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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41F |
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管理番号 | 1241018 |
審判番号 | 不服2010-2690 |
総通号数 | 141 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2011-09-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2010-02-08 |
確定日 | 2011-08-04 |
事件の表示 | 特願2001-357349「印刷時の湿し水量を調整する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 6月11日出願公開、特開2002-166527〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本件審判請求に係る出願は、平成13年11月22日(パリ条約による優先権主張2000年11月24日、独国)の出願であって、平成19年2月6日付けの拒絶理由通知に対して、同年5月14日付けで意見書及び手続補正書が提出され、又、同年11月6日付けの拒絶理由通知に対して、平成20年2月14日付けで意見書及び手続補正書が提出され、更に、同年10月23日付けの拒絶理由通知(最後の拒絶理由)に対して、平成21年1月29日付けで意見書及び手続補正書が提出されたところ、同年10月2日付けで拒絶査定がなされ、この拒絶査定に対して、平成22年2月8日付けで、拒絶査定不服審判が請求されたものである。 2.本願発明 本願の請求項1に係る発明は、平成21年1月29日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものである(以下「本願発明」という。)。 「被印刷体上に着ける湿し水量の調量を印刷速度に応じて設定する、印刷時に湿し水量を調整する方法において、 印刷工程における必要な前記湿し水量に影響を与える他の量に基づいて前記湿し水量の目標値変化量ΔWを求め、前記湿し水量の目標値Wに前記目標値変化量ΔWを加算または減算して前記目標値Wを変化させることによって、前記他の量を湿し調節器(1)用の入力パラメータとして考慮し、 前記湿し水量に影響を与える前記他の量は、版の種類と状態、行われた印刷の回数、インキ厚、印刷時間、インキの親水挙動、およびインキストライプ幅のうちの少なくとも1つを含む ことを特徴とする、印刷時の湿し水量を調整する方法。」 3.引用刊行物とそれに記載された事項及び発明 (1)原査定の拒絶の理由に引用された、本願優先権主張日前に頒布された刊行物である、特開平4-329139号公報(以下「引用文献1」という。)には、図面(特に、図4、7、8参照)と共に、次の事項が記載されている。 なお、以下、下線は審決において付すものである。 ア.段落【0005】 「【発明が解決しようとする課題】しかしながら、オフセット印刷における刷版の水膜厚は、印刷装置の作動中における周囲温度、刷版の表面温度、浸し水の温度、周囲湿度、浸し水中のアルコール濃度および版胴回転速度などの外部要因によって変動するものであり、オペレータは印刷作業中において維持すべき水膜厚の目標値を外部要因の状態の変化に合わせて適宜補正しなければならず、刷版の水膜厚を如何に正確に検出したとしても、印刷物の印刷状態を確認して目標となる水膜厚を決定する作業が必要になり、オペレータの作業を簡略化することができなかった。」 イ.段落【0007】 「この発明は、印刷作業中における刷版の表面の水膜厚が目標値に一致するように外部要因の状態を考慮しつつ給水装置の供給量を決定できるようにし、印刷作業中において外部要因の状態が如何に変化しても適正な印刷状態を維持することができるオフセット印刷の水膜厚制御装置を提供することにある。」 ウ.段落【0018】 「図4は、請求項2に記載した水膜厚制御装置のブロック図である。…(略)…。このファジィ制御装置7には、入力手段8から画像面積率計9およびインコメータ10から面積率GAおよびインク粘度INが、入力変数として入力される。…(略)…」 エ.段落【0020】 「図7および図8は、請求項3に記載した発明の実施例に係る水膜圧制御装置の構成を示すブロック図である。図7に示す水膜厚制御装置は、刷版の表面の水膜厚を検出する水膜厚センサ6の検出値KEが目標値SHに一致するように給水装置5に対して給水量KYを出力するフィードバック制御を行う定値制御装置11を備えたものである。