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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G01J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01J
管理番号 1241248
審判番号 不服2010-9435  
総通号数 141 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-09-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-05-06 
確定日 2011-08-03 
事件の表示 特願2003-508900「二重波長帯用のセンサ」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 1月 9日国際公開、WO03/02962、平成16年10月14日国内公表、特表2004-531740〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成14年6月27日を国際出願日(パリ条約による優先権主張 平成13年6月27日 米国)とする特許出願であって,平成20年8月22日付けで拒絶理由が通知され,これに対し,同年12月12日付けで意見書並びに手続補正書が提出され,さらに平成21年4月28日付けで最後の拒絶理由が通知され,これに対し,同年7月28日付けで意見書並びに手続補正書(以下,「本件補正」という。)が提出され,これに対し,平成21年12月24日付けで補正却下の決定がなされるとともに,同日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,平成22年5月6日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

第2 平成21年12月24日付け補正却下の決定について
請求人は,審判請求書にて補正却下が違法であると主張しているので,その点について以下に検討する。
1.補正の目的について
本件補正により,特許請求の範囲の請求項1?13は,以下のとおり補正された。下線は,補正部分を示す。
「【請求項1】
二重波長フォーカス面であって,
赤外検知マイクロボロメータ・ピクセル・エレメントの第1アレイと,
交通制御の色が最適に検知されるように,自動車を運転中に出会う色に選択的であるように適合された,可視光ピクセル・エレメントの第2アレイと,
を備え,
前記可視光ピクセル・エレメントの第2アレイが,前記赤外検知マイクロボロメータ・ピクセル・エレメントの第1アレイのすぐ下に形成され,熱絶縁間隙によって前記第1アレイから分離されている,
二重波長フォーカス面。
【請求項2】
請求項1に記載のフォーカス面であって,第2アレイが,赤の色に選択的である,二重波長フォーカス面。
【請求項3】
請求項1に記載のフォーカス面であって,第2アレイが,赤,青及び緑の色に選択的である,二重波長フォーカス面。
【請求項4】
請求項2に記載のフォーカス面であって,第1及び第2アレイが,モノリシック・シリコン基板の上に作られる,二重波長フォーカス面。
【請求項5】
請求項1に記載のフォーカス面であって,該フォーカス面はさらに,
赤色の光を可視光ピクセル・エレメントの第2アレイに通過させる可視光フィルタを,
備える二重波長フォーカス面。
【請求項6】
請求項1に記載のフォーカス面であって,該フォーカス面はさらに,
赤色,緑色及び青色の光を可視光ピクセル・エレメントの第2アレイに選択的に通過させるマルチ・フィルタを,
備える二重波長フォーカス面。
【請求項7】
二重波長フォーカス面であって,
赤外検知マイクロボロメータ・ピクセル・エレメントの第1アレイと,
交通制御の色が最適に検知されるように,赤,青及び緑にそれぞれ選択的であるように適合された,3つのピクセル・エレメントの複数のセットの第2アレイと,
を備え,
前記第2アレイの3つのピクセル・エレメントのセットの各々が,前記第1アレイの赤外検知マイクロボロメータ・ピクセル・エレメントのすぐ下に形成され,熱絶縁間隙によって前記第1アレイから分離されている,
二重波長フォーカス面。
【請求項8】
夜間の自動車ドライバを支援するためのセンサであって,
シリコン基板上に形成された赤外検知マイクロボロメータ・ピクセル・エレメントの第1アレイと,
交通制御の色が最適に検知されるように,赤,青及び緑にそれぞれ選択的であるように適合された,3つの可視センサの複数のセットの第2アレイであって,可視センサのセットの各々が,赤外検知マイクロボロメータ・ピクセル・エレメントのすぐ下のシリコン基板上に形成され,熱絶縁間隙によって前記第1アレイから分離されている,第2アレイと,
を備えるセンサ。
【請求項9】
自動車用の夜間ディスプレイ・システムであって,
赤外検知マイクロボロメータ・ピクセル・エレメントの第1アレイと,
交通制御信号に選択的であるように適合されたフォトセンサの第2アレイであって,前記可視光ピクセル・エレメントの第2アレイが,前記赤外検知マイクロボロメータ・ピクセル・エレメントの第1アレイのすぐ下に形成され,熱絶縁間隙によって前記第1アレイから分離されている第2アレイと,
前記複数のアレイに結合されたヘッド・アップ・ディスプレイであって,赤外画像と,交通制御信号に対応する可視光と,に基づく画像を生成するヘッド・アップ・ディスプレイと,
を備える夜間ディスプレイ・システム。
【請求項10】
乗り物の夜間のドライバのために視界を高めるヘッド・アップ・ディスプレイを提供する方法であって,
乗り物の進路内に一般的にある赤外放射ソースを検知するステップと,
交通制御の色に対応する可視放射を選択的に検知するステップと,
検知した可視放射と赤外放射を結合してヘッド・アップ・ディスプレイ用の画像を提供するステップであって,交通信号の色が,カラーで表示される,ステップと,
を含み,
赤外センサのアレイが,赤外放射を検知するために使用され,シリコン・フォトセンサのアレイが,選択される色を検知するために使用され,前記シリコン・フォトセンサのアレイが赤外センサのアレイのすぐ下に形成され,熱絶縁間隙によって前記赤外センサから分離されている,
方法。
【請求項11】
請求項10に記載の方法であって,複数の前記アレイが,開口率を最適にするためにモノリシック・シリコン基板内に垂直的に統合される,方法。
【請求項12】
二重波長フォーカス面を提供するための方法であって,
自動車の運転中に出会う色に選択的であるように適合された可視光ピクセル・エレメントのアレイを形成するステップであって,前記アレイが,シリコン基板上に形成される,ステップと,
赤外検知マイクロボロメータ・ピクセル・エレメントのアレイを,前記可視光ピクセル・エレメントのアレイとの間に熱的絶縁間隙を設けて前記可視光ピクセル・エレメントのアレイの上方に形成するステップであって,前記赤外検知マイクロボロメータ・ピクセル・エレメントが,可視光を前記可視光ピクセル・エレメントのアレイへ通過させるようにされている,ステップと,
を含む方法。
【請求項13】
請求項12に記載の方法であって,
可視光ピクセル・エレメントに対応する,赤,黄及び緑の可視光フィルタを形成するステップを,
さらに含む方法。」

