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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H05B
管理番号 1242133
審判番号 不服2008-26874  
総通号数 142 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-10-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-10-20 
確定日 2011-08-17 
事件の表示 特願2004-377991「有機電界発光表示装置及びドナー基板の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 3月 9日出願公開、特開2006- 66373〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成16年12月27日(パリ条約による優先権主張 平成16年8月30日、韓国)に出願された特願2004-377991号であって、平成20年3月4日付けで手続補正がなされたところ、同年7月17日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年10月20日に拒絶査定不服の審判が請求され、同年11月18日付けで手続補正がなされた。
その後、平成22年7月15日付けで当審において通知した拒絶理由に対し、平成23年1月20日付けで意見書の提出及び手続補正がなされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1?13に係る発明は、平成23年1月20日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?13に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】
ドナー基板のベース基板を用意する段階と、前記ベース基板上に光熱変換層及び転写層を形成する段階と、前記転写層の形成後、CO_(2)を利用する方式の乾式洗浄を行う段階と、を備えるドナー基板を用意する段階と;
前記ドナー基板の転写層を転写されるための基板を用意する段階と;
前記ドナー基板と前記基板とをラミネーションする段階と;
レーザを照射して、前記転写層を前記基板上に転写することによって、パターニングする段階と;を含み、
前記CO_(2)を利用する方式の乾式洗浄を行う段階は、CO_(2)固体を基板上に衝突し昇華させて、汚染物を除去するものであり、30%以下の湿度を有する雰囲気で行うことを特徴とする有機電界発光表示装置の製造方法。」

第3 引用例
1 引用例1の記載事項
当審において通知した拒絶理由に引用した、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2003-68455号公報(以下、「引用例1」という。)には、以下の事項が図面とともに記載されている。(当審注:後述の「2 引用発明の認定」において特に参照した記載に、下線を付した。)
(1a)「【0003】このような有機EL素子をディスプレイへと応用するにあたり、RGB 発光層の塗り分けが必須であり、また高精細なディスプレイを作成する場合、微細な塗分け技術が必要となる。RGB 各色の高精細な塗分けが容易な方法として、特開平11-260549号公報等には、転写法による有機層の形成方法が提案されている。
【0004】上記の転写法は、通常、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム等から構成されるドナー基板上に、転写層、すなわち、有機層や電極等の転写すべき薄膜層を、蒸着法、スピンコート法またはスパッタ法等で形成し、次に転写層が基板に接するようにドナー基板を基板に貼り付けて、ドナー基板側からレーザー光や熱等のエネルギーを加えることにより、転写層を基板側に転写する方法である。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】上記公報等に記載された従来の転写法により有機EL素子の有機層や電極等のを形成する際、特に、高精細な塗り分けが必要な部分の転写を行う場合、図3に示すように、形成される転写膜のエッジSが、所望する転写膜の幅Wに対してずれることがあった。これは、転写時の転写フイルム上の温度が130?300℃になるため、熱の拡散によって有機材料の転写が不均一になるものと考えられる。また、レーザーを照射する際、照射されるレーザーの幅を所望する転写層の幅よりも狭くする方法があるが、この場合も熱の拡散の割合が一定でないため、所望とする転写幅を得ることができなかった。
【0006】この発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、転写法を用いて高精細なパターンの塗り分けが行える有機EL素子の製造方法を提供することを目的とする。」

