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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01G
管理番号 1242043
審判番号 不服2008-17886  
総通号数 142 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-10-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-07-11 
確定日 2011-08-18 
事件の表示 特願2002- 97858「固体電解コンデンサ」拒絶査定不服審判事件〔平成15年10月17日出願公開,特開2003-297677〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は,平成14年3月29日に出願したものであって,平成19年7月19日付けの拒絶の理由の通知に対して,同年9月25日に意見書と手続補正書が提出され,これに対して,平成20年1月24日付けで拒絶の理由を通知したところ,同年3月31日に意見書が提出されたが,同年6月6日付けで拒絶査定され,その後,同年7月11日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

2 本願発明
本願の請求項1-6に係る発明は,平成19年9月25日の手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1-6に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ,その請求項1に係る発明(以下「本願発明1」という。)は,次のとおりのものである。

「帯状の陽極箔と陰極箔に引出端子を接続し,セパレータを介して巻回したコンデンサ素子に,有機半導体からなる固体電解質を保持させるとともに,有底筒状の外装ケースに収納し,外装ケースの開口部を封口部材で封止してなる固体電解コンデンサにおいて,
前記陽極箔と陰極箔にそれぞれ複数の引出端子を取り付け,前記引出端子をコンデンサ素子の一方の巻回端面からコンデンサ素子の中心を通るように直線上に配置されるように導出するとともに,
外周近傍にある引出端子を折り曲げて内周側の引出端子に接続して,同極の電極の引出端子同士を固体電解コンデンサの内部で接続し,
内周側の引出端子が導出された間隔で,固体電解コンデンサの外部と電気的に接続するリード線を導出した固体電解コンデンサ。」

3 引用例とその記載事項,及び,引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された,本願の出願前に頒布された刊行物である,特開平10-229032号公報(以下「引用例1」という。),実願昭55-156747号(実開昭57-80826号)のマイクロフィルム(以下「引用例2」という。),特開2001-284175号公報(以下「引用例3」という。)には,図面とともに以下の事項が記載されている。(なお,下線は,当合議体において付したものである。以下同じ。)

引用例1:特開平10-229032号公報
(1a)「【従来の技術】従来,電解コンデンサにおいては,共振点が存在し,共振周波数以上においては,コンデンサではなくコイルとして機能し,周波数の上昇と共にインピーダンス値が増大してしまう。電解コンデンサは,普通は低い周波数で機能すればよいのであるが,最近は,非常に高い周波数においても役に立たなければならない用途が増加しつつある。
そこで,共振周波数を高くするために,コンデンサ素子の構造をどのような構造とすればよいか,という問題が生じた。
しかるに,共振周波数を高くするには,次式(1)により,インダクタンスLと,キャパシタンスCの値を小さくすればよい(図11参照)。また,キャパシタンスCを小さくできない場合には,インダクタンスLを小さくするほかはない。
【数1】
・・・
Lを小さくする第1の方法は,コイル状に巻回されている電極の長さを短くすることである。エッチング効果の大きい箔を利用し,箔の幅を広くして巻数を少なくすれば,インダクタンスLの値は小さくすることができる。但し,極端に幅を広くすると,逆効果となるので,適正値に設定する必要がある。
また,インダクタンスLを小さくする第2の方法は,図12の(a)に示すように,陽極箔10および陰極箔12のそれぞれ引出しタブ端子10a,12aの位置を,巻取られる両電極箔10,12の中央に相対して取付けることである。また,図12の(b)に示すように,いずれかの電極箔(例えば陽極箔10)の端部に相対して取付けることも可能である。なお,図12の(c)に示すように,両電極箔10,12の相反する端部に取付けると,インダクタンスLの値は大きくなってしまう。
以上の説明においては,引出しタブ端子を,両電極に対してそれぞれ1本取付ける場合を示したが,引出しタブ端子を増加することによって,さらにインダクタンスLの値を減少することができる。この場合,各電極箔10,12の端部と引出しタブ端子との間の長さをそれぞれ「1」とすれば,タブ端子10aと10aとの間およびタブ端子12aと12aとの間は,それぞれ「2」の割合とすればよい(図13参照)。このような場合,電極箔の巻取り後に,陽極箔10の引出しタブ端子10aの全て,および陰極箔12の引出しタブ端子12aの全てを,それぞれ一括して封口板の外部端子に接続する必要がある。
しかるに,通常のコンデンサ,特に比較的大型のコンデンサは,コンデンサ素子を収納した外装ケースの開口部に,外部接続用のタブ端子が固着された封口板を装着して形成している。 このようなコンデンサにおいては,前記封口板を貫通して封口板の裏面に突出したタブ端子のリベット部に,コンデンサ素子から導出したタブ端子(先端部分に貫通孔を設けている)を挿通させて係止し,さらにワッシャ等を装着してこれらを一体的に圧接した接続端子構造を有している。
ところが,このようなコンデンサの接続端子構造では,コンデンサ素子から導出したタブ端子間隔と,封口板の裏面に突出した端子のリベット間隔とを,一致させる必要があり,両電極タブ端子をコンデンサ素子より引き出す際に,前記間隔を設ける必要がある。従って,電極箔の巻取り後におけるコンデンサ素子の外観は,図14に示すようになり,陽極引出しタブ端子10aと陰極引出しタブ端子12aとは,封口板の裏面に突出したタブ端子のリベット間隔と,同一寸法で離れた形態となる。また,その際の陽極箔10および陰極箔12のそれぞれ引出しタブ端子10a,12aの位置は,図15に示すように,封口板の裏面に突出したタブ端子のリベット間隔に相当する,巻回時に必要な円周長さ「A」分の間隔が必要となる。
なお,前記図15に示す陽極箔10および陰極箔12のそれぞれ引出しタブ端子10a,12aの位置は,厳密な形でモデル図を描いた場合を示すものであり,これを簡易的に描くと,例えば図16に示すようになり,誤解を生じ易い。
すなわち,図16に示すコンデンサ素子は,絶縁紙14,陰極箔12,絶縁紙15,陽極箔10を重ね,始端Sより巻始めて,図17に示すように巻回し,そして電解液を含浸させたものである。この場合,各電極側(陽極箔10,陰極箔12)には,それぞれ任意の数の電極タブ端子群11および13が,所要間隔毎に全長に亘って設けられ(図16参照),これらの各電極タブ端子群11,13は,図17に示すように同一極性毎に一括されている。
そこで,前記図16において,誤解を生じ易い点は,両電極の引出しタブ端子の位置と,電極箔の巻取り後におけるコンデンサ素子のタブ端子の位置である。すなわち,図16においては前記両電極の引出しタブ端子が,あたかも重なっているように描かれているが,電極箔の巻取り後におけるコンデンサ素子18の各電極タブ端子群11,13は,陽極および陰極毎に一括されている点である。これは,図16の両電極の引出しタブ端子の位置を,簡易的に描いたためであり,本来の内容と異なり誤解を生じ易い。」(【0002】-【0014】)