上記補正は,請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「可視光ピクセル・エレメントの第2アレイ」,請求項7に係る発明を特定するために必要な事項である「第2アレイの3つのピクセル・エレメントのセット」,請求項8に係る発明を特定するために必要な事項である「可視センサのセットの各々」,かつ請求項9に係る発明を特定するために必要な事項である「可視光ピクセル・エレメントの第2アレイ」が,それぞれ「熱絶縁間隙によって前記第1アレイから分離されている」ものであるとの限定を付加し,請求項10に係る発明を特定するために必要な事項である「シリコンフォトセンサのアレイ」が,「熱絶縁間隙によって前記赤外センサから分離されている」ものであるとの限定を付加し,さらに請求項12に係る発明を特定するために必要な事項である「赤外検知マイクロボロメータ・ピクセル・エレメントのアレイ」の形成方法について,「可視光ピクセル・エレメントのアレイとの間に熱的絶縁間隙を設けて前記可視光ピクセル・エレメントのアレイの上方に形成するステップ」であるとの限定を付加したものであり,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前(以下,「平成18年改正前」という。)の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

2.独立特許要件について
本件補正後の前記請求項1に係る発明(以下,「補正発明1」という。)が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(1)引用刊行物およびその記載事項
原査定の拒絶の理由で引用された文献であって,本願出願前に頒布された刊行物である国際公開第99/05723号(以下,「引用刊行物1」という。)には,図面とともに以下の事項が記載されている。なお,翻訳文は特表2002-521646号公報を参照した。

(1-ア)
「1. A dual bandwidth bolometer comprising:
a substrate;
a visible light detector formed in said substrate;
a detector layer, at a first distance from said substrate, and transparent to visible light, for detecting a temperature change; and
an absorber layer, situated on a surface of said detector layer facing said substrate, and transparent to visible light, for at least partially absorbing infrared radiation.」(5ページ 請求項)
(日本語翻訳)
「【請求項1】 デュアル帯域幅ボロメータにおいて,基板と,
前記基板に形成される可視光線検出器と,
前記基板から第1の距離にあって,可視光線を通し,温度変化を検出する検出器層と,
前記基板に面している前記検出器層の表面に設置され,可視光線を通し,少なくとも一部で赤外線を吸収する吸収体層と
を含むボロメータ。」

