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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01N |
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管理番号 | 1240985 |
審判番号 | 不服2008-20165 |
総通号数 | 141 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2011-09-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2008-08-07 |
確定日 | 2011-08-04 |
事件の表示 | 平成10年特許願第196038号「新規なモノクローナル抗体及びニックβ2グリコプロテインIの免疫学的分析方法」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 1月28日出願公開、特開2000- 28607〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯・本願発明 本願は,平成10年7月10日の出願であって,平成20年6月30日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,平成20年8月7日に拒絶査定に対する審判請求がなされたもので,その請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,平成19年7月23日の手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて,以下のとおりのものである。 「【請求項1】 β2グリコプロテインIと反応しないが,プロテアーゼにより第Vドメインに開裂を受けたβ2グリコプロテインIの第Vドメインに反応することを特徴とする,モノクローナル抗体又はその抗体フラグメント。」 2.引用例 原査定の拒絶の理由に引用された,本願優先日前に頒布された刊行物であるBlood, 91[11] (1998 June) p.4173-4179(以下,「引用例」という。)には, 「β_(2)-グリコプロテインI(β_(2)GPI)は,DNA,ヘパリン,硫酸デキストラン及び負電荷リン脂質のような負電荷物質に結合する能力を備えた,高度にグリコシル化された血漿タンパク質である。β_(2)GPIの最も適切な生理学の役割が,カルディオリピン(CL)のような陰イオンのリン脂質の機能の調節であると思われる。β_(2)GPIは,約50 kDの分子量,および5つの直列に繰り返されたドメイン(I,II,III,IV及びV)で単一のポリペプチド鎖(326のアミノ酸残基)から成る。従来の研究では,我々は,組換えヒトドメインV(r-ドメインV)を使用して,Lys 317-Thr 318を開裂により,ファクターXaがニック形態を生産することができることを知った。しかしながら,その反応は非常に遅かった。この論文では,我々は,ヒト血漿からの組換えドメインV(r-ドメインV)およびβ_(2)GPIを使用して,プラスミンがドメインVのニック形態を生産することができることを知った。ナトリウム・ドデシル硫酸塩-ポリアクリルアミドゲル電気泳動においては,r-ドメインVが,プラスミンによってニック形態に急速に開裂し,ファクターXaによっては非常にゆっくり,トロンビン,組織プラスミノーゲン活性化因子,ウロキナーゼ及び組織因子/ファクターVIIaによっては開裂されなかった。プラスミンによる,r-ドメインV及びβ_(2)GPIの開裂部位は,消化され,高速液体クロマトグラフィーによって分離されたC-ターミナルのペプチドのアミノ酸配列分析によるLys 317-Thr 318であると証明された。開裂は,プラスミン抑制因子(α_(2)PI)によって完全に禁じられた。ニック形態は完全なβ_(2)GPIより1桁大きな解離定数のCLへの減少された親和性を示すことが実証された。プラスミンによるβ_(2)GPIの特定の開裂がさらに血漿で生じる場合があるかどうか判断するために,ヒト血漿はα_(2)PIを不活性化するために最初に酸処理され,次に,ウロキナーゼでインキュベートされた。α_(2)PI活性が80%まで減少した時,血漿中のβ_(2)GPIの約12%がニックされた。ニック形態は,プラスミノゲンが減少された血漿の中で生成されなかった。これらの結果は,プラスミンが,リン脂質を生体内で結合する能力を減少して,β_(2)GPIのニック形態を生産することができることを示唆する。」(要約の欄)と記載され, 材料と方法の項に,β_(2)GPIの調製(4174頁左欄16-24行)と,ニック形態のβ_(2)GPIの分離(4174頁右欄6-17行)について記載され, 「ブライトンら^(22)は,血漿中のβ_(2)GPIレベルが,血栓症又はDICの患者の中で著しく下がることを実証した。プラスミン抑制因子がこれらの患者において減少し,次に,プラスミンはニックされたβ_(2)GPIを生成した可能性が高度に高い。 β_(2)GPIのニック形態は,在来のβ_(2)GPIより循環から急速に取り除かれるかもしれない。」