(1b)「さらに,前述した比較的大型のコンデンサにおいては,コンデンサ素子から所要の間隔を設けて両電極タブ端子を導出する場合,コンデンサの電気的特性であるインピーダンスは,大きく影響を受け,間隔が広く(巻回構造における両電極引き出しタブ端子間の周長)なるにつれて,インピーダンスの値は大きくなる(図18参照)。」(【0015】)

(1c)図13は,引用例1の従来の技術に示された電解コンデンサにおける陽極箔および陰極箔に対するそれぞれ複数の引出し端子位置を示す説明図であって,上記摘記(1a)の記載を参酌すれば,同図から,帯状の陽極箔と陰極箔のそれぞれに,二つの引出しタブ端子を,各電極箔の端部と引出しタブ端子との間の長さがそれぞれ「1」に対して,二つのタブ端子の間がそれぞれ「2」の割合となるように接続した構造を読み取ることができる。

(1d)図17は,引用例1の従来の技術に示されたコンデンサ素子の外観斜視図であって,上記摘記(1a)の記載を参酌すれば,同図から,陽極箔に取付けられた複数の引出しタブ端子と,陰極箔に取り付けられた複数の引しタブ端子が,円柱状のコンデンサ素子の一方の巻回端面から,該コンデンサ素子の中心を通るように略直線状に配置されるように導出する構造を読み取ることができる。

引用発明
引用例1の上記摘記(1a),(1c)-(1d)を総合勘案すれば,引用例1には,引用例1の特許請求の範囲に記載された発明に先立つ従来の技術として,
「帯状の陽極箔と陰極箔のそれぞれに,二つの引出しタブ端子を,各電極箔の端部と引出しタブ端子との間の長さがそれぞれ「1」に対して,二つのタブ端子の間がそれぞれ「2」の割合となるように接続し,絶縁紙を介して巻回したコンデンサ素子に,電解液を含浸させるとともに,外装ケースに収納し,該外装ケースの開口部に外部接続用のタブ端子が固着された封口板を装着して形成してなる電解コンデンサにおいて,
前記封口板を貫通して封口板の裏面に突出したタブ端子のリベット部に,コンデンサ素子から導出したタブ端子(先端部分に貫通孔を設けている)を挿通させて係止し,さらにワッシャ等を装着してこれらを一体的に圧接した接続端子構造を有する電解コンデンサであって,
共振周波数を高くするために,前記引出しタブ端子を増加することによって,インダクタンスLを小さくした,非常に高い周波数においても役に立つコンデンサ素子」
の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

引用例2:実願昭55-156747号(実開昭57-80826号)のマイクロフィルム
(2a)「一般にコンデンサのインピーダンスは周波数が高くなるに伴い低下してゆくが,ある周波数を超えると電極や外部引出リードの有するインダクタンス分の影響でインピーダンスが高くなる。
インピーダンスの上昇を改善するため,・・・させたものもあるが外部の引出リード部におけるインダクタンス分の影響は無視することはできない。
また,最近では第1図に示すようなスイッチング電源などに使用する高い周波数での電解コンデンサの低インピーダンス化が望まれている。
・・・
すなわち,本考案は外部引出リード端子を絶縁体を介し互いに接触対向または交差せしめたことを特徴とするコンデンサで,該コンデンサの外部引出リードより発生するフラックスの影響によるインダクタンス分を相殺し,高周波インピーダンスの低下をせしめるものである。
・・・
第2図は電解コンデンサの要部断面図を示し,・・・第4図(イ),(ロ),(ハ),(ニ)は凹部4における外部引出リード端子5の接触および交差例を示す。
本考案のコンデンサは以上のようにして構成されているので,外部引出リード端子5間のインダクタンス分が低減され,インピーダンス特性が著しく改善された。」(第1頁第18行-第3頁第18行)

