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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) E04F |
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管理番号 | 1241033 |
審判番号 | 不服2010-9945 |
総通号数 | 141 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2011-09-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2010-05-10 |
確定日 | 2011-08-04 |
事件の表示 | 特願2005-347251「化粧建築板」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 6月21日出願公開、特開2007-154431〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯・本願発明 本願は,平成17年11月30日の出願であって,平成22年2月2日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,同年5月10日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに,同時に手続補正がなされたものである。 その後,平成23年3月17日付けで拒絶の理由を通知したところ,同年5月9日付けで審判請求人から意見書及び手続補正書が提出された。 本願の請求項1に係る発明は,平成23年5月9日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される,以下のとおりのものである。 「【請求項1】 基材の表面に,受理層,インクジェット層,クリアー層,無機質塗料層,光触媒塗料層をこの順に積層すると共に,前記受理層が,前記基材の表面に体質顔料及び吸湿性樹脂が配合された水性塗料を塗布量30?200g/m^(2)・wetで塗布して形成され,前記クリアー層が,前記インクジェット層の表面に化粧骨材が配合された水性塗料を塗布量20?200g/m^(2)・wetで塗布し,これを100?200℃で30秒以上5分以下焼き付けることによって形成され,前記無機質塗料層が,前記クリアー層の表面に無機質塗料を塗布量4?40g/m^(2)・dryで塗布して形成され,前記光触媒塗料層が,前記無機質塗料層の表面に光触媒塗料層形成用塗料を塗布量0.5?5g/m^(2)・dryで塗布して形成されて成ることを特徴とする化粧建築板。」(以下,「本願発明」という。) 2.刊行物及びその記載内容 刊行物1:特開2005-13939号公報 刊行物2:登録実用新案第3071035号公報 (1)刊行物1について 平成23年3月17日付けの拒絶理由通知書で通知され,本願出願前に頒布された刊行物である上記刊行物1には,以下の記載がある。 (1a)「【請求項1】 表面に下塗り着色塗膜を予め施した無機質板の表面にインクジェットプリンターのノズルからインクの吐出を行い模様付けをした後,該無機質板全面にクリヤー塗料を塗装する無機質板の製造方法であって,インクジェットプリンターによる模様付けの画質精度が,基材の横方向,縦方向共100?600DPIの範囲にあることを特徴とする無機質化粧板の製造方法。」 (1b)「【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は建築内装材や外装材などの分野において利用される無機質化粧板の製造方法に関するものである。」 (1c)「【0013】 また本発明で使用する,インクのにじみを防止能力のある模様付けのための下層塗膜を形成する塗料は,樹脂,顔料,インクにじみ防止剤及び希釈剤を,含有成分として構成されるもので,・・・ ・・・ 【0014】 また,顔料として(代表的なものとして)酸化チタン,酸化鉄,複合酸化物(ニッケル・チタン系,クロム・チタン系,ビスマス・バナジウム系),カーボンブラック等の無機系着色顔料や,褪色に影響しない程度で使用されるキナクリドン,ジケトプロロピール,ベンズイミダゾロン,イソインドリノン,アンスラピリミジン,フタロシアニン,スレン,ジオキサジン等の有機系着色顔料,更に炭酸カルシウム,硫酸バリウム,カオリン,マイカ,タルク等の体質顔料が有用に使用できる。