• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16F
管理番号 1242375
審判番号 不服2010-16892  
総通号数 142 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-10-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-07-27 
確定日 2011-08-25 
事件の表示 特願2007-272882「液体封入式防振装置」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 5月14日出願公開、特開2009-103141〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成19年10月19日の出願であって、平成22年4月19日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成22年7月27日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同日付けで手続補正がなされたものである。

2.平成22年7月27日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成22年7月27日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
(1)本件補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲は、
「【請求項1】
振動体と該振動体を支持する支持体との間に介装される液体封入式防振装置であって、
振動入力に応じ相対変位可能な第1および第2の取付部材と、
前記第1および第2の取付部材の間に介装された弾性体と、
前記弾性体との間に液室を形成するよう、前記第1および第2の取付部材のうちいずれか一方に装着された拡張および収縮可能なダイヤフラムと、
前記液室内を、複数の小液室に仕切るとともに、それぞれ任意の2つの小液室を互いに連通させる複数種のオリフィス通路を形成する仕切り板と、を備え、
前記複数種のオリフィス通路が、流動する液体の液柱共振周波数が低い第1オリフィス通路と、流動する液体の液柱共振周波数が前記第1オリフィス通路より高い第2オリフィス通路とで構成され、
前記第1オリフィス通路で液柱共振を生じさせる振動入力に対しては前記任意の2つの液室の差圧に応動して両液室間の液体の流れを規制するよう前記第2オリフィス通路を閉塞し、前記第2オリフィス通路で液柱共振を生じさせる振動入力に対しては前記任意の2つの液室の差圧によって前記第2オリフィス通路に流れる液体に応動して前記第2オリフィス通路を開放状態に維持する可動栓部材が設けられていることを特徴とする液体封入式防振装置。
【請求項2】
振動体と該振動体を支持する支持体との間に介装される液体封入式防振装置であって、
振動入力に応じ相対変位可能な第1および第2の取付部材と、
前記第1および第2の取付部材の間に介装された弾性体と、
前記弾性体との間に液室を形成するよう、前記第1および第2の取付部材のうちいずれか一方に装着された拡張および収縮可能なダイヤフラムと、
前記液室内を、前記弾性体の弾性変形に応じて圧力変化する一面側の第1小液室と、前記ダイヤフラムの拡張および収縮により容積変化する第2小液室とに仕切るとともに、前記第1小液室および前記第2小液室を互いに連通させる複数種のオリフィス通路を形成する仕切り板と、を備え、
前記複数種のオリフィス通路が、前記振動入力に応じて前記第1小液室と前記第2小液室との間を流動する液体の液柱共振周波数が低い第1オリフィス通路と、前記第1オリフィス通路より前記液柱共振周波数が高い第2オリフィス通路とで構成され、
前記第1オリフィス通路で液柱共振を生じさせる振動入力に対しては前記第1小液室と前記第2小液室の差圧に応動して前記第1小液室から前記第2小液室への液体の流れを規制するよう前記第2オリフィス通路を閉塞し、前記第2オリフィス通路で液柱共振を生じさせる振動入力に対しては前記第1小液室と前記第2小液室の差圧によって前記第2オリフィス通路に流れる液体に応動して前記第2オリフィス通路を開放状態に維持する可動栓部材が設けられ、
前記可動栓部材が、前記仕切り板の前記第2オリフィス通路の開口近傍で該開口を開放する復帰位置に付勢されていることを特徴とする液体封入式防振装置。
【請求項3】
