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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C07C
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 C07C
管理番号 1242241
審判番号 不服2010-887  
総通号数 142 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-10-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-01-15 
確定日 2011-08-22 
事件の表示 平成10年特許願第529515号「マロン酸ニトリル誘導体アニオン塩、及びイオン伝導性材料としてのそれらの使用」拒絶査定不服審判事件〔平成10年7月9日国際公開、WO98/29389、平成12年7月11日国内公表、特表2000-508677〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、1997年12月30日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1996年12月30日、カナダ(CA)、1997年3月5日、カナダ(CA))を国際出願日とする出願であって、以降の手続の経緯は以下のとおりのものである。

平成17年 1月 4日 手続補正書
平成20年11月26日付け 拒絶理由通知書
平成21年 4月16日 意見書・手続補正書
平成21年 9月 8日付け 拒絶査定
平成22年 1月15日 審判請求書
平成22年 1月15日 手続補正書
平成22年 3月 2日 手続補正書(方式)
平成22年 4月20日付け 前置報告書
平成22年 7月23日付け 審尋

なお、上記平成22年7月23日付けの審尋に対して回答書は提出されなかった。

第2 平成22年1月15日付け手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成22年1月15日付け手続補正を却下する。

[理由]
1.平成22年1月15日付け手続補正の内容
平成22年1月15日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)は、本件補正前の特許請求の範囲である
「1.溶媒中にイオン性化合物を含むイオン伝導性材料であって、前記イオン性化合物は、集合の電気的中性をもたらすのに十分な数の少なくとも1つのカチオン性部分M^(m+)と会合するアニオン性部分を含む、マロン酸ニトリルから誘導され、Mがヒドロキソニウム、ニトロソニウムNO^(+)、アンモニウム-NH_(4)^(+)、原子価mを有する金属カチオン、原子価mを有する有機カチオン又は原子価mを有する有機金属カチオンであることを特徴とし、かつ該アニオン性部分が式R_(D)-Y-C(C≡N)_(2)^(-)又はZ-C(C≡N)_(2)^(-)のうちの1つに相当し、ここで、
- Zは、
j)-CN、-NO_(2)、-SCN、-N_(3)、FSO_(2)-、-CF_(3)、C_(n)F_(2n+1)CH_(2)-(nは1ないし8の整数)、フルオロアルキルオキシ、フルオロアルキルチオキシ、フルオロアルケニルオキシ、フルオロアルケニルチオキシ基:
jj)少なくとも1つの窒素、酸素、イオウ又はリン原子を含んでもよい1以上の芳香族核を有する基であって、該核は縮合核であってもよく、及び/又は該核はハロゲン、-CN、-NO_(2)、-SCN、-N_(3)、CF_(2)=CF-O-、基R_(F)-及びR_(F)CH_(2)-から選択される少なくとも1つの置換基を坦持してもよく、ここでR_(F)は1ないし12個の炭素原子を有するペルフルオロアルキルアルキル、フルオロアルキルオキシ基、フルオロアルキルチオキシ基、アルキル、アルケニル、オキサアルキル、オキサアルケニル、アザアルキル、アザアルケニル、チアアルキル、チアアルケニル基、重合体基、少なくとも1つのカチオン性イオノフォア基及び/又は少なくとも1つのアニオン性イオノフォア基を有する基;
から選択される電子吸引基を表し、
- Yは、カルボニル基又はスルホニル基を表し、及び:
- R_(D)は、
a)1ないし24個の炭素原子を有するアルキルもしくはアルケニル基、5ないし24個の炭素原子を有するアリール、アリールアルキル、アルキルアリールもしくはアルケニルアリール基、多環基を含む脂環式もしくは複素環基;
b)1ないし12個の炭素原子を有するアルキル又はアルケニル基であって、主鎖又は側鎖に少なくとも1つのヘテロ原子O、N又はSを含んでもよく、また、少なくとも1つの機能的エーテル、チオエーテル、アミン、イミン、アミド、カルボキシル、カルボニル、イソシアネート、イソチオシアネート、ヒドロキシを含んでもよい前記アルキル又はアルケニル基、及び1ないし24個の炭素原子を有するオキサアルキル、オキサアルケニル、アザアルキル、アザアルケニル、チアアルキル、及びチアアルケニル基;
c)芳香族核及び/又は該核の少なくとも1つの置換基が窒素、酸素、イオウのようなヘテロ原子を含む、アリール、アリールアルキル、アリールアルケニル、アルキルアリール又はアルケニルアリール基;
d)窒素、酸素、イオウから選択される少なくとも1つのヘテロ原子をおそらくは含む縮合芳香族環を含む基;
e)エーテル、チオエーテル、イミン、アミン、カルボキシル、カルボニル又はヒドロキシ基から選択される官能基を含んでもよい、ハロゲン化又は過ハロゲン化アルキル、アルケニル、アリール、アリールアルキル、アルキルアリール基;
f)R_(c)C(R’)(R”)-O-基(ここで、R_(c)はアルキル過フッ素化基であり、かつR’及びR”は互いに独立に水素原子又はCF_(3)CH_(2)O-、(CF_(3))_(3)CO-、(CF_(3))_(2)CHO-、CF_(3)CH(C_(6)H_(5))O-、及びCH_(2)(CF_(2))_(2)CH_(2)-から選択される基である);
g)(R_(B))_(2)N-基(ここで、同一であるか、もしくは異なるR_(B)基は上記a)、b)、c)、d)及びe)において定義されるようなものであり、R_(B)のうちの1つはハロゲン原子であってもよく、又は2つのR_(B)基が一緒にNと環を構成する二価の基を形成する);
h)重合体基;
i)1以上のカチオン性イオノフォア基及び/又は1以上のアニオン性イオノフォア基を有する基;
から選択される基であり、
- ただし、R_(D)又はZは一価の基、2より高い原子価を有し複数の-Y-C^(-)(C≡N)_(2)基を担持する基の一部又は重合体の一区画であってもよく;
- YがカルボニルかつR_(D)が1ないし3個の炭素原子を有するペルフルオロアルキル基である場合、又はZが-CNである場合には、Mはアルカリ金属とは異なり;
- 「重合体基」とは、少なくとも1つの側鎖置換基を有するポリエン、ポリ(オキシアルキレン)、ポリ(アザアルキレン)、ポリアニリン、ポリスチレン、ポリ(アルコキシシリル)、又はポリピロールを意味し;
- 「アニオン性イオノフォア基」とは、カルボキシレート官能基(-CO_(2)^(-))、スルホネート官能基(-SO_(3)^(-))、スルホンイミド官能基(-SO_(2)NSO_(2)-)、又はスルホンアミド官能基(-SO_(2)N-)を意味し;
- 「カチオン性イオノフォア基」とは、インドニウム、スルホニウム、オキソニウム、アンモニウム、アミジニウム、グアニジウム、ピリジニウム、イミダゾリウム、イミダゾリニウム、トリアゾリウム、ホスホニウム、又はカルボニウム基を意味する、
前記イオン伝導性材料。」

「【請求項1】
イオン性化合物を含むイオン伝導性材料であって、前記イオン性化合物は、集合の電気的中性をもたらすのに十分な数の少なくとも1つのカチオン性部分M^(m+)と会合するアニオン性部分を含む、マロン酸ニトリルから誘導され、Mが、原子価mを有する有機カチオンであることを特徴とし、かつ該アニオン性部分が式Z-C(C≡N)_(2)^(-)に相当し、ZはCNである、前記イオン伝導性材料。」
とする補正を含むものである。

2.補正の目的の適否
上記請求項1についての補正は、補正前の「溶媒中にイオン性化合物を含むイオン伝導性材料」を、「イオン性化合物を含むイオン伝導性材料」に補正するものであるから、補正前は溶媒を必須の成分としていたのに対し、補正後は溶媒を含まないものも包含するものとなった。
よって、上記補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当しない。
また、上記補正が、請求項の削除、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明を目的とするものにも該当しないことは明らかである。

3.まとめ
したがって、上記請求項1についての補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、その余のことを検討するまでもなく、本件補正は、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

4.本願補正発明についての検討
本件補正は、上述したように、却下されるべきものであるが、本件補正後の請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものではないことについても、以下に示す。