これらの顔料は少なくとも1種以上を使用する。 ・・・ 【0016】 また,希釈剤としては,水または水と親水性有機溶媒の混合物が,有機溶剤の大気中への放散が少なく好ましいのであるが,トルエン,キシレン等の芳香族炭化水素類,酢酸エチル,酢酸ブチル等の酢酸エステル類,メチルエチルケトン,メチルイソブチルケトン等のケトン類,イソプロピルアルコール,ブチルアルコール等のアルコール類,更には各種の脂肪族炭化水素類,グリコールエーテル類等の混合物であってもよい。 【0017】 本発明で使用するインクの滲まない下塗り塗膜を形成する下塗り塗料は,以上に説明した樹脂,顔料,にじみ防止剤及び希釈剤を主成分とし,更に必要に応じて各種の添加剤,改質剤を適宜混合して使用することができる。各種の添加剤,改質剤としては・・・水分捕捉剤・・・等がある。・・・」 (1d)「【0024】 本発明で使用するクリヤー塗料については,無機質化粧板の製造において従来から一般的に用いられている如何なるクリヤー塗料も使用可能であるが,アクリル共重合体,ヒンダードアミン基含有アクリル共重合体,加水分解性シリル基含有アクリル共重合体,含フッ素共重合体,加水分解性シリル基含有含フッ素共重合体,アルコキシシラン縮合体からなる群から選ばれる少なくとも1種をバインダーとして含有する,クリヤー塗料を用いることが高度の耐候性能を得る上で好ましい。 【0025】 なお,本発明で使用するクリヤー塗料は,透明性を失わない範囲で艶消し剤を含む体質顔料,着色顔料あるいはカラーマイカ,ウレタン系,アクリル系等の着色ビーズ,ウレタン系,アクリル系等の透明ビーズ,鱗片状黒鉛,鱗片状酸化鉄,メッキ処理ガラスフレーク,アルミ箔カラークリヤー塗布切断品等の各種顔料類の配合が可能である。 【0026】 更に,必要に応じ添加剤,改質剤を適宜混合して使用することができる。各種の添加剤,改質剤としては,分散剤,沈殿防止剤,表面改質剤,紫外線吸収剤,光安定剤,水分捕捉剤,電導度調整剤,界面活性剤等がある。これらの成分はバインダーの固形分100重量部に対し0.1?10重量部の範囲で使用可能である。 【0027】 斯くして得られる耐候性に優れた上塗りクリヤー塗料は,常法のエアースプレー,エアレススプレー,静電塗装,ロールコーター,フローコーター等公知の塗装方法を使用して好適に塗布できる。また上塗りクリヤーは,インクの塗布膜が未乾燥状態でも,あるいは乾燥状態いずれの時でも塗り重ねることが可能である。すなわち,上塗りクリヤーをインク塗装膜が未乾燥の時に塗り重ねる場合は2秒間?10分間程度の,インターバルをおいて塗り重ねる。また上塗りクリヤーをインク塗装膜が乾燥した後に塗り重ねる場合は,概ね2時間以上放置した後に塗り重ね,またインク塗装膜を強制乾燥させる場合には,インクの組成に対応したインク塗装膜から溶媒を40重量%揮発させる加熱条件を施した後に塗り重ねる。また本上塗りクリヤーの乾燥条件は常温?180℃の温度範囲にて3分?24時間である。」 (1e)「【0032】 なお,本発明において得られた無機質化粧板表面に,耐汚染性,耐摩耗性,耐候性,耐久性を付与させるため,更にクリヤー塗料を塗装する。このクリヤー塗料は常法のエアースプレー,エアレススプレー,静電塗装,ロールコーター,フローコーター等公知の塗装方法を使用して好適に塗装できる。」 (1f)「【0033】 【実施例】 以下,実施例及び比較例により,本発明を更に詳細に説明する。 【0034】 表1に記載の基材を用い,また表1に記載の塗料,インク及び塗装条件,模様付け条件,乾燥条件を用いて,高画質の意匠性化粧板を作製した。なお,実施例及び比較例で用いた塗料組成物及びインク組成物は,表1の後に記した。また,塗料組成物及びインク組成物の説明中の「部」は重量基準である。」 (1g) (1h) (1i)「【0041】 [使用塗料の説明] ・・・ 【0045】 <下塗3> ヨドゾールAD-93(日本エヌエスシー社製商品名;塗料用弾性のあるスチレンアクリル樹脂エマルジョン,加熱残分45±2wt%):30部,チタン白:20部,炭酸カルシウム:9部,HU720:11部,水:25部,添加剤(増粘剤,分散剤,成膜助剤,消泡剤等):5部,からなる組成物。 ・・・ 【0061】 <上塗り3> アクリセット210E(日本触媒社製商品名;アクリル樹脂エマルション,加熱残分49±1.5wt%):70部,エチレングリコールモノブチルエーテル:4部,テキサノール:2部,タルク:4部,消泡剤:0.2部,水:20部,からなる組成物。 【0062】 <上塗り4> ユータブルE-10(日本触媒社製商品名;高耐候性アクリル樹脂エマルション,加熱残分50±1wt%):70部,エチレングリコールモノブチルエーテル:3部,テキサノール:1.5部,タルク:4部,消泡剤:0.2部,水:22部,からなる組成物。 【0063】 <上塗り5> ポリデュレックスG621(旭化成工業社製商品名;シリコン変性アクリル樹脂エマルション,加熱残分40.5?42.5wt%):70部,エチレングリコールモノブチルエーテル:4部,テキサノール:2部,タルク:4部,消泡剤:0.2部,水:20部,からなる組成物。 【0064】 <上塗り6> ルミフロンFE3000(旭硝子社製商品名;フッ素含有ビニル共重合体エマルション,加熱残分50±2wt%):70部,エチレングリコールモノブチルエーテル:2部,テキサノール:1部,タルク:4部,消泡剤:0.2部,水:23部,からなる組成物。」 上記記載事項(1a)によれば,刊行物1記載の無機質化粧板は「表面に下塗り着色塗膜を予め施した無機質板の表面にインクジェットプリンターのノズルからインクの吐出を行い模様付けをした後,該無機質板全面にクリヤー塗料を塗装する」ことにより得られるものであるから,刊行物1記載の無機質化粧板が,無機質板の表面に,下塗り着色塗膜,インクジェットプリンターで模様付けした部分,上塗りクリヤー塗料の塗装をこの順に積層したものであることは明らかである。 よって,上記記載事項(1a)?(1i)によれば,刊行物1には,以下の発明が記載されているものと認められる。 「無機質板の表面に,体質顔料及び樹脂が配合された塗料を塗布して形成された下塗り着色塗膜,インクジェットプリンターで模様付けした部分,上塗りクリヤー塗料の塗装をこの順に積層して得られる無機質化粧板であって,上塗りクリヤー塗料は,常温?180℃の温度範囲にて3分?24時間乾燥させるものである,無機質化粧板。」 (2)刊行物2について 同じく上記刊行物2には,以下の記載がある。 (2a)「【請求項1】(a)基材シート,(b)骨材が分散された合成樹脂層,(c)無機バインダー,無機-有機ハイブリッドポリマーバインダー,合成樹脂バインダーからなる群から選ばれた透明なマトリックス中に紫外線吸収剤が分散された紫外線吸収層,(d)無機バインダー,または,無機-有機ハイブリッドポリマーバインダーからなる透明なマトリックス中に光触媒が分散されたトップ層とからなる建築物または構築物表面仕上用装飾材。」 (2b)「【0005】 本考案は,かかる従来の合成樹脂材料を含有する建築物または構築物表面仕上用装飾材の問題点を解決し,表面防汚機能がすぐれ,更に優れた高耐候性を有する建築物または構築物表面仕上用装飾材を提供することを目的とする。」 (2c)「【0036】 また,布状シート基材が好ましいのは,装飾材の可撓性を阻害しないので,曲面にも施工できる点である。布状物以外に用いられる基材シートとしては,例えば木材板,木材合板,コンクリートパネル押出成形セメント板,石膏ボード,硅カル板(硅酸カルシウム板),アルミニウムシートや亜鉛引鋼板その他の金属板,金属金網,エキスパンドメタル,ゴムシート,合成樹脂シート,発泡体シートなどを用いてもよい。」 (2d)「【0041】 無機バインダーとしては,無機の透明な塗材層が形成できるものが用いられ,無機ガラス層が形成できるものが好ましく用いられる。形成されるガラス層の例としては,SiO_(2),Al_(2)O_(3),SiO_(2)-Al_(2)O_(3)またはSiO_(2)-TiO_(2)等のガラスが挙げられる。 【0042】 無機系のガラス層の原料としては,RSi(OR)_(3)やSi(OR)_(4)(但しRは炭素数10以下の低級アルキル基を示す。)