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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B01D
管理番号 1242079
審判番号 不服2010-6714  
総通号数 142 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-10-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-03-31 
確定日 2011-08-18 
事件の表示 特願2005-222916「排ガス中の窒素酸化物除去方法」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 2月 2日出願公開,特開2006- 26635〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は,1994年4月28日(優先権主張1993年4月28日,日本国;1993年9月10日,日本国)を出願日とする国際出願である特願平6-524106号の一部を平成17年8月1日に新たな特許出願としたものであって,平成20年9月12日(起案日)付けで拒絶理由が通知され,同年11月25日付けで意見書及び明細書の記載に係る手続補正書が提出され,平成21年12月25日(起案日)付けで拒絶査定され,これに対し,平成22年3月31日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに,同日付けで明細書の記載に係る手続補正がなされたものである。その後,平成22年12月10日(起案日)付けで特許法第164条第3項に規定する報告書を引用した審尋がなされ,平成23年2月14日付けで回答書が提出され,同年5月30日付けで上申書が提出されている。

2.平成22年3月31日付け手続補正の適法性について
平成22年3月31日付けの手続補正は,特許請求の範囲を,
「【請求項1】
白金,パラジウム,ロジウムおよびルテニウムよりなる群から選ばれた少なくとも1種の貴金属または該貴金属の化合物を触媒1リットル当り金属換算で0.1?30gおよびリチウム,カリウム,ナトリウム,ルビジウム,セシウム,ベリリウム,マグネシウム,カルシウム,ストロンチウムおよびバリウムよりなる群から選ばれた少なくとも1種の金属または該金属の化合物を触媒1リットル当り金属換算で1?80gからなる触媒活性成分と耐火性無機酸化物を触媒1リットル当り50?400gとからなり,かつ窒素酸化物飽和吸着量が触媒1リットル当り6?30ミリモルである触媒を,酸化雰囲気下の排ガスと接触させて該排ガス中の窒素酸化物を該触媒に吸着させ,次いで該排ガス中に該触媒に吸着された窒素酸化物(NOとして換算)1モルに対し,還元物質をモル比で1?10倍量含有するガスを10秒?60分間隔で0.1?20秒間導入して該触媒に吸着された窒素酸化物を還元して浄化することを特徴とする排ガス中の窒素酸化物の除去方法。
【請求項2】
さらに,マンガン,銅,コバルト,モリブデン,タングステンおよびバナジウムよりなる群から選ばれた少なくとも1種の重金属または該重金属の化合物を,触媒1リットル当り0.1?50g含有してなる請求項1に記載の方法。
【請求項3】
該触媒の飽和窒素酸化物の全吸着量の50%に達する前に還元物質を導入してなる請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
該排ガスが内燃機関の排ガスである請求項1?3のいずれか一つに記載の方法。
【請求項5】
該内燃機関の吸気系において,空燃比を下げることにより排ガス中に還元物質を導入してなる請求項4に記載の方法。
【請求項6】
該内燃機関の吸気系において,理論空燃比ないしリッチ空燃比にすることにより還元物質を該ガス中に導入してなる請求項4に記載の方法。
【請求項7】
系外から還元物質を該排ガス中に導入してなる請求項4に記載の方法。」
に補正するとともに,明細書について,段落【0043】の,「吸書量にょり」を「吸着量により」と補正し,段落【0053】の,「1-5000ppm」を「1?5000ppm」と補正し,段落【0123】の,「空闘速度」を「空間速度」と補正するものである。

上記特許請求の範囲についての補正は,請求項1,9?14を削除し,請求項1を引用する請求項3を補正後の請求項1とするとともに,補正前の請求項2,4?8を補正後の請求項2?7として引用関係を整理するものであり,平成6年法律第116号改正附則第6条によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項第1号に規定する請求項の削除を目的とするものに該当する。よって,上記補正は,同法同条第3項の規定を満足するものである。
また,明細書の段落【0043】,【0053】及び【0123】についての補正は,いずれも明らかな誤記を訂正するものであって,願書に最初に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてするものである。よって,上記補正は,平成6年法律第116号改正附則第6条によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第2項において準用する同法17条第2項の規定も満足するものである。
したがって,平成22年3月31日付けの手続補正は適法なものである。