(1b)「【0021】図2は、この発明の実施の一形態による転写フイルムの構成を示す正面断面図である。図2に示すように、転写フイルムは、少なくとも、べ-スフイルム21、熱伝播層22、剥離層23および転写層24を含む多層構造からなり、転写時には、べ-スフイルム21側から(図中矢印方向から)光または熱が基板1に向かって照射される。べ-スフイルム21は、透明で物理的に柔軟な材料であることが好ましい。材料の柔軟性が高いと、表面に凹凸のある基板1、すなわち第1電極2や隔壁3等が形成された基板1に転写フイルムをセットする際に、基板1との間に隙間を形成することなく転写フイルムをセットできる。べ-スフイルム21の材料は、上記の特性を有する材料であれば特に限定されるものではなく、公知のPET やPMMAなどの高分子材料が挙げられる。べ-スフイルム21の膜厚は、フイルムの柔軟性の点で、0.01?1000μmが好ましい。
【0022】熱伝播層22は、転写を効率的に行うために熱を伝播させる層であり、例えば、ポリαメチルスチレンなどの高分子材料が挙げられる。熱伝播層22は、光一熱変換層と熱伝播層とに分けられた積層構造が好ましい。また、発熱反応を用いた転写の場合、発熱層と熱伝播層とに分けることが好ましい。
【0023】光一熱変換層は、レーザーによる転写の場合、レーザー光を熱に効率よく変換する性質を有する物質から構成される。具体的には、アルミニウム、アルミニウム酸化物および/またはアルミニウム硫化物からなる金属膜、カーボンブラック、黒鉛または赤外線染料等を高分子材料(例えば、熱硬化型エポキシ樹脂)に分散した有機膜等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。熱伝播層22は、これらの材料にカーボンブラック等を分散させて黒色とした層から構成されてもよい。剥離層23は、公知の材料であれば特に限定されるものではなく、例えばポリαメチルスチレンや熱発泡性樹脂などが挙げられる。
【0024】前記のように構成された転写フイルムは、転写フイルム上、すなわち剥離層23の表面に、基板1側への転写を所望する有機層4、または有機層4と第2電極5からなる転写層24が形成される。転写層24として形成される有機層4は、単層構造でも積層構造でもよく、その構成は特に限定されるものではない。転写フイルム上に有機層4を形成する方法は特に限定されるものではなく、公知の技術、例えば真空蒸着法、スパッタ法、スピンコート法、インクジェット法、印刷法あるいはこれらを組み合わせた方法を用いることができる。」

(1c)「【0026】基板1への転写層24の転写について説明する。基板1への転写層24の転写は、前記転写フイルムを基板1に貼り合わせ、レーザー光の照射により行なう。基板1上には、スイッチング素子7および第1電極2が形成されていてもよい。基板1と転写フイルムを貼り合わせる際、基板1と転写フイルムとの間に気泡が残らないようにすることが好ましい。気泡が残ると、所望するパターンおよび膜厚が転写後に得られない場合が生じるからである。
【0027】基板1と転写フイルムとの間に気泡が残らないように脱気を行う方法は、特に限定されるものではなく、例えば基板1と転写フイルムとの間を真空ポンプで脱気したり、基板1上に転写フイルムをセットした後に、転写フイルム上からローラーを転がして脱気してもよいし、これらを合わせて行ってもよい。次いで、レーザー光を照射して、転写を行う。このとき、レーザーは、転写を行う部分に照射する。すなわち、レザーが照射された所だけが転写される。その際、レーザーの出力は特に限定されるものではないが、出力が大きすぎると、有機材料にダメージを与えてしまうので好ましくない。また、出力が小さすぎると、転写が不十分になったり、まだらに転写されるおそれがある。」

(1d)「【0029】以下に、この発明の有機EL素子の製造方法の実施例を説明する。
実施例1
転写フイルムは、公知の方法にて作成した。まず、べ-スフイルム21として厚さが0.1mmのPET 上に、光一熱変換層としてカーボンを分散させたエポキシ樹脂層を5nm成膜した。続いて、この上に剥離層23としてポリαメチルスチレン膜を1nm成膜し、次いで、転写層24としてNPD (Tg=95℃)を厚さ100 nmで剥離層23上に真空蒸着法を用いて成膜した。これにより、基板1上に有機層4を形成する有機材料を含んだ転写層24が表面となる転写フイルムが形成された。上記の転写フイルムを、ITO からなる第1電極2が形成された基板1上に貼り合わせたのち、ローラーを転がすことにより脱気を行った。次いで、レーザー光を照射幅50nm、エネルギー量16wで照射して転写を行った。」

