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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G11B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G11B
管理番号 1241837
審判番号 不服2008-14292  
総通号数 142 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-10-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-06-06 
確定日 2011-08-10 
事件の表示 特願2003-179866「テープドライブ読取ヘッド内の磁気抵抗センサ、および薄膜読取ヘッドの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 1月29日出願公開、特開2004- 30899〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成15年6月24日(パリ条約による優先権主張2002年6月25日、米国)の出願であって、平成19年10月22日付けで通知した拒絶の理由に対し、平成20年1月16日付けで明細書の特許請求の範囲について手続補正がされたが、同年3月4日付で拒絶査定がされ、これに対し、同年6月6日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同年7月3日付で手続補正がなされたものである。


2.平成20年7月3日付の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成20年7月3日付の手続補正を却下する。

[理由]
(1)補正の内容
平成20年7月3日付の手続補正(以下、「本件補正」という。)は、補正前の平成20年1月16日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1について、
(a)「【請求項1】 テープ支持表面を有する、テープドライブ読取ヘッド内の磁気抵抗センサであって、
磁気抵抗検知要素と、
前記磁気抵抗検知要素の表面に配置され、テープ支持表面の一部を形成する磁束誘導路とを含み、
前記磁気抵抗検知要素の表面は、前記磁気抵抗検知要素の平面の法線に対して傾斜しており、かつ、
前記磁束誘導路は、単一の磁区状態を維持しており、さらに、前記磁気抵抗検知要素と同一レベルに配置されかつ物理的に接触している、磁気抵抗センサ。」
とあったものを、

(b)「【請求項1】 テープ支持表面を有する、テープドライブ読取ヘッド内の磁気抵抗センサであって、
磁気抵抗検知要素と、
前記磁気抵抗検知要素の傾斜側面に配置され、テープ支持表面の一部を形成する磁束誘導路とを含み、
前記磁気抵抗検知要素の前記傾斜側面は、前記磁気抵抗検知要素の平面の法線に対して傾斜しており、かつ、
前記磁束誘導路は、単一の磁区状態を維持しており、さらに、前記磁気抵抗検知要素と同一レベルに配置されかつ物理的に接触しており、
前記磁束誘導路は、前記磁気抵抗検知要素の上表面に到達することなく、前記傾斜側面上において前記傾斜側面に沿って延在している、磁気抵抗センサ。」
と補正しようとするものである。

すると、本件補正は,請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「磁束誘導路」について、「磁束誘導路は、磁気抵抗検知要素の上表面に到達することなく、傾斜側面上において傾斜側面に沿って延在している」と限定を付加するものであるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第4項2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下,「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第5項において準用する同法126条5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(2)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された特開2001-338409号公報(以下、「引用例」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている(なお、下線は当審で付した。)。
ア.「【0002】
【従来の技術】磁気記録の高密度化に伴い、高感度な再生用磁気ヘッドが求められている。こうした用途に、現在その再生ヘッドとして異方性磁気抵抗(AMR)効果を利用した磁気抵抗効果型磁気ヘッド(MRヘッド)が用いられている。このMRヘッドの感磁部の材料にはNiFeが用いられている。この材料の磁気抵抗変化率は約2%で、実現可能な記録密度は数Gb/in^(2)である。さらに、最近では巨大磁気抵抗(GMR)効果を利用したスピンバルブ型磁気ヘッド(GMRヘッド)も製品に用いられ始めた。このGMRヘッドは、2つの強磁性層で非磁性金属層を挟んだ構造を有している。この構造では一方の強磁性層の磁化を固定させて2つの強磁性層の磁化方向のなす角度によって高い磁気抵抗変化率が得られる。GMRヘッドの抵抗変化率は約4?5%で、数十Gb/in^(2)クラスの記録も可能となった。しかし、今後更に記録密度を向上させるには、より大きな磁気抵抗変化率を有する磁気ヘッドが必要となる。
【0003】このような高い磁気抵抗変化率を有する磁気抵抗効果センサとして、2つの強磁性層の間にトンネル障壁層が挟まれたトンネル磁気抵抗効果膜を用いた磁気抵抗効果膜(TMR)が注目されている。このトンネル磁気抵抗効果膜を用いた磁気抵抗効果膜は高密度記録を実現する上で好適と目されている。このTMRではFe膜の間にAl酸化膜が挟まれた構造で、室温で約18%の大きな抵抗変化率が得られたと報告されている。この報告としては、例えば、ジャーナル オヴマグネティズム アンド マグネティック マテリアルズ(第139巻、231頁、1995年)を挙げることが出来る。また、特開平4-103014号公報には、一方の強磁性層に反強磁性層を接して強磁性層の磁化方向を固定させた、スピンバルブタイプのTMRを開示している。」

