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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H05K
管理番号 1241006
審判番号 不服2009-15848  
総通号数 141 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-09-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-08-28 
確定日 2011-08-04 
事件の表示 特願2002- 74253「素子間干渉電波シールド型高周波モジュール」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 9月26日出願公開、特開2003-273571〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
【1】手続の経緯

本願は、平成14年3月18日の出願であって、平成21年5月29日(起案日)付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成21年8月28日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同日付けで明細書及び図面に対する手続補正がなされたものである。
その後、当審において、平成22年10月26日(起案日)付けで審尋がなされ、平成22年12月27日に審尋に対する回答書が提出されたものである。

【2】平成21年8月28日付け手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成21年8月28日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]

1.本件補正の内容

本件補正は、補正前の特許請求の範囲の請求項3に対し、以下のような補正を含むものである。なお、平成20年11月26日付けの手続補正は、原審において平成21年5月29日(起案日)付けで決定をもって却下されている。下線は、当審で付した補正箇所である。

(1)本件補正前の請求項3(平成20年6月23日付け手続補正)
「【請求項3】
複数の能動素子チップを配線を設けた回路基板上にフリップチップボンディングにより搭載した高周波モジュールにおいて、前記複数の能動素子チップを、前記能動素子チップ側から熱可塑性の接着樹脂/金属箔/耐熱性樹脂の積層構造からなる積層フィルムによって、前記複数の能動素子チップの表面及び側面を被覆したことを特徴とする素子間干渉電波シールド型高周波モジュール。」

(2)本件補正後の請求項1(平成21年8月28日付け手続補正)
「【請求項1】
複数の能動素子チップを配線を設けた回路基板上にフリップチップボンディングにより搭載した高周波モジュールにおいて、前記複数の能動素子チップを前記能動素子チップ側から熱可塑性の接着樹脂/金属箔/耐熱性樹脂の積層構造からなる積層フィルムによって、隣接する前記能動素子チップ間で前記積層フィルムを分断するように前記複数の能動素子チップの表面及び側面を被覆したことを特徴とする素子間干渉電波シールド型高周波モジュール。」

2.補正の適否

上記補正は、本件補正前の請求項1及び2を削除し、同請求項3を請求項1に繰り上げるとともに、補正後の新たな請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項について、本願の願書に最初に添付した明細書の段落【0014】の記載に基づき、本件補正前の「前記複数の能動素子チップの表面及び側面を被覆した」を「隣接する前記能動素子チップ間で前記積層フィルムを分断するように前記複数の能動素子チップの表面及び側面を被覆した」とさらに限定したものである。
すなわち、上記補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものとして認めることができ、かつ、補正前の各請求項に記載した発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題を変更することのない範囲内において行われたものであって、請求項の削除及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するものである。
したがって、上記補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第1号に規定された請求項の削除を目的とするとともに、同法第17条の2第4項第2号に規定された特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するものであり、かつ、特許法第17条の2第3項の規定に反する新規事項を追加するものではない。
以上のとおり、上記補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とする補正を含むものであるから、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

3.本願補正発明について

3-1.本願補正発明

本願補正発明は、本件補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、上記「【2】1.(2)」に示した本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであると認める。

3-2.引用刊行物とその記載事項

刊行物A:特開昭60-241237号公報
刊行物B:実願昭63-122556号(実開平2-42499号)のマイクロフィルム

[刊行物A]
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物A(特開昭60-241237号公報)には、「混成集積回路装置」に関して、図面とともに、以下の事項が記載されている。

(ア)「近年、電子機器産業においては資材コスト低減のために、従来単体回路部品の組合せで構成されていた回路を厚膜回路と回路部品からなる混成集積回路にしたり、あるいは回路の集積度を高めることによつて小形化を推進する傾向にある。しかし、混成集積回路において、回路部品の実装密度を高めると回路基板上に設けられた各回路部品間距離が小さくなるため、パルス雑音やクロストークおよび発振などの障害が発生しやすくなり、特にローノイズ、高入力インピーダンスの高周波増幅回路などではこの傾向が強く現れてくる。従つて、これを防止するためには各回路部品間に充分高い電磁シールド性能を保持させ得るようなパツケージを施さなければならない。」(1ページ右下欄3?16行)

