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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 D05B
管理番号 1242173
審判番号 不服2010-6722  
総通号数 142 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-10-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-03-31 
確定日 2011-08-19 
事件の表示 特願2000-155729「刺繍縫いミシン」拒絶査定不服審判事件〔平成13年12月 4日出願公開、特開2001-334094〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成12年5月26日の出願であって、平成21年12月24日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成22年3月31日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に明細書及び特許請求の範囲を対象とする手続補正がなされた。
したがって、本願の請求項1?10に係る発明は平成22年3月31日に補正された特許請求の範囲、明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?10の記載により特定されるとおりのものと認められるところ、請求項1に記載された発明は次のとおりのものと認める(以下「本願発明」という)。
「針を上下動させて縫いを実行するための縫い実行手段と、
刺繍対象物と該刺繍対象物を保持する手段とを含み、移動することにより該刺繍対象物に刺繍を実現するための移動体と、
縫いを実行する刺繍形状に応じて前記刺繍対象物を移動させる位置を特定するための縫い目データを記憶するための記憶手段と、を備えた刺繍縫いミシンにおいて;
前記移動体に関する情報を与えるための手段と、
前記刺繍対象物の位置を検出する位置検出手段と、
該移動体に関する情報と刺繍対象物の位置をパラメータとして前記縫い実行手段の縫い速度を制御するための速度制御手段と、
を備えたことを特徴とする刺繍縫いミシン。」

2.引用文献及び引用発明
(1)原査定の拒絶の理由に引用された特開2000-14950号公報(以下、「引用文献1」という)には、図面と共に以下の事項が記載されている。
(ア)「【0002】【発明が解決しようとする課題】この種の縫製装置例えば家庭用の刺繍ミシンにおいては、ミシンベッド上に、加工布を保持する刺繍枠及びその刺繍枠をXY方向(前後左右方向)に自在に移動させるための枠移動機構を備えて構成される。そして、マイコンが、一針毎の前記刺繍枠の移動量などを規定する刺繍データに基づいて、針棒駆動機構を駆動すると共に、それと同期して前記枠移動機構を制御することにより、加工布に対する刺繍形成動作が実行されるようになっている。」
(イ)「【0004】ところで、刺繍形成動作を実行する場合には、縫い針が針板上の加工布から抜けて上方位置にある間に、刺繍枠(加工布)を一針分だけ移動させる必要がある。図12は、針棒の上下動の位相に対する刺繍枠の移動のタイミングを示しており、刺繍枠は、針棒が中立点(縫い針が加工布を抜ける)から一定速度(傾きα)で移動を開始し、針棒が次に中立点に至る(縫い針が加工布に刺さる)までに移動を完了して停止するようになっている。
【0005】このとき、刺繍枠は、枠移動機構が停止した(停止点s)直後において、移動時の慣性によるたわみに起因して微小の振動が生じ、振動が収束するまで(収束点d)に、ある程度の時間(ダンピング時間)がかかる。このため、縫製速度(針棒の上下動の速度)は、上記したダンピング時間を考慮して設定されるようになっている。」
(ウ)「【0010】これによれば、使用される刺繍枠の種類に応じて、縫製速度変更手段により、縫製速度が変更されるので、例えば、大形の刺繍枠では縫製速度が比較的小さくなり、小形の刺繍枠では縫製速度が比較的大きくなるなど、刺繍枠の形状、大きさ、肉厚、材質等に応じた適切な縫製速度を得ることが可能となる。この場合、適切な縫製速度は、刺繍枠のダンピング時間により変動するので、縫製速度を、刺繍枠の剛性により決めるようにすれば(請求項2の発明)、適切な縫製速度を得ることができる。
【0011】また、前記刺繍枠の種類を検出する検出手段を設け、縫製速度変更手段を、その検出手段の検出に基づいて縫製速度を変更するように構成することができ(請求項3の発明)、これにより、いわば自動で刺繍枠の種類に応じた適切な縫製速度を得ることができる。」
(エ)「【0020】前記枠移動機構10は、前記刺繍枠9をY方向パルスモータ11(図3にのみ図示)によりY軸(前後)方向に自在に移動させるように構成された移動体12を、X方向パルスモータ13(図3にのみ図示)によりX軸(左右)方向に自在に移動させるように構成されている。これにて、刺繍枠9ひいては加工布は、枠移動機構10により、固有のXY座標系に基づく任意の位置に移動されるのである。上記針棒5の上下動に同期して、枠移動機構10により刺繍枠9を移動させることにより、加工布に対する刺繍形成動作が実行されるようになっている。」
(オ)「【0027】前記ROM27には、ミシン本体1の刺繍形成動作や実用縫い動作を制御するための制御プログラムや、LCD21の表示制御用の制御プログラム、刺繍データの読出し,編集等のデータ処理を行うデータ処理用プログラム等が記憶されている。また、これと共に、比較的単純な形状の刺繍模様に関する刺繍データが記憶されている。この場合、ROM27及び前記外部メモリカード30に記憶された刺繍データは、例えば刺繍形成動作に必要な加工布(刺繍枠9)の一針毎のX,Y方向の移動量(針落ち点)を示す移動データや、刺繍模様の表示用データ、付随する糸色データなどを含んで構成されている。」