(1-イ)
「Above or adjacent to layer 16 is a cavity which functions as a low Q interference Fabry-Perot filter having a gap or distance 23 of one to two micrometers between ITO layer 16 and an ITO layer 22 which is formed on layer 20 and situated from ITO layer 16. Distance 23 indicates the gap dimension, which is tuned in fabrication to maximize IR wavelength radiation 17 that is to be enhanced and detected. The volume between layers 16 and 22 form cavity 26. ITO layer 16 is a reflector of infrared radiation 17 and transmits visible light 18.」(2ページ5?11行)
(日本語訳)
「層16の上方に,あるいは隣接して,低Q値のファブリー・ペロー干渉フィルタとして機能する空洞があり,このフィルタは,すなわちITO層16と,層20に形成されてITO層16から離れて配置されたITO層22との間の1ないし2マイクロメートルのギャップ,すなわち間隔23を有する。間隔23はギャップの寸法を示し,この寸法は,強化されて検出される赤外線波長の放射17を最大にするように製作時に調整される。層16と層22との間のボリュームは空洞26を形成する。ITO層16は赤外線17に対して反射体であり,可視光線18を通す。」

(1-ウ)
「This structure is repeated and extends beyond FIG. 1b for a plurality of pixels 10 for various applications such as a scene sensing device. FIG. 1b is a planar view of the structure of pixel 10 from the light-entering direction, in the absence of layer 21.」(2ページ23?26行)
(日本語訳)
「シーン感知装置などの様々な応用例では複数のピクセル10に対しては,この構造が繰り返され,第1b図を越えて広がっている。第1b図は,層21をなくし,光線の入射方向から見たピクセル10の構造の平面図である。」

(1-エ)
「Sensor layer 25 is heated upon receipt of infrared radiation 17 and has a change of resistivity which results in a change of current flow through and/or voltage drop across layer 25 thereby indicating impingement of an infrared signal on sensor pixel 10.」(3ページ3?6行)
(日本語訳)
「センサ層25は赤外線17を受けると加熱され,抵抗率が変化する。その抵抗率の変化の結果,層25を通る電流と層25両端の電圧降下,あるいはそのいずれかが変化し,これにより赤外線信号がセンサ・ピクセル10に入射したことを示す。」

(1-オ)
「The arrangement of pixel 10 with infrared sensor 25 and visible light sensor 12 over each other, rather than side-by-side, results in a maximum infrared pixel 25 fill factor and collocation with a CCD pixel 12, which can also have maximal fill factor. The present pixel 12 is not possible in the related art because absorber layer 22 and reflector layer 16 are made from non-transparent materials (such as Cr, NiCr and Au) for the infrared bolometer. The use of ITO or other conductive oxides for layers 16 and 22, provides high optical transmission at 0.6-0.8 micrometer CCD wavelengths and high infrared absorption at 8 to 12 micrometer wavelengths to maximize sensitivity and performance of each pixel component for an integrated array.」(3ページ17?25行)
(日本語訳)
「赤外線センサ25と可視光線センサ12が横に並んでいるのではなく,互いに重なっているピクセル10の配置の結果,CCDピクセル12付き赤外線ピクセル25の充填率とコロケーションが最大となり,CCDピクセル12も最大充填率を有することができる。従来技術では,吸収体層22と反射体層16は赤外線ボロメータ用非透過材料(Cr,NiCr,Auなど)から作られるので,本ピクセル12は実現不可能である。層16と層22にITOあるいは他の導電性酸化物を用いることにより,0.6ないし0.8ミクロンのCCD波長で高い光透過率を,かつ8ないし12ミクロンの波長で高い赤外線吸収率を付与し,一体化されたアレイのための各ピクセル構成要素の感度と性能を最大にする。」

(1-カ)
図面1a,1bには,赤外線センサ25と,その下に形成された可視光線センサ12が互いに重なりあうように配置されている構造が記載されている。
これら(1-ア)?(1-カ)の記載と図面1a,1bとを総合すると,引用刊行物1には,次の発明が記載されている。
「デュアル帯域幅ボロメータにおいて,基板から第1の距離にあって,可視光線を通し,温度変化を検出する検出器層と,基板に形成される可視光線検出器と,を含むボロメータ。」(以下,「引用発明」という。)