この定値制御装置11に対してはファジィ制御装置12から目標値SHが供給される。ファジィ制御装置12は入力手段3によって入力された目標値および温度センサ4により検出された周囲温度ONを入力変数として目標値SHをファジィ推論により求める。すなわちファジィ制御装置12は、入力手段3を介してオペレータにより入力された目標値を外部要因である周囲温度ONによって補正し、この値を定値制御装置11において行われるフィードバック制御の目標値として供給する。このような構成によっても外部要因である周囲温度ONの値に応じた給水量を設定し、刷版の水膜厚を適正に維持することができる。」 オ.段落【0021】 「また、図8に示すように、ファジィ制御装置12に対する入力手段として図4に示した入力手段8を用い、画像面率計9において測定された面積率GAおよびインコメータ10において検出されたインク粘度INを周囲温度ONとともに入力変数とするファジィ推論を実行するようにしてもよい。このように構成すれば、ファジィ制御装置12は面積率GAおよびインク粘度INによって定まる目標値を外部要因である周囲温度ONの状態に応じて補正し、フィードバック制御の目標値として供給することができる。」 カ.段落【0022】 「なお、上記実施例では、初期要因として画像の面積率およびインク粘度を用い、外部要因として周囲温度を用いたが、インク色および紙質を初期要因とすることもでき、さらに版面温度、浸し水水温、周囲湿度、版胴回転速度および浸し水中のアルコール濃度を外部要因とすることもできる。この場合、インク色が墨や紅の時には給水量を多くし、黄および藍の時には少なくする。また、印刷物の紙質が平滑になるほど給水量を少なくする。さらに、版面温度が高いほど、または浸し水の水温が高い程給水量を多くし、周囲湿度が高い程、版胴回転速度が速いほど、または浸し水中のアルコール濃度が多いほど給水量を多くする。」 キ.段落【0023】 「【発明の効果】この発明によれば、刷版の表面における水膜厚を変動する外部要因の状態に応じた水膜厚の目標値を設定することにより、常に適正な印刷画像を得ることができるように刷版に対する給水量を自動的に設定でき、オペレータによる印刷状態の確認や給水量の補正を不要にできる利点がある。」 上記記載事項からみて、引用文献1には、次の発明(以下「引用文献1記載発明」という。)が開示されていると認められる。 なお、図8における、入力手段8への入力処理は、図4の入力処理と同じであるから、引用文献1記載発明の認定については、図4に関する記載も参酌する(上記ウ参照)。 又、引用文献1の図7及び図8は、互いに異なる実施例に係るブロック図であるところ、両実施例は、入力手段(3、8)への入力処理は異なるものの、入力後の処理は同じであるから、図8に係る発明(引用文献1記載発明)の認定については、図7に関する記載も参酌する(上記エ参照)。 「刷版の表面の水膜厚を検出する水膜厚センサ6の検出値KEが目標値SHに一致するように給水装置5に対して給水量KYを出力するフィードバック制御を行う定値制御装置11を備えた、印刷作業中に外部要因の状態が如何に変化しても適正な印刷状態を維持できる、水膜厚制御装置であって、 画像面積率計9およびインコメータ10から面積率GAおよびインク粘度INが、入力手段8からファジィ制御装置12に入力され、 ファジィ制御装置12は、前記入力された面積率GAおよびインク粘度INによって定まる目標値を、外部要因である周囲温度ONに応じて補正し、この値を定値制御装置11において行われるフィードバック制御の目標値として、前記定値制御装置11に対して供給することにより、 外部要因である周囲温度ONの値に応じた給水量を設定し、刷版の水膜厚を適正に維持し、 初期要因として画像の面積率およびインク粘度を用い、外部要因として周囲温度を用いる以外に、インク色および紙質を初期要因とすることもでき、版面温度、浸し水水温、周囲湿度、版胴回転速度および浸し水中のアルコール濃度を外部要因とすることもできる、 オフセット印刷の水膜厚制御装置。」 (2)同じく原査定の拒絶の理由に引用された、本願優先権主張日前に頒布された刊行物である、特開平2-273236号公報(以下「引用文献2」という。)には、次の事項が記載されている。 ク.1頁右欄20行?2頁左上欄5行 「本発明は、オフセット印刷機の印刷版上の湿し媒体量または湿し媒体層厚さを調整する方法…(略)…に関する。」 ケ.3頁右上欄5?8行 「上述の補償によって調整される外乱量は、例えば印刷速度、インキの供給量、温度または空気の流れの変化であり得る。」 4.対比 本願発明と引用文献1記載発明とを対比する。 a.一般に、印刷機においては、「水膜厚」は「湿し水量」によって定まるものであるから、本願発明の「湿し水量」と引用文献1記載発明の「水膜厚」とは同義である。 