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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1241035
審判番号 不服2010-11548  
総通号数 141 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-09-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-05-31 
確定日 2011-08-04 
事件の表示 特願2003-361873「光偏向器及び光学装置」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 5月19日出願公開、特開2005-128147〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は、平成15年10月22日の出願であって、平成21年11月19日付けで拒絶理由が通知され、平成22年1月25日に手続補正がなされたが、同年2月19日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年5月31日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同時に手続補正がなされたものである(以下、この平成22年5月31日にされた手続補正を「本件補正」という。)。

II.本件補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
本件補正は、本願特許請求の範囲の請求項1について、本件補正前の
「【請求項1】
圧電ユニモルフ振動板と、前記圧電ユニモルフ振動板の一端を固定して支持する空洞部を有した支持体と、前記圧電ユニモルフ振動板に接続された弾性体と、前記弾性体に接続され、該弾性体を介して前記圧電ユニモルフ振動板の駆動により前記空洞部内で回転振動する反射板とを有し、前記圧電ユニモルフ振動板、支持体、弾性体及び反射板とが一体形成された光偏向器であって、前記圧電ユニモルフ振動板は前記反射板の回転軸を挟んで対称に配置した一対あるいは二対の振動板から構成されると共に、前記圧電ユニモルフ振動板を構成する圧電素子は前記支持体上に直接成膜された圧電膜から成り、前記弾性体は前記反射板の重心位置を挟んで両側に接続された一対の弾性支持部から成り、各々の前記振動板において互いに180°位相が異なる二つの交流電圧が印加されることによって夫々の前記圧電素子が駆動され、該圧電素子の駆動が前記一対の弾性支持部を回転軸とする所定変位角の回転運動に変換されることによって前記反射板を回転振動させ該反射板に入射する入射光を偏向させるようにしたことを特徴とする光偏向器。」を
「【請求項1】
圧電ユニモルフ振動板と、前記圧電ユニモルフ振動板の一端を固定して支持する空洞部を有した支持体と、前記圧電ユニモルフ振動板に接続された弾性体と、前記弾性体に接続され、該弾性体を介して前記圧電ユニモルフ振動板の駆動により前記空洞部内で回転振動する反射板とを有し、前記圧電ユニモルフ振動板、支持体、弾性体及び反射板とが一体形成された光偏向器であって、前記圧電ユニモルフ振動板は前記反射板の回転軸を挟んで対称に配置した二対の振動板から構成されると共に、前記圧電ユニモルフ振動板を構成する圧電素子は前記支持体上に直接成膜された圧電膜から成り、前記弾性体は前記反射板の重心位置を挟んだ両側で前記反射板と前記支持体とを回転軸を同一として接続する一対の弾性支持部と、それぞれ一端が前記支持体で保持された前記二対の振動板それぞれの他端と前記反射板とを連結し且つ前記弾性支持部に対して対称に配置された先端駆動部とから成り、各先端駆動部の幅は前記弾性支持部の幅よりも大きくねじれにくいように設定され、前記各々の振動板において互いに180°位相が異なる二つの交流電圧が印加されることによって夫々の前記圧電素子が駆動され、該圧電素子の駆動が前記一対の弾性支持部を回転軸とする所定変位角の回転運動に変換されることによって前記反射板を回転振動させ該反射板に入射する入射光を偏向させるようにしたことを特徴とする光偏向器。」と補正するものである。