(2)対比・判断
補正発明1と引用発明とを対比すると,引用発明の「デュアル帯域幅ボロメータ」は,赤外線と可視光線の2種類の波長を互いに重なった層で検出するものであるから,これは補正発明1の「二重波長フォーカス面」に相当するといえる。
引用発明の「温度変化を検出する検出器層」は,上記摘記事項(1-エ)の記載から,赤外検知用のマイクロボロメータであるといえ,また上記摘記事項(1-ウ)の記載から,ピクセルがアレイ配置をとっているものといえるから,これは補正発明1の「赤外検知マイクロボロメータ・ピクセル・エレメントの第1アレイ」に相当する。
また,引用発明の「可視光線検出器」についても,上記摘記事項(1-ウ)の記載から,ピクセルがアレイ配置をとっているものといえるから,これは補正発明1の「可視光ピクセル・エレメントの第2アレイ」に相当するといえる。
そして,上記摘記事項(1-イ),(1-オ)及び(1-カ)の記載から,引用発明の「可視光線検出器」は,「温度変化を検出する検出器層」のすぐ下に形成され,それらは間隔23によって分離されているといえる。

そうすると,両者は,

(一致点)
「二重波長フォーカス面であって,
赤外検知マイクロボロメータ・ピクセル・エレメントの第1アレイと,
可視光ピクセル・エレメントの第2アレイと,
を備え,
前記可視光ピクセル・エレメントの第2アレイが,前記赤外検知マイクロボロメータ・ピクセル・エレメントの第1アレイのすぐ下に形成され,間隙によって前記第1アレイから分離されている,
二重波長フォーカス面。」で,一致し,以下の点で相違する。

(相違点1)
可視光ピクセル・エレメントの第2アレイについて,補正発明1は,「交通制御の色が最適に検知されるように,自動車を運転中に出会う色に選択的であるように適合され」ているのに対し,引用発明はそのような構成になっていない点。

(相違点2)
前記赤外検知マイクロボロメータ・ピクセル・エレメントの第1アレイと,可視光ピクセル・エレメントの第2アレイとを分離する間隙について,補正発明1は「熱的絶縁間隙」であるのに対し,引用発明はそのような構成になっていない点。

(相違点1)について検討する。
自動車用センサの分野において,赤外線センサとともに利用する可視光センサについて,交通制御の色が最適に検知されるように,自動車を運転中に出会う色に選択的な波長に感度を持たせることは本願優先日前に周知の事項であったといえる。
例えば,原査定の理由でも引用された,本願優先日前に頒布された刊行物である,特開昭62-49319号公報には以下の事項が記載されている。
「例えば,自動車や航空機や船舶の操縦者は肉眼に見えない物体や出来事を見ることを可能にする夜間視力増進装置から利益を得ることができる。しかし,かかる適用例においては,現場での色彩,特に交通信号,乗り物の方向または制御信号,航行マーカー等に特徴的な有色光を認識することが有用である。これらの色彩はまたハイウェイ信号を読み易くもする。」(2ページ左上欄14行?右上欄11行)及び,
「挿入画46に示すように,カラーカメラ24は現場での明るい物体の色を表わす出力信号を発する。従って,緑色光像10’および赤色テールランプ像12’が撮像される。加えて,反射性の停止信号または反射性の緑色または青色ハイウェイ情報信号もカラーカメラ24の信号にカラー像を刻印する。」(3ページ左下欄11行?17行)

