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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C23C |
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管理番号 | 1241922 |
審判番号 | 不服2008-25168 |
総通号数 | 142 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2011-10-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2008-10-01 |
確定日 | 2011-08-12 |
事件の表示 | 特願2004-371863「スパッタターゲットのための冷却されたバックプレートおよび複数のバックプレートから成るスパッタターゲット」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 6月 8日出願公開、特開2006-144111〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成16年12月22日(優先権主張 2004年11月19日、欧州特許庁)の出願であって、平成19年10月23日付け拒絶理由通書が送付され、平成20年4月24日付けで手続補正書が提出されたものの、同年6月25日付で拒絶査定されたものである。 そして、本件審判は、この拒絶査定を不服として請求されたもので、平成20年10月1日付けで審判請求書が提出されるとともに、同日付けで手続補正書が提出され、その後、平成22年5月27日付け審尋が送付され、これに対し、同年10月29日付け回答書が提出されている。 第2 本願発明 本願の発明は、平成20年10月1日付け手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定されるものと認められるところ、請求項1に係る発明(以下、これを「本願発明1」という。)は、次のとおりのものである。 「【請求項1】スパッタターゲットのための冷却されたバックプレートであって、当該バックプレートの表側に、スパッタしたい材料が取付け可能であり、当該バックプレートの裏側に、当該バックプレートを冷却するための手段が設けられており、当該バックプレート(2,3,4)において、当該バックプレートの裏側に向かって開放している少なくとも1つの溝(5)が、冷却媒体流入部と冷却媒体流出部との間に延びており、溝(5)が、当該バックプレート(2,3,4)の外側のフレーム(6)によって取り囲まれており、フレーム(6)の内側に、該フレームから離れた少なくとも1つの隆起部が延びており、該隆起部が、2つの溝区分同士を互いに分離しており、溝(5)の開放している側が、横断面で見て閉じた冷却通路を形成するために、閉鎖シート・バー(9)によって閉鎖されている形式のものにおいて、 前記隆起部が、ウェブ(7)として形成されており、閉鎖シート・バー(9)が、フレーム(6)およびウェブ(7)に溶接されており、フレーム(6)の内側縁部が、閉鎖シート・バー(9)を収容するための環状の段部(8)を備えており、該段部(8)の高さが、閉鎖シート・バー(9)の厚さに相当し、これにより、段部(8)に載設されている閉鎖シート・バー(9)が、フレーム(6)の、段部を成すように取り除かれていない部分と同一平面を成していることを特徴とする、スパッタターゲットのための冷却されたバックプレート。」 第3 原査定の理由の概要 原審の拒絶査定の理由の1つは以下のとおりのものである、 「本願の請求項1?7に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物1?5に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。 記 刊行物1:特開2002-220661号公報 刊行物2:特開2002-248584号公報 刊行物3:特開2000-204468号公報 刊行物4:特開2004-143548号公報 刊行物5:特開昭63-227774号公報 」 第4 引用例とその記載事項 原審の拒絶査定に引用された刊行物1及び刊行物2(以下、「引用例1」及び「引用例2」という。)には、次の事項が記載されている。なお、引用発明を認定するために必要な記載箇所に下線を付した。 (1)引用例1の記載事項 (1a); 「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、スパッタリング装置に用いられるスパッタリング用ターゲットを固定し、ターゲットを冷却するバッキングプレートおよびスパッタリング方法に関する。」 (1b); 「【0005】図5(1)は従来のバッキングプレート104を示す平面図であり、図5(2)は、図5(1)の切断面線S5-S5から見た断面図である。