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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04J
管理番号 1242338
審判番号 不服2009-6857  
総通号数 142 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-10-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-04-01 
確定日 2011-08-25 
事件の表示 平成11年特許願第 74621号「OFDM送信方法およびOFDM送信装置」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 9月 8日出願公開、特開2000-244441〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯と本願発明
本願は、平成11年3月18日(国内優先権主張 平成10年12月22日)の出願であって、平成21年2月26日に拒絶査定がなされ、これに対し、平成21年4月1日に審判請求がなされ、当審において平成23年2月4日に拒絶理由がなされ、平成23年4月8日付けで手続補正がなされたものであり、その特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成23年4月8日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおりのものと認める。

「【請求項1】 移動体通信システムにおいて、ユーザデータである通常データと、誤り率に関して前記通常データよりも高い精度が要求される重要データとを送信するOFDM送信方法であって、
前記通常データと前記重要データとにガード区間を付加する付加工程と、
前記重要データに付加するガード区間の長さを回線品質に依らず前記通常データに付加するガード区間によって実現される誤り率よりも低い誤り率を実現させる一定値に設定し、前記通常データに付加するガード区間の長さを回線品質に応じて伸縮させて設定する設定工程と、
前記通常データと前記重要データとを送信する送信工程と、
を具備するOFDM送信方法。」

2.引用発明
これに対して、当審の拒絶の理由に引用された特表平9-512156号公報(以下、「引用例」という。)には、「持続波ネットワークにおける多重キャリア伝送」として図面とともに以下の事項が記載されている。

イ.「【特許請求の範囲】
1.連続するOFDM伝送フレームの形式に構成されたOFDMシンボルの時間シーケンスが生成され、上記OFDM伝送フレームの各々が、1つ以上の制御シンボルを有するフレーム・ヘッダと複数のデータ・シンボルを有する有効データ領域とからなり、連続する各制御シンボルまたは各データ・シンボルの間にそれぞれ保護期間を有する、ディジタル符号化データで多重キャリア変調を行う方法において、
上記各OFDM伝送フレームの上記フレーム・ヘッダにおける上記制御シンボルに対する保護期間を、上記各OFDM伝送フレームの上記有効データ領域における上記データ・シンボルに対する保護期間よりも長くなるように選択することを特徴とする、ディジタル符号化データで多重キャリア変調を行う方法。
2.上記各OFDM伝送フレームの上記有効データ領域における上記データ・シンボルに対する上記保護期間の時間的長さが可変であることを特徴とする、請求項1に記載のディジタル符号化データで多重キャリア変調する方法。
3.請求項1または2に記載された方法に従って変調された多重キャリアを復調して元のディジタル符号化データを復元する方法において、受信した上記各OFDM伝送フレームの上記有効データ領域における上記データ・シンボルに対する保護期間の長さを求め、上記データ・シンボルの各検出タイミングを、検出した上記保護期間の長さの関数として決定することを特徴とする、多重キャリア復調して元のディジタル符号化データを復元する方法。」
(2頁1行-20行)

ロ.「その各OFDMシンボルは連続するOFDM伝送フレームの形式に配置構成され、その各OFDM伝送フレーム間は例えばゼロ(0)シンボルまたは空のシンボル(図1)等によって互いに隔てられ(分離し)ている。各OFDM伝送フレームは、1つまたは数個の制御シンボルを有するフレーム・ヘッダと、その後に多数のデータ・シンボルを有する有効データ領域(有用データ領域)とからなる。OFDM復号器においては、制御シンボルを使用して、各受信OFDM伝送フレームの開始点と各OFDMシンボルを適正なタイミング(時間)で検出するとともに、レベル(または振幅)と位相に応じて正確な変調キャリア周波数を復元する。変調器側では、連続するOFDMシンボル(制御シンボルおよびデータ・シンボル)の各シンボル相互間に保護(ガード)期間が挿入される。その保護期間が存在することによって、マルチパス(多重通路)伝播に起因して復調器側で生じる連続OFDMシンボル間のクロストークまたは干渉を防止することができる。」
(3頁15行-27行)

