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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H04W 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04W |
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管理番号 | 1242402 |
審判番号 | 不服2009-2210 |
総通号数 | 142 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2011-10-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2009-02-02 |
確定日 | 2011-08-24 |
事件の表示 | 特願2004-566716「時分割及び二重自己編成型モバイル通信システムを確立する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 8月 5日国際公開、WO2004/066519、平成18年 2月23日国内公表、特表2006-506922〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
I.手続の経緯 本願は、平成15年11月13日(パリ条約による優先権主張2002年11月13日、中華人民共和国)を国際出願日とする出願であって、平成19年12月26日付けの拒絶の理由の通知に対して、平成20年4月8日付けで意見書が提出されるとともに、同日付けで手続補正がなされたが、平成20年10月29日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成21年2月2日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年3月4日付けで手続補正がなされたものである。 II.平成21年3月4日付けの手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成21年3月4日付けの手続補正を却下する。 [理由] 1.補正前・補正後の本願発明 本件補正により、少なくとも特許請求の範囲の請求項1は、次のように補正された。なお、下線部は補正された箇所を示す。 〈補正前〉 「A: ベースステーションコントローラと接続しないベースステーションによって、隣接するエリアベースステーションからパイロット信号を捜索し、前記ベースステーションによって前記パイロット信号に応答して、前記ベースステーションによってカバーされるローカルエリアを前記隣接するエリアの次の下位レベルのエリアとして設定し、前記隣接するエリアに対して従属的な関係を成立させ、前記隣接するエリアベースステーションとの通信を確立することを含み、 前記隣接するエリアベースステーションが、前記ベースステーションコントローラと直接接続する第1レベルのエリアベースステーションか、又は、前記ベースステーションコントローラと直接ではないがリレー接続される第2又は第2より下位レベルのエリアベースステーションであり、 B: ベースステーションによって上記各レベルにおいてリレー通信を実行することを含み、 前記リレー通信が、第2又は第2より下位レベルのエリアベースステーションによってカバーされる汎用ユーザターミナルによって該第2又は第2より下位レベルのエリアベースステーションからスタートし、前記ベースステーションコントローラと直接接続された第1レベルのエリアベースステーションを介して前記汎用ユーザターミナルと公衆モバイル通信システムの前記ベースステーションコントローラとの通信を結果的に確立し、各レベルにおけるベースステーションによってレベル毎に自己編成型モバイル通信システムを構築すること からなる、 時分割二重自己編成型モバイル通信システムを構築する方法。」 