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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16D
管理番号 1242200
審判番号 不服2010-10325  
総通号数 142 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-10-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-05-14 
確定日 2011-08-15 
事件の表示 特願2003-430246「固定式等速自在継手」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 7月14日出願公開、特開2005-188620〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
1.手続の経緯

本願は、平成15年12月25日の出願であって、平成22年2月12日(起案日)付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成22年5月14日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

2.本願発明

本願の請求項1ないし5に係る発明は、平成20年11月25日付け手続補正及び平成21年9月24日付け手続補正により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「【請求項1】
内球面に軸方向に延びる複数のトラック溝を形成した外輪と、外球面に軸方向に延びる複数のトラック溝を形成した内輪と、前記外輪のトラック溝と前記内輪のトラック溝とが協働して形成されるボールトラックに配されたトルク伝達ボールと、前記トルク伝達ボールを保持するポケットを有する保持器とを備え、前記外輪のトラック溝の中心を内球面の球面中心に対して、前記内輪のトラック溝の中心を外球面の球面中心に対して、それぞれ、軸方向に等距離だけ反対側にオフセットさせた等速自在継手であって、
前記ポケットと前記トルク伝達ボールとの間の軸方向すきまを-0.006?-0.035mmの範囲内に設定し、かつ、前記保持器と前記内輪との間の半径方向すきまのすきま/径比を0.9?2.3の範囲内(ただし、1以下を除く)に設定したことを特徴とする固定式等速自在継手。」

3.引用刊行物とその記載事項

これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物及びその記載事項は次のとおりである。

刊行物1 特開昭64-35122号公報
刊行物2 特開2002-188653号公報
刊行物3 特開2000-266071号公報

(1)刊行物1に記載された発明

刊行物1(特開昭64-35122号公報)には、「固定式等速ジョイント」に関して、図面とともに次の記載がある。

(ア)「トルク伝達において、内側部材は、外側部材内で、伝達力の半径方向分力によってボール平面に沿って強制的にセンタリングされる。従って、内側部材の外側部材に対する相対位置は、内側部材と外側部材の接点の位置精度による。軸角のついた状態において、ボールは軌道内を行ったり来たりして動く。」(3ページ右上欄17行?左下欄3行)

(イ)「その結果、内側部材は中間位置をとることになり、これは伝達システムとセンタリング・システムの間に半径方向あるいは一方向変形を引き起こす。そして、センタリング及び伝達の各面は、付加的強制力、その上更に偏心負荷を受ける事になる。この結果、ボール平面は軸角の2等分面からずれる。ジョイントの品質は、この結果、トルク伝達、摩擦損失、運転寿命並びに騒音などの点で低下する。」(3ページ右下欄3?11行)

(ウ)「第1図は、二つの伝達部材つまり外側部材12、内側部材56及びケージ34、複数のボール70そして支持ディスク50から構成される固定式等速ジョイントを示す。
センタリング面3’を有するケージ34は、外側部材12のセンタリング面2’内で、回転可能なようにセンター支持されている。センタリング面5’を有する支持ディスク50は、ケージ34のセンタリング面4’にピボット支持されていて、その平面500は、内側部材56の平面560と接している。ケージ34の窓340は、ジョイント回転軸G-Gとジョイントの中心点0で交差し、角(負荷平面1-7と6-7とが成す角)を2等分するボール平面8上において、ボール70の中心7を保持する。センタリング面2’、3’、4’、5’の中心2、3、4、5は0点と一致して示されている。トルク伝達に当ってボール70は、外側及び内側部材の軌道1’、及び6’と接触し合う。いわゆる円形軌道1’、及び6’は、実際は楕円横断面を持ったトロイダルであり、子午線面上にあるそれらの円形軌道の軸10及び60は、ジョイントの回転中心G-G上にある。また、それ等は、ボール平面8から等距離にある。ボール70と各軌道1’、6’の各接点100、600は、負荷平面1-7及び6-7上で、しかもボール平面8の左側にある。」(6ページ左下欄11行?右下欄16行)