3.本願発明
本願の請求項1?7に係る発明は,平成22年3月31日付けの手続補正書により補正された請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定されるとおりのものであり,その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,次のとおりのものである。
「白金,パラジウム,ロジウムおよびルテニウムよりなる群から選ばれた少なくとも1種の貴金属または該貴金属の化合物を触媒1リットル当り金属換算で0.1?30gおよびリチウム,カリウム,ナトリウム,ルビジウム,セシウム,ベリリウム,マグネシウム,カルシウム,ストロンチウムおよびバリウムよりなる群から選ばれた少なくとも1種の金属または該金属の化合物を触媒1リットル当り金属換算で1?80gからなる触媒活性成分と耐火性無機酸化物を触媒1リットル当り50?400gとからなり,かつ窒素酸化物飽和吸着量が触媒1リットル当り6?30ミリモルである触媒を,酸化雰囲気下の排ガスと接触させて該排ガス中の窒素酸化物を該触媒に吸着させ,次いで該排ガス中に該触媒に吸着された窒素酸化物(NOとして換算)1モルに対し,還元物質をモル比で1?10倍量含有するガスを10秒?60分間隔で0.1?20秒間導入して該触媒に吸着された窒素酸化物を還元して浄化することを特徴とする排ガス中の窒素酸化物の除去方法。」

4.原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は,平成20年9月12日付け拒絶理由通知書に記載した理由であり,請求項1?15に対して引用文献1?4を引用した特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。

