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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02P
管理番号 1242171
審判番号 不服2010-4872  
総通号数 142 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-10-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-03-05 
確定日 2011-08-19 
事件の表示 特願2001-549926「燃料噴射システムを有するオットー内燃機関の冷間時始動の際の作動方法」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 7月12日国際公開、WO01/50015、平成15年 6月17日国内公表、特表2003-519337〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成12年12月27日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1999年12月31日、ドイツ)を国際出願日とする出願であって、平成21年4月10日付けで拒絶の理由が通知され、これに対し平成21年10月15日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成21年11月4日付けで拒絶をすべき旨の査定がなされ、これに対し、平成22年3月5日に拒絶査定不服の審判が請求されたものである。


第2.本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1ないし7に係る発明は、平成21年10月15日付けで提出された手続補正書によって補正された明細書及び願書に最初に添付された図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。
「燃料噴射システムを有するオットー内燃機関の冷間時始動の際の作動方法において、
冷間時始動フェーズ中に少なくとも内燃機関の少なくとも1つのシリンダ内の第1の燃焼に対して、点火角度を冷間始動値まで遅角調整(13)し、該遅角調整(13)を以下の条件のもと、すなわち、
点火(z)の数が、パラメータ(n)の値よりも小さいか同じであり、該パラメータ(n)の値は、規定に従って1よりも大きいか等しくてかつ内燃機関の気筒数の値よりも小さいか同じであり、さらにそれと同時に第1の点火前の燃焼室温度(To)が温度域値(Ts)よりも小さいという条件のもとで行って、シリンダ内に噴射される燃料を燃焼させるようにするステップと、
冷間時始動フェーズの終了時点で点火角度を通常位置(14)に調整するステップとを有していることを特徴とする方法。」


第3.引用例
1.原査定の拒絶の理由に引用された特開平8-189448号公報(以下、「引用例」という。)
1-1.引用例の記載事項
引用例には、次の事項が図面とともに記載されている。なお、下線は、発明の理解の一助として、当審において付したものである。
(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 内燃機関の運転状態に応じて点火時期を決定し、該決定された点火時期において点火装置に点火指示信号を送出する点火時期制御装置において、
該内燃機関が始動状態にあるか否かを検出する始動状態検出手段と、
始動状態にあるときには点火時期を所定の第1の固定点火時期に設定する第1の固定点火時期設定手段と、
非始動状態にありかつ始動完了後所定期間を経過する前であるときには点火時期を前記第1の固定点火時期よりも遅角せしめられた所定の第2の固定点火時期に設定する第2の固定点火時期設定手段と、
非始動状態にありかつ始動完了後前記所定期間を経過した後であるときには点火時期を機関運転状態に基づく演算により求められる演算点火時期に設定する演算点火時期設定手段と、を具備することを特徴とする、内燃機関の点火時期制御装置。
【請求項2】 該内燃機関の温度を検出する機関温度検出手段と、
該内燃機関の温度が所定値よりも低いときには、前記第2の固定点火時期設定手段による該第2の固定点火時期の設定を省略し、始動完了後、前記第1の固定点火時期設定手段による該第1の固定点火時期の設定から、直接、前記演算点火時期設定手段による該演算点火時期の設定へと制御を移行させる低温時制御変更手段と、
をさらに具備する、請求項1に記載の内燃機関の点火時期制御装置。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】及び【請求項2】)

