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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G06T
管理番号 1241786
審判番号 不服2009-24260  
総通号数 142 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-10-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-12-08 
確定日 2011-08-11 
事件の表示 特願2008-122111「認証装置及び記憶媒体」拒絶査定不服審判事件〔平成20年10月30日出願公開、特開2008-262576〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、特願平10-175836号の分割出願であって、平成20年5月8日の出願であり(出願日遡及 平成10年6月23日)、平成21年9月3日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成21年12月8日に審判請求がなされたものである。
審判合議体は、平成22年11月30日付けで拒絶理由を通知し、これに対し、平成23年2月7日付けで意見書及び手続補正書が提出されている。

第2 本願発明について
1.本願発明
本願の請求項に係る発明は、平成23年2月7日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲1ないし4に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項4に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。

「個人の生体情報を測定する第1の測定手段と、
該生体情報から特徴情報を抽出して第1の抽出特徴情報を求める第1の抽出手段と、
該第1の抽出特徴情報に指定された変換パラメータに従った一方向関数処理による変換処理を施して第1の変換抽出特徴情報を求める第1の変換手段と、
該第1の変換抽出特徴情報を登録情報とする登録用生体情報生成部と、
該登録用生体情報生成部で生成された登録情報を記録する記録媒体と、
個人の生体情報を測定する第2の測定手段と、
該生体情報から特徴情報を抽出して第2の抽出特徴情報を求める第2の抽出手段と、
該第2の抽出特徴情報に指定された変換パラメータに従った一方向関数処理による変換処理を施して第2の変換抽出特徴情報を求める第2の変換手段と、
該登録情報と該第2の変換抽出特徴情報とを照合して該個人の認証を行う照合手段とを備え、
前記登録情報は予め記録媒体に格納されており、
前記第2の測定手段と、前記第2の変換手段と、前記第2の抽出手段と、前記照合手段とは、夫々クライアント側に設けられており、
前記記録媒体は該クライアント側とネットワークを介して接続されたサーバ側で読み取られて該ネットワークを介して該クライアント側の照合手段に供給されることを特徴とする、認証システム。」

2.当審が通知した拒絶理由の要旨
当審が通知した拒絶理由の理由1の要旨は、本願発明は、特開平5-290149号公報(以下、「引用刊行物1」という。)、特開昭61-169585号公報(以下、「引用刊行物2」という。)、特開平10-164549号公報(以下、「引用刊行物3」という。)、特開平9-161024号公報(以下、「引用刊行物4」という。)、特開平9-6233号公報(以下、「引用刊行物5」という。)に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

3.引用刊行物に記載の発明
当審が拒絶の理由に引用した引用刊行物1には、図面とともに、次の事項が記載されている。
なお、下線は当審において付した。

(1-1)
「【特許請求の範囲】
・・・(中略)・・・
【請求項2】 予め登録しておいた指紋情報と照合要求のあった個人の指紋情報とを照合し、個人の認証を行う指紋照合認証装置において、個人の指紋を光学的に読み取る指紋入力手段と、読み取られた指紋の情報の特徴を抽出する特徴抽出手段と、この特徴抽出手段で抽出した指紋の特徴を暗号化する暗号化手段と、この暗号化手段で暗号化した指紋情報を記憶する記憶手段と、個人の認証を行うに際して前記指紋入力手段で読み取られ、かつ前記特徴抽出手段で特徴が抽出された後に前記暗号化手段で暗号化された個人の指紋情報と前記記憶手段に記憶された暗号化指紋情報とを照合し、その照合結果を出力する照合手段とを備えて成る指紋照合認証装置。」

(1-2)
「【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、この従来の方法では、指紋情報が高度なプライバシーに属する情報であるにも関わらず、指紋情報をオリジナルのまま登録し、かつ照合しているため、登録者の心理的抵抗が大きいうえ、照合時に指紋情報を通信回線上やメモリ上に出力した時に外部からハッカーが侵入すれば、指紋情報が盗まれてしまい、プライバシーを侵害してしまうという危険性があった。その上、高度な技術を有する者が登録されている指紋情報から元の指紋パターンを復元し、悪用する危険性もあった。
【0005】本発明の目的は、個人のプライバシーを保護し、悪用される危険性のない指紋照合認証方式およびその装置を提供することである。
・・・(中略)・・・
【0008】
【作用】上記手段によれば、指紋照合に用いる指紋情報は暗号化して登録し、かつ照合時にも暗号化したままの状態で照合するため、指紋のオリジナル情報が漏洩したり、盗まれて悪用される恐れがなくなり、個人のプライバシーを確実に保護することができる。」