5.本願優先権主張日前に頒布された刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用文献1として引用された国際公開93/07363号パンフレット(以下「引用例」という。)には,以下の事項が記載されている。
(ア)「ケーシング19内に収容されているNO_(x)吸収剤18は例えばアルミナを担体とし,この担体上に例えばカリウムK,ナトリウムNa,リチウムLi,セシウムCsのようなアルカリ金属,バリウムBa,カルシウムCaのようなアルカリ土類,ランタンLa,イットリウムYのような希土類から選ばれた少くとも一つと,白金Ptのような貴金属とが担持されている。機関吸気通路およびNOx吸収剤18上流の排気通路内に供給された空気および燃料(炭化水素)の比をNO_(x)吸収剤18への流入排気ガスの空燃比と称するとこのNO_(x)吸収剤18は流入排気ガスの空燃比がリーンのときにはNO_(x)を吸収し,流入排気ガス中の酸素濃度が低下すると吸収したNO_(x)を放出するNO_(x)の吸放出作用を行う。」(明細書第5頁下から5行?同第6頁第6行)
(イ)「上述のNO_(x)吸収剤18を機関排気通路内に配置すればこのNO_(x)吸収剤18は実際にNO_(x)の吸放出作用を行う・・・このメカニズムについて担体上に白金PtおよびバリウムBaを担持させた場合を例にとって説明するが他の貴金属,アルカリ金属,アルカリ土類,希土類を用いても同様なメカニズムとなる。
即ち,流入排気ガスがかなりリーンになると流入排気ガス中の酸素濃度が大巾に増大し,第5図(A)に示されるようにこれら酸素O_(2)がO_(2)^(-)の形で白金Ptの表面に付着する。一方,流入排気ガス中のNOは白金Ptの表面上でO_(2)^(-)と反応し,NO_(2)となる(2NO+O_(2)→2NO_(2))。次いで生成されたNO_(2)の一部は白金Pt上で酸化されつつ吸収剤内に吸収されて酸化バリウムBaOと結合しながら第5図(A)に示されるように硝酸イオンNO_(3)^(-)の形で吸収剤内に拡散する。このようにしてNO_(x)がNO_(x)吸収剤18内に吸収される。
・・・・・・
一方,このとき燃焼室3内に供給される混合気がリッチにされて流入排気ガスの空燃比がリッチになると第4図に示されるように機関からは多量の未燃HC,COが排出され,これら未燃HC,COは白金Pt上の酸素O_(2)^(-)と反応して酸化せしめられる。また,流入排気ガスの空燃比がリッチになると流入排気ガス中の酸素濃度が極度に低下するために吸収剤からNO_(2)が放出され,このNO_(2)は第5図(B)に示されるように未燃HC,COと反応して還元せしめられる。このようにして白金Ptの表面上にNO_(2)が存在しなくなると吸収剤から次から次へとNO_(2)が放出される。従って流入排気ガスの空燃比をリッチにすると短時間のうちにNO_(x)吸収剤18からNO_(x)が放出されることになる。
即ち,流入排気ガスの空燃比をリッチにするとまず初めに未燃HC,COが白金Pt上のO_(2)^(-)とただちに反応して酸化せしめられ,次いで白金Pt上のO_(2)^(-)が消費されてもまだ未燃HC,COが残っていればこの未燃HC,COによって吸収剤から放出されたNO_(x)および機関から排出されたNO_(x)が還元せしめられる。従って流入排気ガスの空燃比をリッチにすれば短時間のうちにNO_(x)吸収剤18に吸収されているNO_(x)が放出され,しかもこの放出されたNO_(x)が還元されるために大気中にNO_(x)が排出されるのを阻止することができることになる。また,NO_(x)吸収剤18は還元触媒の機能を有しているので流入排気ガスの空燃比を理論空燃比にしてもNO_(x)吸収剤18から放出されたNO_(x)が還元せしめられる。・・・
・・・従って本発明による実施例ではNO_(x)吸収剤18からNO_(x)を放出すべきときには流入排気ガスの空燃比が理論空燃比或いはリッチにされ,それによってNO_(x)吸収剤18から放出されたNO_(x)をNO_(x)吸収剤18において還元するようにしている。」(明細書第6頁第13行?同第9頁第1行)
(ウ)「ところで本発明による実施例では上述したように全負荷運転時には燃焼室3内に供給される混合気がリッチとされ,また加速運転時には混合気が理論空燃比とされるので全負荷運転時および加速運転時にNO_(x)吸収剤18からNO_(x)が放出されることになる。しかしながらこのような全負荷運転或いは加速運転か行われる頻度か少なければ全負荷運転時および加速運転時にのみNO_(x)吸収剤18からNO_(x)が放出されたとしてもリーン混合気が燃焼せしめられている間にNO_(x)吸収剤18によるNO_(x)の吸収能力が飽和してしまい,斯くしてNO_(x)吸収剤18によりNO_(x)を吸収できなくなってしまう。従って本発明による実施例ではリーン混合気が継続して燃焼せしめられているときには第7図(A)に示されるように流入排気ガスの空燃比を周期的にリッチにするか,或いは第7図(B)に示されるように流入排気ガスの空燃比が周期的に理論空燃比にされる。・・・
第7図(A)に示すように流入排気ガスの空燃比が周期的にリッチにされる場合についてみるとリーン混合気の燃焼が行われている時間t_(1)に比べて流入排気ガスの空燃比がリッチにされる時間t_(2)は極めて短い。具体的に云うと流入排気ガスの空燃比がリッチにされる時間t_(2)はほぼ10秒以内であるのに対してリーン混合気の燃焼が行われている時間t_(1)は10数分間から1時間以上の時間となる。即ち,云い換えるとt_(2)はt_(1)の50倍以上の長さとなる。これは第7図(B)および(C)に示す場合でも同様である。
ところでNO_(x)吸収剤18からのNO_(x)の放出作用は一定量のNO_(x)がNO_(x)吸収能力の50%NO_(x)を吸収したときに行われる。」(明細書第10頁第7?第11頁第7行)
(エ)「第19図に示される実施例では燃焼室3内の混合気の平均空燃比はリーンにしておいてNO_(x)吸収剤18上流の機関排気通路内に炭化水素を供給することによりNO_(x)吸収剤18への流入排気ガスの空燃比がリッチにされる。」(明細書第20頁第11?14行)
(オ)「第19図に示す実施例では排気管17内に還元剤供給弁60が配置され,この還元剤供給弁60は供給ポンプ61を介して還元剤タンク62に連結される。電子制御ユニット30の出力ポート36は夫々駆動回路63,64を介して還元剤供給弁60および供給ポンプ61に接続される。還元剤タンク62内にはガソリン,イソオクタン,ヘキサン,ヘプタン,軽油,灯油のような炭化水素,或いは液体の状態で保存しうるブタン,プロパンのような炭化水素が充填されている。
この実施例では通常燃焼室3内の混合気は空気過剰のもとで,即ち平均空燃比がリーンの状態で燃焼せしめられており,このとき機関から排出されたNO_(x)はNO_(x)吸収剤18に吸収される。NO_(x)吸収剤18からNO_(x)を放出すべきときには供給ポンプ61が駆動されると共に還元剤供給弁60が開弁せしめられ,それによって還元剤タンク62内に充填されている炭化水素が還元剤供給弁60から排気管17に一定時間,例えば5秒間から20秒間程度供給される。このときの炭化水素の供給量はNO_(x)吸収剤18に流入する流入排気ガスの空燃比リッチとなるように定められており,従ってこのときにNO_(x)吸収剤18からNO_(x)が放出されることになる。」(明細書第23頁第7?24行)