イ.「【0010】本願発明の別な例は、磁気抵抗効果膜と、前記磁気抵抗効果膜の膜厚方向に電流を流すための一対の電極と、記録媒体面からの磁束を前記磁気抵抗効果膜に導くための磁束ガイドを備えた磁気抵抗効果センサにおいて、前記磁気抵抗効果膜は強磁性層を含む自由層と、トンネル障壁層と、強磁性層を含む固定層と、前記固定層の磁化を固定する反強磁性層とを備えたトンネル型磁気抵抗効果膜であって、前記磁気抵抗効果膜が媒体面に露出しない位置に形成され、媒体面からとその対向面に伸びている前記磁束ガイドに接し、前記磁束ガイドにバイアス磁界を印加するための磁区制御層が積層されており、前記磁束ガイドを磁区制御することによって前記自由層も同時に磁区制御が可能な磁気抵抗効果センサを有することを特徴とする磁気ヘッドである。」

ウ.「【0013】磁気抵抗効果センサの構成には、磁束ガイドの磁区制御を行う方法に大きく分けて2つの方法に大別される。それらは、いわゆるハード・バイアス構造と積層構造とである。しかし、本願発明がいずれの構造の磁気抵抗効果センサの場合にも適用出来ることは言うまでもない。」

エ.「【0015】本願発明の骨子は、これらの諸構造によらず、磁束ガイドの磁区を制御することと、磁気抵抗効果膜の自由層をも併せて磁区制御を行う点にある。以下、その概念を説明する。」

オ.「【0038】図7に本願発明の係る磁気記録再生装置の例の概略説明図を示す。情報が記録された磁気ディスク53がスピンドル・モータ54によって回転させられる。この磁気ディスク53の摺動面に対向してスライダ55が配される。このスライダ55に磁気記録再生部が内蔵されている。そして、この磁気記録再生部等は信号処理部57によって制御されている。信号処理部57には例えばデータ再生及び復号系あるいは機構制御系等の電気制御系等が納められている。機構制御系やスライダ等はアクチュエータ56に接続されている。尚、こうした磁気記録再生装置の信号処理、回転制御等の電気系は基本的に従来の技術を用いて十分である。ここではその詳細な説明は省略する。
【0039】実施の形態1
図1は第1の実施例である磁気抵抗効果センサ20の主要部の斜視図である。図1に示すように、基板10上に、下部磁気シールド膜11、下部ギャップ膜12、トンネル磁気抵抗効果膜(以下、この膜をTMR膜(TunnelingMagnetoresistive Layer)と称す)13、磁束ガイド14、磁区制御膜15、上部ギャップ膜16、及び上部磁気シールド膜兼下部磁気コア17が順次形成される。通例、図に示されるように、上部磁気シールド膜17及び下部磁気シールド膜11は、それぞれ引き出し電極端子部18を有しており、TMR膜13の膜厚方向に電流を流すための電極を兼ねている。この磁気抵抗効果センサの断面の詳細は図2Aおよび図2Bに示される。
【0040】磁気抵抗効果センサの方位を、トラック幅方向101、素子高さ方向102、磁気ヘッド駆動方向103と定義すると、図中の線A及び線Bでの断面はそれぞれ、素子高さ方向102及びトラック幅方向101に平行な断面を示している。図2Aは上記磁気抵抗効果センサ20の素子高さ方向102に平行な断面図を、図2Bはトラック幅方向101に平行な断面図を示す。図11は磁気抵抗効果センサ20の平面図である。 基板10上に下部磁気シールド膜11、下部ギャップ膜12が所望の形状に形成されている。下部ギャップ膜12上の一部には、浮上面から離れた位置にTMR膜13が配置されている。そして、このTMR膜13の端部に乗り上げて1組の磁束ガイド14が、浮上面側から素子高さ方向(102)に伸びて配置されている。磁束ガイド14は媒体からの磁束をTMR膜13に誘導する軟磁性膜である。このTMR膜13は、具体的には例えば、下側から順に下地膜21、反強磁性膜22、第1の強磁性膜(固定層と称する)23、トンネル障壁層24、第2の強磁性膜(自由層と称する)25を有して構成されている。自由層25と固定層23の面内磁化は、外部磁界が印加されていない状態でお互いに対して90度傾いた方向に向けられている。固定層23は反強磁性膜22によって、好ましい方向に磁化が固定されている。この面内磁化が固定されているという意味で、前記第1の強磁性膜23は固定層と称される。一方、媒体から磁束ガイド14を通る磁界により、自由層25の磁化は自由に回転する。そして、この磁化の回転により抵抗変化が生じて、当該素子の出力が発生する。この面内磁化が自由に回転するという意味で、前記第2の強磁性膜25は自由層と称される。」