(エ)「支持ディスク50には、特にジョイントの組立て時に必要な最大ジョイント角においてボールの自由な動きを確保するために、おおよそ軌道6’の反対側に切り欠き501を設けている。また、支持ディスク50は、衝撃力、繰り返し荷重、ケージの回転あるいは偏摩擦力などによるその回転を防ぐために、スプライン502を備えている。内側部材56のスプライン加工された内径部562をスプライン軸(図示せず)との連結のために示す。スプライン軸の延長部はスプライン502と嵌合するが、内側部材56に対する支持ディスク50の半径方向の動きを可能とするのに十分な半径方向の遊びを持っている。外側面561とセンタリング面4’間のギャップ(分離間隙)9の幅は、ここでは大まかな公差の寸法に設定されているが、これらの各面は、支持ディスク50に対する内側部材56の半径方向の最大移動に際しても接触する必要はない。製作精度が高いか、あるいは低負荷のジョイントにおいては、しかしながらこの幅は、例えば直径の1/1000相当の通常の隙間の状態に匹敵するものであってよい。」(8ページ左上欄4行?右上欄4行)

そうすると、上記記載事項(ア)?(エ)及び図面の記載からみて、上記刊行物1には次の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されているものと認められる。

「円形軌道1’を有する外側部材12と、円形軌道6’を有する内側部材56と、トルク伝達に当って外側部材12の円形軌道1’及び内側部材56の円形軌道6’と接触し合うボール70と、ボール70を保持する窓340を有するケージ34を備え、ボール70と円形軌道1’、円形軌道6’の各接点100、600は、負荷平面1-7及び6-7上で、しかもボール平面8の左側にある固定式等速ジョイントであって、
内側部材56の外側面561とケージ34のセンタリング面4’間のギャップ(分離間隙)9の幅は、直径の1/1000相当の通常の隙間の状態に匹敵するものである固定式等速ジョイント。」

(2)刊行物2に記載された発明

刊行物2(特開2002-188653号公報)には、「等速自在継手」に関して、図面とともに次の記載がある。

(オ)「【0002】
【従来の技術】自動車用等の等速自在継手、特に自動車用プロペラシャフトに使用される等速自在継手は、高速で回転するため、回転バランス性能と内部発熱の抑制が要求される。回転バランス性能を良くするには、ジョイント内部の隙間を小さく押さえなければならない。一方、内部の隙間を小さくすると、発熱が大きくなるため、それを抑制するには、面粗さを小さくし、部品同士の接触による摩擦抵抗を減らさねばならない。そのため、特に固定式ボールタイプの等速自在継手においては、内・外輪およびケージの各接触部を熱処理後に研削することで、寸法精度および面粗さを確保している。また、等速自在継手の内部の摩擦抵抗を減らす手段として、固体潤滑剤の被覆層を形成するもの(実開平2-121333号)等が知られている。」

(カ)「【0015】この発明において、上記保持器のポケットとボールとの軸方向隙間を正としても良い。通常、ドライブシャフト用の固定型の等速自在継手においては、ポケットとボールとの軸方向隙間は負とされるが、プロペラシャフト用の等速自在継手では、高速回転に対する発熱防止のため、上記軸方向隙間は正とすることが好ましい。」

(キ)「【0025】図9(A)において、保持器4のポケット9とボール3との軸方向隙間d3は、正の隙間とされる。通常、ドライブシャフト用の固定型の等速自在継手においては、ポケットとボールとの軸方向隙間は負(-0.01?-0.06mm)とされるが、この実施形態のプロペラシャフト用の等速自在継手では、ポケット隙間d3は正狙いとし、例えば、組立結果において、-0.004?+0.020mmの範囲になるようにすることが好ましい。」