(2b)第1図は,引用例2の従来の電解コンデンサの断面図であって,同図から,電解コンデンサの外部との電気的な接続に,外部リード端子を用いている構造を読み取ることができる。

(2c)第4図は,引用例2に記載された考案のコンデンサの実施例の要部斜視図であって,第4図(ニ)から,外部引出リード端子5を互いに接触対向させた構造を読み取ることができる。

引用例3:特開2001-284175号公報
(3a)「【従来の技術】タンタルあるいはアルミニウム等のような弁作用を有する金属を利用した電解コンデンサは,陽極側対向電極としての弁作用金属を焼結体あるいはエッチング箔等の形状にして誘電体を拡面化することにより,小型で大きな容量を得ることができることから,広く一般に用いられている。特に,電解質に固体電解質を用いた固体電解コンデンサは,小型,大容量,低等価直列抵抗であることに加えて,チップ化しやすく,表面実装に適している等の特質を備えていることから,電子機器の小型化,高機能化,低コスト化に欠かせないものとなっている。
この種の固体電解コンデンサにおいて,小型,大容量用途としては,一般に,アルミニウム等の弁作用金属からなる陽極箔と陰極箔をセパレータを介在させて巻回してコンデンサ素子を形成し,このコンデンサ素子に駆動用電解液を含浸し,アルミニウム等の金属製ケースや合成樹脂製のケースにコンデンサ素子を収納し,密閉した構造を有している。なお,陽極材料としては,アルミニウムを初めとしてタンタル,ニオブ,チタン等が使用され,陰極材料には,陽極材料と同種の金属が用いられる。
また,固体電解コンデンサに用いられる固体電解質としては,二酸化マンガンや7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン(TCNQ)錯体が知られているが,近年,反応速度が緩やかで,かつ陽極電極の酸化皮膜層との密着性に優れたポリエチレンジオキシチオフェン(以下,PEDTと記す)に着目した技術(特開平2-15611号公報)が存在している。」(【0002】-【0004】)

(3b)「このような巻回型のコンデンサ素子にPEDTからなる固体電解質層を形成するタイプの固体電解コンデンサは,例えば,以下のようにして作製される。まず,アルミニウム等の弁作用金属からなる陽極箔の表面を塩化物水溶液中での電気化学的なエッチング処理により粗面化して,多数のエッチングピットを形成した後,ホウ酸アンモニウム等の水溶液中で電圧を印加して誘電体となる酸化皮膜層を形成する(化成)。陰極箔も陽極箔と同様にアルミニウム等の弁作用金属からなるが,その表面にはエッチング処理を施すのみである。
また,図2及び図3に示すように,陽極箔1及び陰極箔2には,それぞれの電極を外部に接続するための外部引き出し手段4,5が接続され,両電極箔をセパレータ3と共に巻回してコンデンサ素子10が形成されている。この外部引き出し手段4,5は,電極箔と接続される平板部11,封口手段貫通用の丸棒部12及び外部接続部(リード線)13とから構成され,平板部11及び丸棒部12はアルミニウムから構成されている。また,丸棒部12とリード線13とは溶接により接続されている。以下,この溶接部分を溶接部14という。なお,前記平板部11及び丸棒部12(電極タブ17)の表面は化成処理され,酸化皮膜層が形成されているため,絶縁状態となっている。
続いて,修復化成を施したコンデンサ素子10を3,4-エチレンジオキシチオフェン(以下,EDTと記す)と酸化剤の混合溶液(重合液)に浸漬することにより,この重合液をコンデンサ素子10に含浸する。あるいはまた,コンデンサ素子10をEDTと酸化剤溶液に交互に浸漬して含浸する。いずれの場合でも,コンデンサ素子10にEDTと酸化剤を含浸した後,重合反応させ,PEDTからなる固体電解質層を生成する。その後,図4に示したように,コンデンサ素子10を封口体16と共に外装ケース15に収納し,固体電解コンデンサを完成する。」(【0005】-【0007】)

(3c)図2は,引用例3に記載されたコンデンサ素子の巻回状態を示す斜視図であり,図3は,コンデンサ素子の一例を示す分解斜視図であり,図4は,従来の製造方法によって得られた固体電解コンデンサの一例を示す断面図であって,引用例3の前記摘記(3b)の記載を参酌すれば,これらの図から,帯状の陽極箔と陰極箔に引出端子を接続し,セパレータを介して巻回したコンデンサ素子に,有機半導体からなる固体電解質を保持させるとともに,有底筒状の外装ケースに収納し,外装ケースの開口部を封口部材で封止してなる固体電解コンデンサにおいて,前記陽極箔と陰極箔にそれぞれ引出端子を取り付け,前記引出端子をコンデンサ素子の一方の巻回端面からコンデンサ素子の中心を通るように略直線上に配置されるように導出するとともに,前記引出端子が導出された間隔で,固体電解コンデンサの外部と電気的に接続するリード線を導出した固体電解コンデンサの構造を読み取ることができる。

4 対比
(1)引用発明と本願発明1とを対比すると,引用発明の「絶縁紙」,「引出しタブ端子」,「封口板」は,それぞれ本願発明1の「セパレータ」,「引出端子」,「封口部材」に相当する。