(1)特許法第36条第6項第1号について
ア.はじめに
特許法第36条第6項は、「第三項第四号の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定し、その第1号において「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること」と規定している。同号に規定する要件(いわゆる、「明細書のサポート要件」)に適合するか否かは、「特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきもの」(知財高裁特別部平成17年(行ケ)第10042号判決)であるから、この観点に立って検討する。

イ.発明の詳細な説明の記載
発明の詳細な説明には、次の事項が記載されている(なお、摘記箇所は、この出願の公表公報である特表2000-508677号の記載箇所によって示す。)。

(ア)「本発明のイオン伝導性材料は、電気化学一般における電解質として用いることができる。したがって、本発明は、電解質によって分離される陰極及び陽極を具備する電気化学的発電機であって、この電解質が上述のイオン伝導性材料であることを特徴とする電気化学的発電機を目的として有する。」(第27頁下から7行?下から4行)

(イ)「また、本発明のイオン伝導性材料は超電気容量において用いることもできる。したがって、本発明の別の目的は、少なくとも1つの高比表面(specific surface)を有する炭素電極、又は酸化還元重合体を含む電極を用いる超電気容量であって、電解質が上述のイオン伝導性材料である超電気容量を提供することにある。」(第28頁第9?13行)

(ウ)「また、本発明のイオン伝導性材料は導電性材料のpもしくはnドーピングに用いることも可能であり、この使用は本発明の別の目的を構成する。」(第28頁第14?15行)

(エ)「加えて、本発明のイオン伝導性材料はエレクトロクローム装置における電解質として用いることができる。電解質が本発明によるイオン伝導性材料であるエレクトロクローム装置は本発明の別の目的である。」(第28頁第16?18行)

(オ)「実施例13
ピリル-3酢酸(M=122)を、D. Delabouglise(These Universite de Paris-Nord, February 1991, “Molecular Control of Properties of Polymers”)の方法に従って作成した。488mgのこの化合物を、5mlのアセトニトリルと1mlのピリジンとの混合物中に溶解させ、これに648mg(40mモル)のカルボニルジイミダゾールを加えた。24時間後、そしてCO_(2)巻き込み(involvement)の終りに、417mg(40mモル)のマロノニトリルのカリウム塩を加える。混合物を、48時間、室温で撹拌した。溶媒を蒸発させてから、カリウム塩を、ブタノン-1,2ジクロロエタン混合物中で再結晶させて精製した。
アセトニトリル中にこの塩を5.10^(-2)/M含む10mlの溶液を作り、そして電気化学的電池のアノード区画室中の白金電極上で、電気重合を実行した。可撓性の導電性フィルムが得られ、このフィルム中ではドーピング(酸化)は外側での陽イオンと電子との交換により確実になる。この材料の電気伝導度は、約10S.cm^(-1)であり、また周囲雰囲気で安定である。未置換ピロールの存在下またはNまたは3位にオキシエチレン鎖を有するピロールの存在下で実行される電気重合により、共重合体類が与えられ、この共重合体類はまた安定であり、その色変化を使用してエレクトロクロムシステムを提供できる。
【化学構造式略】
(…中略…)
実施例18
4.8g(10mモル)の実施例14で得られたジ-2-エチルヘキシルアミノスルホニルマロノニトリルのカリウム塩を10mlの無水ニトロメタン中に溶解させたものに、グローブボックス中で1.17g(10mモル)のニトロソニウムテトラフルオロボレートNOBF_(4)(Aldrichから市販されている)を加える。1時間後、反応混合物をろ過して、不溶性のテトラフルオロホウ酸カリウムを除去し、ジ-2-エチルヘキシルアミノスルホニルマロノニトリルのニトロソニウム塩のニトロメタン中の1M溶液が得られる。
同様の方法により、ジブチルアミノスルホニルマロノニトリルのニトロソニウム塩のニトロメタン中の1M溶液を、ジブチルアミノスルホニルマロノニトリルのカリウム塩から作る。こうした塩は、共役ポリマー類(ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリン、...)のドーピングには特に興味深く、この塩は、このポリマー類に関知できる程の電子伝導度を与える。
【化学構造式略】
ガラスプレート上に、クロロホルム溶液から、立体規則性ポリ(3-ヘキシルチオフェン)(Aldrich, Milwaukee, USAから市販されている)の二つの堆積物を作成する。乾燥後、この堆積物を各々、ニトロメタン中に溶解させた上記の塩でドーピングした。ドーピング後、このようにして得られたポリ(3-ヘキシルチオフェン)の各フィルムでは、電子伝導度は1S.cm^(-1)を超え、かつ湿潤な媒質中での良好な安定性を有した。こうした堆積物は、半導体産業においてマスクを提供するために興味深いものだった。

実施例19
アルゴン下、0℃の100mlの無水テトラヒドロフラン中で、20.27g(100mモル)の4-スチレンスルホニルクロリドCH_(2)=CHC_(6)H_(4)SO_(2)Cl(Monomer-Polymer & Dajac Laboratoriesから市販されている)と10.42g(100mモル)のマロノニトリルと22.44g(200mモル)のDABCOとを反応させた。2時間、0℃で、さらに48時間、室温で置いた後、溶液をろ過して、形成されたDABCO塩酸塩を除去してから、溶液を4.24gの無水塩化リチウム(100mモル)で処理し、グローブボックス中に保管し、重量を測った。直ちにDABCO塩酸塩の沈殿物を形成し、そして6時間撹拌後、次に反応混合物を再度ろ過した。真空下で24時間、室温で蒸発させ、乾燥させた後、31.16gの4-スチレンスルホニルマロノニトリルのリチウム塩を回収し、これはプロトン及びカーボンRMNで特徴付けして97%を超える純度を有する。
【化学構造式略】
この塩を、陰イオン、陽イオンまたはフリーラジカル手段により開始する重合により、単独重合または共重合させることができる。またこれを、ビニリデンポリフルオライドのようなポリマーマトリックス上で照射することによりグラフトできる。
単独重合体は、脱気した水中でシアナオバレリック酸により60℃で開始するフリーラジカル重合により得られ、通常の有機溶媒類及び非プロトン性溶媒和ポリマー類とに可溶である。ポリエチレンオキシド中で濃度O/Liが16/1では、この塩は、100℃で電気伝導度≒5.2×10^(-4)S.cm^(-1)を有する。
その上、アセトン中の濃縮溶液中で(≒1Mのリチウム陽イオン)、4-スチレンスルホニルマロノニトリルのリチウム塩のこの単独重合体は、ディールス-アルダー反応の触媒として使用できる。

実施例20
実施例19に説明した方法と同様の方法に従って、ビニルスルホニルマロノニトリルのリチウム塩が、11.01g(100mモル)のエチレンスルホニルフルオライド(Fluka, Buchs, Switzerlandから市販されている)から得られ、これはプロトン及びカーボンRMNで特徴付けして98%を超える純度を有する。
【化学構造式略】
この塩を、フリーラジカル開始重合によって単独重合または共重合させることができる。
6.6gのエチレンオキシド共重合体でアリル二重結合を含み、分子量Mw=2.5×10^(5)を有するものを、アセトニトリル中に溶解させた。1.52gのビニルスルホニルマロノニトリル(PCT出願にはマロニトリルと見える)のリチウム塩と、実施例17に従って作られた50mgのフリーラジカル開始剤とを加えた。溶液を平底のPTFEの灰吹皿中で蒸発させ、そして容器を一次真空(primary vacuum)下で80℃、12時間オーブン中に置いた。架橋エラストマーが得られ、これに-SO_(2)C(CN)_(2)Li基が固定されていた。この材料は、陰イオンの固定された電解質を構成し、リチウムイオンによる伝導6.7×10^(-4)S.cm^(-1)と陽イオン性輸率0.92とを有する。