上記記載事項(オ)?(キ)及び図面の記載からみて、上記刊行物2には次の技術事項(a),(b)を含む発明が記載されているものと認められる。
(a)等速自在継手は、回転バランス性能を良くするにはジョイント内部の隙間を小さく押さえなければならないが、内部の隙間を小さくすると、発熱が大きくなるため、それを抑制するには、部品同士の接触による摩擦抵抗を減らさねばならない。
(b)通常、ドライブシャフト用の固定型の等速自在継手においては、ポケットとボールとの軸方向隙間は負(-0.01?-0.06mm)とされるが、プロペラシャフト用の等速自在継手では、ポケット隙間d3は、-0.004?+0.020mmの範囲になるようにすることが好ましい。

(3)刊行物3に記載された発明

刊行物3(特開2000-266071号公報)には、「等速自在継手」に関して、図面とともに次の記載がある。

(ク)「【0004】一方、一般構成の等速自在継手は、トルク伝達ボールとボールトラックとの間に僅かなクリアランス(内部隙間)があり、回転方向の変化時、継手内部に回転バックラッシュ(円周方向のガタツキ)が生じることが不可避である。そのため、一般構成の等速自在継手をそのままステアリング装置に用いると、操舵時の操縦安定性やダイレクト感・シャープ感などが損なわれるという問題がある。
【0005】また、自動車用途において、等速自在継手はドライブシャフト用に多くの実績があり、通常、一般構成の等速自在継手はドライブシャフト用としての要求特性を満足できる設計仕様になっている。しかし、ステアリング装置では、ドライブシャフトに比較して、継手に負荷されるトルクが小さく、また継手の回転数も低いので、一般構成の等速自在継手では要求特性に対してオーバスペックの感があり、継手重量や製造コストを低減する観点から改良の余地がある。」

(ケ)「【0008】軸方向ポケット隙間δを0≦δ≦55μmとした理由は次にある。すなわち、この種の等速自在継手(固定型等速自在継手)では、通常、保持器によるトルク伝達ボールの案内機能{トルク伝達ボールを作動角θの2等分面(θ/2)に維持する機能:これにより継手の等速性が確保される。}を重視する見地から、軸方向ポケット隙間δをδ<0(負隙間)に設定し、保持器のポケットとトルク伝達ボールとの間に僅かな締代を与えている。しかし、軸方向ポケット隙間δを負にすることにより、トルク伝達ボールがボールトラック上を転動しにくくなるので、この種の継手が作動角を取りつつ回転トルクを伝達する際の回転抵抗(トルク)の点では不利になる。継手の回転抵抗は、ステアリング装置では、操舵力、ハンドル戻り等の性能に影響するので、可及的に小さい方が好ましい。一方、軸方向ポケット隙間δをδ≧0(正隙間)に設定することにより、トルク伝達ボールの転動性を高めて、継手の回転抵抗を低減することはできるが、軸方向ポケット隙間δを過大にすると、保持器によるトルク伝達ボールの案内機能が低下して、継手の等速性が崩れる。継手の等速性の崩れは、ステアリング装置では、異音の発生、引っ掛かり感等の操舵フィーリング低下につながる。従って、軸方向ポケット隙間δは、継手の回転抵抗を低減し、かつ、良好なフィーリング(回転の滑らかさ)を得る観点から、最適範囲に設定する必要がある。」

上記記載事項(ク)、(ケ)及び図面の記載からみて、上記刊行物3には次の技術事項(c)?(g)を含む発明が記載されているものと認められる。
(c)等速自在継手はドライブシャフト用に多くの実績があり、通常、一般構成の等速自在継手はドライブシャフト用としての要求特性を満足できる設計仕様になっている。
(d)固定型等速自在継手では、通常、保持器によるトルク伝達ボールの案内機能を重視する見地から、軸方向ポケット隙間δをδ<0(負隙間)に設定し、保持器のポケットとトルク伝達ボールとの間に僅かな締代を与えている。
(e)軸方向ポケット隙間δを負にすることにより、トルク伝達ボールがボールトラック上を転動しにくくなるので、この種の継手が作動角を取りつつ回転トルクを伝達する際の回転抵抗(トルク)の点では不利になる。
(f)ステアリング装置では、軸方向ポケット隙間δをδ≧0(正隙間)に設定することにより、トルク伝達ボールの転動性を高めて、継手の回転抵抗を低減することはできるが、軸方向ポケット隙間δを過大にすると、保持器によるトルク伝達ボールの案内機能が低下して、継手の等速性が崩れる。
(g)継手の等速性の崩れは、ステアリング装置では、異音の発生、引っ掛かり感等の操舵フィーリング低下につながるので、軸方向ポケット隙間δは、継手の回転抵抗を低減し、かつ、良好なフィーリング(回転の滑らかさ)を得る観点から、最適範囲に設定する必要がある。

