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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 E04B |
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管理番号 | 1241809 |
審判番号 | 不服2010-15662 |
総通号数 | 142 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2011-10-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2010-07-13 |
確定日 | 2011-08-11 |
事件の表示 | 特願2000- 93672「建築物用スペーサシート」拒絶査定不服審判事件〔平成13年10月10日出願公開、特開2001-279839〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続きの経緯 本願は,平成12年3月30日の出願であって,平成22年4月5日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,同年7月13日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされると共に,同時に手続補正がなされた。 その後,平成22年10月28日付けで,審判請求人に前置報告書の内容を示し意見を求めるための審尋を行ったところ,同年12月28日付けで回答書が提出されたものである。 第2 補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 平成22年7月13日付けの手続補正を却下する。 [理由] 1.補正の内容・目的 平成22年7月13日付けの手続補正(以下,「本件補正」という。)は,特許請求の範囲について,補正前(平成21年8月3日付けの手続補正書参照。)の請求項1を,以下のように補正することを含むものである。 「【請求項1】 合成樹脂からなる建築物用スペーサシートであって、片面に、高さ0.5?2.5mmの範囲内で均一な高さを有する突起を、100cm^(2)当たり20?400個の割合で、かつ全突起の底面積の合計がスペーサシートの全面積に対して5?80%となるように有し、該突起はプラスチゾルからなり、1N/cm^(2)の圧力を垂直方向に掛けた場合に、元の高さの60?99%の高さが確保される硬度を有することを特徴とする建築物用スペーサシート。」 上記補正事項は,請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「突起」について,「全突起の底面積の合計がスペーサシートの全面積に対して5?80%となる」ことを特定したものと認められるから,本件補正は,少なくとも,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とする補正事項を含むものである。 そこで,本件補正後の上記請求項1に係る発明(以下,「補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか,すなわち,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たしているか,について以下に検討する。 2.独立特許要件違反(特許法第29条第2項違反) 2-1.引用刊行物 (1)刊行物1 原査定の拒絶の理由に引用され,本願出願前に頒布された刊行物である,実願昭59-12873号(実開昭60-124419号)のマイクロフィルム(以下,「刊行物1」という。)には,以下の記載がある(下線は当審にて付与。)。 (1a)「(1) 間柱および柱の内側に配した内壁構成材と、間柱および柱の外側に配した板状外壁下地材と、この板状外壁下地材の外側に配した外壁構成材とからなる壁体構造において、前記板状外壁下地材と外壁構成材との間に、外壁下地材と外壁構成材との対向する少なくともいずれか一方の面に多数の突出部を一体に形成し、この突出部を介し、空気が流通可能な所定間隔の通気層を形成したことを特徴とする壁体構造。 (2) 前記突出部が、膨出した半球形状を有するものであることを特徴とする実用新案登録請求の範囲第1項記載の壁体構造。 (3) 前記突出部が、突条からなるものであることを特徴とする実用新案登録請求の範囲第1項記載の壁体構造。」(実用新案登録請求の範囲) (1b)「(ハ)考案の目的 本考案の目的は、前記欠点に鑑みてなされたもので、断熱性を保持しつつ、漏水の侵入を防止できるとともに、結露の発生を防止できる通気性を有するうえに、施工性の良い壁体構造を提供することにある。 (ニ)考案の構成 本考案にかかる壁体構造は、前記目的を達成するために、板状外壁下地材と外壁構成材との間に、外壁下地材と外壁構成材との対向する少なくともいずれか一方の面に多数の突出部を一体に形成し、この突出部を介し、空気が流通可能な所定間隔の通気層を形成した構成としてある。」