(1e)「【0038】実施例7
この例は、転写層24が、スイッチング素子7および第1電極2が形成された基板1上に転写される有機層4である構成を示す。転写フイルムは、実施例1と同様に作成した。まず、有機層4を形成する転写層24として、真空蒸着法を用いて、転写フイルム上にホール注入層としてCuPcを20nm成膜した。次いで、ホール輸送層としてNPD を40nm、電子輸送性発光層としてAlq_(3)を60nmをこの順に成膜した。これにより、基板1と接する有機層4は、Alq_(3)となる。一方、TFT 素子及び第1電極2を形成した基板1をUVオゾン洗浄により洗浄した後、転写フイルムを貼り合わせ、ローラーにより脱気を行なった。その後、レーザーを転写フイルム上から照射した。このときのレーザーのパワーは、16wであった。レーザーによる転写層24の転写が終了後、転写フイルムを剥離して有機層4の形成が行なわれた。
【0039】なお、これらのレーザーによる転写工程は乾燥窒素中で行なった。続いて、有機層4が形成された基板1を真空蒸着器にセットし、スパッタ法を用いて、第1電極2としてITO を100nm 成膜した後に、封止材6として透明なガラスを貼り付けることにより封止を行ない、TFT 付き基板1に対して第2電極5側から発光層の発光を取り出す構成の有機ELディスプレイを作成した。・・・」

(1f)「【0043】
【発明の効果】この発明では、転写法を用いて所望する転写幅を得ることができる。したがって、高精細なパターンの塗り分けが可能な有機EL素子の製造方法を提供できる。」

2 引用発明の認定
上記記載事項を考慮すると、引用例1には有機EL素子の製造方法に関し、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「べ-スフイルムとして厚さが0.1mmのPET 上に、光一熱変換層としてカーボンを分散させたエポキシ樹脂層を5nm成膜し、この上に剥離層としてポリαメチルスチレン膜を1nm成膜し、剥離層上に有機層を形成する転写層として、ホール注入層としてのCuPc、ホール輸送層としてのNPD、電子輸送性発光層としてのAlq_(3)をこの順に成膜し、これにより、転写層が表面となる転写フイルムが形成され、
一方、TFT 素子及び第1電極を形成した基板1をUVオゾン洗浄により洗浄した後、転写フイルムを貼り合わせ、その後、レーザーを転写フイルム上から照射してレーザーによる転写層の転写が終了後、転写フイルムを剥離して有機層の形成を行なう、
高精細なパターンの塗り分けが可能な有機ELディスプレイの製造方法。」

3 引用例2
当審において通知した拒絶理由に引用した、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開平5-24358号公報(以下、「引用例2」という。)には、以下の事項が図面とともに記載されている。
(2a)「【0004】このため、例えば特開平3ー121455号公報に開示されるように、遮光性マスクの形成を熱転写によって行なうことにより、人手による剥離といった工程を省略するものがあるが、このように熱転写プリンタによる熱転写で遮光性マスクを作成するには、熱転写プリンタの内部の温度が上って印字品質が低下する。このため、熱転写プリンタのスリット状の空気出入口を設けて、外気との流通を行ない、さらにはファンを設けて強制的に外気との流通を行ない、内部の温度が上昇することを防止するが、この場合には外気の導入でゴミも同時に熱転写プリンタに入り、遮光性マスクの工程でゴミによる転写不良、ピンホール等の故障部が生じることがある。
【0005】この発明は、かかる点に鑑みてなされたもので、プリンタ本体の内部の温度上昇を防止し、しかもプリンタ本体の内部にゴミが侵入しないようにして、良好な遮光性マスクを作成する遮光性マスク作成用熱転写プリンタを提供することを目的としている。」