針棒駆動機構が針を上下動させると認められるので、以上の記載によれば、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という)が開示されていると認めることができる。

「針を上下動させるための針棒駆動機構と、
移動することにより加工布に刺繍を実現するための刺繍枠及び加工布と、
刺繍形成動作に必要な加工布(刺繍枠)の一針毎のX,Y方向の移動量(針落ち点)を示す移動データを記憶するためのROM及び外部メモリカードと、を備えた刺繍ミシンにおいて;
前記刺繍枠の種類を検出する検出手段と、
その検出手段の検出に基づいて縫製速度を変更する縫製速度変更手段と、
を備えた刺繍ミシン。」

(2)原査定の拒絶の理由に引用された特開平8-280957号公報(以下、「引用文献2」という)には、図面と共に以下の事項が記載されている。
(ア)「【0050】実施の形態4.この発明の他の実施の形態を図9によって説明する。XYテーブル19の縫製位置によって振動が異なり、例えば、XYテーブル19の枠の中心部分を縫製する場合は布が振動を吸収するが、枠の縁部分を縫製する場合は、振動の影響をうけ易くなる。この振動を抑制して縫い目ピッチ等に応じてパルスモータ19a、19bの最高速度を制限する例を以下に説明する。
【0051】XYテーブル19の中心である原点を基準として、この縫製開始位置から縫製を進める毎にXYテーブル19の移動量を積算し(ステップ950)、XYテーブル19の中心部分を縫製しておれば中心部に応じたパルスモータ19a、19bの速度制限値にし(ステップ951)、XYテーブル19の枠の近くを縫製している場合は速度制限を下げる。なお、XYテーブル19の枠と中心の間を縫製する場合の速度制限値は、中心部及び枠近くの速度制限値から中心部からの距離に比例させて求める。
【0052】なお、上記実施の形態では、図9のステップ950が移動量検出手段および針位置演算手段を、ステップ951が速度制限手段を示している。」
(イ)「【0019】第3に、上記第3の問題点を解決するためになされたもので、被縫製物の縫いの位置または縫い状態を縫いデータ等から判断し、XYテーブルの速度制限値を自動的に変更し、XYテーブルの振動を抑えて、高速運転できるミシンの制御装置を提供することにある。」

3.対比
そこで、本願発明と引用発明とを比較すると、引用発明の「針棒駆動機構」、「加工布」、「刺繍枠」、「ROM及び外部メモリカード」、「刺繍ミシン」は、それぞれ、本願発明の「縫い実行手段」、「刺繍対象物」、「刺繍対象物を保持する手段」、「記憶手段」、「刺繍縫いミシン」に相当し、引用発明の「加工布」と「刺繍枠」を合わせたものが、本願発明の「移動体」に、同じく、「刺繍形成動作に必要な加工布(刺繍枠)の一針毎のX,Y方向の移動量(針落ち点)を示す移動データ」が「縫いを実行する刺繍形状に応じて前記刺繍対象物を移動させる位置を特定するための縫い目データ」に、「刺繍枠の種類を検出する検出手段」が「移動体に関する情報を与えるための手段」に、それぞれ相当すると認められる。
また、引用発明の「検出手段の検出に基づいて縫製速度を変更する縫製速度変更手段」と本願発明の「移動体に関する情報と刺繍対象物の位置をパラメータとして前記縫い実行手段の縫い速度を制御するための速度制御手段」とは、移動体に関する情報をパラメータとして縫い実行手段の縫い速度を制御するための速度制御手段である限りにおいて一致する。
したがって、本願発明と引用発明を対比すると、両者は、
「針を上下動させて縫いを実行するための縫い実行手段と、
刺繍対象物と該刺繍対象物を保持する手段とを含み、移動することにより該刺繍対象物に刺繍を実現するための移動体と、
縫いを実行する刺繍形状に応じて前記刺繍対象物を移動させる位置を特定するための縫い目データを記憶するための記憶手段と、を備えた刺繍縫いミシンにおいて;
前記移動体に関する情報を与えるための手段と、
該移動体に関する情報をパラメータとして前記縫い実行手段の縫い速度を制御するための速度制御手段と、
を備えた刺繍縫いミシン。」
である点で一致し、以下の点で相違している。
[相違点]
本願発明は、速度制御手段が、刺繍対象物の位置を検出する位置検出手段から得られる刺繍対象物の位置を、1つのパラメータとして縫い実行手段の縫い速度を制御する、のに対して、引用発明では、当該構成を有しない点。