b.本願発明の「湿し調節器(1)」について、検討する。 本願発明の「前記湿し水量の目標値Wに前記目標値変化量ΔWを加算または減算して前記目標値Wを変化させることによって、前記他の量を湿し調節器(1)用の入力パラメータとして考慮し、」との特定事項、及び、本願の図1を参酌すると、本願発明は、目標値Wと目標値変化量ΔWと(測定結果と)を供給された白丸部分(図1の左端参照)において、上記目標値Wを目標値変化量ΔWにより変化させる演算を行い、変化された目標値を「湿し調節器」に供給するものと解される。 他方、引用文献1記載発明は、「ファジィ装置12」(本願図1中の白丸部分に相当)において、入力された面積率GAおよびインク粘度INにより目標値を定め、該目標値を周囲温度ONにより補正するという演算を行い、補正された目標値を「定置制御装置11」に供給するものである。 してみると、引用文献1記載発明の「定置制御装置11」は、本願発明の「湿し調節器(1)」に相当する。 なお、引用文献1記載発明の「面積率GAおよびインク粘度IN」、「周囲温度ON」が、定置制御装置用の入力パラメータであることは言うまでもない。 c.本願発明の「目標値W」が、「(印刷工程における必要な湿し水量に影響を与える)他の量」に基づいて求められる「目標値変化量ΔW」により変化される前の目標値であることは言うまでもないから、該「目標値W」は、(変化前の)予め設定される目標値、謂わば、「当初目標値」と言えるものである。 そこで、「当初目標値」が何によって設定されるか、検討する。 「目標値変化量ΔW」が「(印刷工程における必要な湿し水量に影響を与える)他の量」に基づいて求められるところ、請求項1において、当該「他の量」より先に「(印刷工程における必要な湿し水量に影響を与える)量」として記載されているものが「印刷速度」だけであることを勘案すると、本願発明の「目標値W」は、「印刷速度に応じて設定する湿し水量」のことであるのは明らかである。 そして、本願発明の(当初の)目標値Wに、他の量に基づいて求めた目標値変化量ΔWを加算または減算して変化させた目標値は、他の量に基づいて「修正された目標値」と言うことができる。 なお、ここで「他の量」について付記するに、本願発明に言う「量」とは、請求項1において例示された「版の種類と状態、行われた印刷の回数、インキ厚、…(略)…」を参酌すると、湿し水量に影響を与える「因子」或いは「要因」と言うべきものであって、所謂、物理的に測定できる重量、容量等の「量」でないことは明らかであるから、本審決においては、本願発明の「他の量」を、「他の因子」という程度の意味と解釈する。 他方、引用文献1記載発明は、「面積率GAおよびインク粘度INによって定まる目標値を、外部要因である周囲温度ONに応じて補正し、この値を定値制御装置11において行われるフィードバック制御の目標値」とするものであるところ、「面積率およびインク粘度」は初期要因であるから、これらにより定まる目標値は「初期の目標値」ということができる。 なお、「初期の目標値」と「当初目標値」とが同義であることは言うまでもない。 さらに、引用文献1記載発明の「当初目標値」は、外部要因である「周囲温度」により補正されて、フィードバック制御のために「定値制御装置11」に供給されるものである。 換言すれば、定値制御装置に供給される「フィードバック制御の目標値」は、「周囲温度」に基づいて「補正された目標値」である。 以上の認定によれば、本願発明の「印刷速度」と、引用文献1記載発明の「面積率およびインク粘度」とは、当初目標値を設定する量(因子)である点で共通するものである。 同様に、本願発明の「他の量」と、引用文献1記載発明の「周囲温度」とは、当初目標値を修正(補正)するための量(因子)である点で共通するものである。 但し、本願発明においては、「他の量」は、具体的に「版の種類と状態、行われた印刷の回数、インキ厚、印刷時間、インキの親水挙動、およびインキストライプ幅のうちの少なくとも1つを含む」と特定されており、例示される項目に「周囲温度」は含まれていないから、この点は相違点として検討する。 d.引用文献1記載発明の「フィードバック制御の目標値」は、面積率GAおよびインク粘度INによって定まる目標値を、周囲温度ONに応じて補正した目標値であるから、本願発明の「前記目標値Wを変化させ」たものに相当することは明らかである。 なお、この点は、審判請求人も、平成19年5月14日付け意見書において、認めている(同意見書2頁c.の8?9行参照)。 e.引用文献1記載発明は「オフセット印刷の水膜厚制御装置」であるところ、該制御装置が実行する処理は「オフセット印刷の水膜厚制御方法」でもあり、「オフセット印刷の水膜厚制御方法」とは、印刷時に湿し水量を調整する方法でもあるから、引用文献1記載発明は「印刷時の湿し水量を調整する方法」と言い換えることができる。 