6.対比・判断
引用例には,記載事項(ア)によれば「アルミナを担体とし,この担体上にカリウムK,ナトリウムNa,リチウムLi,セシウムCsのようなアルカリ金属,バリウムBa,カルシウムCaのようなアルカリ土類,ランタンLa,イットリウムYのような希土類から選ばれた少くとも一つと,白金Ptのような貴金属とが担持されているNO_(x)吸収剤」が記載されるとともに,この「NO_(x)吸収剤」は,「流入排気ガスの空燃比がリーンのときにはNO_(x)を吸収し,流入排気ガス中の酸素濃度が低下すると吸収したNO_(x)を放出するNO_(x)の吸放出作用を行う」ことが記載されているといえる。
そして,引用例には,上記「NO_(x)吸収剤」に関して,記載事項(イ)に,「機関排気通路内に配置す」ること,「流入排気ガスがかなりリーンになると流入排気ガス中の酸素濃度が大巾に増大し,・・・NO_(x)がNO_(x)吸収剤18内に吸収される。」こと,「流入排気ガスの空燃比がリッチになると・・・機関からは多量の未燃HC,COが排出され」ること,「流入排気ガスの空燃比がリッチになると流入排気ガス中の酸素濃度が極度に低下するために吸収剤からNO_(2)が放出され,このNO_(2)は・・・未燃HC,COと反応して還元せしめられる」こと,「流入排気ガスの空燃比をリッチにすれば短時間のうちにNO_(x)吸収剤18に吸収されているNO_(x)が放出され,しかもこの放出されたNO_(x)が還元されるために大気中にNO_(x)が排出されるのを阻止することができることになる」こと,「NO_(x)吸収剤18は還元触媒の機能を有している」ことが記載されている。さらに,引用例には,上記「空燃比をリッチにする」ことについて,記載事項(ウ)に「流入排気ガスの空燃比を周期的にリッチにする」こと,「流入排気ガスの空燃比がリッチにされる時間t_(2)はほぼ10秒以内であるのに対してリーン混合気の燃焼が行われている時間t_(1)は10数分間から1時間以上の時間となる」ことが記載されている。
また,引用例には,記載事項(エ)に,「NO_(x)吸収剤18上流の機関排気通路内に炭化水素を供給することによりNO_(x)吸収剤18への流入排気ガスの空燃比がリッチにされる」方法についても記載されており,この方法について,記載事項(オ)には,「NO_(x)吸収剤18からNO_(x)を放出すべきときには供給ポンプ61が駆動されると共に還元剤供給弁60が開弁せしめられ,それによって還元剤タンク62内に充填されている炭化水素が還元剤供給弁60から排気管17に一定時間,例えば5秒間から20秒間程度供給される」ことが記載されている。
これら引用例の記載事項を本願補正発明の記載ぶりに則して整理すると,引用例には,
「アルミナを担体とし,この担体上にカリウムK,ナトリウムNa,リチウムLi,セシウムCsのようなアルカリ金属,バリウムBa,カルシウムCaのようなアルカリ土類,ランタンLa,イットリウムYのような希土類から選ばれた少くとも一つと,白金Ptのような貴金属とが担持され,還元触媒の機能を有するNO_(x)吸収剤を,機関排気通路内に配置し,流入排気ガスの空燃比をリーンにして,NO_(x)をNO_(x)吸収剤内に吸収させ,流入排気ガスの空燃比がリッチにされる時間t_(2)はほぼ10秒以内であるのに対してリーン混合気の燃焼が行われている時間t_(1)は10数分間から1時間以上の時間となるように,流入排気ガスの空燃比を周期的にリッチにして機関から未燃HC,COを排出させるか,又は,還元剤タンク内に充填されている炭化水素が排気管に一定時間,例えば5秒間から20秒間程度供給されるようにして流入排気ガスの空燃比をリッチにし,NO_(x)吸収剤に吸収されているNO_(x)を還元して大気中にNO_(x)が排出されるのを阻止する方法。」
の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。