(2b)「【0016】また、請求項5記載の発明では、プリンタ本体の熱転写部の直前に、ゴミ除去手段を備え、このゴミ除去手段によって熱転写シート及び受像シートに付着するゴミを除去する。
【0017】また、請求項6記載の発明では、ゴミ除去手段が、空気吸引手段または除塵手段または除電手段またはこれらの組合せにより構成されており、簡単な構造で効果的にゴミを除去する。」

(2c)「【0040】図6乃至図8は請求項3記載の発明の遮光性マスク作成用熱転写プリンタを示しており、遮光性マスク作成用熱転写プリンタは図2乃至図5のものと同様に構成されるが、熱転写部52の直前に、熱転写シート41及び受像シート43に付着するゴミを除去するゴミ除去手段を備えており、このゴミ除去手段で簡単でしかも確実にゴミを除去することができる。
【0041】図6はゴミ除去手段を空気吸引手段で構成した実施例の概略図であり、この空気吸引手段はバキュームクリーナ80で構成され、熱転写シート41と受像シート43との重ね合せの直前でゴミを吸引して除去する。」

4 引用例3
当審において通知した拒絶理由に引用した、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2003-35811号公報(以下、「引用例3」という。)には、以下の事項が図面とともに記載されている。
(3a)「【0012】前記待機中のカートリッジの前記供給部と前記回収部との間に繰り出されている転写フィルムを、そのカートリッジが前記ステージへ搭載される前にクリーニングしてもよい。この場合には、転写フィルムへの異物の付着に起因する転写不良の発生を未然に防止できる。待機中のカートリッジに対してクリーニングが行われるので、転写処理の効率が損なわれるおそれもない。」

(3b)「【0033】図3は、一台の転写装置1にて液晶ディスプレイのカラーフィルタ用基板に着色層を形成する場合の例を示している。一般に、カラーフィルタの基板10にはR,G,Bの3原色にそれぞれ対応した3種類の着色層を形成する必要がある。これに対して、転写フィルム11には基板10に形成すべき3原色の着色層のうちいずれか1色の着色層に対応した熱溶融型の着色剤が予め定着される。このような場合には、一台の転写装置1に対応して、R,G,Bの各色につきそれぞれ1つ以上のカートリッジ12…12を予め用意する。用意されたカートリッジ12は所定の検査・供給部21に集めておく。そして、用意されたカートリッジ12のうち、転写に使用するいずれか一つのカートリッジ12を検査・供給部21からステージ4に供給する。転写後はカートリッジ12を転写装置1から検査・供給部21に回収し、別の色のカートリッジ12を転写装置1へ供給する。こうした処理を各色について繰り返して基板10に3色の着色層を形成する。
【0034】図4は検査・供給部21にて行われる処理を示している。検査・供給部21では、転写に使用されていない待機中のカートリッジ12に対して、フィルム送出処理(a)、クリーニング処理(b)及び検査処理(c)が行われる。
【0035】フィルム送出処理では、巻取ロール15が所定の巻取方向(図4(a)に矢印で示す。)に駆動されることにより、次回の転写に備えて供給ロール14から巻取ロール15に一回の転写に必要な長さだけ転写フィルム11が送出される。これにより、転写装置1に供給されるカートリッジ12の繰り出し部12cには、レーザビームが照射されていない使用前の転写フィルム11が繰り出されることになる。
【0036】クリーニング処理では、繰り出し部12cに繰り出されている転写フィルム11に対してクリーニングが行われる。例えば転写フィルム11を挟むようにしてノズル22,22が配置され、各ノズル22からクリーニング用の気体(例えば二酸化炭素)が送り出されるとともにノズル22が転写フィルム11に沿って送られて転写フィルム11上の異物が吹き飛ばされる。但し、クリーニング処理においては、気体を利用した方法に限らず、各種のクリーニング方法を利用してよい。
【0037】検査処理では、繰り出し部12cに繰り出されている転写フィルム11の欠陥の有無が検査される。その検査は、例えば検査カメラ23によって繰り出し部12cの転写フィルム11を撮影し、得られた画像を解析して欠陥の有無を判別することにより行われる。但し、画像処理を用いた欠陥検査に限らず、各種の欠陥検出方法を利用してよいことは勿論である。ここでいう欠陥とは、転写フィルム11上に形成された着色層の傷やムラ、転写フィルム11への異物の付着等、基板10への着色層の転写品質を劣化させることが懸念される各種の事象をいう。」

