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審決分類 |
審判 査定不服 特29条の2 特許、登録しない。 H01L |
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管理番号 | 1242167 |
審判番号 | 不服2008-29013 |
総通号数 | 142 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2011-10-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2008-11-13 |
確定日 | 2011-08-19 |
事件の表示 | 特願2002-326133「磁気抵抗効果素子、薄膜磁気ヘッド、磁気ヘッド装置及び磁気記録再生装置」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 6月10日出願公開、特開2004-165224〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本願は,平成14年11月8日の出願であって,平成20年2月19日付けの拒絶理由通知に対して,同年4月25日に意見書及び手続補正書が提出されたが,同年10月10日付けで拒絶査定がされ,それに対して,同年11月13日に拒絶査定に対する審判請求がなされたものである。 第2.本願発明 本願の請求項1ないし7に係る発明は,平成20年4月25日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載されている事項により特定されるとおりのものである。 そして,そのうちの請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,その請求項1に記載されている事項により特定される,以下のとおりのものである。 「 【請求項1】 磁気抵抗効果膜と,絶縁膜と,磁区制御膜と,電極膜とを含む磁気抵抗効果素子であって, 前記磁区制御膜は,前記磁気抵抗効果膜の幅方向の両端部に,前記絶縁膜による間隔を隔てて配置されており, 前記電極膜は,前記磁気抵抗効果膜の膜厚方向の両面に層状に隣接されており, 前記絶縁膜は,酸化アルミニウムで構成され, 前記磁気抵抗効果膜は,フリー層,非磁性層,ピンド層,及び,反強磁性層が順次に積層された構造を有し, 前記酸化アルミニウムの酸素濃度は化学量論的組成よりも低く,その化学量論組成Al_(Y)O_(X)において,Y=1のとき, 1.25≦X<1.5 を満たす 磁気抵抗効果素子。」 第3.先願明細書等の記載と先願発明 1.先願明細書等の記載 (1)特許法第29条の2の規定に関して原査定の拒絶の理由に引用された,本願の出願前の他の出願であって,本願の出願後に出願公開(特開2003-086861号公報参照)された特願2001-279195号(以下「先願」という。)の願書に最初に添付した明細書及び図面(以下まとめて「先願明細書等」という。)には,「磁気検出素子及びその製造方法」(発明の名称)に関して,図1とともに,次の記載がある(下線は当審で付加したもの)。 「 【請求項1】 固定磁性層,非磁性材料層及びフリー磁性層を有する多層膜,硬磁性材料からなり前記多層膜の前記フリー磁性層のトラック幅方向における側端面に対向する一対の縦バイアス層,並びに前記多層膜の上面に電気的に接続された上部電極層及び前記多層膜の下面に電気的に接続された下部電極層を有し,前記多層膜の各層の膜面と垂直方向に電流を供給する磁気検出素子において, 前記多層膜のトラック幅方向における側端面に,前記縦バイアス層と前記多層膜を電気的に絶縁する絶縁酸化膜が設けられていることを特徴とする磁気検出素子。」 「 【請求項8】 前記多層膜は,前記固定磁性層に接する反強磁性層を有し,下から,反強磁性層,固定磁性層,非磁性材料層,フリー磁性層の順序で積層されている請求項1ないし7のいずれかに記載の磁気検出素子。」 「 【請求項9】 前記多層膜は,前記固定磁性層に接する反強磁性層を有し,下から,フリー磁性層,非磁性材料層,固定磁性層及び反強磁性層の順序で積層されている請求項1ないし7のいずれかに記載の磁気検出素子。」 「 【0134】 図1では,多層膜T1が側端面T1s,T1sから所定の厚さ酸化されて形成された層,多層膜T1を構成する各層の材料が多層膜T1のミリング形成時に再付着したものが酸化されて形成された層と下部電極層の材料が酸化されて形成された層を合わせて第1酸化層F’,F’とし,第1酸化層F’,F’の上に,アルミニウム又はケイ素などの金属材料又は半導体材料の酸化物層である第2酸化層M’,M’が積層されている。」 「 【0144】 なお,絶縁酸化膜32,32が,多層膜T1内を流れる伝導電子のスピン状態(エネルギー,量子状態など)を保持したまま鏡面反射するスペキュラー膜(鏡面反射膜)であることが好ましい。」 