(1頁右下欄14行?2頁左上欄1行)

イ 課題を解決するための手段
・「以上の様にして得られたフィルムは,通常平均孔径が0.05?5μm,空孔率が50?85%の範囲であり,空孔の均一性の優れるばかりか,製法上,ボイド状の欠点が生じることがなく,耐ピンホール性が良好であるために,ミクロフイルター,電解コンデンサ,リチウム電池等の電解液セパレータとして有用である・・・」(5頁左上欄13?19行)

ウ 実施例
・8頁の表2には,平均孔径(μm)として,実施例1が0.3μm,実施例2が0.5μm,実施例3が0.4μm,実施例4が0.2μmと記載されている。

(5)対比
(5-1)次に,本願補正発明と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「ポリオレフィン樹脂」,「無機微粉体」,「溶融混合」,「フィルム状」,「微孔性樹脂フィルムからなるセパレータ」は,それぞれ,本願補正発明の「ポリオレフィン系樹脂」,「無機粉体」,「加熱溶融・混練」,「シート」,「無機質含有多孔質セパレータ」に相当するので,引用発明の「ポリオレフィン樹脂と無機微粉体とからなる配合物中に可塑剤を加え溶融混合した後,この混合物を,インフレーション成形法またはTダイ押出し成形法などにより,フィルム状に成形し,次に,フィルム状成形物を,樹脂の融点以下の軟化温度に加熱した状態で,延伸することによって得られた微孔性樹脂フィルムからなるセパレータ」は,本願補正発明の「ポリオレフィン系樹脂と無機粉体と可塑剤を混合し加熱溶融・混練しながらシート成形し」,「前記ポリオレフィン系樹脂と前記無機粉体とで構成された」「無機質含有多孔質セパレータ」に相当する。
イ 引用発明の「wt%」と,本願補正発明の「質量%」とは,同じ単位である。そして,引用発明の「無機微粉体が60?20wt%含有されている」との条件は,本願補正発明の「前記無機粉体の含有量を53?80質量%とする」との条件と数値範囲が重なっており,また,引用発明の「ポリオレフィン樹脂が40?80wt%」「含有されている」との条件は,本願補正発明の「前記ポリオレフィン系樹脂の含有量を47?20質量%とする」との条件と数値範囲が重なっているから,引用発明の「無機微粉体が60?20wt%含有されている」及び「ポリオレフィン樹脂が40?80wt%」「含有されている」との条件は,本願補正発明の「前記無機粉体の含有量を53?80質量%とする」及び「前記ポリオレフィン系樹脂の含有量を47?20質量%とする」との条件を満たす。
ウ 引用発明の「コンデンサに用いられるセパレータ」は,本願補正発明の「コンデンサ用セパレータ」に相当する。

(5-2)そうすると,本願補正発明と引用発明の一致点と相違点は,次のとおりとなる。

《一致点》
「ポリオレフィン系樹脂と無機粉体と可塑剤を混合し加熱溶融・混練しながらシート成形してなる前記ポリオレフィン系樹脂と前記無機粉体とで構成された無機質含有多孔質セパレータであって,前記無機粉体の含有量を53?80質量%とする(前記ポリオレフィン系樹脂の含有量を47?20質量%とする)ことを特徴とするコンデンサ用セパレータ。」

《相違点》
《相違点1》
本願補正発明は,セパレータが,「コンデンサ組立時に水分除去を必要とする有機系電解液を使用したコンデンサに用いられる」のに対して,引用発明は,セパレータが,コンデンサに用いられるものの,「コンデンサ組立時に水分除去を必要とする有機系電解液を使用したコンデンサに用いられる」かどうかが不明である点。

《相違点2》
本願補正発明は,「シート成形し前記可塑剤を除去してなる」のに対して,引用発明は,本願補正発明の「シート成形」することに対応する「フィルム状に成形」した後に,可塑剤を除去するかどうか不明である点。

《相違点3》
本願補正発明は,「水銀圧入法による平均細孔径が1μm以下の無機質含有多孔質セパレータ」であるのに対して,引用発明は,平均細孔径が不明である点。

《相違点4》
本願補正発明は,「前記セパレータの」「水分除去性を向上させ」ており,また,「前記コンデンサ組立時における前記セパレータの水分除去性を向上させるため(前記セパレータからの水分除去時間を短くするため)に前記無機粉体の水分率を3.5質量%以下の範囲とし」ているのに対して,引用発明は,無機微粉体の水分率が不明である点。

《相違点5》
本願補正発明は,「前記セパレータの電解液保持性」「を向上させ」ており,また,「前記セパレータの電解液保持性を向上させるために前記無機粉体の比表面積を100m^(2)/g以上とし」ているのに対して,引用発明は,無機微粉体の比表面積が不明である点。

