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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C09D
管理番号 1242035
審判番号 不服2007-21918  
総通号数 142 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-10-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-08-08 
確定日 2011-08-18 
事件の表示 特願2001-318855「耐汚染性付与組成物、塗料組成物および該塗料組成物から得られる塗膜」拒絶査定不服審判事件〔平成15年4月23日出願公開、特開2003-119424〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、平成13年10月17日の出願であって、平成19年3月1日付けで拒絶の理由が通知され、同年5月2日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年7月5日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年8月8日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年9月6日に手続補正書、同年11月2日に審判請求書を補正する手続補正書が提出されたものである。その後、平成22年4月7日付けの審尋に対し、同年6月9日に回答書が提出されたが、同年8月30日付けで、平成19年9月6日付けの手続補正を却下する決定がされるとともに、拒絶の理由が通知され、これに対して、平成22年10月28日に意見書及び手続補正書が提出された。

第2 本願発明
この出願の発明は、平成22年10月28日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「(A)オルガノシリケート化合物、(B)アルキレンオキシ鎖含有ノニオン系乳化剤、(C)錫化合物を含み、水を含有せず、(C)成分の配合量が(A)成分100重量部に対し1?50重量部である塗料の耐汚染性付与組成物と、
アルコキシシリル基含有合成樹脂エマルジョンとを含有する塗料組成物。」

第3 当審が通知した拒絶の理由
当審が通知した拒絶の理由は、理由1と理由2からなり、そのうちの理由2の概要は、この出願の請求項1?11に係る発明は、その出願前に頒布された刊行物1(特開平10-17850号公報)及び刊行物2(特開平8-259892号公報)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
そして、上記請求項1?11に係る発明のうちの一つは、請求項10に係る発明であるところ、上記請求項10に係る発明のうち、その塗料組成物の耐汚染性付与組成物が請求項4を引用する請求項6のものであるものは、「本願発明」に相当するから、当審が通知した拒絶の理由は、本願発明は、その出願前に頒布された刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。

第4 当審の判断
当審は、当審が通知した拒絶の理由のとおり、本願発明は、上記刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないと判断する。
その理由は、以下のとおりである。