ここで、本件補正前の請求項1(以下「補正前請求項」という。)は、「前記圧電ユニモルフ振動板に接続された弾性体と、前記弾性体に接続され、該弾性体を介して前記圧電ユニモルフ振動板の駆動により前記空洞部内で回転振動する反射板とを有し」及び「前記弾性体は前記反射板の重心位置を挟んで両側に接続された一対の弾性支持部から成り」との発明特定事項を有するものであるから、補正前請求項における「弾性体」は、「反射板の重心位置を挟んで両側に接続された一対の弾性支持部」であり、また、「圧電ユニモルフ振動板に接続され」るものであって、補正前請求項に係る発明は、「前記圧電ユニモルフ振動板の駆動により」「該弾性体を介して」「反射板」を「回転振動」させるものであると認められる。
一方、本件補正後の請求項1(以下「補正後請求項」という。)は、「前記弾性体は前記反射板の重心位置を挟んだ両側で前記反射板と前記支持体とを回転軸を同一として接続する一対の弾性支持部と、それぞれ一端が前記支持体で保持された前記二対の振動板それぞれの他端と前記反射板とを連結し且つ前記弾性支持部に対して対称に配置された先端駆動部とから成り」との発明特定事項を有するものであるから、補正後請求項における「弾性体」は、「反射板」と「支持体」を接続する「弾性支持部」、及び、「振動板」と「反射板」を「連結し」「且つ前記弾性支持部に対して対称に配置された先端駆動部」であると認められる。
してみれば、補正前請求項の「弾性体」は、反射板の重心位置を挟んだ両側と振動板の間に位置してこれらを接続する弾性支持部であるのに対し、補正後請求項の「弾性体」は、反射板の重心位置を挟んだ両側と支持体を接続する弾性支持部及び振動板と反射板を連結し前記弾性支持部に対して対称に配置される先端駆動部であるから、本件補正後の弾性体に係る事項が本件補正前の弾性体に係る事項を限定するものでないことは明らかである。
本願明細書及び図面でいえば、補正前請求項の「弾性体」は、本願明細書に記載される実施例2の弾性支持部2a、2bとして、本願図面図4に示される態様のものであるのに対し、補正後請求項の「弾性体」は、本願明細書に記載される実施例1の弾性支持部2a、2b及び先端駆動部4aないし4dとして、本願図面図1に示される態様のものであり、補正後請求項の「弾性体」が補正前請求項の「弾性体」を限定したものでないことは明らかである。

以上のことから、本件補正は、請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものではない。
さらにいえば、本件補正は、請求項に記載した発明を特定するために必要な事項である弾性体の構成を変更するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものとはいえない。
また、本件補正は、請求項の削除、誤記の訂正、不明瞭な記載の釈明のいずれを目的とするものでもない。

したがって、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項に規定する要件に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

III.本願発明について
1.本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成22年1月25日に補正された特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項によって特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記II.[理由]に本件補正前の請求項1として記載したとおりのものである。

2.引用例
これに対して、原査定の拒絶理由に引用され、本願出願前の平成15年2月26日に頒布された特開2003-57586公報(以下「引用例1」という。)には、図とともに次の記載がある。

「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、反射ミラー部を有する振動体の少なくとも一部を振動させることにより、反射ミラー部に入射した光の反射方向を変化させて光を走査する光走査装置、このような光走査装置に用いられる振動体及びこのような光走査装置を備えた画像形成装置に関するものである。」