(2)引用例1には「外装ケース」の形状について明示されていないが,引用例1の上記摘記(1d)の,コンデンサ素子が円柱状であり,陽極箔に取付けられた複数の引出しタブ端子と,陰極箔に取り付けられた複数の引しタブ端子が,前記円柱状のコンデンサ素子の一方の巻回端面から導出する構造を前提とすれば,引用発明の外装ケースの形状は「有底筒状」であると認められる。

(3)引用発明の「リベット部」は,「封口板」を貫通した導電部材であるから,本願発明1の「リード線」とは,「電解コンデンサの外部と電気的に接続する導電部材であって,電解コンデンサから導出している導電部材」である点で一致するといえる。
そうすると,引用発明の「封口板を貫通して封口板の裏面に突出したタブ端子のリベット部に,コンデンサ素子から導出したタブ端子(先端部分に貫通孔を設けている)を挿通させて係止し,さらにワッシャ等を装着してこれらを一体的に圧接した接続端子構造を有する電解コンデンサ」と,本願発明1の「外周近傍にある引出端子を折り曲げて内周側の引出端子に接続して,同極の電極の引出端子同士を固体電解コンデンサの内部で接続し,内周側の引出端子が導出された間隔で,固体電解コンデンサの外部と電気的に接続するリード線を導出した固定電解コンデンサ」とは,「同極の電極の引出端子同士を電解コンデンサの内部で接続し,電解コンデンサの外部と電気的に接続する導電部材を導出した電解コンデンサ」の範囲で一致する。

(4)してみれば,本願発明1と引用発明との一致点と相違点は,次のとおりといえる。

<一致点>
「帯状の陽極箔と陰極箔に引出端子を接続し,セパレータを介して巻回したコンデンサ素子を,有底筒状の外装ケースに収納し,外装ケースの開口部を封口部材で封止してなる電解コンデンサにおいて,
前記陽極箔と陰極箔にそれぞれ複数の引出端子を取り付け,前記引出端子をコンデンサ素子の一方の巻回端面から導出するとともに,
同極の電極の引出端子同士を電解コンデンサの内部で接続し,
電解コンデンサの外部と電気的に接続する導電部材を導出した電解コンデンサ。」

<相違点>
相違点1:本願発明1が,有機半導体からなる固体電解質が保持された固体電解コンデンサであるのに対して,引用発明は,電解液を含浸させた電解コンデンサである点。

相違点2:本願発明1では,引出端子がコンデンサ素子の中心を通るように直線上に配置されるように導出しているのに対して,引用発明ではこの点が明らかでない点。

相違点3:本願発明1が,電解コンデンサの外部との電気的な接続に,リード線を用いているのに対して,引用発明では,封口板を貫通して封口板の裏面に突出したタブ端子のリベット部を用いている点。

相違点4:本願発明1では,内周側の引出端子が導出された間隔で,電解コンデンサの外部と電気的に接続するリード線を導出しているのに対して,引用発明では,リベット間隔が明らかでない点。

相違点5:本願発明1では,外周近傍にある引出端子を折り曲げて内周側の引出端子に接続しているのに対して,引用発明では,外周近傍にある引出しタブ端子と内周側の引出しタブ端子とを接続する際に,外周近傍にある引出しタブ端子を折り曲げているか明らかでない点。

5 相違点についての判断
・相違点1について
引用発明の電解コンデンサは,陽極箔と陰極箔をセパレータを介在させて巻回して形成した構造を有するものであり,また,引用発明が解決しようとする課題は,非常に高い周波数においても役に立つことといえる。

一方,低等価直列抵抗であり,高周波特性に優れる等の特性は,非常に高い周波数においても役に立つ電解コンデンサにとって,望ましい特性であるということは当業者において周知な事項といえる。

ところで,引用例3の上記摘記(3a)の「【従来の技術】・・・電解質に固体電解質を用いた固体電解コンデンサは,小型,大容量,低等価直列抵抗であることに加えて,チップ化しやすく,表面実装に適している等の特質を備えていることから,電子機器の小型化,高機能化,低コスト化に欠かせない・・・。この種の固体電解コンデンサにおいて,小型,大容量用途としては,一般に,アルミニウム等の弁作用金属からなる陽極箔と陰極箔をセパレータを介在させて巻回してコンデンサ素子を形成し,このコンデンサ素子に駆動用電解液を含浸し,アルミニウム等の金属製ケースや合成樹脂製のケースにコンデンサ素子を収納し,密閉した構造を有している。・・・また,固体電解コンデンサに用いられる固体電解質としては,・・・7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン(TCNQ)錯体が知られている」との記載,及び,下記の周知文献1-3の記載に照らして,陽極箔と陰極箔をセパレータを介在させて巻回して形成した構造を有するコンデンサ素子の電解質として,有機半導体であるTCQN錯体を用いる構成,及び,前記電解質を用いた電解コンデンサが,低等価直列抵抗であり,高周波特性に優れる等の特性を備えることは,本願の出願前に周知であったことが認められる。

そうすると,陽極箔と陰極箔をセパレータを介在させて巻回して形成した構造を有するという点で,引用発明と共通する構造を有する電解コンデンサにおいて,電解質として有機半導体であるTCQN錯体を用いるという構成を採用することで,低等価直列抵抗であり,高周波特性に優れる等の特性を得ることができることが,本願の出願前に周知であったといえるのであるから,非常に高い周波数においても役に立つことを課題とした引用発明において,前記低等価直列抵抗であり,高周波特性に優れる等の特性が得られることを期待して,前記周知の構成である,電解質として有機半導体であるTCQN錯体を用いるものを採用することは当業者が容易に想到し得たことである。また,このような構成を採用したことによる効果も当業者が予測し得る範囲内のものである。
したがって,引用発明において,相違点1に係る本願発明1の構成を採用することは当業者にとって容易である。