(6)相違点についての判断
(6-1)相違点1について
ア 電気二重層コンデンサ等のコンデンサの電解液には,水溶液系電解液と有機系(非水系)電解液の2種類があることが周知である。
イ また,引用例3には,「本発明の電気二重層キャパシタは非水系電解液を有するので,漏れ電流を低減し,高耐電圧を確保するには,電気二重層キャパシタ素子中の水分をできるだけ除去することが必要である。セパレータ中の水分は1質量%以下であることが好ましいが,例えばセルロース紙の場合は,通常3?10質量%の水分を含有している。」(段落【0034】)こと,及び「水分を効率よく除去するためには,セパレータを正極と負極の間に配置させる前にあらかじめ90℃以上で加熱することが好ましい。」(段落【0035】)ことが,記載されている。
ウ 引用発明は,「コンデンサに用いられるセパレータ」であるから,引用発明のセパレータは,水溶液系電解液と有機系(非水系)電解液のいずれの電解液にも対応できることが想定され,有機系(非水系)電解液を用いた場合には,上記イにあるように,「水分を効率よく除去するためには,セパレータを正極と負極の間に配置させる前にあらかじめ90℃以上で加熱することが好ましい。」のであるから,本願補正発明のセパレータを,「コンデンサ組立時に水分除去を必要とする有機系電解液を使用したコンデンサに用い」ること(相違点1に係る構成とすること)は,当業者にとって容易であったといえる。

(6-2)相違点2について
ア 引用例2には,非水電解液電池用セパレータではあるが,製造方法として,「ポリオレフィン系樹脂として,例えば,ポリエチレン樹脂粉体,または,ポリプロピレン樹脂粉体の単独,あるいは,混合物の20?80wt%と無機粉体80?20wt%及び可塑剤の適量をレーディゲミキサで混合する。次いで,この混合物を押出機で加熱溶融・混練しながらシート状の成形を行う。シートの厚さはシート成形条件を変更したり,延伸・圧延等の二次加工によって自由に調整できるものである。その後,可塑剤を有機溶媒で抽出除去し,乾燥することで本発明の非水電解液電池用セパレータが得られる。」(段落【0014】)と記載されている。これは,本願明細書の段落【0012】の「次に,本発明のセパレータの製造方法について説明する。前記ポリオレフィン系樹脂20?80質量%と,無機粉体80?20質量%及びポリオレフィン系樹脂の可塑剤の適量をレーディゲミキサ等で混合する。次いで,この混合物を押出機を用いて加熱溶融・混練しながらシート状に成形を行う。シートの厚さはシート成形条件,あるいは,延伸・圧延等の二次加工によって任意に調整できる。その後,該シート中の可塑剤を有機溶剤を用いて抽出除去し,乾燥することで本発明のコンデンサ用セパレータが得られる。」との記載と,同内容のものである。
イ そして,引用例4の「電解コンデンサ,電気2重層コンデンサ,Li電池バッテリー等のセパレータとして用いられる親水化されたポリオレフィン微孔性膜」(1頁右下欄4?6行)との記載,及び引用例5の「電解コンデンサ,電気2重層コンデンサ,バッテリー等のセパレータあるいはミクロフィルターとして好適なポリオレフィン微孔性膜」(1頁右下欄15?17行)との記載から分かるように,一般に,セパレータは,コンデンサ用セパレータと電池用セパレータとで共通に使用され得るものであることが当該技術分野の技術常識であるから,引用発明に,引用例2にあるような「可塑剤を有機溶媒で抽出除去し,乾燥する」工程を加えて,「シート成形し前記可塑剤を除去してなる」ようにすること(相違点2に係る構成とすること)は,当業者にとって容易であったといえる。