「【0024】次に、図2から図4を参照して、上記のような画像形成装置100に用いられる光走査装置1の構成について説明する。図2は、本発明の第1実施形態に係る光走査装置1を示す分解斜視図であり、図3は、本発明に係る光走査装置1の振動体6の要部を示す斜視図であり、図4は、本発明の第1実施形態に係る光走査装置1の構造を示す分解斜視図である。
【0025】図2に示すように、光走査装置1のベース台2上には一定の間隔を置いて平行に左右一対の支持部3,4が一体的に形成されており、この一対の支持部3,4の間の上面には、凹部2a及び凹部2bが形成されている。凹部2aは、支持部3,4に隣接するように形成されている。この凹部2aには、後述する振動体5の第2の捻りバネ部10を振動させるための電極11,12が配置されている。凹部2aは比較的浅く形成されているが、これは捻りバネ部10と電極11,12をより近く位置させて捻りバネ部10を効率よく振動させるためである。また、凹部2bは、凹部2aの間の中央部に比較的深い溝状に形成されている。これは反射ミラー部8の振動を妨げないようにするためである。このようにして構成されたベース台2上に振動体5が配置されている。
【0026】振動体5は、反射ミラー部8と、反射ミラー部に連結される捻りバネ部9,10と、捻りバネ部9,10が連結される固定枠部7とからなる。
【0027】反射ミラー部8は、振動されることにより入射した光の反射方向を変化させるものである。反射ミラー部8は方形状に形成され、固定枠部7のほぼ中央部に配置されている。図3に示すように、反射ミラー部8の表面には光反射膜8aが形成されており、反射効率を高めるようにしている。なお、反射ミラー部8の共振周波数は、動作振動周波数にほぼ一致するように設定するのが好ましい。
【0028】捻りバネ部9,10は、固定枠部7のほぼ中央部に配置された反射ミラー部8を捻れ変位可能に支持するものである。捻りバネ部9,10は、反射ミラー部8の両側面の重心位置に連結され、振動により捻れ変位が発生する第1の捻りバネ部9と、その第1の捻りバネ部9に連結され、且つ、振動体5の固定枠部7に対して第1の捻りバネ部9の幅よりも広い間隔で連結されると共に、振動により捻れ変位が発生する第2の捻りバネ部10と、からなる。第1の捻りバネ部9は反射ミラー部8を直接支持し、第2の捻りバネ部10は第1の捻りバネ部9を支持することにより反射ミラー部8を間接的に支持するものである。
【0029】第2の捻りバネ部10は、平面視L字状、又は逆L字状に形成されており、その一端部が第1の捻りバネ部9に対して略垂直状に連結され、且つ、その他端部が固定枠部7に対して略垂直状に連結されている。本実施形態では、1つの第1の捻りバネ部9に対して2つの第2の捻りバネ部10が一体的に連結されている。そして、第1の捻りバネ部9は、反射ミラー部8の重心を通る直線上に配置され、第2の捻りバネ部10は、その直線を中心として対称となるように配置されている。
【0030】このように捻りバネ部9,10を構成したことにより、反射ミラー部8が振動して捻れ変位した場合でも、捻りバネ部9,10と固定枠部7との連結点に発生する応力を分散させることができる。従って、捻りバネ部を徒に太くしたり長くしたりしなくても、反射ミラー部の共振周波数を確保しながら十分な振れ角を得ることができると共に、装置全体をコンパクト化できて、捻り振動以外の固有振動の発生を防止することができる。
【0031】固定枠部7は、反射ミラー部8に連結された捻りバネ部9,10を支持すると共に、振動体5をベース台2に固着させるものである。具体的には、固定枠部7の左外側端部はベース台2の一方の支持部3に固着され、右外側端部はベース台2の他方の支持部4に固着されている。そして、振動体5をベース台2の上面に固着した状態において、電極11,12が第2の捻りバネ部10の下方であって、捻りバネ部10に対向する位置に配置されている。従って、振動ミラー部8を支持する捻りバネ部9の根元部分、すなわち第2の捻りバネ部10を振動させることにより、振動ミラー部8を低い電圧で効率よく十分な振れ角で振動させることができる。
【0032】上記のような構成の振動体5の作製は、例えばシリコンウエハ上にパターン形成し、これをエッチングすることにより一体形成する。そして、反射ミラー部8となるべき箇所の表面にAl,Au等の材料より反射膜8aを形成すれば完成する。このように作製することによって複数のものを同時に作製できる。」

