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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1240989
審判番号 不服2008-22546  
総通号数 141 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-09-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-09-03 
確定日 2011-08-04 
事件の表示 特願2006-326852「熱電変換材料の製造方法および熱電変換素子」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 7月 5日出願公開、特開2007-173798〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成15年7月24日に出願した特願2003-201294号(特許法第41条に基づく優先権主張 平成14年11月12日)の一部を,平成18年12月4日に新たな出願としたものであって,平成19年11月20日に手続補正がなされ,平成20年8月1日付けで拒絶査定がなされ,それに対して同年9月3日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1?6に係る発明は,平成19年11月20日付けの手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて,その特許請求の範囲1?6に記載された事項により特定されるとおりのものであり,そのうちの請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,請求項1に記載されている事項により特定される以下のとおりのものである。

「【請求項1】
MgAgAs型結晶構造を有する相を含有する熱電変換材料の製造方法であって、
下記組成式(1)で表わされる組成を有する合金粉末を焼結法によって一体成形する工程を有することを特徴とする熱電変換材料の製造方法。
(Ti_(a1)Zr_(b1)Hf_(c1))_(x)Ni_(y)Sn_(100-x-y) 組成式(1)
(上記組成式(1)中、0<a1<1、0<b1<1、0<c1<1、a1+b1+c1=1、30≦x≦35、30≦y≦35である。))」

第3 引用刊行物に記載された発明
(1) 刊行物1に記載された発明
本願の優先権主張の日前に外国において頒布され,原査定の根拠となった拒絶の理由において引用されたS.Sportouch et al., "THERMOELECTRIC PROPERTIES OF HALF-HEUSLER PHASES:ErNi_(1-x)Cu_(x)Sb, YNi_(1-x)Cu_(x)Sb AND Zr_(x)Hf_(y)Ti_(z)NiSn" 18th International Conference on Thermoelectronics, IEEE pp.344-347(以下「引用例1」という。)には,ハーフホイスラー化合物について以下の記載がある(なお,下線は当合議体にて付加したものである。以下同様。)。

ア "Abstract
Our previous investigations on the half-Heusler phases, rare earth nickel antimonides and zirconium nickel stannides, have indicated that ErNiSb can be comparably promising to ZrNiSn for further thermoelectric investigations. These compounds crystallize th the cubic MgAgAs structure type and possess Seebeck coefficients up to +160 μV/K and -335μV/K, respectively."
当審訳:「要約
ハーフホイスラー相,希土類ニッケル・アンチモンとジルコン・ニッケル・スタンニルに関する以前の報告では,ErNiSbが今後の熱電材の研究においてZrNiSnに比肩するくらい有望であることを示唆した。これらの化合物結晶はMgAgAs構造型で,ゼーベック係数は,それぞれ+160μV/K,-355μV/Kにまで及ぶ。」(344ページ左欄1行?同欄8行)
イ "Synthesis, Results and Discussion
All compounds reported in this paper have been synthesized by arc melting a pressed pellet correspondeing to the appropriate stoichiometric mixture of the elements."
当審訳:「製造,結果及び考察
本報告における化合物はすべて,成分を化学量論的に適切な混合物を圧縮したペレットをアーク溶融によって製造した。」(344ページ右欄25行?同欄28行))

ウ "Solid solutions Zr_(x)Hf_(y)Ti_(z)NiSn(x+y+z=1)
The solid solutions Zr_(x)Hf_(y)Ti_(z)NiSn were investigated in order to study how three elements disordered on the same site could affect the transport properties and mainly how they could reduce the thermal conductivity. Previously, this kind of triple solid solution (solid solution between ZrNiSn, HfNiSn and TiNiSn) was unexplored. In contrast to the work presented above, we partially substitued the Zr atoms by the isoelectronic atoms, Hf and Ti. Thus, the effect on the band structure is expected to be small, while the phonon mean free path is expected to decrease."
当審訳:「Zr_(x)Hf_(y)Ti_(z)NiSn(x+y+z=1)固溶体
Zr_(x)Hf_(y)Ti_(z)NiSn固溶体について,同じサイトに無秩序に入った3種の元素によって,主に熱伝導率がどう減少されるか,及び輸送特性にどう影響を与えるかについて調査・研究を行った。まだ,この種の3重固溶体(ZrNiSn,HfNiSnとTiNiSnの固溶体)については研究がされていなかった。上述の研究とは対照的に,我々は,等電子的原子であるHf及びTiによりZr原子の一部を置換した。フォノンの平均自由行程が減少し,バンド構造への影響は小さいことが期待される。」(346ページ左欄6行?同欄16行))