(3c)「【0048】本発明は液晶ディスプレイのカラーフィルタ用の基板に限らず、各種の基板に転写フィルムを重ねて供給する場合に利用できる。」

5 引用例4
当審において通知した拒絶理由に引用した、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2001-114232号公報(以下、「引用例4」という。)には、以下の事項が図面とともに記載されている。
(4a)「【0005】
【発明が解決しようとする課題】受像シートRと本紙Pを重ねてヒートローラにいれると、受像シートRと本紙Pとの間にゴミ等の異物が挟まっていた場合、例えば、図10に示すように、その部分だけうまく転写できないで画像欠陥となってしまうと言う問題があった。なぜなら、受像シートRと本紙Pを密着させて転写機のヒートローラにいれると、上述の受像シートRと本紙Pの間にごみXが存在した場合には、ごみXによる受像シートRと本紙Pの密着不良のため、図中の矢印Aの範囲だけ画像の抜け(いわゆる「白抜け」)が発生してしまうからである。そこで本発明はゴミ等による画像欠陥をできる限り消滅するクリーニング装置を提供することを目的としている。」

(4b)「【0007】上記のような構成により、受像シートと前記本紙とを重ねてヒートローラに挿入する直前にその受像シートまたは本紙の表面にブラシを接触させまたは粘着ローラを接触させまたは空気流をあてるようにしているので、ゴミ等の異物を除去することができ、したがってゴミ等による画像欠陥をなくすることができる。」

6 引用例5
当審において通知した拒絶理由に引用した、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開平2-277236号公報(以下、「引用例5」という。)には、以下の事項が図面とともに記載されている。
(5a)第1ページ左下欄4行?最終行;
「2.特許請求の範囲
被洗浄物にドライアイス粒子を吹きつけることによって被洗浄物を洗浄する洗浄装置において、前記被洗浄物を密閉容器で覆い、この密閉容器に、ドライアイス粒子噴射用ノズルと、低露点ガス供給用配管と、密閉容器内のガスを排気する排気管とを接続したことを特徴とする洗浄装置。
3.発明の詳細な説明
〔産業上の利用分野〕
本発明はドライアイス粒子を被洗浄物に吹きつけることによって被洗浄物を洗浄する洗浄装置に関するものである。
〔従来の技術〕
従来のこの種の洗浄装置は、液化炭酸ガスを断熱膨張させて得られるドライアイス粒子(以下、ドライアイススノーという。)を被洗浄物に吹きつけて洗浄するように構成されている。」

(5b)第1ページ右下欄17行?第2ページ左上欄14行;
「この際、断熱膨張ノズル2によって作られたドライアイススノーが被洗浄物lに吹きつけられ、被洗浄物1上に付着された汚染物はこのドライアイススノーによって除去されることになる。このドライアイススノーは被洗浄物上の汚染物を除去した後に速やかに昇華される。
このようにドライアイススノーを使用した洗浄装置においては、高圧ガスブロー法等の気体流を使用した洗浄装置に較べて、洗浄物がドライアイススノーという固体であるために洗浄能力が高く、しかも、高圧ジェット水洗法や超音波洗浄法等の液体を使用した洗浄装置に較べて、ドライアイススノーが被洗浄物1上の汚染物を除去した後に速やかに昇華されるために被洗浄物lを濡らすことなく乾燥状態で洗浄を行なうことができるという利点から、半導体ウエハ等のように湿式洗浄が不適当で汚染物を確実に除去する必要のある物品を洗浄する際に使用されている。」