そこで,本願発明と引用発明とを対比すると,引用発明の「アルミナ」は,本願発明の「耐火性無機酸化物」に相当し,引用発明の「カリウムK,ナトリウムNa,リチウムLi,セシウムCsのようなアルカリ金属,バリウムBa,カルシウムCaのようなアルカリ土類,ランタンLa,イットリウムYのような希土類から選ばれた少くとも一つ」及び「白金Ptのような貴金属」は,いずれも,アルミナ上に担持されて還元触媒の機能を有するNOx吸収剤を構成するものであるから,本願発明の「触媒活性成分」に相当し,そして,アルカリ土類にストロンチウムも含まれることは明らかだから,それぞれ,本願発明の「リチウム,カリウム,ナトリウム,ルビジウム,セシウム,ベリリウム,マグネシウム,カルシウム,ストロンチウムおよびバリウムよりなる群から選ばれた少なくとも1種の金属または該金属の化合物」及び「白金,パラジウム,ロジウムおよびルテニウムよりなる群から選ばれた少なくとも1種の貴金属または該貴金属の化合物」と,「リチウム,カリウム,ナトリウム,セシウム,カルシウム,ストロンチウムおよびバリウムよりなる群から選ばれた少なくとも1種の金属」及び「白金」からなることで共通している。そうすると,引用発明の「還元触媒の機能を有するNO_(x)吸収剤」は,本願発明の「触媒」と,「白金と,リチウム,カリウム,ナトリウム,セシウム,カルシウム,ストロンチウムおよびバリウムよりなる群から選ばれた少なくとも1種の金属からなる触媒活性成分と,耐火性無機酸化物とを有する触媒」である点で共通しているといえる。
そして,引用発明のNO_(x)吸収剤を「機関排気通路内に配置し,流入排気ガスの空燃比をリーンにして,NO_(x)を・・・吸収させ」ることは,本願発明の触媒を「酸化雰囲気下の排ガスと接触させて該排ガス中の窒素酸化物を・・・吸着させ」ることに相当する。
さらに,引用発明の「流入排気ガスの空燃比を周期的にリッチにして機関から未燃HC,COを排出させるか,又は,還元剤タンク内に充填されている炭化水素が排気管に一定時間・・・供給されるようにして流入排気ガスの空燃比をリッチにし,NO_(x)吸収剤に吸収されているNO_(x)を還元」することは,「未燃HC,CO」及び「還元剤タンク内に充填されている炭化水素」が還元物質であることが当業者にとって明らかなことから,本願発明の「排ガス中に還元物質を間欠的に導入して・・・吸着された窒素酸化物を還元して浄化すること」に相当する。
また,引用発明の「大気中にNO_(x)が排出されるのを阻止する方法」は,本願発明の「排ガス中の窒素酸化物の除去方法」に相当する。
そうすると,本願発明と引用発明とは,
「白金と,リチウム,カリウム,ナトリウム,セシウム,カルシウム,ストロンチウムおよびバリウムよりなる群から選ばれた少なくとも1種の金属からなる触媒活性成分と,耐火性無機酸化物とを有する触媒を,酸化雰囲気下の排ガスと接触させて該排ガス中の窒素酸化物を吸着させ,次いで該排ガス中に還元物質を間欠的に導入して吸着された窒素酸化物を還元して浄化する排ガス中の窒素酸化物の除去方法」
である点で一致するが,以下の点で相違する。

相違点A:本願発明では,触媒における,貴金属または該貴金属の化合物,金属または該金属の化合物及び耐火性無機酸化物の量を,それぞれ触媒1リットル当り,「金属換算で0.1?30g」,「金属換算で1?80g」,「50?400g」と特定しているのに対し,引用発明では,これら各成分の量を特定していない点。