などのアルキルトリアルコキシシラン類やテトラアルコキシシランなどを加水分解して,更に低級アルコールと縮合させて,ポリシロキサンオリゴマーとしたものを塗布後,加熱硬化させたポリシロキサン類が好適である。市販品としては,例えば,JSR株式会社の「グラスカ」のグレード「HPC7002」,「HPC7501」,「HPC7004」,「HPC7003」などが挙げられる。 【0043】 その他,無機のガラス層を形成し得る無機バインダーとしては,金属アルコキシドを用いて,加水分解,熱処理により,ゲル化させて得られるものが挙げられる。」 (2e)「【0049】 上述したような無機バインダーあるいは無機-有機ハイブリッドポリマーバインダーは,それ自体の耐候性が優れているので,合成樹脂バインダーを用いるより,よりすぐれた耐久性を有する装飾材が得られる。」 (2f)「【0050】 つぎに,最外層となる(d)無機バインダー,または,無機-有機ハイブリッドポリマーバインダーからなる透明なマトリックス中に光触媒が分散されたトップ層の光触媒としては,光のエネルギーで励起され,酸化還元反応を促進するいわゆる光触媒であれば特に限定されるものではないが,通常,酸化チタンが酸化反応を促進する機能が大きく好ましい。なかでも結晶型がアナターゼ型の酸化チタンがより好適である。」 3.対比 本願発明と刊行物1記載の発明とを対比すると,刊行物1記載の発明の「無機質化粧板」は,本願発明の「基材」に相当する。 刊行物1記載の発明の「下塗り着色塗膜」は,インクの滲みを防止するものであるから,本願発明の「受理層」に相当する。 刊行物1記載の発明の「インクジェットプリンターにより模様付けした部分」及び「上塗りクリヤー塗料の塗装」は,それぞれ,本願発明の「インクジェット層」及び「クリアー層」に,相当する。 本願発明の「焼き付ける」とは,所定の温度(100?200℃)で加熱して乾燥させることを意味するものであるところ,刊行物1記載の発明も,常温?180℃の温度範囲で乾燥させるものであり,また,刊行物1の実施例においても120℃で乾燥させているから,本願同様,「焼き付ける」こと,すなわち,加熱して乾燥させるものを含むことは明らかである。 よって,両者は,以下の一致点,相違点を有する。 一致点 「基材の表面に,体質顔料及び樹脂が配合された塗料を塗布して形成された受理層,インクジェット層,クリアー層をこの順に積層すると共に,上記クリアー層が,インクジェット層の表面に塗料を塗布し,所定の条件の範囲において焼き付けることによって形成されて成る化粧建築板。」 相違点1 本願発明は,クリアー層の上にさらに,無機質塗料層,光触媒塗料層がこの順に積層するものであり,それぞれの塗料の塗布量が「無機質塗料を塗布量4?40g/m^(2)・dry」,「光触媒塗料層形成用塗料を塗布量0.5?5g/m^(2)・dry」とされているのに対し,刊行物1記載の発明は,このような層を設けておらず,当然,塗料の塗布量は示されていない点。 相違点2 本願発明は,受理層の塗料が水性塗料に特定されており,該塗料は「吸湿性樹脂」が配合されたものとされ,また,水性塗料の塗布量の範囲が30?200g/m^(2)・wetに特定されているのに対し,刊行物1記載の発明は,受理層の塗料として水性塗料を使用する実施例が記載されているものの塗料が水性塗料に特定されたものではなく,塗料に吸湿性樹脂が配合されることは開示されておらず,また,水性塗料の塗布量の範囲が30?200g/m^(2)・wetに特定されたものでもない点。 相違点3 クリアー層を形成する塗料が,本願発明は,化粧骨材が配合された水性塗料であるのに対し,刊行物1には,実施例としてクリアー層を形成する塗料として水性塗料を使用する例が記載され(実施例3?6),また,クリアー層を形成する塗料にカラーマイカ,透明ビーズ等が配合可能であることが記載されている(記載事項(1d))ものの,刊行物1記載の発明は,塗料が水性塗料に特定されたものではなく,また,化粧骨材が配合されたものにも特定されていない点。 相違点4 相違点3に関連して,本願発明は,クリアー層を,化粧骨材が配合された水性塗料で形成するにあたり,塗布量及び焼き付けの温度及び時間を,塗布量20?200g/m^(2)・wet,100?200℃で30秒以上5分以下と特定しているのに対し,刊行物1記載の発明は,クリアー層を形成する塗料とその塗布量を特定しておらず,焼き付けの温度については常温?180℃であって,本願発明の100?200℃とは重複する範囲を有するものの異なる範囲であり,焼き付け時間についても,3分?24時間であって,本願発明の30秒?5分とは重複する範囲を有するものの異なる範囲である点。 