(5c)第2ページ左上欄15行?右上欄19行;
「〔発明が解決しようとする課題〕
しかるに、従来のこの種ドライアイススノーを使用した洗浄装置においては、洗浄が大気中で行われるため、被洗浄物がドライアイススノーによって冷却された際に大気中の水分が被洗浄物上に結露したり、あるいは、ドライアイススノーの製造部、噴射部分でドライアイススノーの表面に大気中の水分が結露したりする場合があった。このような場合には被洗浄物上に結露した水分やドライアイススノーの表面に結露した水分によって被洗浄物が濡らされてしまい、乾燥状態で洗浄を行なうことができなくなる。被洗浄物が濡らされると、洗浄後に大気中の汚染物が被洗浄物上に残査として残ってしまうため、再び洗浄しなければならない。
〔課題を解決するための手段〕
……(略)……
〔作 用〕
密閉容器内の気体を低露点ガスに置換することによって、水分が被洗浄物あるいはドライアイス粒子に結露するのを防止することができる。」

(5d)第2ページ左下欄18行?右下欄4行;
「このように構成された洗浄装置によって被洗浄物1を洗浄するには、先ず、ドライアイススノーを噴射させる前に、低露点ガス供給用配管12から乾燥空気、窒素ガス等の低露点ガスを洗浄容器11内に供給すると共に、排気管13から洗浄容器11内のガスを排出することによって洗浄容器内のガスの置換を行なう。」

(5e)第3ページ右上欄7行?最終行;
「このように真空ポンプ31が接続された洗浄装置においては、真空ポンプ31によって洗浄容器11内を高真空状態に維持させて洗浄が行われる。高真空状態では、炭酸ガス移送配管3内や洗浄容器11内の水分が除去されることになり、液化炭酸ガス中、乾燥空気中あるいは窒素ガス中の微量な水分でさえも昇華されるため、完全に乾燥した状態で洗浄を行なうことができる。なお、この際、真空度が高い程水分の除去効率は向上されるが、真空度を高くしすぎると、ドライアイススノーが被洗浄物lに吹きつけられる前に昇華されてしまい洗浄効率が低下されてしまう。このため、断熱膨張ノズル2と被洗浄物1との間隔を真空度に応じて適宜変えることが必要である。」

7 引用例6
本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2003-145074号公報(以下、「引用例6」という。)には、以下の事項が図面とともに記載されている。
(6a)「【0008】本発明者らはドライアイスの前記特性に着目し、被洗浄体表面にドライアイスを接触させ、前記ドライアイスの昇華時の蒸発熱を用いて被洗浄体の表面を収縮させ、その収縮力により被洗浄体の表面から汚染物を剥離させる洗浄方法を着想した(以下、このようなドライアイスの昇華時の蒸発熱により、被洗浄体の表面から汚染物が剥離することを「剥離効果」という。)。
【0009】本発明者らは前記着想を基に鋭意研究した結果、好適な態様として、ドライアイス紛を被洗浄体としての炭化ケイ素焼結体表面にブラストすることを発明の要旨とする洗浄方法を見出した。より好適な態様として、本発明者らは、被洗浄体としての炭化ケイ素焼結体を洗浄するに際し、前記炭化ケイ素焼結体の表面にドライアイス紛をブラストし、前記炭化ケイ素焼結体の表面上の汚染物にマイクロクラックを発生させると共に、前記ドライアイス粉の昇華時の膨張エネルギーを用いて前記炭化ケイ素焼結体の表面から前記汚染物を取り除くことを特徴とする炭化ケイ素焼結体の洗浄方法を見出した。
【0010】ここで、本発明の炭化ケイ素焼結体の洗浄方法に用いられるドライアイスとしては、粉体形状のものが使用される。ドライアイスの形状を粉体状とする理由は、ドライアイスの被洗浄体に対する接触面積を大きくすると共に、ドライアイスが容易に気化し、前記汚染物の剥離効果を得やすくするためである。ドライアイスの粒子径は、前記汚染物の剥離効果が得られるのであれば特に制限はないが、取扱いの容易性、また後に説明するブラスト装置の機構上の理由から、粒径1?3mmのドライアイス紛を用いることが好ましい。
【0011】本発明の炭化ケイ素焼結体の洗浄方法に用いられるブラスト洗浄装置としては、ドライアイス紛をブラストできるものであれば特に制限はなく、従来公知の装置を用いることができる。例えば、協同インターナショナル社製、商品名「ドライアイスブラスト」のブラスト洗浄装置を使用することができる。」

