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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 E21D |
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管理番号 | 1241016 |
審判番号 | 不服2010-527 |
総通号数 | 141 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2011-09-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2010-01-12 |
確定日 | 2011-08-04 |
事件の表示 | 特願2006-508055「ロックボルトの制御された拡張」拒絶査定不服審判事件〔平成16年11月18日国際公開,WO2004/099570,平成18年11月16日国内公表,特表2006-526093〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は,成り立たない。 |
理由 |
第1.手続きの経緯 本願は,2004年5月12日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2003年5月12日,スウエーデン国)を国際出願日とする出願であって,平成21年9月3日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,平成22年1月12日に審判請求がなされるとともに,同時に手続補正がなされたものである。 その後,当審において,平成22年8月2日付けで審査官の前置報告書に基づく審尋がなされ,平成23年2月3日付けで回答書が提出された。 第2.本願発明 本願発明は,請求項の削除を目的とする平成22年1月12日付けの手続補正により補正された,特許請求の範囲の請求項1?14に記載されたとおりのものと認められ,そのうち,請求項1に係る発明は,次のとおりのものである。 「【請求項1】 拡張すべきロックボルトに圧力源を手動接続することを含む加圧拡張可能なロックボルトの手動設置方法において, 作業者が操作手順を開始してロックボルトを予定の圧力に加圧する段階と, 上記圧力が予定の時間間隔の間一定に保持されることを確保する手段を備える制御システムを含む装置を用いて,上記操作手順によって予定の時間間隔の間予定の圧力を維持する段階と, 操作手順がうまく行われている時に上記装置によって信号を発生する段階とを含むことを特徴とする方法。」(以下,「本願発明」という。) 第3.引用刊行物 刊行物1:特開昭63-223300号公報 刊行物2:特開平10-140998号公報 1.刊行物1 原査定の拒絶の理由に引用され,本願の優先日前に日本国内において頒布された上記刊行物1には,「安定方法および安定具」に関して,図面とともに次の事項が記載されている。 (1a)「2.特許請求の範囲 1.πDに等しい周を有する鋼の細長い膨脹できる閉じた管状の安定具を用意し,Dより或る程度大きい直径を有する穿孔を,岩石の中に穿設して,管状の安定具を,穿孔の中に自由に挿入できるようにし,安定具をその底端で穿孔の中に挿入し,安定具の外端を,高液圧流体の外部源に結合し,高液圧流体の制御された供給によつて,安定具を加圧して,安定具を,半径方向膨脹によつて量Dを越えて広げ,これによつて,穿孔の不整を充たすと共に,そのまわりの岩石を弾性的に広げ,その後に安定具を,除去し,からにし,岩石と安定具の間の収縮嵌めによつて穿孔の中に残す,岩石構造体を安定化するための安定方法。 ・・・」 (1b)「第1図に図示される岩石安定具10すなわち屋根ボルトは,閉じた細長い真直で円筒形の管11を備え,これは,鋼で作られ,膨脹負荷を受けたときに一様な伸長を提供するという特性を有する。例として与えられる適当な鋼は,深絞り品質の鋼,スエーデン規格SS141147である。管11の外径をDcmとすれば,その周はπDcmになるであろう。周を変えることなしに,管は,その剛直性を増大させるために,軽く変形された或いは或る程度不規則な横断面を有することができる。管11の底端は,望ましくは摩擦溶接によつて管11に溶接された円板12によつて,しつかりと閉じられる。同様に,外端には,外向きに突出する円筒形のボス14を備えたフランジ13が,しつかりと連結される。ボス14には,管11の内部への通路16の入口15が設けられる。 