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審決分類 |
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G11B |
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管理番号 | 1242037 |
審判番号 | 不服2007-25915 |
総通号数 | 142 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2011-10-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2007-09-20 |
確定日 | 2011-08-18 |
事件の表示 | 特願2000-393411「垂直磁気記録媒体及び磁気記録再生装置」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 7月12日出願公開、特開2002-197630〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成12年12月25日に出願したものであって、平成19年4月20日付で通知した拒絶の理由に対し、同年7月9日付で手続補正されたが、同年8月13日付で拒絶査定がなされ、これに対し、同年9月20日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同年10月22日付で手続補正がなされたものである。 その後、平成22年3月12日付でなされた審尋に対し、同年5月17日付で回答書が提出され、同年11月16日付けで前記平成19年10月22日付の手続補正を却下するとともに同日付で拒絶の理由が通知され、これに対し平成23年1月24日付で手続補正されたものである。 2.本願発明について 本願の請求項1乃至5に係る発明は,平成23年1月24日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1乃至5に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、そのうち請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,次のとおりのものである。 「基板と、当該基板上に形成されたルテニウムを含む層からなる下地膜と、当該下地膜上に形成された垂直磁性層とを有する磁気記録媒体であって、その垂直磁性層の面内方向に磁界Hを加えたときの磁化量Mの変化を表す面内ヒステリシス曲線(面内MHループ)において、磁化量Mが飽和磁化量Msの2/3となる点を原点を結んだ直線が飽和磁化量に達するときの磁界値(異方性磁界)Hk(Oe)と飽和磁化量Ms(emu/cc)が式2.49<Hk/4πMs<4.63…(1)を満足し、該垂直磁性層に垂直な方向に磁界Hを加えたときの磁化量Mの変化を表す垂直ヒステリシス曲線(垂直MHループ)において、その保磁力Hc付近での傾斜の度合いαを不可逆な磁化反転を開始する磁界Hn(Oe)とHcとの比Hn/Hcで表したとき、その傾斜度α、異方性磁界Hk(Oe)、飽和磁化量Ms(emu/cc)及び保磁力Hc(Oe)が、式0.09≦{(α-1)Hc+4πMs}/Hk<0.2…(2)を満足し、かつ面内残留磁化量Mr(//)(emu/cc)が飽和磁化量Ms(emu/cc)の0.2倍未満となる磁気記録特性を有することを特徴とする磁気記録媒体。」 3.当審の拒絶理由 一方,当審において平成22年11月16日付で通知した拒絶の理由の概要は, A. 「3.本願発明について 平成19年10月22日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし5に係る発明は、平成19年7月9日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定されたとおりのものであるところ、以下の拒絶理由がある。 本願は、明細書及び図面の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項、第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない。」 「本願発明は、要約すると (1) 2<Hk/4πMs<5 (2) 0.09<{(α-1)Hc+4πMs}/Hk<0.2 (3) Mr(面内)/Ms(垂直)<0.2 の3つの条件を満たす磁気記録媒体に係るものである。」 B. 「(ア)特許請求の範囲及び発明の詳細な説明において、各物理量の単位が記載されていない。 したがって、特許を受けようとする発明が明確でない。 (36条6項2号違反。補正する場合、下記4.に注意されたい。)」 C. 「(イ)発明の詳細な説明には、上記(1)ないし(3)の条件を満たす記録媒体の製造方法について具体的に記載されていない。」 「たとえば、条件(1)についてみると、合金組成や成膜条件等をどのようにしたら、Hk/4πMsの値がしかるべき範囲に入る媒体を製造できるのか、すなわち、表1におけるサンプルサンプル1-1ないし1-11の媒体をどのようにして製造したのか、明らかにされていない。」 「更に、(2)の条件については、式の定義が不明確であり、また、αを測定する方法が不明である。しかも、αの値をどのようにして加減するのか、その方法が開示されていない。 (2)の条件のうち、Hc、Ms、Hkは測定しうるが、αの値はどのようにして得られるのか不明である。