「【0034】駆動手段Dは、ベース台2の上面に形成された凹部2aに分割配置された左右一対の固定電極11,12を有し、この各固定電極11,12は、上記のように第2の捻りバネ部10に対向するように配置されている。この各固定電極の相手側の電極は第2の捻りバネ部10,10にて形成され、第2の捻りバネ部10,10と各固定電極11,12との間には切換えスイッチSWにて選択的に電圧を印加できるように構成されている。そして、駆動手段Dは、切換えスイッチSWを順次切換え制御することによって一対の固定電極11,12に交互に電圧を印加するように構成されている。
【0035】このような構成において、一方(図2における奥側)の固定電極11に電圧が印加されたときには、一方(同奥側)の第2の捻りバネ部10が静電力によって吸引されて下方に移動する。すると、第2の捻りバネ部10の下方移動が一方(同奥側)の捩じりバネ部9を介して反射ミラー部8に伝達され、これが回転トルクとなって反射ミラー部8が略重心を通る軸を中心として回転する。
【0036】又、他方(図2における手前側)の固定電極12に電圧が印加されたときには、前記一方(同奥側)の吸引されていた第2の捻りバネ部10の吸引力が解除されてその第2の捻りバネ部10が上方に戻ると共に、他方(同手前側)の第2の捻りバネ部10が静電力によって吸引されて下方に移動する。すると、その第2の捻りバネ部10の下方移動が他方(同手前側)の捩じりバネ部10を介して反射ミラー部8に伝達され、これが回転トルクとなって反射ミラー部8が略重心を通る軸を中心として回転する。
【0037】そして、駆動手段Dによって一対の固定電極11,12に交互に電圧が印加されると、上記反射ミラー部8の回転が繰り返され、これによって反射ミラー部8が振動するものである。」

「【0040】次に、本発明の第2実施形態に係る光走査装置1Bについて、図5を参照して説明する。図5は、本発明の第2実施形態に係る光走査装置1Bを示す分解斜視図である。なお、第2実施形態に係る光走査装置1Bにおいては、前記第1実施形態と比較して駆動手段Dの構成のみが相違し、他の構成は同一であるため、駆動手段Dの構成のみを説明し、その他の構成は図面に同一符号を付してその説明を省略する。
【0041】第2実施形態においては、駆動手段Dとして、一対の第2の捻りバネ部10,10の上下面にPZT等からなる圧電体30,30がそれぞれ配置されている。この上下一対の圧電体30,30によって圧電バイモルフが構成されている。そして、一対の圧電バイモルフには互いに逆位相の電圧を周期的に印加するように構成されている。この圧電バイモルフを構成する一対の圧電体30,30間に電圧が印加されると、圧電材料が分極して第2の捻りバネ部10が撓むため、捩じりバネ部9を介して第1実施形態と同様な回転トルクを反射ミラー部8に作用させることができる。
【0042】尚、圧電体30は第2の捻りバネ部10の上下面の少なくとも一方だけ配置してもよく、この場合には圧電ユニモルフとして作用し、圧電バイモルフの場合に比べて発生力は低下するものの、同様な動作で行うことが可能である。」