カ.「【0043】図2Bに示されるように、TMR膜13と磁束ガイド14とのトラック幅方向101の両脇には、両端部に乗り上げるようにそれぞれ磁区制御膜15が配置されている。磁区制御膜15は、磁束ガイド14及び自由層25の磁区の発生を抑制するために、バイアス磁界を加える強磁性膜である。」

キ.「【0053】次に上記磁気抵抗効果センサ20の作製方法を説明する。
【0054】まず、基板10上にスパッタリング法あるいはメッキ法により下部磁気シールド膜11を形成した後、下部ギャップ膜12をスパッタリング法で形成する。下部ギャップ膜12の表面をイオンクリーニングした後、スパッタリング法でTMR膜13の下地膜21、反強磁性膜22、固定層23、及びトンネル障壁層14を形成するための膜を順に連続で形成する。その後、真空を破らずに数十Torrの酸素雰囲気中で数十分自然酸化させて、トンネル障壁層24を作製する。さらに、この上部に、自由層25を形成する。こうして、本願発明に係わるTMR膜13が形成される。
【0055】その後、前記TMR膜の上部にレジスト膜を所望形状に形成し、次いでイオンミリングによりTMR膜13を所定の形状に加工する。TMR膜13の表面を軽くイオンクリーニングした後、レジストを剥がさずに磁束ガイド14をスパッタリング法あるいはメッキ法で形成し、レジストを除去する。この工程、即ち、いわゆるリフトオフ法によって、所望形状のTMR膜13および磁束ガイド14用の膜が形成される。さらにTMR膜13及び磁束ガイド14上にレジストを所定の形状に形成し、磁区制御膜15をスパッタリング法で加工し、レジストをリフトオフする。上部ギャップ膜16をスパッタリング法あるいは蒸着法により形成する。最後に上部磁気シールド膜17をスパッタリング法或いはメッキ法により形成して、図2に示すような磁気抵抗効果センサ20が完成する。」

ク.「【0057】上記磁気抵抗効果センサ20を用いて再生ヘッドを作製し、再生特性を測定した。その結果、良好で安定な再生出力が得られ、バルクハウゼンノイズなどのノイズや、ベースラインシフト等の波形歪みも見られなかった。なお再生信号の上下非対称性は±5%程度であり,実用上問題にならないレベルであった。」

前記ア乃至クの記載によれば、引用例には次の発明(以下、「引用例発明」という。)が記載されている。
「浮上面を有する磁気ディスク記録再生装置の再生ヘッドの磁気抵抗センサであって、
浮上面に露出しないトンネル磁気抵抗効果膜と、
浮上面から伸びてトンネル磁気抵抗効果膜の端部に乗り上げて配置された磁束ガイドとを有し、
磁束ガイドは磁区の発生が抑制されている磁気抵抗センサ。」