実施例21
60mlの無水ジメチルホルムアミド中の2.2g(25mモル)のエチレングリコールビニルエーテルCH_(2)=CHO(CH_(2))_(2)OHに、4.05gの実施例20で得られたビニルスルホニルマロノニトリルのリチウム塩と5.87g(42.5mモル)の無水炭酸カリウムK_(2)CO_(3)と330mg(1.25mモル)の18-クラウン-6(陽イオンK^(+)の錯化剤として働く)とを加える。次に反応混合物を、アルゴン下、80℃で撹枠した。48時間後、反応混合物を多孔度N°3のフリットガラス上で濾過し、溶媒を除去するために、減圧下で蒸発させた。乾燥後、残留化合物を、1.86g(25mモル)の無水カリウムKClを含む10mlの水中で再結晶させた。ろ過と乾燥後、7,8-オクテン-3,6-オキサ-1-スルホニルマロノニトリルのカリウム塩を回収し、これはプロトン及びカーボンRMNで特徴付けして98%を超える純度を有する。
【化学構造式略】
リチウム塩を定量的収率で得るために、カリウム塩を無水テトラヒドロフラン中で化学量論的量の無水塩化リチウムで処理し、反応混合物をろ過し、溶媒を蒸発させ、真空下で乾燥させた。
この塩を、陽イオン開始重合により、フリーラジカルによって開始し不飽和モノマーが交互に並ぶ重合により、単独重合または共重合させることができる。
ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを用い、陽イオン手段により開始した、無水アセトニトリル中の重合により作成された単独重合体は、ジメチルカーボネートとエチレンカーボネートとの混合物(2:1)中で0.8M濃度で、30℃で電気伝導度6×10^(-3)S.cm^(-1)を有する。その上、この単独重合体は、大部分の通常の有機溶媒類(テトラヒドロフラン、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、酢酸エチル、グライム類、...)とポリエチレンオキシドのような非プロトン性溶媒和ポリマー類とに可溶である。その結果、この単独重合体は良好なイオン導電性材料を構成する。
(…中略…)
実施例26
実施例25に説明した方法と同様の方法で、ビス[3-(トリメトキシシリル)プロピル]アミノスルホニルマロノニトリルのリチウム塩を、12.54g(40mモル)のビス[3-(トリメトキシシリル)プロピル]アミン[(CH_(3)O)_(3)Si(CH_(2))_(3)]_(2)NH)(Flukaから市販されている)から合成した。得られた化合物は、プロトン及びカーボンRMNで特徴付けして98%を超える純度を有した。
【化学構造式略】
この化合物は、実施例25の化合物と類似の特性を有し、同じ用途に使用できる。
この化合物の重縮合を水/メタノール混合物中で実行するため、1滴の濃塩酸を触媒として利用した。数時間後、溶媒を蒸発させ、得られた粘稠な液体をテフロン(登録商標)プレート上に注いだ。1週間、乾燥器中に50℃で置いた後、得られた材料を真空下、100℃で48時間乾燥させてから、アルゴン下で砕き、粒径約1ミクロンにした。次に複合電解質を製造するために、この粉末を、分子量300,000のポリエチレンオキシドと共にアセトニトリル中で混合した。この分散系をガラスリングに注ぎ、アセトニトリルを蒸発させると、厚さ220μmで良好な機械的品質を有する複合電解質のフィルムが得られる。この電解質は、60℃でイオン伝導度が10^(-5)S.cm^(-1)を超え、陽イオン性輸率0.92である。

実施例27
10.81g(40mモル)の実施例19の通りに製造した4-スチレンスルホニルマロノニトリルのリチウム塩と3.18g(40mモル)のアクリロニトリルと100mgの1,1’-アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)との100mlの無水テトラヒドロフラン中の溶液を、乾燥アルゴンでブラッシングして脱気した。アルゴン下で、アクリロニトリルとスチレン誘導体類との共重合を実行するために、反応混合物を60℃で48時間加熱した。冷却後、溶液を濃縮してから、ポリマーをエーテル中で再沈殿させて回収した。ろ過と乾燥後、ポリ-(アクリロニトリル-co-4-スチレンスルホニルマロノニトリルのリチウム塩(PANSSM)が得られた。
【化学構造式略】
このポリマーは、固定陰イオンを有するゲル化ポリマー電解質の作成を可能にする。これは、ゲルを得ることを可能にするマトリックスを構成し、かつ高分子電解質の特性を有する。
ゲル化電解質を作成した(30重量%のPANSSM、35%のエチレンカーボネート、35%のプロピレンカーボネート)。このゲルは、良好な機械的性質と30℃で電気伝導度7.9×10^(-4)S.cm^(-1)とを有する。この電解質の陽イオン性輸率は、0.95と見積もられた。電気化学的発電装置を作成するために、前記ゲル化電解質と、共重合体(PANSSM)(20容量%)をバインダーとして混合したカーボンコークス(80容量%)からなる複合アノードと、カーボンブラック(6容量%)、LiCoO_(2)(75容量%)及び共重合体(PANSSM)(20容量%)からなる複合カソードとを利用した。この発電装置は、25℃でサイクリングした際に、最初のサイクルの静電容量の80%を超える静電容量を維持することにより、3Vと4.2Vとの間での充電/放電を10,000サイクル行うことを可能にした。これは、固定陰イオンの利用という事実により、電力要求中の非常に良好な性能を有する。また固定陰イオンの使用により、界面抵抗の発生の改良が可能となった。

実施例28
13.44g(50mモル)の1-ドデカン-スルホニルクロリドCH_(12)H_(25)SO_(2)C1(Lancasterから市販されている)を-20℃の30mlの無水テトラヒドロフラン中に溶解させたものを、8.8g(100mモル)のナトリウムマロノニトリルで処理した。1時間0℃で、さらに24時間室温で置いた後、溶媒を蒸発させ、生成物を30mlの水中で再生した。3.73g(50mモル)の無水塩化カリウムKC1を加えたことで、沈殿物を得ることが可能になり、この沈殿物を再結晶させ、ろ過により回収し、最後に乾燥させた。1-ドデカンスルホニルマロノニトリルのカリウム塩を、結晶化粉末の形態で得、これはプロトン及びカーボンRMNで決定して99%を超える純度を有する。
【化学構造式略】
同様に実施して、1-ブタンスルホニルマロノニトリルと1-オクチルスルホニルマロノニトリルとのカリウム塩を各々、1-ブタンスルホニルクロリドと1-オクタンスルホニルクロリドとから得た。
これら三つの誘導体のリチウム塩を定量的量作るために、無水テトラヒドロフラン中でカリウム塩と塩化リチウムとをイオン交換した。
1-ドデカンスルホニルマロノニトリルのリチウム塩をポリエチレンオキシドのマトリックス中に溶解させて、濃度O/Li=16/1としたものは、陽イオン性輸率≒0.55を有する。この結果、ポリマー電解質を用いたリチウム電池の電解質中にこの化合物を使用する際、電池の動作最中に現われる濃度勾配は実質的に減少する。電力要求中の性能は従って改良される。
1-ドデカンスルホニルマロノニトリルの塩は、リチウム積層の添加剤及びポリマー類の押出しの特にポリエチレンオキシドの押出しの添加剤として否定できな利点を有した。
(…中略…)
実施例31
100mlの水中の8.33gの実施例30に従って得られた2-プロペン-スルホニルマロノニトリルのカリウム塩(40mモル)に、6.9gの3-クロロ過安息香酸(40mモル)、これはSchwartz & Blumbergs(J. Org. Chen, (1964), 1976)により説明される手順に従って得られた、を加える。1時間強く撹拌した後、溶媒を蒸発させ、そして残留物を10mlのエタノール中で再結晶させた。ろ過と乾燥後、2,3-エポキシプロペン-1-スルホニルマロノニトリルのカリウム塩を回収し、これはプロトン及びカーボンRMNで特徴付けして98%を超える純度を有した。
【化学構造式略】
リチウム塩を得るために、カリウム塩を無水テトラヒドロフラン中で化学量論的量の無水塩化リチウムで処理し、反応混合物をろ過し、溶媒を蒸発させ、真空下で乾燥させた。
この塩を、陰イオンまたは陽イオン手段で開始する重合により、単独重合または共重合させることができる。より一般的にはこうした塩は、オキセタンが関連する化学反応を受けることができる。
2,3-エポキシブタン-1-スルホニルマロノニトリルのカリウム塩の単独重合体を作成するために、テトラヒドロフラン中でカリウムt-ブトキシドを用いて陰イオン手段により開始する重合を行い、さらにそのリチウムポリ塩を得るために、THF中の無水塩化リチウムでイオン交換した。後者はゲル化媒質(21重量%のポリアクリロニトリル、38%のエチレンカーボネート、33%のプロピレンカーボネート、8%の単独重合体)中で、30℃で電気伝導度1.2×10^(-3)S.cm^(-1)を有する。この電解質の陽イオン性輸率は0.76である。その上、この単独重合体は、大部分の通常の有機溶媒類(テトラヒドロフラン、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、酢酸エチル、グライム類、...)及び非プロトン性溶媒和ポリマー類とに可溶である。
(…中略…)
実施例33
13.21g(200mモル)のマロノニトリルを、15?20℃の150mlのTHF中に溶解させた。次にアルゴン下で、44.87g(400mモル)のDABCOと21.18g(200mモル)の臭化シアンBrCNとを加えた。4時間-20℃で、さらに24時間室温で撹拌後、反応混合物をろ過して、DABCO塩酸塩を除去した。次に8.48gの無水塩化リチウム(200mモル)を加えた。24時間撹拌後、反応混合物をろ過して、DABCO塩酸塩を除去した。溶媒の蒸発と乾燥後に、19g(98%収率)のトリシアノメタンのリチウム塩LiC(CN)_(3)を回収し、これはプロトン及びカーボンRMNで特徴付けして98%を超える純度を有した。
エーテル溶液中で酸を得るために、0℃の100mlの1M塩酸(100mモル)を、30mlのエーテル中の9.7gのトリシアナオメタンのリチウム塩の懸濁液に加えた。数分撹拌後、トリシアナオメタンをエーテル相中に回収した。有機相を硫酸マグネシウムで乾燥後、7.15gのイミダゾール(105mモル)を加えた。沈殿物が直ちに形成され、これをろ過と乾燥とにより回収した。15.23g(96%収率)のトリシアノメタンイミダゾリウムを回収し、これはプロトン及びカーボンRMNで特徴付けして99%を超える純度を有した。