前記可動栓部材と前記仕切り板とのうち少なくとも一方により、前記可動栓部材を前記仕切り板に収納された状態で前記第2オリフィス通路を開放する位置に復帰させる復帰手段が構成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の液体封入式防振装置。
【請求項4】
前記可動栓部材が、前記差圧に応じて弾性変形する撓み部を有し、該撓み部により前記復帰手段が構成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1の請求項に記載の液体封入式防振装置。
【請求項5】
前記第1オリフィス通路が前記仕切り板の外周側に位置するとともに、前記第2オリフィス通路が前記仕切り板の中央部に位置することを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1の請求項に記載の液体封入式防振装置。
【請求項6】
前記可動栓部材が、前記第2オリフィス通路の開口に対向する範囲の外方に、前記第2オリフィス通路に連通する連通穴と、該連通穴を外方から取り囲むとともに前記仕切り板に液体密に接触している外周部と、を有することを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1の請求項に記載の液体封入式防振装置。
【請求項7】
前記可動栓部材が、前記仕切り板内にその板面方向に移動可能に設けられることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1の請求項に記載の液体封入式防振装置。
【請求項8】
前記振動体が車両のエンジンであり、前記支持体が前記車両の車体であることを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか1の請求項に記載の液体封入式防振装置。
【請求項9】
前記エンジンの運転によるシェイク振動入力時に前記第1オリフィス通路が液柱共振を生じ、前記エンジンの運転によるアイドル振動入力時に前記第2オリフィス通路が液柱共振を生じるように、前記第1オリフィス通路および前記第2オリフィス通路の断面積と長さがそれぞれ設定されていることを特徴とする請求項8に記載の液体封入式防振装置。」
に補正された。
上記補正は、請求項1についてみると、実質的にみて、本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「前記第1オリフィス通路で液柱共振を生じさせる振動入力に対しては前記任意の2つの液室の差圧に応動して両液室間の液体の流れを規制するよう前記第2オリフィス通路を閉塞し、前記第2オリフィス通路で液柱共振を生じさせる振動入力に対しては前記任意の2つの液室の差圧に応動しつつ前記第2オリフィス通路を開放状態に維持する可動栓部材」を「前記第1オリフィス通路で液柱共振を生じさせる振動入力に対しては前記任意の2つの液室の差圧に応動して両液室間の液体の流れを規制するよう前記第2オリフィス通路を閉塞し、前記第2オリフィス通路で液柱共振を生じさせる振動入力に対しては前記任意の2つの液室の差圧によって前記第2オリフィス通路に流れる液体に応動して前記第2オリフィス通路を開放状態に維持する可動栓部材」に限定するものであって、これは、特許法第17条の2第5項第2号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。
(2)引用例
特開平8-74922号公報(以下、「引用例1」という。)には、下記の事項が図面とともに記載されている。
(あ)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、自動車におけるエンジン振動が車体に伝達されるのを防止する目的で設けられるエンジンマウントやロールインシュレータ等に使用して好適な可動弁式流体封入防振支持装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】自動車におけるエンジンの振動には、中高速走行のときに発生する周波数が15Hz以下の低周波振動のシェイク振動と、アイドル運転のときに発生する20?40Hz程度の中周波振動のアイドル振動等がある。従って、流体室間を流れる流体の流動抵抗や液柱共振をいずれか一方の振動の周波数にチューニングしたのでは他方の振動を充分に吸収できない。
【0003】例えば、シェイク振動のときに、流体室間を流動する流体によって高減衰効果が得られるように液柱共振をチューニングしたとすると、これよりも高い周波数のアイドル振動が入力された場合、流動抵抗が増大して高動ばね化を来してしまい、アイドル振動に対する防振性能が極端に低下するといったことが生ずるのである。