「 【0152】 例えばスペキュラー膜をAl-Oで形成するとき,Al_(2)O_(3)で形成されたターゲットでスペキュラー膜をスパッタ成膜すると,化学量論的な組成を有するスペキュラー膜を形成することができないが,極端に酸素が少なくなければスペキュラー膜と多層膜T1の側端面T1s,T1sとの界面付近に適切なポテンシャル障壁を形成でき,鏡面反射効果を有効に発揮させることができる。」 「 【0159】 なお,図1では,絶縁酸化膜32,32を第1酸化層F’,F’と第2酸化層M’,M’の2層構造を有するものとして示しているが,本発明では絶縁酸化膜32,32を第1酸化層F’,F’だけからなるものとしてもよい。絶縁酸化膜32,32が第1酸化層F’,F’だけからなるときでも,第1酸化層F’,F’がスペキュラー膜として機能することが望ましい。」 【0160】 または,絶縁酸化膜32,32を第2酸化層M’,M’だけからなるものとしてもよい。絶縁酸化膜32,32が第2酸化層M’,M’だけからなるときでも,第2酸化層M’,M’がスペキュラー膜として機能することが望ましい。」 (2)そして,先願明細書等の図1に示された「磁気検出素子」は,先願明細書等の請求項8に「前記固定磁性層に接する反強磁性層を有し,下から,反強磁性層,固定磁性層,非磁性材料層,フリー磁性層の順序で積層されている」と記載されるような「多層膜」を有するものではあるが,そのような「多層膜」に代えて,先願明細書等の請求項9に「前記固定磁性層に接する反強磁性層を有し,下から,フリー磁性層,非磁性材料層,固定磁性層及び反強磁性層の順序で積層されている」と記載されるような「多層膜」を採用できることも,先願明細書等全体の記載に照らして明らかである。 (3)また,先願明細書等の段落【0134】,段落【0144】,段落【0152】,段落【0160】の記載を総合的に勘案すると,絶縁酸化膜32,32が,第2酸化層M’,M’だけからなり,かつ,それがスペキュラー膜として,化学量論的な組成を有してはいないものの,極端に酸素が少なくないAl-Oで形成されるものであることも,実質的に記載されているのは明らかである。 2.先願発明 そうすると,先願明細書等には,次の発明(以下「先願発明」)が記載されているといえる。 「固定磁性層,非磁性材料層及びフリー磁性層を有する多層膜,硬磁性材料からなり前記多層膜の前記フリー磁性層のトラック幅方向における側端面に対向する一対の縦バイアス層,並びに前記多層膜の上面に電気的に接続された上部電極層及び前記多層膜の下面に電気的に接続された下部電極層を有し,前記多層膜の各層の膜面と垂直方向に電流を供給する磁気検出素子において, 前記多層膜のトラック幅方向における側端面に,前記縦バイアス層と前記多層膜を電気的に絶縁する絶縁酸化膜が設けられ, 前記多層膜は,前記固定磁性層に接する反強磁性層を有し,下から,フリー磁性層,非磁性材料層,固定磁性層及び反強磁性層の順序で積層され, 前記絶縁酸化膜を,スペキュラー膜として,化学量論的な組成を有してはいないものの,極端に酸素が少なくないAl-Oで形成する磁気検出素子。」 第4.本願発明と先願発明の対比 (1)本願発明と先願発明とを対比する。 ア 先願発明の「多層膜」,「絶縁酸化膜」,「縦バイアス層」,「上部電極層」と「下部電極層」との両電極層,「Al-O」,及び「磁気検出素子」は,それぞれ本願発明の「磁気抵抗効果膜」,「絶縁膜」,「磁区制御膜」,「電極膜」,「酸化アルミニウム」,及び「磁気抵抗効果素子」に相当する。 イ 先願発明の「磁気検出素子」は,「固定磁性層,非磁性材料層及びフリー磁性層を有する多層膜,硬磁性材料からなり前記多層膜の前記フリー磁性層のトラック幅方向における側端面に対向する一対の縦バイアス層,並びに前記多層膜の上面に電気的に接続された上部電極層及び前記多層膜の下面に電気的に接続された下部電極層を有し」ているものであり,上記アの対比結果も踏まえると,本願発明の「磁気抵抗効果膜と,絶縁膜と,磁区制御膜と,電極膜とを含む磁気抵抗効果素子」に相当することは明らかである。 ウ 先願発明は,「硬磁性材料からなり前記多層膜の前記フリー磁性層のトラック幅方向における側端面に対向する一対の縦バイアス層」を有し,かつ,「前記多層膜のトラック幅方向における側端面に,前記縦バイアス層と前記多層膜を電気的に絶縁する絶縁酸化膜が設けられ」たものであり,上記アの対比結果も踏まえると,本願発明の「前記磁区制御膜は,前記磁気抵抗効果膜の幅方向の両端部に,前記絶縁膜による間隔を隔てて配置されており,」に相当することが開示されているのは明らかである。 エ 先願発明は,「前記多層膜の上面に電気的に接続された上部電極層及び前記多層膜の下面に電気的に接続された下部電極層を有し」たものであり,上記アの対比結果も踏まえると,本願発明の「前記電極膜は,前記磁気抵抗効果膜の膜厚方向の両面に層状に隣接されており,」に相当することが開示されているのは明らかである。 