相違点B:本願発明は,触媒の「窒素酸化物飽和吸着量が触媒1リットル当り6?30ミリモルである」のに対して,引用発明は,かかる飽和吸着量を明示していない点。

相違点C:本願発明は,触媒に吸着された窒素酸化物を還元するプロセスについて,「排ガス中に該触媒に吸着された窒素酸化物(NOとして換算)1モルに対し,還元物質をモル比で1?10倍量含有するガスを10秒?60分間隔で0.1?20秒間導入」するのに対して,引用発明では,「流入排気ガスの空燃比がリッチにされる時間t_(2)はほぼ10秒以内であるのに対してリーン混合気の燃焼が行われている時間t_(1)は10数分間から1時間以上の時間となるように,流入排気ガスの空燃比を周期的にリッチにして機関から未燃HC,COを排出させるか,又は,還元剤タンク内に充填されている炭化水素が排気管に一定時間,例えば5秒間から20秒間程度供給されるようにして流入排気ガスの空燃比をリッチに」する点

上記相違点について以下検討する。
相違点Aについて:
触媒における各成分の量は,各成分の機能を勘案して,触媒作用が効率よく発揮されるように当業者が適宜に最適な範囲を設定する設計的事項である。そして,引用例には記載事項(イ)に,「流入排気ガスがかなりリーンになると流入排気ガス中の酸素濃度が大巾に増大し,・・・これら酸素O_(2)がO_(2)^(-)の形で白金Ptの表面に付着する。一方,流入排気ガス中のNOは白金Ptの表面上でO_(2)^(-)と反応し,NO_(2)となる(2NO+O_(2)→2NO_(2))。次いで生成されたNO_(2)の一部は白金Pt上で酸化されつつ吸収剤内に吸収されて酸化バリウムBaOと結合しながら・・・硝酸イオンNO_(3)^(-)の形で吸収剤内に拡散する。このようにしてNO_(x)がNO_(x)吸収剤18内に吸収される。」というNO_(x)吸収の機構や,「燃焼室3内に供給される混合気がリッチにされて流入排気ガスの空燃比がリッチになると・・・機関からは多量の未燃HC,COが排出され,これら未燃HC,COは白金Pt上の酸素O_(2)^(-)と反応して酸化せしめられる。また,流入排気ガスの空燃比がリッチになると流入排気ガス中の酸素濃度が極度に低下するために吸収剤からNO_(2)が放出され,このNO_(2)は・・・未燃HC,COと反応して還元せしめられる。このようにして白金Ptの表面上にNO_(2)が存在しなくなると吸収剤から次から次へとNO_(2)が放出される。」というNO_(x)放出及び還元反応の機構が開示されていることから,これら各成分の機能を考慮しつつ適宜最適化を行い,大気中へのNO_(x)排出阻止効果として最適な各成分の量を決定することに,格別の創意を要するものとはいえない。
そして,本願明細書の記載を参照しても,各成分量の数値範囲に格別の臨界的意義を見出すことはできない。さらに,本願発明は,NO_(x)の吸収及び還元に重要な役割を果たすと考えられる成分が,「白金,パラジウム,ロジウムおよびルテニウムよりなる群から選ばれた少なくとも1種の貴金属または該貴金属の化合物」,「リチウム,カリウム,ナトリウム,ルビジウム,セシウム,ベリリウム,マグネシウム,カルシウム,ストロンチウムおよびバリウムよりなる群から選ばれた少なくとも1種の金属または該金属の化合物」という幅広い材料から任意に選択できるものであって,これらの成分を任意の組み合わせで選択した場合でも,顕著に効果が高いといえる数値範囲が全く同一となるとは考え難いことからも,本願発明による各成分量の数値範囲に特段の臨界的意義はないとみるのが妥当である。
また,本願発明における各成分量の数値範囲は,例えば,特開昭63-178848号公報に「当該担体1lあたり,当該ジルコニア(a)を1?20g,当該耐火性無機酸化物(b)を50?200gを担持せしめてなる」(特許請求の範囲第3項)及び「用いられたモノリス担体は・・・約65mlの体積を有した。・・・また,この触媒は,一個当たりPt0.065g,Rh0.013g含有していた。」(第3頁左下欄下から4行?第4頁左上欄第9行),特開平1-254251号公報に「耐火性無機酸化物およびパラジウムが,耐火性三次元構造体1リットル当り,それぞれ3?300g,および0.1?20g担持されている」(特許請求の範囲第7項)及び「触媒層を構成する各成分の担持量は,耐火性無機酸化物が,三次元構造体1lあたり3?300g・・・パラジウムが構造体1lあたり0.1?20g」(第3頁左下欄第7?13行),特開平5-23593号公報に「排気ガス流入側の触媒が,一体構造体1リットル当りに対して,パラジウムが0.5?30g,アルカリ土類金属酸化物が0.1?50g・・・耐火性無機酸化物が10?300gを被覆したものである」(請求項2)と記載されているように,排ガス中の窒素酸化物の除去に用いられる触媒において普通に採用されている範囲と比べて大きく異なるものでもない。
そうすると,引用発明におけるNO_(x)吸収剤の各成分量を本願発明の範囲内とすることは,当業者が格別の困難なくなし得ることである。