ハ.「一方、特に持続波(同一周波)ネットワーク(Gleichwellennetzen)における受信位置において各遅延時間の間に大きな差が生じる場合は、その保護期間は比較的長い持続時間を有するように設計して、連続する各OFDMシンボル相互間のクロストークを高い信頼性で防止するようにしなければならない。しかし、そのように長い持続時間の保護期間を設けると、その結果として、有効信号の伝送容量または伝送効率が減少する。そのような状況を改善するための1つの選択肢として、保護期間の長さを長くし、また有効信号期間の時間長を同じ程度長くすればよい。しかし、そのようにすると、復調器側の費用(コスト)が相当高くなる。即ち、要求される、OFDMデータ・シンボルの検出(走査)精度、検出値の記憶容量、およびその検出値から得られる時間信号の周波数解析の計算費用(コスト)が、それぞれ不相応に過大に高くなる。従って、OFDM変調システムのための保護期間は、ネットワーク計画設計の観点から伝送容量、受信機の費用(コスト)および周波数効率に対する欠点を容認するように妥協して選択しなければならない。」
(4頁2行-15行)

ニ.「本発明は、必ずしも全ての放送サービスまたは同報サービスに対して長い保護期間を設ける必要はないという認識に基づいている。例えば、ローカル・ネットワーク構成と地域的(regional)ネットワーク構成と全国的(national)ネットワーク構成との間では、必要な保護期間の長さは相違する。最も重要な点は、広い範囲の地域に持続波動作で信号を供給することである。本発明の思想は、このような認識から始まったもので、各OFDM伝送フレームのフレーム・ヘッダに対する保護期間だけを、考え得る最悪の条件のアプリケーションを想定して設計し、各OFDM伝送フレームの有効データ領域のOFDMシンボルに対する保護期間は、考慮対象のネットワークにおいて生じる実際の遅延時間差に応じて設計することである。」
(4頁22行-5頁3行)

ホ.「本発明によれば、制御シンボル(Steuerungssymbole)に対する保護期間Tg strg(Tg cont)は、データ・シンボルに対する保護期間Tg dataより長い長さに選択される。この選択は、OFDM伝送フレームにおけるOFDMシンボルの位置の関数の形で制御される切換え手段360によって実行される。ここで、保護期間Tg strgの長さは、広域の持続波ネットワークにおいて予想(想定)される臨界条件においても連続する制御シンボル間のクロストークが回避(防止)できるように選択される。保護期間Tg dataは、相異なる保護期間の集合(群)370の中から選択することができるものであり、個々の事例において実現した送信機のネットワーク構成によって実際に各遅延時間に差が生じたときにも、連続するデータ・シンボル間に実質的にクロストークが生じないような長さに設定される。データ・シンボルの保護期間Tg dataに対して選択した持続時間の長さは、制御シンボルの信号を用いて受信側に伝えられる。このようにして、例えば図2のa)?c)に示すような相異なる保護期間を有するOFDM伝送フレームが生成される。」
(5頁25行-6頁10行)

上記イ.乃至上記ホ.の記載及び図面ならびにこの分野における技術常識を考慮すると、
引用例には、上記ロ.等に記載の技術を前提としたOFDM伝送方法が開示されており、上記ロ.には、変調器、復調器間でマルチパス(多重通路)伝播が発生することが記載されていることから、引用例に開示された技術は「無線通信」を前提とした技術であることが明らかであり、引用例には、変調器および復調器等で構成される「無線通信システム」における「OFDM伝送方法」が記載されているといえる。
上記イ.及び上記ロ.に記載されているように、OFDM伝送によりフレームヘッダに含まれる「制御シンボル」と、有効データ領域に含まれる「データ・シンボル」が伝送されている。
上記イ乃至上記ホ.及び【図2】,【図3】には、マルチパス(多重通路)伝播に起因して復調器側で生じる連続OFDMシンボル間のクロストークまたは干渉を防止する「保護(ガード)期間」を、制御シンボルおよびデータ・シンボルの各シンボル間に挿入することが記載されており、「制御シンボルに挿入される保護(ガード)期間の長さ」(Tg strg)は、データ・シンボルに挿入される保護(ガード)期間の長さより長く、考え得る最悪の条件を想定した「固定長」となっており、「データ・シンボルに挿入される保護(ガード)期間の長さ」(Tg data)は、ネットワークにおいて生じる実際の「遅延時間差」に応じて相異なる保護(ガード)期間の集合から異なる長さの保護(ガード)期間が選択されるようになっている。

