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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F02D
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02D
管理番号 1242082
審判番号 不服2010-10807  
総通号数 142 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-10-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-05-20 
確定日 2011-08-18 
事件の表示 特願2005-242141「エンジンの排気浄化装置」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 3月 8日出願公開、特開2007- 56741〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成17年8月24日の出願であって、平成21年11月27日付けで拒絶理由通知がなされ、これに対し、平成22年1月29日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成22年2月17日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成22年5月20日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされると同時に同日付けの手続補正書によって、明細書及び特許請求の範囲を補正する手続補正がなされ、その後、当審において平成22年12月6日付けで、書面による審尋がなされたものである。

第2.平成22年5月20日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成22年5月20日付けの手続補正を却下する。
[理由]
1.本件補正について
(1)本件補正の内容
平成22年5月20日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲に関して、本件補正により補正される前の(すなわち、平成22年1月29日付けの手続補正書により補正された)特許請求の範囲の下記(a)の記載を、下記(b)に示す記載に補正するものである。

(a)「【請求項1】
エンジン排気管に配設され、還元剤容器から供給された還元剤を用いて排気中の窒素酸化物を還元浄化する還元触媒と、
前記還元剤容器に貯蔵された還元剤の濃度を検出する濃度検出手段と、
前記還元剤容器に貯蔵された還元剤の残量が所定量以下となったことを検出する残量検出手段と、
前記濃度検出手段により検出された濃度が所定範囲を逸脱したとき、又は、前記残量検出手段により残量が所定量以下になったことが検出されたときに、前記還元剤は異種水溶液又は欠乏していると判定する還元剤判定手段と、
エンジン再始動操作が行なわれたときに、前記還元剤判定手段により還元剤は異種水溶液又は欠乏していると判定され、かつ、該判定後の走行距離が所定距離以上であれば、エンジン再始動を禁止する一方、それ以外であれば、エンジン再始動を許可するエンジン制御手段と、
を含んで構成されたことを特徴とするエンジンの排気浄化装置。
【請求項2】
エンジン停止は意図しないものであるか否かを判定する停止意図判定手段を備え、
前記エンジン制御手段は、前記停止意図判定手段によりエンジン停止は意図しないものであると判定されたときに、エンジン再始動を許可することを特徴とする請求項1記載のエンジンの排気浄化装置。
【請求項3】
前記停止意図判定手段は、エンジン停止からエンジン再始動操作が行なわれたまでの経過時間が所定時間未満であるときに、エンジン停止は意図しないものであると判定することを特徴とする請求項2記載のエンジンの排気浄化装置。
【請求項4】
前記停止意図判定手段は、エンジン停止時に検出されたエンジン温度と、エンジン再始動操作が行なわれたときに検出されたエンジン温度と、の差が所定温度未満であるときに、エンジン停止は意図しないものであると判定することを特徴とする請求項2記載のエンジンの排気浄化装置。
【請求項5】
前記エンジン温度は、エンジンの冷却水温度から間接的に検出されることを特徴とする 請求項4記載のエンジンの排気浄化装置。
【請求項6】
大気温度を検出する大気温度検出手段と、
前記大気温度検出手段により検出された大気温度に基づいて、前記所定温度を動的に設定する所定温度設定手段と、
を備えたことを特徴とする請求項4又は請求項5に記載のエンジンの排気浄化装置。
【請求項7】
前記還元剤容器の底部における離間した2点間の熱伝達特性から、還元剤の濃度に関連した信号を出力するセンサを備え、
前記濃度検出手段及び残量検出手段は、前記センサの出力信号から、還元剤の濃度及び残量が所定量以下となったか否かを夫々間接的に検出することを特徴とする請求項1?請求項6のいずれか1つに記載のエンジンの排気浄化装置。
【請求項8】
前記還元剤判定手段により還元剤は異種水溶液又は欠乏していると判定されたときに、その判定結果を報知する報知手段を備えたことを特徴とする請求項1?請求項7のいずれか1つに記載のエンジンの排気浄化装置。」