バッキングプレート104は、入手および加工が容易な銅などの金属で形成される。またバッキングプレート104は、図示しないスパッタリング装置に装着可能に形成され、バッキングプレート104に接合されたターゲット103に負電位を供給するとともに、ターゲット103の温度上昇を抑える冷却手段を備えている。 (省略) 【0008】バッキングプレート104は、2枚の板状部材106a,106bが厚み方向に重なり合って形成される。2つのうちの一方の板状部材106aには、連続した一筋の溝107がターゲット接合面と反対の面に開放して形成される。2つのうち他方の板状部材106bは、前記溝107を塞ぐように合わされ、これによって溝107は冷却水が流れる冷却液流通路105となる。冷却液流通路105は、冷却液入口108および冷却液出口109が設けられ、外部からの冷却液を循環させる構成になっている。冷却液が循環することによってバッキングプレート104が冷却され、バッキングプレート104に結合されたターゲット103も冷却される。このような従来のバッキングプレート104の一例として、たとえば特開平6-172988に開示されている。」 (1c); 「【0040】この冷却流通路形成板8および封止板9は、電子ビーム溶接またはレーザビーム溶接などの高エネルギー熱源を利用した溶接によって合わせられる。これによって、溶接時にバッキングプレート全体が高温になることが防がれ、機械的強度を下げずに接合することができ、また熱膨張による歪みが少なく形状が正確なバッキングプレート1を形成することができる。」 (2)引用例2の記載事項 (2a); 「【0005】 【発明が解決しようとする課題】バッキングプレートは冷却効率を高める必要があり、前記ターゲット材などと接触する前記バッキングプレートの表面は高い平坦度と平滑度が要求される。前記バッキングプレート本体と水路を覆う蓋の接合は、従来、電子ビーム溶接、レーザー溶接、拡散接合、ろう付け法などで行われている。しかしこれらの溶接法はいずれも接合後の熱歪みが大きく、接合後の修正作業または機械切削により表面を平滑にする必要があり、品質、精度、更に生産性、コストの点で問題があった。」 (2b); 「【0044】図2はバッキングプレートの水路近傍の断面図である。本体1の内部には断面が矩形の水路4となる第1の溝が機械加工により施されており、その溝の上に水路4よりも断面空間が大きく、段差を有して第2の溝が形成され、その第2の溝の部分に蓋2がはめ込まれる。このとき本体1と蓋2はインロー構造になっており、インロー幅5はおよそ2。5mmである。また水路3の幅は約50mm、高さは5mm、さらに蓋2の高さは5mmで本体1にはめ込んだとき、同じ高さとなる。これらの形状または寸法はバッキングプレートのタイプにより異なり、本体1の平面形状もこのように角型のほか、丸型もある。従って、接合部の裏波は、水路6には入らず、健全な接合が得られる。接合後、バッキングプレートは接合側に曲がりが生じたので、先端がI型を有する刃でプレス成形して曲がりを矯正し、その後研削と研磨を行った。」 第5 当審の判断 1 引用例1に記載された発明 上記(1a)によれば、引用例1は、「スパッタリング装置に用いられるスパッタリング用ターゲットを固定し、ターゲットを冷却するバッキングプレート」に関するものである。 そして、引用例1の(1b)の記載(下線部)から、従来のバッキングプレートの構造に関し、以下の記載事実が認められる。 ア ターゲットの温度上昇を抑える冷却手段を備えている。 イ バッキングプレートは、2枚の板状部材が厚み方向に重なり合って形成され、2つのうちの一方の板状部材には、連続した一筋の溝がターゲット接合面と反対の面に開放して形成される。 ウ 2つのうち他方の板状部材は、前記溝を塞ぐように合わされ、これによって溝は冷却水が流れる冷却液流通路となる。 エ 冷却液流通路は、冷却液入口および冷却液出口が設けられ、外部からの冷却液を循環させる構成になっている。 オ 冷却液が循環することによってバッキングプレートが冷却され、バッキングプレートに結合されたターゲットも冷却される。 上記ア?オの事実を、本願発明1に則り整理すると、引用例1には、バッキングプレートについての次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「ターゲットを冷却するバッキングプレートであって、 ターゲットを固定し、 ターゲットの温度上昇を抑える冷却手段を備えており、 2枚の板状部材が厚み方向に重なり合って形成されるバッキングプレートにおいて、 一方の板状部材には、連続した一筋の溝がターゲット接合面と反対の面に開放して形成されており、 他方の板状部材は、前記溝を塞ぐように合わされ、これによって溝は冷却水が流れる冷却液流通路となり、 冷却液流通路は、冷却液入口および冷却液出口が設けられており、 この冷却液流通路を冷却液が循環することによってバッキングプレートが冷却され、バッキングプレートに結合されたターゲットも冷却されるバッキングプレート。」 