(3)対比
本願補正発明と引用例発明とを比較する。
引用例発明と本願補正発明とは、いずれも「磁気抵抗センサ」に関する発明である点において一致している。
引用例発明の「再生ヘッド」は、本願の「読取ヘッド」に相当する。
引用例発明の「再生ヘッド」の「浮上面」は、明らかに「再生ヘッド」の表面を形成しているものであるから、本願補正発明の「読取ヘッド」が「表面を有する」ことに相当する。

引用例発明の「トンネル磁気抵抗効果膜」は、再生ヘッドの磁気抵抗変化センサとして用いられ、本願補正発明の「磁気抵抗検知要素」に相当する。

引用例発明の「磁束ガイド」は、本願補正発明の磁束を導くことができる「磁束誘導路」に相当する。
引用例発明の「磁束ガイド」は、「浮上面から伸びてトンネル磁気抵抗効果膜の端部に乗り上げて配置され」、「トンネル磁気抵抗効果膜」は浮上面に露出していないことから、「磁束ガイド」は「再生ヘッド」の浮上面に一部を露出させていることは明らかであり、本願補正発明の「表面の一部を形成する磁束誘導路」の構成に相当する。
また、引用例発明の「磁束ガイド」の「浮上面側から伸びてトンネル磁気抵抗効果膜の端部に乗り上げて配置され」ていることは、「磁束ガイド」が「トンネル磁気抵抗効果膜」の、少なくとも側面に接触するまで伸びている点で、本願補正発明の「磁束誘導路」が「磁気抵抗検知要素の」「側面に配置され」、「さらに、磁気抵抗検知要素と同一レベルに配置されかつ物理的に接触して」いることに相当する。

以上のことから、引用例発明と本願補正発明の一致点及び相違点は、次のとおりである。
(一致点)
「表面を有する読取ヘッド内の磁気抵抗センサであって、
磁気抵抗検知要素と、
前記磁気抵抗検知要素の側面に配置され、表面の一部を形成する磁束誘導路とを含み、
前記磁束誘導路は、前記磁気抵抗検知要素と同一レベルに配置されかつ物理的に接触している、磁気抵抗センサ。」である点。

(相違点)
a.本願補正発明は、読取ヘッドについて、「テープ支持表面を有する、テープドライブ」のものとし、「磁束誘導路」が形成する表面の一部を「テープ支持表面」とするのに対して、引用例発明は「浮上面を有する磁気ディスク記録再生装置」のものとし、磁束ガイド(磁束誘導路)が形成する表面の一部を「浮上面」とする点。
b.本願補正発明において、磁気抵抗検知要素の側面は「傾斜側面」であって、前記傾斜側面は、「磁気抵抗検知要素の平面の法線に対して傾斜しており」と特定され、さらには、「磁束誘導路」が「傾斜側面上において傾斜側面に沿って延在している」のに対して、引用例発明はこれらの事項を特定していない点。
c.本願補正発明は、磁束誘導路について、「単一の磁区状態を維持しており」と特定するのに対し、引用例発明では、そのような特定がない点。
d.本願補正発明は、磁束誘導路について、「磁気抵抗検知要素の上表面に到達することなく」と特定するのに対して、引用例発明は「乗り上げて」いるとする点。

(4)当審の判断
相違点について検討する。
(相違点aについて)
テープドライブの読取ヘッド内の磁気抵抗センサがテープ支持表面に露出しないように、磁束誘導路(フラックスガイド)が読取ヘッド表面の一部を形成している読取ヘッドは周知(特開平6-267034号公報の【0001】【0019】磁気テープ装置に用いられる再生専用のフラックスガイドを有する磁気抵抗効果型薄膜ヘッド、特開2001-209913号公報の【0008】【0009】テープ媒体からの磁束を導く磁束誘導部を有する磁気抵抗効果素子、特開2002-133615号公報【0005】【0006】テープ系の記録再生装置のフラックスガイド型MRヘッド等参照。)である。
してみれば、引用例発明における再生ヘッドを、磁束ガイドがテープ支持表面の一部を形成しているテープドライブの再生ヘッドに適用して、磁束ガイドがテープ支持表面の一部を形成している再生ヘッドとすることは、周知技術を参照することにより、当業者が容易になしうることである。