(イ)「ポツテイングや粉体流動浸漬法によつて形成された樹脂の封止は、部品の凹凸により樹脂膜厚が不均一となり、膜厚の薄い箇所で樹脂クラツクが生じたり、あるいは回路部品、基板、封止樹脂の熱伝導率や熱膨脹率が異なるため熱歪が生じ、抵抗膜の剥離、チツプコンデンサの剥れ、破損、クラツク、半導体チツプの剥れ、クラツク、ボンデイングワイヤの切断、セラミツク基板のクラツク等が生じ、また、樹脂中に含まれるイオン性不純物によつて導体部分の電食や回路部品の特性劣化ないし破損が起る欠点を有している。従つて、封止樹脂は回路部品、基板との接着性がよいこと、電気特性が高温、高湿度でもすぐれていて温度変化によつて樹脂のクラツク、界面での剥離、ボンデイングワイヤの切断などがないこと、イオン性不純物によつて回路部品の特性の低下、電食等を防止できることが要求されるが、これらの特性をすべて満足するような保護樹脂材料の選択は甚だ困難である。」(2ページ左上欄13行?同右上欄11行)

(ウ)「この発明は、既知のパツケージ装置のそれぞれの長所を取り入れるとともに欠点を除去した新規な装置を提供するものである。この発明によれば、混成集積回路等の回路部品を搭載したセラミツク基板を、絶縁層を有した例えば厚さ500μm以上のアルミ板上に載置し、前記セラミツク基板の部品搭載面に例えば200μm以下の厚みからなり、少なくとも下面に絶縁層を設けた金属箔シートでカバーし、その金属箔シートとアルミ等からなる金属板の接着面とを封着するとともに封着部から外部に延出された外部リードを備えるようにした混成集積回路が得られ、防塵、防湿にすぐれ、かつ高い電磁遮蔽性能を有するパツケージを実現することができるものである。」(2ページ左下欄5?18行)

(エ)「第1図はこの発明の一実施例を示す概略図で、第1図(a)は断面図、同図(b)は平面図である。
厚膜回路2、電子部品3、外部リード4が装着されたセラミツク基板1を少なくとも上面の周縁部に絶縁層5を形成した金属板6に設置し、金属箔7と、この金属箔7の両面もしくは少なくとも下面に設けられた絶縁層5からなる金属箔シートにより前記金属板6を封着している。」(2ページ右下欄1?8行)

(オ)「なお、上記各実施例における金属板6および金属箔7の材料は、たとえばアルミニウム、銅、金、鉄、ステンレス、錫、鉛、チタン、コバール、ニツケル、タングステン、アンチモン、ハステロイ、インコネル、亜鉛、マグネシウムおよび前記各金属の合金を使用することができ、特に金属箔7は前記各金属の単層を用いた積層構造にしてもよく、金属箔7全体の厚さは300μm以下が好ましい。また、金属板6および金属箔7に設ける絶縁層5の材料は、ガラス、セラミツク、アスベスト、雲母および紙、および高分子材料の繊維状、布状あるいはフイルム状のものに熱硬化性樹脂(例えば、エポキシ樹脂、シリコン樹脂、フエノール樹脂、ジアリルフタレート樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂等)を単独または混合したもの、さらに、熱可塑性樹脂(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルアセタール、4-フツ化エチレン、ポリフエニレンサルフアイド、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、アクリル、ポリビニルアルコール、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアミド、ポリスルホン、ポリカーボネート、飽和ポリエステル等)を単独あるいは混合した材料から構成してもよい。」(3ページ左上欄4行?右上欄7行)