以上を総合すると,引用例1には,以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「MgAgAs型結晶構造を有する熱電材の製造方法であって、
下記組成式(1)で表わされる組成を有することを特徴とする熱電変換材料の製造方法。
(Ti_(x)Zr_(y)Hf_(z))NiSn 組成式(1)
(上記組成式(1)中、x+y+z=1である。)」

(2) 刊行物2に記載された発明
本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布され,原査定の根拠となった拒絶の理由において引用された特開2002-33572公報(以下「引用例2」という。)には,「熱電材料」に関して以下の記載がある(なお,下線は当合議体にて付加したものである。)。

ア「【0012】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するために、本発明は、Sb、As、Te、およびSeから選択された1種以上の半金属元素を含む組成の結晶からなるA相と、A相を構成する半金属元素と融点が100℃以上1000℃以下である低融点元素とを含む組成のb相とを有し、A相の存在率が50.0体積%以上99.9体積%以下であり、b相の存在率が0.1体積%以上50.0体積%以下である物質の成形体からなる熱電材料を提供する。
【0013】A相としては、例えば、以下に示す材料1○(審決注:特許庁のシステムの都合上表記できない1を丸で囲ったものを「1○」で表す。以下同様。)?9○からなる結晶相が挙げられる。A相は、これらの材料のうちの一つの結晶相で構成されていてもよいし、2種以上の結晶相で形成されていてもよい。これらの材料は熱電特性の高い材料である。
1○Bi-Te系合金に、3B族、4B族、5B族、6B族、または7B族に属する各種元素がドープされた多元系材料。Bi-Te系合金の具体例としては、BiとTeとの二元系固溶体、(Bi_(2) Te_(3) )と(Sb_(2) Te_(3) )との擬二元系固溶体、(Bi_(2) Te_(3) )と(Bi2 Se3 )との擬二元系固溶体、(Bi_(2)Te_(3) )と(Sb_(2) Te_(3) )と(Sb_(2) Se_(3) )との擬三元系固溶体等が挙げられる。
【0014】2○Pb-Te、Pb-Sn-Te、Pb-Ge-TeなどのPbTe系材料、3○(AgSbTe2 )_(1-x) (GeTe)_(x) などのTAGS系材料、4○GdTe_(1.49)、LaTe_(1.46)などの希土類-カルコゲン系材料、5○Ag-Sb-TeなどのSb-Te系材料、6○Bi_(0.85)Sb_(0.1 5) などのBi-Sb系材料、7○Zn_(4) Sb_(3) などのZn-Sb系材料、8○CoSb3 を代表とするスクッテルダイト系材料、9○XNiSn_(1-y) Sb_(y) (X=Zr,Hf,Ti、0<y<1)、PtMnSb、YNiSb等のハーフホイスラー合金系材料。」

イ「【0037】本発明の熱電材料は、例えば、粉末焼結法によって製造することができる。その場合には先ず、第1の材料(A相をなす結晶)と第2の材料(b相を構成する低融点元素を含む材料)とを粉体状で混合する。第1の材料として粒径が0.1μm未満の粉体を使用すると、A相をなす結晶の表面が酸化されやすくなるため、得られる熱電材料の電気伝導度が低下する。また、A相をなす結晶粒が凝集し易くなるため、熱電材料のA相の粒界にb相が十分に形成され難くなる。第1の材料として粒径が100μmより大きいものを使用すると、熱電材料のA相の粒界でのb相によるフォノンの散乱効果が十分に得られなくなるため、熱伝導度の低減効果が低くなる。
【0038】したがって、第1の材料として粒径が0.1?100μmであるものを使用することが好ましい。第1の材料として粒径が0.5?10μmであるものを使用すると、得られる熱電材料の各種熱電性能が向上するため特に好ましい。第1の材料をこのような好ましい粒径にするために、通常、第1の材料は粉砕工程によって粉砕された後に、第2の材料と混合される。この粉砕は、例えば、粉砕機として、ジョークラッシャー、スタンプミル、ロータミル、ピンミル、コーヒーミル、ボールミル、ジェットミル、アトライター等を用いて行われる。
【0039】なお、第1の材料は、ガスアトマイズ法、固相反応法、R/D法(還元拡散法)、メカニカルアロイング法などで製造することにより、粉体状で得ることもできる。この方法で得られた粉体の粒径が前述の好ましい範囲にあれば、粉砕工程を行う必要はない。第2の材料も粉体状のものを使用することが好ましい。第1の材料と第2の材料との混合工程は、自動乳鉢、V型ミキサ、タンブラ、リボンミキサ、ロータリミキサなど、通常用いられる混合機を使用して行うことができる。第1の材料および/または第2の材料の粉砕とこの混合工程とを同時に行ってもよい。
【0040】次に、第1の材料と第2の材料との粉体状の混合物を型に入れて成形し、100℃以上の温度で焼結する。熱処理雰囲気は非酸化性雰囲気であることが好ましく、アルゴンやヘリウムなどの希ガス、窒素ガス中などの不活性ガス中で、或いは水素ガスを含む還元ガス中で熱処理を行うことが好ましい。また、焼結時の圧力は、常圧、加圧下、あるいは真空中のいずれであっても構わない。」