(6b)「【0023】
……(中略)……
表1より、本発明の洗浄方法によれば、被洗浄体表面にブラストされるドライアイス紛が研磨剤として機能するという作用効果に加え、剥離効果により被洗浄体上の汚染物(ワックス)が取り除かれることが確認された。」


第4 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「ベースフィルム」は、本願発明の「ベース基板」に相当し、以下同様に、「光-熱変換層」は「光熱変換層」に、「転写層」は「転写層」に、「転写フィルム」は「ドナー基板」に、「基板」は「転写層を転写されるための基板」に、「有機ELディスプレイ」は「有機電界発光表示装置」に、それぞれ相当する。
また、引用発明における「第1基板をUVオゾン洗浄により洗浄した後、転写フイルムを貼り合わせ」ることは、本願発明における「前記ドナー基板と前記基板とをラミネーションする段階」に相当する。
そして、引用発明では、転写することによって「高精細なパターンの塗り分けが可能」となっているのであるから、転写することによって「パターニング」がされていることは明らかであり、よって、引用発明における「レーザーを転写フイルム上から照射してレーザーによる転写層の転写が終了後、転写フイルムを剥離して有機層の形成を行な」って「高精細なパターンの塗り分けが可能」とする点は、本願発明における「レーザを照射して、前記転写層を前記基板上に転写することによって、パターニングする段階」に相当する。

以上のとおりであるから、本願発明と引用発明とは、
「ドナー基板のベース基板を用意する段階と、前記ベース基板上に光熱変換層及び転写層を形成する段階と、を備えるドナー基板を用意する段階と;
前記ドナー基板の転写層を転写されるための基板を用意する段階と;
前記ドナー基板と前記基板とをラミネーションする段階と;
レーザを照射して、前記転写層を前記基板上に転写することによって、パターニングする段階と;を含む有機電界発光表示装置の製造方法。」
の発明である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点>
本願発明が、有機ELディスプレイの製造方法として、転写層の形成後、「CO_(2)を利用する方式の乾式洗浄を行う段階」を有し、「前記CO_(2)を利用する方式の乾式洗浄を行う段階は、CO_(2)固体を基板上に衝突し昇華させて、汚染物を除去するものであり、30%以下の湿度を有する雰囲気で行う」ものであるのに対し、引用発明はそのような段階を有していない点。


第5 当審の判断
上記相違点について検討する。
(1)転写技術において、転写の際の転写層上の異物が好ましくないため、転写層と被転写層とをラミネーションする前に転写層を乾式洗浄することは、当業者に周知の技術的事項であり(上記記載事項(2a)?(4b)を参照)、また、当該周知の技術的事項において、転写層上の異物が好ましくないのであるから、乾式洗浄が「転写層の形成後」に行なわれていることは明らかである。
しかも、乾式洗浄として、乾燥雰囲気下でCO_(2)固体(ドライアイス)を利用する方式は、例えば引用例5(上記記載事項(5a)?(5e)を参照)に記載されているように周知の技術的事項であり、また、引用例5に記載の乾式洗浄も、CO_(2)固体の衝突と昇華を伴う乾式洗浄法であることは明らかであるし、本願の優先日当時、CO_(2)固体の衝突と昇華を伴う乾式洗浄法で、物理的な力と熱力学的な力の両方を利用しようとする技術的思想も公知であること(上記記載事項(6a)?(6b)を参照)を総合すると、転写層の乾式洗浄として、本願発明のCO_(2)固体を利用する特定の方式を採用することに何ら困難性を見いだすことはできない。
してみれば、引用発明の転写技術を用いる製造方法に上記転写技術における周知の技術的事項を適用し、引用発明の転写層が表面となる転写フイルムを、TFT 素子及び第1電極を形成した基板と貼り合わせ(ラミネーション)する前に、乾燥雰囲気下でドライアイスを利用して乾式洗浄することは、当業者が容易になし得たことである。