1 刊行物に記載された事項

(1)刊行物1:特開平10-17850号公報
(1a)「【請求項1】(1)乳化剤(A)と、(2)アルキルシリケートおよび/または其の部分加水分解縮合物(B)と、(3)必要に応じて、アルコール類(C)および/または水結合剤(D)とを含有することを特徴とする、水性防汚剤組成物。」
(1b)「【0002】そして、本発明に係る当該水性防汚組成物は、その使用時において、水で希釈するだけて、クリア塗料として、そのまま、塗装したり、あるいは水性塗料中に配合して塗装せしめるということによって、汚染性物質の付着し難い塗膜を形成せしめることが出来る、極めて実用性に高い組成物である。」
(1c)「【0017】【発明の実施の形態】ここにおいて、本発明に係る水性防汚組成物を構成する一必須成分たる上記した乳化剤(A)とは、本発明において、他の一必須構成成分として用いられる、上記したアルキルシリケートおよび/または其の部分加水分解縮合物(B)を、安定に、水中に分散化ないしは可溶化せしめるために使用されるというものを指称し、そうした乳化剤のうちでも特に代表的なもののみとしては、アニオン性乳化剤、ノニオン性乳化剤またはカチオン性乳化剤が例示できる。さらに、本発明組成物においては、これらの種々の乳化剤は、無水の状態のものが、好適に使用される。」
(1d)「【0019】また、上記したノニオン性乳化剤として特に代表的なもののみを例示するにとどめれば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン高級脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロック共重合体、ポリビニルアルコールまたはヒドロキシエチルセルロースなどで代表されるような、各種の水溶性高分子系ノニオン型活性剤などであり、これらは単独使用でも、あるいは2種以上の併用でもよいことは、勿論である。」
(1e)「【0022】次に、本発明に係る水性防汚組成物を構成する、他の一必須成分たる、上記したアルキルシリケートおよび/または其の部分加水分解縮合物(B)としては、たとえば、次に例示するようなものが、特に代表的なものである。
【0023】その一例として特に代表的なもののみを挙げるにとどめれば、メチルシリケート、エチルシリケート、イソプロピルシリケートもしくはn-ブチルシリケートの如き、各種のアルキルシリケート化合物;または上掲したような各種のシリケート化合物を、部分加水分解縮合せしめるということによって得られる部類の、遊離のシラノール基を有しない形のアルキルシリケート・オリゴマー類などである。」
(1f)「【0040】一方、上記した水結合剤(D)として特に代表的なもののみを例示するにとどめれば、オルソ蟻酸トリメチル、オルソ蟻酸トリエチルもしくはオルソ蟻酸トリブチルの如きオルソ蟻酸トリアルキル;オルソ酢酸トリメチル、オルソ酢酸トリエチルもしくはオルソ酢酸トリブチルの如き、各種のオルソ酢酸トリアルキル;またはオルソほう酸トリメチル、オルソほう酸トリエチル、オルソほう酸トリブチルの如きオルソほう酸トリアルキルなどであるし、」
(1g)「【0042】本発明に係る水性防汚組成物には、以上において記述して来たような各成分のほかにも、たとえば、アルコール類以外の溶剤類、カップリング剤、硬化触媒あるいは顔料類などのような、次に示す部類の各種の添加剤成分をも配合することが出来る。」
(1h)「【0043】上記した溶剤類としては、特に限定されるものではなく、汎用の有機溶剤であれば、いずれのものも使用できるが・・・」
(1i)「【0049】さらに、上記した硬化触媒として特に代表的なもののみを例示するにとどめれば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸カリウムもしくはナトリウム・メチラートの如き、各種の塩基性化合物類;
【0050】テトライソプロピルチタネート、テトラ-n-ブチルチタネート、オクチル酸錫、オクチル酸鉛、オクチル酸コバルト、オクチル酸亜鉛、オクチル酸カルシウム、ナフテン酸亜鉛、ナフテン酸コバルト、ジ-n-ブチル錫ジアセテート、ジ-n-ブチル錫ジオクトエート、ジ-n-ブチル錫ジラウレートもしくはジ-n-ブチル錫マレエートの如き、各種の含金属化合物類;
【0051】p-トルエンスルホン酸、トリクロル酢酸、燐酸、モノアルキル燐酸、ジアルキル燐酸、モノアルキル亜燐酸もしくはジアルキル亜燐酸の如き、各種の酸性化合物などである。」
(1j)「【0059】次いで、本発明組成物の別の実施態様としては、水性塗料への混合による使用である。この場合には、既存の水性塗料、すなわち、汎用のエマルジョン塗料、ディスパージョン塗料あるいは水溶性塗料などに対して、本発明組成物を使用時に混合せしめて、撹拌したのちに、塗装せしめるということができる。この場合において使用する水性塗料としては、上塗り塗料に対し、本発明組成物を混合せしめるということが、重要である。」
(1k)「【0068】実施例2
本例も亦、水性防汚剤組成物の調製例を示すものである。
【0069】それぞれ、HLBが8なるポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルの6部、HLBが16なるポリオキシエチレンアルキルエーテルの2部およびHLBが16なる(審決注:「なら」と記載されているが「なる」の誤記と認める。)ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロック共重合体の2部を、加温下に、よく混合せしめてから、メチルシリケートの部分加水分解縮合物である「メチルシリケート56」の500部と、イソプロピルアルコールの80部およびジエチレングリコールモノブチルエーテルの20部とを加え、同時に、系中の微量の水分を除去する目的で、オルト蟻酸メチルの10部をも加えて、よく混合せしるということによって、目的の水性防汚剤組成物を調製した。以下、本品をS-2と略称する。」
(1L)「【0072】参考例1(水性塗料調整用エマルジョン重合体の調製例)
攪拌機、温度計、コンデンサー、滴下漏斗および窒素ガス導入口を備えた反応容器に、脱イオン水の1,500部を入れ、乳化剤としての、「エマルゲン950」[花王(株)製の、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルの商品名]の40部を添加して、攪拌下に、窒素を吹き込みながら、80℃に昇温して、乳化剤を溶解せしめた。
【0073】次いで、過硫酸アンモニウムの5部を添加し、引き続いて、メチルメタクリレートの500部、n-ブチルアクリレートの480部およびアクリル酸の20部と、n-ドデシルメルカプタンの1.0部とからなる単量体混合物を、3時間に亘って滴下し、重合反応を続行せしめた。滴下終了後も、同温度に、2時間のあいだ攪拌を続行せしめた。
【0074】しかるのち、内容物を冷却してから、アンモニア水で以て、pHが8を超えるように調整すると共に、固形分濃度が40.0%になるように、脱イオンで以て調整し、次いで、100メッシュ金網で以て濾過した。
【0075】かくして得られるエマルジョン重合体は、固形分濃度が40.0%で、pHが8.1であり、かつ、25℃で測定された、BM型粘度計による粘度が80cpsであった。以下、このエマルジョン重合体を、E-1と略す。」
(1m)「【0079】まず、参考例1で得られた水性塗料調整用エマルジョン重合体E-1を用い・・・白色塗料と為した。
【0080】なお、かかる塗料化に際しては、常法に従い、増粘剤・・・造膜助剤・・・をも配合せしめるということによって、最低造膜温度が5℃で、しかも、ストマー粘度が85KUなる塗料(E-2)と為した。」
(1n)「【0089】応用例4?6ならびに比較応用例3および4
【0090】これらの諸例は、水性塗料中に混合せしめるというようにした場合の、それぞれ、応用例ならびに比較応用例を示すものである。
【0091】前掲した諸々の応用例ならびに比較応用例の場合において、調製し、かつ、使用した水性塗料(E-2)に、本発明組成物たる、実施例1?3で得られた、それぞれの水性防汚剤組成物を、第2表に示すような配合割合で以て混合せしめ、本発明組成物を含有するという形の、各種の水性塗料を得た。
【0092】次いで、それぞれの水性塗料を・・・フレキシブル板たるスレート板上に、ハケ塗りで以て2回、塗装せしめた。その際の塗布量としては、250?280g/m^(2) となるようにした。
・・・・・・・・・・
【0094】かくして得られた試験片(塗板)を、室温で、1週間のあいだ乾燥せしめたのち、大阪府堺市内において、それぞれ、3ヵ月、6ヵ月ならびに12ヵ月のあいだ曝露せしめ、塗膜の色差△Eを測定した。それらの結果を、まとめて、同表に示す。
【0095】第2表(1) (審決注:応用例5を抜粋)
応用例5
E-2 1,000
S-2 93
配合後の状態 ◎
3カ月後の△E 2.2
6カ月後の△E 2.4
12カ月後の△E 2.9 」
(1o)「【0100】【発明の効果】以上のようにして得られる、本発明に係る水性防汚剤組成物は、そのまま、好ましくは使用時において、水で希釈して、塗装皮膜上に塗布したり、あるいは水性塗料中に添加混合させるということにより、とりわけ、汚染性に優れる皮膜を形成することができる。
【0101】かくして、本発明の水性防汚剤組成物は、特に、建築用、建材用、あるいは建築物の旧塗膜の補修用、瓦用、ガラス用または各種プラスチックス製品用、木工用あるいは自動車補修用などとして、特に、アルミニウム、ステンレス・スチール、クロ-ム・メッキ、トタン板またはブリキ板の如き、各種の金属用などのような種々の被塗物基材に対して、広範囲に利用し適用することが出来るというものである。」