安定具10は,Dcmより或る程度大きい直径で岩石構造体21に穿設された穿孔20の中に,自由に挿入される。挿入の際に,安定具10は,そのフランジ13によつて,管のまわりで岩石21に接する支持板22を保持する。 挿入の以前または以後に・・・線図的に示されたチヤツク25が,ボス14に滑り嵌めされてこれにしつかりと定置され,開口15に,ポンプ27からの500バールまでの圧力の高液圧流体が,弁26で圧力制御されて供給される。これは,安定具10の内部を加圧して,これを半径方向に膨脹させ,これによつてこの安定具が,穿孔に通常は常に存する不整を充たし,第3図に示されるように,包囲する岩石を弾性的に広げる。次いで,圧力が取除かれ,チヤツク25が取外され,故に遂には安定具から流体が逃げる。圧力の取除きの際に或る収縮が起るかも知れないが,膨脹した安定具10のまわりで,岩石21が充分に大きく収縮嵌めされるので,安定具は,穿孔20の中にしつかりと固定された状態にとどまる。液圧供給の際に,適当な圧力計その他の器具が,安定具10の半径方向液圧膨脹の制御を増大させるために使用できる。」(2頁左下欄8行?3頁左上欄8行) (1c)図3には,上記(1b)の記載事項からみて,安定具10の開口15に,ポンプ27からの高液圧流体を,弁26で圧力制御して供給する「装置」が記載されている。 そして,安定具を用いた安定方法の技術常識からみて,上記(1a)の「安定具の外端を,高液圧流体の外部源に結合し」,及び,上記(1b)の「チャック25が,ボス14に滑り嵌めされてこれにしつかりと定置され」との記載事項における「結合」及び「定置」が,作業者を介して行われる「手動接続」であることは明らかであり, 上記(1a)の「高液圧流体の制御された供給」,及び,上記(1b)の「高液圧流体が,弁26で圧力制御されて供給される」との記載事項における「供給」が,「作業者が操作手順を開始」することによって行われる事項であることも,明らかであり, 刊行物1に記載された安定方法は,作業者が安定具10を手動で設置する「手動設置方法」であることも明らかである。 また,ポンプによる加圧に係る技術常識からみて,上記(1b)の「開口15に,ポンプ27からの500バールまでの圧力の高液圧流体が,弁26で圧力制御されて供給される。これは,安定具10の内部を加圧して・・・」との記載事項における加圧の過程として,「圧力制御された圧力に加圧する段階」と,「圧力制御された圧力をかける段階」があることは明らかである。 そうすると,上記記載事項及び当業者の技術常識からみて,刊行物1には次の発明が記載されていると認められる。 「膨脹すべき安定具に,高液圧流体の外部源を手動接続することを含む,内部を加圧され半径方向に膨脹する安定具の手動設置方法において, 作業者が操作手順を開始して安定具を圧力制御された圧力に加圧する段階と, 高液圧流体を圧力制御して供給する弁を含む装置を用いて,上記操作手順によって圧力制御された圧力をかける段階を含む方法。」(以下,「刊行物1記載の発明」という。) 2.刊行物2 同じく上記刊行物2には,「地山の安定化方法」に関して,図面とともに次の事項が記載されている。 (2a)「【特許請求の範囲】 【請求項1】 地山に孔を穿孔し,この孔にロックボルトを埋め込むことで地山を安定化させる方法であって, 前記ロックボルトを中空パイプ状に形成すると共に,ロックボルトの周面に該ロックボルトの長手方向に延在する破断用凹部を形成し, 前記孔にロックボルトを挿入すると共に,このロックボルトの内部に弾性膨脹体を挿入し, 前記弾性膨脹体の内部を加圧して該弾性膨脹体を膨脹させることで前記ロックボルトを拡径させ,前記破断用凹部から破断させて前記孔に定着するようにした, ことを特徴とする地山の安定化方法。 【請求項2】 前記ロックボルトは肉厚が薄い中空パイプ状に形成され,ロックボルトが破断用凹部から破断された後,弾性膨脹体の加圧を停止して弾性膨脹体内の圧力を下げ,前記孔への定着は,前記破断時の圧力よりも低い圧力で弾性膨脹体を再度加圧し,ロックボルトの外周面を,穿孔された孔の壁部に対応した凹凸形状に塑性変形させることでなされる請求項1記載の地山の安定化方法。 ・・・」 (2b)「【0007】・・・弾性膨脹体4は,図2(A)に示すように,円筒状に所定の長さ延在し両端に心金14が取着された弾性チューブ16と,弾性チューブ16の外側に被覆された弾性材製の保護膜18と,前記弾性チューブ16内を加圧する加圧用パイプ20で構成され,弾性膨脹体4はロックボルト2内に円滑に挿入できるように,ロックボルト2の内径よりも僅かに小さな外径で形成されている。