周知文献1:特開昭63-239915号公報
(周1a)「(従来の技術)
Al電解コンデンサやタンタル固体電解コンデンサ等の電解コンデンサは,電極間に液体あるいは固体の電解質を介在させた構造になっている。
しかし,前者は経時変化が比較的劣り,周波数特性や温度特性も低くまた,後者はタンタル陽極酸化皮膜上に二酸化マンガン層を形成するのに硝酸マンガン水溶液の含浸と熱分解の繰り返し作業により酸化皮膜が損傷し各特性向上が困難でありかつ作業も煩雑となる欠点があった。
このため,これ等のコンデンサに代わるものとして,有機半導体を電解質とする電解コンデンサが用いられるようになってきた。有機半導体としては7.7.8.8テトラシアノキノジメタン(以下TCNQと略す)等が主として用いられ,これにキノリン誘導体やイソキノリン誘導体等の各種の電解質用電荷移動化合物が加えられている。
(発明が解決しようとする問題点)
しかし,従来のTCNQに電解質用電荷移動化合物を加えた電解質では,tanδ等の初期特性が低く,また初期不良率も高いという欠点があった。
本発明の目的は,以上の欠点を改良し,初期特性を向上し初期不良を減少しうる電解コンデンサを提供するものである。
(問題点を解決するための手段)
本発明は,上記の目的を達成するために,電極間に有機半導体からなる電解質を介在した電解コンデンサにおいて,TCNQとN-アルキルイソキノリンの4.5.6.7または8位の1つをアルキル基に置換した化合物とからなる有機半導体を用いたことを特徴とする電解コンデンサを提供するものである。
(作用)
TCNQは,非常に大きな電子親和力を有する分子で,種々のイオン化ポテンシャルのドナー分子との間に電荷移動度の異なったTCNQ錯塩を形成する。そして,このTCNQ錯塩の電導性が高いほど,tanδを低くでき,他の特性も改良でき,そのためにはドナー分子のイオン化ボテンシャルは,TCNQと錯塩を形成した際に,混合原子価化合物を構成する程度のものが好ましく,適当に小さいことが望ましい。このようなドナー分子はそのπ軌道の電子密度を適当に高めることつまり,N-アルキルイソキノリンに電子供与性基を置換することにより実現可能となる。本発明においてTCNQに加えられるN-アルキルイソキノリンの4.5,6.7または8位の1つをアルキル基に置換した化合物はこの要求を満たす物質であり,TCNQ錯塩の電導性を高くできる。」(第1頁左下欄第16行-第2頁右上欄第5行)

(周1b)「(実施例)
以下,本発明を実施例に基づいて説明する。
陽極箔は,高純度アルミ箔を電解エツチングにより粗面化した後,化成して酸化皮膜を形成したものであり,所定箇所にリード線が接続されている。陰極箱はアルミニウム箔からなりリード線が接続されている。セパレータはマニラ紙からなり陽極箱と陰極箱との間に設けられている。そして陽極箔,セパレータ及び陰極箔を積層巻回してコンデンサ素子が形成されている。このコンデンサ素子にはTCNQ錯塩が含浸されている。」(第2頁左下欄第5-15行)

周知文献2:特開平7-249544号公報
(周2a)「【従来の技術】近年,電子情報機器の高度化に伴い,電子部品の小形化,高性能化が求められるようになってきており,電解コンデンサでも駆動用電解液を含浸した電解コンデンサよりも小形化の可能なTCNQ錯体を固体電解質として用いた固体電解コンデンサが実用化されている。これらの固体電解コンデンサは,アルミニウムなどの一対の電極箔間にスペーサ紙を挟んで巻回してコンデンサ素子を構成し,金属ケースに入れたTCNQ錯体を溶融液化して予め加熱してある前記素子に含浸し,これを冷却固化した後,前記金属ケースの開口部をエポキシ樹脂等で封じていた。さらに,電圧を印加してエージングを行い,製造過程で生じた誘電体酸化被膜を修復して完成品としていた。
このようにして作製されたTCNQ錯体を含浸した固体電解コンデンサは,TCNQ錯体が伝導度約10S/cmであり,駆動用電解液の伝導度0.01S/cmに比し非常に高く,このTCNQ錯体を固体電解質として用いることにより,インピーダンスの周波数特性,漏れ電流,温度特性等の優れた諸特性を有している。」(【0002】-【0003】)

周知文献3:特開平7-263276号公報
(周3a)「【課題を解決しようとする手段】本発明による電子機器のノイズ除去方法は,電子回路の電源ラインとアースラインとの間に,TCNQ錯塩,ポリピロール等の有機半導体を電解質として用いた固体電解コンデンサを接続することを特徴とするものである。
【作用】前記有機半導体においては,π電子雲の重なり等のためにバンドモデルで云うところの価電子帯,伝導帯,ドナー準位,アクセプタ準位等の間隔が小さくなり,キャリヤの移動度が高くなっている。従って,該有機半導体を電解質として用いた固体電解コンデンサは,イオン伝導性の電解液を用いた通常の電解コンデンサに比べて等価直列抵抗が小さくてインピーダンスの高周波特性にも優れ,ピーキングコイルやセラミックコンデンサを併用しなくても,プリント基板の銅箔が有する等価直列インダクタンスとの組み合わせによってノイズ除去フィルタの作用効果を奏する。」(【0007】-【0008】)