(2)刊行物2:特開平8-259892号公報
(2a)「【請求項1】合成樹脂エマルジョン(A)100重量部と一般式(I):
(R^(1)O)_(4-a)SiR^(2)_(a) (I)
(式中、R^(1) は同じかまたは異なり、炭素数1?10のアルキル基、炭素数6?10のアリール基または炭素数7?10のアラルキル基、R^(2) は同じかまたは異なり、炭素数1?10のアルキル基、炭素数6?10のアリール基、炭素数7?10のアラルキル基または炭素数1?10のアルコキシ基、aは0?2の整数。)で表されるシリコン化合物および/またはその部分加水分解縮合物の乳化物(B)1?100重量部とからなる水性塗料用樹脂組成物。」
(2b)「【請求項2】前記合成樹脂エマルジョン(A)がアクリル系樹脂を主体とするものである請求項1記載の水性塗料用組成物。
【請求項3】前記(A)成分が、アクリル系樹脂エマルジョンであり、かつ一般式(II):
X^(1)_(3-b)SiR^(3)_(b) (II)
(式中、R^(3) は同じかまたは異なり炭素数1?10のアルキル基、炭素数6?10のアリール基または炭素数7?10のアラルキル基、X^(1) は同じかまたは異なり、ハロゲン原子、アルコキシ基、ヒドロキシ基、アシロキシ基、アミノキシ基、フェノキシ基、チオアルコキシ基およびアミノ基よりなる群から選ばれる少なくとも1種の基、bは0?2の整数。)で示すシリル基を有するビニル系単量体を他のビニル系単量体と共重合することによりえられるシリル基含有樹脂であることを特徴とする請求項1記載の水性塗料用樹脂組成物。」
(2c)「【請求項12】前記(B)成分100重量部に対し、硬化触媒(C)を0.1?20重量部配合してなる請求項1?9のいずれかに記載の水性塗料用樹脂組成物。
【請求項13】前記(C)成分が、有機アルミニウム化合物または有機スズ化合物をアルキルエーテル型界面活性剤を主体とする界面活性剤で乳化した物であることを特徴とする組成物。
【請求項14】前記(C)成分が、酸性リン酸エステル、有機カルボン酸類と有機アミン類の混合物または反応物であることを特徴とする組成物。」
(2d)「【0007】【課題を解決するための手段】本発明者らは、これらの課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、各種水性塗料または水性樹脂組成物にテトラアルコキシシランおよび/またはその部分加水分解縮合物の乳化剤を特定の割合で混合し、硬化触媒を特定の割合で混合することで、従来の水性塗料では成しえなかった耐汚染性を有し、また耐候性、耐水性にも優れる塗膜を形成することができることをようやく見いだし、本発明を完成するに至った。」
(2e)「【0010】【作用】本発明に用いられる合成樹脂エマルジョン(A)は、一般に市販されているエマルジョン型の水性塗料用樹脂および塗料化されたものであれば、特に限定はないが・・・耐汚染性に優れ、低価格という点からアクリル系樹脂が好ましい。
【0011】前記(A)成分の重合体合成に用いられるビニル系単量体には、特に限定がなく、たとえば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレートなどのビニル系単量体;スチレン、α-メチルスチレン、クロロスチレン、4-ヒドロキシスチレン、ビニルトルエンなどの芳香族炭化水素系ビニル単量体;アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、クロトン酸、フマル酸、シトラコン酸などのα、β-エチレン性不飽和カルボン酸、・・・MA-50・・・(以上、日本乳化剤(株)製)・・・などがあげられる。
【0012】また一般式(II):
X^(1)_(3-b)SiR^(3)_(b) (II)
で表されるシリル基を含有する単量体も用いることができる。具体例としては、たとえば、
・・・・・・・・・・
CH_(2)=C(CH_(3))COO(CH_(2))_(3)Si(OC_(2)H_(5))_(3)
・・・・・・・・・・
【0015】などがあげられる。これらの中では、特にアルコキシシリル基含有モノマーが安定性の点で好ましい。
【0016】これらのシリル基含有ビニル系単量体は、1種または2種以上併用してもよく、1?50重量%共重合されるのが好ましく、更に好ましくは2?30重量%共重合されるのがよい。共重合する量が、1重量%より少ないと、耐水性、耐候性に劣り、50重量%を超えるとエマルジョンの安定性が低下し、貯蔵安定性も低下する。」
(2f)「【0032】前記(B)成分における前記一般式(I)で示されるシリコン化合物および/またはその部分加水分解縮合物は、たとえば、テトラメチルシリケート、テトラエチルシリケート、テトラ-n-プロピルシリケート、テトラ-i-プロピルシリケート、テトラ-n-ブチルシリケート、テトラ-i-ブチルシリケート、テトラ-t-ブチルシリケート、MSi51、ESi28、ESi40(以上コルコート(株)製)などのテトラアルキルシリケートおよび/またはその部分加水分解縮合物・・・などがあげられる。」
(2g)「【0044】また、本発明には、前記(B)成分100重量部に対して、硬化触媒(C)を0.1?20重量部配合することもできる。(C)成分の硬化触媒の具体例としては、たとえば、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫マレート、ジオクチル錫ジラウレート、ジオクチル錫マレート、オクチル酸錫などの有機錫化合物;リン酸、モノメチルホスフェート、モノエチルホスフェート、モノブチルホスフェート、モノオクチルホスフェート、モノデシルホスフェート、ジメチルホスフェート、ジエチルホスフェート、ジブチルホスフェート、ジオクチルホスフェート、ジデシルホスフェートなどのリン酸またはリン酸エステル類;プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、シクロヘキセンオキサイド、グリシジルメタクリレート、グリシドール、アクリルグリシジルエーテル、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、油化シェルエポキシ(株)製のカーデュラ(E)、エピコート828、エピコート1001などのエポキシ化合物とリン酸および/または酸性モノリン酸エステルとの付加反応物;有機チタネート化合物;有機アルミニウム化合物;有機ジルコニウム化合物;マレイン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、イタコン酸、クエン酸、コハク酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、これらの酸無水物、パラトルエンスルホン酸などの酸性化合物;ヘキシルアミン、ジ-2-エチルヘキシルアミン、N,N-ジメチルドデシルアミン、ドデシルアミンなどのアミン類;これらのアミンと酸性リン酸エステルとの混合物または反応物;水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ性化合物などがあげられる。
【0045】前記(C)成分は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。硬化触媒の使用量には特に限定はないが、(B)成分100重量部に対して、通常0.1?20重量部、好ましくは0.5?10重量部使用する。使用量が0.1重量部以下では、(B)成分の硬化性が低下する傾向があり、20重量部を越えると塗膜の外観性が低下する傾向にある。」