2 本願発明1と引用発明との対比 本願発明1と引用発明とを対比する。 (1)引用発明の「ターゲット」は、本願発明1の「スパッタターゲット」に相当し、引用発明の「バッキングプレートターゲットの温度上昇を抑える冷却手段」は、冷却液流通路を冷却液が循環することによってバッキングプレートが冷却されることによるものであるから、2枚の板状部材が厚み方向に重なり合って形成されるバッキングプレートを冷却するための手段であり、本願発明1の「バックプレートを冷却するための手段」に相当する。 (2)引用発明の「一方の板状部材」は、ターゲット接合面の反対の面に連続した一筋の溝が開放して形成されているものであるから、本願発明1の「バックプレート」に相当するし、一方、引用発明の「他方の板状部材」は、冷却液流通路を形成するために、前記溝を塞ぐように合わされるものであるから、本願発明1の「閉鎖シート・バー」に相当するといえる。すると、引用発明の「ターゲット接合面」と「ターゲット接合面と反対の面」は、各々、本願発明1の「バックプレートの表側」と「バックプレートの裏側」に相当することは明らかである。 (3)そして、図5を参酌すれば、引用発明の「連続した一筋の溝」、「冷却液入口」及び「冷却液出口」は、前記溝の両端に冷却液入口と冷却液出口が設けられ、その間に延びて冷却水通路となるものであるから、それぞれ、本願発明1の「冷却通路」、「冷却媒体流入部」及び「冷却媒体流出部」に相当することも明らかである。 (4)また、引用発明において、ターゲットは当然にスパッタしたい材料であり、バックプレート(一方の板状部材)のターゲット接合面に固定可能であるから、本願発明1における、スパッタしたい材料が、バックプレートの表側に取付け可能であることに相当することも明らかである。 (5)さらに、図5を参酌すると、引用発明において、一方の板状部材のターゲット接合面と反対の面(バックプレートの裏側)に開放して形成された「連続した一筋の溝」は、一方の板状部材の周縁によって取り囲まれていることが認められるし、さらに、該周縁の内側で該周縁から離れた箇所に「隆起部」が延びており、この「隆起部」が溝同志を互いに分離していることが認められ、そして、この「隆起部」は、その形状からみて、いわゆるウェブとして形成されているものいうことができる。 (6)以上によれば、本願発明1と引用発明とは、次の点で一致し、一方、以下の点で相違する。 一致点; 「スパッタターゲットのための冷却されたバックプレートであって、当該バックプレートの表側に、スパッタしたい材料が取付け可能であり、当該バックプレートの裏側に、当該バックプレートを冷却するための手段が設けられており、当該バックプレートにおいて、当該バックプレートの裏側に向かって開放している少なくとも1つの溝が、冷却媒体流入部と冷却媒体流出部との間に延びており、溝が、当該バックプレートの外側のフレームによって取り囲まれており、フレームの内側に、該フレームから離れた少なくとも1つの隆起部が延びており、該隆起部が、2つの溝区分同士を互いに分離しており、溝の開放している側が、横断面で見て閉じた冷却通路を形成するために、閉鎖シート・バーによって閉鎖されている形式のスパッタターゲットのための冷却されたバックプレート。」 相違点; (イ)本願発明1では、閉鎖シート・バーが、バックプレートの外側のフレームおよびウェブに溶接されているのに対し、引用発明では、閉鎖シート・バー(他方の板状部材)が、バックプレートの外側のフレームおよびウェブに溶接されているか否か不明である点。 (ロ)本願発明1では、フレームの内側縁部が、閉鎖シート・バーを収容するための環状の段部を備えており、該段部の高さが、閉鎖シート・バーの厚さに相当し、これにより、段部に載設されている閉鎖シート・バーが、フレームの、段部を成すように取り除かれていない部分と同一平面を成しているのに対し、引用発明では、このような構成を有しない点。 3 相違点についての判断 以下に相違点について検討する。 (1)相違点(イ)について、 引用例2の(2b)には、「バッキングプレートは冷却効率を高める必要があり、前記ターゲット材などと接触する前記バッキングプレートの表面は高い平坦度と平滑度が要求される。前記バッキングプレート本体と水路を覆う蓋の接合は、従来、電子ビーム溶接、レーザー溶接、拡散接合、ろう付け法などで行われている」との記載がある。また、引用例1の(1c)にも、引用発明について直接記載したものではないが、「この冷却流通路形成板8および封止板9は、電子ビーム溶接またはレーザビーム溶接などの高エネルギー熱源を利用した溶接によって合わせられる」との記載がある。 このように、バックプレートの裏側に向かって開放している冷却媒体用溝を閉鎖部材によって閉鎖して冷却通路を形成する形式のバックプレートにおいて、溝を閉鎖して冷却通路を形成する閉鎖部材をバックプレートに接合するために、溶接手段を用いることは、本願優先日前に広く知られていた周知手段であったことが認められる。 