(相違点bについて)
本願補正発明の「磁気抵抗検知要素」の側面が、傾斜側面に形成されることは、例えば次の周知例に示すように周知技術にすぎない。
相違点aについて例示した前掲周知例の特開2001-209913号公報の図3(c)には、「磁気抵抗効果素子」の側面が傾斜側面であることが示されている。【0022】【0023】には、「磁気抵抗効果素子」をパターンニングを行う際に、磁気抵抗効果素子のスピンバルブ膜の上にアンダーカット型レジストを設け(図3(b))、イオンミリングによりパターニングを行う(図3(c))ことが記載されている。
特開2001-110016号公報の図2には、磁気抵抗効果素子の側面が傾斜側面であることが示されている。【0104】?【0106】には、「スピンバルブ型薄膜磁気素子」をトラック幅方向に形成する際に、スピンバルブ積層膜の上にレジストを設け(図2)、スピンバルブ積層膜をエッチングにより削ること(図3)が記載されている。
なお、製造方法は本願補正発明に特定された事項ではないが、上記周知例のいずれも、アンダーカットのあるレジストを形成し、エッチングすることにより傾斜面が形成される点でも、本願補正発明の磁気抵抗検知要素における傾斜側面の形成と共通するものである。
また、上記いずれの周知例においても、エッチングにより形成された傾斜側面には、それぞれ所定の薄膜が傾斜側面に沿って延在するように形成されており、当該傾斜側面に沿って、接触面積が確保されて良好な接触が得られることは当業者が当然予測しうることにすぎない。
すると、引用例発明の「トンネル磁気抵抗効果膜」に関しても、引用例の図2A、B、及び上記「キ.」の【0054】【0055】を参照して「トンネル磁気抵抗効果膜」の形成について、レジスト膜を所望形状に形成し、次いでイオンミリングにより「トンネル磁気抵抗効果膜」を所定の形状に加工することが記載されている点も考慮すると、引用例発明の「トンネル磁気抵抗効果膜」において、その側面を、「傾斜側面」として、当該傾斜側面がトンネル磁気抵抗効果膜の「平面の法線に対して傾斜して」いるものとし、磁束ガイド(磁束誘導路)を当該「傾斜側面上において前記傾斜側面に沿って延在」するように形成することは、周知技術を参照することにより当業者が容易に想到しうることである。

(相違点cについて)
引用例発明では、本願補正発明の「磁束誘導路」に相当する「磁束ガイド」に対して、強磁性膜である磁区制御膜によりバイアス磁界を加えられ(上記「カ」参照)、「磁区の発生が抑制されている」ので、前記バイアス磁界が十分なものであれば、技術常識上、磁束ガイドは当然、磁区の不規則な不連続な発生が抑制されて単磁区化されていると解されるか、または、単磁区化されることが好ましいと解されることが明らかであるから、相違点cとした点は、単に表記上で相違する程度で、引用例発明は実質上本願補正発明の「磁束誘導路は、単一の磁区状態を維持しており」との構成を備えていると認められるか、たとえそうでなくとも、ノイズ(周知のバルクハウゼンノイズ等)の発生を抑制するために、前記バイアス磁界を、磁束ガイドが「単一の磁区状態を維持」するように加える程度のことは、当業者が容易に想到しうる配慮にすぎないものである。