【0004】このため、特開昭60-113825号公報や特開昭60-045130号公報には、流体室間を連通するオリフィス通路の他に流体室を仕切る仕切板に短絡用の貫通孔を形成するとともに、ここに可動弁を取り付ける構成のものが示されている。これにより、大きな振幅のシェイク振動が発生したときには可動弁で貫通孔を閉塞し、オリフィス通路に流体を流動させることによって振動を減衰させ、反対に小振幅のアイドル振動のときには可動弁による閉塞を抑制して貫通孔に流体を自由に往来させ、動ばね定数の上昇を抑えて振動を吸収しようとするものである。」
(い)「【0008】
【実施例】以下、本発明の実施例を図面を参照して説明する。図1はエンジンマウント用の流体封入防振支持装置の横断面図、図2は図1のA-A断面図であるが、本例における流体封入防振支持装置は、金属体のカップ10の上部に内部に空間を有せしめてゴム弾性材12を加硫接着して被せた構造の弾性ケース14の内部を金属製の仕切板16で上下に仕切り、各々の空間に流体を封入して流体室18、20としたものである。
【0009】この場合、仕切板16の上方に同じく金属製の補助板22を張設し、仕切板16と補助板22との間に円形空間を形成してこれをオリフィス通路24とすることで(26、28はそれぞれの流体室18、20に通ずる連通孔)、両流体室18、20に在る流体は相互に移動できるようになっている。又、下方の流体室20の底面をダイアフラム30で形成し、カップ10とダイアフラム30との間の空間を大気圧に設定している。これにより、上方の流体室18は受圧室、下方の流体室20は平衡室に形成される。
【0010】仕切板16の中央には貫通孔32が形成されており、ここに可動弁34が取り付けられる。この可動弁34は、周囲からゴム弾性材の吊帯36で引っ張られて貫通孔32を非閉塞する位置に保持されるものである。これにより、可動弁34は振動の入力に伴って移動するものの、その振幅が一定以下のときには吊帯36の作用で貫通孔32を非閉塞したままであり、これを越える振幅の振動が入力されたときに始めて貫通孔32を閉塞することになる。」
(う)「【0012】本例における可動弁34は、貫通孔32に隙間を有して挿通される胴部38と、胴部38の上下に仕切板16と一定間隔離して連設され、貫通孔32よりも径の大きな当接板40、42とからなるものである。具体的には、胴部38と下方の当接板42とを樹脂一体物として成形し、その胴部38に金属板からなる上方の当接板40を嵌め込んでかしめたものである。
【0013】この場合、外周端が仕切板16と補助板22との間に介在して設けられ、オリフィス通路24のシール部材を兼ねるゴム板44を上方の当接板40と胴部38との間まで延ばし、途中の架橋部(当接板40と端部との間)を放射状4本程度残してこれを吊帯36とするとともに、余部を切裁して流体の通路としている。これにより、可動弁34は吊帯36の引張力で上下、左右共均衡した一定の位置(中立位置)に保持される。尚、このときの吊帯36の幅や厚みを変えると、そのばね定数も変更される。
【0014】以上により、振動が入力されないときには可動弁34は吊帯36の作用で両当接板40、42が仕切板16から離れた位置、即ち、中立位置に保持される。又、入力されてもその振幅が当接板40、42と仕切板16との間隔までに達しないときも同様である。従って、両流体室18、20に在る流体は可動弁34の胴部38と貫通孔32との隙間を通って自由に行き来でき、動ばね定数を上昇させない。この結果、アイドル振動の吸収に効果がある。尚、この場合、貫通孔32を第二のオリフィス通路24になるようにチューニングすれば、100Hz程度の高周波振動のこもり音の吸収にも効果がある。
【0015】これに対して大きな振幅の振動が入力されて可動弁34が仕切板16までの間隔以上に上行又は下行しようとすると、両当接板40、42は仕切板16に当接して貫通孔32を閉塞してしまうから、流体はオリフィス通路24を積極的に流動して減衰効果を発揮する。この結果、シェイク振動の減衰に効果がある。このようにして、アイドル振動、シェイク振動、こもり音等周波数の異なるすべての振動に対して吸収、減衰効果を発揮するのである。」
以上の記載事項及び図面からみて、引用例1には、次の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されているものと認められる。
「エンジンと該エンジンを支持する車体との間に介装される可動弁式流体封入防振支持装置であって、
振動入力に応じ相対変位可能な第1および第2の取付部材と、