グローブボックス中で、7のイミダゾールに対し2のイミダゾリウム塩のモル混合物を砕き、乳鉢中に液体が得られることを可能にした。この融解塩は高いプロトン伝導度を有し、60℃で10^(-3)S.cm^(-1)を超えた。この融解塩を使用して、無水プロトン導体であるポリマー電解質を作ることができ、そのためにポリエチレンオキシドを、好ましくは高分子量のものかまたは後で架橋する可能性のあるものを、電気伝導度を損なわずに融解塩を加える。こうしたポリマー電解質類は、色材を用いたエレクトロクロムシステムをはじめとして、エレクトロクロムグレージングのような光変調システムを作成するために特に興味深い。
80重量%の融解塩と20重量%の分子量5×10^(6)のポリエチレンオキシドからなるポリマー電解質を使用してメンブランを作成したが、このメンブランは可視範囲で光学的に透明でありかつ良好な機械的挙動を有する。次にエレクトロクロムシステムをグローブボックス中で作成するために、このメンブランを利用して、ガラスプレート上の水素化酸化イリジウムH_(X)IrO_(2)の層と酸化スズの下位導電層との堆積物からなる第一の電極と、三酸化タングステンWO_(3)の層と酸化スズの導電性下位層とからなる第二の電極との間にメンブランを封入した。このエレクトロクロムでは、80%(退色状態)?30%(発色状態)の間の光学的吸収の変動と、サイクリング時の良好な性能(20,000サイクルを超える)が可能となっている。

実施例34
6.61gのマロノニトリル(100mモル)を-20℃の50mlのTHF中に溶解させたものに、795mgの水素化リチウムLiHを一部分ずつ加える。2時間-20℃で置いた後、20.14g(100mモル)の1-(トリフルオロメタンスルホニル)イミダゾール(Flukaから市販されている)を加える。反応を4時間-20℃で、そして48時間室温で続ける。次に溶媒を蒸発させてから、残留物を60mlの水中に再生した。次に14.66g(100mモル)の1-エチル-3-メチル-1H-イミダゾリウムクロリド(Aldrichから市販されている)を、水溶液に加える。水よりも密度の高い高密度相が、直ちに形成された。この相を、ジクロロメタンで抽出して回収した。ジクロロメタンを蒸発させ、得られた液体を真空下40℃で乾燥後、トリフルオロメタンスルホニルマロノニトリルの1-エチル-3-メチル-1H-イミダゾリウムの融解塩が得られ、これはプロトン、カーボン及びフッ素RMNで特徴付けして98%を超える純度を有した。
【化学構造式略】
この融解塩は、電気伝導度4.5×10^(-3)S.cm^(-1)と、凝固点-20℃未満を有する。この塩はレドックス安定性の範囲が広いため、リチウム電池のような電気化学的発電装置、スーパーキャパシタンス、光変調システム、光電池のために特に興味深い電解質となる。
電気化学的スーパーキャパシタンスを製造するために、トリフルオロメタンスルホニルマロノニトリルの1-エチル-3-メチル-1H-イミダゾリウムの融解塩を電解質として、また炭素/アルミニウム複合材料を電極として利用した。厚さ150μmの電極を、厚さ40μmを有する微孔質ポリエチレンの両側に置き、そして完成したシステムを融解液体塩に浸漬した後、グローブボックス中でボタン電池のハウジング内に封止した。得られたスーパーキャパシティーは0Vと2.5Vとの間での充電/放電が100,000サイクルを超えることが可能で、その際エネルギー密度は25Wh/lを超え、伝達出力は1,500W/lを超えた。
(…中略…)
実施例44
-20℃の100mlの無水THF中の18.11g(100mモル)の6-ブロモ-1-ヘキサノールと11.22g(100mモル)のDABCOとに、19.06g(100mモル)のトシルクロリドをゆっくり加える。24時間、-20℃で撹拌後、反応混合物をろ過して、DABCO塩酸塩の沈殿物を除去した。溶媒を蒸発させた後、定量的量の6-ブロモ-1-ヘキサノールトシラートCH_(3)FSO_(2)O(CH_(2))_(6)Brを回収した。この化合物をその後、40gのアニリンFNH_(2)(200mモル)と共に20mlのTHF中に溶解させ、そしてこの溶液を加熱して一晩中還流した。冷却後、300mlの水を加えてから、有機相をエーテルで抽出した。水で洗浄後、エーテル相を硫酸マグネシウムで乾燥させた。蒸発と乾燥後、23gのN-(6-ブロモヘキシル)アニリンが得られた。
グローブボックス中、アルゴン下で作業し、9.2gの実施例29に従って作られた1-フルオロ-2,2,2-トリフルオロエタンスルホニルCF_(3)CHFSO_(2)F(50mモル)を、10mlの無水テトラヒドロフラン中に溶解させた。この溶液の温度を-20℃にした後、カリウムt-ブトキシド(CH_(3))_(3)COK(Aldrichから市販されている)のテトラヒドロフラン中の1M溶液50mlをゆっくり加える。15分後、12.8l(50mモル)のN-(6-ブロモヘキシル)アニリンを加えた。反応を2時間-20℃で、そして24時間室温で続ける。次に8.8g(50mモル)のナトリウムマロノニトリルと5.61gのDABCOとを加えた。48時間後、反応混合物をろ過して、DABCO塩酸塩の沈殿物を除去し、溶媒を蒸発させ、そして残留物を、7.46(100mモル)の塩化カリウムKClを含む50mlの水中に再結晶させた。ろ過と乾燥後、1-(6-アニリノ-1-ヘキサン)-2,2,2-トリフルオロエタンスルホニルマロノニトリルのカリウム塩が得られ、これはプロトン、カーボン及びフッ素RMNで特徴付けして99%を超える純度を有した。
8.87gのこの化合物(20mモル)をその後、200mlの塩酸の1M溶液中に溶解させてから、3時間の間に、4.56g(20mモル)の過硫酸アンモニウム(NH_(4))_(2)S_(2)O_(8)をゆっくり加える。反応を14時間続ける。次に反応混合物を水酸化カリウムで中和してから、体積を≒40m1に濃縮した。ろ過と乾燥後、5.9gの次の化合物の黒色の粉末を回収した。
【化学構造式略】
このポリマー化合物は、その構造中に、非常に非局在化しているドーピング陰イオンを含んでおり、電子導体の特性(PCE)を示す。この陰イオンは塩基性特質が低いため、このポリマーの安定性を改良する。湿潤な媒質中では、4点測定で決定したこの電気伝導度は、始めは約4S.cm^(-1)である。
この材料を電池のカソードとして試験した。電池は次の構造を有した。
-複合カソード:40容量%の本実施例で得られるポリマー化合物と60容量%の分子量3×10^(5)のポリエチレンオキシドとからなる;
-電解質:実施例28で得られるブタンスルホニルマロノニトリルのリチウム塩を含み、濃度O/Li=20/1で、分子量5×10^(6)のポリエチレンオキシドのフィルムからなる;
-金属リチウムアノード。
組み立て体をボタン型電池のハウジング内に取り付けた後、得られた電池を、温度60℃で3Vと3.9Vとの間でサイクルした。1,000サイクルを超えた充電/放電が可能であり、同時に最初のサイクルの静電容量の80%を保った。
加えて、本実施例のポリマー化合物は、フェラスメタル類の良好な腐食抑制剤であり、また、コロナ効果により処理したプラスチック材料上に堆積物を生成することを可能にする。
(…中略…)
実施例46
10mlのアセトニトリル中の1.98g(0.1mモル)のスルホニルジイミダゾールに、20mlのエーテル中に溶解させた1.42g(0.2mモル)のナトリウムマロノニトリルを加える。沈殿物が数分で形成される。混合物を中性雰囲気中で2時間撹拌してから、これをろ過し、2分割した20mlエーテルで洗浄した。次の陰イオンのリチウム塩が、白色の固体の形態で得られた。
【化学構造式略】
この塩は、プロピレンカーボネートのような極性溶媒類またはエチレンオキシドを主原料とする溶媒和するポリマー類に可溶であり、90℃で電気伝導度約10^(-4)S.cm^(-1)を与え、リチウムとの界面安定性が優れている。