〈補正後〉 「A: ベースステーションコントローラと接続しないベースステーションによって、隣接するエリアのベースステーションからパイロット信号を捜索し、前記ベースステーションによって前記パイロット信号に応答して、前記ベースステーションによってカバーされるローカルエリアを前記隣接するエリアの次の下位レベルのエリアとして設定し、前記隣接するエリアに対して従属的な関係を成立させ、前記隣接するエリアベースステーションとの通信を確立することを含み、 前記隣接するエリアベースステーションが、前記ベースステーションコントローラと直接接続する第1レベルのエリアベースステーションか、又は、前記ベースステーションコントローラと直接ではないがリレー接続される第2又は第2より下位レベルのエリアベースステーションであり、 B: ベースステーションによって上記各レベルにおいてリレー通信を実行することを含み、 前記リレー通信が、第2又は第2より下位レベルのエリアベースステーションによってカバーされる汎用ユーザターミナルによって該第2又は第2より下位レベルのエリアベースステーションからスタートし、前記ベースステーションコントローラと直接接続された第1レベルのエリアベースステーションを介して前記汎用ユーザターミナルと公衆モバイル通信システムの前記ベースステーションコントローラとの通信を結果的に確立し、各レベルにおけるベースステーションによってレベル毎に自己編成型モバイル通信システムを構築すること からなり、 前記自己編成型モバイル通信システムの各下位レベルのエリアベースステーションは、上位レベルのエリアベースステーションを一つだけ有し、各上位レベルのエリアベースステーションは、単一の下位レベルのエリアベースステーションを有するか、一以上の下位レベルのエリアベースステーションを有するか、あるいは、下位レベルのエリアベースステーションを全く有さないかのいずれかである、 時分割二重自己編成型モバイル通信システムを構築する方法。」 本件補正は、 補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「隣接するエリアベースステーション」を、「隣接するエリアのベースステーション」とするものであるが、これは誤記の訂正を目的としたものであり、また、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「時分割二重自己編成型モバイル通信システム」について、「前記自己編成型モバイル通信システムの各下位レベルのエリアベースステーションは、上位レベルのエリアベースステーションを一つだけ有し、各上位レベルのエリアベースステーションは、単一の下位レベルのエリアベースステーションを有するか、一以上の下位レベルのエリアベースステーションを有するか、あるいは、下位レベルのエリアベースステーションを全く有さないかのいずれかである」と限定するものであるから、本件補正は特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本願の補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。) 2.引用例 (1)原査定の拒絶の理由に引用された特開2000-50359号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面とともに、以下の事項が記載されている。 A.「【0008】 【発明の実施の形態】本発明の実施の形態について説明する。通常、基地局(BTS)は停電対策としてバックアップ電源にて一定時間サービスが保証されている。また、基地局は、シームレスなカバレッジ(サービスエリア)を提供するため互いに隣接して配設されている。 【0009】本発明は、この2点に着目し、緊急時を対象に、各BTSをリピータ(中継)無線基地局として動作させ、BTS-電話公衆網間のリンクが切断された場合でも、携帯電話サービスを継続可能としている。 【0010】本発明は、その好ましい実施の形態において、災害時、緊急時等MSからの発信呼をBTSのリピータ機能を利用して隣接BTSへ中継し、BSC、MSCを経由して電話公衆網と接続するように構成されている。BTSは、BSCが動作不能、又はBTSとBSC間のリンクが断を検出した場合、及び、BSCからの通知によりMSCとBSC間のリンクが断を検出した場合に緊急時と認識し、各BTS局は、電話公衆網と正常にリンクされているか否かの情報を保持し、この情報を、BTSは、発信呼を転送する際に、タンデムとして、呼を他のBTSに転送するか、自BTSが接続するBSCを利用して呼接続を行うかを判断するに用いる。 【0011】また災害時のみならず、移動体交換局(MSC)、基地局制御装置(BSC)、各装置を接続するリンクなどに障害が発生した場合においても、携帯電話サービスの継続を可能としている。」 B.「【0021】タンデム処理を行うBTSを「TM-BTS」、BSCに呼接続するBTSを「OG-BTS」と呼ぶ。 【0022】また、MSの発信を受け付けたBTSを「ORG-BTS」と呼ぶ(図2参照)。 【0023】次に、緊急時に利用されるデータの管理について説明する。緊急時、タンデム処理を行なうTM-BTSは、正しい転送先BTSを選択することが要求される(図3参照)。例えば図3に示したようなループとならないように転送先BTSを選択する必要がある。 