・・・」 (2c)「【0009】次に,図4に示すように,プレート10が装着されたロックボルト2をボアホール12に人力により挿入し,この状態を図5(A)に断面正面図で示す。・・・」 (2d)「【0010】次に,図2(A)で示すように,弾性膨脹体4をロックボルト2の先端に挿入し,この状態を図6(A)に断面正面図で,図6(B)に断面側面図で示す。・・・」 (2e)「【0011】次に,図2(B)で示すように,挿入した弾性膨脹体4に,加圧用パイプ20を介して液圧供給装置から液圧(この実施例では液は水である)を弾性チューブ16の内部に加え,弾性チューブ16の膨脹により保護膜18を介してロックボルト2の内面に所定の圧力(約200kgf/cm^(2) 程度)を加える。この加圧により,ロックボルト2は加圧した圧力の数倍以上の円周方向の応力が生じ,特に破断用凹部6には応力集中により更に高い応力が生じる。この破断用凹部6の高い応力がロックボルト2の引張り強さに達すると,この箇所にてロックボルト2は図2(C),図5(B),(C)に示すように破断し,裂目2002が生じるとともに,塑性変形が生じて,加圧前の外周径よりも大きな径となる。 【0012】一方,破断が生じた瞬間には弾性チューブ16の圧力が瞬間的に低下する。液圧供給装置は常に圧力をモニターする機能をもっており,この瞬間的な圧力低下を感知して瞬時に圧力供給を停止し,弾性チューブ16内の圧力を更に下げる。・・・」 (2f)「【0013】次に,ロックボルト2の先端を破断させた後,図7(A),(B)で示すように,弾性膨脹体4を破断時の圧力よりも低い圧力(約100kgf/cm^(2) 程度)で再度加圧する。破断したロックボルト2は肉厚が小さいため,この低い圧力により容易に曲げられ,ロックボルト2の外周面が孔壁1202に当たり,更に,孔壁1202の凹凸に接触した箇所では,低い圧力でも塑性加工され,図5(E),図7(A),(B)で示すように,孔壁1202の凹凸に対応した形状に塑性変形する。このように,ロックボルト2の外周面を孔壁1202に密着させロックボルト2を塑性変形するまで加圧した後は,圧力を抜いてもロックボルト2の径は初期の径よりも大きくなっており,さらにロックボルト2の外周面が孔壁1202の凹凸に対応した凹凸を持った形状を保って孔壁1202に密着する。」 そして,上記(2e)の「弾性膨脹体4に,加圧用パイプ20を介して液圧供給装置から液圧・・・を弾性チューブ16の内部に加え,弾性チューブ16の膨脹により保護膜18を介してロックボルト2の内面に所定の圧力(約200kgf/cm^(2) 程度)を加える」,「液圧供給装置は常に圧力をモニターする機能をもっており」,及び,上記(2f)の「弾性膨脹体4を破断時の圧力よりも低い圧力(約100kgf/cm^(2) 程度)で再度加圧する」との記載事項からみて,刊行物2の「液圧供給装置」が,「圧力が一定に保持されることを確保する手段を備える制御システムを含む」装置であることは,明らかである。 また,上記(2f)の「再度加圧される」段階は,「ロックボルト2の外周面を孔壁1202に密着させロックボルト2を塑性変形するまで加圧」するものであるから,ロックボルト2が塑性変形するまでの間,「予定の圧力を維持する」ものである。 そうすると,上記記載事項及び当業者の技術常識からみて,刊行物2には次の発明が記載されていると認められる。 「ロックボルトを埋め込むことで地山を安定化させる方法において,ロックボルトを拡径するため内面を加圧するにあたり,圧力が一定に保持されることを確保する手段を備える制御システムを含む装置を用いて,予定の圧力を維持する段階を含む方法。」(以下,「刊行物2記載の発明」という。) 第4.対比 本願発明と刊行物1記載の発明を対比すると, 刊行物1記載の発明の「膨脹」が本願発明の「拡張」に相当し,以下同様に,「安定具」が「ロックボルト」に,「高液圧流体の外部源」が「圧力源」に,「内部を加圧され半径方向に膨脹する」ことが「加圧拡張可能な」ことに,「圧力制御された圧力」が「予定の圧力」に,それぞれ相当する。 また,刊行物1記載の発明の「高液圧流体を圧力制御して供給する弁」と,本願発明の「圧力が予定の時間間隔の間一定に保持されることを確保する手段を備える制御システム」は,「圧力を制御するシステム」である点で共通し, 刊行物1記載の発明の「圧力制御された圧力をかける」ことと,本願発明の「予定の時間間隔の間予定の圧力を維持する」こととは,「予定の圧力をかける」ことである点で共通する。 