実施例47
実施例2で得られたトリフルオロメタンスルホニルマロノニトリルのリチウム塩と実施例31で得られた2,3-エポキシプロパン-1-スルホニルマロノニトリルのリチウムポリ塩とを、リチウム-ポリマー技術に従って電気化学的発電装置内で試験した。
各塩毎に電池を作成するために、次の層を重ね合せた。
-集電体:厚さ2mmのステンレス鋼;
-カソード:厚さ72μmの二酸化バナジウム(45容量%)と、Shawinigan black(登録商標)(5容量%)と、分子量Mw=3×10^(5)のポリエチレンオキシド(50容量%)とを有する複合材料のフィルムのパステルからなる;
-電解質:二種類のリチウム塩の一つを濃度O/Li=15/1で含む、分子量Mw=5×10^(6)のポリエチレンオキシドのフィルムのパステルからなる;
-アノード:厚さ50μmを有する金属リチウムのシートからなる;
-集電体:上記集電体と同様のもの。
電極と電解質とを構成するパステルをグローブボックス中で切り取り、上記に示した順序で積み上げた。
その後集電体を、得られた電池の両側に置いた。
発電装置を雰囲気から保護しかつフィルムに機械的応力を及ぼすことを可能にするボタン型電池のハウジング内に、この組み立て体を封止した。次に電池をエンクロージャ内にアルゴン下で置き、温度60℃の乾燥器中に置いた。その後これを、1.8Vと3.3Vとの間で、充電と放電との速度をC/10(10時間で充電または放電をする公称静電容量)でサイクルした。
得られたサイクルの曲線を図1に示す(トリフルオロメタンスルホニルマロノニトリルのリチウム塩:曲線A;2,3-エポキシプロパン-1-スルホニル-マロノニトリルのリチウムのポリ塩:曲線B)。この図で、使用量Uは%で表わされて縦座標に示され、サイクル数Cは横座標に示されている。」(第47頁第5行?第81頁最下行)

ウ.発明の詳細な説明に記載された発明
発明の詳細な説明には、本願補正発明であるイオン伝導性材料は、「電気化学的発電機」、「超電気容量」、「エレクトロクローム装置」等の「電気化学一般における電解質」としての使用、「導電性材料のpもしくはnドーピング」としての使用を課題とすることが記載されている(摘記(ア)?(エ))。
それに対して、本願補正発明のうち、当業者が上記課題を解決できると認識できるように、具体的に電気伝導度を測定し、イオン伝導性材料としての使用可能性を確認した例は、実施例33の

の融解塩のみである(摘記(オ))。
そうすると、発明の詳細な説明に、当業者が上記課題を解決できると認識できるように具体的にデータを伴って記載されているのは、
「イオン性化合物を含むイオン伝導性材料であって、前記イオン性化合物は、集合の電気的中性をもたらすのに十分な数の少なくとも1つのカチオン性部分M^(m+)と会合するアニオン性部分を含む、マロン酸ニトリルから誘導され、Mが、原子価mを有する有機カチオンであることを特徴とし、かつ該アニオン性部分が式Z-C(C≡N)_(2)^(-)に相当し、ZはCNである、前記イオン伝導性材料。」
ではなく、


を含むイオン伝導性材料」
の発明である。

エ.特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明であるか、についての判断

上記ウ.に示したように、発明の詳細な説明には、


を含むイオン伝導性材料」
の発明が記載されているのであって、
「イオン性化合物を含むイオン伝導性材料であって、前記イオン性化合物は、集合の電気的中性をもたらすのに十分な数の少なくとも1つのカチオン性部分M^(m+)と会合するアニオン性部分を含む、マロン酸ニトリルから誘導され、Mが、原子価mを有する有機カチオンであることを特徴とし、かつ該アニオン性部分が式Z-C(C≡N)_(2)^(-)に相当し、ZはCNである、前記イオン伝導性材料。」
の全てについては、実体を伴って記載された発明とはいえないので、本願補正発明は、発明の詳細な説明に記載された発明ではない。

オ.特許請求の範囲に記載された発明が、当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえるか、についての判断

本願補正発明におけるカチオン性部分Mは、「原子価mを有する有機カチオン」であるところ、上記ウ.に示したように、発明の詳細な説明に、当業者が本願補正発明の課題を解決できると認識できるように具体的にデータを伴って記載されているのは、


を含むイオン伝導性材料」、すなわち、カチオン性部分Mがイミダゾリウムカチオンである場合のみである。
そして、本願補正発明には包含されない化合物について検討しても、発明の詳細な説明において、電気伝導度が具体的に測定され、イオン伝導性材料としての使用可能性が確認されたカチオン性部分Mが、「原子価mを有する有機カチオン」であるものは、1-エチル-3-メチル-1H-イミダゾリウムカチオン、すなわち、置換基を有するイミダゾリウムカチオンである場合のみである。
また、「原子価mを有する有機カチオン」でないものを含めたとしても、Li^(+)、K^(+)、NO^(+)のみである(摘記(オ))。
そうすると、カチオン性部分Mが、どのようなものであっても、イオン伝導性材料として使用できるとまでは認識できず、あくまで電気伝導度の確認された個々の化合物についてのイオン伝導性材料として使用可能性が認識できるにすぎない。
したがって、本願補正発明のうち、カチオン性部分Mがイミダゾリウムカチオン以外の「原子価mを有する有機カチオン」である場合については、本願補正発明の課題が解決できることが、発明の詳細な説明の記載に基づいて認識できるということはできない。
また、具体的に電気伝導度が確認されていなかったとしても、カチオン性部分Mがイミダゾリウムカチオン以外の「原子価mを有する有機カチオン」である場合にも、イオン伝導性材料として使用でき、本願補正発明の課題を解決できると認識できることが、出願時の技術常識であったともいえない。

以上によれば、本願補正発明が、発明の詳細な説明の記載により、当業者が、本願補正発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえず、また、その記載や示唆がなくとも、当業者が出願時の技術常識に照らし、上記課題を解決できると認識できる範囲のものであるともいえない。

カ.請求人の主張について
請求人は、平成22年3月2日に補正された審判請求書の請求の理由において、以下の主張をしている。

「3.理由1(特許法第36条第4項)及び理由2(特許法第36条第6項第1号)に対する意見
原査定の指摘は、「請求項中には、多数の選択肢を有する化合物が記載されているが、発明の詳細な説明では、特定の化合物についての具体的製造例、効果が記載されているにすぎず、発明の詳細な説明をみても、また、出願時の技術常識に照らしても、当該具体例から請求項中の化合物全体にまで拡張ないし一般化できるとはいえず、さらに、上記具体例以外の部分についてどのように製造し、どのような効果を奏するかも、当業者が理解できる程度に記載されているものとは認められない。」というものです。
これに対して、請求項1に係る発明を、上記補正により、本願明細書の実施例33に記載される態様に限定しました。また、請求項2?7に記載の発明は、請求項1に従属する発明です。したがって、上記の補正により、理由1及び理由2の指摘は解消されたと思料します。本願の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしており、また、本願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしています。」