【0024】転送先BTSの選択手順を、流れ図として図4に示す。図4を参照すると、転送呼を受信し、網とのリンクが有る場合には、OG-BTSの呼接続処理を行い(ステップS106)、一方、網とのリンクが無い場合、転送元より転送先のBTS群を読み上げ(ステップS102)、転送先BTSが有る場合、転送先BTS群を対象に受信レベルの高いBTSを選択し(ステップS104)、選択可能BTSがある場合、選択されたBTSに対してTM-BTSの呼接続処理を行い(ステップS107)、転送先BTSが無い場合、及び選択可能BTSが無い場合には呼開放処理を行う(ステップS108)。 【0025】ステップS104の判断で、ORG-BTSより、地理的に反対に存在するBTS群が選択される。ORG-BTSを基準に転送先を決定するのは、転送が複数回繰り返されループ状になるのを防ぐためである(図3中の破線の矢線によるループ参照)。 【0026】ステップS104、S105において、使用される近隣BTSが使用可能か否かの判断は、近隣BTSが発信する報知チャンネルを受信し、その受信レベルを測定することで行われる。これは、現在運用されているAFA(Automatic Frequency Assignment;自動周波数割当)機能で行われている周波数スキャン機能を利用して実現される。 【0027】次に、BTSリピータとしての呼制御手段について説明する。まず発信処理について説明する。図5は、緊急時に優先加入者が発信した場合の動作シーケンスを示す図である。MSからの発信呼を受け付けたORG-BTSはリピータ機能を用いてBSC選択論理により転送先BSCを決定し、該発信呼をタンデム処理を行うTM-MTS(審決注:TM-BTSの誤記と認められる。)に転送する。 【0028】さらにTM-MTS(審決注:TM-BTSの誤記と認められる。)は、Iフレーム上の発信無線状態報告にあるORG-BTS情報から、転送先BSCを決定する。そして、BSCに呼接続するOG-BTSに転送され、発信呼のIフレームを受け取ったBSCは呼処理(Call Proc)を行い、オーセンティケーション(Authentication)を行い、MSからの応答(UI(Auth.res.))を受けて、BSCはOG-BTSとの間のチャンネルを割当てその応答を受けて、BSCは無線チャンネルの応答(UI(Radio Ch.Ack.)をOG-BTS、TM-BTS、ORG-BTSを介してMSへ通知して通話パスが確立する。 【0029】本発明の一実施例は、既存の移動体無線通信システムを用いて、ソフトウェアを開発するだけで災害時のMS発信を可能としている。但し、BTSが近隣BTSに対して上り信号(MSが、基地局向けに発信する信号)を発信する必要がある。このためBTSは、従来通り下り信号に割り当てられた周波数帯のみならず、上り信号に割り当てられた周波数帯においても同様に、発信処理を行う、構成とされている。 【0030】次に、本発明の別の実施例として、災害に遭遇した携帯電話機保有者の緊急発信呼を処理することも可能である。またBTSのリピータ機能を利用し、MS発信処理のみなず、MSへの着信処理、ハンドオーバー処理についても対応することもできる。またサービス対象を優先加入者のみに限定し、救急活動、医療活動などに応用することで、緊急時の連絡網としても有効である。」 以上のことから、引用例1には、次の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されている。 「災害時、緊急時等MSからの発信呼をBTSのリピータ機能を利用して隣接BTSへ中継し、BSC、MSCを経由して電話公衆網と接続するように構成され、 タンデム処理を行うBTSを「TM-BTS」、BSCに呼接続するBTSを「OG-BTS」と呼び、MSの発信を受け付けたBTSを「ORG-BTS」と呼び、 タンデム処理を行なうTM-BTSは、正しい転送先BTSを選択することが要求され、転送呼を受信し、網とのリンクが無い場合、転送元より転送先のBTS群を読み上げ(ステップS102)、転送先BTSが有る場合、転送先BTS群を対象に受信レベルの高いBTSを選択し(ステップS104)、選択可能BTSがある場合、選択されたBTSに対してTM-BTSの呼接続処理を行い(ステップS107)、 ステップS104、S105において、使用される近隣BTSが使用可能か否かの判断は、近隣BTSが発信する報知チャンネルを受信し、その受信レベルを測定することで行われ、 MSからの発信呼を受け付けたORG-BTSはリピータ機能を用いてBSC選択論理により転送先BSCを決定し、該発信呼をタンデム処理を行うTM-BTSに転送し、OG-BTSに転送され、発信呼のIフレームを受け取ったBSCは呼処理(Call Proc)を行い、BSCはOG-BTSとの間のチャンネルを割当てその応答を受けて、BSCは無線チャンネルの応答(UI(Radio Ch.Ack.)