(b)「【請求項1】
エンジン排気管に配設され、還元剤容器から供給された還元剤を用いて排気中の窒素酸
化物を還元浄化する還元触媒と、
前記還元剤容器に貯蔵された還元剤の濃度を検出する濃度検出手段と、
前記還元剤容器に貯蔵された還元剤の残量が所定量以下となったことを検出する残量検出手段と、
前記濃度検出手段により検出された濃度が所定範囲を逸脱したとき、又は、前記残量検出手段により残量が所定量以下になったことが検出されたときに、前記還元剤は異種水溶液又は欠乏していると判定する還元剤判定手段と、
エンジン停止はクラッチの不適切な操作に起因した意図しないものであるか否かを判定する停止意図判定手段と、 エンジン再始動操作が行なわれたときに、前記還元剤判定手段により還元剤は異種水溶液又は欠乏していると判定され、該判定後の走行距離が所定距離以上であり、かつ、前記停止意図判定手段によりエンジン停止はクラッチの不適切な操作に起因した意図しないものでないと判定されれば、エンジン再始動を禁止する一方、それ以外であれば、エンジン再始動を許可するエンジン制御手段と、
を含んで構成されたことを特徴とするエンジンの排気浄化装置。
【請求項2】
前記還元剤容器の底部における離間した2点間の熱伝達特性から、還元剤の濃度に関連した信号を出力するセンサを備え、 前記濃度検出手段及び残量検出手段は、前記センサの出力信号から、還元剤の濃度及び残量が所定量以下となったか否かを夫々間接的に検出することを特徴とする請求項1に記載のエンジンの排気浄化装置。 【請求項3】
前記還元剤判定手段により還元剤は異種水溶液又は欠乏していると判定されたときに、その判定結果を報知する報知手段を備えたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のエンジンの排気浄化装置。」

(2)本件補正の目的
本件補正は、特許請求の範囲について、本件補正前の請求項2を補正して新たな請求項1として、本件補正前の請求項1及び3ないし6を削除し、本件補正前の請求項7及び8を新たな請求項2及び3と繰り上げるものであって、本件補正前の請求項2と本件補正後の請求項1について、本件補正の前後でみると、本件補正前における「エンジン停止は意図しないものであるか否かを判定する」を、本件補正後に「エンジン停止はクラッチの不適切な操作に起因した意図しないものであるか否かを判定する」と限定を付加する補正を含むものであって、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するものである。

2.本件補正の適否についての判断
本件補正後の前記1.(1)(b)の請求項1に記載された事項により特定される発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて、以下に検討する。

2.-1 引用文献に記載された発明
原査定の拒絶の理由に引用された特開2005-147118号公報(以下、「引用文献」という。)には、次の事項が記載されている。

ア.「【0001】
本発明は、エンジンの排気浄化装置に関し、詳細には、自動車用エンジンから排出される窒素酸化物を、アンモニアを還元剤に使用して浄化する技術に関する。」(段落【0001】)

イ.「【0004】
本発明は、SCR装置に異常が発生したときに、運転者に対し、SCR装置の早期の修理を促し、SCR装置の適正な管理が図られるようにすることを目的とする。
【0005】
本発明は、エンジンの排気浄化装置を提供する。本発明に係る装置は、エンジンの排気にNOxの還元剤を添加する添加装置を備え、添加された還元剤により排気中のNOxの還元を促すものである。尿素水噴射量が減少するなど、添加装置に異常が発生したことを検出したときは、エンジンの作動を制限するか、あるいはこのとき以外の通常時と比較して、運転者のアクセル操作に対するエンジンの出力特性を異ならせる。好ましくは、アクセル操作量に対する出力(すなわち、トルク)を減少させる。」(段落【0004】及び【0005】)