そうすると,両者は, 「拡張すべきロックボルトに圧力源を手動接続することを含む加圧拡張可能なロックボルトの手動設置方法において, 作業者が操作手順を開始してロックボルトを予定の圧力に加圧する段階と, 上記圧力を制御するシステムを含む装置を用いて,上記操作手順によって予定の圧力をかける段階とを含む方法。」である点で一致し,次の点で相違する。 (相違点1) 予定の圧力をかける段階において,本願発明では,装置が「圧力が予定の時間間隔の間一定に保持されることを確保する手段を備える制御システム」を含んでおり,この装置を用いて,「予定の時間間隔の間予定の圧力を維持」しているのに対して, 刊行物1記載の発明では,装置がそのような制御システムを有しておらず,装置によって予定の時間間隔の間予定の圧力を維持する構成を持たない点。 (相違点2) 本願発明は,「操作手順がうまく行われている時に装置によって信号を発生する段階」を含むのに対して, 刊行物1記載の発明は,そのような段階を含まない点。 第5.判断 上記各相違点について検討する。 (相違点1について) 刊行物1及び2記載の両発明は,いずれも加圧拡張可能なロックボルトの手動設置方法に係るものであり,刊行物1記載の発明の予定の圧力をかける段階においても,ロックボルトを十分に拡張させるために,刊行物2記載の発明と同様に,予定の圧力を維持するべきことは自明であるから,刊行物1記載の発明の予定の圧力をかける段階として,刊行物2記載の発明の「圧力が一定に保持されることを確保する手段を備える制御システムを含む装置を用いて,予定の圧力を維持する段階」を適用し,装置による自動化を行うことは,当業者が容易に想到し得たことである。 そして,上述のとおり,刊行物1記載の発明の予定の圧力をかける段階で,予定の圧力を維持するべきことは自明であって,その維持にあたり,ロックボルトを十分に拡張させるため,ある一定の時間間隔を要することも自明であるから,刊行物1記載の発明において,装置による自動化を行うにあたり,圧力の保持のみならず,必要とされる「時間間隔」についても自動化の対象とすることは,当業者が適宜なし得たことに過ぎないと言うべきである。 そうすると,刊行物1及び2記載の発明に基づいて,上記相違点1に係る,装置が「圧力が予定の時間間隔の間一定に保持されることを確保する手段を備える制御システム」を含んでおり,この装置を用いて,「予定の時間間隔の間予定の圧力を維持」する構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。 したがって,刊行物1及び2記載の発明に基づいて,上記相違点1に係る事項とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。 (相違点2について) 次に,上記相違点2について検討するに, 人為的な操作手順を自動化する装置において,「操作手順がうまく行われている時に信号を発生する段階」を備えることは,様々な分野で行われている周知技術に過ぎない。 そして,刊行物1記載の発明に刊行物2記載の発明を適用して装置による自動化を行うに際して,上記周知技術を適用し,「操作手順がうまく行われている時に装置によって信号を発生する段階」を含む構成にすることは,当業者が適宜なし得た事項に過ぎない。 したがって,刊行物1及び2記載の発明並びに上記周知技術に基づいて,上記相違点2に係る事項とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。 そして,本願発明が奏する効果は,刊行物1及び2記載の発明並びに周知技術から予測できる範囲内のものであって,格別なものではない。 よって,本願発明は,刊行物1及び2記載の発明並びに周知技術に基づいて,当業者が容易に発明することができたものである。 第6.むすび 以上のとおり,本願発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2011-03-07 |
結審通知日 | 2011-03-09 |
審決日 | 2011-03-24 |
出願番号 | 特願2006-508055(P2006-508055) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(E21D)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 住田 秀弘、深田 高義 |
特許庁審判長 |
伊波 猛 |
特許庁審判官 |
宮崎 恭 山本 忠博 |
発明の名称 | ロックボルトの制御された拡張 |
代理人 | 浜野 孝雄 |
代理人 | 平井 輝一 |