以上の記載によれば、引用例1には、第2実施形態に係る光走査装置1Bとして、
「凹部2a及び凹部2bが形成され、一定の間隔を置いて平行に左右一対の支持部3,4が一体的に形成されたベース台2の上面に振動体5が配置されており、
凹部2bは、反射ミラー部8の振動を妨げないように比較的深い溝状に形成されており、
振動体5は、反射ミラー部8と、反射ミラー部に連結される捻りバネ部9,10と、捻りバネ部9,10が連結される固定枠部7とからなり、
反射ミラー部8は、振動されることにより入射した光の反射方向を変化させるものであり、方形状に形成され、固定枠部7のほぼ中央部に配置されており、
捻りバネ部9,10は、固定枠部7のほぼ中央部に配置された反射ミラー部8を捻れ変位可能に支持するものであり、反射ミラー部8の両側面の重心位置に連結され、振動により捻れ変位が発生する第1の捻りバネ部9と、その第1の捻りバネ部9に連結され、且つ、振動体5の固定枠部7に対して第1の捻りバネ部9の幅よりも広い間隔で連結されると共に、振動により捻れ変位が発生する第2の捻りバネ部10と、からなり、
第1の捻りバネ部9は反射ミラー部8を直接支持し、第2の捻りバネ部10は第1の捻りバネ部9を支持することにより反射ミラー部8を間接的に支持するものであり、
第2の捻りバネ部10は、平面視L字状、又は逆L字状に形成されており、その一端部が第1の捻りバネ部9に対して略垂直状に連結され、且つ、その他端部が固定枠部7に対して略垂直状に連結されており、1つの第1の捻りバネ部9に対して2つの第2の捻りバネ部10が一体的に連結されており、第1の捻りバネ部9は、反射ミラー部8の重心を通る直線上に配置され、第2の捻りバネ部10は、その直線を中心として対称となるように配置されており、
固定枠部7は、反射ミラー部8に連結された捻りバネ部9,10を支持すると共に、振動体5をベース台2に固着させるものであり、固定枠部7の左外側端部はベース台2の一方の支持部3に固着され、右外側端部はベース台2の他方の支持部4に固着されており、
上記のような構成の振動体5は、シリコンウエハ上にパターン形成し、これをエッチングすることにより一体形成されるものであり、
一対の第2の捻りバネ部10,10の上下面の一方にだけPZT等からなる圧電体30が配置され、これによって圧電ユニモルフが構成され、この圧電ユニモルフを構成する圧電体30間に電圧が印加されると、圧電材料が分極して第2の捻りバネ部10が撓むため、捩じりバネ部9を介して、回転トルクを反射ミラー部8に作用させることができ、この回転トルクによって反射ミラー部8は略重心を通る軸を中心として回転し、この回転が繰り返され、これによって反射ミラー部8が振動し、反射ミラー部に入射した光の反射方向を変化させて光を走査する光走査装置1B。」(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