(カ)「金属箔7と絶縁層5とは混成集積回路をパツケージングする前段階で積層されたものを使用し、通常はBステージ状の熱硬化性樹脂あるいは熱可塑性樹脂を主材とした複合体からなるため、そのままプレスすることにより圧着された部分が相互に融着して混成集積回路をパツケージングすることが可能であるが、熱プレスにより溶融接着されにくい複合体からなる場合には一般の接着剤(例えば、エポキシ樹脂、シリコン樹脂)を使用してもよい。」(3ページ右上欄16行?左下欄5行)

(キ)上記記載事項(エ)から、第1図の「金属箔シート」は、「金属箔7の両面もしくは少なくとも下面に設けられた絶縁層5からなる」ものであるから、金属箔7の両側に絶縁層5が設けられた金属箔シートも開示されているものと解される。また、当該金属箔シートは、電磁シールドの機能を有するものである。

(ク)上記記載事項(オ)から、金属箔7の両側に設けられた上記絶縁層5は、熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂などの中から選択されるものであり、上記記載事項(カ)から、熱プレスにより溶融接着されにくい複合体からなる場合にはエポキシ樹脂などの接着剤を使用してもよいことが記載されている。

そうすると、上記記載事項(ア)?(ク)及び図面の記載からみて、上記刊行物Aには次の発明(以下、「刊行物A発明」という。)が記載されているものと認められる。

「複数の電子部品3を厚膜回路2を設けたセラミック基板1上に装着した混成集積回路において、上記複数の電子部品3を金属箔7の両側に熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂などの中から選択された絶縁層5が積層された金属箔シートによって被覆した電磁シールドの機能を有する混成集積回路。」

[刊行物B]
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物B(実願昭63-122556号(実開平2-42499号)のマイクロフィルム)には、「半導体素子の実装構造」に関して、図面とともに、以下の事項が記載されている。

(ケ)「本考案は、半導体素子の実装構造に関し、特にその電磁波のシールド構造に関する。」(1ページ18?19行)

(コ)「第1図は、本考案の半導体素子の実装構造の断面図である。・・・配線基板1は、ガラス、セラミックス、樹脂等であり、少なくとも表面が絶縁されており、半導体素子6の金属突起4と対応した位置に配線パターン2が形成されている。・・・配線基板1面上かもしくは、半導体素子6の金属突起4を形成した面上に樹脂3を載置する。・・・
次に、半導体素子6上の金属突起4と、配線基板1上の配線パターン2とを位置合わせし、両者を圧接する。この状態で、樹脂3は押し拡げられ金属突起4と配線パターン2とは電気的接続が得られ、ここで先に述べた硬化メカニズムに合う方法で樹脂3を硬化させると、この接続は保持されたまま、固定され続ける。
樹脂3の周囲、及び半導体素子6上には、耐湿性をさらに向上させるために絶縁樹脂9(審決注:「7」の誤記と認められる。)を塗布する。・・・
さらにこの絶縁樹脂7の上に導電性物質8を載置する。」(5ページ9行?7ページ1行)

(サ)「導電性物質8は、導電性を有するものであれば何でも良いが、一般的には載置のしやすさ、コスト等を考慮して、導電性樹脂、金属・金属酸化薄膜等が望ましい。」(7ページ1?4行)

(シ)「(3)半導体素子の実装構造が複雑になっても、導電性を有する物質は実装構造の上に直接、ごく薄く存在するだけなので、実装構造全体の体積の増加もごくわずかであり、コンパクトな実装構造を提供できる。」(9ページ8?12行)

そうすると、上記記載事項(ケ)?(シ)及び図面(特に、第1図)の記載からみて、刊行物Bには、次の技術事項を含む発明が記載されているものと認められる。

「半導体素子6を配線パターン2を形成した配線基板1上に金属突起4により接続した半導体素子の実装構造において、半導体素子6の上に絶縁樹脂7を塗布し、その上に導電性物質8を載置した、半導体素子6の電磁波のシールド構造。」