そこで、上記主張について検討すると、本願補正発明は、カチオン性部分Mが、上記実施例33のイミダゾリウムカチオン以外の「原子価mを有する有機カチオン」も包含するものであり、その場合については、発明の詳細な説明に、具体的に記載されておらず、また、具体的に電気伝導度が確認されていなかったとしても、イオン伝導性材料として使用でき、本願補正発明の課題を解決できると認識できることが、出願時の技術常識であったともいえないことは、上記オ.で述べたとおりである。
したがって、請求人の主張は採用できない。

キ.まとめ
以上のとおり、本願補正発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとは認められないし、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとも認められない。
したがって、この出願の特許請求の範囲の請求項1の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合しないというべきであり、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

(2)特許法第29条第2項について
ア.刊行物及び記載事項
この出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である下記刊行物1?4には、次の事項が記載されている。

刊行物1:Bull. Chem. Soc. Jpn., 43(10), p.3101-3106(1970)
(前置報告書で提示された「参考文献O」と同じ。)
刊行物2:特開平1-284508号公報
刊行物3:特開平8-81553号公報
刊行物4:Bull. Chem. Soc. Jpn., 47(2), p.448-454(1974)
(前置報告書で提示された「参考文献Q」と同じ。)

(ア)刊行物1(Bull. Chem. Soc. Jpn., 43(10), p.3101-3106(1970)、なお、日本語訳は合議体による。)
(1-1)「有機カチオン(ピリリウムカチオン又はチオピリリウムカチオン)と有機アニオン(1,1,3,3-テトラシアノプロペニド又はトリシアノメタニド)からなる新規な有機電荷移動塩が製造された。吸収スペクトルは溶液と固体の両方で研究された。これらの塩は、アニオンからカチオンへの電荷移動の結果、可視領域で電荷移動バンドを有している。これらの塩の溶液中での電荷移動バンドは溶媒の性質に影響を受けやすい。電荷移動バンドは極性の低い溶媒中で観察され、極性の高い溶媒中では短波長側にシフトする。溶媒の極性の増加は、モル吸光係数の明白な低下を引き起こす。固体中の電荷移動バンドは、溶液中と比較して短波長側にシフトする。単結晶では、偏光吸収スペクトルが顕著な二色性を示す。」(第3101頁Abstract)

(イ)刊行物2(特開平1-284508号公報)
(2-1)「側鎖に-OH基を有し、その側鎖のうち少なくとも一部がリン酸化されアルカリ金属塩となっている高分子物質を含むことを特徴とするイオン伝導性組成物。」(特許請求の範囲第1項)

(ウ)刊行物3(特開平8-81553号公報)
(3-1)「【請求項1】 直鎖、分岐鎖、ないし多分岐鎖、場合によっては架橋連鎖を内包する高分子材料であって、イオン置換基がY基の反応による下記(I)式に対応するイオン性モノマーから誘導されることを特徴とする高分子材料。
M〔Y-{O-(CHR)_(p)-(CH_(2))_(q)}_(n)-C(SO_(2)R_(F))_(2)〕_(m) ・・・(I)
ここで、
- Mはプロトン、アルカリ金属の陽イオン、アルカリ土類金属の陽イオン、遷移金属の陽イオン、稀土類の陽イオン、アンモニウム陽イオン、アミジニウム、グアニジニウム、ピリジニウム、フォスフォニウム、スルフォニウム、少なくとも一つの置換イオンを有するアンモニウム、オキソニウムから選ばれる有機陽イオン、
- mは陽イオンMの原子価、
- R_(F)は1個から8個の炭素原子、好適には1個から4個までの炭素原子を有する直鎖ないし分岐鎖ペルフルオロアルキル基、
- Rは1個から4個までの炭素原子を有するアルキル基若しくは水素原子、
- Yはアリル基、グリシジル基、ビニルベンジル基、アクリロイル基、メタクリロイル基若しくは水素原子、
- 0≦n≦40、好適には0≦n≦10、
- 1≦p+q≦4、
- n=0の時、Yはアリル基、グリシジル基またはビニルベンジル基、である。
(…中略…)
【請求項11】 請求項1から10のいずれかの請求項に記載の高分子材料を少なくとも一つ含有することを特徴とするイオン伝導性材料。」(特許請求の範囲)

(3-2)「本発明は、特に電気化学的装置に用いるイオン伝導性を呈する高分子材料に関する。」(段落【0001】)

(エ)刊行物4(Bull. Chem. Soc. Jpn., 47(2), p.448-454(1974)、なお、日本語訳は合議体による。)
(4-1)「ピリリウムカチオン又はチオピリリウムカチオンとポリシアン酸アニオンからなる有機電荷移動(CT)塩の光伝導性と半導体への特性が単結晶で研究された。
(…中略…)
暗輸送体、光輸送体、常磁性種と励起CT状態の関係から、CTの相互作用による輸送体の発生と、捕捉伝導による輸送体の移動を伴う電気伝導のメカニズムが提案された。」(第448頁Abstract)

(4-2)「有機電荷移動(CT)塩は、有機カチオンとアニオンからなるイオン性化合物に含まれるものであり、構成イオン間のCT相互作用を有している。」(第448頁左欄第1?3行)

(4-3)「

」(第448頁左欄下)

(4-4)「

」(第449頁右欄)

イ.刊行物1に記載された発明
刊行物1には、「有機カチオン(ピリリウムカチオン又はチオピリリウムカチオン)と有機アニオン(1,1,3,3-テトラシアノプロペニド又はトリシアノメタニド)からなる新規な有機電荷移動塩」が記載されているから(摘記(1-1))、刊行物1には、
「有機カチオン(ピリリウムカチオン又はチオピリリウムカチオン)と有機アニオン(トリシアノメタニド)からなる有機電荷移動塩」
の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているといえる。

ウ.本願補正発明と引用発明1の対比
本願補正発明と引用発明1を対比すると、引用発明1の「有機電荷移動塩」は、カチオンとアニオンからなる「イオン性化合物」であるから、本願補正発明の「イオン性化合物」に相当する。
そして、引用発明1の「有機カチオン(ピリリウムカチオン又はチオピリリウムカチオン)」は、本願補正発明の「カチオン性部分M^(m+)」、「原子価mを有する有機カチオン」である「M」に相当し、引用発明1の「有機アニオン(トリシアノメタニド)」は、本願補正発明の「マロン酸ニトリルから誘導され」た「式Z-C(C≡N)_(2)^(-)」であって「ZはCNである」「アニオン性部分」に相当する。
また、引用発明1の「有機電荷移動塩」は、1価のカチオンである「有機カチオン(ピリリウムカチオン又はチオピリリウムカチオン)」と1価のアニオンである「有機アニオン(トリシアノメタニド)」が1:1で塩を形成しているから、全体として電気的中性になっているということができる。
よって、引用発明1の「有機電荷移動塩」は、本願補正発明の「集合の電気的中性をもたらすのに十分な数の少なくとも1つのカチオン性部分M^(m+)と会合するアニオン性部分を含む」イオン性化合物に相当する。

以上によれば、本願補正発明と引用発明1は、
「集合の電気的中性をもたらすのに十分な数の少なくとも1つのカチオン性部分M^(m+)と会合するアニオン性部分を含む、マロン酸ニトリルから誘導され、Mが、原子価mを有する有機カチオンであることを特徴とし、かつ該アニオン性部分が式Z-C(C≡N)_(2)^(-)に相当し、ZはCNであるイオン性化合物」
の点で一致し、以下の点で一応相違する(以下、「相違点」という。)。

(相違点)
本願補正発明は、上記イオン性化合物を含む「イオン伝導性材料」であるのに対し、引用発明1はそのようなものであるか明らかでない点

エ.相違点についての判断
引用発明1の「有機電荷移動塩」は、電荷が移動する塩であるところ、この「有機電荷移動塩」は、上記ウ.でも述べたとおり「イオン性化合物」であって、イオン性化合物において移動する電荷とは、イオンに他ならないから、引用発明1の「有機電荷移動塩」とは、イオンが移動する化合物、すなわち、イオン伝導性を有する化合物であるといえる。

一方、刊行物2には、アルカリ金属塩となっている高分子化合物、すなわち「イオン性化合物」を含む「イオン伝導性組成物」が記載されており(摘記(2-1))、また、刊行物3には、「イオン伝導性を呈する高分子材料」(摘記(3-2))を含有する「イオン伝導性材料」(摘記(3-1)の【請求項11】)が記載されていることからも明らかなように、イオン伝導性を有する化合物を、それを含むイオン伝導性材料とすることは、通常行われていることである。

