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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B01D
管理番号 1242260
審判番号 不服2008-7752  
総通号数 142 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-10-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-03-28 
確定日 2011-08-22 
事件の表示 特願2002-581066「金属繊維フィルタ要素および金属繊維フィルタ要素を作製する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成14年10月24日国際公開、WO02/83268、平成16年 9月16日国内公表、特表2004-528169〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成14年3月28日(優先権主張 2001年4月11日、欧州特許庁(EP))を国際出願日とする出願であって、平成19年5月31日付けで拒絶理由が通知され(発送日 同年6月5日)、同年11月15日付けで意見書及び明細書の記載に係る手続補正書が提出され、平成20年1月8日付けで拒絶査定がなされ(発送日 同年同月11日)、これに対し同年3月28日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされると共に明細書の記載に係る手続補正がなされ、その後、平成22年7月23日付けで特許法第164条第3項に基づく報告を引用した審尋(発送日 同年同月27日)が通知され、これに対する回答書が同年10月14日に提出されたものである。

2.本願発明について
2-1.本件補正について
平成20年3月28日付けの明細書の記載に係る手続補正(以下、「本件補正」という。)は、平成19年11月15日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲について、
「【請求項1】
金属繊維布地と補強構造体を備える金属繊維フィルタ要素において、前記補強構造体が金属シートで形成され、該金属シートが複数の開口領域を有し、前記金属繊維布地および前記金属シートが互いに焼結され、前記金属繊維布地が前記開口領域を覆い、前記開口領域の全域で、各開口領域内の各点と前記開口領域の縁との間の最小距離が65mm未満であり且つ前記開口領域の少なくとも1点と前記開口領域の前記縁との間の前記最小距離が2mmを超えていることを特徴とする金属繊維フィルタ要素。
【請求項4】
前記開口領域が前記金属シートの前記表面と不同である、請求項1?3のいずれかに記載の金属繊維フィルタ要素。
【請求項17】
金属繊維布地を用意する段階と、
複数の開口領域を備える金属シートを用意する段階であって、前記開口領域の全域で、前記開口領域内の各点と前記開口領域の縁との間の最小距離が65mm未満であり且つ前記開口領域の少なくとも1点と前記開口領域の前記縁との間の前記最小距離が2mmを超える、段階と、
前記金属シートと前記金属繊維布地とを互いに焼結する段階と、
を含む、金属繊維フィルタ要素を作製する方法。
【請求項25】
前記開口領域が前記金属シートの前記表面と不同である、請求項17?24のいずれか1項に記載の金属繊維フィルタ要素を作製する方法。」
を、
「【請求項1】
金属繊維布地と補強構造体を備える金属繊維フィルタ要素において、前記補強構造体が金属シートで形成され、該金属シートが複数の開口領域を有し、前記金属繊維布地および前記金属シートが互いに焼結され、前記金属繊維布地が前記開口領域を覆い、前記開口領域の全域で、各開口領域内の各点と前記開口領域の縁との間の最小距離が65mm未満であり且つ前記開口領域の少なくとも1点と前記開口領域の前記縁との間の前記最小距離が2mmを超えており、前記金属繊維布地の縁に最も近い前記開口領域の縁と前記金属繊維布地の前記縁との間の距離が10mmよりも大きいことを特徴とする金属繊維フィルタ要素。
【請求項4】
前記金属シートが異なる開口領域を有している、請求項1?3のいずれかに記載の金属繊維フィルタ要素。
【請求項16】
金属繊維布地を用意する段階と、
複数の開口領域を備える金属シートを用意する段階であって、前記開口領域の全域で、前記開口領域内の各点と前記開口領域の縁との間の最小距離が65mm未満であり且つ前記開口領域の少なくとも1点と前記開口領域の前記縁との間の前記最小距離が2mmを超える、段階と、
前記金属繊維布地の縁に最も近い前記開口領域の縁と前記金属繊維布地の前記縁との間の距離が10mmよりも大きい、段階と、
前記金属シートと前記金属繊維布地とを互いに焼結する段階と、
を含む、金属繊維フィルタ要素を作製する方法。
【請求項23】
前記金属シートが異なる開口領域を有している、請求項16?22のいずれか1項に記載の金属繊維フィルタ要素を作製する方法。」
と補正することを含むものであり、この補正事項について以下検討する。
(下線部は補正箇所を明示するため当審で付加した。)