(6-3)相違点3について
ア 引用例1には,「この発明に係る微孔性樹脂フィルムの多孔度は,主に無機微粉体の含有量と延伸率とによって調整することができる。」(5頁右上欄6?8行)と記載されているから,延伸率を調整することよって平均細孔径が調整可能であることが分かる。
イ 引用例4には,「電解コンデンサ,電気2重層コンデンサ,Li電池バッテリー等のセパレータ」(1頁右下欄4?5行)として,「微孔性膜の平均孔径は,0.05?5μmであることが必要であ」(2頁左下欄11?12行)ること,7頁の第1表には,平均孔径(μm)として,実施例1が0.7μm,実施例2が0.4μm,実施例3が0.8μmであることが記載されている。
ウ 引用例5には,「電解コンデンサ,電気2重層コンデンサ,バッテリー等のセパレータ」(1頁右下欄15?16行)として,「平均孔径が0.05?5μm」(5頁左上欄13?14行)の範囲であること,8頁の表2には,平均孔径(μm)として,実施例1が0.3μm,実施例2が0.5μm,実施例3が0.4μm,実施例4が0.2μmであることが記載されている。
エ そして,上記イの引用例4に記載の平均孔径,上記ウの引用例5に記載の平均孔径は,いずれも,本願補正発明の「平均細孔径」に対応するので,上記イの引用例4に記載の平均孔径,上記ウの引用例5に記載の平均孔径は,いずれも,本願補正発明の「平均細孔径が1μm以下」と数値範囲が重なっている。
オ そうすると,引用発明の「延伸することによって得られた微孔性樹脂フィルムからなるセパレータ」において,上記アに記載のように延伸率を調整することによって平均細孔径を調整する際し,上記イの引用例4の記載又は上記ウの引用例5の記載のような平均孔径(μm)とし,「水銀圧入法による平均細孔径が1μm以下」とすること(相違点3に係る構成とすること)は,当業者が適宜なし得たことといえる。

(6-4)相違点4について
ア 引用例3には,「本発明の電気二重層キャパシタは非水系電解液を有するので,漏れ電流を低減し,高耐電圧を確保するには,電気二重層キャパシタ素子中の水分をできるだけ除去することが必要である。セパレータ中の水分は1質量%以下であることが好ましいが,例えばセルロース紙の場合は,通常3?10質量%の水分を含有している。」(段落【0034】)こと,「水分を効率よく除去するためには,セパレータを正極と負極の間に配置させる前にあらかじめ90℃以上で加熱することが好ましい。」(段落【0035】)と記載されている。
イ 電気二重層コンデンサ等のコンデンサの電解液には,水溶液系電解液と有機系(非水系)電解液の2種類があることは周知であるから,引用発明の「コンデンサに用いられるセパレータ」も,水溶液系電解液と有機系(非水系)電解液のいずれの電解液にも対応できることが想定され,有機系(非水系)電解液を用いた場合には,上記アにあるように「水分を効率よく除去するためには,セパレータを正極と負極の間に配置させる前にあらかじめ90℃以上で加熱することが好ましい。」ことが分かる。
ウ 一方,引用例2には,非水電解液電池用セパレータではあるが,「ポリオレフィン系樹脂20?80wt%と無機粉体80?20wt%とで構成される無機質含有多孔膜において,使用する無機粉体が,その表面が疎水性であり,平衡水分が0.5%以下であることを特徴とする」「非水電解液電池用セパレータ」(段落【0007】)が記載されている。ここで,「使用する無機粉体が,」「平衡水分が0.5%以下」であることは,本願補正発明の「前記無機粉体の水分率を3.5質量%以下の範囲とし」との限定と数値範囲が重なっている。
エ また,引用例2には,「特開平10-50287号に開示されているポリオレフィン系樹脂と無機粉体とで構成されたセパレータは,付着水分が多かったり,構造中に結合水を含有するために平衡水分が5%以上という水分の多い無機粉体が含まれていたため,乾燥処理で水分を抜くことが難し」(段落【0005】)いとの課題が示されており,このことから,平衡水分がより少なければ,乾燥処理で水分を抜くことが容易になることが分かる。
オ さらに,引用例4の「電解コンデンサ,電気2重層コンデンサ,Li電池バッテリー等のセパレータとして用いられる親水化されたポリオレフィン微孔性膜」(1頁右下欄4?6行)との記載,及び引用例5の「電解コンデンサ,電気2重層コンデンサ,バッテリー等のセパレータあるいはミクロフィルターとして好適なポリオレフィン微孔性膜」(1頁右下欄15?17行)との記載から分かるように,一般に,セパレータが,コンデンサ用セパレータと電池用セパレータとで共通に使用され得るものであることは,当該技術分野の技術常識である。
カ そうすると,上記エの引用例2に記載のように,付着水分が多かったり,構造中に結合水を含有するために平衡水分が5%以上という水分の多い無機粉体が含まれていると,乾燥処理で水分を抜くことが難しくなることから,引用発明の「コンデンサに用いられるセパレータ」について,上記アの引用例3に記載のように「水分を効率よく除去するために」「加熱する」際に,上記ウの引用例2に記載されているように,「使用する無機粉体が,」「平衡水分が0.5%以下である」ようにすることは,当業者が容易に想到し得たことである。
したがって,引用発明において,「前記コンデンサ組立時における前記セパレータの水分除去性を向上させるため(前記セパレータからの水分除去時間を短くするため)に前記無機粉体の水分率を3.5質量%以下の範囲」とすること(相違点4に係る構成とすること)は,当業者にとって容易であったといえる。