(明細書4頁4?16行) (1c)「シート6は防水紙,プラスチックシート,樹脂含浸紙,不織布,薄プラスチック板等からなるものである。」(明細書5頁19行?6頁1行) (1d)「次に第2実施例を第4図に示す。第1実施例が外壁構造材3の裏面に形成した突出部4を介して通気層5を形成するものであるのに対し、本実施例は板状外壁下地材2の表面に一体に形成した突出部4を介して通気層5を形成するものである。本実施例における突出部4の形成方法としては、樹脂スプレーによって樹脂を吹付けて形成する方法、あるいはエンボス加工によって形成する方法等がある。」(明細書7頁9?17行) (1e)「・・・第4実施例の如く、突出部4を有するシート6を裏面に貼着して一体化した外壁構成材3を使用する場合であってもよい(第6図参照)。・・・」(明細書8頁13?16行) 上記記載事項(1a)?(1e)及び図面の記載からみて,刊行物1には,以下の発明が記載されているものと認められる。 「板状外壁下地材と外壁構成材との間に配し,突出部を介して空気が流通可能な所定間隔の通気層を形成する,片面に多数の突出部を有するプラスチックシート。」(以下,「刊行物1記載の発明」という。) (2)刊行物2 原査定の拒絶の理由に引用され,本願出願前に頒布された刊行物である,実願昭58-36884号(実開昭59-143726号)のマイクロフィルム(以下,「刊行物2」という。)には,以下の記載がある。 (2a)「独立気泡構造の発泡プラスチック体に、独立凸部を複数個有するプラスチックシートを一体化させたことを特徴とする断熱材。」(実用新案登録請求の範囲) (2b)「2は独立凸部を複数個有するプラスチックシートであって、発泡体素材1と同様にポリオレフィン系樹脂あるいはポリ塩化ビニール系樹脂を50%以上含むプラスチックシートであれば何れも使用でき、好ましくは半硬質状か軟質状のシートがよい。これはシート2をコンクリートスラブ6の表面に接着するにあたりコンクリートスラブ6の表面の凹凸になじみやすくさせるためである。シート2の独立凸部3は、中空状であることが好ましく、形状は円形がよいが矩形も可能である。またシート2は、全体の厚さが5?10mmが好ましく、独立凸部3のみの厚さは1?5mm程度がよい。独立凸部3の大きさは100?10,000個/1平方米であり、位置は格子状か、あるいはランダム状である。」(明細書3頁8行?4頁2行) (2c)「第2図に示すように、本考案に係る断熱材を屋上コンクリートスラブ6に接着剤等で一体化施工した場合、シート2とコンクリートスラブ6との間に5で示す空間ができる。そして、これによってコンクリートスラブ面から発生する水や溶剤の蒸気を外気中へ拡散することができ、フクレ現象を防止することができる。」(明細書4頁6?12行) 2-2.補正発明と刊行物1記載の発明との対比 刊行物1記載の発明と補正発明とを対比すると,刊行物1記載の発明の「プラスチックシート」及び「突出部」は,それぞれ補正発明の「建築物用スペーサシート」及び「突起」に相当している。 したがって,両者は,以下の点で一致している。 「合成樹脂からなる建築物用スペーサシートであって,片面に,突起を有する建築物用スペーサシート。」 そして,以下の点で相違している。 (相違点) 突起が,補正発明は,高さ0.5?2.5mmの範囲内で均一な高さを有し,100cm^(2)当たり20?400個の割合で,かつ全突起の底面積の合計がスペーサシートの全面積に対して5?80%で,プラスチゾルからなり,1N/cm^(2)の圧力を垂直方向に掛けた場合に,元の高さの60?99%の高さが確保される硬度を有するのに対して,刊行物1記載の発明は,突起がどのようなものか明確ではない点。 2-3.判断 相違点について検討する。 第一に,突起の高さについて検討すると,例えば刊行物2には,通気空間を形成するためのシートの独立凸部の高さを1?5mm程度にすることが記載されており(記載事項(2b)),突起の構成やシートを用いる対象が異なるものの,通気用の空隙を形成するための突起の高さを1?5mm程度とすることが示唆されている。 そして,補正発明に特定されている突起の高さである「0.5?2.5mm程度」は,上記刊行物2に記載されている数値範囲と大きく異なるものではなく,当業者にとって想い到らないとする具体的な理由も見あたらず,格別の効果を奏するものではないから,突起の高さを「0.5?2.5mm程度」とすることは,当業者が普通に採用し得る程度のことに過ぎない。 また,突起の高さを均一とすることも,普通に用いられる構成であって,むしろ,高さを異ならせて構成するとは考え難い。 第二に,突起の個数,及び,面積率について検討すると,全突起の底面積の合計がスペーサシートの全面積に対して5?80%であるという限定は,強度の面及び通気性の面から一応機能するであろうと予測できる範囲を特定したに等しく,当業者が当然採用する構成に過ぎない。