i)本件補正後の請求項1、16の「前記金属繊維布地の縁に最も近い前記開口領域の縁と前記金属繊維布地の前記縁との間の距離が10mmよりも大きい」は、本件補正前の請求項7、22に記載されており、同請求項7は本件補正前の請求項1を引用し、同請求項22は本件補正前の請求項17を引用するので、本件補正後の請求項1は本件補正前の請求項1を引用する請求項7に相当し、本件補正後の請求項16は本件補正前の請求項17を引用する請求項22に相当し、このように補正することは請求項1,17の削除を目的とするものといえ、請求項の項番は当該請求項の削除に伴い順に繰り上がったものである。
ii)本件補正後の請求項4,23の「前記金属シートが異なる開口領域を有している」は、本件補正前の請求項4,25の「前記開口領域が前記金属シートの前記表面と不同である」について拒絶査定において意味不明であると指摘されたことに対して、本願明細書に添付された【図8】の開示及び本願明細書【0066】の記載に基づいて釈明するもので、このように補正することは明りょうでない記載の釈明を目的とするものといえる。
iii)以上から、本件補正は、平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第1、4号に規定される請求項の削除と明りょうでない記載の釈明を目的とする補正に該当する。
したがって、本件補正はこれを適法なものと認める。

2-2.本願発明の認定
上記のように本件補正は適法なものと認められるので、本願の請求項1?34に係る発明は、平成20年3月28日付けの明細書の記載に係る手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1?34に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に記載された発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものである。
「【請求項1】
金属繊維布地と補強構造体を備える金属繊維フィルタ要素において、前記補強構造体が金属シートで形成され、該金属シートが複数の開口領域を有し、前記金属繊維布地および前記金属シートが互いに焼結され、前記金属繊維布地が前記開口領域を覆い、前記開口領域の全域で、各開口領域内の各点と前記開口領域の縁との間の最小距離が65mm未満であり且つ前記開口領域の少なくとも1点と前記開口領域の前記縁との間の前記最小距離が2mmを超えており、前記金属繊維布地の縁に最も近い前記開口領域の縁と前記金属繊維布地の前記縁との間の距離が10mmよりも大きいことを特徴とする金属繊維フィルタ要素。」