(2h)「【0053】【実施例】次に、本発明の組成物の調製方法と製造方法を実施例に基づき説明する。
【0054】製造例1?4 撹拌機、還流冷却器、窒素ガス導入管および滴下ロートを備えた反応容器に、脱イオン水40部(重量部。以下同様)、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム1部(製造例1、3、4)またはポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルスルフェート1部(製造例2)、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル1部、酢酸アンモニウム0.5部、ロンガリット0.3部、t-ブチルハイドロパーオキサイド0.1部を仕込み、窒素ガスを導入しつつ50℃に昇温した。表1に示す組成の混合物158部中の20部を滴下ロートを用いて30分かけて滴下して初期重合を行った。滴下終了1時間後に、前期混合物158部中の残りの138部およびt-ブチルハイドロパーオキサイド0.1部を滴下ロートにより3時間かけて等速滴下した。この後、1時間後重合を行い、脱イオン水を添加して樹脂固形分が40重量%のエマルジョン(A-1)?(A-4)をえた。
【0055】表1(審決注:製造例1及び2の混合物の組成(部)を抜粋)
製造例番号 1 2
エマルジョン番号 A-1 A-2
メタクリル酸ブチル 60 60
メタクリル酸メチル 20 18
アクリル酸ブチル 18 15
メタクリル酸エステル(MA50) 2 2
γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン 5
ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル 1 1
ポリオキシエチレン
ノニルフェニルエーテルスルフェート 1
ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム 1
脱イオン水 56 56
・・・・・・・・・・
【0058】水性(白エナメル)塗料の調製(a-1)?(a-7) 表2に示す配合でエマルジョン(A-1)?(A-7)と酸化チタン(石原産業(株)製:GR95)を一般的に用いられる顔料分散剤、顔料湿潤剤、増粘剤、消泡剤、防腐剤、pH調整剤などを配合して調製した顔料ペーストを用い、PWC(全固形分に対する顔料の重量%)40%、塗料固形分濃度50%となるように水性(白エナメル)塗料を調製した。
【0059】表2(審決注:白エナメル(a-1)及び(a-2)を抜粋)
白エナメル番号 a-1 a-2
白顔料ペースト 35 35
エマルジョン(A-1) 60
(A-2) 60
プロピレングリコール 3 3
ヒドロキシエチルセルロース 0.2 0.2
シリコン系消泡剤 0.1 0.1
脱イオン水 1.7 1.7 」
【0060】乳化シリコン化合物の調製(b-1)
ES140(コルコート(株)製:テトラエチルシリケート部分加水分解縮合物)20部をHLBが17.2のポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル4部と混合し、1000rpm以上で高速撹拌して、これに、脱イオン水76部をゆっくりと加えて、乳化物(b-1)を調製した。
・・・・・・・・・・
【0062】乳化シリコン化合物の調製(b-4)
MSI51(コルコート(株)製:テトラメチルシリケート部分加水分解縮合物)10部とESI40(コルコート(株)製:テトラエチルシリケート部分加水分解縮合物)10部の混合物をHLBが16.3のポリオキシエチレンソルビタンラウレート2部、HLBが6.4のソルビタンオレート2部と混合し、1000rpm以上で高速撹拌して、これに、脱イオン水76部をゆっくりと加えて、乳化物(b-4)を調製した。
【0063】乳化シリコン化合物の調製(b-5)
ESI40(コルコート(株)製:テトラエチルシリケート部分加水分解縮合物)20部をHLBが16.5のポリオキシエチレンラウリルエーテル3.5部、ポリオキシエチレン(40モル)ノニルフェニルエーテルサルフェートアンモニウム塩0.5部と混合し、1000rpm以上で高速撹拌して、これに、脱イオン水76部をゆっくりと加えて、乳化物(b-5)を調製した。
【0064】乳化シリコン化合物の調製(b-6)
ESI40(コルコート(株)製:テトラエチルシリケート部分加水分解縮合物)20部をポリエチレンオキシド変性ポリジメチルシロキサン4部と混合し、1000rpm以上で高速撹拌して、これに、脱イオン水76部をゆっくりと加えて、乳化物(b-6)を調製した。
【0065】乳化シリコン化合物の調製(b-7)
BSI20(コルコート(株)製:テトラ-n-ブチルシリケート部分加水分解縮合物)を20部をポリオキシエチレン(40モル)ノニルフェニルエーテルサルフェートアンモニウム塩4部を混合し、脱イオン水76部をゆっくりと加えて、乳化物(b-7)を調製した。
【0066】乳化シリコン化合物の調製(b-8)
ESI40(コルコート(株)製:テトラエチルシリケート部分加水分解縮合物)20部をTD-10014(日本乳化剤(株)製:ノニオン系/アニオン系乳化剤混合物)3部、TD-1006(日本乳化剤(株)製:ノニオン性乳化剤)4部と混合し、1000rpm以上で高速撹拌して、これに、脱イオン水76部をゆっくりと加えて、乳化物(b-8)を調製した。」
(2i)「【0067】実施例1 白エナメル(a-1)100部に対し、乳化シリコン化合物(b-1)30部とジブチル錫ジラウレートの乳化物10部(固形分濃度10%)を配合し、脱イオン水を用いて適当な塗装粘度に希釈した後に、スレート板にエアースプレーで塗装した。その後、塗装板を20℃で10日間養生した。
【0068】実施例2?7 白エナメル(a-2)100部に対し、乳化シリコン化合物(b-1)(実施例2)、(b-4)(実施例3)、(b-5)(実施例4)、(b-6)(実施例5)、(b-7)(実施例6)または(b-8)(実施例7)30部とジブチル錫ジラウレートの乳化物10部(固形分濃度10%)を配合し、脱イオン水を用いて適当な塗装粘度に希釈した後に、スレート板にエアースプレーで塗装した。その後、塗装板を20℃で10日間養生した。」
(2j)「【0079】上記した実施例1?14および比較例1?9でえられたそれぞれの塗膜について、耐汚染性、親水性、硬度を調べた。それぞれの物性の測定・評価方法は以下の通りであり、その結果を表3?表5に示す。
【0080】耐汚染性 曝露初期のL^(*)a^(*)b^(*) 表色系で表される明度を色彩色差計(ミノルタ(株)製:CR300)で測定し、大阪府摂津市で南面30゜の屋外曝露を3カ月実施した。曝露後の明度と曝露前の明度差の絶対値(ΔL値)を汚染性の尺度とした。なお、数値の小さい方が耐汚染性に優れ、数値の大きい方が汚れていることを示す。
【0081】親水性 親水性は、接触角測定機(協和界面科学(株)製:CA-S150型)を用い、大阪府摂津市で南面30゜の屋外曝露3カ月後の接触角を測定することにより評価した。数値が小さいほど親水性が高いことを示す。」
(2k)「【0083】表3(審決注:実施例1?7の耐汚染性と接触角を抜粋)
実施例1 実施例2 実施例3 実施例4
耐汚染性(△L) 5.3 1.2 1.3 1.7
接触角(°) 50 45 44 49