(1-3)
「【0010】図1は本発明による指紋照合認証装置の一実施例を示すブロック図である。本実施例の指紋照合装置は、例えば光学的画像用読み取り装置等からなる指紋入力装置1、コンピュータからなる制御処理装置2、暗号処理部を有するICカード等の記憶媒体3、登録する指紋情報を表示するモニタ4で構成されている。
【0011】このうち、制御処理装置2は指紋パターンから照合時に用いる特徴点を抽出するアルゴリズムで構成される指紋特徴抽出処理部21とマッチング処理を行う指紋照合部22とを有している。
【0012】また、記憶媒体3は、記憶部31と暗号処理部32とで構成され、この暗号処理部32は所定の暗号関数によって指紋情報を暗号化するように構成されている。
【0013】さらに、指紋入力装置1は図2に示すように、プリズム11の斜面に置かれた指11の指紋形成面に光源12から光を照射することにより、指紋形成面における隆線部分では「暗」、そのほかの部分では「明」となる図3に示すような指紋画像13を取り出し、この指紋画像13をテレビカメラ14で撮像し、AD変換器15によってディジタルの指紋画像データに変換して制御処理装置2に入力するように構成されている。
【0014】このような構成の指紋入力装置1から指紋画像データを受けた制御処理装置2は、指紋特徴抽出処理部21において細線化処理を行って図4に示すような指紋画像データに変換し、特徴点の抽出を行う。
【0015】すなわち、指紋パターンは図4に記号40で示すように、隆線が枝分かれする位置やその数、および記号41で示すように終端する位置が個人別に異なるという特徴を持っていることから、このような特徴点を抽出し、この特徴点のデータをオリジナル指紋情報FPとして抽出する。
【0016】このオリジナル指紋情報FPは、ICカードで構成される記憶媒体3の暗号処理部32に送られ、ここで暗号関数Fで暗号化される。この場合の暗号文[FP]は数式(1)で示すことができる。
【0017】
【数1】[FP]=F(FP) (1)
但し、Fは暗号関数
そして、この暗号文[FP]は記憶部31に登録される。
【0018】この場合、細線化した指紋画像データは図5に示すように複数のブロックBn(図5の例ではB1?B9)に分割され、各ブロック別の特徴点が抽出され、その特徴点のデータを暗号関数Fで暗号化し、ブロック別の暗号文[FBn]を登録するようになっている。」

(1-4)
「【0037】このように本実施例の指紋照合認証装置は、指紋照合に用いる指紋情報は暗号化して登録し、かつ照合時にも暗号化したままの状態で照合するため、指紋のオリジナル情報が漏洩したり、盗まれて悪用される恐れがなくなり、個人のプライバシーを確実に保護することができる。
【0038】なお、暗号化した指紋情報の暗号文は、ICカードから構成された記憶媒体3に登録しているが、メモリカード等の記録媒体に登録するようにすることができる。メモリカードを用いた場合は、暗号処理部32は指紋特徴抽出処理部21内に設ければよい。
【0039】また、暗号化関数は秘密鍵公開暗号アルゴリズムを用いれば、個人一人一人の指紋情報を秘密型個別鍵で暗号化を行うため、セキュリティがさらに高くなる。」