4.発明の対比

(1)一致点

本願発明と刊行物1発明とを対比すると、刊行物1発明の「円形軌道1’」は、その機能からみて、本願発明の「内球面に軸方向に延びる複数のトラック溝」に相当し、以下同様に、「外側部材12」は「外輪」に、「円形軌道6’」は「外球面に軸方向に延びる複数のトラック溝」に、「内側部材56」は「内輪」に、「ボール70」は「トルク伝達ボール」に、「ボール70を保持する窓340」は「トルク伝達ボールを保持するポケット」に、「ケージ34」は「保持器」に、「固定式等速ジョイント」は「等速自在継手」ないし「固定式等速自在継手」に相当する。
そうすると、刊行物1発明の「円形軌道1’を有する外側部材12」は、実質的に、本願発明の「内球面に軸方向に延びる複数のトラック溝を形成した外輪」に相当する。
刊行物1発明の「円形軌道6’を有する内側部材56」は、実質的に、本願発明の「外球面に軸方向に延びる複数のトラック溝を形成した内輪」に相当する。
刊行物1発明の「トルク伝達に当って外側部材12の円形軌道1’及び内側部材56の円形軌道6’と接触し合うボール70」は、実質的に、本願発明の「前記外輪のトラック溝と前記内輪のトラック溝とが協働して形成されるボールトラックに配されたトルク伝達ボール」に相当する。
刊行物1発明の「ボール70を保持する窓340を有するケージ34」は、実質的に、本願発明の「前記トルク伝達ボールを保持するポケットを有する保持器」に相当する。
また、刊行物1発明の「ボール70と円形軌道1’、円形軌道6’の各接点100、600は、負荷平面1-7及び6-7上で、しかもボール平面8の左側にある」は、ボール平面8が負荷平面1-7と6-7とが成す角を2等分しているから(上記記載事項(ウ))、実質的に、本願発明の「前記外輪のトラック溝の中心を内球面の球面中心に対して、前記内輪のトラック溝の中心を外球面の球面中心に対して、それぞれ、軸方向に等距離だけ反対側にオフセットさせた」に相当する。

したがって、両者は、本願発明の表記にならえば、
「内球面に軸方向に延びる複数のトラック溝を形成した外輪と、外球面に軸方向に延びる複数のトラック溝を形成した内輪と、前記外輪のトラック溝と前記内輪のトラック溝とが協働して形成されるボールトラックに配されたトルク伝達ボールと、前記トルク伝達ボールを保持するポケットを有する保持器とを備え、前記外輪のトラック溝の中心を内球面の球面中心に対して、前記内輪のトラック溝の中心を外球面の球面中心に対して、それぞれ、軸方向に等距離だけ反対側にオフセットさせた等速自在継手である、固定式等速自在継手。」である点において一致している。

(2)相違点

一方、両者の相違点は、以下のとおりである。
[相違点1]
本願発明は、「前記ポケットと前記トルク伝達ボールとの間の軸方向すきまを-0.006?-0.035mmの範囲内に設定し、かつ、前記保持器と前記内輪との間の半径方向すきまのすきま/径比を0.9?2.3の範囲内(ただし、1以下を除く)に設定した」のに対し、刊行物1発明では、ポケットとトルク伝達ボールとの間の軸方向すきまがどの程度か明らかではなく、かつ、「内側部材56の外側面561とケージ34のセンタリング面4’間のギャップ(分離間隙)9の幅は、直径の1/1000相当の通常の隙間の状態に匹敵するものである」点。