3.刊行物の記載
(1)原査定の拒絶の理由に引用例4として引用され、本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である実願平1-61855号(実開平3-3418号)のマイクロフィルム(以下、「刊行物1」という。)には次の事項が記載されている。
(刊1-ア)「[実施例]
以下本考案の実施例を添付図面に基いて説明する。
第1図は本考案による高温集塵フィルタの一実施例を示しており、第2図は別の実施例を示している。第1図において、1は筒状のろ材本体であり、ろ材本体1は、第3図(a)(b)に示すように、内層の金属短繊維焼結層1aと、外周の金属長繊維焼結層1bとを有し、それらは厚さ方向で積層一体化されている。2はろ材本体1の下端に溶接された底板、3は上端に溶接されたフランジである。ろ材本体1はフランジ3がパッキン7を介してセルプレート6に通され、ベンチュリ8とともにボルト9で締め付けられることで吊り下げられている。ベンチュリ8には逆洗手段としてたとえばパルスノズル4が望んでいる。
含塵ガスAは金属長繊維焼結層1bの外周側から圧入され、集塵後のクリーンガスが金属短繊維焼結層1aの開口5からベンチュリ8を経て流出する。ダストは外表面の金属長繊維焼結層1bとダスト一次付着層B’により捕集され、ダストケーキを形成する。ダストケーキ層Bは差圧またはタイマーをパラメータとしてパルスノズル4からの圧縮ガスの噴射とベンチュリ8によるエゼクタ効果により、清浄側すなわち金属短繊維焼結層側から逆洗される。」(6頁3行?7頁8行)
(刊1-イ)「そして、好ましくは、第3図(a)のように金属短繊維焼結層1aの表面には支持層として網状体1cが一体化される。必要に応じ、第3図(b)のように、金属長繊維焼結層1bの表面にも細径の網状体1c’を一体化してもよい。この網状体1c、1c’は金網のほかパンチングメタルを含むものである。
前記ろ材本体1は全体を単一の筒で構成してもよいが、所要長さの複数の筒を連結して構成してもよい。」(7頁19行?8頁8行)
(刊1-ウ)「前記ろ材本体1を得る方法は任意である。金属短繊維焼結層1aと金属長繊維焼結層1b及び網状体1cを一度の焼結で一挙に作っても良いし、金属短繊維焼結層1aと金属長繊維焼結層1bを別々に作り、それらを再加熱して複合化してもよい。前者の場合には、たとえば、長繊維基材のトウを開繊してウエブとし、この上に金属短繊維aを分散機により所定の配向で層状に分散し、網状体1cを配置し、無加圧または加圧下で、真空中または非酸化性雰囲気にて焼結すればよい。後者の場合には、長繊維と短繊維とを別々の工程で焼結すればよい。いずれの場合も、焼結形状は任意であるが、一般的には板(湾曲板ないし溝板を含む)である。後者の場合、金属短繊維焼結板と金属長繊維焼結板は重合され、好ましくは加圧下で再度加熱される。それにより接触した繊維同士が融着しあい、一体化する。網状体1cは金属短繊維焼結板を製作する際に焼結で一体化することが好ましい。
ろ材としての形状付与(溶接を含む)は複合化した後に実施すればよい。すなわち、筒形の場合には、第3図のような断面の複合板を得た後、プレス等により円筒形に成形し、突合せ部分をシーム溶接し、次いで底板やフランジを溶接すればよい。」(10頁末行?12頁3行)
(刊1-エ)「本考案による高温集塵フィルタの一実施例を示す断面図」と題された第1図(図面1枚目)には、上記摘示事項(刊1-ア)に摘示されるように、符号「1」で示される筒状の「ろ材本体」の端部と、符号「8」で示される「ベンチュリ」の端部とが接合されていること、符号「A」で示される「含塵ガス」が、矢印で示される方向すなわち符号「1b」で示される「金属長繊維焼結層」の外周側から符号「1c」で示される「網状体」へ向かう方向に流れること、符号「4」で示される「逆洗手段」からの「圧縮ガス」は符号「1c」で示される「網状体」から符号「1b」で示される「金属長繊維焼結層」の外周側へ向かう方向に流れることが見てとれる。
さらに、第1図は、符号「1」で示される筒状の「ろ材本体」の「断面図」として「筒」の中心軸に沿った任意の断面が見てとれるものであり、当該断面において符号「1b」で示される「金属長繊維焼結層」、符号「1a」で示される「金属短繊維焼結層」、符号「1c」で示される「網状体」はその長さが略等しいことが見てとれる。
(刊1-オ)「本考案によるろ材本体の一部拡大図」と題された第3図(a)(図面2枚目)には、上記摘示事項(刊1-ア)(刊1-ウ)に摘示されるように、符号「1b」で示される「金属長繊維焼結層」、符号「1a」で示される「金属短繊維焼結層」、符号「1c」で示される「網状体」が順次積層され、図上に記された矢印の方向である符号「1b」で示される「金属長繊維焼結層」から符号「1c」で示される「網状体」へ向かう方向に「含塵ガス」が流れることで、「1b」で示される「金属長繊維焼結層」の外周側に、符号「B’」「B」で示される「ダスト一次付着層」「ダストケーキ層」が付着することが見てとれる。