したがって、引用発明1の「有機電荷移動塩」を、それを含む「イオン伝導性材料」とすることは、当業者が容易に行うことである。

オ.刊行物4に記載された発明
刊行物4には、「ピリリウムカチオン又はチオピリリウムカチオンとポリシアン酸アニオンからなる有機電荷移動(CT)塩」が記載され(摘記(4-1))、上記「有機電荷移動(CT)塩」とは、「有機カチオンとアニオンからなるイオン性化合物」であること(摘記(4-2))、「ポリシアン酸アニオン」として、「トリシアノメタニドアニオン」が記載されている(摘記(4-3))。
そうすると、刊行物4には、
「有機カチオンとアニオンからなるイオン性化合物であって、ピリリウムカチオン又はチオピリリウムカチオンとトリシアノメタニドアニオンからなる有機電荷移動(CT)塩」の発明(以下、「引用発明4」という。)が記載されているといえる。

カ.本願補正発明と引用発明4の対比
本願補正発明と引用発明4を対比すると、引用発明4の「有機カチオンとアニオンからなるイオン性化合物」である「有機電荷移動(CT)塩」は、「イオン性化合物」であるから、本願補正発明の「イオン性化合物」に相当する。
そして、引用発明4の「有機カチオン」、「ピリリウムカチオン又はチオピリリウムカチオン」は、本願補正発明の「カチオン性部分M^(m+)」、「原子価mを有する有機カチオン」である「M」に相当し、引用発明4の「アニオン」、「トリシアノメタニドアニオン」は、本願補正発明の「マロン酸ニトリルから誘導され」た「式Z-C(C≡N)_(2)^(-)」であって「ZはCNである」「アニオン性部分」に相当する。
また、引用発明4の「有機電荷移動(CT)塩」は、例えば表1の例示からみても明らかなように、1価のアニオンと1価のカチオンが1:1で塩を形成しているから(摘記(4-3)、(4-4))、全体として電気的中性になっているということができる。
よって、引用発明4の「イオン性化合物」である「有機電荷移動(CT)塩」は、本願補正発明の「集合の電気的中性をもたらすのに十分な数の少なくとも1つのカチオン性部分M^(m+)と会合するアニオン性部分を含む」イオン性化合物に相当する。

以上によれば、本願補正発明と引用発明4は、
「集合の電気的中性をもたらすのに十分な数の少なくとも1つのカチオン性部分M^(m+)と会合するアニオン性部分を含む、マロン酸ニトリルから誘導され、Mが、原子価mを有する有機カチオンであることを特徴とし、かつ該アニオン性部分が式Z-C(C≡N)_(2)^(-)に相当し、ZはCNであるイオン性化合物」
の点で一致し、以下の点で一応相違する(以下、「相違点’」という。)。

(相違点’)
本願補正発明は、上記イオン性化合物を含む「イオン伝導性材料」であるのに対し、引用発明4はそのようなものであるか明らかでない点

キ.相違点’についての判断
刊行物4には、引用発明4のイオン性化合物である有機電荷移動(CT)塩は、電気伝導性を有することが記載されているところ(摘記(4-1))、イオン性化合物において伝導する電荷とは、イオンに他ならないから、刊行物4には、引用発明の有機電荷移動(CT)塩が、イオン伝導性を有する化合物であることが記載されているといえる。
一方、上記エ.でも述べたとおり、イオン伝導性を有する化合物を、それを含むイオン伝導性材料とすることは、通常行われていることであるから、引用発明4の有機電荷移動(CT)塩を、それを含む「イオン伝導性材料」とすることは、当業者が容易に行うことである。

ク.効果について
上記(1)ウ.で述べたように、この出願の明細書には、本願補正発明であるイオン伝導性材料は、「電気化学的発電機」、「超電気容量」、「エレクトロクローム装置」の電解質としての使用、「導電性材料のpもしくはnドーピング」としての使用を課題とすることが記載されている。
一方、引用発明1の「有機電荷移動塩」及び引用発明4の「有機電荷移動(CT)塩」が、イオン伝導性を有する化合物であることは、上記エ.、キ.で述べたとおりであるところ、イオン伝導性を有する化合物であれば、上記「電気化学的発電機」、「超電気容量」、「エレクトロクローム装置」の電解質としての使用、「導電性材料のpもしくはnドーピング」としての使用が期待できることは、当業者に自明の効果である。
また、この出願の明細書には、「驚いたことに、本発明者らは、イオン性基-C(CN)_(2)^(-)を含む化合物が、例えそれらが電子吸引性が高い過フッ素化基を含んでいない場合でも、優れた可溶性及び解離特性を有していることを見出している。
したがって、本発明は、出発分子の複雑な修飾を必要とすることなく良好な可溶性及び良好な解離を有するイオン性化合物群を提供することを目的とする。」(公表公報第13頁下から6?2行)と記載されている。
しかしながら、刊行物1には、有機電荷移動塩の電荷移動バンドを極性の低い溶媒と高い溶媒で観察したことが記載されているから(摘記(1-1))、上記有機電荷移動塩は、極性の低い溶媒と高い溶媒のいずれにも溶解することが記載されているといえ、よって、良好な可溶性、良好な解離を有するという効果は、刊行物1の記載から予測し得るものである。
以上のとおりであるから、本願補正発明の効果は、刊行物1?4の記載及び当業者の技術常識から予測し得る程度のものである。

ケ.まとめ
以上のとおり、本願補正発明は、刊行物1?4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

第3 本願発明

1.本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたから、この出願の発明は、平成21年4月16日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?29に記載された事項により特定される発明であるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「1.溶媒中にイオン性化合物を含むイオン伝導性材料であって、前記イオン性化合物は、集合の電気的中性をもたらすのに十分な数の少なくとも1つのカチオン性部分M^(m+)と会合するアニオン性部分を含む、マロン酸ニトリルから誘導され、Mがヒドロキソニウム、ニトロソニウムNO^(+)、アンモニウム-NH_(4)^(+)、原子価mを有する金属カチオン、原子価mを有する有機カチオン又は原子価mを有する有機金属カチオンであることを特徴とし、かつ該アニオン性部分が式R_(D)-Y-C(C≡N)_(2)^(-)又はZ-C(C≡N)_(2)^(-)のうちの1つに相当し、ここで、
- Zは、
j)-CN、-NO_(2)、-SCN、-N_(3)、FSO_(2)-、-CF_(3)、C_(n)F_(2n+1)CH_(2)-(nは1ないし8の整数)、フルオロアルキルオキシ、フルオロアルキルチオキシ、フルオロアルケニルオキシ、フルオロアルケニルチオキシ基:
jj)少なくとも1つの窒素、酸素、イオウ又はリン原子を含んでもよい1以上の芳香族核を有する基であって、該核は縮合核であってもよく、及び/又は該核はハロゲン、-CN、-NO_(2)、-SCN、-N_(3)、CF_(2)=CF-O-、基R_(F)-及びR_(F)CH_(2)-から選択される少なくとも1つの置換基を坦持してもよく、ここでR_(F)は1ないし12個の炭素原子を有するペルフルオロアルキルアルキル、フルオロアルキルオキシ基、フルオロアルキルチオキシ基、アルキル、アルケニル、オキサアルキル、オキサアルケニル、アザアルキル、アザアルケニル、チアアルキル、チアアルケニル基、重合体基、少なくとも1つのカチオン性イオノフォア基及び/又は少なくとも1つのアニオン性イオノフォア基を有する基;
から選択される電子吸引基を表し、
- Yは、カルボニル基又はスルホニル基を表し、及び:
- R_(D)は、
a)1ないし24個の炭素原子を有するアルキルもしくはアルケニル基、5ないし24個の炭素原子を有するアリール、アリールアルキル、アルキルアリールもしくはアルケニルアリール基、多環基を含む脂環式もしくは複素環基;
b)1ないし12個の炭素原子を有するアルキル又はアルケニル基であって、主鎖又は側鎖に少なくとも1つのヘテロ原子O、N又はSを含んでもよく、また、少なくとも1つの機能的エーテル、チオエーテル、アミン、イミン、アミド、カルボキシル、カルボニル、イソシアネート、イソチオシアネート、ヒドロキシを含んでもよい前記アルキル又はアルケニル基、及び1ないし24個の炭素原子を有するオキサアルキル、オキサアルケニル、アザアルキル、アザアルケニル、チアアルキル、及びチアアルケニル基;
c)芳香族核及び/又は該核の少なくとも1つの置換基が窒素、酸素、イオウのようなヘテロ原子を含む、アリール、アリールアルキル、アリールアルケニル、アルキルアリール又はアルケニルアリール基;
d)窒素、酸素、イオウから選択される少なくとも1つのヘテロ原子をおそらくは含む縮合芳香族環を含む基;
e)エーテル、チオエーテル、イミン、アミン、カルボキシル、カルボニル又はヒドロキシ基から選択される官能基を含んでもよい、ハロゲン化又は過ハロゲン化アルキル、アルケニル、アリール、アリールアルキル、アルキルアリール基;
f)R_(c)C(R’)(R”)-O-基(ここで、R_(c)はアルキル過フッ素化基であり、かつR’及びR”は互いに独立に水素原子又はCF_(3)CH_(2)O-、(CF_(3))_(3)CO-、(CF_(3))_(2)CHO-、CF_(3)CH(C_(6)H_(5))O-、及びCH_(2)(CF_(2))_(2)CH_(2)-から選択される基である);
g)(R_(B))_(2)N-基(ここで、同一であるか、もしくは異なるR_(B)基は上記a)、b)、c)、d)及びe)において定義されるようなものであり、R_(B)のうちの1つはハロゲン原子であってもよく、又は2つのR_(B)基が一緒にNと環を構成する二価の基を形成する);
h)重合体基;
i)1以上のカチオン性イオノフォア基及び/又は1以上のアニオン性イオノフォア基を有する基;
から選択される基であり、
- ただし、R_(D)又はZは一価の基、2より高い原子価を有し複数の-Y-C^(-)(C≡N)_(2)基を担持する基の一部又は重合体の一区画であってもよく;
- YがカルボニルかつR_(D)が1ないし3個の炭素原子を有するペルフルオロアルキル基である場合、又はZが-CNである場合には、Mはアルカリ金属とは異なり;
- 「重合体基」とは、少なくとも1つの側鎖置換基を有するポリエン、ポリ(オキシアルキレン)、ポリ(アザアルキレン)、ポリアニリン、ポリスチレン、ポリ(アルコキシシリル)、又はポリピロールを意味し;
- 「アニオン性イオノフォア基」とは、カルボキシレート官能基(-CO_(2)^(-))、スルホネート官能基(-SO_(3)^(-))、スルホンイミド官能基(-SO_(2)NSO_(2)-)、又はスルホンアミド官能基(-SO_(2)N-)を意味し;
- 「カチオン性イオノフォア基」とは、インドニウム、スルホニウム、オキソニウム、アンモニウム、アミジニウム、グアニジウム、ピリジニウム、イミダゾリウム、イミダゾリニウム、トリアゾリウム、ホスホニウム、又はカルボニウム基を意味する、
前記イオン伝導性材料。」