(イ)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、機関の運転状態に応じた最適なクランク位置で圧縮混合気に点火するための制御を行う、内燃機関の点火時期制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】従来より、電子制御式の点火時期制御装置においては、始動状態にある間及び始動終了時点から所定期間が経過するまでの間は一定の点火時期にて点火する固定点火処理を実施し、その後に、機関運転状態に基づいて演算された最適な点火時期にて点火する演算点火処理へと移行する制御が行われている。そのような固定点火処理を行う理由は、始動時及び始動完了時から所定期間経過時までは、吸気管圧力等の運転状態パラメータが不安定な状態にあるからである。すなわち、始動性向上の観点から固定点火処理を行う必要がある(例えば、特開昭57-59058号公報参照)。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、ステップモータ式ISCV(アイドルスピードコントロールバルブ)によりアイドル回転速度制御を行うエンジンにおいては、固定点火処理から演算点火処理へと移行した時点で、エンジン回転速度が急激に吹き上がり、ピストン・コンロッド(connecting rod;ピストンとクランク軸とを連結する長い棒) 系の打音が発生するという問題が生じている。
【0004】そのような問題が生じる原因は、以下のように説明される。まず、点火時期制御における始動判定、すなわち始動状態にあるか、非始動状態にあるかの判定は、エンジン回転速度及びスタータスイッチ信号に基づいてなされ、エンジン回転速度が所定値(例えば、500rpm )以上でスタータスイッチがオフのときに、非始動状態(すなわち始動後)にあると判定される。そして、始動状態から非始動状態への移行時、又はそのような移行からの所定期間経過時に、固定点火処理から演算点火処理へと点火時期制御が切り替えられる。一般に、固定点火処理では、始動性向上の観点から、点火時期は例えば5°BTDC(上死点前)に設定されるが、演算点火処理へと移行すると、点火時期は15?20°BTDCとなり、エンジン回転速度をさらに上昇させることとなる。」(段落【0001】ないし【0004】)

(ウ)「【0009】
【課題を解決するための手段】本発明は、始動後から一定期間の間、始動時における固定点火時期(例えば、5°BTDC)よりも遅角せしめられた所定の固定点火時期(例えば、0°BTDC)にて点火し、その後に演算点火時期(例えば、15?20°BTDC)に基づく点火制御に移行する、という基本的着想に基づき、以下に記載されるような技術構成を採用することにより、上記目的を達成するものである。
【0010】すなわち、本願第1の発明に係る、内燃機関の点火時期制御装置は、内燃機関の運転状態に応じて点火時期を決定し、該決定された点火時期において点火装置に点火指示信号を送出する点火時期制御装置において、該内燃機関が始動状態にあるか否かを検出する始動状態検出手段と、始動状態にあるときには点火時期を所定の第1の固定点火時期に設定する第1の固定点火時期設定手段と、非始動状態にありかつ始動完了後所定期間を経過する前であるときには点火時期を前記第1の固定点火時期よりも遅角せしめられた所定の第2の固定点火時期に設定する第2の固定点火時期設定手段と、非始動状態にありかつ始動完了後前記所定期間を経過した後であるときには点火時期を機関運転状態に基づく演算により求められる演算点火時期に設定する演算点火時期設定手段と、を具備することを特徴とする。
【0011】また、第2の発明に係る、内燃機関の点火時期制御装置は、さらに、該内燃機関の温度を検出する機関温度検出手段と、該内燃機関の温度が所定値よりも低いときには、前記第2の固定点火時期設定手段による該第2の固定点火時期の設定を省略し、始動完了後、前記第1の固定点火時期設定手段による該第1の固定点火時期の設定から、直接、前記演算点火時期設定手段による該演算点火時期の設定へと制御を移行させる低温時制御変更手段と、を具備する。」(段落【0009】ないし【0011】)

(エ)「【0015】図1は、本発明の一実施例に係る点火時期制御装置を備えた電子制御式内燃機関の全体構成図である。エンジン20の燃焼に必要な空気は、エアクリーナ2でろ過され、スロットルボデー4を通ってサージタンク(インテークマニホルド)6で各気筒の吸気管7に分配される。なお、その吸入空気流量は、スロットルボデー4に設けられたスロットル弁5により調節されるとともに、エアフローメータ40により計測される。また、吸入空気温度は、吸気温センサ43により検出される。さらに、吸気管圧力は、バキュームセンサ41によって検出される。
【0016】また、スロットル弁5の開度は、スロットル開度センサ42により検出される。また、スロットル弁5が全閉状態のときには、アイドルスイッチ52がオンとなり、その出力であるスロットル全閉信号がアクティブとなる。また、スロットル弁5をバイパスするアイドルアジャスト通路8には、アイドル時の空気流量を調節するためのアイドルスピードコントロールバルブ(ISCV)66が設けられている。
【0017】一方、燃料タンク10に貯蔵された燃料は、燃料ポンプ11によりくみ上げられ、燃料配管12を経て燃料噴射弁60により吸気管7に噴射される。吸気管7ではそのような空気と燃料とが混合され、その混合気は、吸気弁24を介してエンジン本体すなわち気筒(シリンダ)20に吸入される。気筒20において、混合気は、ピストンにより圧縮された後、点火されて爆発・燃焼し、動力を発生する。そのような点火は、点火信号を受けたイグナイタ62が、点火コイル63の1次電流の通電及び遮断を制御し、その2次電流が、点火ディストリビュータ64を介してスパークプラグ65に供給されることによりなされる。
【0018】なお、点火ディストリビュータ64には、その軸が例えばクランク角(CA)に換算して360°CAごとに位置検出用パルスを発生するクランク角センサ50、及び60°CAごとに位置検出用パルスを発生するクランク角センサ51が設けられている。また、エンジン20は、冷却水通路22に導かれた冷却水により冷却され、その冷却水温度は、水温センサ44によって検出される。」(段落【0015】ないし【0018】)