以上の点からみて、本願発明と引用文献1記載発明とは、次の点で一致する一方、次の点で相違している。 《一致点》 「被印刷体上に着ける湿し水量の調量を当初目標値を設定する量に応じて設定する、印刷時に湿し水量を調整する方法において、 印刷工程における必要な前記湿し水量に影響を与える他の量に基づいて前記目標値を変化させることによって、前記他の量を湿し調節器用の入力パラメータとして考慮する、 印刷時の湿し水量を調整する方法。」 《相違点1》 当初目標値を設定する量が、本願発明では、「印刷速度」であるのに対して、引用文献1記載発明では、面積率およびインク粘度である点。 《相違点2》 他の量が、本願発明では、「版の種類と状態、行われた印刷の回数、インキ厚、印刷時間、インキの親水挙動、およびインキストライプ幅のうちの少なくとも1つ」であるのに対して、引用文献1記載発明では、周囲温度である点。 《相違点3》 目標値を変化させる際に、本願発明は「前記湿し水量の目標値変化量ΔWを求め、前記湿し水量の目標値Wに前記目標値変化量ΔWを加算または減算して」と特定されているのに対して、引用文献1記載発明では、どのように変化させているのか明らかでない点。 5.判断 (1)相違点1について 印刷速度に応じて、湿し水の供給量を設定することは、例えば、特開平5-16334号公報(段落【0001】、【0013】等参照)、特開平1-308631号公報(3頁右上欄、6頁左上欄等参照)に記載されるように、当該技術分野における周知の技術事項であり、又、引用文献1記載発明においては、初期要因として他にインク色、紙質も列挙されており、何を当初目標値の因子とするかは、当業者が必要に応じて決定することであるから、湿し水量の目標値を設定する量(因子)を「印刷速度」とすることに格別の困難性は認められない。 (2)相違点2について 上記引用文献2には、オフセット印刷機の湿し媒体(水)量に影響を与える外乱量として「印刷速度、インキの供給量、湿度または空気の流れの変化」が記載されている。 ところで、「インキ厚」は「インキの供給量」により定まるものであるから、本願発明の「インキ厚」と引用文献2に例示された「インキの供給量」とは同種の外乱量である。 してみると、湿し水量に影響を与える「他の量」として、「インキ厚」を採用すること自体、格別に困難なこととも認められない。 又、引用文献1記載発明においては、外部要因として他に、版面温度、湿し水水温、周囲湿度、版胴回転速度、湿し水中のアルコール濃度が列挙されており、更に、本願発明において、「インキ厚」以外に例示された「版の種類と状態、印刷時間、…(略)…」についても、当業者が、湿し水量に影響を与える量(因子)として、普通に想定できる技術事項と認められるから、この点からみても、相違点2を格別のものとすることはできない。 (3)相違点3について 引用文献1には、目標値を補正する際にどのように補正するかについて、具体的記載はない。 しかしながら、補正した目標値を得るために、補正値を得、目標値に補正値を加算または減算することにより補正目標値を算出することは、最も一般的な演算であるから、引用文献1記載発明において、前記一般的な演算を採用し、相違点3のような構成とすることは、当業者が容易になし得る程度のことである。 (4)まとめ 以上のとおりであるから、上記各相違点に係る特定事項は、当業者が適宜想到可能なものであり、それにより得られる作用効果も当業者であれば容易に推察可能なものであって、格別なものとは言えない。 したがって、本願発明は、引用文献1記載発明、引用文献2記載の技術事項、及び、周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 6.むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明を検討するまでもなく、本願は、拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2011-03-03 |
結審通知日 | 2011-03-09 |
審決日 | 2011-03-23 |
出願番号 | 特願2001-357349(P2001-357349) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(B41F)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 亀田 宏之 |
特許庁審判長 |
長島 和子 |
特許庁審判官 |
星野 浩一 藏田 敦之 |
発明の名称 | 印刷時の湿し水量を調整する方法 |
代理人 | 宮崎 昭夫 |
代理人 | 石橋 政幸 |
代理人 | 緒方 雅昭 |