オ 先願発明は,「前記絶縁酸化膜を,化学量論的な組成を有してはいないものの,極端に酸素が少なくないAl-Oで形成する」ものであり,上記アの対比結果も踏まえると,本願発明の「前記絶縁膜は,酸化アルミニウムで構成され,」に相当することが開示されているのは明らかである。 カ 先願発明は,「前記多層膜は,前記固定磁性層に接する反強磁性層を有し,下から,フリー磁性層,非磁性材料層,固定磁性層及び反強磁性層の順序で積層され」るものであり,上記アの対比結果も踏まえると,本願発明の「前記磁気抵抗効果膜は,フリー層,非磁性層,ピンド層,及び,反強磁性層が順次に積層された構造を有し,」に相当することが開示されているのは明らかである。 キ 先願発明は,「前記絶縁酸化膜を,スペキュラー膜として,化学量論的な組成を有してはいないものの,極端に酸素が少なくないAl-Oで形成する」ものであり,酸化アルミニウムの酸素濃度が化学量論的組成のものではない点において,本願発明と共通している。 (2)そうすると,本願発明と先願発明の一致点及び相違点は,次のとおりである。 〔一致点〕 「磁気抵抗効果膜と,絶縁膜と,磁区制御膜と,電極膜とを含む磁気抵抗効果素子であって, 前記磁区制御膜は,前記磁気抵抗効果膜の幅方向の両端部に,前記絶縁膜による間隔を隔てて配置されており, 前記電極膜は,前記磁気抵抗効果膜の膜厚方向の両面に層状に隣接されており, 前記絶縁膜は,酸化アルミニウムで構成され, 前記磁気抵抗効果膜は,フリー層,非磁性層,ピンド層,及び,反強磁性層が順次に積層された構造を有し, 前記酸化アルミニウムの酸素濃度は化学量論的組成のものではない 磁気抵抗効果素子。」 〔相違点〕 本願発明は,絶縁膜における「前記酸化アルミニウムの酸素濃度は化学量論的組成よりも低く,その化学量論組成Al_(Y)O_(X)において,Y=1のとき,1.25≦X<1.5を満たす」ものであるのに対して,先願発明には,そのようなことは明示されていない点。 第5.相違点についての検討 先願発明は,「前記絶縁酸化膜を,スペキュラー膜として,化学量論的な組成を有してはいないものの,極端に酸素が少なくないAl-Oで形成する」ものであるが,ここでの「極端に酸素が少なくない」とは,形成する絶縁酸化膜の酸素濃度が化学量論的組成よりも低いことを認識の上で記載されたものであり,かつ,当該絶縁酸化膜がスペキュラー膜として機能するにあたっては,当該酸素濃度に目安となる下限値(化学量論組成Al_(Y)O_(X)において,Y=1のとき,このようなXの下限値について仮に「α」という。)の存在が想定されること,また,当該酸素濃度が化学量論的組成になるべく近い値の場合(化学量論組成Al_(Y)O_(X)において,Y=1のとき,X<1.5を満たしつつ,Xが1.5に限りなく近いような場合。)も含まれることは,明らかである。 そうすると,先願発明の「前記絶縁酸化膜を,スペキュラー膜として,化学量論的な組成を有してはいないものの,極端に酸素が少なくないAl-Oで形成する」ことからは,酸素濃度が化学量論的組成よりも低く,その化学量論組成Al_(Y)O_(X)において,Y=1のとき,α≦X<1.5を満たす組成の酸化アルミニウムからなる「絶縁酸化膜」が導かれ,これは,本願発明の「前記酸化アルミニウムの酸素濃度は化学量論的組成よりも低く,その化学量論組成Al_(Y)O_(X)において,Y=1のとき,1.25≦X<1.5を満たす」ものである「絶縁膜」の組成とも,明らかに重複した範囲を含んでおり,上記相違点は実質的なものではない。また,先願発明の絶縁酸化膜をスペキュラー膜として使用するにあたっての最適化の範囲において,上記αを1.25の値に選択することで,上記相違点に係るXの範囲そのものを実現することも,単なる設計的事項であって,具体化手段における微差にすぎないから,そのような観点からも,上記相違点は実質的なものではない。 よって,本願発明は,先願発明と実質的に同一である。 第6.むすび 本願発明は,先願発明と実質的に同一であり,本願発明の発明者は先願発明の発明者と同一ではなく,また,本願の出願の時点において,その出願人が先願の出願人と同一でもないから,本願発明は,特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。 したがって,他の請求項について検討するまでもなく,本願は拒絶をすべきものである。 よって,上記結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2011-06-20 |
結審通知日 | 2011-06-22 |
審決日 | 2011-07-06 |
出願番号 | 特願2002-326133(P2002-326133) |
審決分類 |
P
1
8・
16-
Z
(H01L)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 川村 裕二 |
特許庁審判長 |
齋藤 恭一 |
特許庁審判官 |
市川 篤 西脇 博志 |
発明の名称 | 磁気抵抗効果素子、薄膜磁気ヘッド、磁気ヘッド装置及び磁気記録再生装置 |
代理人 | 阿部 美次郎 |