上記(1-1)?(1-4)によれば、引用刊行物1には、以下の発明(以下、「刊行物発明」という。)が記載されている。

「個人の指紋を光学的に読み取る指紋入力装置と、読み取られた指紋の情報の特徴点のデータを抽出する指紋特徴抽出処理部と、この指紋特徴抽出処理部で抽出した特徴点のデータを所定の暗号関数で暗号化する暗号処理部と、この暗号処理部で暗号化した指紋情報を登録する記憶媒体と、個人の認証を行うに際して前記指紋入力装置で読み取られ、かつ前記指紋特徴抽出処理部で特徴点のデータが抽出された後に前記暗号処理部で暗号化された個人の指紋情報と前記記憶媒体に登録された暗号化指紋情報とを照合し、その照合結果を出力する指紋照合部とを備えて成る指紋照合認証装置。」

4.対比・判断
(1)本願発明と刊行物発明の対比
刊行物発明の「個人の指紋を光学的に読み取る指紋入力装置」は、指紋情報の登録時と認証時に個人の指紋を読み取るものであることから、刊行物発明は、本願発明の「個人の生体情報を測定する第1の測定手段」及び「個人の生体情報を測定する第2の測定手段」の両方の手段に対応する機能を備える点で共通する。

刊行物発明の「読み取られた指紋の情報の特徴点のデータを抽出する指紋特徴抽出処理部」は、指紋情報の登録時と認証時に指紋の情報の特徴点のデータを抽出するものであることから、刊行物発明は、本願発明の「該生体情報から特徴情報を抽出して第1の抽出特徴情報を求める第1の抽出手段」及び「該生体情報から特徴情報を抽出して第2の抽出特徴情報を求める第2の抽出手段」の両方の手段に対応する機能を備える点で共通する。

刊行物発明の「この指紋特徴抽出処理部で抽出した特徴点のデータを所定の暗号関数で暗号化する暗号処理部」は、指紋情報の登録時と認証時に指紋特徴抽出処理部で抽出した特徴点のデータを変換処理するものであることから、刊行物発明は、本願発明の「第1の抽出特徴情報に」「変換処理を施して第1の変換抽出特徴情報を求める第1の変換手段」及び「第2の抽出特徴情報に」「変換処理を施して第2の変換抽出特徴情報を求める第2の変換手段」の両方の手段に対応する機能を備える点で共通する。

そして、刊行物発明は、指紋情報の登録時に「この指紋特徴抽出処理部で抽出した特徴点のデータを所定の暗号関数で暗号化する暗号処理部」及び「この暗号処理部で暗号化した指紋情報を登録する記憶媒体」を用いるものであって、「特徴点のデータ」を暗号化し、記録媒体に登録する「暗号化した指紋情報」を生成する機能を有するものであることから、刊行物発明は、本願発明の「第1の変換抽出特徴情報を登録情報とする登録用生体情報生成部と、該登録生体情報生成部で生成された登録情報を記録する記録媒体」を備えるものであり、且つ、刊行物発明と本願発明とは「該登録情報は予め記録媒体に格納されて」いるものである点で一致する。

刊行物発明の「記憶媒体に登録された暗号化指紋情報」は、本願発明の「登録情報」に相当し、刊行物発明の「個人の認証を行うに際して前記指紋入力装置で読み取られ、かつ前記指紋特徴抽出処理部で特徴点のデータが抽出された後に前記暗号処理部で暗号化された個人の指紋情報」は、本願発明の「第2の変換抽出特徴情報」に相当するので、刊行物発明は、本願発明の「該登録情報と該第2の変換抽出特徴情報とを照合して該個人の認証を行う照合手段」を備える点で一致する。

よって、両者の一致点及び相違点は、次のとおりと認められる。

(一致点)
「個人の生体情報を測定し、
該生体情報から特徴情報を抽出して第1の抽出特徴情報を求め、
該第1の抽出特徴情報に変換処理を施して第1の変換抽出特徴情報を求め、
該第1の変換抽出特徴情報を登録情報とする登録用生体情報生成部と、
該登録用生体情報生成部で生成された登録情報を記録する記録媒体と、
個人の生体情報を測定し、
該生体情報から特徴情報を抽出して第2の抽出特徴情報を求め、
該第2の抽出特徴情報に変換処理を施して第2の変換抽出特徴情報を求め、
該登録情報と該第2の変換抽出特徴情報とを照合して該個人の認証を行う照合手段とを備え、
前記登録情報は予め記録媒体に格納される、認証システム。」である点。