実施例5 実施例6 実施例7
耐汚染性(△L) 2.2 2.0 1.7
接触角(°) 57 55 45 」
(2L)「【0086】【発明の効果】本発明の水性塗料用樹脂組成物は、これを被処理物に塗布した場合、該被処理物の表面に耐候性、耐久性に優れ、さらに耐汚染性に優れた塗膜が形成される。また、本発明の塗膜形成方法、すなわち、合成樹脂エマルジョンとシリコン化合物および/またはその部分加水分解縮合物の乳化物を被処理物に塗布することにより、被処理物の表面に屋外曝露における耐汚染性に優れた塗膜が形成される。」

2 刊行物1に記載された発明
刊行物1には、乳化剤と、アルキルシリケート及び/又はその部分加水分解縮合物と、必要に応じて、アルコール類及び/又は水結合剤とを含有する水性防汚剤組成物が記載され(摘示(1a))、その乳化剤はノニオン性乳化剤でもよく(摘示(1c))、代表的なノニオン性乳化剤であるポリオキシエチレンアルキルエーテルやポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルでよいとされる(摘示(1d))。また、該組成物には、硬化触媒を配合できるとされる(摘示(1g)(1i))。さらに、刊行物1には、該組成物を水性塗料、例えば汎用のエマルジョン塗料中に配合することが記載されている(摘示(1b)(1j)(1k)?(1n))。
したがって、刊行物1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。
「ポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルであるノニオン性乳化剤と、アルキルシリケート及び/又はその部分加水分解縮合物と、必要に応じて、アルコール類及び/又は水結合剤とを含有し、さらに硬化触媒を含有する水性防汚剤組成物を配合した、水性エマルジョン塗料。」