ウ.「【0007】
本発明によれば、添加装置に異常が発生し、排気に対し、的確な量の還元剤を添加し得なくなったときに、エンジンの作動を制限し、例えば、一旦停止させた後のエンジンの再始動を禁止することで、NOxが充分に浄化されない状態での走行を制限するとともに、運転者に対し、添加装置の修理を促すことができる。また、エンジンの作動を制限することに加え、あるいはこれに代え、アクセル操作に対するエンジンの出力特性を変化させ、例えば、同じアクセル操作量のもとで設定される燃料噴射量を通常時のものよりも減少させることで、走行を制限し、添加装置の修理を促すことができる。」(段落【0007】)

エ.「【0009】
エンジン本体において、シリンダヘッドには、インジェクタ21が気筒毎に設置されている。インジェクタ21は、エンジンコントロールユニット(以下「エンジンC/U」という。)51からの信号に応じて作動する。図示しない燃料ポンプにより送り出された燃料は、コモンレール22を介してインジェクタ21に供給され、インジェクタ21により燃焼室内に噴射される。
【0010】
排気通路31には、マニホールド部の下流にターボチャージャ12のタービン12bが設置されている。排気によりタービン12bが駆動されることで、コンプレッサ12aが回転する。タービン12bは、アクチュエータ122により可動ベーン121の角度が制御される。可動ベーン121の角度に応じ、タービン12b及びコンプレッサ12aの回転数が変化する。
【0011】
タービン12bの下流には、上流側から順に酸化触媒32、NOx浄化触媒33及びアンモニア浄化触媒34が設置されている。酸化触媒32は、排気中の炭化水素及び一酸化炭素を酸化するとともに、排気中の一酸化窒素(以下「NO」という。)を、二酸化窒素(以下「NO2」という。)を主とするNOxに転換するものであり、排気に含まれるNOとNO2との比率を、後述するNOxの還元反応に最適なものに調整する作用を奏する。NOx浄化触媒33は、NOxを還元し、浄化する。このNOx浄化触媒NOx33での還元を促すため、本実施形態では、NOx浄化触媒33の上流で排気に還元剤としてのアンモニアを添加する。
【0012】
本実施形態では、アンモニアの貯蔵容易性を考慮し、アンモニア前駆体としての尿素を水溶液の状態で貯蔵する。アンモニアを尿素として貯蔵することで、安全性を確保することができる。
尿素水を貯蔵するタンク41には、尿素水供給管42が接続されており、この尿素水供給管42の先端に尿素水の噴射ノズル43が取り付けられている。尿素水供給管42には、上流側から順にフィードポンプ44及びフィルタ45が介装されている。フィードポンプ44は、電動モータ441により駆動される。電動モータ441は、SCRコントロールユニット(以下「SCR-C/U」という。)61からの信号により回転数が制御され、フィードポンプ44の吐出し量を調整する。また、フィルタ45の下流において、尿素水供給管42に尿素水戻り管46が接続されている。尿素水戻り管46には、圧力制御弁47が設置されており、規定圧力を超える分の余剰尿素水がタンク41に戻されるように構成されている。」(段落【0010】ないし【0012】)

オ.「【0014】
尿層水が噴射されると、噴射された尿素水中の尿素が排気熱により加水分解し、アンモニアが発生する。発生したアンモニアは、NOx浄化触媒33でNOxの還元剤として作用し、NOxの還元を促進させる。アンモニア浄化触媒34は、NOxの還元に寄与せずにNOx浄化触媒33を通過したスリップアンモニアを浄化するためのものである。アンモニアは、刺激臭があるため、未浄化のまま放出するのは好ましくない。酸化触媒32でのNOの酸化反応、尿素の加水分解反応、NOx浄化触媒33でのNOxの還元反応、及びアンモニア浄化触媒34でのスリップアンモニアの酸化反応は、次の(1)?(4)式により表される。なお、本実施形態では、NOx浄化触媒33と、アンモニア浄化触媒34とを一体の筐体に内蔵させているが、それぞれの筐体を別体のものとして構成してもよい。」(段落【0014】)