してみると、引用発明において、バックプレートに閉鎖部材である閉鎖シート・バーを接合して、冷却通路を形成するにあたり、両者を接合する手段として周知の溶接手段を用いることを想到し、溶接に際し、冷却通路を形成するという目的を勘案して冷却通路が液密となるように、閉鎖シート・バーが、バックプレートの外側のフレームだけではなく、さらに、2つの溝区分同士を互いに分離するウェブ(隆起部)にも溶接されるようにする程度ことは、当業者であれば容易になし得たことといえる。 したがって、相違点(イ)は容易になし得たことである。 (2)相違点(ロ)について 引用例2の(2c)には、「図2はバッキングプレートの水路近傍の断面図である。本体1の内部には断面が矩形の水路4となる第1の溝が機械加工により施されており、その溝の上に水路4よりも断面空間が大きく、段差を有して第2の溝が形成され、その第2の溝の部分に蓋2がはめ込まれる。このとき本体1と蓋2はインロー構造になっており、インロー幅5はおよそ2.5mmである。また水路3の幅は約50mm、高さは5mm、さらに蓋2の高さは5mmで本体1にはめ込んだとき、同じ高さとなる」との記載がある。 さらに、本願優先日当時のバックプレートの技術水準を示すと認められる特開平3-140464号公報には、「第4図及び第5図に示すように、前記開きょ状の冷却水路14は、バッキングプレート12に密着固定される底板13によって塞がれて、暗きょ状の冷却水路14になる。バッキングプレート12と底板13とは銀ロー付けにより密着固定されている」(3頁左上欄19行?右上欄3行)ことが記載され、また、特開平5-132774号公報には、「図1は本発明の実施例によるプレーナ型マグネトロンスパッタ装置の断面図である。図において、・・・4はバッキングプレート本体、4Aはバッキングプレート本体に彫り込まれた水冷用のジャケット、4Bは銀ろう付けされた蓋、4Cは冷却水の出入口・・・である」と記載されており、ここで、バッキングプレートと底板又は蓋との接合構造について、それぞれの文献に記載された図面をみると、上記底板又は蓋は、バッキングプレートの周縁部に設けられた段差にはめ込むことにより、バッキングプレートの形成された溝を塞ぎ、そして、底板又は蓋が当該周縁部と同一平面を成して冷却通路を形成していることが認められる。 以上によれば、バッキングプレートに形成された溝の上に、段差を有して第2の溝が形成され、その第2の溝の部分に閉鎖シート・バー(蓋)がはめ込まれ、このとき本体と閉鎖シート・バーが同一平面を成すようにしたり、また、バッキングプレートの形成された溝を塞ぐために、バッキングプレートの周縁部、すなわち、フレームの内側縁部に、閉鎖シート・バー(底板又は蓋)を収容するための環状の段部を設けたり、該段部の高さが、閉鎖シート・バーの厚さに相当せしめ、これにより、段部に載設されている閉鎖シート・バーが、フレームの、段部を成すように取り除かれていない部分と同一平面を成すようにしたりすることは、本願優先日前に当業者間において、広く知られていた慣用手段であったことが認められる。 してみると、引用発明において、バックプレートと閉鎖シート・バートとの接合部のフレームの内側縁部が、閉鎖シート・バーを収容するための環状の段部を備えており、該段部の高さが、閉鎖シート・バーの厚さに相当し、これにより、段部に載設されている閉鎖シート・バーが、フレームの、段部を成すように取り除かれていない部分と同一平面を成している構成とすることは、当業者が容易に採用することができた程度のことといえる。 したがって、相違点(ロ)は容易なことである。 4 小括 以上のとおりであるから、本願発明1は、本願出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である引用例1及び引用例2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 6.むすび したがって、本願発明1は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その余の発明について検討するまでもなく、本願は、拒絶すべきでものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2011-03-11 |
結審通知日 | 2011-03-16 |
審決日 | 2011-03-29 |
出願番号 | 特願2004-371863(P2004-371863) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(C23C)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 宮澤 尚之、富永 泰規 |
特許庁審判長 |
長者 義久 |
特許庁審判官 |
植前 充司 山本 一正 |
発明の名称 | スパッタターゲットのための冷却されたバックプレートおよび複数のバックプレートから成るスパッタターゲット |
代理人 | アインゼル・フェリックス=ラインハルト |
代理人 | 久野 琢也 |
代理人 | 矢野 敏雄 |