3 本願発明と引用発明の対比
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「ポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルであるノニオン性乳化剤」は本願発明の「(B)アルキレンオキシ鎖含有ノニオン系乳化剤」に相当し、以下同様に、「アルキルシリケート及び/又はその部分加水分解縮合物」は「(A)オルガノシリケート化合物」に、「水性防汚剤組成物」は「塗料の耐汚染性付与組成物」に、それぞれ相当する。
また、本願発明の「(C)錫化合物」は、平成22年10月28日付けの補正がされる前の特許請求の範囲(平成19年5月2日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲のことである。)には、請求項1に「・・・(C)アルコキシシラン化合物の加水分解・縮合を促進する化合物・・・」と記載され、請求項4に「(C)成分が錫化合物であることを特徴とする請求項1記載の耐汚染性付与組成物」と記載されていたことからすると、「(C)アルコキシシラン化合物の加水分解・縮合を促進する化合物」の一種である。そして、引用発明の「硬化触媒」は、この、本願発明の「(C)錫化合物」が含まれるところの、「(C)アルコキシシラン化合物の加水分解・縮合を促進する化合物」に相当する。
さらに、引用発明の「水性エマルジョン塗料」は、本願発明の「合成樹脂エマルジョン・・・を含有する塗料組成物」に相当する。
したがって、両者は、
「(A)オルガノシリケート化合物、(B)アルキレンオキシ鎖含有ノニオン系乳化剤、(C)アルコキシシラン化合物の加水分解・縮合を促進する化合物を含む、塗料の耐汚染性付与組成物と、合成樹脂エマルジョンとを含有する、塗料組成物。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点1)
本願発明は、塗料の耐汚染性付与組成物が「水を含有せず」と特定されているのに対し、引用発明は、対応する水性防汚剤組成物が水を含有しない組成物であるか明らかではない点
(相違点2)
本願発明は、(C)成分が錫化合物と特定され、(C)成分の配合量が(A)成分100重量部に対し1?50重量部であると特定されているのに対し、引用発明は、そのように特定されていない点
(相違点3)
本願発明は、塗料組成物の合成樹脂エマルジョンがアルコキシシリル基含有合成樹脂エマルジョンと特定されているのに対し、引用発明は、そのように特定されていない点

4 相違点についての判断

(1)相違点1について
刊行物1には、水性防汚剤組成物に水が配合されることは一切記載されていない。また、引用発明の組成物は、必要に応じて水結合剤を含有するものであるところ、摘示(1f)によれば、水結合剤(D)としてオルソ蟻酸トリメチルが例示され、摘示(1k)によれば、オルト蟻酸メチル(審決注:オルソ蟻酸トリメチルと同じ意味である。)を加えて系中の微量の水分を除去していることからみて、引用発明の水性防汚剤組成物は、水を含まないものであると認められる。
そうすると、上記相違点1は実質的な相違点であるとはいえない。
また、念のため、引用発明が水を含有しない組成物であるとはいえないと仮定してみても、刊行物1には、組成物中に水結合剤(D)として例示されたオルト蟻酸メチルを加えて系中の微量の水分を除去することが記載されているから、引用発明において、相違点1に係る本願発明の「水を含有せず」との構成を採用することは、当業者が容易に想到し得ることである。