カ.「【0016】
排気通路31において、酸化触媒32とNOx浄化触媒33との間には、尿素水添加前の排気の温度を検出するための温度センサ71が設置されている。アンモニア浄化触媒34の下流には、還元後の排気の温度を検出するための温度センサ72、及び還元後の排気に含まれるNOxの濃度を検出するためのNOxセンサ73が設置されている。また、タンク41内には、貯蔵されている尿素水に含まれる尿素の濃度(以下、単に「濃度」というときは、尿素の濃度をいうものとする。)Dnを検出するための尿素センサ74が設置されている。なお、本実施形態では、尿素センサ74が、タンク41に残されている尿素水の量を判定する機能を兼ね備える。
【0017】
温度センサ71,72、NOxセンサ73及び尿素センサ74の検出信号は、SCR-C/U61に出力される。SCR-C/U61は、入力した信号をもとに、最適な尿素水噴射量を演算及び設定し、設定した尿素水噴射量に応じた指令信号を噴射ノズル43に出力する。また、SCR-C/U61は、エンジンC/U51と双方向に通信可能に接続されている。SCR-C/U61は、以上のセンサ71?74の検出信号のほか、アシストエア圧力Pa、尿素水圧力Pu及び尿素センサ電圧Vsを入力する。アシストエア圧力Paは、空気供給管48内の圧力であり、空気供給管48に設置された圧力センサ75により検出される。尿素水圧力Puは、尿素水供給管42内の圧力であり、フィードポンプ44の下流の尿素水供給管42に設置された圧力センサ76により検出される。尿素センサ電圧Vsは、尿素センサ74の検知濃度に応じて出力される電圧であり、電圧センサ77により検出される。SCR-C/U61は、アシストエア圧力Pa、尿素水圧力Pu、尿素センサ電圧Vs及び濃度Dn、並びに尿素水の残量の判定結果をもとに、後述するように尿素水噴射系に異常が発生したことを検出し、エンジンC/U51に対し、異常の発生を示す信号を出力する。」(段落【0016】及び【0017】)

キ.「【0027】
S107では、尿素水噴射系に想定した異常は発生していないとして、異常判定フラグFscrを0に設定する。なお、以上のようにして検出されるアシストエアの漏れ、噴射ノズル43の詰り、フィードポンプ44の故障、センサ素子部741の断線、尿素水の残量の不足及び尿素水の希釈が、検出すべき「異常」である。
S108では、尿素水噴射系に何らかの異常が発生したとして、異常判定フラグFscrを1に設定するとともに、警告灯を作動させ、異常の発生を運転者に認識させる。
【0028】
図5は、濃度検出ルーチンのフローチャートである。このルーチンは、イグニッションスイッチがオンされることにより起動され、その後所定の時間毎に繰り返される。このルーチンにより濃度Dnが検出されるとともに、尿素水の残量が判定される。
S201では、スタートスイッチ信号SWstrを読み込み、SWstrが1であるか否かを判定する。1であるときは、スタートスイッチがオンされているとして、S204へ進み、後述するように濃度Dnを演算する。」(段落【0027】及び【0028】)

ク.「【0037】
次に、エンジンC/U51の動作について説明する。
図7は、燃料噴射量設定ルーチンのフローチャートである。このルーチンは、イグニッションスイッチがオンされることにより起動され、その後所定の時間毎に繰り返される。このルーチンにより燃料噴射量Qfが設定される。
S401では、エンジン回転数Ne及びアクセル開度(「アクセル操作量」に相当する。)APO等のエンジン1の運転状態を読み込む。
【0038】
S402では、異常判定フラグFscrを読み込み、読み込んだFscrが0であるか否かを判定する。0であるときは、S403へ進み、0でないときは、尿素水噴射系に異常が発生しているとして、S404へ進む。
S403では、通常運転用マップを選択するとともに、読み込んだNe,APOにより選択したマップを検索して、燃料噴射量Qfを設定する。
【0039】
S404では、始動装置としてのスタータと、オルタネータ及びバッテリ等、このスタータの電源装置との間の接続を遮断し、次にエンジン1を停止させた後にスタータが作動しないようにして、エンジン1の再始動を禁止する。
S405では、車速VSPを読み込む。車速VSPは、トランスミッションの出力軸の回転数を検出することにより直接的に検出してもよいが、エンジン回転数Neをトランスミッションの変速比により換算することで、間接的に検出することもできる。」(段落【0037】ないし【0039】)