第4 対比・判断
(1) 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「熱電材」は,本願発明の「熱電変換材料」に相当する。
また,組成式の添字の変数については,引用発明の「x,y,z」は,それぞれ本願発明の「a1,b1,c1」に対応する。
したがって,本願発明と引用発明とは,
(一致点)
「MgAgAs型結晶構造を有する熱電変換材料の製造方法であって、
下記組成式(1)で表わされる組成を有することを特徴とする熱電変換材料の製造方法。
(Ti_(a1)Zr_(b1)Hf_(c1))NiSn 組成式(1)
(上記組成式(1)中、a1+b1+c1=1))」
である点で一致し,以下の点で相違する。

(相違点1)
本願発明は,熱電変換材料が「MgAgAs型結晶構造を有する相を含有する」ものであるのに対して,引用発明はすべて「MgAgAs型結晶構造」である点。

(相違点2)
本願発明は,「合金粉末を焼結法によって一体成形する工程」を有しているのに対して,引用発明はこの工程を有することについて特定されていない点。

(相違点3)
本願発明は,組成式(1)が「(Ti_(a1)Zr_(b1)Hf_(c1))_(x)Ni_(y)Sn_(100-x-y) 」であり,「0<a1<1、0<b1<1、0<c1<1、a1+b1+c1=1、30≦x≦35、30≦y≦35」であるのに対して,引用発明は「(Ti_(a1)Zr_(b1)Hf_(c1))」:「Ni」:「Sn」が1:1:1であり,a1,b1,c1についても範囲の限定がない点。

(2) 判断
ア 相違点1について
まず,引用発明は「MgAgAs型結晶構造」を有する熱電変換材料であり,本願発明の熱電変換材料が「MgAgAs型結晶構造を有する相を含有」していればよいのであるから,引用発明は,本願発明に包含されており,相違点は実質的なものではない。
そして,本願の明細書段落【0030】を参照すると,「MgAgAs型結晶構造を有する相の体積占有率を高め」ることが好ましい旨の記載があり,すべてがMgAgAs型結晶構造であることを排除したものでもないことも明らかであり,「MgAgAs型結晶構造を有する相を含有」するとした限定に技術的意義を認めることはできない。
よって,引用発明において,熱電変換材料を「MgAgAs型結晶構造を有する相」を含有するものとすることは当業者が適宜になし得たことである。
仮に,相違点が実質的なものであったとした場合に,第3(2)アの記載を参照すると,引用例2には,熱電変換材料として「ハーフホイスラー合金系材料」であるA相が「50.0体積%以上99.9体積%以下」としたものが記載されており,「ハーフホイスラー合金」が「MgAgAs型結晶構造」を有することは当該技術分野においては周知であることから,引用例2の材料は,「MgAgAs型結晶構造を有する相を含有し」たものであることが分かる。そして,引用例2に記載の「MgAgAs型結晶構造を有する相を含有し」たものも,引用発明は「MgAgAs型結晶構造」を有するものも,どちらも熱電変換材料という共通の技術分野であるから,引用発明の熱電変換材料として,MgAgAs型結晶構造を有するものに換えて,引用例2に記載の「MgAgAs型結晶構造を有する相」を含有するものとすることは当業者が容易になし得たことである。