5.相違点に対する当審の判断

まず、本願発明が「前記ポケットと前記トルク伝達ボールとの間の軸方向すきまを-0.006?-0.035mmの範囲内に設定し」た点について検討する(以下、「ポケットとトルク伝達ボールとの間の軸方向すきま」を適宜「軸方向すきま」と表現する)。
固定型の等速自在継手において、上記刊行物2に記載された発明では、ドライブシャフト用のポケットとボールとの軸方向隙間は負(-0.01?-0.06mm)とされ(技術事項(b))、上記刊行物3に記載された発明では、ドライブシャフト用の軸方向ポケット隙間δをδ<0(負隙間)に設定して保持器のポケットとトルク伝達ボールとの間に僅かな締代を与えている(技術事項(d))。他方、プロペラシャフト用の等速自在継手においては、正と負の値を跨る値であり(上記記載事項(キ)には、「-0.004?+0.020mm」である例が記載されている。)、ステアリング装置用の等速自在継手においては正の値である(上記記載事項(ケ)には、「軸方向ポケット隙間δを0≦δ≦55μm」である例が記載されている)。これらのことから、等速自在継手の用途や形式に応じて適切な軸方向すきまを設定することは技術常識であり、固定型(「固定式」と「固定型」は実質的な差異がないので、以下、適宜「固定式」と表現する。)等速自在継手においては、適切な軸方向すきまとして、僅かな締め代を与えるために負の値に設定することが、本願の出願前周知の事項であったものと解される。上記負の値について、上記刊行物2の保持器4のポケット9とボール3との軸方向すきまは、d3=-0.01?-0.06mmとされ、本願発明の-0.006?-0.035mmの範囲のすきまと-0.01?-0.035の範囲において重複するものである。上記d3は直径方向で見て片方のすきまであり、直径方向における軸方向すきまは幾何学的に2倍(d3×2)であるから、力学的に適切かどうかはさておき、(d3×2)=-0.02?-0.12mmとなり、本願発明の-0.006?-0.035mmの範囲のすきまと-0.02?-0.035の範囲において重複するものである。いずれにしても、本願発明の-0.006?-0.035mmの範囲は、本願の出願前周知の固定式等速自在継手における軸方向すきまの範囲と重複するものであって特異なものではないから、当業者が固定式等速自在継手の用途や要求仕様に応じて適宜設計変更することにより得られたものである。