3-3.発明の対比

本願補正発明と刊行物A発明を対比する。
刊行物A発明の「電子部品3」は本願補正発明の「能動素子チップ」を含むものであるから、両者は、「半導体部品」である点で共通するものである。
刊行物A発明の「厚膜回路2」は、その機能からみて、本願補正発明の「配線」に相当し、以下同様に、「セラミック基板1」は「回路基板」に相当し、「装着した」は「搭載した」に相当する。
刊行物A発明の「混成集積回路」と本願補正発明の「高周波モジュール」とは、「半導体モジュール」である点で共通するものである。
刊行物A発明の「金属箔7の両側に熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂などの中から選択された絶縁層5が積層された金属箔シート」と、本願補正発明の「熱可塑性の接着樹脂/金属箔/耐熱性樹脂の積層構造からなる積層フィルム」とは、少なくとも「樹脂/金属箔/樹脂の積層構造からなる積層フィルム」である点で共通するものである。
刊行物A発明の上記複数の電子部品3を「被覆した」は、本願補正発明の「複数の能動素子チップの表面及び側面を被覆した」と、少なくとも「複数の半導体部品の表面を被覆した」点で共通するものである。
刊行物A発明の「電磁シールドの機能を有する混成集積回路」と、本願補正発明の「素子間干渉電波シールド型高周波モジュール」とは、少なくとも「電波シールド型半導体モジュール」である点で共通するものである。

したがって、本願補正発明の用語にならってまとめると、両者は、
「複数の半導体部品を配線を設けた回路基板上に搭載した半導体モジュールにおいて、前記複数の半導体部品を前記半導体部品側から樹脂/金属箔/樹脂の積層構造からなる積層フィルムによって、前記複数の半導体部品の表面を被覆した、電波シールド型半導体モジュール。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点1]
「半導体部品」及び「半導体モジュール」は、本願補正発明が「能動素子チップ」及び「高周波モジュール」であり、刊行物A発明では、「電子部品3」及び「混成集積回路」である点。

[相違点2]
樹脂/金属箔/樹脂の積層構造からなる積層フィルムは、本願補正発明が「前記能動素子チップ側から熱可塑性の接着樹脂/金属箔/耐熱性樹脂の積層構造からなる積層フィルム」であるのに対し、刊行物A発明では「金属箔7の両側に熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂などの中から選択された絶縁層5が積層された金属箔シート」である点。

[相違点3]
本願補正発明は、「前記複数の能動素子チップを」「隣接する前記能動素子チップ間で前記積層フィルムを分断するように前記複数の能動素子チップの表面及び側面を被覆した」「素子間干渉」電波シールド型高周波モジュールであるのに対し、刊行物A発明は、「複数の電子部品3を」「被覆した」電磁シールドの機能を有する混成集積回路である点。

[相違点4]
本願補正発明は、能動素子チップを「フリップチップボンディングにより」搭載したのに対し、刊行物A発明は、電子部品3をどのように装着したか明らかでない点。