相違点Bについて:
本願発明における触媒は,排ガス中の窒素酸化物を吸着して排ガス中の窒素酸化物を除去するものであり,その窒素酸化物飽和吸着量は,触媒が吸着できる窒素酸化物の量を特定したものと解することができるが,本願明細書の記載をみても,例えば該飽和吸着量の上限値及び下限値近傍においてNO_(x)浄化率が急激に変化するなど,その範囲に格別の臨界的意義を認めることはできない。
そして,引用発明におけるNO_(x)吸収剤は,NO_(x)を吸収して大気中にNO_(x)が排出されるのを阻止するものであるが,記載事項(ウ)によれば,「全負荷運転或いは加速運転か行われる頻度か少なければ全負荷運転時および加速運転時にのみNO_(x)吸収剤18からNO_(x)が放出されたとしてもリーン混合気が燃焼せしめられている間にNO_(x)吸収剤18によるNO_(x)の吸収能力が飽和してしまい,斯くしてNO_(x)吸収剤18によりNO_(x)を吸収できなくなってしまう」のであるから,適切な量のNO_(x)を吸収できるものであるべきことは,当業者にとって自明のことである。
さらに,上記相違点Aの検討において述べたとおり,引用例に開示されたNO_(x)吸収の機構を考慮しつつ適宜最適化を行うことによって,NO_(x)吸収剤が吸収できるNO_(x)の量を設定することは,当業者が格別の困難なくなし得ることである。
そうすると,引用発明におけるNO_(x)吸収剤が吸収できるNO_(x)の量を,本願発明における触媒の窒素酸化物飽和吸着量の範囲内で設定することは,当業者にとって格別困難なこととはいえない。