次に、本願発明が「前記保持器と前記内輪との間の半径方向すきまのすきま/径比を0.9?2.3の範囲内(ただし、1以下を除く)に設定した」点について検討する(以下、「保持器と内輪との間の半径方向すきまのすきま/径比」を適宜「すきま/径比」と表現する)。上記すきま/径比は、本願の明細書の段落【0027】を参酌すると、保持器4の内径をD_(K2)、内輪2の外径をD_(I)、保持器基準内径(=内輪基準外径)をDとすると、
すきま/径比=1000(D_(K2)-D_(I))/D
で表されるものである。
ところで、固定式等速自在継手は、トルク伝達、摩擦損失、運転寿命並びに騒音など(上記刊行物1の記載事項(イ))を考慮して、すきまを含む各種の寸法関係を用途や要求仕様に応じて最適な設計しているものと解されるから、固定式等速自在継手を構成する保持器と内輪との間の半径方向すきまについても、用途や要求仕様に応じてその最適な大きさを設定することは設計事項の範ちゅうに属することである。そして、固定式等速時自在継手は回転に伴って保持器と内輪が一種の揺動運動をすることから、保持器と内輪の間の半径方向のすきま(隙間)の上記最適な大きさは、上記刊行物2の技術事項(a)や上記刊行物3の技術事項(e)に照らせば、摩擦抵抗や回転抵抗との関係において当業者が設計上考慮すべき事項であるものと解されるところ、幾何学的又は力学的に保持器の内径又は内輪の外径に見合った大きさにすべきことは明らかである。そうすると、刊行物1発明は、「内側部材56の外側面561とケージ34のセンタリング面4’間のギャップ(分離間隙)9の幅は、直径の1/1000相当の通常の隙間の状態に匹敵するものである」として、少なくとも最適なすきま/径比を設定すべきことを示唆しているから、当業者であれば上記設計事項の範ちゅうにおいてその最適値を見いだすことは容易なことである。
さらに、刊行物1発明のすきま/径比について具体的に見ると、その径は内側部材56の外径又はケージ34の内径のいずれであっても、当該径の寸法に比較して(D_(K2)-D_(I))が極めて小さい値であるから、刊行物1発明の直径の1/1000相当のギャップ(分離間隙)9の幅から、上記すきま/径比=1000(D_(K2)-D_(I))/Dを計算すると「1」に近接した値であることに変わりがない。本願発明は、上記すきま/径比を「0.9?2.3の範囲内(ただし、1以下を除く)」として、すきま/径比が「1」以下の範囲を除外するものであるが、「1」の近傍において刊行物1発明と差異があるものではない。
この点について、審判請求人は、平成22年5月14日の審判請求書の【請求の理由】(3)の項において、「刊行物1の場合、『直径の1/1000相当の隙間』というけれども、その隙間は直径値なのか半径値なのか定かでない。刊行物1の第8ページ左上欄第16行?右上欄第4行には『外側面561とセンタリング面4´間のギャップ(分離間隙)9の幅は…直径の1/1000相当の通常の隙間の状態に匹敵するものであってよい』とあり、また、刊行物1の図1は『ジョイントの真直状態における半長手方向断面図』(第13ページ右下欄第8?9行)で、符号『9』はケージ34と内輪56との間のすきまを指していることから、刊行物1における『隙間』は半径値と解される。」と主張している。
しかしながら、刊行物1発明のギャップ(分離間隙)9の幅が、内側部材56の直径の一方の側(すなわち、審判請求人が主張する「半径値」)のすきまを意味する場合には、上記直径値に換算すると2倍になるから、上記すきま/径比=1000(D_(K2)-D_(I))/Dの値は、「2」に近接した値となる。
さらに、審判請求人は、同項において、「とはいえ、『直径の1/1000』というときの『直径』が何の直径を意味するのか依然として不明である。『直径の1/1000』という以上、その『直径』が定まらない限り計算のしようもない。マイクロメートルオーダーの値を問題としており、しかもギャップ9の幅自体が数マイクロメートルあることから、ギャップ9の内径側を規定する内側部材56の外径か、それともギャップ9の外径側を規定するケージ34の内径かによって値はかなり違ったものとなる。」と主張している。
しかしながら、上記「すきま」と「径」は、その寸法のオーダーが大きく異なるものであり、上記「直径」の測り方によって上記すきま/径比=1000(D_(K2)-D_(I))/Dの値に有意な影響を与えるものではないことは上述のとおりである。
したがって、刊行物1発明において、上記すきま/径比の最適値を見いだすことは、当業者が上記設計事項の範ちゅうにおいて容易に想到し得たことである。