4.刊行物1に記載された発明の認定
刊行物1に記載された発明について以下に検討する。
i)刊行物1の上記摘示事項(刊1-ア)には、「高温集塵フィルタ」の一実施例として、筒状の「ろ材本体1」が、「第3図(a)(b)に示すように、内層の金属短繊維焼結層1aと、外周の金属長繊維焼結層1bとを有し、それらは厚さ方向で積層一体化されている」ものが記載されており、視認事項(刊1-オ)から、「金属長繊維焼結層1b」、「金属短繊維焼結層1a」、「網状体1c」が順次積層され、「金属長繊維焼結層1b」から「網状体1c」へ向かう方向に「含塵ガス」が流れることがわかるから、刊行物1には、「金属長繊維焼結層1b」、「金属短繊維焼結層1a」、「網状体1c」が順次積層され、「金属長繊維焼結層1b」から「網状体1c」へ向かって「含塵ガス」が流れる筒状の「ろ材本体1」が記載されているといえる。
ii)視認事項(刊1-エ)から、筒状の「ろ材本体1」の「筒」の中心軸に沿った任意の断面で、「金属長繊維焼結層1b」、「金属短繊維焼結層1a」、「網状体1c」はその長さが略等しいから、「筒」の全周にわたって「金属長繊維焼結層1b」、「金属短繊維焼結層1a」、「網状体1c」はその長さが略等しいものであり、その結果、「金属長繊維焼結層1b」、「金属短繊維焼結層1a」、「網状体1c」は略同じ形状、大きさの部材ということができる。
そして、摘示事項(刊1-ウ)には「筒形の場合には、第3図のような断面の複合板を得た後、プレス等により円筒形に成形し、突合せ部分をシーム溶接し」と記載されるから、略同じ形状、大きさの「金属長繊維焼結層1b」、「金属短繊維焼結層1a」、「網状体1c」を重ねて複合板とし、接合部を突き合わせて円筒形とされたものが、筒状の「ろ材本体1」であるということができる。
iii)また、摘示事項(刊1-ウ)には「ろ材本体1を得る方法」として「金属短繊維焼結層1aと金属長繊維焼結層1b及び網状体1cを一度の焼結で一挙に作っても良い」ことが記載され、「焼結」により「繊維同士が融着しあい、一体化する。網状体1cは金属短繊維焼結板を製作する際に焼結で一体化する」ことが記載されているから、「金属短繊維焼結層1a」と「金属長繊維焼結層1b」と「網状体1c」とは焼結により一体化しているものということができる。
iv)さらに、摘示事項(刊1-イ)には「この網状体1c、1c’は金網のほかパンチングメタルを含むものである」と記載され、「網状体1c」として、「金網」だけではなく、「パンチングメタル」を使用できることがわかる。
v)以上の上記i)?iv)の検討から、上記(刊1-ア)?(刊1-ウ)の摘示事項、上記(刊1-エ)、(刊1-オ)の視認事項を、補正発明の記載ぶりに則して表現すると、刊行物1には、

「それぞれ略同じ形状大きさの金属長繊維焼結層1b、金属短繊維焼結層1a、網状体1cとしてのパンチングメタルが順次積層され焼結一体化されて、金属長繊維焼結層1bを外側にして円筒形とされたろ材本体1」の発明(以下、「引用発明」という。)

が記載されているものと認められる。

5.本願発明と引用発明との対比
i)引用発明の「金属長繊維焼結層1b、金属短繊維焼結層1a」は共に「金属繊維焼結層」であり、焼結により一体化されているから、本願発明の「金属繊維布地」に相当するといえる。
ii)引用発明の「網状体1cとしてのパンチングメタル」について、「パンチングメタル」とは、「フラットなステンレス製などの金属板を機械的打ち抜き、レーザ穿孔などの加工により多孔構造にしたもの」(原査定の拒絶の理由に引用例5として引用された特開平7-256023号公報【0015】等を参照)で、「ワイヤメッシュ」等の金属線を編む或いは織るものとは相違し、金属板に穴を穿つものだから、これは本願発明の「複数の開口領域」を有する「金属シート」に相当するということができる。
また、「網状体1cとしてのパンチングメタル」は「金属長繊維焼結層1b、金属短繊維焼結層1a」の機械的な補強にもなっているであろうことは自明だから、本願発明の「補強構造体」に相当する。
さらに、「金属長繊維焼結層1b」、「金属短繊維焼結層1a」、「網状体1c」は「それぞれ略同じ形状大きさ」だから「金属長繊維焼結層1b」、「金属短繊維焼結層1a」は「網状体1cとしてのパンチングメタル」を覆っているということができる。
iii)引用発明の「ろ材本体1」は、「金属長繊維焼結層1b、金属短繊維焼結層1a、網状体1cとしてのパンチングメタルが順次積層され焼結一体化されて複合板とされ、金属長繊維焼結層1bを外側にして円筒形とされた」ものであるが、本願発明も、【0060】、【0061】、図6a?6c、図7に示されるように、「金属繊維布地」と「補強構造体」である「開口領域」を備える「金属シート」とを焼結したものを、外側を「金属繊維布地」とするように曲げて「チューブ状金属繊維フィルタ要素」とできるものであるから、引用発明の「金属長繊維焼結層1bを外側にして円筒形とされたろ材本体1」は本願発明の「金属繊維フィルタ要素」に相当するといえる。
iv)以上から、本願発明と引用発明とは
「金属繊維布地と補強構造体を備える金属繊維フィルタ要素において、前記補強構造体が金属シートで形成され、該金属シートが複数の開口領域を有し、前記金属繊維布地および前記金属シートが互いに焼結され、前記金属繊維布地が前記開口領域を覆う、金属繊維フィルタ要素。」である点で一致し、次の点で相違する。