前記第1および第2の取付部材の間に介装されたゴム弾性材12と、
前記ゴム弾性材12との間に流体室を形成するよう、前記第1および第2の取付部材のうちの一方に装着されたダイアフラム30と、
前記流体室内を金属製の仕切板16により二つの流体室18、20に仕切り、仕切板16の中央には貫通孔32が形成されているとともに、仕切板16の上方に金属製の補助板22を張設し、仕切板16と補助板22との間に形成された円形空間であるオリフィス通路24と、を備え、
仕切板16の貫通孔32に可動弁34が取り付けられていて、可動弁34は吊帯36の引張力で上下、左右共均衡した一定の位置(中立位置)に保持され、
シェイク振動のような大きな振幅の振動が入力されると、可動弁34が貫通孔32を閉塞して、流体はオリフィス通路24を積極的に流動して減衰効果を発揮し、アイドル振動のような小さな振幅の振動が入力されると、可動弁34は中立位置に保持されて、流体は可動弁34の胴部38と貫通孔32との隙間を通って自由に行き来でき、アイドル振動の吸収に効果があるような可動弁34が設けられている可動弁式流体封入防振支持装置。」
(3)対比
本願補正発明と引用例1発明とを比較すると、後者の「可動弁式流体封入防振支持装置」は前者の「液体封入式防振装置」に相当し、以下同様に、「エンジン」は「振動体」に、「車体」は「支持体」に、「ゴム弾性材12」は「弾性体」に、「流体室」は「液室」に、「ダイアフラム30」は「拡張および収縮可能なダイヤフラム」に、「二つの流体室18、20」は「複数の小液室」に、「仕切板16」及び「補助板22」からなる部材は「仕切り板」に、「オリフィス通路24」は「第1オリフィス通路」に、「貫通孔32」は「第2オリフィス通路」に、「可動弁34」は「可動栓部材」に、それぞれ相当する。
また、引用例1発明の「仕切板16の貫通孔32に可動弁34が取り付けられていて、可動弁34は吊帯36の引張力で上下、左右共均衡した一定の位置(中立位置)に保持され、シェイク振動のような大きな振幅の振動が入力されると、可動弁34が貫通孔32を閉塞して、流体はオリフィス通路24を積極的に流動して減衰効果を発揮し、アイドル振動のような小さな振幅の振動が入力されると、可動弁34は中立位置に保持されて、流体は可動弁34の胴部38と貫通孔32との隙間を通って自由に行き来でき、アイドル振動の吸収に効果があるような可動弁34が設けられている」という事項と本願補正発明の「前記第1オリフィス通路で液柱共振を生じさせる振動入力に対しては前記任意の2つの液室の差圧に応動して両液室間の液体の流れを規制するよう前記第2オリフィス通路を閉塞し、前記第2オリフィス通路で液柱共振を生じさせる振動入力に対しては前記任意の2つの液室の差圧によって前記第2オリフィス通路に流れる液体に応動して前記第2オリフィス通路を開放状態に維持する可動栓部材が設けられている」という事項とは、「第2オリフィス通路を閉塞し、または開放状態に維持する可動栓部材が設けられている」点において一致する。
したがって、本願補正発明の用語に倣って整理すると、両者は、
「振動体と該振動体を支持する支持体との間に介装される液体封入式防振装置であって、
振動入力に応じ相対変位可能な第1および第2の取付部材と、
前記第1および第2の取付部材の間に介装された弾性体と、
前記弾性体との間に液室を形成するよう、前記第1および第2の取付部材のうちいずれか一方に装着された拡張および収縮可能なダイヤフラムと、
前記液室内を、複数の小液室に仕切るとともに、それぞれ任意の2つの小液室を互いに連通させる複数種のオリフィス通路を形成する仕切り板と、を備え、
前記複数種のオリフィス通路が、第1オリフィス通路と、第2オリフィス通路とで構成され、
第2オリフィス通路を閉塞し、または開放状態に維持する可動栓部材が設けられている液体封入式防振装置。」
[相違点1]
本願補正発明は、「前記複数種のオリフィス通路が、流動する液体の液柱共振周波数が低い第1オリフィス通路と、流動する液体の液柱共振周波数が前記第1オリフィス通路より高い第2オリフィス通路とで構成され」ているのに対し、引用例1発明は、「オリフィス通路24」及び「貫通孔32」がそのように構成されているかどうか、不明である点。
[相違点2]