(オ)「【0032】以下、本発明の対象となる電子制御式点火時期制御(ESA)について説明する。点火時期制御は、速度信号形成回路80から得られるエンジン回転速度及びその他のセンサからの信号により、エンジンの状態を総合的に判定し、最適な点火時期を決定し、前述の点火制御回路82を介して点火装置61(イグナイタ62、点火コイル63、点火ディストリビュータ64、及びスパークプラグ65により構成される。)に点火信号を送るものである。
【0033】まず、点火時期制御における始動判定処理について図7のフローチャートにより説明する。この始動判定ルーチンは、所定時間周期に実行されてもよいし、後述の点火時期制御ルーチンの直前に、すなわちクランク角度位置に同期して実行されてもよい。同図に示されるように、このルーチンでは、ステップ202でエンジン回転速度Nが所定値(ここでは500rpm )以上か否かを判定し、ステップ204でスタータスイッチ54からの信号を取り込んでスタータがオンかオフかを判定する。エンジン回転速度Nが500rpm 未満であるか、又はスタータがオンのときには、始動中であると判断し、始動後経過時間を計時する所定のカウンタである始動後カウンタCASTを0クリアするとともにカウントディセーブルとし(ステップ206)、始動状態にあることを示すフラグXSTESAをセットする(ステップ208)。一方、エンジン回転速度Nが500rpm 以上でスタータがオフのときには、非始動状態にあると判断し、始動後カウンタCASTをカウントイネーブルにし(ステップ210)、フラグXSTESAをリセットする(ステップ212)。
【0034】次に、本発明の特徴となる点火時期制御の処理手順について、2つの実施例を採り上げ、詳細に説明する。本発明は、前述のように、始動後から一定期間、始動時における固定点火時期(例えば、5°BTDC)よりも遅角せしめられた所定の固定点火時期(例えば、0°BTDC)にて点火し、その後に演算点火時期(例えば、15?20°BTDC)に基づく点火制御に移行することにより、始動時にISCVの全開制御を実行する内燃機関において、固定点火時期制御から演算点火時期制御への移行に伴い発生するピストン・コンロッド系の打音対策を図ろうとするものである。第1実施例に係る点火時期制御ルーチンは、図8に示される。このルーチンは、タイミング形成回路81からの割り込み要求信号S_(irt) をCPU71が受け付けることにより起動される。
【0035】まず、最初のステップ302では、前述のフラグXSTESAが1であるか否か、すなわち始動状態にあるか非始動状態(始動後)にあるかを判定し、始動状態にあるときには、ステップ306に進んで、点火時期(点火進角)を5°BTDCに固定した固定点火処理を実行し、非始動状態のときには、ステップ304に進む。なお、5°BTDCという値は、始動性確保の観点から実験的に求められた値である。ステップ304では、始動後カウンタCASTの値を取り込み、始動後0.75秒以下のときには、ステップ308に進み、前述の始動時固定点火処理にて採用された点火時期5°BTDCよりも遅角せしめられた0°BTDCに点火時期を固定した固定点火処理を実行する。また、始動後0.75秒を経過しているときには、ステップ310に進み、演算点火処理を実行する。なお、このような0.75秒という値は、実験的に求められたものである。
(中略)
【0040】このような第1実施例の処理によれば、始動後から所定期間、点火時期が遅角せしめられるため、たとえISCVが全開状態にあっても、エンジン回転速度の急激な上昇が防止される。そして、ピストン・コンロッド系の各部に十分な油圧が確保された状態になってから、演算点火処理へと移行されるので、前述した従来技術に係る問題点が解消される。」(段落【0032】ないし【0040】)