(2)相違点2について
刊行物1の摘示(1i)には、「上記した硬化触媒として特に代表的なもののみを例示するにとどめれば・・・オクチル酸錫、・・・ジ-n-ブチル錫ジアセテート、ジ-n-ブチル錫ジオクトエート、ジ-n-ブチル錫ジラウレートもしくはジ-n-ブチル錫マレエート」と記載され、これらの硬化触媒は、本願発明の「錫化合物」といえるから、相違点2のうちの「(C)成分が錫化合物と特定され」は実質的な相違点であるとはいえない。
刊行物2には、合成樹脂エマルジョンに一般式(R^(1)O)_(4-a)SiR^(2)_(a) で表されるシリコン化合物及び/又はその部分加水分解縮合物の乳化物を特定の割合で混合し(摘示(2a))、硬化触媒を特定の割合で混合することで、従来の水性塗料では成しえなかった耐汚染性を有する塗膜を形成することが開示され(摘示(2d))、上記シリコン化合物は、R^(1) 及びR^(2) がアルキル基であってよく(摘示(2a))、それはアルキルシリケートであり、上記シリコン化合物及び/又はその部分加水分解縮合物の乳化物100重量部に対し、硬化触媒を0.1?20重量部、好ましくは0.5?10重量部、配合することが開示されている(摘示(2c)(2g))。
引用発明も、刊行物2に記載された発明も、ともに、水性エマルジョン塗料にアルキルシリケート化合物及び/又はその部分加水分解縮合物と、硬化触媒を混合して、耐汚染性を有する塗膜を形成することを目的とするものである。
硬化触媒の種類も、「錫化合物」は、上記のとおり刊行物1に記載されるほか、刊行物2の摘示(2g)に「ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫マレート、ジオクチル錫ジラウレート、ジオクチル錫マレート、オクチル酸錫などの有機錫化合物」が記載され、共通している。
してみると、引用発明において、硬化触媒の「錫化合物」の量を、刊行物2に記載された、アルキルシリケート及び/又はその部分加水分解縮合物の乳化物100重量部に対して20重量部、10重量部、0.5重量部、0.1重量部又は10?0.5重量部に相当する量とし、あるいは実際の硬化性能を勘案して適宜増減し、相違点2に係る本願発明の「(C)成分の配合量が(A)成分100重量部に対し1?50重量部である」との構成に該当するものとすることは、当業者が容易に想到し得ることである。
具体的には、例えば、刊行物2の実施例2においては、白エナメル(a-2)100部(審決注:「部」が「重量部」であることは、摘示(2g)のはじめの部分を参照)に対し、乳化シリコン化合物(b-1)30部とジブチル錫ジラウレートの乳化物10部(固形分濃度10%)を配合し、脱イオン水で希釈して塗料としている(摘示(2i))。この例では、アルキルシリケートの部分加水分解縮合物30重量部に対し、硬化触媒は、ジブチル錫ジラウレート乳化物10部中に10%含まれるジブチル錫ジラウレートであり、1重量部を使用している。これは、アルキルシリケートの部分加水分解縮合物100重量部に対して、硬化触媒3.3重量部と計算されるものである。
さて、この乳化シリコン化合物(b-1)は、テトラエチルシリケート部分加水分解縮合物20部とポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル4重量部と脱イオン水76部からなるものであり(摘示(2h))、テトラエチルシリケート部分加水分解縮合物の濃度は20%であるので、(b-1)30部中のテトラエチルシリケート加水分解縮合物は、その20%に当たる6重量部である。また、ジブチル錫ジラウレート乳化物10部中のジブチル錫ジラウレートは、上記のとおり1重量部である。よって、硬化触媒の錫化合物の配合量は、アルキルシリケート100重量部に対して17重量部に相当している。
実施例3?7で用いている乳化シリコン化合物(b-4)、(b-5)、(b-6)、(b-7)及び(b-8)も、アルキルシリケート部分加水分解縮合物を濃度20%で含むものであり(摘示(2h))、同様に、錫化合物の配合量は、アルキルシリケート100重量部に対して17重量部に相当している。
引用発明において、錫化合物の配合量として、アルキルシリケート及び/又はその部分加水分解縮合物100重量部に対し、この程度の量を採用し、あるいは適宜増減することは、当業者が容易に想到し得ることである。
したがって、引用発明において、相違点2に係る本願発明の「(C)成分の配合量が(A)成分100重量部に対し1?50重量部である」との構成に該当するものとすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

(3)相違点3について
刊行物1には、水性塗料のためのエマルジョン重合体の調製例として、メチルメタクリレートとn-ブチルアクリレートとアクリル酸から調製したエマルジョン重合体が記載されている(摘示(1L))。これは、アクリル系樹脂である。
一方、刊行物2には、合成樹脂エマルジョンについて、アクリル系樹脂が好ましいと記載され、中でも、アルコキシシリル基含有モノマーを1?50重量%共重合したものが好ましく、共重合する量が1重量%より少ないと、耐水性、耐候性に劣ると記載されている(摘示(2b)(2e))。
そして、刊行物2の実施例1?7においては、アクリル系樹脂エマルジョンに、白顔料ペーストを添加して水性(白エナメル)塗料とし、これに乳化シリコン化合物すなわちアルキルシリケート及び/又はその部分加水分解縮合物の乳化物と、ジブチル錫ジラウレートの乳化物を配合し、脱イオン水で希釈して塗料とし,塗膜の性能を評価している(摘示(2h)?(2k))。
すなわち、刊行物2の実施例1は、白エナメル(a-1)を用いており、これはエマルジョン(A-1)を用いたものである。このエマルジョン(A-1)は、メタクリル酸ブチルとメタクリル酸メチルとアクリル酸ブチルとメタクリル酸エステルを重合させた、アクリル樹脂エマルジョンである。
また、刊行物2の実施例2?7は、白エナメル(a-2)を用いており、これはエマルジョン(A-2)を用いたものである。このエマルジョン(A-2)は、メタクリル酸ブチルとメタクリル酸メチルとアクリル酸ブチルとメタクリル酸エステルと、さらにγ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランを重合させた、アクリル樹脂エマルジョンであり、このアクリル樹脂はアルコキシシリル基を持つので、本願発明の「アルコキシシリル基含有合成樹脂エマルジョン」に相当する。
そして、上記の、白エナメル(a-1)を用いた実施例1と、白エナメル(a-2)を用いた以外は同様である実施例2について、塗膜の「耐汚染性」を3カ月の屋外曝露の前後の明度の差の絶対値(△L)で、塗膜の「親水性」を水の接触角(°)で、それぞれ評価した結果は、表3に示されるとおり、△Lは、実施例1は5.3であるのに、実施例2は1.2と小さく、実施例2のほうが耐汚染性に優れ、水の接触角は、実施例1は50°で、実施例2は45°と小さく、実施例2のほうが親水性が高い。
また、上記の、実施例2?7は、いずれも白エナメル(a-2)を用い、乳化シリコン化合物のみを実施例2の(b-1)から他のものにかえたものであるが、表3に示されるとおり、△Lは、いずれも、実施例1よりも小さく、耐汚染性が優れている。
このように、刊行物2の実施例1?7には、アクリル系樹脂のうちでも、アルコキシシリル基を持つものが、耐汚染性に優れることが示されている。そして、これらの実施例は、上記(2)でも検討したとおり、硬化触媒として錫化合物をアルキルシリケート100重量部に対して17重量部に相当する量で用いたものであり、相違点2に係る本願発明の構成をも備えたものである。
してみると、引用発明において、耐汚染性の更なる向上を意図し、水性エマルジョン塗料に用いるアクリル系樹脂として、刊行物2に耐汚染性に優れることが記載された、アルコキシシリル基を持つものを採用して、相違点3に係る本願発明の「アルコキシシリル基含有合成樹脂エマルジョン」との構成を備えたものとすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