4.判断 (1)相違点1について 上記相違点1について,まず,無機質塗料層,光触媒塗料層をこの順でさらに形成する点について検討する。 刊行物2には,表面防汚性能が優れ,耐候性の高い外装材を得るために,骨材が分散された合成樹脂層の上に,透明な無機バインダーに紫外線吸収剤が分散された層,透明な無機バインダーに光触媒が分散されたトップ層とをこの順に積層する技術が記載されている。 刊行物2記載の上記技術は,合成樹脂層を耐候性に優れた無機バインダーで保護する(記載事項(2d))とともに紫外線吸収剤で耐候性に優れたものとし,さらにトップ層を光触媒を含む層とすることによって外装材を表面防汚性能に優れたものとしているものと認められる。 刊行物2記載の技術は,耐候性の高い外装材を得るために外装材の表面をコートする透明な被覆を形成するものであるところ,刊行物1記載の発明も,建築内装材としての使用とともに外装材としての使用が想定されているものである(記載事項(1b))から,刊行物1記載の発明を外装材として用いるにあたり,耐候性をさらに高いものとし,また,表面防汚性能が優れたものとするために,刊行物2の上記技術を採用し,クリアー層の上にさらに透明な無機質塗料層,透明な光触媒塗料層をこの順で積層することは,当業者が容易になし得ることである。 上述のように,刊行物2記載の被覆も透明であるから,刊行物1記載の発明の化粧建築板に適用しても,インクジェット層が見えなくなる等の不都合が生じるものではない。 また,耐候性,耐久性の向上は化粧建築板全般に共通する課題であり,インクジェット層によって模様付けがされているか否かによって課題の有無が変わるといったものではない。 次に,無機質塗料,光触媒塗料層形成用塗料の塗布量について,検討する。 無機質塗料,光触媒塗料層形成用塗料の具体的な塗布量である,「無機質塗料の塗布量4?40g/m^(2)・dry」,「光触媒塗料層形成用塗料の塗布量0.5?5g/m^(2)・dry」との数値について検討するために本願明細書をみると,本願明細書には,以下のように記載されている。 「また,無機質塗料層5を形成するにあたっては,クリアー層4の表面に無機質塗料を塗布量4?40g/m^(2)・dryで塗布するのが好ましい。塗布量が4g/m^(2)・dryより少ないと,耐候性及び耐久性を十分に得ることができないおそれがあり,逆に,塗布量が40g/m^(2)・dryより多いと,硬化収縮が大きくなるおそれがある。」(【0025】) 「また,光触媒塗料層6を形成するにあたっては,無機質塗料層5の表面に光触媒塗料層形成用塗料を塗布量0.5?5g/m^(2)・dryで塗布するのが好ましい。塗布量が0.5g/m^(2)・dryより少ないと,防汚性を十分に得ることができないおそれがあり,逆に,塗布量が5g/m^(2)・dryより多いと,化粧建築板が乳白色となり,意匠性が低下するおそれがある。」(【0026】) これら記載から,本願発明における無機質塗料,光触媒塗料層形成用塗料の塗布量を規定する技術的意義は,塗布量の数値範囲の下限は,必要な耐候性及び耐久性/防汚性が得るためのものであり,上限は塗布による不都合を生じないようにするためのものと認められる。 すなわち,本願発明の無機質塗料の塗布量4?40g/m^(2)・dry,光触媒塗料層形成用塗料の塗布量0.5?5g/m^(2)・dryとの具体的数値には,臨界的な意義があるものではなく,上述の「所望の効能が得られ,かつ,不都合を生じない範囲に設定する」という以上の技術的意義を認めることができないものである。 そして,刊行物1記載の発明において刊行物2記載の技術を採用して無機質塗料層,光触媒塗料層を形成する際にも,無機質塗料,光触媒塗料層形成用塗料として選択される具体的な塗料に応じて,所望の効能が得られ,かつ,不都合を生じないように塗布量の上限及び下限を定めることは当業者が適宜なすべきことであり,その数値を,実験等を行うより無機質塗料の塗布量4?40g/m^(2)・dry,光触媒塗料層形成用塗料の塗布量0.5?5g/m^(2)・dryと定めることは当業者の通常の創作能力の発揮に過ぎない。 