そうすると,引用発明に,上記周知の事項を適用して,補正発明における相違点のような構成とすることは,当業者にとって容易に想到し得るものである。

(相違点2)について検討する。
原査定の理由でも引用された,本願優先日前に頒布された刊行物である特開平10-79499号公報には,以下の事項が記載されている。
「【0075】さらに,上述した実施形態では,第1の受光部を光電変換素子により構成しているが,その構成に限定されるものではない。例えば,熱型赤外線センサにより構成してもよい。なお,この構成では,第1の受光部と半導体基板とを熱的に遮断するために,第1の受光部の下の基板に空隙を設けるなどの断熱構造をとることが特に好ましい。このように,第1および第2の受光部を熱型赤外線センサとすることにより,光電変換型の赤外線センサに必要な冷却装置を一切不要とすることができる。
【0076】また,上述した実施形態では,断熱構造を形成するために,空隙を設けているが,例えば,断熱性に優れた光透過材を,空隙部分の一部もしくは全部に配してもよい(これは,本発明に光透過材を構成要件として付加したものである)。このような構成により,断熱構造の機械的強度を高める効果がある。
・・・(中略)
【0078】また,第2の受光部は,半導体基板の上方に空隙を隔てて配置されるので,断熱性が高く,熱容量が小さくなる。したがって,赤外線による温度変化率が高くなり,微弱な赤外線を高感度に検知することができる。さらに,2つの受光部が上下に積層されるので,2つの受光部を同一面内に並置する場合に比べ,半導体素子の集積度を高くすることができる。」と記載されていることからみて,赤外検知用のマイクロボロメータを実装する際に,周囲の基板から熱的影響を遮断するために空隙等に断熱構造を持たせることは,当業者において自明の事項であるといえる。
そうすると,引用発明における,赤外検知マイクロボロメータ・ピクセル・エレメントの第1アレイと,可視光ピクセル・エレメントの第2アレイとを分離する間隙についても,赤外線反射の効率のみならず,熱遮断の効果を期待して設けられているといえ,実質的な相違点ではない。

そして,本願明細書に記載された効果も,引用発明および上記周知の事項から,当業者が予測し得る範囲のものであり,格別顕著なものといえない。

したがって,補正発明1は,引用発明及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

(3)むすび
以上のとおりであるから,本件補正は,平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので,特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により,却下すべきものであり,平成21年12月24日付け補正却下の決定は適法なものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
補正却下は適法であるので,本願の請求項1?13に係る発明は,平成20年12月12日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?13に記載された事項により特定されたとおりのものと認められ,その請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は次のとおりのものである。
「【請求項1】
二重波長フォーカス面であって,
赤外検知マイクロボロメータ・ピクセル・エレメントの第1アレイと,
交通制御の色が最適に検知されるように,自動車を運転中に出会う色に選択的であるように適合された,可視光ピクセル・エレメントの第2アレイと,
を備え,
前記可視光ピクセル・エレメントの第2アレイが,前記赤外検知マイクロボロメータ・ピクセル・エレメントの第1アレイのすぐ下に形成された,
二重波長フォーカス面。」(以下,「本願発明」という。)

2.引用刊行物およびその記載事項
原査定の理由に引用した刊行物およびその記載事項は,前記「第2 2.」に記載したとおりである。
本願発明は,前記「第2 2.」において検討した補正発明1の「可視光ピクセル・エレメントの第2アレイ」について,「熱絶縁間隙によって前記第1アレイから分離されている」ものであるとの限定を省いたものである。
そうすると,本願発明のすべての構成要件を含み,さらに自明な事項を付加したものに相当する補正発明が,前記「第2 2.(2)」に記載したとおり,引用発明及び周知の事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も,同様の理由により,引用発明及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明できたものであるといえる。

3.請求人の主張について
なお,請求人は,平成22年5月6日付け審判請求書において,「本願発明1は,特に,上記構成要件D(「前記可視光ピクセル・エレメントの第2アレイが,前記赤外検知マイクロボロメータ・ピクセル・エレメントの第1アレイのすぐ下に形成され,熱絶縁間隙によって前記第1アレイから分離されている」)を構成上の特徴として有するものである。そして,このような「熱絶縁間隙」を設けることにより,第1アレイ及び第2アレイの双方について,一層正確で応答性の向上した検知が可能になる」ものである旨主張している。
しかしながら,上記特開平10-79499号公報に記載の発明には,第1の受光部と第2の受光部の間の間隙に,特定波長帯の赤外線を効率よく吸収することのみならず,熱絶縁の機能を持たせる点についても記載されていることは,前述のとおりである。

4.むすび
以上のとおり,本願発明は,引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,その他の請求項に係る発明について言及するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。

よって結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-03-03 
結審通知日 2011-03-04 
審決日 2011-03-24 
出願番号 特願2003-508900(P2003-508900)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01J)
P 1 8・ 575- Z (G01J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 平田 佳規  
特許庁審判長 岡田 孝博
特許庁審判官 信田 昌男
竹中 靖典
発明の名称 二重波長帯用のセンサ  
代理人 小林 泰  
代理人 富田 博行  
代理人 小野 新次郎  
代理人 千葉 昭男  
代理人 社本 一夫  
代理人 上田 忠  

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