(2)ここで、請求人は、平成23年1月20日付けの意見書において、次のように主張する。
「本願発明1及び2は、本願の段落0033に記載されていますように、水分含量が30%以下として、二酸化炭素の昇華を利用することで、二酸化炭素の昇華により物理的な力と熱力学的な力を両方とも使用するものです。」、及び
「例えば、引用例6(当審注:当該「引用例6」は審決における「引用例5」)は、第4図に示される従来技術の構成を改良したものでありますが、その基本となる第4図の構成について、『このドライアイススノーは被洗浄物上の汚染物を除去した後に速やかに昇華される。』(第2ページ、左上のコラム、1行目)と記載されており、昇華は除去の後に生じており、昇華自体を除去に使用しているようには見受けられません。つまり、引用例5及び6においては、単に二酸化炭素を送り出して異物を除去しているので、これは物理的な力だけを利用しているということになるものと思料します。」

(3)しかしながら、本願の明細書または図面を参照しても、明細書中で複数挙げられた乾式洗浄の中から、特に「CO_(2)を利用する方式の乾式洗浄」を採用したことによる格別有利な効果は記載されていないし、「CO_(2)を利用する方式の乾式洗浄」自体についても、明細書の段落【0033】に、
「前記CO_(2)を利用する方式は、CO_(2)固体であるドライアイスを昇華させると同時に、基板上に衝突させて、汚染物を除去する方式である。すなわち、衝突後に膨脹するドライアイスの物理的な力と熱力学的な力を利用した洗浄メカニズムであると言える。したがって、CO_(2)固体の結氷防止のために、前記CO_(2)を利用する方式は、30%以下の湿度を有する雰囲気で行うことが望ましい。」
と記載されているのみであって、CO_(2)固体を用いる洗浄方法の中で、特に物理的な力とともに熱力学的な力をも利用する方式を選択したことの技術的意義や効果、及び物理的な力とともに熱力学的な力を伴う洗浄とするための具体的な洗浄方法について何ら記載されていない。また、湿度を「30%以下」とする数値範囲の技術的根拠も、記載されていない。
そうすると、具体的にどのような乾式洗浄を採用するか(「CO_(2)固体を利用する方式」の乾式洗浄を採用するか。CO_(2)固体を利用する方式を採用した場合、どの段階で昇華する方式とするか。)は、当業者が適宜選択し得る設計的事項にすぎないといわざるを得ない。

(4)よって、引用発明に周知の技術的事項を適用して上記相違点に係る本願発明の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たことである。

(5)本願発明の奏する作用効果についても、本願発明が、乾式洗浄にCO_(2)固体を利用する特定の方式を採用したことに格別有利な効果が認められないことは上記(3)で述べたとおりであるから、本願発明の奏する作用効果は、引用発明及び周知の技術的事項から当業者が予測し得る範囲内のものであって、格別のものということはできない。

(6)したがって、本願発明は、引用発明及び周知の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。


第6 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-03-15 
結審通知日 2011-03-22 
審決日 2011-04-04 
出願番号 特願2004-377991(P2004-377991)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H05B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中山 佳美  
特許庁審判長 村田 尚英
特許庁審判官 神 悦彦
今関 雅子
発明の名称 有機電界発光表示装置及びドナー基板の製造方法  
代理人 渡邊 隆  
代理人 佐伯 義文  
代理人 村山 靖彦  

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