(カ)「【0041】次に、第2実施例に係る点火時期制御ルーチンの手順を図12のフローチャートにより説明する。この図と図8とを比較してわかるように、第2実施例では、エンジン冷却水温度THWが条件に加えられ(ステップ606参照)、始動直後の点火遅角処理が極低温時においては省略されるようになっている。これは、前述のように、極低温時においてエンジンを始動するときには、エンジンオイルの粘性硬化及び各部のフリクション増加により、たとえISCVが全開状態にあっても、エンジン回転速度の上昇はそれほど大きくならず問題とはならない上に、逆に、始動直後の点火遅角処理がなされると、エンジン回転速度の上昇を阻害し、始動不良を招くおそれがあるためである。
【0042】図13は、バッテリ電圧、ISCVステップ位置、点火時期、及びエンジン回転速度の時間特性を従来例と比較して示す図である。本発明では、この図に示されるように、始動直後、ISCVが全開状態にあっても、エンジン回転速度が吹き上がることはなくなる。
【0043】以上、本発明の実施例について述べてきたが、もちろん本発明はこれに限定されるものではなく、様々な実施例を案出することは当業者にとって容易なことである。例えば、また、始動直後固定点火処理(0°BTDC)を実行する期間、すなわち、フラグXSTESAの1から0への変化後の所定期間は、上述の実施例では、図8のステップ304に示されるように、一定時間が経過するまでとされているが、その代わりに、エンジンの所定回転経過後までとしてももちろんよいであろう。」(段落【0041】ないし【0043】)

1-2.上記1-1.(ア)ないし(カ)及び図面から分かること
(a)上記1-1.(エ)及び図1から、引用例に記載された内燃機関は、混合気が気筒(シリンダ)20に吸入され、気筒20において混合気がピストンにより圧縮された後、点火されて爆発・燃焼し、動力を発生する火花点火式内燃機関であり、いわゆるオットー内燃機関(例えば、フリー百科事典「ウィキペディア」の「オットーサイクル」の項目を参照。)であることが分かる。

(b)上記1-1.(エ)及び図1から、引用例に記載された内燃機関は、燃料タンク10、燃料ポンプ11、燃料配管12、燃料噴射弁60等からなる燃料噴射システムを有していることが分かる。

(c)上記1-1.(イ)から、従来より、電子制御式の点火時期制御装置においては、始動状態にある間及び始動終了時点から所定期間が経過するまでの間は一定の点火時期(例えば5°BTDC(上死点前))にて点火する固定点火処理を実施し、その後に、機関運転状態に基づいて演算された最適な点火時期(15?20°BTDC)にて点火する演算点火処理へと移行する制御が行われていることが分かる。

(d)上記1-1.(ア)(特に請求項2を参照)、(ウ)、(オ)及び(カ)並びに図面から、引用例に記載された内燃機関において、内燃機関の温度が所定値よりも低いという条件のもと、内燃機関が始動状態にあるときに点火時期(点火進角)を第1の固定点火時期(実施例では5°BTDC)に設定し、始動完了後、前記第1の固定点火時期設定手段による該第1の固定点火時期の設定から、直接、前記演算点火時期設定手段による該演算点火時期(例えば、15?20°BTDC)の設定へと制御を移行させる制御を行うことが分かる。このとき、第1の固定点火時期は、該演算点火時期よりも点火角度が遅いことから、内燃機関が始動状態にあるときには第1の固定点火時期に点火角度を遅角しているといえる。

1-3.引用例に記載された発明
上記1-1.及び1-2.並びに図面の記載を総合すると、引用例には、
「燃料噴射システムを有する火花点火式内燃機関の、内燃機関の温度が所定値よりも低いときの始動方法において、
内燃機関の温度が所定値よりも低いときの始動状態にある間に内燃機関のシリンダ内の燃焼に対して、点火角度を第1の固定点火時期まで遅角し、該遅角を以下の条件のもと、すなわち、内燃機関の温度が所定値よりも低いという条件のもとで行って、シリンダ内の燃料を燃焼させるようにするステップと、
始動完了後、点火角度を演算点火時期に調整するステップとを有している方法。」
という発明(以下、「引用例に記載された発明」という。)が記載されている。