をOG-BTS、TM-BTS、ORG-BTSを介してMSへ通知して通話パスが確立する移動体無線通信システム。」 (2)原査定の拒絶の理由に引用された特開平10-70763号公報(以下、「引用例2」という。)には、図面とともに、以下の事項が記載されている。 C.「【0006】 【発明が解決しようとする課題】本発明が解決しようとする課題は、災害時にある地域の電話回線が寸断され、又ある交換局が機能を失った場合に、移動体無線システムの基地局を中継機として利用することにより、その地域内の呼(通信)を災害で通信機能を失っていない周辺地域の公衆網まで接続することに有る。」 D.「【0010】 【発明の実施の形態】以下本発明を4チャネルTDMAのPHS方式(RCR STD28規格)用いた場合の一実施例について説明する。 【0011】非常時モード時には、図4に示すように、その地域の基地局を交互に例えばA,Bの2種類に設定する。 【0012】ここでは、4チャネル中の2チャネル(T1,T2,R1,R2)を子機間通信に割り当て、残りの2チャネルを基地局間通信に使用した場合を仮定する。 【0013】(1)フレームの使い方 通常使用時に、地域全体での基地局間同期がとれている場合、非常時モードにおいて、隣合う基地局間での通信を行うためには、隣接する基地局は、規則的に異なったタイムスロットの使い方をする必要がある。 【0014】図4において、基地局Amnと基地局Bmnとはこの関係にある。例えば、Aグループに属する基地局が、(R3,R4)スロットを受信用に設定した場合、Bグループの基地局は(R3,R4)スロットは送信時間となり、(T3,T4)スロットが受信時間となる。」 以上のことから、引用例2には、次の技術が記載されている。 「災害時に基地局を中継器として利用することにより、呼(通信)を災害で通信機能を失っていない周辺地域の公衆網まで接続する移動体無線システムにおいて、非常時モードにおいて、隣合う基地局間での通信を行うためには、隣接する基地局は、規則的に異なったタイムスロットの使い方をする必要があり、Aグループに属する基地局が、(R3,R4)スロットを受信用に設定した場合、Bグループの基地局は(R3,R4)スロットは送信時間となり、(T3,T4)スロットが受信時間となる技術。」 3.対比 本願補正発明と引用例1発明とを対比する。 引用例1発明の「BTS」は、本願補正発明の「ベースステーション」に相当し、引用例1発明の「ORG-BTS」、「TM-BTS」は、本願補正発明の「ベースステーションコントローラと接続しないベースステーション」に相当する。引用例1発明の「転送先BTS」、「近隣BTS」は、本願補正発明の「隣接するエリアベースステーション」に相当する。引用例1発明において、「網とのリンクが無い場合」、「転送先BTS群を対象に受信レベルの高いBTSを選択し(ステップS104)、選択可能BTSがある場合、選択されたBTSに対してTM-BTSの呼接続処理を行」うこと、「使用される近隣BTSが使用可能か否かの判断は、近隣BTSが発信する報知チャンネルを受信し、その受信レベルを測定することで行われ」ることから、引用例1発明の「転送先BTS群を対象に受信レベルの高いBTSを選択し(ステップS104)、選択可能BTSがある場合、選択されたBTSに対してTM-BTSの呼接続処理を行」うことと、本願補正発明の「隣接するエリアベースステーションからパイロット信号を捜索」することは、隣接するエリアベースステーションから報知信号を捜索する点で共通する。また、引用例1発明において「選択可能BTSがある場合、選択されたBTSに対してTM-BTSの呼接続処理を行」うこと、「MSからの発信呼を受け付けたORG-BTSはリピータ機能を用いてBSC選択論理により転送先BSCを決定し、該発信呼をタンデム処理を行うTM-BTSに転送し、OG-BTSに転送され、発信呼のIフレームを受け取ったBSCは呼処理(Call Proc)を行い、BSCはOG-BTSとの間のチャンネルを割当てその応答を受けて、BSCは無線チャンネルの応答(UI(Radio Ch.Ack.)をOG-BTS、TM-BTS、ORG-BTSを介してMSへ通知して通話パスが確立する」ことから、引用例1発明では、報知信号の受信レベルの高いBTSを選択して、選択したBTSを介して呼制御処理が行われるので、呼制御処理は報知信号に応答したものであると言える。