そして,突起を100cm^(2)当たり20?400個の割合とすることも,その数値範囲は広く,上記面積率を5?80%と設定することにより,当業者が普通に採用できる個数でしかなく,その下限値及び上限値に何ら臨界的な意味を認めることもできないから,突起の個数についての限定事項は,当業者が適宜決定できる設計事項に過ぎない。 第三に,突起をプラスチゾルから形成した点について検討すると,基材シートの上面に突起を形成するのに,塩化ビニル系樹脂プラスチゾルやアクリル系樹脂プラスチゾルを用いることは,周知技術(例えば,原査定の拒絶の理由に引用された,特公平4-1691号公報,特開平2-160077号公報等参照。)であるから,刊行物1記載の発明に上記周知の技術を採用して突出部を形成することは,当業者が容易になし得たことである。 最後に,突起に,1N/cm^(2)の圧力を垂直方向に掛けた場合に,元の高さの60?99%の高さが確保される硬度を有する点について検討すると,スペーサシートの突起である以上,柔らかすぎることが良くないことは当業者にとって自明であって,本願発明では,その硬さの程度として「1N/cm^(2)の圧力を垂直方向に掛けた場合に,元の高さの60?99%の高さが確保される硬度」としたものであるが,その数値範囲は,それによって当業者が予測できない格別の効果を奏するとも認められず,当業者が簡単な実験等によって適宜設定し得た設計事項である。 そして,基材シートの上面に,プラスチゾルを用いて,個数,面積率や硬度について所定の数値範囲内で突起を形成することによって,柔らかく巻き取った状態で保管できるとともに,所定の硬度の突起を備えたスペーサシートができることは当業者にとって自明であり,補正発明が,上記数値範囲の限定等により,当業者が予測できない格別の効果が生じるとは認められないから,上記相違点に係る本願発明の構成は,当業者が必要に応じて容易になし得たことである。 したがって,補正発明は,刊行物1,2記載の発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 3.補正の却下の決定のむすび 以上より,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たしていないものであるから,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 よって,補正の却下の決定の結論のとおり決定する。 第3 本願発明 1.本願発明 平成22年7月13日付けの手続補正は却下されたので,本願の請求項1に係る発明は,平成21年8月3日付けで補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される,以下のとおりのものと認める。 「【請求項1】 合成樹脂からなる建築物用スペーサシートであって、片面に、高さ0.5?2.5mmの範囲内で均一な高さを有する突起を、100cm^(2)当たり20?400個の割合で有し、該突起はプラスチゾルからなり、1N/cm^(2)の圧力を垂直方向に掛けた場合に、元の高さの60?99% の高さが確保される硬度を有することを特徴とする建築物用スペーサシート。」 (以下,請求項1に係る発明を,「本願発明」という。) 2.引用刊行物 (1)原査定の拒絶の理由に引用され,本願出願前に頒布された,上記刊行物1には,「第2 2.2-1.(1)」に記載したとおりの発明が記載されているものと認められる。 (2)原査定の拒絶の理由に引用され,本願出願前に頒布された,上記刊行物2には,「第2 2.2-1.(2)」に記載したとおりの発明が記載されているものと認められる。 3.対比・判断 本願発明は,前記「第2」で検討した補正発明から,「突起」について特定した上記特定事項(「第2 1.」参照。)を省いたものである。 そうすると,本願発明を特定するために必要な事項を全て含み,さらに他の事項を付加したものに相当する補正発明が、前記「第2 2.2-3.」に記載したとおり,刊行物1,2記載の発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も,同様の理由により,刊行物1,2記載の発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 したがって,本願発明は刊行物1,2記載の発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 |
審理終結日 | 2011-06-01 |
結審通知日 | 2011-06-07 |
審決日 | 2011-06-30 |
出願番号 | 特願2000-93672(P2000-93672) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(E04B)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 小野 忠悦 |
特許庁審判長 |
鈴野 幹夫 |
特許庁審判官 |
宮崎 恭 土屋 真理子 |
発明の名称 | 建築物用スペーサシート |
代理人 | 平石 利子 |