したがって、上記引用例には以下の発明(以下、「引用発明」という。)が開示されている。

「無線通信システムにおいて、データ・シンボルと、制御シンボルとを伝送するOFDM伝送方法であって、
前記データ・シンボルと前記制御シンボルとに保護(ガード)期間を挿入し、
前記制御シンボルに挿入する保護(ガード)期間の長さを固定長に設定し、前記データシンボルに挿入する保護(ガード)期間の長さを遅延時間差に応じて異なる長さに設定し、
前記データシンボルと前記制御シンボルとを伝送するようにした、
OFDM伝送方法。」

3.対比・判断
本願発明と引用発明とを対比すると、
引用発明の「無線通信システム」と本願発明の「移動体通信システム」に関し、引用発明が「移動体通信」における無線通信システムであるか否か不明であるものの、本願の明細書では、無線による移動体通信システムについて記載されていることから、両発明は「無線通信システム」である点で共通する。
引用発明の「伝送」は、伝送の際の送受信における送信を含むから、本願発明の「送信」に相当する。
引用発明の「データ・シンボル」は、無線システムの利用者が送信する有効データ領域に含まれる通常のシンボルであるから本願発明の「ユーザデータである通常データ」に相当する。
また、引用発明の「制御シンボル」は、フレームヘッダに含まれるシンボルであり、ヘッダに含まれる情報は、その喪失により後続のデータ全体に影響を与えてしまうことから、データ領域における情報よりも重要度が高いことは技術常識であり、本願発明のように「誤り率について前記通常データよりも高い精度が要求される」か否かは不明であるものの、本願発明と「重要データ」である点で共通する。
引用発明の「保護(ガード)期間」は、本願発明の「ガード区間」に相当する。
引用発明の「挿入」は、挿入により付加されるから本願発明の「付加」に相当する。
また、引用発明の「前記制御シンボルに挿入する保護(ガード)期間の長さを固定長に設定」と本願発明の「前記重要データに付加するガード区間の長さを回線品質に依らず前記通常データに付加するガード区間によって実現される誤り率よりも低い誤り率を実現させる一定値に設定」に関して、引用発明の保護(ガード)期間の長さは、本願発明のように「回線品質に依らず前記通常データに付加するガード区間によって実現される誤り率よりも低い誤り率を実現」させる長さであるかどうかは不明であるものの、引用発明の「固定長」は本願発明の「一定値」の長さに相当しているから、両発明は「重要データに付加するガード区間の長さを一定値に設定」している点で共通する。
また、引用発明の「前記データシンボルに挿入する保護(ガード)期間の長さを遅延時間差に応じて異なる長さに設定」と本願発明の「前記通常データに付加するガード区間の長さを回線品質に応じて伸縮させて設定」に関して、引用発明では「異なる長さに設定」しているから保護(ガード)期間は長くなることも短くなることもあり、その長さは「伸縮」することになる。また、引用発明では「遅延時間差に応じて」長さを設定し、本願発明では「回線品質に応じて」長さを設定している点で相違しているが、両発明ともに「所定の条件に応じて」長さを設定しているといえるから、両発明は「通常データに付加するガード区間の長さを所定の条件に応じて伸縮させて設定」している点で共通する。

したがって、本願発明と引用発明は、以下の点で一致ないし相違している。

(一致点)
「無線通信システムにおいて、ユーザデータである通常データと、重要データとを送信するOFDM送信方法であって、
前記通常データと前記重要データとにガード区間を付加する付加工程と、
前記重要データに付加するガード区間の長さを一定値に設定し、前記通常データに付加するガード区間の長さを所定の条件に応じて伸縮させて設定する設定工程と、
前記通常データと前記重要データとを送信する送信工程と、
を具備するOFDM送信方法。」