表2によれば、{(α-1)Hc+4πMs}/Hkの値は、下地膜のRu層の成膜条件によって変動しているが、Msも同時に変動しており、磁性合金の組成によってHkやMs、Hcも変動すると解される。」 「したがって、本願明細書の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない。 (36条4項違反。請求項2ないし5についても同様である。)」 D. 「(ウ)表2のサンプル2-2ないし2-5をみると、Ruの成膜時の圧力が増加するにつれて(2)の値は減少し、(3)の値は増加しており、双方の値が0.2を境にSNtrとSNdcの好ましい条件が反転している。 結局双方の条件を満たすのは、請求項3に相当するサンプル2-1のみであって(段落[0077])、本願発明の条件を満たす例は、サンプル2-1のものに限られる。したがって、特許請求の範囲の請求項1、2、5に記載された発明は、発明の詳細な説明に記載された事項の範囲を超えている。(36条6項1号違反)」 E. 「4.「異方性磁界の単位を(Oe)、飽和磁化量Msの単位を(emu/cc)とする点」について 本願明細書において、磁界の単位がOe、磁化の単位がemu/ccであると推認することもできるが、表2の数値が整合しない。」 4.当審の判断 <拒絶理由の前記C.について> 平成23年1月24日付の手続補正により、(1)の条件を「2.49<Hk/4πMs<4.63」に、(2)の条件を「0.09≦{(α-1)Hc+4πMs}/Hk<0.2」にそれぞれ補正するとともに、意見書において(1)の条件を満たす記録媒体の製造方法については、 「本発明の実施例ではスパッタチャンバー内の圧力や酸素量、基板温度を変化させているため、各々の条件によってCoPtCrを主成分とした磁性粒子内へのわずかな酸素の進入量、および主に粒界部に偏析している酸素を主とした酸化物アモルファス(非磁性部)の体積変化を生じさせることが出来ます。これらにより前者では磁性粒子のHk変化、後者では比較的大きなMs変化を生じさせることが出来ます。 これらの現象については一般的な磁気特性調整法であり、本発明実施例以上の詳細説明を述べなくても当該技術者が類似のMs、Hk調整を行うことは十分可能と考えます。」 と釈明し、(2)の条件を満たす記録媒体の製造方法についても、 「αの値を加減する方法としては、例えば、製膜条件によって、粒界部の酸素の偏析度を変化させると、CoPtCrを主成分とした磁性粒子の膜中充填率が変わるため、静磁的な反磁界、および磁性粒子間の交換結合度の変化によりαを変えることが出来ます。」 と釈明した。 しかしながら、依然として(1)の条件を満たす記録媒体の製造方法については、「各々の条件」を変えると「Hk」および「Ms」が個々に「変化」することが説明されたに留まり、どのように「変化」するのかが不明である。 一般的には「各々の条件」に関し、例えば「スパッタチャンバー内の圧力」の増加に応じて「Hk」が常に増加するというような単調な変化をするわけではなく(「Hk」が無限に増加することはありえない。)、やがて「スパッタチャンバー内の圧力」を増加してももはや「Hk」が増加しなくなったり減少に転じたりする。「酸素量」等の他の条件についても同様である。 したがって、どのように「変化」するのかが不明な状況において所望の「Hk/4πMs」の値を得るためには、「各々の条件」を少しずつ変えながら膨大な組み合わせについて過度の実験を行う必要があるといえる。 なお、どのように「変化」するのかに関する周知文献が示されていたり、実施例で採用した「各々の条件」の具体的な値が明細書中に記載されていてこれを参考にすることができるなどの事情があればこの限りではないが、それもない。 さらには、「各々の条件」を変えると(2)および(3)の条件も変化してしまうから、(2)および(3)の条件も所望の値となるように調整しつつ「各々の条件」を変えて(1)の条件を所望の値とする必要があるところ、どのようにしたらこれを実現できるのかに関し明細書中に記載がなく、釈明もされていない。 (2)の条件を満たす記録媒体の製造方法についても上記と同様であり、(2)の条件を満たすことのみに限定しても各々の条件を少しずつ変えながら膨大な組み合わせについて過度の実験を行う必要があるといえる上に、このとき同時に(1)および(3)の条件を満たす具体的な方法に関して明細書中に記載がなく、釈明もされていない。 さらに、(3)の条件を満たす記録媒体の製造方法については釈明もしていない。 よって、本願明細書の発明の詳細な説明は、経済産業省令で定めるところにより、当業者が発明を実施することが出来る程度に明確かつ十分に記載したものではない。 5.むすび 以上のとおり,本願明細書の発明の詳細な説明は、経済産業省令で定めるところにより、当業者が発明を実施することが出来る程度に明確かつ十分に記載したものではないから,本願は、特許法第36条第4項の規定により特許を受けることができない。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2011-06-17 |
結審通知日 | 2011-06-21 |
審決日 | 2011-07-04 |
出願番号 | 特願2000-393411(P2000-393411) |
審決分類 |
P
1
8・
536-
WZ
(G11B)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 馬場 慎 |
特許庁審判長 |
蔵野 雅昭 |
特許庁審判官 |
山田 洋一 早川 学 |
発明の名称 | 垂直磁気記録媒体及び磁気記録再生装置 |
代理人 | 河野 哲 |
代理人 | 村松 貞男 |
代理人 | 中村 誠 |
代理人 | 橋本 良郎 |