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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G10K |
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管理番号 | 1242131 |
審判番号 | 不服2008-15189 |
総通号数 | 142 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2011-10-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2008-06-16 |
確定日 | 2011-08-17 |
事件の表示 | 特願2002-121402「薄膜バルク波音響共振器アレイの製造方法及び送受切換器」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 1月24日出願公開、特開2003- 22074〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続きの経緯 本願は、平成14年4月23日(パリ条約による優先権主張2001年4月23日、米国)を出願日とする出願であって、平成20年3月13日付けで拒絶査定がなされ、これに対して同年6月16日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同年7月16日付けで手続補正書が提出されたものである。 2.本願発明 本願の請求項1に係る発明は、平成20年7月16日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである(以下「本願発明」という)。 「第1の薄膜バルク波音響共振器(FBAR)フィルタを動作させる第1の目標周波数応答と第1の目標実効結合係数とを選択するステップと、 第2のFBARフィルタを動作させる第2の目標周波数応答と第2の目標実効結合係数とを選択するステップであって、前記第1の目標実効結合係数が前記第2の目標実効結合係数に対し劣化されているものである、ステップと、 前記第1及び第2の目標周波数応答と前記第1及び第2の目標実効結合係数とが得られるように前記第1及び第2のFBARフィルタを形成するため、圧電層及び電極層の膜厚とを決定するステップであって、窒化アルミニウムが前記圧電層を形成してモリブデンが前記電極層を形成し、前記第1のFBARフィルタの少なくとも1つの電極層膜厚が前記第2のFBARフィルタに選択された電極層膜厚の1.2倍?2.8倍の範囲となるよう選択し、これにより前記劣化されている第1の目標実効結合係数を得る、ステップと、 前記膜厚と材料に基づき、前記第1及び第2のFBARフィルタを形成するステップと を含んでなる音響共振器アレイの製造方法。」 3.引用例 (1)引用例1について 原査定の拒絶の理由に引用された特開2001-24476号公報(以下、「引用例1」という)には、下記の事項が記載されている。 (ア)「【0026】圧電層52と電極58,60とを備えて構成される圧電共振器スタック62は、その周縁で吊られており、その主表面が両方とも空気、他の周囲ガス又は真空と接している場合、圧電共振器スタックはQの高い音波共振器を形成する。端子66,68を介して電極58,60に加えられる交流信号は、圧電共振器スタックにおける音速をスタックの重み付き厚さの2倍で割った値に等しい周波数を備えている。すなわち、fr=c/2t_(0)(ここで、frは共振周波数であり、cはスタック内における音速であり、t_(0)はスタックの重み付き厚さである)の場合、その信号によって、圧電共振器スタックが共振する。圧電共振器スタックの共振周波数は、スタックを構成する材料内における音速がそれぞれに異なるため、物理的厚さではなく、重み付き厚さによって決まる。 【0027】約1900MHzで共振が生じるFBAR50の例の場合、基板56は単結晶シリコンのウェーハであり、圧電層52は厚さが約2μmの窒化アルミニウム(AIN)の層であり、電極58,60は厚さが約0.1μmのモリブデンの層である。この薄膜において、電極は圧電共振器スタック62の質量のかなりの部分を構成するので、モリブデンは電極に関して望ましい材料である。