<相違点1>本願発明では「前記開口領域の全域で、各開口領域内の各点と前記開口領域の縁との間の最小距離が65mm未満であり且つ前記開口領域の少なくとも1点と前記開口領域の前記縁との間の前記最小距離が2mmを超えており」と特定するものであるのに対して、引用発明ではそのような特定はなされていない点。
<相違点2>本願発明では「前記金属繊維布地の縁に最も近い前記開口領域の縁と前記金属繊維布地の前記縁との間の距離が10mmよりも大きい」と特定するものであるのに対して、引用発明ではそのような特定はなされていない点。

6.相違点の検討
(1)相違点1について
「前記開口領域の全域で、各開口領域内の各点と前記開口領域の縁との間の最小距離が65mm未満であり且つ前記開口領域の少なくとも1点と前記開口領域の前記縁との間の前記最小距離が2mmを超えており」(以下、「特定事項A」という。)について、請求人は平成22年10月14日付け回答書3?4頁において次のように説明している。
「請求項の明瞭性について

請求項1の特徴a)は、開口領域の各点に関するものであります。
上記点のなかで最も重要な点は、開口領域の中心であります。その理由は、縁までの最小距離は、中心点に対して最大になるからであります。
従いまして、中心点から縁までの最小距離は、65mm未満でなくてはなりません。
円形領域におきましては、これは、円の直径が65mm×2=130mm未満でなくてはならないことを意味します。
正方形におきましては、これは、正方形の1辺が130mm未満でなくてはならないことを意味します。
長方形におきましては、これは、長方形の短辺が130mm未満でなくてはならないことを意味します。

特徴b)は、開口領域の少なくとも1点に関するものであります。
開口領域の少なくとも1点が、縁まで2mmの最小距離にあります。
従いまして、開口領域の少なくとも1点が縁まで2mmの最小距離にある場合で十分なのであります。
繰り返しますが、最も簡単な選択は、開口領域の中心であります。その理由は、中心は縁から最大距離にあり、この基準は、縁まで2mmの最小距離にある場合に適合するのであります。
円形領域におきましては、これは、円の直径が2mm×2=4mmより大きくなくてはならないことを意味します。
正方形におきましては、これは、正方形の1辺が4mmより大きくなくてはならないことを意味します。
長方形におきましては、これは、長方形の短辺が4mmより大きくなくてはならないことを意味します。」
すると、引用発明の「網状体1cとしてのパンチングメタル」において、もっとも一般的な円形孔を想定すれば、上記説明によれば、「開口領域」は「円形領域」であり、上記特定事項Aの意味するところは、「開口領域において、設けられている円形孔の孔径が4mmより大きく130mm未満である」ことということができる。
そして、本願明細書中に上記範囲の大きさの孔径を採用することによる他の孔径を採用した場合に対する格別の作用効果についての記載や示唆は見出すことができないから、上記範囲の大きさの孔径を採用することに数値上の臨界性を認めることはできない。
すると、「網状体1cとしてのパンチングメタル」に設けられる孔径は、「網状体1cとしてのパンチングメタル」が、「金属長繊維焼結層1b、金属短繊維焼結層1a」の機械的な補強、支持体としても機能するから、強度と通気性との兼ね合い等を考慮して、「網状体1cとしてのパンチングメタル」の孔径を調節し、上記数値範囲の孔径を採用することは容易に想到し得ることである。