本願補正発明は、「前記第1オリフィス通路で液柱共振を生じさせる振動入力に対しては前記任意の2つの液室の差圧に応動して両液室間の液体の流れを規制するよう前記第2オリフィス通路を閉塞し、前記第2オリフィス通路で液柱共振を生じさせる振動入力に対しては前記任意の2つの液室の差圧によって前記第2オリフィス通路に流れる液体に応動して前記第2オリフィス通路を開放状態に維持する可動栓部材が設けられている」のに対し、引用例1発明は「シェイク振動のような大きな振幅の振動が入力されると、可動弁34が貫通孔32を閉塞して、流体はオリフィス通路24を積極的に流動して減衰効果を発揮し、アイドル振動のような小さな振幅の振動が入力されると、可動弁34は中立位置に保持されて、流体は可動弁34の胴部38と貫通孔32との隙間を通って自由に行き来でき、アイドル振動の吸収に効果があるような可動弁34が設けられている」点。
(4)判断
(4-1)相違点1について
シェイク振動、アイドル振動等の入力時に流体の共振作用に基づく効果が発揮されるようにチューニングされている複数のオリフィス通路が設けられている防振装置は、例えば、特開平8-270718号公報(特に【0032】)、特開平10-238586号公報(特に【0032】)、特開2001-200884号公報(特に【0042】【0043】)に示されているように周知である。引用例1にも、上記に摘記したように、【0015】には、「100Hz程度の高周波振動のこもり音」に関してではあるが、「貫通孔32」を「チューニング」することが記載ないし示唆されており、引用例1発明に上記周知事項を適用して、引用例1発明の「オリフィス通路24」、「貫通孔32」を、シェイク振動、アイドル振動に応じた共振作用に基づく効果が発揮されるように構成することは、当業者が容易になし得たものと認められる。
(4-2)相違点2
引用例1発明の「可動弁34」は、「シェイク振動のような大きな振幅の振動が入力されると」、「貫通孔32を閉塞して、流体はオリフィス通路24を積極的に流動して減衰効果を発揮し」、「アイドル振動のような小さな振幅の振動が入力されると」、「中立位置に保持されて、流体は可動弁34の胴部38と貫通孔32との隙間を通って自由に行き来でき、アイドル振動の吸収に効果がある」ものであるが、ただ、それが、「2つの液室の差圧に応動して」閉塞し、また、「2つの液室の差圧によって前記第2オリフィス通路に流れる液体に応動して前記第2オリフィス通路を開放状態に維持する」ものであるかどうかは、不明である。
しかし、引用例1には、上記に摘記したように、【0014】には、アイドル振動のような小振幅の振動の場合には可動弁34が中立状態に保持されることが、また、【0015】には、シェイク振動のような大振幅の振動の場合には可動弁34が貫通孔32を閉塞することが示されている。そもそも、可動弁34が貫通孔内に配置されている以上、このような可動弁34の作動が、貫通孔32内の流体に作用する差圧ないし流体の応動の影響を受けるものではないとは考え難い。また、引用例1発明に周知事項を適用して、引用例1発明の「オリフィス通路24」、「貫通孔32」を、シェイク振動、アイドル振動に応じた共振作用に基づく効果が発揮されるように構成することは当業者が容易になし得たものと認められることは、上述したとおりであり、その場合に、可動弁34の上記のような作動は、実質的にみて、相違点2に係る本願補正発明の上記事項と格別異ならないと認められる。
また、一般に、複数のオリフィス通路の一方のオリフィス通路における液流動により減衰されるシェイク振動等の振動の場合には、他方のオリフィス通路を閉塞し、他方のオリフィス通路における液流動により減衰されるアイドル振動等の振動の場合には、他方のオリフィス通路を開放状態に維持する可動部材が他方のオリフィス通路に設けられている防振装置は、例えば、特開2002-206586号公報(特に【0035】?【0037】)、特開昭62-215143号公報(第4ページ左下欄第5?12行、第6ページ左上欄第7行?右上欄第9行)、特開平10-122294号公報(【0016】)、特開昭60-175834号公報(特に第2ページ左下欄第9行?右下欄第7行)に示されているように周知であり、引用例1発明にこのような周知事項を適用することは、当業者が容易になし得たものと認められる。
そして、本願補正発明の作用効果は、引用例1に記載された発明及び周知の事項に基づいて、当業者が予測し得る程度のものである。
したがって、本願補正発明は、引用例1に記載された発明及び周知事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