3.対比
本願発明と引用発明を対比する。
引用発明の「第2の捻りバネ部10」は、「上下面の一方にだけPZT等からなる圧電体30が配置され、これによって圧電ユニモルフが構成され」るから、本願発明の「圧電ユニモルフ振動板」に相当する。
引用発明において、「固定枠部7は、反射ミラー部8に連結された捻りバネ部9,10を支持すると共に、振動体5をベース台2に固着させるものであり、固定枠部7の左外側端部はベース台2の一方の支持部3に固着され、右外側端部はベース台2の他方の支持部4に固着されており」、また、固定部7には、第2の捻りバネ部10の他端部が連結されている。
したがって、引用発明の「(振動体5が固定枠部7で固着された)ベース台2」は、第2の捻りバネ部10の一端部を支持するものといえ、さらに、この「ベース台2」には「凹部2b」が形成されているから、引用発明の「ベース台2」は、本願発明の「前記圧電ユニモルフ振動板の一端を固定して支持する空洞部を有した支持体」に相当する。
引用発明の「第1の捻りバネ部9」は、「第2の捻りバネ部10」に連結されているから、本願発明の「前記圧電ユニモルフ振動板に接続された弾性体」に相当する。
引用発明において、「第1の捻りバネ部9は反射ミラー部8を直接支持し、第2の捻りバネ部10は第1の捻りバネ部9を支持することにより反射ミラー部8を間接的に支持するものであり」、「第2の捻りバネ部10が撓むため、捩じりバネ部9を介して、回転トルクを反射ミラー部8に作用させることができ、この回転トルクによって反射ミラー部8は略重心を通る軸を中心として回転し、この回転が繰り返され、これによって反射ミラー部8が振動する」とともに、「凹部2bは、反射ミラー部8の振動を妨げないように比較的深い溝状に形成されて」いるから、引用発明の「反射ミラー部8」は、本願発明の「前記弾性体に接続され、該弾性体を介して前記圧電ユニモルフ振動板の駆動により前記空洞部内で回転振動する反射板」に相当する。
引用発明において、「反射ミラー部8と、反射ミラー部に連結される捻りバネ部9,10と、捻りバネ部9,10が連結される固定枠部7と」からなる「振動体5」は、「シリコンウエハ上にパターン形成し、これをエッチングすることにより一体形成されるもの」であり、また、引用発明の「光走査装置1B」は「光偏向器」といえるから、引用発明と本願発明は、「前記圧電ユニモルフ振動板、弾性体及び反射板とが一体形成された光偏向器」である点で一致する。
引用発明において、「第2の捻りバネ部10は、平面視L字状、又は逆L字状に形成されており、その一端部が第1の捻りバネ部9に対して略垂直状に連結され、且つ、その他端部が固定枠部7に対して略垂直状に連結されており、1つの第1の捻りバネ部9に対して2つの第2の捻りバネ部10が一体的に連結されており、第1の捻りバネ部9は、反射ミラー部8の重心を通る直線上に配置され、第2の捻りバネ部10は、その直線を中心として対称となるように配置されて」いるから、引用発明は、本願発明の「前記圧電ユニモルフ振動板は前記反射板の回転軸を挟んで対称に配置した一対あるいは二対の振動板から構成される」との事項を備える。
引用発明において、「捻りバネ部9,10は、…、反射ミラー部8の両側面の重心位置に連結され」、「第1の捻りバネ部9は、反射ミラー部8の重心を通る直線上に配置され」ているから、引用発明は、本願発明の「前記弾性体は前記反射板の重心位置を挟んで両側に接続された一対の弾性支持部から成り」との事項を備える。
引用発明は、「一対の第2の捻りバネ部10,10の上下面の一方にだけPZT等からなる圧電体30が配置され、これによって圧電ユニモルフが構成され」るものであり、引用発明の「圧電体30」が本願発明の「圧電素子」に相当するところであるから、引用発明と本願発明は、ともに「前記圧電ユニモルフ振動板は構成要素として圧電素子を有する」ものであるといえる。
引用発明は、「圧電ユニモルフを構成する圧電体30間に電圧が印加されると、圧電材料が分極して第2の捻りバネ部10が撓むため、捩じりバネ部9を介して、回転トルクを反射ミラー部8に作用させることができ、この回転トルクによって反射ミラー部8は略重心を通る軸を中心として回転し、この回転が繰り返され、これによって反射ミラー部8が振動し、反射ミラー部に入射した光の反射方向を変化させて光を走査する」ものであるから、「反射ミラー部8の重心を通る直線」を「中心として対称となるように配置されて」いる「第2の捻りバネ部10」のそれぞれの圧電体に印加される電圧は、その位相が互いに180°異なるものであることは当業者に明らかな事項であって、引用発明は、本願発明と同様に「各々の前記振動板において互いに180°位相が異なる二つの交流電圧が印加されることによって夫々の前記圧電素子が駆動され、該圧電素子の駆動が前記一対の弾性支持部を回転軸とする所定変位角の回転運動に変換されることによって前記反射板を回転振動させ該反射板に入射する入射光を偏向させるようにした」ものといえる。

以上のことから、両者は、
「圧電ユニモルフ振動板と、前記圧電ユニモルフ振動板の一端を固定して支持する空洞部を有した支持体と、前記圧電ユニモルフ振動板に接続された弾性体と、前記弾性体に接続され、該弾性体を介して前記圧電ユニモルフ振動板の駆動により前記空洞部内で回転振動する反射板とを有し、前記圧電ユニモルフ振動板、弾性体及び反射板とが一体形成された光偏向器であって、前記圧電ユニモルフ振動板は前記反射板の回転軸を挟んで対称に配置した一対あるいは二対の振動板から構成されると共に、前記弾性体は前記反射板の重心位置を挟んで両側に接続された一対の弾性支持部から成り、前記圧電ユニモルフ振動板は構成要素として圧電素子を有するものであり、各々の前記振動板において互いに180°位相が異なる二つの交流電圧が印加されることによって夫々の前記圧電素子が駆動され、該圧電素子の駆動が前記一対の弾性支持部を回転軸とする所定変位角の回転運動に変換されることによって前記反射板を回転振動させ該反射板に入射する入射光を偏向させるようにした光偏向器。」の点で一致し、次の点で相違する。