(周3b)「本発明に使用される固体電解コンデンサの例としては,酸化被膜の形成されたアルミニウム製の陽極箔と陰極箔をセパレータとともに捲回したコンデンサ素子に,電解質としてのTCNQ錯塩を溶融含浸させて冷却固化した固体電解コンデンサが挙げられる。TCNQ錯塩は電子伝導性で導電率が大きく,該TCNQ錯塩を電解質として用いた固体電解コンデンサは,内部抵抗や高周波インピーダンスが非常に小さい。」(【0011】)

・相違点2について
帯状の陽極箔と陰極箔に引出端子を接続しセパレータを介して巻回した構造を有するコンデンサ素子において,引出端子がコンデンサ素子の中心を通るように直線上に配置されるように導出している構造は,上記引用例1,引用例3にも記載されているように,周知のものである。
すなわち,引用例1の上記摘記(1d)に示したように,引用例1には,従来の技術に示されたコンデンサ素子の外観斜視図として,陽極箔に取付けられた複数の引出しタブ端子と,陰極箔に取り付けられた複数の引しタブ端子が,円柱状のコンデンサ素子の一方の巻回端面から,該コンデンサ素子の中心を通るように略直線状に配置されるように導出する構造が開示されており,また,引用例3の上記摘記(3c)に示したように,引用例3には,固体電解コンデンサにおいて,陽極箔と陰極箔にそれぞれ取り付けられた引出端子をコンデンサ素子の一方の巻回端面からコンデンサ素子の中心を通るように略直線上に配置した構造が開示されている。
してみれば,引用発明において,端子の導出構造として,このような配置を選択することは当業者が適宜なし得たことといえる。また,このような構造を採用したことによる効果は当業者が予測し得る範囲内のものである。
したがって,引用発明において,相違点2に係る本願発明1の構成を採用することは当業者にとって容易である。

・相違点3について
帯状の陽極箔と陰極箔に引出端子を接続しセパレータを介して巻回した構造を有するコンデンサ素子を,有底筒状の外装ケースに収納し,外装ケースの開口部を封口部材で封止してなる電解コンデンサにおいて,電解コンデンサの外部との電気的な接続に,リード線を用いることは,上記引用例2,引用例3,及び,本願明細書の従来の技術の欄で引用されており,また,平成19年7月19日付けの拒絶理由通知書において引用文献2として引用した,下記の周知文献4にも記載されているように,周知のものである。
すなわち,引用例2の上記摘記(2b)に示したように,引用例2には,電解コンデンサの外部との電気的な接続に,リード線を用いている構造が開示されており,また,引用例3の上記摘記(3c)に示したように,引用例3には,帯状の陽極箔と陰極箔に引出端子を接続し,セパレータを介して巻回したコンデンサ素子に,有機半導体からなる固体電解質を保持させるとともに,有底筒状の外装ケースに収納し,外装ケースの開口部を封口部材で封止してなる固体電解コンデンサにおいて,該固体電解コンデンサの外部との電気的な接続がリード線によって行われている固体電解コンデンサの構造が開示されており,さらに,周知文献4の下記摘記(周4a)-(周4d)に示したように,周知文献4には,一端にリード線を溶接してなる偏平部を有する引出リード端子と補助リード板とを電極箔に接続し,該電極箔を電解紙などのセパレータを介してコンデンサ素子を巻回し,上記引出リード端子と補助リード板とを接続するとともに,上記コンデンサ素子をケースに収納密封してなる電解コンデンサにおいて,上記引出リード端子を弾性封口体に挿通した電解コンデンサの構造が開示されている。
してみれば,引用発明において,電解コンデンサの外部との電気的な接続を,封口板を貫通して封口板の裏面に突出したタブ端子のリベット部により行う構造に替えて,リード線を用いたものとすることは当業者が適宜なし得たことといえる。また,このような構造を採用したことによる効果は当業者が予測し得る範囲内のものである。
したがって,引用発明において,相違点3に係る本願発明1の構成を採用することは当業者にとって容易である。

周知文献4:実願昭55-148105号(実開昭57-71331号)のマイクロフィルム
(周4a)「一端にリード線を溶接してなる偏平部を有する引出リード端子と補助リード板とを電極箔に接続し,該電極箔を電解紙などのセパレータを介してコンデンサ素子を巻回し,上記引出リード端子と補助リード板とを接続するとともに上記引出リード端子を弾性封口体に挿通してコンデンサ素子をケースに収納密封してなる電解コンデンサ。」(実用新案登録請求の範囲)

(周4b)「次に第4図に示すように上記2枚の電極箔を電解紙などのセパレータ6を介して巻回してコンデンサ素子11を形成し,該コンデンサ素子11に電解液を含浸せしめた後,第5図に示すように引出リード端子5と補助リード板10の各々同極同志を溶接などにより接続せしめた後,不必要な補助リード板10を切除し,弾性封口体8に引出しリード端子5を貫通するようにコンデンサ素子11に装着してコンデンサケース9に挿入し,該ケース9の開口端部を巻締め密封したものである。12は溶接部である。」(第4頁第4-14行)