なお、請求人は、平成23年1月13日付け回答書において、「『前記第1オリフィス通路で液柱共振を生じさせる振動入力に対しては前記任意の2つの液室の差圧によって前記第2オリフィス通路に流れる液体に応動して両液室間の液体の流れを規制するよう前記第2オリフィス通路を閉塞し、』と補正(下線部)することで、あるいは、可動栓部材が仕切り板に収納されている点等を明確にすることで、相違点が明確になるようでしたら、そのような補正の機会を頂戴したく存じます。」と釈明しているが、前者の補正はそれほどの実質的な差異をもたらすものではないし、また、後者の点は、例えば、上記の特開昭62-215143号公報、特開平10-122294号公報に記載されているとともに、設計的事項ということもでき、結局、本審決の上記判断及び結論に変更をきたすものではない。

(5)むすび
本願補正発明について以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、本件補正における他の補正事項を検討するまでもなく、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明
平成22年7月27日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?9に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明9」という。)は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲、及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
振動体と該振動体を支持する支持体との間に介装される液体封入式防振装置であって、
振動入力に応じ相対変位可能な第1および第2の取付部材と、
前記第1および第2の取付部材の間に介装された弾性体と、
前記弾性体との間に液室を形成するよう、前記第1および第2の取付部材のうちいずれか一方に装着された拡張および収縮可能なダイヤフラムと、
前記液室内を、複数の小液室に仕切るとともに、それぞれ任意の2つの小液室を互いに連通させる複数種のオリフィス通路を形成する仕切り板と、を備え、
前記複数種のオリフィス通路が、流動する液体の液柱共振周波数が低い第1オリフィス通路と、流動する液体の液柱共振周波数が前記第1オリフィス通路より高い第2オリフィス通路とで構成され、
前記第1オリフィス通路で液柱共振を生じさせる振動入力に対しては前記任意の2つの液室の差圧に応動して両液室間の液体の流れを規制するよう前記第2オリフィス通路を閉塞し、前記第2オリフィス通路で液柱共振を生じさせる振動入力に対しては前記任意の2つの液室の差圧に応動しつつ前記第2オリフィス通路を開放状態に維持する可動栓部材が設けられていることを特徴とする液体封入式防振装置。
【請求項2】
振動体と該振動体を支持する支持体との間に介装される液体封入式防振装置であって、
振動入力に応じ相対変位可能な第1および第2の取付部材と、
前記第1および第2の取付部材の間に介装された弾性体と、
前記弾性体との間に液室を形成するよう、前記第1および第2の取付部材のうちいずれか一方に装着された拡張および収縮可能なダイヤフラムと、
前記液室内を、前記弾性体の弾性変形に応じて圧力変化する一面側の第1小液室と、前記ダイヤフラムの拡張および収縮により容積変化する第2小液室とに仕切るとともに、前記第1小液室および前記第2小液室を互いに連通させる複数種のオリフィス通路を形成する仕切り板と、を備え、
前記複数種のオリフィス通路が、前記振動入力に応じて前記第1小液室と前記第2小液室との間を流動する液体の液柱共振周波数が低い第1オリフィス通路と、前記第1オリフィス通路より前記液柱共振周波数が高い第2オリフィス通路とで構成され、
前記第1オリフィス通路で液柱共振を生じさせる振動入力に対しては前記第1小液室と前記第2小液室の差圧に応動して前記第1小液室から前記第2小液室への液体の流れを規制するよう前記第2オリフィス通路を閉塞し、前記第2オリフィス通路で液柱共振を生じさせる振動入力に対しては前記第1小液室と前記第2小液室の差圧に応動しつつ前記第2オリフィス通路を開放状態に維持する可動栓部材が設けられ、
前記可動栓部材が、前記仕切り板の前記第2オリフィス通路の開口近傍で該開口を開放する復帰位置に付勢されていることを特徴とする液体封入式防振装置。
【請求項3】
前記可動栓部材と前記仕切り板とのうち少なくとも一方により、前記可動栓部材を前記第2オリフィス通路の開口から離間する前記復帰位置に復帰させる復帰手段が構成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の液体封入式防振装置。
【請求項4】
前記可動栓部材が、前記差圧に応じて弾性変形する撓み部を有し、該撓み部により前記復帰手段が構成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1の請求項に記載の液体封入式防振装置。