3-4.当審の判断

(1)相違点1について
刊行物A発明は、混成集積回路において「高い電磁遮蔽性能を有するパツケージを実現する」(上記記載事項(ウ))ことを課題とするものであり、本願補正発明は、高周波モジュールにおいて実装されたチップ間の電磁波干渉を抑えることを課題とするものであるが、両者は、その解決手段として半導体モジュールの電波シールド構造に着目し、樹脂/金属箔/樹脂の積層構造からなる積層フィルムによって電波シールドをした技術思想において軌を一にするものである。そして、上記電波シールド構造は、半導体部品が電子部品か能動素子チップか、半導体モジュールが混成集積回路か高周波モジュールかに関わらず、電波シールドを必要とする部品に適用されるものであるから、その形態が混成集積回路のモジュール全体か「素子間」かについて以下の相違点3で検討することとすると、電波シールドの対象としての「電子部品3」及び「混成集積回路」を「能動素子チップ」及び「高周波モジュール」とすることは、当業者が必要に応じて選択できる設計事項である。
したがって、刊行物A発明に設計変更を加えて上記相違点1に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(2)相違点2について
樹脂/金属箔/樹脂の積層構造からなる積層フィルムは、刊行物A発明では「金属箔7の両側に熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂などの中から選択された絶縁層5が積層された金属箔シート」であるが、「熱プレスにより溶融接着されにくい複合体からなる場合には一般の接着剤(例えば、エポキシ樹脂、シリコン樹脂)を使用してもよい」(上記記載事項(カ))との記載は、電子部品3の側に設ける樹脂は熱プレスにより溶融接着されるものを選択するか、そうでない場合には接着剤を用いることが示唆されているものと解される。そうすると、電子部品3の側に設ける樹脂として、上記記載事項(オ)に記載された樹脂の中から、接着性を考慮して「熱可塑性の接着樹脂」を選択することは当業者が容易に推考できたことである。
さらに、樹脂/金属箔/樹脂の積層構造からなる積層フィルムのうち、外部環境に晒される側の樹脂は、上記積層フィルムが用いられる環境に応じて適宜選択しうるものであるところ、上記記載事項(オ)に例示された各種の樹脂の特性は技術常識として知られているところであるから、必要に応じて耐熱性の樹脂を選択することは当業者が容易に推考できたことである。
したがって、刊行物A発明の積層構造からなる積層フィルムの樹脂/金属箔/樹脂の材料を適宜選択して、熱可塑性の接着樹脂/金属箔/耐熱性樹脂とすることにより、上記相違点2に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(3)相違点3について
半導体モジュールにおいて、モジュール全体を電波シールドするか、特定の部品を個別に電波シールドするかは、必要に応じて電波シールドする対象を選択することにほかならないから設計事項にすぎない。そして、刊行物A発明は、モジュール全体を電波シールドしたものであるが、基板上に複数の半導体部品がある場合には、個別に電波シールドすることも適宜行われている周知事項である(例えば、特開2001-297905号公報(以下、「周知例1」という。)の段落【0038】?【0040】及び【図3】には、基板上に搭載されたIC、LSI等の実装部品51又は能動回路素子51(【符号の説明】)とジャンパー線とが個別に高周波電流抑制体本体11で被覆されたものが記載されている。なお、段落【0038】?【0040】と【図3】の部材番号が整合しないが、技術常識からみて【図3】における「50」が「ジャンパー線」、「52」が「基板」であるものと認められる)。したがって、上記積層フィルムが個々の半導体部品を被覆する適切な大きさにするために、適宜「隣接する前記能動素子チップ間で前記積層フィルムを分断するように被覆」して、当該半導体部品を個別にシールドすることにより「素子間干渉電波シールド型高周波モジュール」とすることは、上記設計事項の範ちゅうにおいて当業者が通常の創作能力において行い得ることである。なお、本願補正発明は、「素子間干渉電波シールド型高周波モジュール」という「物」の発明であるから、積層フィルムを「分断」するようにして半導体部品を被覆することと、半導体部品を個別に被覆することは、結果としての「物」に実質的な差異がない。
さらに、上記電波シールドは、半導体部品が単一のものか複数の半導体部品を搭載したモジュールかに拘わらず、対象となる部品又はモジュールの全体、すなわち「表面及び側面」を被覆すべきことは、その目的に照らして当然のことであって周知事項でもある(例えば、上記刊行物Bの第1図に記載された半導体素子6、周知例1のジャンパー線や実装部品51又は能動回路素子51、及び特開2001-68888号公報(以下、「周知例2」という。)の【図1】に記載されたICチップ4は、表面及び側面を含む全体が被覆されている)。このことは、上記積層フィルムによって「複数の能動素子チップ」を被覆する場合にもいえることであるから、「複数の能動素子チップ」の「表面及び側面」を被覆することは当業者が容易に推考できたことである。
したがって、刊行物A発明に上記周知事項を適用して上記相違点3に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(4)相違点4について
刊行物Bの半導体素子6は、配線パターン2を形成した配線基板1上に金属突起4により接続したものであり、「フリップチップボンディング」により半導体部品を搭載したものといえる。また、上記フリップチップボンディングによって半導体部品を搭載することは、部品が複数であっても採用されている周知事項(例えば、特開2000-195988号公報の段落【0052】及び【図1】を参照。)である。
したがって、刊行物A発明に刊行物B発明及び上記周知事項を適用して上記相違点4に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(5)相違点1?4について
上記相違点1?4を総合して判断したとしても、本願補正発明は、刊行物A、Bに記載された発明及び上記周知事項から当業者が容易に想到し得たものである。