(2)相違点2について
「前記金属繊維布地の縁に最も近い前記開口領域の縁と前記金属繊維布地の前記縁との間の距離が10mmよりも大きい」(以下、「特定事項B」という。)について、本願明細書【0011】には「好ましくは、金属繊維布地の縁とその縁に最も近い開口領域の縁と間の最小距離は10mmよりも大きい値または20mmよりもさらに大きい値に設定されるとよい。つまり、金属繊維布地と穿孔金属シートの金属領域は金属繊維布地の縁に沿って少なくとも10mmの幅を有する共通の区域を有している。この共通の区域を以後「共通領域」と呼ぶ。この共通領域は、ろ過されない液体または気体が金属繊維布地の縁に沿って迂回するのを避けるために設けられている。あるいは、金属繊維布地の縁を溶接または圧縮することによってその縁における微細孔を閉塞し、その布地の縁を介して気体または液体が迂回するのを避けるように構成してもよい」と記載されている。
したがって、上記特定事項Bは、本願添付の【図2】(Fig.2)のように、「金属繊維布地12」を超えて延在する「穿孔金属シート11」の延在部分で「金属繊維フィルタ要素」が支持される(当該支持箇所が【図1】(Fig.1)の「フィルタチャンバ21」)ことで、「金属繊維布地の縁17」と「フィルタチャンバ21」との間隙から浸入した被濾過液が「金属繊維布地12」を透過しないで、「金属繊維布地12」と「穿孔金属シート11」の「金属領域14」との間を迂回して通り、「開口領域13」へ抜け出てしまうような「金属繊維フィルタ要素」の取付構造を前提として、「金属繊維布地12」と「穿孔金属シート11」の「金属領域14」との間の長さを、いわば「沿面距離」(十分に長ければその途中で被濾過液は止まってしまい迂回しきれない)として利用することで上記迂回を回避するものであると解することができる。
すると、「金属繊維布地の縁に最も近い前記開口領域の縁と前記金属繊維布地の前記縁との間の距離が10mmよりも大きい」とすることの技術的意義は、上記「金属繊維フィルタ要素」の取付構造を前提とすることを必須とするものであるところ、本願発明は当該取付構造の特定を有するものではない。
また、被濾過液の濾過膜を透過しない通過を防止できるフィルタの取付部分の構造としては、例えば特開平11-333228号公報の【図5】?【図8】に示されるようにフィルタ部分の端部をプレス等して「通気性の無くなった緻密構造」(【0104】)として取付部分としたり、特開2000-102707号公報の【図1】【図2】に示されるようにフィルタ部分の端部を「金属板製のリムで周縁を挟み固定したり、溶接又は焼結によって一体化する」(【0009】)ことで取付部分としたりすることが示されるように、種々のものが知られていることから、請求項の記載上でフィルタの取付構造の特定がない場合に、フィルタの取付構造として本願添付【図2】で示す「金属繊維フィルタ要素」の取付構造が通常に採用されるものであるとも認められない。
すると、本願発明の「金属繊維フィルタ要素」はその設置に際していかような取付構造も採り得るものであり、その場合には「前記金属繊維布地の縁に最も近い前記開口領域の縁と前記金属繊維布地の前記縁との間の距離が10mmよりも大きい」とすることには、「金属繊維フィルタ要素」の端部での「金属繊維」と「金属シート」との間に一定の接合強度を与えるために要する幅という明細書中に直接の記載は無いが当然に要求される課題としての技術的意味があるものと解され、「10mmよりも大きい」については、当該数値の他の数値に対する技術的な優位性までも見出すことはできない。 すると、引用発明は当該取付構造をとるものであるか明らかではないが、引用発明であっても、「ろ材本体1」の端部での「金属長繊維焼結層1b」「金属短繊維焼結層1a」と「網状体1cとしてのパンチングメタル」との間に一定の接合強度を与えるためにある程度の幅が必要なことは明らかだから、「金属長繊維焼結層1b」「金属短繊維焼結層1a」の縁に最も近い「網状体1cとしてのパンチングメタル」の開口領域の縁と「金属長繊維焼結層1b」「金属短繊維焼結層1a」の前記縁との間の距離が10mmよりも大きい」ようになすことに格別の困難性は見いだせない。

そして上記二つの相違点によって奏される効果も刊行物1に記載された発明及び周知技術から予測される範囲のことということができる。

7.むすび
以上のとおり、本願発明は刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について言及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-03-29 
結審通知日 2011-04-01 
審決日 2011-04-12 
出願番号 特願2002-581066(P2002-581066)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B01D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小川 知宏  
特許庁審判長 豊永 茂弘
特許庁審判官 中澤 登
斉藤 信人
発明の名称 金属繊維フィルタ要素および金属繊維フィルタ要素を作製する方法  
代理人 奥山 尚一  
代理人 有原 幸一  
代理人 松島 鉄男  

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