【請求項5】
前記第1オリフィス通路が前記仕切り板の外周側に位置するとともに、前記第2オリフィス通路が前記仕切り板の中央部に位置することを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1の請求項に記載の液体封入式防振装置。
【請求項6】
前記可動栓部材が、前記第2オリフィス通路の開口に対向する範囲の外方に、前記第2オリフィス通路に連通する連通穴と、該連通穴を外方から取り囲むとともに前記仕切り板に液体密に接触している外周部と、を有することを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1の請求項に記載の液体封入式防振装置。
【請求項7】
前記可動栓部材が、前記仕切り板内にその板面方向に移動可能に設けられることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1の請求項に記載の液体封入式防振装置。
【請求項8】
前記振動体が車両のエンジンであり、前記支持体が前記車両の車体であることを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか1の請求項に記載の液体封入式防振装置。
【請求項9】
前記エンジンの運転によるシェイク振動入力時に前記第1オリフィス通路が液柱共振を生じ、前記エンジンの運転によるアイドル振動入力時に前記第2オリフィス通路が液柱共振を生じるように、前記第1オリフィス通路および前記第2オリフィス通路の断面積と長さがそれぞれ設定されていることを特徴とする請求項8に記載の液体封入式防振装置。」

3-1.本願発明1について
(1)本願発明1
本願発明1は上記のとおりである。
(2)引用例1
引用例1及びその記載事項は上記2.に記載したとおりである。
(3)対比・判断
本願発明1は、実質的にみると、本願補正発明の「前記第1オリフィス通路で液柱共振を生じさせる振動入力に対しては前記任意の2つの液室の差圧に応動して両液室間の液体の流れを規制するよう前記第2オリフィス通路を閉塞し、前記第2オリフィス通路で液柱共振を生じさせる振動入力に対しては前記任意の2つの液室の差圧によって前記第2オリフィス通路に流れる液体に応動して前記第2オリフィス通路を開放状態に維持する可動栓部材」という事項を「前記第1オリフィス通路で液柱共振を生じさせる振動入力に対しては前記任意の2つの液室の差圧に応動して両液室間の液体の流れを規制するよう前記第2オリフィス通路を閉塞し、前記第2オリフィス通路で液柱共振を生じさせる振動入力に対しては前記任意の2つの液室の差圧に応動しつつ前記第2オリフィス通路を開放状態に維持する可動栓部材」という事項に拡張したものに相当する。
そうすると、本願発明1の構成要件をすべて含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、上記2.に記載したとおり、引用例1に記載された発明及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明1も、実質的に同様の理由により、引用例1に記載された発明及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(4)むすび
以上のとおり、本願発明1は引用例1に記載された発明及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に基づいて特許を受けることができない。

4.結語
上述のように、本願発明1が特許を受けることができないものである以上、本願発明2?9について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-06-15 
結審通知日 2011-06-21 
審決日 2011-07-13 
出願番号 特願2007-272882(P2007-272882)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F16F)
P 1 8・ 575- Z (F16F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 長屋 陽二郎  
特許庁審判長 山岸 利治
特許庁審判官 所村 陽一
常盤 務
発明の名称 液体封入式防振装置  
代理人 有我 軍一郎  
代理人 有我 軍一郎  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