5 効果について
この出願の発明の詳細な説明の段落【0058】には、「本発明の耐汚染性付与組成物を水性塗料に添加することにより、高い光沢と高度な耐汚染性を示す塗膜を形成する。また、形成した塗膜の耐汚染性のバラツキが少ないという効果がある。」と記載されている。
これは、本願発明における「錫化合物」とその配合量及び「アルコキシシリル基含有合成樹脂エマルジョン」の点が、未だ特定されていない発明について記載されたものであるので、さらに本願明細書の記載をみると、本願明細書には、(C)成分を「錫化合物」に特定することによる効果については、実施例に示される以外には特に記載がない。その配合量を(A)成分100重量部に対し1?50重量部に特定することによる効果については、段落【0016】に、錫化合物に限られない(C)成分について「1重量部未満では、耐汚染性付与の効果が低く、50重量部を超えると配合物の安定性が低下する、水性塗料に添加した場合に(C)の存在量が多くなり、塗膜の耐候性が低下する」と記載されている。「アルコキシシリル基含有合成樹脂エマルジョン」に特定することによる効果については、段落【0029】に「架橋反応が進行し、耐水性・耐候性が良好な塗膜となる」と記載されている。そうすると、本願発明における「錫化合物」とその配合量及び「アルコキシシリル基含有合成樹脂エマルジョン」の点を特定したことによる効果は、上記の段落【0058】に記載された効果に加えて、塗膜の耐水性・耐候性が良好である、ということであると認められる。
そこで、これらの効果について検討する。
引用発明も、「汚染性物質の付着し難い塗膜を形成せしめることが出来る」、「汚染性に優れる」ものであるし(摘示(1b)(1o))、刊行物2には、上記4の(2)及び(3)で検討したとおり、水性エマルジョン塗料にアルキルシリケート及び/又はその加水分解縮合物と錫化合物を混合して耐汚染性を有する塗膜を形成するに当たり、アルコキシシリル基を持つアクリル系樹脂は、通常のアクリル系樹脂よりも耐汚染性に優れる塗膜を与えることが記載されているのであるから、補正後の本願発明が、さらに「高度な耐汚染性」を示すとしても、それは、引用発明に刊行物2に記載された発明を組み合わせた場合の効果として、当業者が予測し得るものである。
また、「耐候性」の点は、刊行物2には、上記4(3)でも検討したとおり、アルコキシシリル基含有モノマーを1?50重量%共重合したものが好ましく、共重合する量が1重量%より少ないと、耐水性、耐候性に劣ると記載されている(摘示(2b)(2e))のであるから、補正後の本願発明が、「耐候性」が良好であるとしても、当業者が予測し得るものである。
また、「高い光沢」と「塗膜の耐汚染性のバラツキが少ない」の点は、本願明細書に記載された実施例について、「錫化合物」及び「アルコキシシリル基含有合成樹脂エマルジョン」のものと、そうでないものとを比べても、前者が光沢に優れるともいえないし、バラツキについてはデータもなく前者が優れるとはいえない。すなわち、γ-メタクリロキシプロピルトリエトキシシランを共重合した合成樹脂エマルジョンE-1(段落【0050】、表3)を用いた水性塗料F-1(段落【0050】、表3の下1?4行)を用いた実施例であって、耐汚染性組成物として(C)成分に錫化合物を用いている合成例2のものを用いた実施例2-1、同2-2及び同2-3(段落【0055】の表6、段落【0049】の表1参照)と、γ-メタクリロキシプロピルトリエトキシシランのような加水分解性シリル基含有ビニル系単量体を共重合していない合成樹脂エマルジョンE-2又はE-3(同上、表3)を用いた水性塗料F-2又はF-3(同上、表3の下1?4行)を用いた以外は同様である実施例15及び16(同上、表7、表1)とを比べても、前者が光沢に優れるとはいえない。バラツキについてはデータもなく前者が優れるとはいえない。また、実施例1、3?10は、耐汚染性組成物として(C)成分に錫化合物を用いているが上記合成例2とは異なる耐汚染性組成物を用いた例、実施例14は、上記合成例2の耐汚染性組成物を用いているがその量を多く用いた例であるが、これらをみても、上記実施例15及び16に比べて、光沢が優れるとはいえない。
したがって、本願発明が予測し難い格別の効果を奏するものであるとはいえない。

6 まとめ
以上のとおりであるから、本願発明は、刊行物1及び2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許を受けることができないものであるから、その余について検討するまでもなく、この出願は、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-06-15 
結審通知日 2011-06-21 
審決日 2011-07-04 
出願番号 特願2001-318855(P2001-318855)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C09D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小川 由美吉住 和之  
特許庁審判長 中田 とし子
特許庁審判官 木村 敏康
松本 直子
発明の名称 耐汚染性付与組成物、塗料組成物および該塗料組成物から得られる塗膜  
代理人 安富 康男  
代理人 特許業務法人 安富国際特許事務所  
代理人 秋山 文男  

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