また、引用例1発明において、各BTSは、BSCと接続されるOG-BTSの下位レベルがTM-BTSで、このTM-BTSの下位レベルが、ORG-BTSとなる従属的な関係となっていることは明らかであり、引用例1発明は、本願補正発明の「ベースステーションによって前記パイロット信号に応答して、前記ベースステーションによってカバーされるローカルエリアを前記隣接するエリアの次の下位レベルのエリアとして設定し、前記隣接するエリアに対して従属的な関係を成立させ、前記隣接するエリアベースステーションとの通信を確立する」ことと、ベースステーションによって報知信号に応答して、前記ベースステーションによってカバーされるローカルエリアを隣接するエリアの次の下位レベルのエリアとして設定し、前記隣接するエリアに対して従属的な関係を成立させ、前記隣接するエリアベースステーションとの通信を確立する点で共通する。 引用例1発明において、「転送先BTS」は、BSCと接続する「OG-BTS」か、この「OG-BTS」に呼を転送するタンデム処理を行う「TM-BTS」であることは明らかであり、引用例1発明の「OG-BTS」は、本願補正発明の「ベースステーションコントローラと直接接続する第1レベルのエリアベースステーション」に相当し、引用例1発明の「TM-BTS」は、本願補正発明の「ベースステーションコントローラと直接ではないがリレー接続される第2又は第2より下位レベルのエリアベースステーション」に相当する。 引用例1発明の「MS」は、本願補正発明の「汎用ユーザターミナル」に相当する。引用例1発明の「BSC」は公衆モバイル通信システムのベースステーションコントローラであることは明らかである。そして、引用例1発明において、「MSからの発信呼を受け付けたORG-BTSはリピータ機能を用いてBSC選択論理により転送先BSCを決定し、該発信呼をタンデム処理を行うTM-BTSに転送し、OG-BTSに転送され、発信呼のIフレームを受け取ったBSCは呼処理(Call Proc)を行い、BSCはOG-BTSとの間のチャンネルを割当てその応答を受けて、BSCは無線チャンネルの応答(UI(Radio Ch.Ack.)をOG-BTS、TM-BTS、ORG-BTSを介してMSへ通知して通話パスが確立する」ので、引用例1発明は、BTSによって各レベルにおいてリレー通信を実行すると言え、前記リレー通信が、ORG-BTS(本願補正発明の「第2又は第2より下位レベルのエリアベースステーション」に相当する。)によってカバーされるMS(「汎用ユーザターミナル」)によってORG-BTS(「第2又は第2より下位レベルのエリアベースステーション」)からスタートし、BSC(「ベースステーションコントローラ」)と直接接続されたOG-BTS(「第1レベルのエリアベースステーション」)を介して前記MS(「汎用ユーザターミナル」)と公衆モバイル通信システムの前記BSC(「ベースステーションコントローラ」)との通信を結果的に確立すると言える。また、引用例1発明において、TM-BTS、ORG-BTSの各BTSが報知信号の受信レベルを測定して、受信レベルの高いBTSを選択して、MSとBSC間を接続していることは明らかであり、引用例1発明は、各レベルにおけるBTS(「ベースステーション」)によってレベル毎に自己編成型モバイル通信システムを構築していると言える。 したがって、両者は、 「A: ベースステーションコントローラと接続しないベースステーションによって、隣接するエリアのベースステーションから報知信号を捜索し、前記ベースステーションによって前記報知信号に応答して、前記ベースステーションによってカバーされるローカルエリアを前記隣接するエリアの次の下位レベルのエリアとして設定し、前記隣接するエリアに対して従属的な関係を成立させ、前記隣接するエリアベースステーションとの通信を確立することを含み、 前記隣接するエリアベースステーションが、前記ベースステーションコントローラと直接接続する第1レベルのエリアベースステーションか、又は、前記ベースステーションコントローラと直接ではないがリレー接続される第2又は第2より下位レベルのエリアベースステーションであり、 B: ベースステーションによって上記各レベルにおいてリレー通信を実行することを含み、 前記リレー通信が、第2又は第2より下位レベルのエリアベースステーションによってカバーされる汎用ユーザターミナルによって該第2又は第2より下位レベルのエリアベースステーションからスタートし、前記ベースステーションコントローラと直接接続された第1レベルのエリアベースステーションを介して前記汎用ユーザターミナルと公衆モバイル通信システムの前記ベースステーションコントローラとの通信を結果的に確立し、各レベルにおけるベースステーションによってレベル毎に自己編成型モバイル通信システムを構築すること からなる、 自己編成型モバイル通信システムを構築する方法。」 