a.本願発明においては、「圧電ユニモルフ振動板、支持体、弾性体及び反射板とが一体形成され」ているのに対し、引用発明においては、ベース台2の支持部3,4と、(反射ミラー部8と、反射ミラー部に連結される捻りバネ部9,10と、捻りバネ部9,10が連結される固定枠部7とからなる)振動板5は、固着されており、一体形成されていない点。
b.本願発明は、「圧電ユニモルフ振動板を構成する圧電素子は前記支持体上に直接成膜された圧電膜から成」るのに対し、引用発明の「圧電体30」がこのようなものか不明な点

4.相違点についての検討
上記相違点について検討する。
原査定の拒絶理由に引用された特開平10-253912号公報(以下「引用例2」という。)には、光走査装置について、図とともに次の記載がある。

「【0025】
【発明の実施の形態】
(第1実施形態)図1に、本発明の第1実施形態に係る2次元光走査装置の全体構成図を示し、図2に図1中のA-A断面を示す。シリコン基板1には、裏面からのエッチングによって図2に示すように薄肉部2が形成されている。この薄肉部2には貫通溝3が形成されており、この貫通溝3の形成によって、薄肉部2は、ミラー部12、第1スプリング部(第1の捩じれ振動部)14、第1フレーム部16(第1の保持部)、第2スプリング部13(第2の捩じれ振動部)、第2フレーム部(第2の保持部)15などの可動部を有する構造となる。これらは、図19に示したミラー部102、第1スプリング部114、第1フレーム部116、第2スプリング部113、第2フレーム部115と同等の機能を有し同等の作用を行う。
【0026】また、薄肉部2は片持ち梁構造となっており、その支持部上にPZT等の圧電体膜21?24が形成されている。圧電体膜21?24は、圧電ユニモルフ構造となっており、図19に示した圧電バイモルフ121?124と同等の機能を有し同等の作用を行うもので、薄肉部2を振動させる加振手段を構成している。」

「【0031】…、スパッタ、ゾルーゲル法、CVD等によりPZT等の圧電体膜21?24(図では圧電体膜23を示している)を形成する(図3(f))。」

上記相違点aについて検討するに、引用例2には、光走査装置において、ミラー部等の可動部を、シリコン基板を裏面からエッチングして形成した薄肉部により構成することが記載されているから、引用発明における反射ミラー部8と反射ミラー部に連結される捻りバネ部9,10を、シリコン基板を裏面からエッチングして形成した薄肉部により構成するようにして、上記相違点aに係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たものと認められる。
このとき、シリコン基板のエッチングされずに残った部分が本願発明の「支持体」に相当し、エッチングされた部分が本願発明の「空洞部」に相当することは明らかである。

上記相違点bについて検討するに、引用例2には、スパッタ、ゾルーゲル法、CVD等によりPZT等の圧電体膜を形成することが記載されているから、その圧電体膜は、支持部上に直接成膜されているものと認められる。
してみれば、引用発明において、PZT等からなる圧電体30を第2の捻りバネ部10の面上に配置するにあたり、圧電体膜を直接成膜するようにして、上記相違点bに係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に成し得たものと認められる。

また、本願発明が奏する効果についても、引用例1及び引用例2に記載された事項に基づいて当業者が予測可能なものであって、格別のものとはいえない。

5.むすび
したがって、本願発明は、引用例1及び引用例に2記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものと認められ、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-06-01 
結審通知日 2011-06-07 
審決日 2011-06-20 
出願番号 特願2003-361873(P2003-361873)
審決分類 P 1 8・ 572- Z (G02B)
P 1 8・ 121- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 河原 正植田 高盛  
特許庁審判長 稲積 義登
特許庁審判官 松川 直樹
北川 創
発明の名称 光偏向器及び光学装置  
代理人 丹羽 宏之  

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