2.原査定の理由
原査定は、「この出願については、平成20年11月26日付け拒絶理由通知書に記載した理由1-3によって、拒絶をすべきものです。」というものであって、その「理由2」は、「2.この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。」というものである。
そして、原査定の備考欄には、
「・理由:1,2
請求項中には、多数の選択肢を有する化合物が記載されているが、発明の詳細な説明では、特定の化合物についての具体的製造例、効果が記載されているにすぎず、発明の詳細な説明の記載をみても、また、出願時の技術常識に照らしても、当該具体例から請求項中の化合物全体にまで拡張ないし一般化できるとはいえず、さらに、上記具体例以外の部分についてどのように製造し、どのような効果を奏するかも、当業者が理解できる程度に記載されているものとは認められない。
よって、この出願の発明の詳細な説明は、依然として当業者が請求項1-29に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されておらず、請求項1-29に係る発明は、依然として発明の詳細な説明に記載したものでない。」
と記載されており、上記「請求項1-29に係る発明」のうち、「請求項1に係る発明」は、「本願発明」である。
そうすると、原査定の理由は、「発明の詳細な説明では、特定の化合物についての具体的製造例、効果が記載されているにすぎず、発明の詳細な説明の記載をみても、また、出願時の技術常識に照らしても、当該具体例から請求項中の化合物全体にまで拡張ないし一般化できるとはいえないから、本願発明は、発明の詳細な説明に記載したものではない。したがって、この出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。」という理由を含むものである。

3.当審の判断
原査定の理由のとおり、本願発明は、発明の詳細な説明に記載したものではないから、この出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく、同法第36条第6項に規定する要件を満たしていないから、拒絶をすべきものである。
その理由は、以下のとおりである。

(1)発明の詳細な説明の記載及び発明の詳細な説明に記載された発明

発明の詳細な説明には、上記第2 4.(1)イ.で述べたとおりの事項が記載されている。
そして、発明の詳細な説明には、本願発明であるイオン伝導性材料は、「電気化学的発電機」、「超電気容量」、「エレクトロクローム装置」等の「電気化学一般における電解質」としての使用、「導電性材料のpもしくはnドーピング」としての使用を課題とすることが記載されている(摘記(ア)?(エ))。
それに対して、本願発明のうち、当業者が上記課題を解決できると認識できるように、具体的に電気伝導度を測定し、イオン伝導性材料としての使用可能性を確認した例は、カチオン性部分Mについて検討すると、上記第2 4.(1)オ.で述べたとおり、イミダゾリウムカチオン、1-エチル-3-メチル-1H-イミダゾリウムカチオン、Li^(+)、K^(+)、NO^(+)である場合のみである。

(2)特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明であるか、についての判断

本願発明におけるカチオン性部分Mは、「ヒドロキソニウム、ニトロソニウムNO^(+)、アンモニウム-NH_(4)^(+)、原子価mを有する金属カチオン、原子価mを有する有機カチオン又は原子価mを有する有機金属カチオン」であるのに対して、発明の詳細な説明において、具体的に記載されているのは、上記(1)で述べたように、カチオン性部分Mが、イミダゾリウムカチオン、1-エチル-3-メチル-1H-イミダゾリウムカチオン、Li^(+)、K^(+)、NO^(+)である場合のみであるから、本願発明は、その全てについて、発明の詳細な説明に記載された発明ではない。

(3)特許請求の範囲に記載された発明が、当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえるか、についての判断

上記第2 4.(1)オ.で述べたとおり、発明の詳細な説明の記載によれば、カチオン性部分Mが、どのようなものであっても、イオン伝導性材料として使用できるとまでは認識できず、あくまで電気伝導度の確認された個々の化合物についてのイオン伝導性材料として使用可能性が認識できるにすぎない。
そうすると、本願発明のうち、カチオン性部分Mが、イミダゾリウムカチオン、1-エチル-3-メチル-1H-イミダゾリウムカチオン、Li^(+)、K^(+)、NO^(+)である場合以外については、本願発明の課題が解決できることが、発明の詳細な説明の記載に基づいて認識できるということはできず、また、具体的に電気伝導度が確認されていなかったとしても、イオン伝導性材料として使用でき、本願発明の課題を解決できると認識できることが、出願時の技術常識であったともいえない。

したがって、カチオン性部分M以外について検討するまでもなく、本願発明が、発明の詳細な説明の記載により、当業者が、本願発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえず、また、その記載や示唆がなくとも、当業者が出願時の技術常識に照らし、上記課題を解決できると認識できる範囲のものであるともいえない。

(4)まとめ
以上のとおりであるから、本願発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとは認められないし、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとも認められない。
したがって、この出願の特許請求の範囲の請求項1の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合しない。

第4 むすび
以上のとおり、この出願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号の規定に適合するものではなく、同法第36条第6項に規定する要件を満たしていないから、その余について検討するまでもなく、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-03-30 
結審通知日 2011-03-31 
審決日 2011-04-12 
出願番号 特願平10-529515
審決分類 P 1 8・ 537- Z (C07C)
P 1 8・ 572- Z (C07C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 安田 周史  
特許庁審判長 中田 とし子
特許庁審判官 齊藤 真由美
井上 千弥子
発明の名称 マロン酸ニトリル誘導体アニオン塩、及びイオン伝導性材料としてのそれらの使用  
代理人 社本 一夫  
代理人 富田 博行  
代理人 千葉 昭男  
代理人 小林 泰  
代理人 千葉 昭男  
代理人 小野 新次郎  
代理人 富田 博行  
代理人 小野 新次郎  
代理人 社本 一夫  
代理人 小林 泰  

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