(相違点dについて)
磁気抵抗効果型再生ヘッドにおいて、磁束ガイド(フラックスガイド)が磁気抵抗効果膜の上表面に到達することのない構造は、次の周知例に示すように周知技術にすぎない。
例えば、特開平8-339514号公報には、フラックスガイド(11)が磁気抵抗効果膜(10)の素子高さ方向側の磁気ディスク側に磁気抵抗効果膜に接して配置されて、磁気抵抗効果膜が露出していない磁気ディスク装置の再生ヘッドの例が【0034】(図6)、【0035】(図7)に記載されている。磁気抵抗効果素子の作成方法について、【0040】に図11とともに、磁気抵抗効果膜の上にフォトレジスト工程を用いてレジストパターンを所定の形状に形成し、イオンミリングによって磁気抵抗効果膜のレジストパターンに蔽われていない部分を除去し、フラックスガイドとなる高抵抗軟磁性薄膜を形成し、レジストパターンとレジストパターン上の高抵抗軟磁性薄膜を除去することが記載されている。説明図の図4,図6,図7,図9,図10には、フラックスガイドが磁気抵抗効果膜の上表面に到達することがなく、フラックスガイドと磁気抵抗効果膜の上表面は平坦であることが示されている。
また、特開平10-49835号公報には、磁気ディスクなどの磁気媒体の再生に用いられるフラックスガイドを備えたフラックスガイド型MRヘッド(磁気抵抗効果型ヘッド)について記載されている。【0009】には、フラックスガイドとMR素子とは平坦に連続し、MR素子上に形成される磁気ヨークを兼用したシールド膜も平坦に形成されることが記載されている。【0012】【0013】には、リソグラフィ技術によってMR素子の形成後、MR素子層の上にレジスト層を形成し、MR素子層の側面を少し除去し、側面がレジスト層から露出している状態でフラックスガイド層を形成し、その後、レジスト層を除去する。レジスト層を除去すると、フラックスガイド層とMR素子層との接合部に突起部が形成されるので、突起部を削り取ることが記載されている。MR素子層の上表面はレジスト層があり、フラックスガイド層の材料からなる突起部は、MR素子層の上表面に到達していないことは明らかである(図2参照)。
してみれば、引用例発明の「磁気抵抗センサ」において、「磁束ガイド」と「トンネル磁気抵抗効果膜」の上表面が平坦になるように、「磁束ガイド」が「トンネル磁気抵抗効果膜」の上表面に到達することがなく形成することは、周知技術を参照することにより当業者が適宜になしうることである。
なお、本願補正発明において「前記磁束誘導路は、前記磁気抵抗検知要素の上表面に到達することなく」との特定事項は、発明の詳細な説明全体を精査しても根拠となる記載はなく、図面のみ(図7等)が根拠と認められるので、製造プロセスとの関連で前記特定事項のような構造をもつこととなったものと推察される程度のことであり、物の発明である本願補正発明に関しては前記特定事項に基づく格別の作用効果も確認することができないから、前記検討のとおり、周知技術を参照することにより当業者が適宜なし得ることとするほかない。

そして、各相違点を総合しても、本願補正発明の奏する効果は、引用例の記載から当業者が十分に予測できる範囲のものである。

したがって,本願補正発明は,引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)本件補正についてのむすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第5項で準用する同法126条5項の規定に違反するものであり、同法159条1項で準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。


3.本願発明について
平成20年7月3日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、前記2.[理由](1)の(b)の平成20年1月16日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載のとおりのものである。

(1)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例、及びその記載事項は、前記2.(2)に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明は、前記「2.」で検討した本願補正発明の発明特定事項から、「磁束誘導路」について、「磁気抵抗検知要素の上表面に到達することなく、傾斜側面上において傾斜側面に沿って延在している」との限定を省くものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに他の限定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「2.(4)」に記載したとおり、引用例及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用例及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について論及するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-02-17 
結審通知日 2011-02-22 
審決日 2011-03-25 
出願番号 特願2003-179866(P2003-179866)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G11B)
P 1 8・ 121- Z (G11B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 石坂 博明  
特許庁審判長 山田 洋一
特許庁審判官 井上 信一
石丸 昌平
発明の名称 テープドライブ読取ヘッド内の磁気抵抗センサ、および薄膜読取ヘッドの製造方法  
代理人 酒井 將行  
代理人 堀井 豊  
代理人 仲村 義平  
代理人 森田 俊雄  
代理人 深見 久郎  
代理人 野田 久登  

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