(周4c)「また引出リード端子5および補助リード10の電極箔1,2との接続位置も必要に応じて変えることができ,引出リード端子5と,補助リード板10との接続位置もコンデンサ素子11の上部に限らず底面部で接続してもよい。」(第5頁第9-14行)

(周4d)第5図は,周知文献4に記載された考案に係るコンデンサ素子の組立説明図であって,上記摘記(周4b)の記載を参酌すれば,同図の左側からは,2枚の電極箔を電解紙などのセパレータ6を介して巻回してコンデンサ素子11を形成し,該コンデンサ素子11に電解液を含浸せしめた後,外周近傍にある補助リード板10を折り曲げて内周側の引出リード端子5に接続して,各々同極同志を溶接などにより接続せしめたコンデンサ素子の構造を,また,同図の右側からは,不必要な補助リード板10を切除し,補助リード板10と引出リード端子5を折り曲げたコンデンサ素子の構造を読み取ることができる。
また,第6図は,周知文献4に記載された考案に係る電解コンデンサの一実施例の断面図であって,上記摘記(周4b)の記載を参酌すれば,同図から,上記第5図に示された組立説明図によって組み立てられたコンデンサ素子の引出しリード端子5を,外周近傍にある補助リード板10が導出された間隔,及び,内周側の引出リード端子5が導出された間隔のいずれとも異なる間隔で,弾性封口体8を貫通するように装着して,コンデンサケース9に挿入し,該ケース9の開口端部を巻締め密封した電解コンデンサの構造を読み取ることができる。

・相違点4について
上記相違点3についてで検討したように,引用発明において,電解コンデンサの外部との電気的な接続をリード線を用いたものとすることは当業者が適宜なし得た事項である。
一方,電解コンデンサにおいて,外部と電気的に接続する,リード線・リベット等の導電部材の導出する間隔は設計事項であって,当該電解コンデンサの外形寸法,必要とされる絶縁耐性,製造の容易さ,既存の電解コンデンサにおける間隔と同じ間隔とすることによる従来製品との置き換え可能性等の種々の事情を考慮して当業者が適宜定める事項といえる。
そして,引用例1の上記摘記(1b)の「コンデンサ素子から所要の間隔を設けて両電極タブ端子を導出する場合,コンデンサの電気的特性であるインピーダンスは,大きく影響を受け,間隔が広く(巻回構造における両電極引き出しタブ端子間の周長)なるにつれて,インピーダンスの値は大きくなる」との記載,及び,引用例2の上記摘記(2a)の「ある周波数を超えると電極や外部引出リードの有するインダクタンス分の影響でインピーダンスが高くなる」,「高い周波数での電解コンデンサの低インピーダンス化が望まれている」,「外部引出リード端子を絶縁体を介し互いに接触対向・・・せしめたことを特徴とするコンデンサで,該コンデンサの外部引出リードより発生するフラックスの影響によるインダクタンス分を相殺し,高周波インピーダンスの低下をせしめる」との記載に照らして,本願出願前に,電解コンデンサの外部引出リード等の間隔が,該電解コンデンサの電気的特性であるインピーダンスに大きく影響を与えること,及び,前記間隔を狭くすることで,コンデンサの外部引出リード等より発生するフラックスの影響によるインダクタンス分が相殺され,高周波インピーダンスが低下するという,高い周波数で使用する電解コンデンサにおいて望まれている低インピーダンス化という効果が得られることという技術的な知見が知られていたことが認められるから,電解コンデンサにおいて,外部と電気的に接続する,リード線・リベット等の導電部材の導出する間隔を定める際には,この技術的な知見をもまた前記考慮すべき種々の事情の一つとして加えることに格別の困難は認められない。
してみれば,引用発明において,電解コンデンサの外部との電気的な接続をリード線を用いたものとする際に,その「リード線を導出する間隔」を,前記種々の事情を総合的に比較考量して定めることは当業者の通常の創作能力の発揮であり,その結果として前記「リード線を導出する間隔」を「内周側の引出端子が導出された間隔」と同じ大きさとなるように定めることも適宜なし得たことといえる。また,このような間隔を選択したことによる効果も,本願出願前に知られていたと認められる上記の技術的な知見等に照らして当業者が予測し得る範囲内のものといえる。

なお,本願明細書の【0018】の「外周近傍にある引出端子を折り曲げ,内周側の引出端子に接続すると,外部に導出されている引出端子同士の距離が近くなる。このため,引出端子を電流が流れる際に発生する誘導磁界を相殺する効果が大きくなり,結果として固体電解コンデンサ全体のESLをさらに低減させることができる。」等の記載に照らして,リード線の間隔がより小さいほど,引出端子を電流が流れる際に発生する誘導磁界を相殺する効果が大きくなり,結果として固体電解コンデンサ全体のESLをさらに低減させることができるのであるから,「リード線を導出する間隔」は,固体電解コンデンサ全体のESLをさらに低減させることができるという観点からは,より小さいほど望ましいといえる。そうすると,「リード線を導出する間隔」を「内周側の引出端子が導出された間隔」と同じ大きさとした点には臨界的な意義を認めることはできない。
したがって,引用発明において,相違点4に係る本願発明1の構成を採用することは当業者にとって容易である。