次に、本願発明が「軸方向すきま」に関する構成と「すきま/径比」に関する構成の両者を組み合わせた点について、さらに検討を進める。
本願発明の「軸方向すきま」について、本願の図6にポケットすきまと折り曲げ方向荷重との関係を示すポケットすきま感度線図が記載され、明細書の段落【0008】には「ポケットすきまの好ましい範囲は-0.006mm?-0.035mm」であることが記載されているが、その根拠は、同段落【0007】に「締めしろが小さい方が折り曲げ方向荷重低減効果が大きいが、-0.005mm近辺から効果が収束しているため、折り曲げ方向荷重低減という観点から寸法規定すると、上限値は-0.005mm前後であり、下限値は極力大きく設定する必要がある。」とあり、同段落【0008】に「下限値については、折り曲げ方向荷重低減のためにポケットすきまをより大きく確保し、かつ、現行の工程能力を満足する加工公差幅の最小値(量産実績値)から、-0.035mmとなる。」と記載されている。すなわち、本願発明の「軸方向すきま」の上限値は、折り曲げ方向荷重低減という観点から考慮されているが、上記刊行物2の技術事項(a)や上記刊行物3の技術事項(e)に挙げた摩擦抵抗や回転抵抗と隙間の関係に類似する観点から最適値を見いだしたことにほかならず、その下限値はこれらとは無関係に量産実績値の値を採用したものである。
また、本願発明の「すきま/径比」について、本願の図7にすきま/径比と折り曲げ方向荷重との関係を示す保持器/内輪間すきま感度線図が記載され、明細書の段落【0009】に「折り曲げ方向荷重低減効果が最大となる寸法を中央値に設定し、工程能力を満足する公差幅にて範囲を規定する。図7より、折り曲げ方向荷重低減効果が最大となるすきま/径比は1.6前後であり、公差幅を加味すると0.9?2.3となる。この範囲内での折り曲げ方向荷重の変動幅を図7で確認してみると、変動幅が最小となる設定であり、折り曲げ方向荷重の低減効果を最も有効に利用できる。」と記載されている。すなわち、本願発明の「すきま/径比」は、折り曲げ方向荷重低減という観点から考慮されているものの、上記軸方向すきまとは別に、上記刊行物2の技術事項(a)や上記刊行物3の技術事項(e)に挙げた摩擦抵抗や回転抵抗と隙間の関係に類似する観点から保持器と内輪との間の半径方向すきまの最適値を見いだしたことにほかならず、上記0.9?2.3の範囲は、その最適値である1.6を中央値に設定して工程能力を満足する公差幅にて範囲を規定したものである。
そうすると、上記相違点1に係る本願発明の「軸方向すきま」と「すきま/径比」の最適値は、上記のとおり、個別に実験をして最適値を求めたものであるから、それぞれ一定の効果はあるとしても、両者の相乗効果による折り曲げ方向の荷重を低減したことを意味するものではない。また、「軸方向すきま」の下限値は量産実績値を採用したにすぎず、「すきま/径比」の範囲は最適値である1.6を中央値に設定して工程能力を満足する公差幅にて範囲を規定したものである以上、これらの範囲に臨界的意義があるものではない。さらに、本願発明が特定する「軸方向すきま」と「すきま/径比」の範囲は、いずれも固定式等速自在継手において従来採用されていた値と重複又は近接するものであるから、当業者が上記刊行物1?3から予測できないような効果を奏するものでもない。

審判請求人は、上記審判請求書の【請求の理由】(3)において、「発明特定事項A『前記ポケットと前記トルク伝達ボールとの間の軸方向すきまを-0.006?-0.035mmの範囲内に設定した』に関しては、ポケットとボールとの軸方向すきまを負の値に設定することは周知技術であるとのご指摘であるが、単にポケットとボールとの軸方向すきまを負の値に設定することにとどまらず、ほかでもない発明特定事項B『前記保持器と前記内輪との間の半径方向すきまのすきま/径比を0.9?2.3の範囲内(ただし、1以下を除く)に設定した』とのコンビネーションを示唆するような記載は刊行物1?6のいずれにもなく、周知技術でもない。」と主張している。
しかしながら、審判請求人が主張するコンビネーションは、個別の実験によってそれぞれの最適値を得たものであるところ、その最適値に基づいて特定した範囲は、固定式等速自在継手において従来採用されていた値と重複又は近接するものであり、その上限値及び下限値に臨界的意義がないことは、上述のとおりである。よって、審判請求人の主張は採用できない。

したがって、本願発明は、刊行物1?3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

6.むすび

以上のとおり、本願発明、すなわち、本願の請求項1に係る発明は、刊行物1?3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そして、本願の請求項1に係る発明が特許を受けることができないものである以上、本願の請求項2ないし請求項5に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。



 
審理終結日 2011-06-21 
結審通知日 2011-06-22 
審決日 2011-07-05 
出願番号 特願2003-430246(P2003-430246)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F16D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 石田 智樹  
特許庁審判長 川上 溢喜
特許庁審判官 所村 陽一
山岸 利治
発明の名称 固定式等速自在継手  
代理人 城村 邦彦  
代理人 田中 秀佳  
代理人 白石 吉之  
代理人 熊野 剛  

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