4.当審の判断
そこで、上記相違点について検討すると、本願明細書には「従来の構成の場合刺繍枠の移動距離のみが考慮され、布や刺繍枠等の大きさや重さ等との関係で縫い速度を制御することがなされていなかった。また、縫いを実行する位置に関して制御することもなされていなかった。移動体の重量が大きいと移動機構への負荷が大きくなるため、移動速度を遅くするのが望ましい。…また、刺繍枠はXY方向の移動装置に支持されて移動するようになっており、ミシン本体から離れて延出するに従って、負荷が大きくなり、また移動等に伴う振動等が生じやすくその位置が不安定になる。そのため、ミシン本体から延出する位置では移動速度を低下させるのが望ましい。」(段落【0003】)と記載され、本願発明の上記相違点に係る構成の技術的意義は、移動体の重さの他、縫いを実行する位置との関係でも縫い速度を制御すること、特に、移動体がミシン本体から延出する位置では、その移動装置の負荷が大きいので、移動速度を低下させることであると認められる。
しかしながら、上記引用文献2には、XYテーブル(本願補正発明の「移動体」に相当)上の縫製位置によって振動が異なり、例えば、中心部分を縫製する場合は布が振動を吸収するが、枠の縁部分を縫製する場合は、振動の影響をうけ易くなるので、XYテーブルの移動は、中心部分を縫製しておれば中心部に応じた速度制限値にし、枠の近くを縫製している場合は速度制限を下げ、また、枠と中心の間を縫製する場合の速度制限値は、中心部及び枠近くの速度制限値から中心部からの距離に比例させて求めるようにする点が開示されており(上記2.(2)参照)、また、一般に、刺繍ミシンにおいては、刺繍形成動作を実行する場合には、縫い針が針板上の加工布から抜けて上方位置にある間に、刺繍枠(加工布)を一針分だけ移動させるのであり、針棒駆動機構と同期して前記枠移動機構を制御することにより、加工布に対する刺繍形成動作が実行されることが技術常識であって(上記2.(1)(ア)、(イ)及び、特開昭62-112587号公報第4頁左下欄第16?20行、同公報第1頁17行?第2頁左上欄第3行参照)、前記引用文献2においても、ミシンを高速運転して刺繍を早くするためには、枠の移動のみを制御するのではなく、枠の移動と縫い速度が同期する(共に早くすることが可能とする)運転を行うことは当業者なら容易に想到し得る程度のことであったと認める。
そして、引用文献1、引用文献2は、いずれも、刺繍時における振動(刺繍枠の種類と共に、移動体上の縫製位置にも依存すると認められる)を防ぐための速度制御技術であるので、引用発明において、移動体に関する情報とともに、移動体上の縫製位置(本願発明の「刺繍対象物の位置」に相当)をパラメーターとして、同期させて刺繍枠の移動速度及び縫い速度を制御して、上記相違点に係る構成を設けることは当業者が容易になし得たことである。

さらに、本願発明の作用効果も、引用発明、引用文献2に記載された事項から当業者が予測できる範囲のものである。

したがって、本願発明は、引用発明、引用文献2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

5.むすび
以上より、本願発明は、引用発明及び引用文献2に記載の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、他の請求項に係る発明を検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-05-09 
結審通知日 2011-05-31 
審決日 2011-06-14 
出願番号 特願2000-155729(P2000-155729)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (D05B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 西藤 直人  
特許庁審判長 鳥居 稔
特許庁審判官 豊島 ひろみ
熊倉 強
発明の名称 刺繍縫いミシン  
代理人 柴沼 雅樹  
代理人 吉村 眞治  

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