したがって、電極材料の音響特性は圧電共振器スタックのQにかなりの影響を与える。金及びアルミニウム等の一般的な電極材料に比べて、モリブデンは優れた音響特性を備えており、材質がモリブデンの電極によってFBAR50は他の材料の電極よりも高いQを有することが可能になる。」 (イ)「【0031】PCS装置、セルラ電話又は他の送信/受信装置に用いられる場合、図2に示す回路と同様の回路構成において、送受切換器100のアンテナ・ポート128はアンテナ(図示せず)に接続され、送信ポート124は送信機(図示せず)の出力に接続され、受信ポート126は受信機(図示せず)の入力に接続される。帯域フィルタ130及び132の通過帯域は、それぞれ、送信機によって生じる送信信号の周波数範囲及び受信機を同調させることが可能な受信信号の周波数範囲を中心にする。図示の例の場合、送信及び受信帯域フィルタ130及び132は、送信FBARアレイ102を含む送信帯域フィルタ130の高周波阻止帯域が、受信FBARアレイ104を含む受信帯域フィルタ132の通過帯域と重なり、受信帯域フィルタ132の低域周波数阻止帯域が、送信帯域フィルタ130の通過帯域に重なるように構成されている。」 (ウ)「【0035】それぞれ、送信帯域フィルタ130及び受信帯域フィルタ132の所望のフィルタ特性が得られるようにFBARアレイ102及び104の設計を行うため、発明者は、カリフォルニア州・ウェストレイク・ビレッジのHP EEsofCorp.によって販売されているマイクロウェーブ・デザイン・システム(MDS)(Microwave Design System(MDS),release 7.0(1996))と呼ばれる市販のマイクロ波設計シミュレータを利用した。各FBARアレイの個々のFBARは、図1(b)に示す修正されたバターワース-バン・ダイク回路(Butterworth-VanDyke circuit)を用いてモデル化された。この設計シミュレータは、面積を最適化し、FBARアレイ102,104のそれぞれにおけるFBARの必要とされる共振周波数を計算するために利用された。発明者は、物理的シミュレータを用いて各FBARの圧電共振器スタック(図1(a)に符号62で示す)をモデル化し、圧電共振器スタックを構成する層の物理的特性を明らかにし、必要とされる共振周波数を実現する、各FBARを構成する圧電共振スタック層の厚さを計算した。」 (エ)上記(イ)には、送信FBARアレイ102で構成された送信帯域フィルタ130は、送信帯域フィルタ130の高周波阻止帯域が受信帯域フィルタ132の通過帯域と重なり、受信FBARアレイ104で構成された受信帯域フィルタ132は、受信帯域フィルタ132の低域周波数阻止帯域が送信帯域フィルタ130の通過帯域に重なるように選択されている点が記載され、上記(ウ)には、送信帯域フィルタ130及び受信帯域フィルタ132の所望のフィルタ特性が得られるように、マイクロ波設計シミュレータにより必要とされる共振周波数を実現する各FBARを構成する圧電共振スタック層の厚さを計算して決定する点が記載され、上記(ア)には、圧電層が所定の厚さの窒化アルミニウムの層とし、電極が所定の厚さのモリブデンの層としてFBARが形成される点が記載されている。 (オ)図2には、送信帯域フィルタ130が直列FBAR(101,103,105)と分路FBAR(107,109)から構成されたフィルタであり、受信帯域フィルタ132が直列FBAR(111,113,115)と分路FBAR(121,123,125,127)から構成されたフィルタである点が記載されている。 よって、上記(ア)乃至(オ)及び関連図面から、引用例1には実質的に、 「直列FBARと分路FBARで構成された送信帯域フィルタのフィルタ特性が選択され、 直列FBARと分路FBARで構成された受信帯域フィルタのフィルタ特性が選択され、 選択された前記送信帯域フィルタのフィルタ特性及び受信帯域フィルタのフィルタ特性が得られるように前記送信帯域フィルタを構成する各FBAR及び受信帯域フィルタを構成する各FBARの圧電共振スタック層の厚さを決定し、 圧電層を窒化アルミニウムとし、電極層をモリブデンとし、決定した前記圧電共振スタック層の厚さに基づき、前記送信帯域フィルタ及び受信帯域フィルタを形成する製造方法。」 の発明(以下、「引用発明」という)が記載されている。 (2)引用例2について 原査定の拒絶の理由に引用された特開平9-214285号公報(以下、「引用例2」という)には、下記の事項が記載されている。 (カ)「【0030】伝送特性76”は、低い方の阻止帯84、低い方の阻止帯折点周波数82、低い方の遷移スカート79、および図7のそれと類似した帯域幅78の低い方の遷移帯93とを有し、遷移帯域幅78はほぼ同一である。直列素子501’の有効結合係数K2を増大させると、高い方の通過帯折点周波数88”および高い方の停止帯折点周波数89”を高くし、阻止帯90”を周波数の高い方に広げる効果がある。したがって、通過帯91”の帯域幅77”は広がり、遷移帯95”の帯域幅86”も広がることになる。」 (キ)図10には、共振器を直列-並列結合に配列したラダー型フィルタが記載されている。 (ク)「有効結合係数」を意味する技術用語である”effective coupling coefficient”は、一般に「実効結合係数」とも訳され得るものである。 (ケ)上記(カ)乃至(キ)及び図10、図11から、引用例2には、ラダー型フィルタ内の直列共振器の有効結合係数を増大させると高周波側のロールオフ特定がなだらかになることが記載されているので、逆に、高周波側のロールオフ特性を急峻にさせるためにはラダー型フィルタ内の直列共振器の有効結合係数を減少させることが示唆されているといえる。 よって、上記(カ)乃至(ケ)及び関連図面から、引用例2には実質的に下記の事項が示唆されていると認められる。 「ラダー型フィルタ内の直列共振器の実効結合係数を減少させると高周波側のロールオフ特性が急峻になる。」 (3)引用例3について 原査定の拒絶の理由に引用された特開平9-130200号公報(以下、「引用例3」という)には、下記の事項が記載されている。 (コ)「【0111】 【発明の実施の形態】実施の形態1.図1及び図2は、この発明の実施の形態1に係るバルク超音波共振器を示す図である。図1は、上面図、図2は、D-D断面図である。図中、1はシリコン(Si)やガリウム砒素(GaAs)等を主成分とする半導体基板であり、4は酸化シリコン(SiO_(2))や窒化シリコン(SiN )、あるいは、酸化タンタル(Ta_(2)O_(5) )を主成分とする誘電体、5は白金(Pt)、あるいは、金(Au)等の下地導体、6は白金(Pt)、金(Au)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、タングステン(W )等の金属、あるいは、不純物濃度を高めた高導電性の半導体層、あるいは、ポリシコン等の高い導電性を示す材料を用いた上側電極、7はバイアホール、27はチタン酸鉛(PbTiO_(3))を主成分とする圧電セラミクス薄膜又は圧電薄膜(以下、単にチタン酸鉛ともいう)である。以下、バルク超音波共振器は、弾性波を使って共振を生じる素子の部分を示し、バルク超音波フィルタは、上記バルク超音波共振器を複数組み合わせてフィルタとして動作する素子の部分を示し、薄膜圧電素子は上記バルク超音波共振器、上記バルク超音波フィルタ、及び、同じ半導体基板1上に存在するその他の回路素子を全て含めた素子を示すものとする。」 (サ)「【0023】上記共振周波数F_(r)と上記反共振周波数F_(a)とを用いて、実効電気機械結合係数k^(2)_(eff)は、式5のように表される。 式5: 【0024】 【数5】 k^(2)_(eff)=(F^(2)_(a)-F^(2)_(r))/F^(2)_(r) 」 (シ)「【0133】上記ジルコン酸チタン酸鉛(PZT )32の場合も、成膜時の処理温度が高く、酸素雰囲気中で成膜するため、上記下地導体5には化学的に安定な白金(Pt)や金(Au)が不可欠である。特に、白金(Pt)は、高温時の化学的安定性に優れている。一方、白金(Pt)や金(Au)は、密度が大きく、図4に計算例を示したように、上記下地導体5の厚みdを大きくすると、反共振周波数F_(a)と共振周波数F_(r)の周波数差が小さくなり、上記ジルコン酸チタン酸鉛(PZT )32の大きな電気機械結合係数k^(2)を生かすことができない。また、図5及び図6の計算例で示したように、上記ジルコン酸チタン酸鉛(PZT )32の厚みhと弾性波の波数kの積khを大きくすると、不要なスプリアスが発生する原因にもなる。すなわち、上記ジルコン酸チタン酸鉛(PZT )32を用いて所要の特性を有するバルク超音波共振器35を得るには、規格化膜厚(kh)を2以下とするか、規格化膜厚(d/h)を0.1以下とする必要がある。」 (ス)上記(コ)及び図2には、下地導体5の上に圧電薄膜27を積層し、圧電薄膜27の上に上側電極6が積層されたバルク超音波共振器が記載されているので、引用例3にはFBARフィルタが記載されているといえる。 よって、上記(コ)乃至(ス)及び関連図面から、引用例3には実質的に下記の事項が示唆されている。 「FBARフィルタでは、下地導体の厚みを大きくすると、実効電気機械結合係数が小さくなること。」 4.対比 (1)本願発明と引用発明との対応関係について 本願明細書には、段落【0033】に「図4の送信フィルタ68の形成過程では、第1のFBARはTxフィルタ68である」、及び、段落【0034】に「再び図4を参照するに、第2のFBARフィルタはRxFBARフィルタ73であり」と記載され、図4にはTxフィルタ68が直列FBAR(70,72,74,76)と並列FBAR(82,84)で構成されたフィルタであり、RxFBARフィルタ73が直列FBAR(75)と並列FBAR(77)で構成されたフィルタである点が記載されていることから、引用発明の「直列FBARと分路FBARで構成された送信帯域フィルタ」、「直列FBARと分路FBARで構成された受信帯域フィルタ」は、本願発明の「第1の薄膜バルク波音響共振器(FBAR)フィルタ」、「第2の薄膜バルク波音響共振器(FBAR)フィルタ」に相当している。 引用発明において選択されるフィルタ特性は、製造されたフィルタが達成すべき目標の周波数応答であるから、引用発明の「送信帯域フィルタのフィルタ特性」、「受信帯域フィルタのフィルタ特性」は、本願発明の「第1の目標周波数応答」、「第2の目標周波数応答」に相当する。 引用例1の上記(ア)には、「圧電層52と電極58,60とを備えて構成される圧電共振器スタック62」と記載されているので、引用発明の「各FBARの圧電共振スタック層の厚さを決定」は、本願発明の「圧電層及び電極層の膜厚とを決定」に相当する。 (2)本願発明と引用発明の一致点について 上記の対応関係から、本願発明と引用発明は、 「第1の薄膜バルク波音響共振器(FBAR)フィルタを動作させる第1の目標周波数応答を選択するステップと、 第2のFBARフィルタを動作させる第2の目標周波数応答を選択するステップと、 前記第1及び第2の目標周波数応答が得られるように前記第1及び第2のFBARフィルタを形成するため、圧電層及び電極層の膜厚とを決定するステップであって、窒化アルミニウムが前記圧電層を形成してモリブデンが前記電極層を形成するステップと、 前記膜厚と材料に基づき、前記第1及び第2のFBARフィルタを形成するステップとを含んでなる音響共振器アレイの製造方法。」 の点で一致している。 (3)本願発明と引用発明の相違点について 本願発明は、「第1の薄膜バルク波音響共振器(FBAR)フィルタを動作させる第1の目標実効結合係数とを選択するステップ」、「第2のFBARフィルタを動作させる第2の目標実効結合係数とを選択するステップであって、前記第1の目標実効結合係数が前記第2の目標実効結合係数に対し劣化されているものである、ステップ」、「前記第1及び第2の目標実効結合係数とが得られるように前記第1及び第2のFBARフィルタを形成するため、圧電層及び電極層の膜厚とを決定するステップであって、前記第1のFBARフィルタの少なくとも1つの電極層膜厚が前記第2のFBARフィルタに選択された電極層膜厚の1.2倍?2.8倍の範囲となるよう選択し、これにより前記劣化されている第1の目標実効結合係数を得る、ステップ」を含んでいるのに対し、引用発明はそのようなステップを含んでいない点。 5.当審の判断 本願明細書の段落【0015】には、「【発明が解決しようとする課題】音響共振器アレイの動作時に非常に急峻なロールオフをもたらす製造方法ならびにその結果得られる送受切換器が必要とされている。」の記載から、本願発明の目的は急峻なロールオフ特性をもつ音響共振器アレイを製造することであると認められる。 そこで、引用発明の製造方法において、引用発明の送信帯域フィルタが急峻なロールオフ特性を備えるようにするために、上記相違点のステップを採用するかについて以下に検討する。 FBARのような共振器では、圧電層の厚さに比べて電極層などの他の層の厚さを大きくすることで実効結合係数を小さくなるという技術事項は、例えば、上記3.(3)に記載された引用例3の、 「FBARフィルタでは、下地導体の厚みを大きくすると、実効電気機械結合係数が小さくなること。」 