(6)効果について
本願補正発明が奏する「高周波デバイスの簡易封止型MCMにおけるチップ間干渉ノイズのシールドが可能になり、それによって、高周波無線機器等に用いられる低コストな実装基板の実現に寄与するところが大きい。」といった効果は、刊行物A、Bに記載された発明及び上記周知事項から当業者が予測できる程度のものである。

(7)まとめ
したがって、本願補正発明は、刊行物A、Bに記載された発明及び上記周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび

以上のとおり、本願補正発明、すなわち本件補正後の請求項1に係る発明は、刊行物A、Bに記載された発明及び上記周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
よって、本願補正発明、すなわち本件補正後の請求項1に係る発明は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合しない。
したがって、本件補正は、他の補正事項を検討するまでもなく、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

【3】本願発明について

1.本願発明

平成21年8月28日付け手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?3に係る発明は、平成17年3月10日付け及び平成20年6月23日付け手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項3に係る発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりのものである。

「【請求項3】
複数の能動素子チップを配線を設けた回路基板上にフリップチップボンディングにより搭載した高周波モジュールにおいて、前記複数の能動素子チップを、前記能動素子チップ側から熱可塑性の接着樹脂/金属箔/耐熱性樹脂の積層構造からなる積層フィルムによって、前記複数の能動素子チップの表面及び側面を被覆したことを特徴とする素子間干渉電波シールド型高周波モジュール。」

2.引用刊行物とその記載事項

これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物は次のとおりであり、その記載事項は、上記【2】3-2.のとおりである。

刊行物A:特開昭60-241237号公報
刊行物B:実願昭63-122556号(実開平2-42499号)のマイクロフィルム

3.対比・判断

本願発明は、上記【2】で検討した本願補正発明の「隣接する前記能動素子チップ間で前記積層フィルムを分断するように前記複数の能動素子チップの表面及び側面を被覆した」を「前記複数の能動素子チップの表面及び側面を被覆した」に、構成を拡張するものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、審判請求時の手続補正によってさらに構成を限定した本願補正発明が、上記「【2】3-3.発明の対比」、及び「【2】3-4.当審の判断」に示したとおり、刊行物A、Bに記載された発明及び上記周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、上記のとおり構成を拡張した本願発明も実質的に同様の理由により、刊行物A、Bに記載された発明及び上記周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび

以上のとおり、本願発明、すなわち、本願の請求項3に係る発明は、刊行物A、Bに記載された発明及び上記周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そして、本願の請求項3に係る発明が特許を受けることができないものである以上、本願の請求項1及び2に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。



 
審理終結日 2011-06-06 
結審通知日 2011-06-07 
審決日 2011-06-20 
出願番号 特願2002-74253(P2002-74253)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H05K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 遠藤 邦喜  
特許庁審判長 川上 溢喜
特許庁審判官 所村 陽一
山岸 利治
発明の名称 素子間干渉電波シールド型高周波モジュール  
代理人 柏谷 昭司  
代理人 伊藤 壽郎  
代理人 眞鍋 潔  
代理人 渡邊 弘一  

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