(4178頁左欄12-17行)と記載されている。 3.対比 本願発明と上記引用例に記載された発明を対比すると,本願発明が,「β2グリコプロテインI(以下,引用例と同じく「β_(2)GPI」という。)と反応しないが,プロテアーゼにより第Vドメインに開裂を受けたβ_(2)GPIの第Vドメインに反応することを特徴とする,モノクローナル抗体又はその抗体フラグメント」であるのに対し,引用例には,プロテアーゼであるプラスミンにより第Vドメインに開裂を受けたβ_(2)GPIは記載されているものの,モノクローナル抗体や,その抗体フラグメントについて記載されていない点で相違している。 4.判断 引用例には,摘記したように,血栓症又はDICの患者の中で,ニックされたβ_(2)GPIが生成される可能性が高度に高く,また,β_(2)GPIのニック形態は,在来のβ_(2)GPIより循環から急速に取り除かれる可能性があることが示されているのであるから,当業者は,血栓症又はDICの患者の血漿におけるβ_(2)GPIのニック形態の消長に興味を抱くものであり,正常人と血栓症又はDICの患者の間に差があることが分かれば,これらの疾患を検出できるでことにも,当業者は容易に想到できるのである。そして,疾患を検出できる可能性を調べるために,血栓症又はDICの患者の血漿におけるβ_(2)GPIのニック形態の消長についての基礎研究を行おうとする当業者は,モノクローナル抗体を用いた免疫測定法は周知の技術であるから,β_(2)GPIのニック形態のものに特異的なモノクローナル抗体を,まずは製造してみようとするものである。そして,β_(2)GPIのニック形態のものは,第Vドメインに開裂を受けたものであるから,第Vドメインの立体構造が,インタクトなβ_(2)GPIと大きく異なるものであり,β_(2)GPIのニック形態のものに特異的なモノクローナル抗体を製造すれば,当然に,インタクトなβ_(2)GPIと反応しないが,プロテアーゼにより第Vドメインに開裂を受けたβ_(2)GPIの第Vドメインに反応するものが得られることになる。 そして,本願発明のモノクローナル抗体又はその抗体フラグメントは,β_(2)GPIのニック形態のものに特異的に反応するという以上の,当業者が予測できない格別な効果を有するものでもない。 したがって,本願発明は,引用例の記載に基づいて当業者が容易に発明できたものである。 請求人は,P-ニック第Vドメインを用いてマウスを免疫し,3回の細胞融合を行なったが,ニックβ_(2)GPIのみに反応してインタクトβ_(2)GPIに反応しない抗体を産生するハイブリドーマは全く取得できず,本願発明のモノクローナル抗体の取得は困難であったことを主張している。ところが,免疫原をP-ニック第Vドメインとすれば,隣接する第IVドメインとの相互作用がなくなり,全体的な立体構造にも影響することが考えられることから,当業者であれば,ニックβ_(2)GPIに特異的なモノクローナル抗体を製造しようとするときに,P-ニック第Vドメインではなくニックβ_(2)GPIそのものを用いることもあろうし,P-ニック第Vドメインを用いた場合に,ニックβ_(2)GPIに特異的なモノクローナル抗体が製造できなかったとしても,当業者であれば,あらためて,ニックβ_(2)GPIそのものを用いるのは当然のことであり,本願発明のモノクローナル抗体の取得は困難であったとは認められない。 また,請求人は,引用例の,「β_(2)GPIのニックフォームは,ネイティブなβ_(2)GPIより,急速に循環系から排除されるであろう」という記載は,ニックβ_(2)GPIを特異的に認識する抗体を作製してニックβ_(2)GPIの量を測定し,血液の凝固・線溶系の疾患を検出することに対する十分な阻害要因であることを主張しているが,当業者であれば,該記載により,β_(2)GPIのニックフォームは,ネイティブなβ_(2)GPIより,急速に循環系から排除されているか確かめることに興味を抱き,そのためにニックβ_(2)GPIを特異的に認識する抗体を望むものであり,ニックβ_(2)GPIを特異的に認識する抗体を製造することを何ら阻害するものではない。 5.むすび 以上のとおり,本願発明は,引用例に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。 したがって,本出願に係る他の請求項について検討するまでもなく,本出願は拒絶すべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2011-06-02 |
結審通知日 | 2011-06-07 |
審決日 | 2011-06-20 |
出願番号 | 特願平10-196038 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(G01N)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 横田 倫子 |
特許庁審判長 |
平田 和男 |
特許庁審判官 |
田中 耕一郎 内田 俊生 |
発明の名称 | 新規なモノクローナル抗体及びニックβ2グリコプロテインIの免疫学的分析方法 |
代理人 | 山口 健次郎 |
代理人 | 森田 憲一 |