・相違点5について
上記相違点4についてで検討したように,電解コンデンサの外部と電気的に接続するリード線の導出する間隔を,内周側の引出端子が導出された間隔とすることは当業者が適宜なし得た事項である。
そして,その場合には,外周近傍にある引出端部が導出された間隔と,電解コンデンサの外部と電気的に接続するリード線の導出する間隔とは異なる大きさとなることは明らかである。
してみれば,前記外周近傍にある引出端部を内周側の引出端部に接続して,同極の電極の引出端子同士を電解コンデンサの内部で接続し,電解コンデンサの外部と電気的に接続するリード線を導出する場合に,外周近傍にある引出端部が導出された間隔の大きさと,電解コンデンサの外部と電気的に接続するリード線の導出する間隔との大きさとの差を埋めるために,前記外周近傍にある引出端部を「折り曲げて」内周側の引出端部に接続することは当業者が容易になし得たことであり,このような構成を採用したことによる効果も当業者が予測し得る範囲内のものである。
したがって,引用発明において,相違点5に係る本願発明1の構成を採用することは当業者にとって容易である。

なお,審判請求人は,審判請求書の請求の理由において,「引用例1のような62型または69の電解コンデンサでは,コンデンサ素子からの電極タブの引き出し位置をある程度選択できるが,本願のような04型の電解コンデンサでは,電解コンデンサの外径寸法に対する引出端子の太さの占める比率が大きいものであり,コンデンサ素子からの電極引出端子の引き出し位置の自由度は極めて少ない。このような制約の中で,ESR特性とインダクタンス特性の両方の低減を図る構造を見出したもので,引用例1に記載の電解コンデンサに記載された技術からでは,容易に想到できるものではない。」として,本願発明の進歩性を主張するので,この点を更に検討する。
本願の特許請求の範囲の請求項1には,「固体電解コンデンサの外部と電気的に接続するリード線を導出した固体電解コンデンサ」が,本願発明1を特定する事項として記載されている。しかしながら,前記請求項1には,「電解コンデンサの外径寸法」,「引出端子の太さ」,及び,「電解コンデンサの外径寸法に対する引出端子の太さの占める比率」のいずれをも規定する記載は存在しない。
しかも,審判請求書の請求の理由の「(c)次に本願と引用文献との対比を行う。」の項目においては,「本願発明の電解コンデンサは,JIS C-5101-1に規定する04型の電解コンデンサの電解コンデンサである。本願の04型の電解コンデンサは比較的小型の電解コンデンサ(概ねφ4?φ18)に採用されている構造である。
一方で,引用文献1に記載の電解コンデンサは,コンデンサ素子から導出した電極タブを,封口板に埋設されたリベットに接続する構造となっている。すなわち,JIS C-5101-1に規定する33型,62型,69型のいずれかのコンデンサである。この構造は比較的大型の電解コンデンサ(φ20?φ35)に多く採用されている構造である。
また,これらの電解コンデンサの構造は,外部端子の形状の違いによる区分であって,外装ケースの径のサイズが要件では無い。」と主張しているように,外部端子の形状によって,外装ケースの径のサイズが一義的に定まるものとも認められない。
さらに,本願発明1における「固体電解コンデンサの外部と電気的に接続するリード線を導出した固体電解コンデンサ」と規定されるコンデンサを,特定の外形寸法,及び,引出端子の太さを有するものに限られるものと限定的に解釈すべき特段の理由を見出すこともできない。
してみれば,本願発明1は,「電解コンデンサの外径寸法」,「引出端子の太さ」,及び,「電解コンデンサの外径寸法に対する引出端子の太さの占める比率」を特定するものとはいえないから,これらの事項を前提とする審判請求人の前記主張は,特許請求の範囲の記載に基づかないものであり,採用することはできない。

また,審判請求人は,審判請求書の請求の理由において,「そして,引用例1ないし引用例4を組み合わせたとしても,引用例1と引用例2に開示された電解コンデンサの構造は異なるもので,本願発明の構成に容易に想到できるものではない。」とも主張する。
しかしながら,引用例1において示された,「引出しタブ端子を増加することによって,さらにインダクタンスLの値を減少することができる」との技術的知見と,電解コンデンサから導出される導電部材がリベットであるかリード線であるかという構造の相違との間には,技術的に分離不可能な関係があるとはいえないし,また,引用例1,引用例2において示された「間隔が広く(巻回構造における両電極引き出しタブ端子間の周長)なるにつれて,インピーダンスの値は大きくなる」,「コンデンサの外部引出リードより発生するフラックスの影響によるインダクタンス分を相殺し,高周波インピーダンスの低下をせしめる」という技術的知見と,電解コンデンサから導出される導電部材がリベットであるかリード線であるかという構造の相違との間にも,技術的に分離不可能な関係があるとはいえないから,引用例1と引用例2に開示された電解コンデンサの構造が異なることは,これら引用例1に記載された発明と,引用例2に記載された発明を組み合わせることを阻害する理由にならない。
したがって,この点においても審判請求人の主張は採用することができない。

6 むすび
以上のとおり,本願発明1は,引用例1-3に記載された発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

したがって,本願は,他の請求項について検討するまでもなく,拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-06-21 
結審通知日 2011-06-22 
審決日 2011-07-05 
出願番号 特願2002-97858(P2002-97858)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 桑原 清佐久 聖子  
特許庁審判長 相田 義明
特許庁審判官 加藤 浩一
酒井 英夫
発明の名称 固体電解コンデンサ  

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