相違点Cについて:
引用例には,記載事項(イ)に,「流入排気ガスの空燃比をリッチにするとまず初めに未燃HC,COが白金Pt上のO_(2)^(-)とただちに反応して酸化せしめられ,次いで白金Pt上のO_(2)^(-)が消費されてもまだ未燃HC,COが残っていればこの未燃HC,COによって吸収剤から放出されたNO_(x)および機関から排出されたNOxが還元せしめられる。」と記載されていることから,NO_(x)の放出・還元させるには,白金Pt上のO_(2)^(-)が消費されてもまだ未燃HC,COが残っている必要がある,すなわち,未燃HC,COの量は,NO_(x)の吸着量よりもモル量として多い必要があることが理解される。そして,流入排気ガス中の未燃HC,COの含有量としても,NO_(x)吸着量に対して適度に多い方がよいことは,当業者であれば当然に考慮する事項というべきである。これは,還元剤タンク内に充填されている炭化水素を供給する場合についても同様と考えられる。
また,引用例には,記載事項(ウ)に,「全負荷運転或いは加速運転か行われる頻度か少なければ全負荷運転時および加速運転時にのみNO_(x)吸収剤18からNO_(x)が放出されたとしてもリーン混合気が燃焼せしめられている間にNO_(x)吸収剤18によるNO_(x)の吸収能力が飽和してしまい,斯くしてNO_(x)吸収剤18によりNO_(x)を吸収できなくなってしまう。従って本発明による実施例ではリーン混合気が継続して燃焼せしめられているときには第7図(A)に示されるように流入排気ガスの空燃比を周期的にリッチにする・・・
・・・リーン混合気の燃焼が行われている時間t_(1)に比べて流入排気ガスの空燃比がリッチにされる時間t_(2)は極めて短い。具体的に云うと流入排気ガスの空燃比がリッチにされる時間t_(2)はほぼ10秒以内であるのに対してリーン混合気の燃焼が行われている時間t_(1)は10数分間から1時間以上の時間となる。・・・
ところでNO_(x)吸収剤18からのNO_(x)の放出作用は一定量のNO_(x)がNO_(x)吸収能力の50%NO_(x)を吸収したときに行われる。」と記載されていることから,引用発明においては,NO_(x)吸収剤18によるNO_(x)の吸収能力が飽和してしまい,吸収しきれなかったNO_(x)が大気に放出されてしまうようになる前に,具体的にはNO_(x)吸収能力の50%NO_(x)を吸収したときに,必要十分な時間,空燃比をリッチにする,すなわち還元物質を導入してNO_(x)を放出・還元させるように,「空燃比がリッチにされる時間t_(2)はほぼ10秒以内であるのに対してリーン混合気の燃焼が行われている時間t_(1)は10数分間から1時間以上の時間となる」ように空燃比の切り替えタイミングを設定するものとみることができる。さらに,上記「空燃比がリッチにされる時間t_(2)」及び「リーン混合気の燃焼が行われている時間t_(1)」は,それぞれ本願発明の,還元物質を導入する「時間」及び「間隔」に相当し,それぞれの範囲も重複している。そして,このようなタイミングを考慮すべきことは,還元剤タンク内に充填されている炭化水素を供給して流入排気ガスの空燃比をリッチにする場合についても同様と考えられ,その場合の「例えば5秒間から20秒間程度」という供給時間も本願発明の還元物質導入時間と重複している。
そうすると,引用発明において,大気中に放出されるNO_(x)ができるだけ少なくなるように,流入排気ガス中の未燃HC,COや還元剤タンクからの炭化水素(還元物質)の含有量をNO_(x)吸着量に対してモル比として一定程度多くし,かつ,周期的なNO_(x)の放出・還元を行わせるタイミングとして,NO_(x)吸収剤のNO_(x)吸収能力の50%に達するタイミングを目安として,前記未燃HC,COや炭化水素(還元物質)の量を考慮しつつ,「リーン混合気の燃焼が行われている時間t_(1)」(還元物質の導入時間間隔)と「空燃比がリッチにされる時間t_(2)」又は「還元剤タンク内に充填されている炭化水素が排気管に・・・供給される」時間(還元物質の導入時間)を調整することは,当業者が容易に想到し得ることである。
そして,本願明細書の記載をみても,窒素酸化物に対する還元物質のモル比,還元物質の導入間隔及び導入時間の数値範囲に格別の臨界的意義があるということはできないことから,引用発明において,相違点Cに係る本願発明の特定事項をなすことは,当業者が格別の困難なくなし得ることである。

以上のとおりであるから,本願発明は,引用例に記載された発明及び当該技術分野における周知の事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

なお,請求人は,平成23年5月30日付けの上申書において,請求項1に「該触媒の飽和窒素酸化物の全吸着量の50%に達する前に該還元物質を導入する」という特定事項を追加する補正案を提示しているが,上記相違点Cについて検討したとおり,引用発明において,周期的なNO_(x)の放出・還元を行わせるタイミングとして,NO_(x)吸収剤のNO_(x)吸収能力の50%に達するタイミングを目安とすることは,当業者が容易に想到し得ることであり,上記補正案の特定事項についても,当業者が格別の困難なくなし得ることである。よって,上記補正案の特定事項を追加したとしても,本願発明が引用例に記載された発明及び周知の事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるという判断が左右されるものではない。

7.むすび
以上のとおり,本願の請求項1に係る発明は,その優先権主張日前に頒布された刊行物である引用例に記載された発明及び周知の事項に基いて,その優先権主張日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-06-14 
結審通知日 2011-06-21 
審決日 2011-07-04 
出願番号 特願2005-222916(P2005-222916)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B01D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 後藤 政博  
特許庁審判長 木村 孔一
特許庁審判官 斉藤 信人
深草 祐一
発明の名称 排ガス中の窒素酸化物除去方法  
代理人 八田国際特許業務法人  

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