(6-5)相違点5について
ア 引用例1には,「ポリオレフィン樹脂に混合される無機微粉体」の「粒径は,0.05?10ミクロン」(5頁左上欄10?14行)であることが記載されている。
また,引用例2には,「非水電解液電池用セパレータ」の場合であるが,「無機粉体は一次粒子径が0.001?1μm程度のものの使用が好ましい」(段落【0011】)ことが記載されている。
イ ところで,無機粉体の比表面積は,一般に無機粉体の粒径に反比例するものである。また,セパレータの電解液保持性は,セパレータと電解液との接触面積が大きいほと高くなるから,電解液保持特性の改善のためには,無機粉体の比表面積を大きくすることが有効であることが明らかである。
ウ そうすると,引用発明において,無機微粉体の粒径を,例えば,上記アの引用例1や引用例2に記載された数値範囲で,小さい値を選択して無機微粉体の比表面積を大きくし,本願補正発明の「前記セパレータの電解液保持性を向上させるために前記無機粉体の比表面積を100m^(2)/g以上」とすることは,当業者が適宜なし得る技術上の設計事項といえる。
エ ちなみに,引用例2の段落【0005】に示されている,特開平10-50287号公報には,「本例においてはセパレータ8としてポリオレフィン系樹脂と無機粉体で構成されたものを使用した。このセパレータ8は以下のようにして作成した。先ず,比表面積200m^(2) /g(平均粒径0.002μm)のアルミナ粉体30重量部と,重量平均分子量140万の高密度ポリエチレン15重量部と,鉱物オイル55重量部の混合物を混練・加熱溶融して2軸押出機により0.1mmの膜状に成形した。次に,該無機質膜を140℃に加熱したテンター式延伸機により縦方向,横方向にそれぞれ延伸し,さらに145℃の雰囲気中15秒間の空間熱処理を行い,該無機質膜をトリクロロエチレン溶剤に浸漬して膜中の鉱物オイルを抽出除去して,乾燥し,膜厚40μm,高密度ポリエチレン33wt%,アルミナ粉体67wt%からなるセパレータを作製した。」(段落【0037】)と,「比表面積200m^(2) /g」のアルミナ粉体からなる無機粉体が記載されており,本願補正発明の「無機粉体の比表面積を100m^(2)/g以上」との数値範囲は,格別のものではないことが分かる。

(7)以上のとおり,相違点1?5に係る構成とすることは,当業者にとって容易であったといえる。

したがって,本願補正発明は,引用発明及び引用例2?5の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4 以上の次第で,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則3条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第5項において準用する同法126条5項の規定に違反するので,同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により,却下すべきものである。


第3 本願発明
1 以上のとおり,本件補正(平成20年7月1日に提出された手続補正書による補正)は却下されたので,本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,本件補正前の請求項1(平成19年12月3日に提出された手続補正書により補正された請求項1)に記載された,次のとおりのものである。

【請求項1】
「ポリオレフィン系樹脂と無機粉体と可塑剤を混合し加熱溶融・混練しながらシート成形し前記可塑剤を除去してなる,前記ポリオレフィン系樹脂20?47質量%と,前記無機粉体80?53質量%とで構成された水銀圧入法による平均細孔径が1μm以下の無機質含有多孔質セパレータであって,前記無機粉体が,比表面積100m^(2)/g以上,水分率3.5質量%以下の無機粉体であることを特徴とするコンデンサ用セパレータ。」

2 引用例1の記載内容及び引用発明並びに引用例2?5の記載については,前記第2,3,(3-1),(3-2),(4-1)?(4-4)において認定したとおりである。

3 対比・判断
前記第2,2,(1)で検討したように,本願補正発明は,本件補正前の発明を限定したものである。逆に言えば,本件補正前の発明(本願発明)は,本願補正発明から,その限定をなくしたものである。
そうすると,本願発明の構成要件をすべて含み,これをより限定したものである本願補正発明が,前記第2,3において検討したとおり,引用発明及び引用例2?5の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も,同様の理由により,当業者が容易に発明をすることができたものである。


第4 結言
以上のとおり,本願発明は,引用発明及び引用例2?5の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により,特許を受けることができない。
したがって,本願は,他の請求項について検討するまでもなく,拒絶をすべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-06-06 
結審通知日 2011-06-07 
審決日 2011-06-21 
出願番号 特願2002-278240(P2002-278240)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01G)
P 1 8・ 121- Z (H01G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 竹口 泰裕田中 晃洋  
特許庁審判長 相田 義明
特許庁審判官 近藤 幸浩
酒井 英夫
発明の名称 コンデンサ用セパレータ  
代理人 辻田 幸史  
代理人 阿部 伸一  
代理人 清水 善廣  

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