(相違点)
(1)「無線通信システム」に関し、本願発明では、「移動体通信システム」であるのに対し,引用発明では、「移動体通信」における無線通信システムであるか否か不明である点。
(2)「重要データ」に関して、本願発明では「誤り率に関して前記通常データよりも高い精度が要求される」ものであるのに対し、引用発明はその点が不明である点。
(3)「重要データに付加するガード区間の長さを一定値に設定」するに関し、本願発明では、「回線品質に依らず前記通常データに付加するガード区間によって実現される誤り率よりも低い誤り率を実現させる一定値」であるのに対し、引用発明では、そのような「一定値」であるのか不明な点。
(4)「通常データに付加するガード区間の長さを所定の条件に応じて伸縮させて設定」するに関し、本願発明では「回線品質に応じて」伸縮させて設定しているのに対し、引用発明では、「遅延時間差に応じて」伸縮させて設定している点。

そこで、上記各相違点について検討する。
上記相違点(1)について検討する。
OFDM伝送技術が、無線による移動体通信システムに用いられることは当業者において周知の事項であり、引用発明の無線通信システムにおけるOFDM伝送方法を、移動体通信システムに適用することは当業者が容易に実施し得ることである。

上記相違点(2)について検討する。
引用発明の制御シンボルは、フレームヘッダに含まれるシンボルであり、このような制御シンボルが、有効データ領域のデータ・シンボルよりも重要度の高い「重要データ」であることは当業者には周知の事項である。このように重要度の高い「重要データ」は確実な伝送が求められるから、誤り率に関して高い精度が要求されるのは当業者における技術常識にすぎない。

上記相違点(3)について検討する。
引用発明において「重要データ」である制御シンボルの保護(ガード)期間の長さは、「固定長」となっているので、その長さは何らかの条件で変化しないものであり、本願発明と同様に「回線品質に依」らない「一定値」となっている。
また、OFDM伝送において、遅延波の遅延量より長い保護(ガード)期間を設ければ符号間干渉が抑えられて「誤り率」を低くできることは周知の技術事項である。(必要があれば、橋爪厚盛 西島英記 岡田実 小牧省三,「B-5-282 直交マルチキャリア変調におけるガード区間を用いた高速フェージング補償方式」,1997年電子情報通信学会総合大会,社団法人電子情報通信学会,1997年3月6日,pp.669(「2.提案方式およびシステム」の項の第1行-第5行の記載参照),特開平10-75229号公報(段落【0015】-【0022】,【0053】)の記載参照)
引用発明の制御シンボルの保護(ガード)期間の長さは、ネットワークにおいて予想(想定)される臨界条件においても連続する制御シンボル間の干渉が回避(防止)できるように設定されている。これに対してデータ・シンボルの保護(ガード)期間の長さは制御シンボルの保護(ガード)期間の長さより短くされているので、データ・シンボル間の干渉は、制御シンボル間のクロストークよりも相対的に増加するものとなる。
ここで、前記周知の事項から、符号間干渉がより少ない場合に誤り率が低下するので、引用発明では、「通常データ」であるデータ・シンボルに付加するガード区間によって実現される誤り率よりも、「重要データ」である制御シンボルに付加するガード区間によって実現される誤り率の方が低い誤り率を実現するものといえる。
したがって、引用発明の重要データに付加する「固定長」のガード区間の長さが、「回線品質に依らず前記通常データに付加するガード区間によって実現される誤り率よりも低い誤り率を実現させる一定値」となっていることは当業者に自明の事項である。

上記相違点(4)について検討する。
引用発明では、データシンボルに挿入する保護(ガード)期間の長さを遅延時間差に応じて異なる長さに設定しているが、「遅延時間差」が、「回線品質」に応じて変化するのは技術常識である。
したがって、引用発明の「所定の条件」である「遅延時間差」は「回線品質」に含まれるものであるから、相違点(4)にかかる構成において本願発明は引用発明を含んでいることが明らかであり、本願発明と引用発明は実質的な差異を有していない。

したがって、各相違点は格別なものでない。そして、本願発明の作用効果も、引用発明から当業者が予測し得る範囲のものである。

5.むすび
以上のとおり、本願発明は、上記引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-06-24 
結審通知日 2011-06-28 
審決日 2011-07-11 
出願番号 特願平11-74621
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H04J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 富澤 哲生高野 洋福田 正悟  
特許庁審判長 藤井 浩
特許庁審判官 新川 圭二
石井 研一
発明の名称 OFDM送信方法およびOFDM送信装置  
代理人 鷲田 公一  

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