よって,刊行物1記載の発明に刊行物2記載のような無機質塗料層,光触媒塗料層を形成するにあたり,無機質塗料,光触媒塗料層形成用塗料の塗布量を,無機質塗料の塗布量4?40g/m^(2)・dry,光触媒塗料層形成用塗料の塗布量0.5?5g/m^(2)・dryとすることは,当業者が容易になし得ることである。 (2)相違点2について 上記相違点2について,まず,受理層を塗料を水性塗料に特定することについて検討する。 刊行物1には,「希釈剤としては,水または水と親水性有機溶媒の混合物が,有機溶剤の大気中への放散が少なく好ましい」ことが記載されており(記載事項(1c)),また,実施例として,受理層(下塗り塗装)を水性塗料で形成することが示されている(実施例3?6)から,刊行物1記載の発明において,環境への影響等を考慮して受理層を水性塗料で形成されているものに特定することは,当業者が容易になし得ることである。 次に,塗料が吸湿性樹脂が配合されたものとすることについて検討する。 インクジェットプリンターのインク受理層に吸湿性樹脂を配合することは,例えば特開2002-59695号公報【0011】に記載のように通常行われることであり,刊行物1記載の発明において受理層を形成する水性塗料を吸湿性樹脂が配合されたものとすることは当業者が適宜なし得ることである。 最後に,水性塗料の塗布量を30?200g/m^(2)・wetとする点について検討する。 刊行物1には,実施例として,水性塗料を塗布量90g/m^(2)塗布して受理層を形成することが記載されている(記載事項(1g)(1h)実施例3?6)。 本願発明の30?200g/m^(2)・wetとの数値範囲は,刊行物1記載の実施例における水性塗料の塗布量が90g/m^(2)であって本願発明の数値範囲内であるように,通常使用される値であり,塗布量30g/m^(2)・wet,200g/m^(2)・wetとの数値に臨界的意義があるとも認められないから,インク受理層として達成すべき性能や使用する塗料の種類等を考慮して,受理層を構成する水性塗料の塗布量を30?200g/m^(2)・wetとすることは,当業者が適宜なし得ることである。 (3)相違点3について 刊行物1には,実施例として,水性塗料(成分については記載事項(1i)を参照。)でクリヤー層を形成することが記載されている(実施例3?6)。 また,刊行物1には,受理層(下層塗膜)の希釈剤として,水または水と親水性有機溶媒の混合物が,有機溶剤の大気中への放散が少なく好ましいことが記載されており,このような水性の希釈剤が環境の面から好ましいのは受理層に限られないことは明らかであるから,刊行物1において,環境への影響等を考慮してクリアー層を形成する塗料を水性塗料に特定することは当業者が容易になし得ることである。 刊行物1には,さらに,クリヤー層を形成する塗料がカラーマイカ,アクリル系等の着色/透明ビーズを配合可能であることが記載されており(記載事項(1d)),刊行物1記載の発明において,意匠性を考慮してこのような材料を配合して,クリヤー層を形成する材料を「化粧骨材が配合された水性塗料」とすることは,当業者が容易になし得ることである。 (4)相違点4について 刊行物1には,実施例として,水性塗料を塗布量75g/m^(2)で120℃×10分の乾燥条件で乾燥させてクリヤー層を形成することが記載されている(記載事項(1g)(1h)実施例3?6)。 ここで,クリアー層の塗布量及び焼き付け(乾燥条件)の数値範囲について検討する。 まず,塗布量について検討する。本願発明の20?200g/m^(2)・wetとの数値範囲は,刊行物1記載の実施例の塗布量も75g/m^(2)であって本願の数値範囲内であるように,通常使用される値であり,塗布量20g/m^(2)・wet,200g/m^(2)・wetとの数値に臨界的意義があるとも認められないから,達成すべき下層の保護の程度や使用する塗料の種類等を考慮して塗布量を20?200g/m^(2)・wetとすることは,当業者が容易になし得ることである。 次に,焼き付け(乾燥)条件について検討する。 