(相違点1)
第1及び第2の変換抽出特徴情報を求める回路手段について、本願発明は「第1の測定手段」、「第1の抽出手段」、「第1の変換手段」と「第2の測定手段」、「第2の抽出手段」、「第2の変換手段」の複数の系統からなる回路手段を備えるものであるのに対し、刊行物発明は「指紋入力装置」、「指紋特徴抽出処理部」、「暗号化処理部」を共用するものである点。

(相違点2)
抽出特徴手情報に施す具体的な変換処理について、本願発明は指定された変換パラメータに従った一方向関数処理を施すものであるのに対し、刊行物発明は暗号化処理を行うものである点。

(相違点3)
本願発明は「前記第2の測定手段と、前記第2の変換手段と、前記第2の抽出手段と、前記照合手段とは、夫々クライアント側に設けられており、前記記録媒体は該クライアント側とネットワークを介して接続されたサーバ側で読み取られて該ネットワークを介して該クライアント側の照合手段に供給される」ものであるのに対し、刊行物発明はクライアント側とサーバ側とからなるネットワークについて言及がなく、ネットワークを介したシステムとはなっていない点。

(2)相違点に対する当審の判断
(相違点1について)
指紋照合装置の技術分野において、登録すべき指紋情報を生成するための系統と、認証対象となる指紋情報を生成するための系統とを別々に設けることは、例えば、引用刊行物2にあるように周知慣用された構成にすぎず、刊行物発明に上記周知慣用された構成を適用して複数の系統からなる回路手段とすることは、当業者が容易になし得たことである。

(相違点2について)
刊行物発明も個人のプライバシーを確実に保護するために指紋の特徴情報を登録する際に該指紋の特徴情報を変換して登録し、照合時にも変換したままの状態で照合するものであって、復号化のための鍵情報なしに元の情報を復元できないもの、即ち、広義の一方向関数処理を行っていると言えるものである。
そして、暗号化処理を行う際には、暗号化のための鍵情報が必要であるから、刊行物発明において、暗号化処理のための鍵情報、即ち、変換パラメータが指定されることは明らかである。
したがって、上記相違点2は格別のものではない。

なお、仮に本願の明細書の段落【0111】に記載されているように「一方向関数処理」がハッシュ関数による一方向関数処理であるとしても、ハッシュ関数による一方向関数処理は周知(例えば、引用刊行物3を参照されたい。)であるから、引用文献1に記載された発明における変換処理として暗号化処理に代えて一方向関数処理を行うことは、何ら格別なものとすることはできない。

(相違点3について)
一般に指紋認証システムの技術分野において、指紋読取手段と照合手段をクライアント側に設け、登録情報をクライアント側とネットワークを介して接続されたサーバ側から該クライアント側の照合手段に供給することは周知(例えば、特開平9-198501号公報を参照されたい。)であるから、引用文献1に記載された発明に上記周知のネットワーク構成を適用して本願発明の「前記第2の測定手段と、前記第2の変換手段と、前記第2の抽出手段と、前記照合手段とは、夫々クライアント側に設けられており、前記記録媒体は該クライアント側とネットワークを介して接続されたサーバ側で読み取られて該ネットワークを介して該クライアント側の照合手段に供給される」構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。

なお、刊行物発明において、照合される指紋情報はプライバシー情報の流出防止のために変換された(暗号化された)情報であって、照合される指紋情報をネットワークを介して供給してもプライバシー情報の流出が防止されることは言うまでない。

そして、本願発明の効果についてみても、上記相違点からなる構成の採用に伴って当然に予測される程度のものにすぎず、格別顕著なものがあるともいえない。

5.まとめ
したがって、本願発明は、刊行物発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
以上のとおりであるから、本願は、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-06-13 
結審通知日 2011-06-14 
審決日 2011-06-28 
出願番号 特願2008-122111(P2008-122111)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G06T)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐藤 実  
特許庁審判長 吉村 博之
特許庁審判官 板橋 通孝
溝本 安展
発明の名称 認証装置及び記憶媒体  
代理人 山口 昭則  
代理人 伊東 忠彦  

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