イ 相違点2について
引用例2には,「MgAgAs型結晶構造を有する相を含有する」ものを「粉砕」し,「型に入れて成形し,」「焼結」して熱電変換材料を製造することが記載されている。焼結すれば,一体に成形されることは当業者にとって自明である。
また,熱電変換材料を製造法において,材料を粉砕したのち焼結することにより,焼結体の結晶粒を微細化することで,熱伝導率が低減し,熱電変換材料の性能を向上することは,以下の周知例1,2にも記載されているように周知の技術である。
引用発明も,引用例2に記載の発明もどちらも,熱電変換材料という技術分野が共通であるから,引用発明において,周知技術を勘案し,引用例2に記載のMgAgAs型結晶構造を有する相を含有する材料を用いて,それを粉砕,焼結して一体成形することによって,性能のよい熱電変換材料の製造方法とすることは当業者が容易になし得たことである。

(ア) 周知例1:特開2002-246660号公報
「【0003】この課題を解決する方法として、インゴットを粉砕して、粉末化し、これを固化して焼結する熱電材料の製造方法があるが、このようにして作製された熱電材料は、機械的に優れている。又、結晶粒を微細化することによって、熱伝導率kを低減させることができる。加えて、ホットプレス等の成形方法を用いることによって、結晶方向を揃えることができるため、比抵抗ρも低減させることができるため、性能指数Zの向上も期待できる。しかし、実際はホットプレスを用いた焼結法では、結晶粒成長をを起こしやすく、熱伝導率kの増大、結晶配向の乱れなどを招くために、性能指数Zは、インゴットに比べて低下する場合が多い。又、粉末界面の酸化膜も比抵抗ρの増大を引き起こし、性能指数Zのの低下の要因となっている。」

(イ) 周知例2:2002-151752号公報
「【0016】ここで、熱電素子の性能を示す性能指数Zは、ゼーベック係数α、電気伝導度σ、熱伝導率κを用いて次のように表される。
Z=α^(2)σ/κ
熱電素子の性能は、性能指数Zが大きいほど良い。熱電素子は一般に焼結体で作製されるが、焼結体の結晶粒径を微細化することにより熱伝導率を低減することができる。従って本発明により作製した微細な粉末熱電材料を用いて焼結体を作製すれば、性能指数の大きい熱電素子を作製することができる。即ち、熱電素子の性能を向上させることができ、高性能な熱電素子の生産性を向上させることができる。」

ウ 相違点3について
まず,組成式(Ti_(a1)Zr_(b1)Hf_(cl))_(x)Ni_(y)Sn_(100-x-y) のx,yの範囲について検討する。引用発明の(Ti_(a1)Zr_(b1)Hf_(c1))NiSnは,(Ti_(a1)Zr_(b1)Hf_(c1)):Ni:Sn=1:1:1を想定しており,本願発明のように書けば,x=y=33.3・・・となり,本願発明の30≦x≦35,30≦y≦35の範囲に含まれることから,引用発明と本願発明は(Ti_(a1)Zr_(b1)Hf_(cl))_(x)Ni_(y)Sn_(100-x-y) の組成比において一致する。そして,そもそも化合物の組成比は,目的のものから多少ずれることは製造上避けられないことであり,組成比を所定の範囲内に設定することは通常行うことであって,(Ti_(a1)Zr_(b1)Hf_(cl))NiSnの1:1:1の組成を中心として含む,30≦x≦35,30≦y≦35という範囲を設定することは当業者が適宜なし得たことである。
また,0<a1<1、0<b1<1、0<c1<1という限定についても,Ti,Zr,Hfをそれぞれ必ず含んでいることを限定していることであって,第1成分を3元合金にしてフォノンの平均自由行程を減らそうとしている引用発明においてもa1,b1,c1のいずれかが0であることは想定しておらず,実質的な差異ではない。

(3) 判断についてのまとめ
以上検討したとおり,本願発明は,引用例1?4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって,本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第5 むすび
以上のとおり,本願の請求項1に係る発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶をすべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-06-03 
結審通知日 2011-06-07 
審決日 2011-06-21 
出願番号 特願2006-326852(P2006-326852)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 加藤 浩一  
特許庁審判長 齋藤 恭一
特許庁審判官 小川 将之
西脇 博志
発明の名称 熱電変換材料の製造方法および熱電変換素子  
代理人 池上 徹真  
代理人 松山 允之  
代理人 須藤 章  

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