で、一致するものであり、次の点で相違している。 [相違点1] 本願補正発明では、隣接するエリアベースステーションからパイロット信号を捜索し、ベースステーションによって前記パイロット信号に応答するのに対し、引用例1発明では、隣接するエリアベースステーションから報知信号を捜索し、ベースステーションによって前記報知信号に応答する点。 [相違点2] 本願補正発明では、自己編成型モバイル通信システムの各下位レベルのエリアベースステーションは、上位レベルのエリアベースステーションを一つだけ有し、各上位レベルのエリアベースステーションは、単一の下位レベルのエリアベースステーションを有するか、一以上の下位レベルのエリアベースステーションを有するか、あるいは、下位レベルのエリアベースステーションを全く有さないかのいずれかであるのに対し、引用例1発明では、ORG-BTS、TM-BTS、OG-BTSの経路で接続されるものの、各下位レベルのエリアベースステーションは、上位レベルのエリアベースステーションを一つだけ有し、各上位レベルのエリアベースステーションは、単一の下位レベルのエリアベースステーションを有するか、一以上の下位レベルのエリアベースステーションを有するか、あるいは、下位レベルのエリアベースステーションを全く有さないかのいずれかであるのか明らかではない点。 [相違点3] 本願補正発明では、時分割二重自己編成型モバイル通信システムを構築する方法であるのに対し、引用例1発明では、自己編成型モバイル通信システムを構築する方法であるものの、時分割二重かどうか明らかではない点。 4.判断 上記相違点について検討する。 [相違点1] 移動体通信の技術分野において、ベースステーションからパイロット信号を送信し、移動局の受信レベルをパイロット信号の受信レベルとすることは普通に行われていることであり、引用例1発明において、受信レベルを測定するためベースステーションから送信される報知信号をパイロット信号とし、隣接するエリアベースステーションからパイロット信号を捜索し、ベースステーションによって前記パイロット信号に応答するように構成することは当業者が容易に想到し得たものである。 [相違点2] 通信において、各下位レベルのノードは、上位レベルのノードを一つだけ有し、各上位レベルのノードは、単一の下位レベルのノードを有するか、一以上の下位レベルのノードを有するか、あるいは、下位レベルのノードを全く有さないかのいずれかであるネットワークはツリー型のネットワーク構成として周知技術(例えば、特開2001-244864号公報の【0002】、【0003】、図27には、各無線中継局19間のデータ伝送経路がツリー状に構成されることが記載され、特開平7-312770号公報の【要約】には、複数のノードが二分木型構造で接続されることが記載されている。)であり、前記ノード間のネットワーク構成を引用例1発明のBTSのネットワーク構成に適用して、引用例1発明において、各下位レベルのエリアベースステーションは、上位レベルのエリアベースステーションを一つだけ有し、各上位レベルのエリアベースステーションは、単一の下位レベルのエリアベースステーションを有するか、一以上の下位レベルのエリアベースステーションを有するか、あるいは、下位レベルのエリアベースステーションを全く有さないかのいずれかである構成とすることは当業者が容易に想到し得たものである。 [相違点3] 引用例2には、災害時に基地局を中継器として利用することにより、呼(通信)を災害で通信機能を失っていない周辺地域の公衆網まで接続する移動体無線システムにおいて、非常時モードにおいて、隣合う基地局間での通信を行うためには、隣接する基地局は、規則的に異なったタイムスロットの使い方をする必要があり、Aグループに属する基地局が、(R3,R4)スロットを受信用に設定した場合、Bグループの基地局は(R3,R4)スロットは送信時間となり、(T3,T4)スロットが受信時間となる技術、すなわち、移動体無線通信システムにおいて基地局間で時分割二重通信を行う技術が記載されている。引用例1発明と引用例2とは、災害時に基地局間で呼を転送する移動体無線システムである点で共通しており、引用例2に記載された技術を引用例1発明に適用して、引用例1発明において、基地局間の通信を時分割二重通信として時分割二重自己編成型モバイル通信システムとすることは当業者が容易に想到し得たものである。 そして、本願補正発明の作用効果も、引用例1発明及び引用例2、周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。 