本願発明は乾燥温度を「100?200℃」とするものであるが,刊行物1記載の発明も「常温?180℃の温度範囲にて3分?24時間乾燥させる」ものであるとともに,実施例(実施例3?6)においては,本願の数値範囲内に含まれる塗布量の水性塗料を,「120℃」という本願の数値範囲に含まれる温度で乾燥しており,また,「100℃」,「200℃」との上限,下限の数値に臨界的意義が認められるものではないから,塗料の耐熱性,塗布量等を考慮して加熱して乾燥する際の焼き付けの温度を「100?200℃」と特定することは当業者が容易になし得ることである。 乾燥時間についても,塗布量,乾燥温度等も考慮して塗膜が乾燥する程度の時間を当業者が適宜設定すればいいものであり,また,「30秒」,「5分」との上限,下限の数値に臨界的意義が認められるものではないから,乾燥時間を「30秒?5分」とすることは,当業者が容易になし得ることである。 なお,本願発明のクリアー層の焼き付け乾燥は,インクジェット層の滲みを防止すると同時に,上に積層する無機塗料層の造膜に悪影響を及ぼさないようにすることを意図したものであるが,クリアー層の上にさらに他の層を積層するにあたって,上の層の形成に支障がない程度に乾燥させておくことは技術常識であり(例えば,刊行物1の実施例においても,下塗り塗装,上塗り塗装等の各層ごとに乾燥処理を施している),当業者が当然に考慮すべきことである。 また,水性塗料を塗布量20?200g/m^(2)程度で塗布した際の乾燥条件として,「100?200℃で30秒以上5分以下」は,上述のように,一般的に用いられる程度のものであって,上層積層のために特に数値範囲を選択したもの,例えば,水性塗料層上の無機質塗料層の造膜に悪影響を及ぼさないために,従来のものより長時間の焼き付け乾燥の時間を選択したようなものとは認められない。 以上検討したように,刊行物1記載の発明において,クリアー層を形成する塗料を,化粧骨材が配合された水性塗料とし,水性塗料を塗布量20?200g/m^(2)・wetで塗布し,これを100?200℃で30秒以上5分以下焼き付けることによってクリアー層を形成することは,当業者が容易になし得ることである。 (5)本願発明の作用効果について 本願発明の作用効果について検討すると,「受理層を水性塗料で形成し,クリアー層を化粧骨材が配合された水性塗料で形成しているので,環境負荷を低減することができると共に,意匠性を向上させることができる」,「インクの定着性及び発色性に優れている」との効果は,受理層及びクリアー層を水性塗料で形成すること,及び,クリアー層に化粧骨材を配合することが記載されている刊行物1から予測し得る効果である。 本願発明の「無機質塗料層によって化粧建築板の耐候性を向上させることができると共に,光触媒塗料層によって化粧建築板の防汚性を向上させることができる」という効果は,刊行物2から予測し得る効果である。 本願発明の,クリアー層上に無機塗料層を形成する際に乾燥を十分に行うことにより造膜性を悪化させることを防止して「耐温湿性の高い化粧建築板が得られる」という効果は,層を形成する際には下の層をよく乾燥させておく等して上の層の形成に支障がないようにしておくとの技術常識から予測し得る効果である。 本願発明のその他の効果も,刊行物1,2記載の発明及び周知技術から予測し得る程度のものである。 したがって,刊行物1,2記載の発明及び周知技術に基づいて本願発明を構成することは,当業者が容易になし得ることである。 5.むすび 以上のとおり,本願発明は,刊行物1,2記載の発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり,本願は拒絶をすべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2011-05-30 |
結審通知日 | 2011-05-31 |
審決日 | 2011-06-17 |
出願番号 | 特願2005-347251(P2005-347251) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(E04F)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 油原 博 |
特許庁審判長 |
山口 由木 |
特許庁審判官 |
宮崎 恭 土屋 真理子 |
発明の名称 | 化粧建築板 |
代理人 | 森 厚夫 |
代理人 | 西川 惠清 |