の示唆、及び、特開平10-126160号公報の、 「【0045】また、他の共振器と比べて薄い圧電層と厚い膜とを有する共振器は、他の共振器より小さな実効結合係数(effective coupling coefficient)を有するとともに、周波数スペクトル上で他の共振器より互いに近い直列共振周波数および並列共振周波数を有する。」 の記載から周知技術にすぎないものと認められる。 そして、引用例1の図7には、送信信号の高周波側の帯域と受信信号の低周波側の帯域が交差するフィルタの周波数特性が記載され、引用例1の段落【0012】には送信帯域と受信帯域との分離のため十分に急峻なフィルタ特性を備える必要があることが記載されているので、引用例1には、直列FBARと分路FBARで構成された送信帯域フィルタが、送信帯域の高周波側において急峻なロールオフ特性を備える必要のあることが示唆されているといえる。 また、ラダー型フィルタの通過帯域幅は電気機械結合係数に依存することは周知技術であり、送信帯域フィルタ及び受信帯域フィルタにおいて通過帯域幅を設定することは明らかであるから、引用発明では送信帯域フィルタ及び受信帯域フィルタの通過帯域幅を設定することで、送信帯域フィルタの電気機械結合係数及び受信帯域フィルタの電気機械結合係数をそれぞれ設定しているともいえる。 してみると、引用発明の送信帯域フィルタが急峻なロールオフ特性を備えるようにするために、電極層などの他の層の厚さを大きくすることで実効結合係数を小さくなるという上記周知技術、及び、「ラダー型フィルタ内の直列共振器の実効結合係数を減少させると高周波側のロールオフ特性が急峻になる。」という引用例2に示唆された事項を適用することで、引用発明の送信帯域フィルタを構成する直列FBARの電極の厚みを大きく設定して実効結合係数を小さくすることは、当業者が容易に想到し得たものといえる。 そして、その際、電極の厚みを受信帯域フィルタを構成する各FBARの電極の厚みに対してどの程度の大きさにするかは、当業者が適宜決定し得たことであり、その大きさの程度を「1.2倍?2.8倍の範囲」とすることも格別のこととは認められない。 なお、上記大きさの程度を「1.2倍?2.8倍の範囲」とすることが、普通では想起し得ないような特殊な範囲であって、そのような範囲とすることにより、引用発明からは当業者が予測し得ないような異質または顕著な効果が得られるといった特段の事情が認められる場合には、上記大きさの程度を「1.2倍?2.8倍の範囲」とした点に進歩性が認められる余地があるかもしれないが、本願明細書の記載を精査しても、上記大きさの程度を「1.2倍?2.8倍の範囲」としたことにより当業者が予測し得ないような異質又は顕著な効果が得られるとも認められないから、上記特段の事情があるとはいえない。 以上のことは、取りも直さず、引用発明において上記大きさの程度を「1.2倍?2.8倍の範囲」とする点を採用することが、当業者にとって容易であったことを意味する。 よって、引用発明の製造方法において、相違点のステップを採用することは、上記周知技術及び引用例2に示唆された事項を採用することで当業者が容易に想到し得たものである。 (5)本願発明の作用効果について 本願発明の作用効果も、引用発明、上記周知技術及び引用例2に示唆された事項から当業者が予測できる範囲のものである。 6.むすび 以上のとおり、本願発明は、当業者が引用発明、上記周知技術及び引用例2に示唆された事項に基いて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2011-03-24 |
結審通知日 | 2011-03-25 |
審決日 | 2011-04-06 |
出願番号 | 特願2002-121402(P2002-121402) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(G10K)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 東 昌秋 |
特許庁審判長 |
長島 孝志 |
特許庁審判官 |
飯田 清司 加内 慎也 |
発明の名称 | 薄膜バルク波音響共振器アレイの製造方法及び送受切換器 |
代理人 | 松島 鉄男 |
代理人 | 中村 綾子 |
代理人 | 岡本 正之 |
代理人 | 森本 聡二 |
代理人 | 吉田 尚美 |
代理人 | 深川 英里 |
代理人 | 有原 幸一 |
代理人 | 河村 英文 |
代理人 | 奥山 尚一 |