上記記載事項ア.ないしク.によると、引用文献には、
「排気通路31に配設され、タンク41から供給された尿素水(アンモニア)を用いて排気中の窒素酸化物(NOx)を還元浄化するNOx浄化触媒33と、
前記タンク41に貯蔵された尿素水に含まれる尿素の濃度Dnを検出する尿素センサ74と、
前記タンク41に貯蔵された尿素水の残量を検出する尿素センサ74と、
前記尿素水の希釈が検出されたとき、又は、前記尿素水の残量の不足が検出されたときに、尿素水噴射系に異常が発生したと判定するとともに、警告灯を作動させて異常の発生を運転者に認識させるSCR-C/U61と、
エンジン再始動操作が行なわれたときに、前記SCR-C/U61により尿素水噴射系に異常が発生したと判定されれば、エンジン再始動を禁止する一方、それ以外であれば、エンジン再始動を許可するエンジンC/U51と、
を含んで構成されたエンジンの排気浄化装置。」
の発明(以下、「引用文献に記載された発明」という。)が記載されている。

2.-2 対比
本願補正発明と引用文献に記載された発明とを対比すると、引用文献に記載された発明における「排気通路31」は、その技術的意義からみて、本願補正発明における「エンジン排気管」に相当し、以下同様に、「タンク41」は「還元剤容器」に、「尿素水(アンモニア)」は「還元剤」に、「NOx浄化触媒33」は「還元触媒」に、「尿素水に含まれる尿素の濃度Dn」は「還元剤の濃度」に、「尿素水の残量を検出する尿素センサ74」は「還元剤の残量が所定量以下となったことを検出する残量検出手段」に、「尿素水の希釈が検出されたとき」は「濃度検出手段により検出された濃度が所定範囲を逸脱したとき」に、「尿素水の残量の不足」は「残量検出手段により残量が所定量以下になったこと」に、「尿素水噴射系に異常が発生したと判定するとともに、警告灯を作動させて異常の発生を運転者に認識させるSCR-C/U61」は「還元剤は異種水溶液又は欠乏していると判定する還元剤判定手段」に、「エンジンC/U51」は「エンジン制御手段」に、それぞれ、相当する。
してみると、両者は、
「エンジン排気管に配設され、還元剤容器から供給された還元剤を用いて排気中の窒素酸化物を還元浄化する還元触媒と、
前記還元剤容器に貯蔵された還元剤の濃度を検出する濃度検出手段と、
前記還元剤容器に貯蔵された還元剤の残量が所定量以下となったことを検出する残量検出手段と、
前記濃度検出手段により検出された濃度が所定範囲を逸脱したとき、又は、前記残量検出手段により残量が所定量以下になったことが検出されたときに、前記還元剤は異種水溶液又は欠乏していると判定する還元剤判定手段と、
を含んで構成されたエンジンの排気浄化装置。」
の点で一致し、以下の点で相違している。
〔相違点〕
本願補正発明においては、エンジン停止はクラッチの不適切な操作に起因した意図しないものであるか否かを判定する停止意図判定手段と、エンジン再始動操作が行なわれたときに、前記還元剤判定手段により還元剤は異種水溶液又は欠乏していると判定され、該判定後の走行距離が所定距離以上であり、かつ、前記停止意図判定手段によりエンジン停止はクラッチの不適切な操作に起因した意図しないものでないと判定されれば、エンジン再始動を禁止する一方、それ以外であれば、エンジン再始動を許可するエンジン制御手段とを含んで構成されるのに対し、
引用文献に記載された発明においては、エンジン再始動操作が行なわれたときに、前記還元剤判定手段に相当するSCR-C/U61により還元剤は異種水溶液又は欠乏していると判定されれば、エンジン再始動を禁止する一方、それ以外であれば、エンジン再始動を許可するエンジン制御手段を含んで構成される点(以下、「相違点」という。)。