第4.対比
本願発明と引用例に記載された発明とを対比すると、引用例に記載された発明における「燃料噴射システム」は、その技術的意義からみて、本願発明における「燃料噴射システム」に相当し、以下同様に、「火花点火式内燃機関」は「オットー内燃機関」に、「内燃機関の温度が所定値よりも低いときの始動方法」は「冷間時始動の際の作動方法」に、「内燃機関の温度が所定値よりも低いときの始動状態にある間」は「冷間時始動フェーズ中」に、「内燃機関」は「少なくとも内燃機関」に、「第1の固定点火時期」は「冷間始動値」に、「遅角」は「遅角調整」に、「内燃機関の温度」は「第1の点火前の燃焼室温度」に、「温度域値」は「所定値」に、「始動完了後」は「冷間時始動フェーズの終了時点」に、「演算点火時期」は「通常位置」に、それぞれ相当する。
また、引用例に記載された発明における「シリンダ内の燃焼」は、「少なくとも1つのシリンダ内の燃焼」である限りにおいて、本願発明における「少なくとも1つのシリンダ内の第1の燃焼」に相当する。
また、引用例に記載された発明における「シリンダ内の燃料を燃焼させる」は、「シリンダ内の燃料を燃焼させる」である限りにおいて、本願発明における「シリンダ内に噴射される燃料を燃焼させる」に相当する。
してみると、本願発明と引用例に記載された発明は、
「燃料噴射システムを有するオットー内燃機関の冷間時始動の際の作動方法において、
冷間時始動フェーズ中に少なくとも内燃機関の少なくとも1つのシリンダ内の燃焼に対して、点火角度を冷間始動値まで遅角調整し、該遅角調整を以下の条件のもと、すなわち、
第1の点火前の燃焼室温度が温度域値よりも小さいという条件のもとで行って、シリンダ内の燃料を燃焼させるようにするステップと、
冷間時始動フェーズの終了時点で点火角度を通常位置に調整するステップとを有している方法。」
の点で一致し、以下の(1)及び(2)の点で相違している。
(1)本願発明においては、遅角調整を「少なくとも1つのシリンダ内の第1の燃焼に対して」、「遅角調整(13)を以下の条件のもと、すなわち、点火(z)の数が、パラメータ(n)の値よりも小さいか同じであり、該パラメータ(n)の値は、規定に従って1よりも大きいか等しくてかつ内燃機関の気筒数の値よりも小さいか同じであり、さらにそれと同時に第1の点火前の燃焼室温度(To)が温度域値(Ts)よりも小さいという条件のもとで行って」いるのに対し、引用例に記載された発明においては、「少なくとも1つのシリンダ内の燃焼に対して」行うものの、「少なくとも1つのシリンダ内の第1の燃焼に対して」、「遅角調整(13)を以下の条件のもと、すなわち、点火(z)の数が、パラメータ(n)の値よりも小さいか同じであり、該パラメータ(n)の値は、規定に従って1よりも大きいか等しくてかつ内燃機関の気筒数の値よりも小さいか同じであり、さらにそれと同時に第1の点火前の燃焼室温度(To)が温度域値(Ts)よりも小さいという条件のもとで行って」いるのかどうか明らかでない点(以下、「相違点1」という。)。
(2)本願発明においては、「シリンダ内に噴射される燃料を燃焼させる」のに対し、引用例に記載された発明においては、「シリンダ内の燃料を燃焼させる」ものの、「シリンダ内に噴射される燃料を燃焼させる」かどうか明らかでない点(以下、「相違点2」という。)。