したがって、本願補正発明は引用例1発明及び引用例2、周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。 5.むすび したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 III.本願発明について 1.本願発明 平成21年3月4日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明という。」)は、平成20年4月8日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。 「A: ベースステーションコントローラと接続しないベースステーションによって、隣接するエリアベースステーションからパイロット信号を捜索し、前記ベースステーションによって前記パイロット信号に応答して、前記ベースステーションによってカバーされるローカルエリアを前記隣接するエリアの次の下位レベルのエリアとして設定し、前記隣接するエリアに対して従属的な関係を成立させ、前記隣接するエリアベースステーションとの通信を確立することを含み、 前記隣接するエリアベースステーションが、前記ベースステーションコントローラと直接接続する第1レベルのエリアベースステーションか、又は、前記ベースステーションコントローラと直接ではないがリレー接続される第2又は第2より下位レベルのエリアベースステーションであり、 B: ベースステーションによって上記各レベルにおいてリレー通信を実行することを含み、 前記リレー通信が、第2又は第2より下位レベルのエリアベースステーションによってカバーされる汎用ユーザターミナルによって該第2又は第2より下位レベルのエリアベースステーションからスタートし、前記ベースステーションコントローラと直接接続された第1レベルのエリアベースステーションを介して前記汎用ユーザターミナルと公衆モバイル通信システムの前記ベースステーションコントローラとの通信を結果的に確立し、各レベルにおけるベースステーションによってレベル毎に自己編成型モバイル通信システムを構築すること からなる、 時分割二重自己編成型モバイル通信システムを構築する方法。」 2.引用例 引用例の記載事項は、前記「II.2」に記載したとおりである。 3.対比・判断 本願発明は、前記「II」で検討した本願補正発明の「隣接するエリアのベースステーション」を、意味の変わらない「隣接するエリアベースステーション」とするものであり、本願補正発明の「時分割二重自己編成型モバイル通信システム」について、「前記自己編成型モバイル通信システムの各下位レベルのエリアベースステーションは、上位レベルのエリアベースステーションを一つだけ有し、各上位レベルのエリアベースステーションは、単一の下位レベルのエリアベースステーションを有するか、一以上の下位レベルのエリアベースステーションを有するか、あるいは、下位レベルのエリアベースステーションを全く有さないかのいずれかである」との限定を省いたものである。 そうすると、本願発明の構成要素をすべて含み、さらに限定を付したものに相当する本願補正発明が、前記「II.4」に記載したとおり、引用例1発明及び引用例2、周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、上記引用例1発明及び引用例2、周知技術に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 4.むすび 以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用例1発明及び引用例2、周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は、拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2011-03-23 |
結審通知日 | 2011-03-29 |
審決日 | 2011-04-12 |
出願番号 | 特願2004-566716(P2004-566716) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(H04W)
P 1 8・ 121- Z (H04W) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 丹治 彰、小河 誠巳 |
特許庁審判長 |
水野 恵雄 |
特許庁審判官 |
安久 司郎 青木 健 |
発明の名称 | 時分割及び二重自己編成型モバイル通信システムを確立する方法 |
代理人 | 西元 勝一 |
代理人 | 中島 淳 |
代理人 | 加藤 和詳 |