2.-3 判断
相違点について検討する。
(1)車両の排気関連部品の故障診断装置において、「排気関連部品について故障発生が診断された時、一旦は警告のみ行うことで運転者の良心に従って修理がなされることを期待し、それでも修理されずに走行距離が所定距離を超えた場合には、早期修理を強力に促すべくフェールセーフ制御(出力を低下させる制御)を行う」ことは、周知(例えば、原査定の拒絶の理由に引用された特開2000-73842号公報の段落【0002】ないし【0005】、同じく引用された特開2003-22330号公報の段落【0005】参照、以下、「周知技術1」という。)である。
一方、引用文献に記載された発明も、異常発生時に警告灯を作動させて運転者に認識させるとともに、再始動を禁止して運転者に修理を促すもの(上記記載事項ウ.参照)である。ここで、再始動の禁止は、運転者に修理を強力に促すものである。
そうすると、引用文献に記載された発明に周知技術1を適用し、もって、還元剤判定手段により還元剤が異種水溶液又は欠乏していると判定され、その後の走行距離が所定距離以上であれば、エンジン再始動を禁止する一方、それ以外であれば、エンジン再始動を許可するように構成することは、当業者が格別困難なく想到し得るものである。
(2)また、一定の条件を満たす場合のみエンジンの始動を許可するエンジンの始動装置において、「エンジン停止がクラッチの不適切な操作やエンジン不調等に起因した意図しないものである場合には、一定の条件を満たしていなくてもエンジンの再始動を許可し、迅速な再始動を行う」ことは、周知(例えば、原査定の拒絶の理由に引用された特開2005-171923号公報
(平成17年6月30日出願公開)の【要約】、段落【0005】及び【0010】、同じく引用された特開2004-92623号公報参照、以下、「周知技術2」という。)である。
そうすると、引用文献に記載された発明において、クラッチの不適切な操作やエンジン不調等に起因した意図しないエンジン停止に際して迅速な再始動を行うことを目的として、周知技術2を適用し、もって、エンジン停止が意図しない停止である場合には、走行距離に関係なくいつでもエンジンの再始動を許可するように構成することは、当業者が格別困難なく想到し得るものである。

そして、本願補正発明の作用効果も、引用文献に記載された発明、周知技術1及び周知技術2から当業者が予測できる範囲のものである。

したがって、本願補正発明は、引用文献に記載された発明、周知技術1及び周知技術2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3. むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、結論のとおり決定する。

第3.本願発明について
1.本願発明
平成22年5月20日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項2に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成22年1月29日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項2に記載された事項により特定される、前記第2.[理由]1.(1)(a)のとおりのものである。

2.引用文献
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献及びその記載事項は、前記第2.[理由]2.-1に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、前記第2.[理由]1.で検討したように本願補正発明の限定事項である「エンジン停止はクラッチの不適切な操作に起因した意図しないものであるか否かを判定する停止意図判定手段」との事項を省き、同じく「かつ、前記停止意図判定手段によりエンジン停止はクラッチの不適切な操作に起因した意図しないものでないと判定されれば」との事項を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の発明特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記第2.[理由]2.-3に記載したとおり、引用文献に記載された発明、周知技術1及び周知技術2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用文献に記載された発明、周知技術1及び周知技術2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献に記載された発明、周知技術1及び周知技術2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-06-14 
結審通知日 2011-06-21 
審決日 2011-07-06 
出願番号 特願2005-242141(P2005-242141)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (F02D)
P 1 8・ 121- Z (F02D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 畔津 圭介  
特許庁審判長 小谷 一郎
特許庁審判官 西山 真二
柳田 利夫
発明の名称 エンジンの排気浄化装置  
代理人 笹島 富二雄  

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