第5.当審の判断
相違点1及び2について、以下に検討する。
(1)相違点1について
相違点1に係る本願発明の発明特定事項の技術的意義を知るために本願の明細書を参照すると、段落【0018】には、「ブロック11=複数のパラメータを用いたパラメータ検出(改行)n=自由に適用可能な数(改行)例えば1≦n≦シリンダ数(改行)z=点火の数」と記載されており、本来、nは自由に適用可能な数であり、例として1≦n≦シリンダ数とされているのであるから、本願発明において、「点火(z)の数が、パラメータ(n)の値よりも小さいか同じであり、該パラメータ(n)の値は、規定に従って1よりも大きいか等しくてかつ内燃機関の気筒数の値よりも小さいか同じであり」という技術的事項は、設計事項であると認められる。
また、遅角調整を「少なくとも1つのシリンダ内の第1の燃焼に対して」、「遅角調整(13)を以下の条件のもと、すなわち、点火(z)の数が、パラメータ(n)の値よりも小さいか同じであり、該パラメータ(n)の値は、規定に従って1よりも大きいか等しくてかつ内燃機関の気筒数の値よりも小さいか同じ」という条件のもとで行う技術は、周知技術(以下、「周知技術1」という。例えば、特開平2-271073号公報の特許請求の範囲、第3ページ左上欄第6行ないし左下欄第4行及び図面、実願昭59-16318号(実開昭60-128975号)のマイクロフィルムの実用新案登録請求の範囲、明細書第7ページ第8行ないし第8ページ第5行、実願昭59-16121号(実開昭60-128983号)のマイクロフィルムの実用新案登録請求の範囲、明細書第5ページ第12行ないし第17行等の記載を参照。)でもある。
してみると、相違点1に係る本願発明の発明特定事項は、引用例に記載された発明において周知技術1を適用することにより、当業者が容易に想到することができたことにすぎない。
(2)相違点2について
始動時に点火時期の遅角を行う内燃機関において、「シリンダ内に噴射される燃料を燃焼させる」ことは、周知技術(以下、「周知技術2」という。例えば、特開平2-271073号公報の特許請求の範囲、第3ページ左上欄第6行ないし左下欄第4行及び図面、実願昭59-16318号(実開昭60-128975号)のマイクロフィルムの実用新案登録請求の範囲、明細書第7ページ第8行ないし第8ページ第5行、特開昭62-255558号公報の特許請求の範囲、第4ページ左下欄第14行ないし第5ページ右上欄第6行及び図面(特に第3図)等の記載を参照。)にすぎない。
してみると、相違点2に係る本願発明の発明特定事項は、引用例に記載された発明において周知技術2を適用することにより、当業者が容易に想到することができたことにすぎない。

そして、本願発明を全体としてみても、その作用効果は、引用例に記載された発明、周知技術1及び2から当業者が予測できる範囲のものである。

なお、審判請求人は、審判請求書において、「本願発明で特に着目しているポイントは、機関の冷間時の始動においては、速やかな燃焼のためにも特に大量の燃料を噴射しなければならないことであります。そのために内燃機関の回転数は、アイドリング回転数よりもかなり抑えた値にしなければならないという前提があります。そうすることで、始動時に必要とされる量の燃料を噴射することが可能になります。(中略)つまり本願ではこのような第1燃焼過程の遅角調整によって非常に僅かな回転数上昇しか生じないため、その直後に続く噴射に対しても十分な噴射時間が得られ、これは後続の過程に対しても十分な量の燃料を送り込めることになり、確実な燃焼につながります。」と主張している。
しかしながら、内燃機関の冷間時の始動において、内燃機関の回転数の上昇を抑えるために点火時期の遅角を行うという技術も、周知の技術(例えば、特開平11-343914号公報(平成11年12月14日公開)の特許請求の範囲、段落【0007】、【0018】及び【0019】等の記載並びに図面を参照。)にすぎない。


第6.むすび
したがって、本願発明は、引用例に記載された発明及び周知技術1及び2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-03-03 
結審通知日 2011-03-09 
審決日 2011-04-07 
出願番号 特願2001-549926(P2001-549926)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F02P)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 畔津 圭介  
特許庁審判長 小谷 一郎
特許庁審判官 金澤 俊郎
柳田 利夫
発明の名称 燃料噴射システムを有するオットー内燃機関の冷間時始動の際の作動方法  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 二宮 浩康  
代理人 星 公弘  
代理人 久野 琢也  
代理人 矢野 敏雄  

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